説明

金属パネルの補強方法、補強部材及び金属パネル

【課題】低コストで、金属パネルのデフォームを十分に抑制できる金属パネルの補強方法を提供すること。
【解決手段】金属パネルを補強部材10aで補強する金属パネルの補強方法において、混練により屈曲した補強繊維13を含有する樹脂材料を長尺状に押出成形することで、前記補強繊維13をスプリングバックさせ、当該スプリングバックにより形成された複数の空隙15を内部に有する補強部材10aを得る工程と、補強部材10aを加熱して金属パネルに接合する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属パネルの補強方法に関する。詳しくは、金属パネルを、樹脂及び補強繊維を含有する補強部材で補強する金属パネルの補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両のドアパネルやクォータパネル等を構成する金属パネルは、成型性の向上及び軽量化の観点から、薄板状に形成されている。従って、これらの金属パネルは曲げ剛性が低いため、通常、その裏面に補強部材が接合される。補強部材としては、例えば樹脂部材が用いられ、この樹脂部材は、溶着によって金属パネルの裏面に接合される。
【0003】
ところが、溶着によって金属パネルの裏面に樹脂部材を接合した場合、加熱によって膨張した樹脂部材が冷却時に収縮することによって、金属パネルの表面にデフォームが生じるという問題がある。デフォームが生じると、金属パネルの外観品質が大きく低下することから、デフォームの抑制が強く求められる。
【0004】
そこで、金属パネルの裏面に、ウレタン系樹脂を基材とする保護層を設け、この保護層上に、熱硬化性樹脂を基材とする長尺状の複数の補強層を所定間隔毎に設ける技術が開示されている(特許文献1参照)。この技術によれば、柔軟性を有する保護層によって、補強層の収縮による金属パネルのデフォームを抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−296875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、補強層に加えて保護層を設ける必要があり、コストが嵩む。また、特許文献1の技術は、補強層自体の収縮を抑制するものではないため、金属パネルのデフォームの抑制に限界がある。
【0007】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、低コストで、金属パネルのデフォームを十分に抑制できる金属パネルの補強方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明は、金属パネル(例えば、後述の金属パネル1)を補強部材で補強する金属パネルの補強方法を提供する。本発明に係る金属パネルの補強方法(例えば、後述の補強方法)は、混練により屈曲した補強繊維(例えば、後述の補強繊維13)を含有する樹脂材料を長尺状に押出成形することで、前記補強繊維をスプリングバックさせ、当該スプリングバックにより形成された複数の空隙(例えば、後述の空隙15)を内部に有する補強部材(例えば、後述の補強部材10a)を得る工程(例えば、後述の第1工程)と、前記補強部材を加熱して前記金属パネルに接合する工程(例えば、後述の第2工程)と、を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明では、先ず、混練により屈曲した補強繊維を含有する樹脂材料を、長尺状に押出成形することで、補強部材を得る。このとき、押出成形は開放成形(高圧条件下から低圧条件下に開放された状態で行われる成形)であるため、補強繊維がスプリングバックすることで、複数の空隙が補強部材の内部に形成される。
次いで、この補強部材を加熱して金属パネルに接合する。このとき、補強部材の内部に形成されている複数の空隙によって、加熱による樹脂の膨張が吸収されるため、補強部材全体としての寸法変化量が抑制される。これにより、補強部材の寸法変化量が金属パネルに近いものとなる結果、金属パネルのデフォームを十分に抑制できる。
また本発明によれば、補強部材を金属パネルに接合するのみで上述の効果が得られ、従来よりも低コスト化できる。さらには、補強部材の内部には複数の空隙が形成されているため、補強部材に使用する樹脂材料の量を低減でき、さらなる低コスト化が期待できる。
【0010】
また本発明は、金属パネルを補強するための長尺状の補強部材を提供する。本発明の補強部材は、樹脂と、補強繊維と、を含み、前記樹脂との混練で屈曲した前記補強繊維がスプリングバックすることにより形成された複数の空隙を内部に有することを特徴とする。
また本発明は、この補強部材で補強されたことを特徴とする金属パネルを提供する。
【0011】
本発明に係る補強部材及び金属パネルによれば、上記と同様の効果が奏される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低コストで、金属パネルのデフォームを十分に抑制できる金属パネルの補強方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】補強部材の断面模式図であり、(a)が本発明の一実施形態に係る補強部材、(b)が射出成形により得た従来の補強部材である。
【図2】本発明の一実施形態で用いる押出成形機の概略構成を示す図である。
【図3】補強部材を加熱したときの伸び量を示す図である。
【図4】表面粗さの測定手順を示す図である。
【図5】表面粗さの測定方法を示す図である。
【図6】表面粗さの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
本発明の一実施形態に係る金属パネルの補強方法は、補強部材を得る工程(以下、「第1工程」という)と、補強部材を金属パネルに接合する工程(以下、「第2工程」という)と、を含む。
【0015】
[第1工程]
第1工程では、樹脂と、屈曲した補強繊維と、を含有する樹脂材料が用いられる。
樹脂としては、熱可塑性樹脂が好ましく用いられ、例えばナイロン6を用いることができる。
補強繊維としては、ガラス繊維(以下、「GF」ともいう)や炭素繊維が用いられ、市販のものを用いることができる。補強繊維の繊維長としては、短いものが好ましい。樹脂材料中の補強繊維の含有量は、例えば20質量%とすることができる。
補強繊維は、樹脂との混練によって応力を受けて屈曲し、屈曲した状態で、後述の押出成形に供される。
【0016】
第1工程では、上述の樹脂材料を、後述の押出成形機により長尺状に押出成形することで、補強部材を得る。このとき、押出成形は開放成形であるため、補強繊維がスプリングバックすることで、複数の空隙が補強部材の内部に形成される。
ここで、「スプリングバック」とは、樹脂との混練により応力を受けて屈曲した補強繊維が、応力から開放されて元の直線状に戻ることを意味する。
【0017】
[第2工程]
第2工程では、第1工程で得た補強部材を加熱して金属パネルに接合する。より具体的には、上述の長尺状の補強部材を、金属パネルの裏面に所定間隔毎に複数溶着して接合する。
金属パネルとしては、車両のドアパネルやクォータパネル等のサイドパネルを構成する鉄鋼板が好ましく用いられる。これらの鉄鋼板は、成型性の向上及び軽量化の観点から薄板状に形成されており、本実施形態の補強方法を適用することで、高い曲げ剛性が付与される。
【0018】
次に、本実施形態に係る補強部材の構成について、図1を参照して説明する。
図1は、補強部材の断面模式図であり、(a)が本実施形態に係る補強部材、(b)が射出成形により得た従来の補強部材である。
図1(a)に示すように、本実施形態に係る補強部材10aは、マトリクスとしての樹脂11と、この樹脂11中に分散された直線状の補強繊維13と、を含む。また、補強部材10aの内部には、複数の空隙15が形成されている。上述したように、これら複数の空隙15は、混練により屈曲した補強繊維13が押出成形時にスプリングバックすることで形成されたものである。
これに対して、図1(b)に示すように、射出成形により得た従来の補強部材10bは、内部に空隙が形成されていない。これは、射出成形は高圧条件下で成形が行われるため、補強繊維13がスプリングバックしにくく、仮にスプリングバックした場合も、それに連動して樹脂11が流動する結果、空隙が形成されることがないからである。
【0019】
ここで、本実施形態で用いる押出成形機について、図2を参照して説明する。
図2は、本実施形態で用いる押出成形機の概略構成を示す図である。図2に示すように、押出成形機20は、押出機21と、金型23と、この金型23と押出機21とを連結するジョイント25と、押出機21及び金型23の温度を所望の温度(例えば250℃)に調節する温度調節装置(図示せず)と、を備える。
押出機21は、円筒形状を有し、押出機21内には、投入された樹脂と補強繊維とを混練して押出すスクリュー(図示せず)が設けられている。
金型23は、所定の断面形状(例えば略矩形)を有し、ジョイント25を介して押出機21から押出された樹脂材料を、所定の断面形状を有する長尺状の補強部材に成形する。
以上のような構成を備える押出成形機20により、本実施形態に係る補強部材が成形される。
なお、押出成形条件としては、例えば径が40mmφで、径に対するスクリューの長さL/Dが22の押出機21を用いた場合、スクリューの回転数を6rpm、金型23の内圧を100〜150kg/cm、引取り速度を3.5m/分とすることができる。
【0020】
次に、本実施形態に係る補強部材の熱膨張量、特に伸び量について、図3を参照して説明する。
図3は、補強部材を180℃に加熱したときの伸び量を示す図である。具体的には、180℃加熱時において、金属パネルを構成する鉄鋼板の伸び量(理論値)を1.0としたときの、各成形品の伸び量を示している。
図3に示すように、従来の補強部材に相当する射出成形品は、GFを含有(後述の押出成形品と同量のGFを含有)していても、その伸び量は1.75と大きい。これに対して、本実施形態に係る補強部材に相当する押出成形品(GF含有)の伸び量は、1.25と小さく、鉄鋼板により近い値となっている。これにより、本実施形態に係る補強部材の加熱冷却時における寸法変化量は、鉄鋼板のそれにより近いものとなっていることが分かる。
【0021】
次に、本実施形態に係る補強部材で補強された金属パネルの表面粗さについて、図4〜図6を参照して説明する。
図4は、表面粗さの測定手順を示す図である。図4に示すように、長尺状の補強部材10aを複数、所定間隔毎に接合することで補強された金属パネル1の表面粗さは、表面粗さ測定機40により測定される。表面粗さ測定機40は、その先端に設けられたプローブ41を、金属パネル1の表面に沿って移動(変位)させることで、金属パネル1の表面粗さ(変位高さ)を測定する。
【0022】
図5は、表面粗さの測定方法を示す図である。図5に示すように、本実施形態では、所定の変位幅における最大変位高さを、変位高さとする。より詳しく説明すると、P1の位置からP3の位置まで測定を行った場合において、これらP1とP3とを結ぶ直線と、P1〜P3間で最も高さが低いP2を通る垂線との交点をXとしたとき、Xの高さとP2の高さとの差分Tを、変位幅A+Bにおける変位高さとする。そして、このようにして決定した変位高さと変位幅との関係を、表面粗さとして測定する。
【0023】
図6は、表面粗さの測定結果を示す図である。具体的には、図6は、本実施形態に係る補強部材10aに相当する押出成形品(GF含有)により補強された金属パネル1の表面粗さと、従来の補強部材10bに相当する射出成形品(上記押出成形品と同量のGF含有)により補強された金属パネルの表面粗さの測定結果を示している。
図6に示されるように、従来の補強部材10bに相当する射出成形品(GF含有)により補強された金属パネルに比べて、本実施形態に係る補強部材10aに相当する押出成形品(GF含有)により補強された金属パネル1は、変位幅に対する変位高さが格段に小さいことが分かった。この結果から、本実施形態によれば、金属パネル1のデフォームを十分に抑制できることが確認された。
【0024】
本実施形態によれば、以下の効果が奏される。
本実施形態では、先ず、混練により屈曲した補強繊維を含有する樹脂材料を、長尺状に押出成形することで、補強部材10aを得る。このとき、押出成形は開放成形であるため、補強繊維13がスプリングバックすることで、複数の空隙15が補強部材10aの内部に形成される。
次いで、この補強部材10aを加熱して金属パネル1に接合する。このとき、補強部材10aの内部に形成されている複数の空隙15によって、加熱による樹脂11の膨張が吸収されるため、補強部材10a全体としての寸法変化量が抑制される。これにより、補強部材10aの寸法変化量が金属パネル1に近いものとなる結果、金属パネル1のデフォームを十分に抑制できる。
また本実施形態によれば、補強部材10aを金属パネル1に接合するのみで上述の効果が得られ、従来よりも低コスト化できる。さらには、補強部材10aの内部には複数の空隙15が形成されているため、補強部材10aに使用する樹脂材料の量を低減でき、さらなる低コスト化が期待できる。
【0025】
また、本実施形態に係る補強部材10a及び金属パネル1によれば、上記と同様の効果が奏される。
【0026】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0027】
1…金属パネル
10a…補強部材
11…樹脂
13…補強繊維
15…空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属パネルを補強部材で補強する金属パネルの補強方法において、
混練により屈曲した補強繊維を含有する樹脂材料を長尺状に押出成形することで、前記補強繊維をスプリングバックさせ、当該スプリングバックにより形成された複数の空隙を内部に有する補強部材を得る工程と、
前記補強部材を加熱して前記金属パネルに接合する工程と、を含むことを特徴とする金属パネルの補強方法。
【請求項2】
金属パネルを補強するための長尺状の補強部材において、
樹脂と、補強繊維と、を含み、
前記樹脂との混練で屈曲した前記補強繊維がスプリングバックすることにより形成された複数の空隙を内部に有することを特徴とする補強部材。
【請求項3】
請求項2記載の補強部材で補強されたことを特徴とする金属パネル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−1060(P2013−1060A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137295(P2011−137295)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】