説明

金属デポジションを用いたナノインプリント金型の製造方法

【課題】40nm以下のパターンピッチのナノインプリント金型を簡便に製造できる方法を提供する。
【解決手段】
本発明によるナノインプリント金型の製造では、SiO層を設けたSi基板に、集束イオンビームを用いて所望の位置に金属を堆積し、この基板を加熱して、堆積した金属を凝集させて、ナノインプリント金型のパターンを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属デポジションを用いたナノインプリント金型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年半導体デバイスの微細化の要求はますます大きくなっている。また一方で製造コストの圧縮が大きな課題となっている。これらの課題を解決するための、微細パターンを安価に形成する技術としてナノインプリント(非特許文献1参照)を用いたものがある。
【0003】
ナノインプリントの金型で最も微細なパターン形成用のものは、SiO/Si等のウェハ基板を用いて、電子ビーム露光とドライエッチングおよび/またはウェットエッチングを利用して作製されている。
【0004】
しかしながら電子ビーム(EB)露光においては、電子ビーム(EB)をウェハ基板表面の絶縁層またはこれに塗布したレジストに照射した際に、この絶縁層またはレジストの表面がチャージアップする。このチャージアップのために照射した電子ビームの位置がずれ、パターン精度が劣化する。このチャージアップを低減するために、ウェハ基板の絶縁層またはレジストの上に更に導電層を設けることが多いが、これを用いることによって電子ビームが拡散するので、やはりある程度の分解能劣化が避けられない。また導電層を設けることによって、半導体製造プロセスが複雑になり、コストアップの原因となる。
電子ビームを用いて作製された金型またはスタンパとしては、ピッチが40〜50nm程度のものが知られている(例えば特許文献1、2参照)。
【0005】
一方、電子ビームの代わりに、Gaイオンビーム等を用いた集束イオンビーム(FIB)を用いてナノインプリント用の金型を作製した例は極めて少ない。これはFIBはEBに比べ分解能が劣ることと、FIBを用いて露光を行った場合には、露光の効果以外にもスパッタリングによって表面状態が変化する効果があることによる。FIB照射ではEB照射の場合よりもウェハ基板表面の絶縁層やレジストの表面がチャージアップし易いが、イオンの質量が電子よりはるかに重いため、このチャージアップによるビームのずれは少ない。
【0006】
しかしながら、FIBは露光に用いるのではなく、これを照射してウェハ基板を直接加工することによってパターンを形成することができる。これはFIBによって照射されたウェハ基板の部位がスパッタリングで除去されることにより、ウェハ基板が直接加工されるものである。この場合、EB露光の場合と同等以上のパターン精度を得ることが可能である。ただし、この場合には特に表面のチャージアップを避けるために、加工されるウェハ基板の表面は導電性を持つ必要がある。これはFIBによるスパッタリングでウェハ基板を直接加工する場合は、加工部位でのFIBの照射時間が非常に長く(たとえば分単位)なるため、絶縁膜上にFIBが照射された場合、EBに比べてチャージアップによる位置ずれが少ないとはいえ、長時間照射によるイオンビームの位置ずれは大きくなるからである。
特許文献3には、導電性を持つ金属ガラスにFIBで微細パターンを形成したナノインプリント用の金型が記載されている。
ただし、このようにFIBを用いてウェハ基板を直接加工して微細パターンを形成する方法は、非常に時間がかかるので、コスト面から不利である。
【0007】
表面に金属層を設けたウェハ基板にFIBを照射し、形成するパターンに対応して、金属層を除去するとともに、ウェハ基板にFIBのGaイオンを積極的にドープし、このドープ領域をエッチングのマスクとして利用して、微細パターンを形成する方法が知られている(例えば非特許文献2、3参照)。
この方法を利用して、ナノインプリント金型を作製することが可能であるが、上記のようにFIBでの加工には時間がかかるので、製造コストからみて不利である。また、FIBのGaイオンのウェハ基板へのドープ、すなわちウェハ基板中のGaイオンの拡散を利用するので、微細なピッチのパターンの形成には向いていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−113774号公報
【特許文献2】特開2010−262957号公報
【特許文献3】特開2006−147727号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】S.Y.Chou et.al.,Appl.Phys.Lett.,vol.67,p.3314(1995)
【非特許文献2】K.D.Choquette et.al.,Appl.Phys.Lett.,vol.62,p.3294(1993)
【非特許文献3】K.Gamo et.al.,Nucl.Instr.Meth.Phys.Res.B7/8(1985),p.864
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のFIBを用いたウェハ基板へのパターンの形成方法では、たとえば40nm以下の微細パターンを持つナノインプリント金型を製造することができない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)請求項1に記載の発明は、SiO層を設けた基板を準備する工程と、基板上に金型パターンに応じた複数の金属パターンを堆積する堆積工程と、基板を加熱し、堆積した金属を凝集させて、ナノインプリント金型のパターンを形成する加熱工程とを有することを特徴とするナノインプリント金型の製造方法である。
(2)請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のナノインプリント金型の製造方法において、堆積工程は、基板に有機白金化合物ガスを放射する工程と、荷電粒子ビームを照射する工程とを有することを特徴とする。
(3)請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のナノインプリント金型の製造方法において、基板はSiからなることを特徴とする。
(4)請求項4に記載の発明は、請求項1または2に記載のナノインプリント金型の製造方法において、基板は絶縁体からなる絶縁体基板であり、この絶縁体基板と前記SiO層との間に、さらに導電層を設けたことを特徴とする。
(5)請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のナノインプリント金型の製造方法において、絶縁体は、アルミナ、珪素カーバイトおよび窒化珪素のいずれか1つ以上から構成されることを特徴とする。
(6)請求項6に記載の発明は、請求項4に記載のナノインプリント金型の製造方法において、導電層はSi層であることを特徴とする。
(7)請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のナノインプリント金型の製造方法において、荷電粒子ビームは正イオンビームであることを特徴とする。
(8)請求項8に記載の発明は、請求項3乃至7のいずれか1項に記載のナノインプリント金型の製造方法において、堆積工程に続いて、加熱工程の前に、スパッタリングを行うことにより、金型パターンの位置の周辺に堆積した金属を除去する金属除去工程を有することを特徴とする。
(9)請求項9に記載の発明は、請求項8に記載のナノインプリント金型の製造方法において、金属除去工程は、基板をRIEエッチングによってSiO層を除去することを特徴とする。
(10)請求項10に記載の発明は、請求項1乃至9のいずれか1項に記載のナノインプリント金型の製造方法において、有機金属ガスは有機白金化合物ガスであることを特徴とする。
(11)請求項11に記載の発明は、請求項10に記載のナノインプリント金型の製造方法において、RIEエッチングで用いられるRF出力は、スパッタリングで用いられるRF出力より小さいことを特徴とする。
(12)請求項12に記載の発明は、請求項11に記載のナノインプリント金型の製造方法において、RIEエッチングで用いられるRF出力は、1W〜100Wの範囲であり、好ましくは略5Wであることを特徴とする。
(13)請求項13に記載の発明は、請求項1乃至12のいずれか1項に記載のナノインプリント金型の製造方法を用いて製造されたナノインプリント金型を準備する工程と、金属ガラス層を設けた基板を準備する工程と、金属ガラス層を設けた基板をナノインプリント金型に重ね合わせ、加熱押圧する工程と、ナノインプリント基板を剥離する工程とを有することを特徴とする金属ガラスのナノインプリントスタンパである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法により、複雑なプロセスを用いることなく、40nm以下のピッチの微細パターンを持つナノインプリント金型を簡便に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ナノインプリント金型の製造方法での処理工程の例を示す。
【図2】Si基板にSiO膜2を形成して、Si基板を基板状態Aとする処理工程を概略的に示す。
【図3】図1に示す、SiO膜2を成膜したSi基板(基板状態A)に、FIBを用いて白金(Pt)のデポジションを行う処理工程を概略的に示す。
【図4】白金をデポジションしたSi基板(基板状態B)の表面を、RIEエッチング装置等を用いてArスパッタリングで処理する工程を概略的に示す。
【図5】図4のArスパッタリング処理を行った後の、白金を堆積した基板(基板状態C)の熱処理を行う工程を概略的に示す。
【図6】図5に示す、熱処理後の基板(基板状態D)のSiO層をRIEエッチングで除去する工程を概略的に示す。
【図7】本発明によるナノインプリント金型の製造方法を用いて作製されたナノインプリント金型を用いて、金属ガラスのナノインプリントスタンパを製造する工程を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図1〜図5を参照して、本発明によるナノインプリント金型の製造方法を用いて、Si基板の上にドット状の金型パターンを18nmピッチで形成した例について説明する。なお、ここではドット状の金型パターンの作製に、有機白金化合物ガスを用いた集束イオンビーム(FIB)による白金のデポジションを利用する例を示すが、後述するように有機白金化合物ガス以外のガスでも可能である。
【0015】
<第1の実施形態>
図1はナノインプリント金型の製造方法での処理工程の例を簡潔に示したものである。なお、ここに示す例ではSi基板の上に金型のパターンを形成しているが、Si基板以外の基板を用いることも可能である。
図1に示すステップA〜ステップDにおける処理に対応した、Si基板の状態をそれぞれ図2〜図5に示す。
【0016】
まずステップAで、Si基板1(ウェハー)にSiO膜2を形成する。この際には種々の装置が使用可能である。ここではプラズマCVD装置によって約50nm厚のSiO膜2を成膜している(図2(a)参照)。この際のプラズマ生成のための材料ガスにも種々のものがあるが、ここでは特に限定しない。
図2(b)にこのステップAでのSi基板の加工後の基板状態Aを示す。
【0017】
次にステップBでは、図3に示すように、SiO膜2を成膜したSi基板(基板状態A)に、白金(Pt)のデポジションを、FIB(集束イオンビーム)装置のFIB3を用いて行う(装置全体は不図示)。白金のデポジションは、Si基板(基板状態A)にFIB3を照射する際に、同時にSi基板(基板状態A)に有機白金化合物からなるガス4をガス放出ノズル5からSi基板の向けて放出し(図3(a)参照)、Si基板(基板状態A)でこの有機白金化合物がFIBによって熱分解することにより形成される。また、デポジションされる白金6は、白金のドットパターン(後述)に対応するように、FIBをSi基板上で走査して形成される。
【0018】
図3(b)にこのステップBでのSi基板の加工後の基板状態Bを示す。ここでは簡単のため、4個のドット形状のパターンを形成するためにFIBをSi基板(基板状態A)に照射した後のSi基板の状態(基板状態B)を示す。なお、図3では後述するように、Ptがドット位置を中心にして厚くデポジションされているが、ドットの外側にも薄くPt層が形成されている。
なお、この有機白金化合物は、たとえばエチルシクロペンタジ エニル(トリメチル)白金( Pt(C)(CH、例えば特開2005−111583号公報参照)である。
【0019】
本発明によるナノインプリント金型の一例では、複数のドット状のパターンを形成している。ドット状パターンを形成するため、集束イオンビーム(FIB)を各ドット形成領域において一定時間照射すると、次のドット形成領域にFIBを移動して照射を行う。
【0020】
ドット1箇所でのFIB照射量は、FIBのビーム強度(イオンビーム電流)と所望の白金デポジション厚で定められる。白金デポジション厚は、さらに有機白金ガスの供給量にも依存する。
ここで説明する例では、各ドットで約5nm厚のPt層をデポジションしており、この場合の各ドット当たりのFIB照射時間は、ビーム電流0.3pAで15msであった。また、このビーム電流ではビーム径(分解能)は約4nmである。またドット間の間隔は、18nmのピッチとなるように、FIBの走査を制御している。
【0021】
上述のように、FIBを絶縁物に照射するとチャージアップが起こりやすいが、上記の程度のドット当たりの照射時間およびビーム電流では問題無い。また、絶縁層にFIBを照射した場合であっても、一般にガスを吹き付けながらビーム照射を行った場合はチャージアップが抑制されるので、ビームドリフトの発生も抑制される。
さらに、本発明によるドット形成法では、ステップCで用いられる熱凝縮の効果により、多少分解能が劣化して、ドットパターンが広がっても影響はほとんど無い。
【0022】
上記のようにしてSi基板にPt層をデポジションした状態を図3(b)に示す。FIBの照射、すなわちイオンビームの走査は、ドット形状に白金がデポジションされるように、ドット形成位置毎にFIB照射位置を固定して行っているが、実際にデポジションされるPt層は、ドット位置中心部で厚く、さらにその外側にも薄くPt層が形成されている。
なお、図3(b)に示すように、SiO層表面の各ドット位置の中央部が深くなっているが、これはFIBによるスパッタリング効果で、SiO層が除去されているためである。ここにPtがデポジションされるために、ドット中央部のPt層の厚さが大きくなる。
【0023】
次にステップCで、基板状態BとなっているSi基板表面を、RIEエッチング装置等を用いて(装置は不図示)Arスパッタリングで処理し、余分なPt層を除去する。なお、ここで用いたエッチング装置では、ドット位置周辺に広がった0.5nm程度の厚さのPt層を除去するために、Arのチャンバ内ガス圧0.1Pa、RF出力300Wで、約10秒程度でArスパッタリングによるエッチングを行った(図4(a)参照)。
【0024】
図4(b)に、このステップCでのSi基板の加工後の基板状態Cを示す。
基板状態Bでドット部分以外にも形成されていたPt層が除去され、各ドットパターン毎に独立しているが、ドット位置周辺にも薄く白金層が残ったドット状パターン7が複数形成される。
【0025】
次にステップDで基板状態Cの基板の熱処理を行う。
ステップCで基板状態Cのように加工されたSi基板は、真空オーブン(装置は不図示)で加熱処理する。ここではAr雰囲気(ガス圧1Pa程度)で700℃、30分間加熱処理した(図5(a)参照)。
図5(b)に、このステップDでのSi基板の加工後の基板状態Dを示す。
【0026】
図5(a)の基板状態Cのように、各ドットパターン毎に対応して分離されたPtのパターンは、上記のように加熱処理を行うことによって、ドット周囲に広がっていたPt層が、FIB のスパッタリングによって深くなっているドット中央部に凝集し、図5(b)に示すように、Ptのドット状パターン8となる。
熱処理によってPtはドット中央部に凝集する。したがって、FIB照射によってSiO膜がチャージアップすることによって、ビーム位置が多少ずれ、Ptをデポジションしたパターンが多少広がっても、加熱処理後はPtのドット径は10nm以下になり、18nmピッチのドットパターンを作製することが可能になる。
【0027】
次にステップEで基板状態Dの基板のSiO層をRIEエッチングで除去する(図6(a)参照)。この場合にはRIE装置にCHFガス、Oガスを1:2で混合したガスを供給し、チャンバ内ガス圧を1.0Paに維持し、RF出力5Wでエッチングを行っている。RF出力が5Wと上記のステップCで用いられるRF出力より大幅に低く設定されているが、これはイオン衝撃によるスパッタを低減し、かつPtが堆積されている部位とSiO層が露出している部位でのエッチングの選択性を向上するためである。したがって、上記のステップEで用いられるRF出力はステップCでのRF出力より低く設定する。更に、この効果は、RF出力を100W以下にすることにより顕著となるが、あまり小さくするとエッチング速度が小さくなりすぎるので、1W以上に設定され、好ましくは略5Wで行われる。
なお、この際CHF以外のガスでも、SiOが除去されるようなガスであればこれを用いてもよい。
【0028】
図6に、このステップEでのSi基板の加工後の基板状態Eを示す。
上記の条件のRIEエッチングを用いて、SiO層の異方性エッチングを行うことにより、図6下側に示すような、SiO2部分に白金ドットパターン8が乗ったような、18nmピッチのドットパターン9が作製され、基板は基板状態Eとなる。この基板状態Eの基板をナノインプリント金型10として使用できる。
【0029】
以上では、SiO層を形成したSi基板を用いて、18nmピッチのドットパターンの金型の作製を例にして、本発明によるナノインプリント金型の製造方法を説明した。
本発明によるナノインプリント金型の製造方法は、パターンピッチは18nmに限定されず、またドットパターンに限定されない。
パターンピッチはFIBのビーム照射(走査)間隔および走査方法の変更により可変である。またドットの大きさはビーム径(分解能)の変更によって可変である。さらにドットの大きさの変更、およびドット以外の形状のパターンを作製する場合は、所望の形状にPtがデポジションされるように、FIBのビームを走査することにより可能である。
【0030】
<第2の実施形態>
本発明によるナノインプリント金型の製造方法によって製造された金型は、これを用いて金属ガラスのナノインプリント用スタンパを作製することに極めて適している。これはアモルファス合金は優れた微細成形特性を有するとともに、本発明によるナノインプリント金型の製造方法と同様に全てドライプロセスであるので、スタンパの製造までを簡単なプロセスで行えるからである。
図7に本発明によるナノインプリント金型の製造方法を用いて作製されたナノインプリント金型を用いて、金属ガラスのナノインプリントスタンパを製造する方法を示す。
【0031】
Si基板11に金属ガラス層(BMG、Bulk Metal Glass)12を設けたスタンパ基板13を準備し、このスタンパ基板13を上記の第1の実施形態で作製したナノインプリント金型10に重ねて、加熱押圧する(図7(a))。なおSi基板に金属ガラス層を設ける方法には種々の方法があり、ここでは特に限定しない。
これによりスタンパ基板13の金属ガラス層は、ナノインプリント金型10に合わせて変形される(図7(b))。
次にスタンパ基板13とナノインプリント金型を押圧した状態で冷却後、ナノインプリント金型を剥離することにより、金属ガラスのスタンパ14が製造される(図7(c))。
【0032】
金属ガラスには種々のものが使用でき、例えばパラジウム金属ガラスでは、335℃に加熱し、60MPaで10秒間押圧することで金属ガラスのスタンパが製造できる。また、Pt60Ni1525の組成の金属ガラスを用いた場合は、257℃に加熱し、50MPaで30秒押圧することで、金属ガラスのナノインプリントスタンパが製造できる。
【0033】
なお、上記で記載した本発明によるナノインプリント金型の製造方法で用いられる種々の装置の設定条件や加工条件はあくまでも一例であり、例えば基板の材質や、パターンピッチおよびパターン形状、さらにPt層の厚さ等により異なってくる。またさらに、基板の大きさなどによっても、使用する処理装置の制御条件は異なってくる。
【0034】
上記で説明した、本発明によるナノインプリント金型の製造方法では、Si基板にSiO層を形成したものに白金をデポジションしているが、Si基板の代わりにアルミナ基板(Al)などの絶縁体の基板を用い、このアルミナ基板にSi層とSiO層を形成したものを用いても実施することができる。アルミナ基板は高強度であり、プラズマ処理における耐腐食性が良好であることから、ナノインプリント金型の基板材料として好適である。
【0035】
Si層はAl基板とSiO層の間に設けられる。これはSi基板の代わりにアルミナ基板を用いると、アルミナとSiOが絶縁体であるため、イオンビーム照射によってビームドリフトが起こりやすくなることを低減するためである。Si層は、このSi層が露出している部分、例えば基板の厚さ方向の断面部に導電材を塗布して、基板を戴置した金属製のステージを介してSi層が接地されるようにする。
【0036】
あるいは、アルミナ基板の上にSiO層を形成した後、さらに導電性の薄膜を形成して、これに対して上記のようなFIBを用いて白金のデポジションを行ってもよい。この導電性の薄膜は、導電性の材質を塗布することによって形成されてもよく、また例えばFIBを用いた白金デポジションを基板全面に実施することによって形成してもよい。
【0037】
なお、絶縁体の基板としてはアルミナ基板の他に、シリコンカーバイド(SiC)基板、窒化珪素(Si)基板等も同様に用いることができる。また、これらの絶縁体の層を複合して生成した絶縁体基板を用いてもよい。これらの基板を用いる場合には、上記と同様に、絶縁体基板の上にSi層などの導電層を形成する。
【0038】
上記の説明では、絶縁体基板とこの上に形成するSiO層との間に形成する導電層をSiとしたが、Si以外の導電層を用いてもよい。たとえば金属層をCVDあるいは蒸着あるいは化学的プロセスで形成してもよい。ただし、白金デポジションを行った後に、これらの導電層の除去が、SiO層を除去するプロセスで一緒に行えない場合は処理工程が増加することになる。
【0039】
また、上記のナノインプリント金型の説明では、ドットパターンを例に説明したが、FIBの走査方法によりドット以外のパターンを同様に形成することが可能である。
【0040】
上記の本発明によるナノインプリント金型の製造方法の説明では、白金(Pt)のSi基板へのデポジションにFIB(集束イオンビーム)を用いているが、FIBの代わりに電子ビーム(EB)を用いてもよい。
EBを用いた場合、白金デポジションの形成速度はやや劣るが、分解能は向上する。ただし、電子ビームはスパッタリングの効果は有しないので、白金パターンの中央部を深くするためには、ガスアシストエッチング等を併用してパターンに対応する部位をミリングした後、デポジションを行う必要がある。
【0041】
なお、上記のナノインプリント金型の作製方法の説明では、有機白金化合物ガスを用いたFIBによる白金のデポジションを用いて行う例を示したが、有機白金化合物ガス以外の有機金属ガスであっても、この有機金属ガスに含まれる金属がデポジション後に熱凝集を起こすようなものであれば、有機白金化合物ガスと同様に使用できる。
例えば、ジメチル金ホスホニウム錯体(Au(CH(AcAc)、例えば特開平6−158322参照)や、ビス(アセチルアセトナト)鉛(Pb(C,例えば特開2005−111583号公報参照)などが使用可能である。
【0042】
また、上記の説明ではGaイオンを用いたFIBについて説明したが、Gaイオン以外の正イオンを用いてもよい。ただし、その場合はFIB装置のイオン源の構成が変更される。例えば希ガスイオンを用いても同様に白金のデポジションを行うことができる。また、この際に基板のスパッタリングが行われる効果を期待することができる。
したがって、以上のように白金のデポジションをイオンまたは電子からなら荷電粒子ビームによって行うことができる。
【0043】
また、さらに、分解能は劣るが、レーザーを用いて白金デポジションを行うことも可能である。ただし、この場合もレーザーはスパッタリングの効果がないので、ガスアシストエッチング等を併用して、パターンに対応する部位をミリングした後、デポジションを行う必要がある。
【0044】
以上の説明より、例えばSiO層を形成した基板に対して、FIB、EB、レーザー、または通常の露光プロセスを利用してエッチングを行って微小な凹部を形成した後に、FIB、EB、レーザー、または通常の露光プロセスによって白金層を堆積し、これをさらに加熱して白金を熱凝集させることによって、ナノインプリント金型を製造することも可能である。
【符号の説明】
【0045】
1・・・Si基板
2・・・SiO
3・・・集束イオンビーム(FIB)
4・・・有機白金化合物ガス
5・・・ガス放出ノズル
6・・・白金デポジション
7・・・ドット位置周辺に白金層が残ったドット状パターン
8・・・白金ドット状パターン
9・・・ドットパターン
10・・・ナノインプリント金型
11・・・Si基板(スタンパ)
12・・・金属ガラス層(スタンパ)
13・・・スタンパ基板
14・・・スタンパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO層を設けた基板を準備する工程と、
基板上に金型パターンに応じた複数の金属ドットを堆積する堆積工程と、
前記基板を加熱し、堆積した金属を凝集させて、前記ナノインプリント金型のパターンを形成する加熱工程とを有することを特徴とするナノインプリント金型の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のナノインプリント金型の製造方法において、
前記堆積工程は、前記基板に有機金属化合物ガスを放射する工程と、荷電粒子ビームを照射する工程とを有することを特徴とするナノインプリント金型の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のナノインプリント金型の製造方法において、
前記基板はSiからなることを特徴とするナノインプリント金型の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のナノインプリント金型の製造方法において、
前記基板は絶縁体からなる絶縁体基板であり、この絶縁体基板と前記SiO層との間に、さらに導電層を設けたことを特徴とするナノインプリント金型の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のナノインプリント金型の製造方法において、
前記絶縁体は、アルミナ、珪素カーバイトおよび窒化珪素のいずれか1つ以上から構成されることを特徴とするナノインプリント金型の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載のナノインプリント金型の製造方法において、
前記導電層はSi層であることを特徴とするナノインプリント金型の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のナノインプリント金型の製造方法において、
前記荷電粒子ビームは正イオンビームであることを特徴とするナノインプリント金型の製造方法。
【請求項8】
請求項3乃至7のいずれか1項に記載のナノインプリント金型の製造方法において、
前記堆積工程に続いて、前記加熱工程の前に、スパッタリングを行うことにより、前記金型パターンの位置の周辺に堆積した金属を除去する金属除去工程を有することを特徴とするナノインプリント金型の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のナノインプリント金型の製造方法において、
前記金属除去工程は、前記基板をRIEエッチングによってSiO層を除去することを特徴とするナノインプリント金型の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のナノインプリント金型の製造方法において、
前記有機金属ガスは有機白金化合物ガスであることを特徴とするナノインプリント金型の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載のナノインプリント金型の製造方法において、
前記RIEエッチングで用いられるRF出力は、前記スパッタリングで用いられるRF出力より小さいことを特徴とするナノインプリント金型の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載のナノインプリント金型の製造方法において、
前記RIEエッチングで用いられるRF出力は、1W〜100Wの範囲であり、好ましくは略5Wであることを特徴とするナノインプリント金型の製造方法。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載のナノインプリント金型の製造方法を用いて製造されたナノインプリント金型を準備する工程と、
金属ガラス層を設けた基板を準備する工程と、
前記金属ガラス層を設けた基板を前記ナノインプリント金型に重ね合わせ、加熱押圧する工程と、
前記ナノインプリント基板を剥離する工程とを有することを特徴とする金属ガラスのナノインプリントスタンパの製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−126113(P2012−126113A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282292(P2010−282292)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 高機能複合化金属ガラスを用いた革新的部材技術開発 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(505461094)株式会社BMG (13)
【Fターム(参考)】