説明

金属ナノワイヤを含有する分散液および導電膜

【課題】分散安定性に優れた金属ナノワイヤを含有する分散液およびそれを用いて形成される導電膜の提供。
【解決手段】金属ナノワイヤを含有する分散液であって、前記金属ナノワイヤの直径が10〜200nmであり、直径の変動係数が30%未満であり、直径に対する長さの比(長さ/直径)が10以上であり、前記金属ナノワイヤが、金、ニッケルおよび銅からなる群から選択される少なくとも1種の金属を主体とする金属部材である分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノワイヤを含有する分散液およびそれを用いて形成される導電膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属ナノワイヤや金属ナノピラーを用いた導電性材料について種々の検討が試みられている。
例えば、このような導電性材料として、ポーラスアルミナをナノ材料製作におけるテンプレートとすることは既に知られており(特許文献1〜3参照)、本出願人によっても、「規則化度が70%以上の陽極酸化皮膜の細孔内部にアスペクト比が5以上で金属を充填し、充填後、不活性ガス雰囲気中、または真空中で、300℃以上、1000℃以下の温度で焼成し、結晶性を向上させ、陽極酸化皮膜を除去しアスペクト比が5以上の金属部材としてなるナノピラーまたはナノロッド金属部材。」が提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−256102号公報
【特許文献2】特開2006−62049号公報
【特許文献3】特開2010−156005号公報
【特許文献4】特開2010−189695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、特許文献4に記載の金属部材、特に、ナノワイヤ(特許文献4においては「ナノロッド」ともいう)について検討を行った結果、特許文献4に記載されたナノワイヤを分散液に含有させて使用する場合、例えば、ナノワイヤの金属材料や直径の変動係数によっては、分散安定性が悪くなる場合があった。
【0005】
そこで、本発明は、分散安定性に優れた金属ナノワイヤを含有する分散液およびそれを用いて形成される導電膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、特定の金属を用い、特定の変動係数を満たす直径を有する金属ナノワイヤを用いることにより、分散安定性に優れた分散液を調製できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の(1)〜(8)を提供する。
【0007】
(1)金属ナノワイヤを含有する分散液であって、
上記金属ナノワイヤの直径が10〜200nmであり、直径の変動係数が30%未満であり、直径に対する長さの比(長さ/直径)が10以上であり、
上記金属ナノワイヤが、金、ニッケルおよび銅からなる群から選択される少なくとも1種の金属を主体とする金属部材である分散液。
【0008】
(2)上記金属ナノワイヤが、芯材と上記芯材を被覆する表層とを有し、上記芯材を構成する金属と上記表層を構成する金属とが異なる上記(1)に記載の分散液。
【0009】
(3)更に、HLB値が10以上の界面活性剤を含有する上記(1)または(2)に記載の分散液。
【0010】
(4)更に、ケイ素、リチウム、ホウ素およびリンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む無機ガラス成分を含有する上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の分散液。
【0011】
(5)導電性インク用途に用いる上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の分散液。
【0012】
(6)上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の分散液を用いて形成される導電膜。
【0013】
(7)金属ナノワイヤの含有量が、1m2あたり0.005〜1gである上記(6)に記載の導電膜。
【0014】
(8)透明導電膜用途に用いる上記(6)または(7)に記載の導電膜。
【発明の効果】
【0015】
以下に説明するように、本発明によれば、分散安定性に優れた金属ナノワイヤを含有する分散液およびそれを用いて形成される導電膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の分散液に含有する金属ナノワイヤの作製方法の一例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[分散液]
以下に、本発明の分散液について詳細に説明する。
本発明の分散液は、金属ナノワイヤを含有する分散液であって、上記金属ナノワイヤの直径が10〜200nmであり、直径の変動係数が30%未満であり、直径に対する長さの比(長さ/直径)が10以上であり、上記金属ナノワイヤが、金(Au)、ニッケル(Ni)および銅(Cu)からなる群から選択される少なくとも1種の金属を主体とする金属部材である分散液である。
次に、本発明の分散液を構成する金属ナノワイヤおよび分散溶媒ならびに任意成分について説明する。
【0018】
〔金属ナノワイヤ〕
(1)形状
本発明の分散液に含有する金属ナノワイヤの直径は、金属ナノワイヤ自体の安定性の観点から、10〜200nmである。
また、上記金属ナノワイヤの直径は、透明性を担保し、本発明の分散液を透明導電膜の形成に好適に用いることができる理由から、10〜100nmであるのが好ましく、10〜50nmであるのがより好ましい。
ここで、上記金属ナノワイヤの直径は、例えば、電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、TEM像を観察することにより求めることができ、本発明においては、金属ナノワイヤの直径は、FE−SEMにより300個の金属ナノワイヤを観察し、その平均値から求めたものである。
【0019】
本発明においては、上記金属ナノワイヤの直径の変動係数(CV:Coefficient of Variation)は、30%未満であり、5〜20%であるのが好ましく、5〜10%であるのがより好ましい。
変動係数が上記範囲であると、上記金属ナノワイヤの凝集が抑制され、本発明の分散液の分散安定性が良好となる。
ここで、上記金属ナノワイヤの直径の変動係数は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)像から300個のナノワイヤの直径を計測し、その標準偏差と平均値を計算することにより、下記式から求めることができる。
(直径の変動係数)=(直径の標準偏差)/(直径の平均)
【0020】
本発明においては、上記金属ナノワイヤの直径に対する長さの比(長さ/直径)(以下、「アスペクト比」ともいう。)は、10以上である。
アスペクト比が上記範囲であると、上記金属ナノワイヤ同士の絡み合いが抑制され、本発明の分散液の分散安定性が良好となる。
また、上記金属ナノワイヤのアスペクト比は、本発明の分散液の分散安定性がより良好となり、また、本発明の分散液を用いて導電膜の形成する際の使用量が少なくなり、本発明の分散液を透明導電膜の調製に好適に用いることができる理由から、2000以下であるのが好ましく、100〜1000であるのがより好ましい。
【0021】
(2)成分
本発明の分散液に含有する金属ナノワイヤは、Au、NiおよびCuからなる群から選択される少なくとも1種の金属を主体とする金属部材である。
ここで、主体とは、金属ナノワイヤを構成する金属のうち、Au、NiおよびCuのいずれか1つ以上の金属で80質量%以上が構成されていることをいう。
【0022】
本発明においては、上記金属ナノワイヤ同士の接触抵抗が低減し、また、分散安定性がより良好となる理由から、上記金属ナノワイヤが芯材と芯材を被覆する表層とを有し、芯材を構成する金属と表層を構成する金属とが異なるのが好ましく、具体的には、上記金属ナノワイヤの芯材がNiまたはCuを主体に構成され、芯材を被覆する表層がAuを主体に構成されるのがより好ましい。
また、芯材と表層との間の密着性を改善する理由から、これらの間に中間層を有するのがより好ましく、具体的には、芯材がCuを主体に構成され、芯材を被覆する表層がAuを主体に構成され、これらの間にNiを主体とする中間層を設けた金属ナノワイヤであるのがより好ましい。
【0023】
(3)含有量
本発明の分散液に含有する金属ナノワイヤの含有量(濃度)は、経時での分散安定性が良好に維持され、希釈時の均一性も良好となる理由から、本発明の分散液の総質量に対して、0.1〜30質量%であるのが好ましく、0.1〜25質量%であるのがより好ましい。
【0024】
(4)作製方法
本発明の分散液に含有する金属ナノワイヤの作製方法は特に限定されないが、例えば、貫通孔を有する絶縁性基材を出発材料として用い、上記貫通孔の内部に所定の金属を充填した後、上記絶縁性基材のみを溶解して除去する方法等により作製することができる。
【0025】
本発明においては、貫通孔を有する絶縁性基材は、アルミニウムに陽極酸化処理を施して得られるアルミナ基材を用いるのが好ましい。
ここで、上記アルミナ基材を用いる場合、例えば、図1(A)〜(F)に示す通り、本発明の分散液(図示せず)に含有する金属ナノワイヤ10は、アルミニウム基板1に、少なくとも、
陽極酸化処理を施してマイクロポア2を有する陽極酸化皮膜3を形成する処理(陽極酸化処理);
上記陽極酸化処理で形成された陽極酸化皮膜3から、アルミニウム基材(アルミニウム基板のうち上記陽極酸化処理が施されていない部分をいう。以下同様。)4を除去する処理(アルミニウム基材除去処理);
上記アルミニウム基材除去処理でアルミニウム基材4が除去された陽極酸化皮膜3に存在するマイクロポア2を貫通化させる処理(貫通化処理);
上記貫通化処理の後に、得られた絶縁性基材における貫通孔5の内部に金属6を充填する処理(金属充填処理);および;
上記金属充填処理の後に、陽極酸化皮膜3を溶解して除去する処理(陽極酸化皮膜除去処理)をこの順に施すことにより得ることができる。
【0026】
次に、上記アルミナ基材を製造する際に用いられるアルミニウム基板およびアルミニウム基板に施す各処理について詳述する。
【0027】
<アルミニウム基板>
アルミニウム基板は、特に限定されず、その具体例としては、純アルミニウム板;アルミニウムを主成分とし微量の異元素を含む合金板;低純度のアルミニウム(例えば、リサイクル材料)に高純度アルミニウムを蒸着させた基板;シリコンウエハー、石英、ガラス等の表面に蒸着、スパッタ等の方法により高純度アルミニウムを被覆させた基板;アルミニウムをラミネートした樹脂基板;等が挙げられる。
【0028】
本発明においては、アルミニウム基板のうち、後述する陽極酸化処理を施す表面は、アルミニウム純度が、99.5質量%以上であるのが好ましく、99.9質量%以上であるのがより好ましく、99.99質量%以上であるのが更に好ましい。
アルミニウム純度が上記範囲であると、マイクロポアの独立性が十分となり、マイクロポアを貫通化させて得られる貫通孔に金属を充填した際の独立性が保持され、絶縁性基材(アルミナ基材)を溶解させることによって金属ナノワイヤが互いに独立した状態で得られるため好ましい。
【0029】
また、本発明においては、アルミニウム基板のうち、後述する陽極酸化処理を施す表面は、あらかじめ脱脂処理および鏡面仕上げ処理が施されるのが好ましく、特に、マイクロポアの独立性を向上させる観点から、あらかじめ熱処理が施されるのが好ましい。
【0030】
<熱処理>
熱処理を施す場合は、200〜350℃で30秒〜2分程度施すのが好ましい。具体的には、例えば、アルミニウム基板を加熱オーブンに入れる方法等が挙げられる。
このような熱処理を施すことにより、後述する陽極酸化処理により生成するマイクロポアの独立性が向上する。
また、熱処理後のアルミニウム基板は、急速に冷却するのが好ましい。冷却する方法としては、例えば、水等に直接投入する方法等が挙げられる。
【0031】
<脱脂処理>
脱脂処理は、酸、アルカリ、有機溶剤等を用いて、アルミニウム基板表面に付着した、ほこり、脂、樹脂等の有機成分等を溶解させて除去し、有機成分を原因とする後述の各処理における欠陥の発生を防止することを目的として行われる。
【0032】
脱脂処理としては、具体的には、例えば、各種アルコール(例えば、メタノール等)、各種ケトン(例えば、メチルエチルケトン等)、ベンジン、揮発油等の有機溶剤を常温でアルミニウム基板表面に接触させる方法(有機溶剤法);石けん、中性洗剤等の界面活性剤を含有する液を常温から80℃までの温度でアルミニウム基板表面に接触させ、その後、水洗する方法(界面活性剤法);濃度10〜200g/Lの硫酸水溶液を常温から70℃までの温度でアルミニウム基板表面に30〜80秒間接触させ、その後、水洗する方法;濃度5〜20g/Lの水酸化ナトリウム水溶液を常温でアルミニウム基板表面に30秒間程度接触させつつ、アルミニウム基板表面を陰極にして電流密度1〜10A/dm2の直流電流を流して電解し、その後、濃度100〜500g/Lの硝酸水溶液を接触させて中和する方法;各種公知の陽極酸化処理用電解液を常温でアルミニウム基板表面に接触させつつ、アルミニウム基板表面を陰極にして電流密度1〜10A/dm2の直流電流を流して、または、交流電流を流して電解する方法;濃度10〜200g/Lのアルカリ水溶液を40〜50℃でアルミニウム基板表面に15〜60秒間接触させ、その後、濃度100〜500g/Lの硝酸水溶液を接触させて中和する方法;軽油、灯油等に界面活性剤、水等を混合させた乳化液を常温から50℃までの温度でアルミニウム基板表面に接触させ、その後、水洗する方法(乳化脱脂法);炭酸ナトリウム、リン酸塩類、界面活性剤等の混合液を常温から50℃までの温度でアルミニウム基板表面に30〜180秒間接触させ、その後、水洗する方法(リン酸塩法);等が挙げられる。
【0033】
これらのうち、アルミニウム表面の脂分を除去しうる一方で、アルミニウムの溶解がほとんど起こらない観点から、有機溶剤法、界面活性剤法、乳化脱脂法、リン酸塩法が好ましい。
【0034】
また、脱脂処理には、従来公知の脱脂剤を用いることができる。具体的には、例えば、市販されている各種脱脂剤を所定の方法で用いることにより行うことができる。
【0035】
<鏡面仕上げ処理>
鏡面仕上げ処理は、アルミニウム基板の表面の凹凸、例えば、アルミニウム基板の圧延時に発生した圧延筋等をなくして、電着法等による封孔処理の均一性や再現性を向上させるために行われる。
本発明において、鏡面仕上げ処理は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、機械研磨、化学研磨、電解研磨が挙げられる。
【0036】
機械研磨としては、例えば、各種市販の研磨布で研磨する方法、市販の各種研磨剤(例えば、ダイヤ、アルミナ)とバフとを組み合わせた方法等が挙げられる。具体的には、研磨剤を用いる場合、使用する研磨剤を粗い粒子から細かい粒子へと経時的に変更して行う方法が好適に例示される。この場合、最終的に用いる研磨剤としては、#1500のものが好ましい。これにより、光沢度を50%以上(圧延アルミニウムである場合、その圧延方向および幅方向ともに50%以上)とすることができる。
【0037】
化学研磨としては、例えば、「アルミニウムハンドブック」,第6版,(社)日本アルミニウム協会編,2001年,p.164−165に記載されている各種の方法等が挙げられる。
また、リン酸−硝酸法、Alupol I法、Alupol V法、Alcoa R5法、H3PO4−CH3COOH−Cu法、H3PO4−HNO3−CH3COOH法が好適に挙げられる。中でも、リン酸−硝酸法、H3PO4−CH3COOH−Cu法、H3PO4−HNO3−CH3COOH法が好ましい。
化学研磨により、光沢度を70%以上(圧延アルミニウムである場合、その圧延方向および幅方向ともに70%以上)とすることができる。
【0038】
電解研磨としては、例えば、「アルミニウムハンドブック」,第6版,(社)日本アルミニウム協会編,2001年,p.164−165に記載されている各種の方法;米国特許第2708655号明細書に記載されている方法;「実務表面技術」,vol.33,No.3,1986年,p.32−38に記載されている方法;等が好適に挙げられる。
電解研磨により、光沢度を70%以上(圧延アルミニウムである場合、その圧延方向および幅方向ともに70%以上)とすることができる。
【0039】
これらの方法は、適宜組み合わせて用いることができる。具体的には、例えば、研磨剤を粗い粒子から細かい粒子へと経時的に変更する機械研磨を施し、その後、電解研磨を施す方法が好適に挙げられる。
【0040】
鏡面仕上げ処理により、例えば、平均表面粗さRa0.1μm以下、光沢度50%以上の表面を得ることができる。平均表面粗さRaは、0.03μm以下であるのが好ましく、0.02μm以下であるのがより好ましい。また、光沢度は70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましい。
なお、光沢度は、圧延方向に垂直な方向において、JIS Z8741−1997の「方法3 60度鏡面光沢」の規定に準じて求められる正反射率である。具体的には、変角光沢度計(例えば、VG−1D、日本電色工業社製)を用いて、正反射率70%以下の場合には入反射角度60度で、正反射率70%を超える場合には入反射角度20度で、測定する。
【0041】
<陽極酸化処理>
上記陽極酸化処理は、アルミニウム基板に陽極酸化処理を施すことにより、アルミニウム基板表面にマイクロポアを有する陽極酸化皮膜を形成する工程である。
上記陽極酸化処理としては、従来公知の方法を用いることができるが、本発明の分散液における金属ナノワイヤの分散安定性の観点から、マイクロポアの独立性が重要であるため、例えば、特許第3,714,507号、特開2002−285382号公報、特開2006−124827号公報、特開2007−204802号公報、特開2007−231339号公報、特開2007−231405公報、特開2007−231340号公報、特開2007−238988号公報、特開2010−189695号公報等に記載されている、自己規則化法による陽極酸化処理が好ましい。これらの処理は、各特許および公報の処理条件にて記載されている処理が好ましい。
【0042】
また、独立のマイクロポアを形成するその他の方法としては、例えば、インプリント法(突起を有する基板またはロールをアルミニウム板に圧接し、凹部を形成する、転写法、プレスパターニング法)を用いる方法が挙げられる。具体的には、複数の突起を表面に有する基板をアルミニウム基板表面に押し付けて窪みを形成させる方法が挙げられる。例えば、特開平10−121292号公報に記載されている方法を用いることができる。
また、アルミニウム基板表面にポリスチレン球を稠密状態で配列させ、その上からSiO2を蒸着した後、ポリスチレン球を除去し、蒸着されたSiO2をマスクとして基板をエッチングして窪みを形成させる方法も挙げられる。
【0043】
また、その他の方法として粒子線法が挙げられる。粒子線法は、アルミニウム基板表面に粒子線を照射して窪みを形成させる方法である。粒子線法は、窪みの位置を自由に制御することができるという利点を有する。
粒子線としては、例えば、荷電粒子ビーム、集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)、電子ビームが挙げられる。
粒子線法としては、例えば、特開2001−105400号公報に記載されている方法を用いることもできる。
【0044】
そのほか、ブロックコポリマー法も挙げられる。ブロックコポリマー法は、アルミニウム基板表面にブロックコポリマー層を形成させ、熱アニールによりブロックコポリマー層に海島構造を形成させた後、島部分を除去して窪みを形成させる方法である。
ブロックコポリマー法としては、例えば、特開2003−129288号公報に記載されている方法を用いることができる。
【0045】
そのほか、レジストパターン・露光・エッチング法も挙げられる。レジストパターン・露光・エッチング法は、フォトリソグラフィあるいは電子ビームリソグラフィ法によりアルミニウム基板表面にレジスト膜を形成し、上記レジスト膜に露光および現像を施し、レジストパターンを形成した後これをエッチングすることにより、アルミニウム基板表面まで貫通した窪みを形成させる方法である。
【0046】
このような、インプリント法、粒子線法、ブロックコポリマー法、レジストパターン・露光・エッチング法を使用する場合には、これらの処理でアルミニウムの基板表面に電解起点を与えた後に陽極酸化処理することにより、アルミニウム基板表面に独立したマイクロポアを有する陽極酸化皮膜を形成することができる。
【0047】
<アルミニウム基材除去処理>
上記アルミニウム除去処理は、上記陽極酸化処理で形成された陽極酸化皮膜から、アルミニウム基材を溶解して除去する工程である。
【0048】
アルミニウム基材の溶解には、陽極酸化皮膜(アルミナ)は溶解しにくく、アルミニウムを溶解しやすい処理液を用いる。
すなわち、アルミニウム溶解速度1μm/分以上、好ましくは3μm/分以上、より好ましくは5μm/分以上、および、陽極酸化皮膜(アルミナ)溶解速度0.1nm/分以下、好ましくは0.05nm/分以下、より好ましくは0.01nm/分以下の条件を有する処理液を用いる。
具体的には、アルミニウムよりもイオン化傾向の低い金属化合物を少なくとも1種含み、かつ、pHが4以下8以上、好ましくは3以下9以上、より好ましくは2以下10以上の処理液を使用する。
【0049】
このような処理液としては、陽極酸化皮膜(アルミナ)は溶解せず、アルミニウムを溶解する液であれば特に限定されないが、例えば、塩化水銀、臭素/メタノール混合物、臭素/エタノール混合物、王水、塩酸/塩化銅混合物等の水溶液等が挙げられる。
濃度としては、0.01〜10mol/Lが好ましく、0.05〜5mol/Lがより好ましい。
処理温度としては、−10℃〜80℃が好ましく、0℃〜60℃が好ましい。
【0050】
アルミニウム基材の溶解は、上記陽極酸化処理の後のアルミニウム基板を上述した処理液に接触させることにより行う。接触させる方法は、特に限定されず、例えば、浸せき法、スプレー法が挙げられる。中でも、浸せき法が好ましい。このときの接触時間としては、10秒〜5時間が好ましく、1分〜3時間がより好ましい。
【0051】
アルミニウム基材の溶解後の陽極酸化皮膜の膜厚は、1〜1000μmであるのが好ましく、10〜500μmであるのが更に好ましい。
【0052】
アルミニウム基材の溶解後、後述する手順でマイクロポアを貫通化させる前に、陽極酸化皮膜を水洗処理するのが好ましい。水和によるマイクロポアのポア径の変化を抑制するため、水洗処理は30℃以下で実施することが好ましい。
【0053】
<貫通化処理>
上記貫通化処理は、上記アルミニウム基材除去処理でアルミニウム基材が除去された陽極酸化皮膜について、陽極酸化皮膜の底部のみを除去することにより、陽極酸化皮膜に存在するマイクロポアを貫通化させる工程である。
この処理は、陽極酸化皮膜の底部のみを酸水溶液またはアルカリ水溶液に接触させることにより行うことができる。陽極酸化皮膜の底部が除去されることにより、マイクロポアが貫通し、貫通孔が形成される。
また、この処理により、陽極酸化皮膜に存在するマイクロポアのうち70%以上が貫通することが好ましく、85%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましい。
【0054】
陽極酸化皮膜の底部の除去は、予めpH緩衝液に浸漬させてマイクロポアによる孔の開口側から孔内にpH緩衝液を充填した後に、開口部の逆面、すなわち、陽極酸化皮膜の底部に酸水溶液またはアルカリ水溶液に接触させる方法により行うのが好ましい。
【0055】
この処理に酸水溶液を用いる場合は、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸等の無機酸またはこれらの混合物の水溶液を用いることが好ましい。酸水溶液の濃度は1〜10質量%であるのが好ましい。酸水溶液の温度は、25〜40℃であるのが好ましい。
また、この処理にアルカリ水溶液を用いる場合は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリの水溶液を用いることが好ましい。アルカリ水溶液の濃度は0.1〜5質量%であるのが好ましい。アルカリ水溶液の温度は、20〜35℃であるのが好ましい。
具体的には、例えば、50g/L、40℃のリン酸水溶液、0.5g/L、30℃の水酸化ナトリウム水溶液または0.5g/L、30℃の水酸化カリウム水溶液が好適に用いられる。
酸水溶液またはアルカリ水溶液への浸せき時間は、8〜120分であるのが好ましく、10〜90分であるのがより好ましく、15〜60分であるのが更に好ましい。
【0056】
マイクロポアを貫通化させた後の陽極酸化皮膜の膜厚は、1〜1000μmであるのが好ましく、10〜500μmであるのが更に好ましい。
【0057】
マイクロポアを貫通化させた後、陽極酸化皮膜を水洗処理する。水和による貫通孔の径の変化を抑制するため、水洗処理は30℃以下で実施することが好ましい。
【0058】
上記貫通化処理では、上記陽極酸化処理で生じたマイクロポアを貫通化させることができる限り上述した処理以外の処理を用いてもよい。上述した処理では、上記陽極酸化処理により、マイクロポアを有する陽極酸化皮膜が形成されたアルミニウム基板から、上記アルミニウム基材除去処理によりアルミニウム基材を溶解させた後、上記貫通化処理により陽極酸化皮膜を部分的に溶解させて、陽極酸化皮膜の底部を除去することでマイクロポアを貫通化させたが、例えば、アルミニウム基板の除去とマイクロポアの貫通化を同時に行う処理を用いてもよい。
具体的には、上記陽極酸化処理により形成した陽極酸化皮膜の下方、すなわち、陽極酸化皮膜におけるアルミニウム基板側の部分を、レーザー等による切削処理や種々の研磨処理等を用いて物理的に除去し、貫通孔を有する陽極酸化皮膜(絶縁基材)とする方法が好適に例示される。
【0059】
<金属充填処理>
上記金属充填処理は、上記陽極酸化皮膜の貫通孔の内部に金属を充填する工程である。
貫通孔の内部に金属を充填する方法としては、電解めっき法または無電解めっき法を用いることができる。
特に、電解めっき法を用いた以下の(1)および(2)の処理をこの順に施す方法が、貫通孔に金属を高い充填率で充填できることから好ましい。
(1)貫通孔を有する絶縁性基材の一方の表面に空隙のない電極膜を形成する処理(電極膜形成処理)
(2)電解めっき処理による金属充填処理
【0060】
(電極膜形成処理)
上記電極形成処理は、上記貫通化処理の後に、貫通孔を有する陽極酸化皮膜の一方の表面に空隙のない電極膜を形成する処理である。
陽極酸化皮膜の表面には、貫通孔による開口部が存在しているが、本処理によって陽極酸化皮膜の表面に空隙のない電極膜を形成することにより、貫通孔の一方の開口部が電極膜で覆われた状態となる。
電極膜を形成する方法としては、貫通孔を有する陽極酸化皮膜の一方の表面に空隙のない電極膜を形成することができる限り特に限定されない。
具体的な形成方法としては、例えば、金属の無電解めっき処理、金属の直接塗布等が好ましく、これらの中でも電極膜の均一性および操作の簡便性の観点から、無電解めっき処理が好ましい。
【0061】
電極膜形成処理に関して、無電解めっき処理を用いる際には、そのめっき核を陽極酸化皮膜の一方の表面に付与する必要がある。
具体的には、無電解めっきにより付与するべき金属と同種の金属または金属化合物、あるいは無電解めっきにより付与するべき金属よりもイオン化傾向の高い金属または金属化合物を、陽極酸化皮膜の一方の表面に付与する方法が好ましい。
付与方法としては、金属または金属化合物を蒸着あるいは直接塗布する方法が挙げられるが、特に限定されない。
上記のようにめっき核を付与したのち、無電解めっき処理により電極膜を形成する。処理方法は温度、時間により電極層の厚さを制御できる観点から、浸漬法が好ましい。
無電解めっき液の種類としては、従来公知のものを使用することができるが、濃度は、1〜300g/Lであるのが好ましく、100〜200g/Lであるのがより好ましい。
また、形成される電極膜の通電性を高める観点から、金めっき液、銅めっき液、銀めっき液等、貴金属を有するめっき液が好ましく、経時による電極の安定性すなわち、酸化による劣化を防ぐ観点から、金めっき液がより好ましい。
【0062】
また、形成する電極膜の厚さとしては、0.05μm〜100μmが好ましく、0.1μm〜50μmがより好ましく、0.2μm〜20μmが特に好ましい。この範囲より厚さが薄いと、電極膜としての導電性が不十分となり、範囲より厚いと、その形成に時間を要してしまうため、それぞれ好ましくない。
また、無電解めっきの処理温度、処理時間としては、形成しうる電極の厚さに依存するが、0℃〜90℃、1分〜10時間が好ましく、5℃〜75℃、10分〜7時間がより好ましく、10℃〜60℃、30分〜5時間が特に好ましい。
【0063】
(金属充填処理)
上記金属充填処理は、上記電極膜形成処理の後に、形成された電極膜を用いた電解めっき処理により、上記陽極酸化皮膜の貫通孔の内部に金属を充填する処理である。
【0064】
ここで、着色などに用いられる従来公知の電解めっき処理では、選択的に貫通孔中に金属を高アスペクトで析出(成長)させることは困難である。これは、析出金属が貫通孔内で消費され一定時間以上電解を行ってもめっきが成長しないためと考えられる。
そのため、本発明においては、電解めっき処理により金属を充填する際に、パルス電解または定電位電解の際に休止時間をもうけることが好ましい。休止時間は、10秒以上必要で、30〜60秒あるのが好ましい。
また、電解液の撹拌を促進するため、超音波を加えることも望ましい。
更に、電解電圧は、通常20V以下であって望ましくは10V以下であるが、使用する電解液における目的金属の析出電位を予め測定し、その電位+1V以内で定電位電解を行うことが好ましい。なお、定電位電解を行う際には、サイクリックボルタンメトリを併用できるものが望ましく、Solartron社、BAS社、北斗電工社、IVIUM社等のポテンショスタット装置を用いることができる。
【0065】
めっき液は、従来公知のめっき液を用いることができる。
具体的には、銅を析出させる場合には硫酸銅水溶液が一般的に用いられるが、硫酸銅の濃度は、1〜300g/Lであるのが好ましく、100〜200g/Lであるのがより好ましい。また、電解液中に塩酸を添加すると析出を促進することができる。この場合、塩酸濃度は10〜20g/Lであるのが好ましい。
また、金を析出させる場合、テトラクロロ金の硫酸溶液を用い、交流電解でめっき処理を行なうのが望ましい。
また、ニッケルを析出させる場合には硫酸ニッケル水溶液が一般的に用いられるが、硫酸ニッケルの濃度は、1〜300g/Lであるのが好ましい。
【0066】
なお、電解めっき処理の際、めっき液を貫通孔内により充填させやすくするため、貫通孔の内表面を予め親水化処理して保護膜を形成しておくことが好ましい。この場合、シリケート処理と称されるSi元素を貫通孔の内表面に付与して保護膜を形成しておく方法が好適に例示される。
Si元素を貫通孔の内表面に付与して保護膜を形成する方法は特に限定されないが、例えば、アルカリ金属ケイ酸塩が溶解している水溶液に直接浸せきして処理する方法が一般的である。アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は、ケイ酸塩の成分である酸化ケイ素SiO2とアルカリ金属酸化物M2Oの比率(一般に〔SiO2〕/〔M2O〕のモル比で表す。)と濃度によって保護膜厚の調節が可能である。
ここで、Mとしては、特にナトリウム、カリウムが好適に用いられる。
また、モル比〔SiO2〕/〔M2O〕は0.1〜5.0が好ましく、0.5〜3.0がより好ましい。
更に、SiO2の含有量は、0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜10質量%がより好ましい。
【0067】
上記金属充填処理の後、酸化皮膜表面から電極膜を除去することで、図1(E)に示す状態、すなわち、陽極酸化皮膜3の貫通孔5に金属6が充填された状態となる。
なお、図1に示す態様では、陽極酸化皮膜3に存在する全ての貫通孔5を金属6が貫通しているが、陽極酸化皮膜3に存在する全ての貫通孔5を金属6が貫通していることは必ずしも要求されない。
ただし、本発明においては、陽極酸化皮膜3に存在する貫通孔5に占める金属6が充填されている貫通孔5の割合、すなわち、金属6の充填率が80%以上であることが、より多くの金属ナノワイヤを形成できる理由から好ましい。
ここで、金属6の充填率は、絶縁性基材3の表面をSEMで観察し、視野内における全貫通孔5の数に対する、金属6が充填されている貫通孔5の数を比率計算することで求めることができる。
金属6の充填率は90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。
【0068】
本発明においては、上記金属充填処理として、上述した(1)および(2)をこの順に施す方法によれば、陽極酸化皮膜に存在する貫通孔に対して高い充填率で金属を充填することができ、貫通孔に対する金属の充填率が80%以上とすることができる。
一方、上記酸化皮膜表面から電極膜を除去する方法としては、以下に述べる表面平滑化処理を行うことが好ましい。
【0069】
<表面平滑化処理>
本発明においては、上記金属充填処理の後に、化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)処理によって、陽極酸化皮膜の表面および裏面を平滑化する表面平滑処理を行うことが好ましい。
表面平滑化処理を行うことにより、陽極酸化皮膜の一方の表面に形成された電極膜が除去される。また、金属を充填させた後の陽極酸化皮膜の表面および裏面の平滑化と表面に付着した余分な金属を除去することができる。
CMP処理には、フジミインコーポレイテッド社製のPNANERLITE−7000、日立化成社製のGPX HSC800、AGCセイミケミカル社製のCL−1000等のCMPスラリーを用いることができる。
なお、酸化皮膜を研磨したくないので、層間絶縁膜やバリアメタル用のスラリーを用いるのは好ましくない。
【0070】
<陽極酸化皮膜除去処理>
上記陽極酸化皮膜除去処理は、上記金属充填処理の後に、陽極酸化皮膜を溶解させて除去し、金属ナノワイヤを形成させる工程である。
ここで、陽極酸化皮膜の溶解は、貫通孔に充填した金属を溶解せず、アルミナを選択的に溶解する溶媒を用いることができ、アルカリ溶液および酸溶液のいずれも用いることができる。
本発明においては、低温(室温)で陽極酸化皮膜を溶解できる理由から、クロム酸/リン酸の混合水溶液を用いるのが好ましい。
【0071】
また、陽極酸化皮膜を溶解した後の金属ナノワイヤの回収は、陽極酸化皮膜を溶解させた溶媒をフィルター等を用いて濾過することにより行うことができるが、例えば、以下の方法を適宜用いて回収することもできる。
(a)溶媒として強アルカリ溶液を用いた場合、強電場を加えることで金属ナノワイヤをトラップし、溶媒のみを置換し、これを繰り返すことで中性の分散溶媒中に回収することができる。
(b)ナノバブルを発生させることで浮遊選鉱と同様に分離する。
(c)遠心分離を行う。
(d)金属ワイヤをイオン化しイオン交換で分離する。
(e)金属としてNiを用いた場合、磁力を用いてNiナノワイヤをトラップし、溶媒のみを置換し、これを繰り返すことで中性の分散溶媒中に回収することができる。
(f)Niを金属ナノワイヤに付加する(例えば、金属充填処理の最後にNiを少し充填する、被覆するものを磁性材料にする)ことで上記(e)の方法を拡張利用できる。
(g)Auで被覆したものについては−SH基を有する表面を用いて捕集し、収集する。
【0072】
<表層等の形成方法>
本発明の分散液に含有する金属ナノワイヤは、上述したように、芯材と芯材を被覆する表層とを有し、芯材を構成する金属と表層を構成する金属とが異なるのが好ましい。
ここで、金属ナノワイヤを金属で被覆する方法は、例えば、電解めっき法、還元型無電解めっき法、置換型無電解めっき法(以下、「置換めっき法」という。)などのめっき法;真空蒸着法;スパッタリング法;等が挙げられる。
これらのうち、非常に微細な構造を有しそれぞれ単離されている金属ナノワイヤの表面をその構造および形態をあまり変えることなく、厚さ数nm程度の薄層で被覆できる理由から、置換めっき法が好ましい。
【0073】
置換めっきに用いるめっき液としては、金、ニッケルなどの被覆する金属の塩を含む水溶液が用いられ、被覆する金属のイオンを1〜10g/L(濃度)含むものが好ましい。
金属の塩としては、具体的には、例えば、シアン化金カリウム、塩化金酸、亜硫酸金ナトリウム等が挙げられる。
これらのうち、めっき対象物への化学的ダメージが少なくできることから、亜硫酸金ナトリウムが好ましい。
また、金属イオン濃度としては、1〜10g/Lが好ましく、例えば、均一で緻密な膜を得る場合には析出速度を意図的に遅くするために1〜5g/Lが好ましい。pHについては、基材へのダメージ軽減するために3〜10の範囲であることが好ましく、特に5〜9範囲であることが好ましい。
更に、めっき液の温度については、めっき反応促進のために、50〜95℃であることが好ましい。被覆膜厚の制御は、金属イオン濃度、pH、温度などの条件設定により行うことができるが、液条件の変更はめっき皮膜の性質(例えば、密度など)が変わる心配があるため、処理時間を変更することで行うことが好ましい。この際、基材へのダメージや作製効率などを考慮し、通常は1〜90分程度で行うことが好ましい。
【0074】
<被覆層の安定化処理>
本発明においては、金属ナノワイヤにおける芯材と芯材を被覆する表層(以下、「被覆層」ともいう。)との密着性を向上させる目的で、被覆層を熱処理する被覆層の安定化処理を行うことができる。
被覆層を熱処理することにより、芯材を構成する金属材料と、被覆層を構成する金属材料とが熱拡散により合金層を形成して、芯材と被覆層との密着性が向上する。
熱処理の温度は30〜200℃が好ましい。また、熱処理時の芯材の表面酸化を抑制するために、熱処理を低温で行うことや、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気中で熱処理を行うことも有効である。
【0075】
〔分散溶媒〕
本発明の分散液における分散溶媒としては、主として水が用いられ、水と混和する有機溶媒を80容量%以下の割合で併用することができる。
上記有機溶媒としては、例えば、沸点が50℃〜250℃、より好ましくは55℃〜200℃のアルコール系化合物が好適に用いられる。このようなアルコール系化合物を併用することにより、導電膜の形成時の塗布工程での塗り付け良化、乾燥負荷の低減をすることができる。
上記アルコール系化合物は、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができ、その具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アルキレングリコール、グリセロール等が挙げられる、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
具体的には、室温において粘度の低いエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール等の炭素数の小さなものが好ましいが、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ポリエチレングリコール等の炭素数の大きなものも使用可能である。
これらのうち、最も好ましい溶媒はジエチレングリコールである。
【0076】
〔界面活性剤〕
本発明の分散液は、分散安定性がより良好となる理由から、界面活性剤を用いるのが好ましい。
上記界面活性剤としては、例えば、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられ、こられを1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
上記ノニオン界面活性剤は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。
例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、グリセリン脂肪酸部分エステル類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル類、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレン化ひまし油類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル類、脂肪酸ジエタノールアミド類、N,N−ビス−2−ヒドロキシアルキルアミン類、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリエタノールアミン脂肪酸エステル、トリアルキルアミンオキシド、ポリエチレングリコール(例えば、モノステアリン酸ポリエチレングリコール等)、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体が挙げられる。
【0078】
上記アニオン界面活性剤は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。
例えば、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム塩、N−アルキルスルホコハク酸モノアミド二ナトリウム塩、石油スルホン酸塩類、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩類、スチレン/無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、オレフィン/無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類が挙げられる。
【0079】
上記カチオン界面活性剤は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩類、ポリエチレンポリアミン誘導体が挙げられる。
【0080】
上記両性界面活性剤は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、カルボキシベタイン類、アミノカルボン酸類、スルホベタイン類、アミノ硫酸エステル類、イミタゾリン類が挙げられる。
【0081】
なお、上記界面活性剤の中で、「ポリオキシエチレン」とあるものは、ポリオキシメチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン等の「ポリオキシアルキレン」に読み替えることもでき、本発明においては、それらの界面活性剤も用いることができる。
【0082】
本発明においては、好ましい界面活性剤として、分子内にパーフルオロアルキル基を含有するフッ素系界面活性剤が挙げられる。
このようなフッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル等のアニオン型;パーフルオロアルキルベタイン等の両性型;パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩等のカチオン型;パーフルオロアルキルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキル基および親水性基を含有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基および親油性基を含有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基、親水性基および親油性基を含有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基および親油性基を含有するウレタン等のノニオン型が挙げられる。また、特開昭62−170950号、同62−226143号および同60−168144号の各公報に記載されているフッ素系界面活性剤も好適に挙げられる。
【0083】
また、本発明においては、これらの界面活性剤のうち、分散安定性が更に良好となる理由から、HLB値が10以上のものを用いるのが望ましい。
ここで、HLB値(エイチエルビー値:Hydrophile−Lipophile Balance)とは、界面活性剤の水と油(水に不溶性の有機化合物)への親和性の程度を表す値である。HLB値は0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く20に近いほど親水性が高くなる。
【0084】
本発明においては、これらの界面活性剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、これらの界面活性剤の含有量は、上記金属ナノワイヤの全質量に対して、0.001〜10質量%であるのが好ましく、0.01〜5質量%であるのがより好ましい。
【0085】
〔無機ガラス成分〕
本発明の分散液は、分散溶媒となる水や他の溶媒への親和性が保たれるばかりでなく、本発明の分散液を用いて形成される導電膜の膜質の向上に繋がる理由から、ケイ素、リチウム、ホウ素およびリンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む無機ガラス成分を用いるのが好ましい。
上記無機ガラス成分としては、例えば、ケイ酸ガラス、ホウ酸ガラス、リン酸ガラス、リチウム塩ガラス等の原材料成分、すなわち、ケイ酸ソーダ、ホウ酸ソーダ、リン酸ソーダ、金属酸化リチウム塩等を用いることができる。具体的には、例えば、3号ケイ酸Na水溶液、ホウ酸Na(NaBO3)、硝酸Li、リン酸2水素ナトリウム等である。
【0086】
〔水溶性分散剤〕
本発明の分散液は、AuナノワイヤまたはAuで被覆された金属ナノワイヤを分散させる場合には、水酸基やカルボキシル基、スルホン基、リン酸基、アミノ基、SH基等を末端に有する水溶性の有機分子、例えば、コハク酸、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニールピロール(PVP)等の水溶性分散剤を用いることができる。
例えば、SH基を有する有機物を用いると、金属ナノワイヤが水溶液中に分散した分散液と、非水溶性分散剤を含む非水溶性液とを混合したとき、親和性の高いSH基を有する非水溶性分散剤を、Auナノワイヤ表面に吸着させることができ、Auナノワイヤを非水溶性画分に効率的に移動させることができ、分離濃縮が容易になる。
ここで、SH基を有する有機物は、非水溶性液に溶けるものであれば、特に制限されるものではないが、気化温度の低い、短分子の有機物であれば、焼結等の加熱処理で飛ばすことができる。
このような低分子の有機物としては、例えば、1−オクタンチオール、2−フリルメタンチオール等が挙げられる。
また、例えば、金ナノワイヤ分散水溶液に対し、SH基を有する有機物を含む溶媒を加え、加温、撹拌後、遠心処理を行い、溶媒画分を回収するとAuナノワイヤ成分が濃縮されており、溶媒を蒸発させて除去し、再分散させることで所望の濃度の分散液の調製が可能になる。
【0087】
本発明の分散液は、配線基板の回路パターンを形成する導電性インクとして好適に用いることができる。
導電性インクとして用いる場合、本発明の分散液における上記金属ナノワイヤの含有量(濃度)は、インクジェット方式を利用して回路パターンを印刷できる理由から、本発明の分散液の総質量に対して、10〜30質量%であるのが好ましく、15〜20質量%であるのがより好ましい。
【0088】
[導電膜]
本発明の導電膜は、上述した本発明の分散液を用いて形成される導電膜である。
ここで、導電膜とは、本発明においては所望の基板表面の全面に形成される膜だけでなく、上述した回路パターン等も含む概念である。
また、導電膜を形成する基板や導電膜の形成方法は特に限定されず、例えば、特開2010−84173号公報に記載された基板や形成方法を採用することができる。
【0089】
本発明の導電膜は、上記金属ナノワイヤの含有量が、導電性と透過性のバランスに優れる理由から、1m2あたり0.005〜1gであるのが好ましく、1m2あたり0.01〜0.1gであるのがより好ましい。
【0090】
本発明の導電膜は、例えばタッチパネル、ディスプレイ用帯電防止、電磁波シールド、有機又は無機ELディスプレイ用電極、電子ペーパー、フレキシブルディスプレイ用電極、フレキシブルディスプレイ用帯電防止、太陽電池用電極、その他の各種デバイス等に利用される透明導電膜として好適に用いることができる。
【実施例】
【0091】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【0092】
(実施例1)
<(A−1)鏡面仕上げ処理>
高純度アルミニウム基板(住友軽金属社製、純度99.99質量%、厚さ0.4mm)を400℃で1時間焼きなましたものを1cm各の面積で陽極酸化処理できるように1cm×3cmの大きさにカットし、以下に示す条件で電解研磨処理を施した。
(電解研磨処理)
下記組成の電解研磨液を用い、電流密度5A/dm2、液温度65℃、液流速3.0m/minの条件で電解研磨処理を施し、加工変質層を除去した。
陰極はカーボン電極とし、電源は、GP0110−30R(高砂製作所社製)を用いた。また、電解液の流速は渦式フローモニターFLM22−10PCW(AS ONE製)を用いて計測した。
(電解研磨液組成)
・85質量%リン酸(和光純薬社製試薬) 660mL
・純水 160mL
・硫酸 150mL
・エチレングリコール 30mL
【0093】
<(B−1)陽極酸化処理>
まず、周期100nmの四方配列の突起を有するSiCモールド(大きさ:5mm角、パターンエリア:3mm×0.5mm角、エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社製の特注品)の凹凸パターンを、転写装置(MODEL6000、ハイソル社製)を用いて、電解研磨処理後のアルミニウム基板表面に位置をずらしながら6回転写し、3mm角の転写領域を作製した。なお、転写は、突起部分の面積当たりの転写圧力が256N/cm2となるように設定し、室温にて行った。
次いで、アルミニウム基板の表面における転写領域(3mm角)以外および裏面に、市販のマスキングテープを用いてマスキングを施した。
その後、0.50mol/Lシュウ酸の電解液で、電圧40V、液温度15℃、液流速3.0m/minの条件で4時間陽極酸化処理を施すことにより、アルミニウム基板表面に、マイクロポアが直管状で且つハニカム状に配列された陽極酸化皮膜を形成させた。
なお、陽極酸化処理は、陰極はステンレス電極とし、電源はGP0110−30R(高砂製作所社製)を用いた。また、冷却装置にはNeoCool BD36(ヤマト科学社製)、かくはん加温装置にはペアスターラー PS−100(EYELA社製)を用いた。更に、電解液の流速は渦式フローモニターFLM22−10PCW(AS ONE製)を用いて計測した。
【0094】
<(C−1)アルミニウム基材除去処理>
陽極酸化処理後、20%塩酸水溶液に0.1mol/Lの塩化銅をブレンドした処理液を用い、液温15℃で、目視によりアルミニウム基材が除去されるまで浸漬させることによりアルミニウム基材を溶解し、除去した。
【0095】
<(D−1)貫通化処理>
アルミニウム基材除去処理後、0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液(液温30℃)に30分間浸漬させることにより、陽極酸化皮膜の底部を除去することにより、マイクロポア由来の貫通孔を有するアルミナ基材を作製した。
得られたアルミナ基材の表面写真および断面写真(倍率20000倍)を高分解能電界放出形走査電子顕微鏡(S−4800、日立製作所社製)により撮影し、以下の形状であることを確認した。
・アルミナ基材の厚さ:100μm
・貫通孔の深さ:100μm
・貫通孔の平均開孔径:60nm
・貫通孔の開口径の変動係数:12%
【0096】
<(E−1)加熱処理>
作製したアルミナ基材に、温度400℃で1時間の加熱処理を施した。
【0097】
<(F−1)金属充填処理>
上記加熱処理後のアルミナ基材の一方の表面にNi電極を密着させ、このNi電極を陰極にし、白金を正極にして電解めっきを行なった。
硫酸ニッケル300g/Lを60℃に保った状態で電解液として使用し、定電圧パルス電解を実施することにより、上記貫通孔にNiが充填された構造体を製造した。
ここで、定電圧パルス電解は、山本鍍金社製のメッキ装置を用い、北斗電工社製の電源(HZ−3000)を用い、メッキ液中でサイクリックボルタンメトリを行なって析出電位を確認した後、皮膜側の電位を−2Vに設定して行った。また、定電圧パルス電解のパルス波形は矩形波であった。具体的には、電解の総処理時間が1800秒になるように、1回の電解時間が300秒の電解処理を、各電解処理の間に40秒の休止時間を設けて6回施した。
Niを充填した後の表面を高分解能電界放出形走査電子顕微鏡(S−4800、日立製作所社製)で観察すると、Ni電極側から貫通孔の内部が完全に充填され、更に表面から10μm分がオーバーフローしていた。
【0098】
<(G−1)表面平滑化処理>
金属充填処理後のアルミナ基材に機械研摩処理を施し、表面からオーバーフローした金属を除去した。
【0099】
<(H−1)アルミナの除去処理(分散液の調製)>
表面平滑化処理のアルミナ基材の陽極酸化皮膜をクロム酸/リン酸の混合水溶液を用いて溶解させ、貫通孔に充填した金属からなる金属ナノワイヤが分散した溶液を調製した。
次いで、調製した溶液に強電場を加えることで金属ナノワイヤをトラップし、溶媒のみを水に置換し、これを繰り返すことにより、10質量%の濃度で金属ナノワイヤが分散した分散液を調製した。
なお、得られた金属ナノワイヤの長さ、直径(平均直径)、直径の変動係数、および、直径に対する長さの比(アスペクト比)を第1表に示す。
【0100】
(実施例2)
陽極酸化処理を特開2007−204802号公報に記載の手順にしたがって自己規則化法で施した以外は、実施例1と同様の方法により、分散液を調製した。
具体的には、電解研磨処理後のアルミニウム基板に、0.50mol/Lシュウ酸の電解液で、電圧40V、液温度15℃、液流速3.0m/minの条件で、5時間のプレ陽極酸化処理を施した。その後、プレ陽極酸化処理後のアルミニウム基板を、0.2mol/L無水クロム酸、0.6mol/Lリン酸の混合水溶液(液温:50℃)に12時間浸漬させる脱膜処理を施した。その後、0.50mol/Lシュウ酸の電解液で、電圧40V、液温度15℃、液流速3.0m/minの条件で、16時間の再陽極酸化処理を施し、膜厚130μmの酸化皮膜を得た。
なお、プレ陽極酸化処理および再陽極酸化処理は、いずれも陰極はステンレス電極とし、電源はGP0110−30R(高砂製作所社製)を用いた。また、冷却装置にはNeoCool BD36(ヤマト科学社製)、かくはん加温装置にはペアスターラー PS−100(EYELA社製)を用いた。更に、電解液の流速は渦式フローモニターFLM22−10PCW(AS ONE製)を用いて計測した。
【0101】
(実施例3)
陽極酸化処理および表面平滑化処理を以下に示す条件で行った以外は、実施例1と同様の方法により、分散液を調製した。
なお、貫通化処理により得られたアルミナ基材の形状は以下に示す通りであった。また、得られた金属ナノワイヤの長さ、直径(平均直径)、直径の変動係数、および、直径に対する長さの比(アスペクト比)を第1表に示す。
<(B−3)陽極酸化処理>
1.0mol/Lリン酸の電解液で、電圧200V、液温度0℃、液流速3.0m/minの条件で4時間施した以外は、実施例1と同様の方法で陽極酸化処理を施した。
<貫通化処理後のアルミナ基材の形状>
・アルミナ基材の厚さ:60μm
・貫通孔の深さ:60μm
・貫通孔の平均開孔径:100nm
・貫通孔の開口径の変動係数:10%
<(G−3)表面平滑化処理>
金属充填処理後のアルミナ基材に機械研摩処理を施し、アルミナ基材の表面の一部(10μm分)および表面からオーバーフローした金属を除去した。
【0102】
(実施例4)
アルミナの除去処理を以下に示す条件で行った以外は、実施例1と同様の方法により、分散液を調製した。
なお、得られた金属ナノワイヤの長さ、直径(平均直径)、直径の変動係数、および、直径に対する長さの比(アスペクト比)を第1表に示す。
<(H−4)アルミナの除去処理(分散液の調製)>
表面平滑化処理のアルミナ基材の陽極酸化皮膜をクロム酸/リン酸の混合水溶液を用いて溶解させ、貫通孔に充填した金属からなる金属ナノワイヤが分散した溶液を調製した。
次いで、調製した溶液に強電場を加えることで金属ナノワイヤをトラップし、溶媒のみを無電解置換めっき液〔フラッシュゴールド330(奥野製薬工業社製)を用いて建浴し、pH=4.6に調整したもの〕に置換し、60℃で10分間浸漬処理を施した。
その後、調製した溶液に強電場を加えたまま、無電解置換めっき液を水に置換し、これを繰り返すことにより、10質量%の濃度で金属ナノワイヤが分散した分散液を調製した。
【0103】
(実施例5)
陽極酸化処理を以下に示す条件で行った以外は、実施例4と同様の方法により、分散液を調製した。
なお、貫通化処理により得られたアルミナ基材の形状は以下に示す通りであった。また、得られた金属ナノワイヤの長さ、直径(平均直径)、直径の変動係数、および、直径に対する長さの比(アスペクト比)を第1表に示す。
<(B−5)陽極酸化処理>
1.0mol/Lリン酸の電解液で、電圧200V、液温度0℃、液流速3.0m/minの条件で1時間施した以外は、実施例1と同様の方法で陽極酸化処理を施した。
<貫通化処理後のアルミナ基材の形状>
・アルミナ基材の厚さ:10μm
・貫通孔の深さ:10μm
・貫通孔の平均開孔径:62nm
・貫通孔の開口径の変動係数:6%
【0104】
(実施例6)
金属充填処理およびアルミナの除去処理を以下に示す条件で行った以外は、実施例1と同様の方法により、分散液を調製した。
なお、得られた金属ナノワイヤの長さ、直径(平均直径)、直径の変動係数、および、直径に対する長さの比(アスペクト比)を第1表に示す。
<(F−6)金属充填処理>
上記加熱処理後のアルミナ基材の一方の表面にAu電極を密着させ、このAu電極を陰極にし、銅板を正極にして電解めっきを行なった。
硫酸銅150g/Lを60℃に保った状態で電解液として使用し、定電流電解を実施することにより、上記貫通孔にCuが充填された微細構造体を製造した。
ここで、定電流電解は、山本鍍金社製のメッキ装置を用い、北斗電工社製の電源(HZ−3000)を用い、電流密度を3.5A/dm2に設定し、印加する総電気量が25000C/dm2になるように電解した。
Cuを充填した後の表面を高分解能電界放出形走査電子顕微鏡(S−4800、日立製作所社製)で観察すると、Au電極側から貫通孔の内部が完全に充填され、更に表面から10μm分がオーバーフローしていた。
【0105】
<(H−6)アルミナの除去処理(分散液の調製)>
表面平滑化処理のアルミナ基材の陽極酸化皮膜をクロム酸/リン酸の混合水溶液を用いて溶解させ、貫通孔に充填した金属からなる金属ナノワイヤが分散した溶液を調製した。
次いで、調製した溶液に強電場を加えることで金属ナノワイヤをトラップし、溶媒のみを無電解置換めっき液〔フラッシュゴールド330(奥野製薬工業社製)を用いて建浴し、pH=4.6に調整したもの〕に置換し、60℃で10分間浸漬処理を施した。
その後、調製した溶液に強電場を加えたまま、無電解置換めっき液を水に置換し、これを繰り返すことにより、10質量%の濃度で金属ナノワイヤが分散した分散液を調製した。
【0106】
(実施例7)
陽極酸化処理および表面平滑化処理を実施例2と同様の条件で行い、金属充填処理およびアルミナの除去処理を実施例6と同様の条件で行った以外は、実施例1と同様の方法により、分散液を調製した。
なお、得られた金属ナノワイヤの長さ、直径(平均直径)、直径の変動係数、および直径に対する長さの比(アスペクト比)を第1表に示す。
【0107】
(実施例8)
アルミナの除去処理において、無電解置換めっき液を置換する際に、水に代えて水溶性分散剤として2−フリルメタンチオール水溶液(濃度:0.1g/L)を用いた以外は、実施例6と同様の方法により、分散液を調製した。
なお、得られた金属ナノワイヤの長さ、直径(平均直径)、直径の変動係数、および、直径に対する長さの比(アスペクト比)を第1表に示す。
【0108】
(実施例9)
アルミナの除去処理において、無電解置換めっき液を水に置換する際に、水とともに界面活性剤としてモノステアリン酸ポリエチレングリコール(エマノーン3199V、HLB値:19.4、花王社製)を0.03g/L用いた以外は、実施例6と同様の方法により、分散液を調製した。
なお、得られた金属ナノワイヤの長さ、直径(平均直径)、直径の変動係数、および、直径に対する長さの比(アスペクト比)を第1表に示す。
【0109】
(実施例10)
陽極酸化処理を以下に示す条件で行った以外は、実施例6と同様の方法により、分散液を調製した。
なお、貫通化処理により得られたアルミナ基材の形状は以下に示す通りであった。また、得られた金属ナノワイヤの長さ、直径(平均直径)、直径の変動係数、および、直径に対する長さの比(アスペクト比)を第1表に示す。
<(B−10)陽極酸化処理>
18g/L硫酸の電解液で、電圧16V、液温度20℃、液流速3.0m/minの条件で15時間施した以外は、実施例1と同様の方法で陽極酸化処理を施した。
<貫通化処理後のアルミナ基材の形状>
・アルミナ基材の厚さ:100μm
・貫通孔の深さ:100μm
・貫通孔の平均開孔径:20nm
・貫通孔の開口径の変動係数:26%
【0110】
(実施例11)
アルミナの除去処理において、無電解置換めっき液を水に置換する際に、水とともに無機ガラス成分としてケイ酸ナトリウムを2.5質量%となるように用いた以外は、実施例6と同様の方法により、分散液を調製した。
なお、得られた金属ナノワイヤの長さ、直径(平均直径)、直径の変動係数、および、直径に対する長さの比(アスペクト比)を第1表に示す。
【0111】
(実施例12)
アルミナの除去処理において、無電解置換めっき液を水に置換する際に、水とともに無機ガラス成分として四ホウ酸二ナトリウムを1質量%となるように用いた以外は、実施例6と同様の方法により、分散液を調製した。
なお、得られた金属ナノワイヤの長さ、直径(平均直径)、直径の変動係数、および、直径に対する長さの比(アスペクト比)を第1表に示す。
【0112】
(実施例13)
アルミナの除去処理において、無電解置換めっき液を水に置換する際に、水とともに無機ガラス成分として硫酸リチウムを100g/Lとなるように用いた以外は、実施例6と同様の方法により、分散液を調製した。
なお、得られた金属ナノワイヤの長さ、直径(平均直径)、直径の変動係数、および、直径に対する長さの比(アスペクト比)を第1表に示す。
【0113】
(実施例14)
アルミナの除去処理において、無電解置換めっき液を水に置換する際に、水とともに無機ガラス成分としてリン酸2水素ナトリウムおよびホウ酸ナトリウムをそれぞれ2.5質量%および1.0質量%となるように用いた以外は、実施例6と同様の方法により、分散液を調製した。
なお、得られた金属ナノワイヤの長さ、直径(平均直径)、直径の変動係数、および、直径に対する長さの比(アスペクト比)を第1表に示す。
【0114】
(実施例15)
アルミナの除去処理を以下に示す条件で行った以外は、実施例6と同様の方法により、分散液を調製した。
<(H−15)アルミナの除去処理(分散液の調製)>
表面平滑化処理のアルミナ基材の陽極酸化皮膜をクロム酸/リン酸の混合水溶液を用いて溶解させ、貫通孔に充填した金属からなる金属ナノワイヤが分散した溶液を調製した。
次いで、調製した分散液を吸引濾過装置のフィルター上部分に滴下し、吸引濾過して溶媒を除去した後に吸引を中止した。その後、Ni置換めっき液(SEK−797、日本カニゼン株式会社製)を液温20℃で滴下して60秒静置し、その後に吸引を再開し、更に超純水を用いて吸引(洗浄)することにより、金属ナノワイヤの表面にNiを主体とする中間層を形成させた。
次いで、金属ナノワイヤを無電解置換めっき液〔フラッシュゴールド330(奥野製薬工業社製)を用いて建浴し、pH=4.6に調整したもの〕に60℃で10分間浸漬させた。その後、強電場を加えて無電解置換めっき液を水に置換し、これを繰り返すことにより、10質量%の濃度で金属ナノワイヤが分散した分散液を調製した。
【0115】
(比較例1)
陽極酸化処理を以下に示す条件で行った以外は、実施例1と同様の方法により、分散液を調製した。
なお、貫通化処理により得られたアルミナ基材の形状は以下に示す通りであった。また、得られた金属ナノワイヤの長さ、直径(平均直径)、直径の変動係数、および、直径に対する長さの比(アスペクト比)を第1表に示す。
<(B−X)陽極酸化処理>
170g/L硫酸の電解液で、温度40℃、電流密度5A/dm2、定電流の条件で1.5時間施した以外は、実施例1と同様の方法で陽極酸化処理を施した。
<貫通化処理後のアルミナ基材の形状>
・アルミナ基材の厚さ:100μm
・貫通孔の深さ:100μm
・貫通孔の平均開孔径:15nm
・貫通孔の開口径の変動係数:41%
【0116】
(比較例2)
金属充填処理を以下に示す条件で行った以外は、実施例1と同様の方法により、分散液を調製した。
なお、得られた金属ナノワイヤの長さ、直径(平均直径)、直径の変動係数、および、直径に対する長さの比(アスペクト比)を第1表に示す。
<(F−Y)金属充填処理>
上記加熱処理後のアルミナ基材をホウ酸1.3%、pH=10、50℃の液中に3分間浸漬し、アルミナ基材表面を活性化させた後、純水で水洗した。
次いで、アルミナ基材をアンモニア性硝酸銀溶液中に浸漬した状態で、アルミナ基材を振動させながら還元剤のホルマリンを添加し、10分間処理することで銀鏡反応によりAgをアルミナ基材の貫通孔内部に析出(充填)させた。
還元剤による処理の後、十分に水洗し、更に窒素雰囲気下で200℃、1時間加熱することで充填した銀粒子をアニールして連続した焼結体(ワイヤ状)とした。
【0117】
<分散安定性>
得られた各分散液を20℃で24時間、ビーカー内で静置した後に、金属ナノワイヤの沈降度合いを目視により確認した。
その結果、ビーカー内の上部および下部で濃度差が無く、下部に沈降物が全く見られないものを分散安定性に極めて優れるものとして「5」と評価し、ビーカー内の上部および下部で濃度差が確認できるが、下部に沈降物が見られないものを分散安定性に優れるものとして「4」と評価し、下部に沈降物が見られるものを分散安定性に劣るものとして「2」と評価した。これら結果を下記第1表中に示す。
【0118】
【表1】

【0119】
第1表に示す結果から、金属ナノワイヤの直径の変動係数が大きい分散液は、分散安定性に劣ることが分かった(比較例1)。
また、金属ナノワイヤの変動係数が30%未満であっても、金属種がAgであると、分散安定性に劣ることが分かった(比較例2)。
これに対し、特定の金属を用い、特定の変動係数を満たす直径を有する金属ナノワイヤを用いると、分散安定性に優れることが分かった(実施例1〜15)。
【符号の説明】
【0120】
1 アルミニウム基板
2 マイクロポア
3 陽極酸化皮膜
4 アルミニウム基材
5 貫通孔
6 金属
10 金属ナノワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノワイヤを含有する分散液であって、
前記金属ナノワイヤの直径が10〜200nmであり、直径の変動係数が30%未満であり、直径に対する長さの比(長さ/直径)が10以上であり、
前記金属ナノワイヤが、金、ニッケルおよび銅からなる群から選択される少なくとも1種の金属を主体とする金属部材である分散液。
【請求項2】
前記金属ナノワイヤが、芯材と前記芯材を被覆する表層とを有し、前記芯材を構成する金属と前記表層を構成する金属とが異なる請求項1に記載の分散液。
【請求項3】
更に、HLB値が10以上の界面活性剤を含有する請求項1または2に記載の分散液。
【請求項4】
更に、ケイ素、リチウム、ホウ素およびリンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む無機ガラス成分を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項5】
導電性インク用途に用いる請求項1〜4のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の分散液を用いて形成される導電膜。
【請求項7】
金属ナノワイヤの含有量が、1m2あたり0.005〜1gである請求項6に記載の導電膜。
【請求項8】
透明導電膜用途に用いる請求項6または7に記載の導電膜。

【図1】
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【公開番号】特開2012−238592(P2012−238592A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−104067(P2012−104067)
【出願日】平成24年4月27日(2012.4.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】