説明

金属化フィルムのプレヒーリング方法、及びプレヒーリング装置

【課題】プレヒーリングにおける金属化フィルムの帯電量を低減できるようにする。
【解決手段】フィルム体(22)の一方の面又は両面に蒸着によって金属膜(23)が形成された金属化フィルム(21)のプレヒーリング方法において、金属化フィルム(21)の両面間に交流電圧を印加し、絶縁欠陥部(25)を溶融させて除去する電圧印加工程を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムコンデンサに用いる金属化フィルムのプレヒーリング方法及びプレヒーリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、表面にアルミニウム、又は亜鉛等を蒸着した誘電体のフィルム(金属化フィルム)を多層に重ねて構成されたフィルムコンデンサが知られている。
【0003】
この金属化フィルムは、製造時に付着する異物や、フィルムのしわや、溶融した蒸着金属の突沸等を原因として絶縁欠陥を生じることがある。このような欠陥を有する金属化フィルムを用いたコンデンサは、欠陥部分で絶縁が確保できないため、わずかな電圧印加によって短絡状態となることがある。また、絶縁欠陥による短絡の発生は、フィルムの温度条件によっても大きく変わる。一般的にはフィルムの温度が上昇すると、該フィルムの絶縁抵抗が低下するため、短絡がより発生し易くなる。
【0004】
このような問題には、特許文献1に示すように、金属化フィルムの製造工程において、金属化フィルムに高電圧を印加し、絶縁欠陥周辺の金属を溶融させて取り除く工程(以下、プレヒーリング工程と呼ぶ)を設けることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−79017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記プレヒーリング工程では、印加電圧をより高くすることで、絶縁欠陥の除去効果(プレヒーリング効果)をより向上できると考えられる。しかしながら、従来は直流電圧を印加していたので、印加電圧を高くすると、金属化フィルムの帯電量が大きくなり、金属化フィルムが過帯電となる。過帯電となった金属化フィルムは、その後の巻回工程でしわが発生したり、フィルムの金属膜面に埃が付着したりしやすくなる。このような、しわや埃の付着は、フィルムコンデンサの耐圧低下や絶縁不良につながり、生産性が低下する可能性がある。
【0007】
本発明は前記の問題に着目してなされたものであり、プレヒーリングにおける金属化フィルムの帯電量を低減できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するため、第1の発明は、
フィルム体(22)の一方の面又は両面に蒸着によって金属膜(23)が形成された金属化フィルム(21)のプレヒーリング方法であって、
前記金属化フィルム(21)の両面間に交流電圧を印加し、絶縁欠陥部(25)を溶融させて除去する電圧印加工程を有することを特徴とする。
【0009】
この方法では、プレヒーリングに交流電圧が用いられる。もし、プレヒーリングの際に直流電圧を印加すれば、金属化フィルム(21)は、残留分極状態の蓄積による帯電が起こる。しかしながら、この交流電圧では、残留分極状態の蓄積による帯電が起こらない。すなわち、本発明によれば、プレヒーリングにおける金属化フィルム(21)の帯電量を低減させることができる。
【0010】
また、第2の発明は、
第1の発明のプレヒーリング方法において、
前記金属化フィルム(21)の一方の面に導電性の第1電圧印加ローラ(43)を接触させ、且つ前記金属化フィルム(21)のもう一方の面に導電性の第2電圧印加ローラ(33)を接触させた状態で、前記金属化フィルム(21)を搬送する搬送工程を有し、
前記電圧印加工程では、前記搬送工程によって搬送中の前記金属化フィルム(21)に、前記第1、及び第2電圧印加ローラ(43,33)を介して前記交流電圧を印加することを特徴とする。
【0011】
この方法では、第1、及び第2電圧印加ローラ(43,33)によって、金属化フィルム(21)の両面間に交流電圧が印加される。
【0012】
また、第3の発明は、
第1又は第2の発明のプレヒーリング方法において、
前記電圧印加工程では、前記金属化フィルム(21)の一箇所当たり、前記交流電圧の半周期以上の期間、前記交流電圧を印加することを特徴とする。
【0013】
この方法では、前記金属化フィルム(21)の一箇所当たり、前記交流電圧の半周期以上の期間、前記交流電圧を印加するので、それぞれの印加位置で必ず交流電圧の最大値が印加される。それゆえ、金属化フィルム(21)の絶縁欠陥部(25)には、前記交流電圧の最大値が必ず印加される。
【0014】
また、第4の発明は、
フィルム体(22)の一方の面又は両面に蒸着によって金属膜(23)が形成された金属化フィルム(21)のプレヒーリング装置であって、
前記金属化フィルム(21)の両面間に交流電圧を印加し、絶縁欠陥部(25)を溶融させて除去する交流電源(32a)を備えたことを特徴とする。
【0015】
この構成では、プレヒーリングに交流電圧が用いられる。もし、プレヒーリングの際に直流電圧を印加すれば、金属化フィルム(21)は、残留分極状態の蓄積による帯電が起こる。しかしながら、この交流電圧では、残留分極状態の蓄積による帯電が起こらない。すなわち、本発明によれば、プレヒーリングにおける金属化フィルム(21)の帯電量を低減させることができる。
【0016】
また、第5の発明は、
第4の発明のプレヒーリング装置において、
導電性の第1、及び第2電圧印加ローラ(43,33)と、
前記金属化フィルム(21)の一方の面に前記第1電圧印加ローラ(43)を接触させ、且つ前記金属化フィルム(21)のもう一方の面に前記第2電圧印加ローラ(33)を接触させた状態で、前記金属化フィルム(21)を搬送する搬送装置(31,35)を備え、
前記交流電源(32a)は、一方の出力端子が前記第1電圧印加ローラ(43)に接続され、もう一方の出力端子が前記第2電圧印加ローラ(33)に接続されていることを特徴とする。
【0017】
この構成では、第1、及び第2電圧印加ローラ(43,33)によって、金属化フィルム(21)の両面間に交流電圧が印加される。
【0018】
また、第6の発明は、
第4又は第5の発明のプレヒーリング装置において、
前記交流電源(32a)は、前記金属化フィルム(21)の一箇所当たり、前記交流電圧の半周期以上の期間、前記交流電圧を印加することを特徴とする。
【0019】
この構成では、前記金属化フィルム(21)の一箇所当たり、前記交流電圧の半周期以上の期間、前記交流電圧を印加するので、それぞれの印加位置で必ず交流電圧の最大値が印加される。それゆえ、金属化フィルム(21)の絶縁欠陥部(25)には、前記交流電圧の最大値が必ず印加される。
【0020】
また、第7の発明は、
第6の発明のプレヒーリング装置において、
前記金属化フィルム(21)は、片面のみに前記金属膜(23)が形成され、
前記第2電圧印加ローラ(33)は、前記金属膜(23)が形成されていない側の面から、前記金属化フィルム(21)が前記交流電圧の半周期の間に搬送される長さ以上、前記金属化フィルム(21)と接することを特徴とする。
【0021】
この構成では、第2電圧印加ローラ(33)には金属化フィルム(21)の金属膜(23)が形成されていない面(非蒸着面)が接する。この第2電圧印加ローラ(33)には、前記金属化フィルム(21)が前記交流電圧の半周期の間に搬送される長さ以上、前記金属化フィルム(21)と接するので、この非蒸着面は、それぞれの印加位置で必ず交流電圧の最大値が印加される。その結果、絶縁欠陥部(25)があった場合には、その部分にも必ず交流電圧の最大値が印加される。
【発明の効果】
【0022】
第1、2の発明のそれぞれによれば、プレヒーリングにおける金属化フィルム(21)の帯電量を低減させることができるので、金属化フィルム(21)におけるしわの発生や埃の付着を低減することが可能になる。このように、しわの発生や埃の付着が低減すると、フィルムコンデンサ(11)の耐圧低下の抑制や絶縁不良の低減が可能になる。
【0023】
また、第3の発明によれば、金属化フィルム(21)の絶縁欠陥部(25)に、前記交流電圧の最大値が必ず印加されるので、より確実に絶縁欠陥部(25)を除去できる。
【0024】
また、第4、5の発明のそれぞれによれば、プレヒーリングにおける金属化フィルム(21)の帯電量を低減させることができるので、金属化フィルム(21)におけるしわの発生や埃の付着を低減することが可能になる。このように、しわの発生や埃の付着が低減すると、フィルムコンデンサ(11)の耐圧低下の抑制や絶縁不良の低減が可能になる。
【0025】
また、第6の発明によれば、金属化フィルム(21)の絶縁欠陥部(25)に、前記交流電圧の最大値が必ず印加されるので、より確実に絶縁欠陥部(25)を除去できる。
【0026】
また、第7の発明によれば、片面のみに前記金属膜(23)が形成された金属化フィルム(21)において、より確実に絶縁欠陥部(25)を除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、フィルムコンデンサの概略構成を示す縦断面図である。
【図2】図2は、2枚の金属化フィルムを重ね合わせた状態を示す断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態にかかるプレヒーリング装置の構成を示す概略図である。
【図4】図4は、交流電源の出力交流の電圧波形を示す図である。
【図5】図5は、金属化フィルムと第2電圧印加ローラとの接触状態を説明する図である。
【図6】図6は、金属化フィルムの絶縁欠陥部を模式的に示す図である。
【図7】図7は、金属化フィルムの絶縁欠陥部を除去した後の状態を示す概略図である。
【図8】図8は、交流電源の出力交流の電圧波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0029】
《発明の実施形態》
まず、本発明のプレヒーリング方法(装置)を使用して製造された金属化フィルムを誘電体として使用できるフィルムコンデンサの一例を説明する。図1は、本方法(装置)にかかる金属化フィルムを誘電体として使用したフィルムコンデンサ(11)の概略構成を示す縦断面図である。このフィルムコンデンサ(11)は、例えばインバータ回路に供給する直流電圧を平滑化する平滑コンデンサ等に用いられる。フィルムコンデンサ(11)は、図1に示すように、2つのメタリコン電極(14)、2つの外部端子(16,16)、封止樹脂(18)、コンデンサ本体(20)、及び絶縁カバー(24)を備えている。
【0030】
《コンデンサ本体(20)の構成》
コンデンサ本体(20)は、2枚の金属化フィルム(21)、及び巻芯(13)を備えている。詳しくは、コンデンサ本体(20)は、2枚の金属化フィルム(21)が厚み方向に重ね合わされて巻芯(13)の外周に巻回されて、略円柱状に形成されている。
【0031】
図2は、2枚の金属化フィルムを重ね合わせた状態を示す断面図である。それぞれの金属化フィルム(21)は、帯状のフィルム体(22)の片面に金属を蒸着して、長手方向(図2では紙面に垂直方向)に連続する金属膜(23)を形成してある。蒸着させる金属としては、例えばアルミニウムや亜鉛などが挙げられる。この例では、フィルム体(22)には、高誘電率材料を用いている。より具体的には、フィルム体(22)には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を採用している。なお、本実施形態では、フィルム体(22)は、5〜6μmの厚さを有している。
【0032】
また、それぞれの金属化フィルム(21)は、図2に示すように、金属化フィルム(21)の金属膜(23)が形成された面(以下、蒸着面ともいう)の端に、長手方向に沿ったサイドマージン部(金属膜(23)がない部分)が設けられている。それぞれの金属化フィルム(21)は、重ね合わせた状態で、サイドマージン部が互いに逆側になるようになっている。2枚の金属化フィルム(21)を重ねると、図2に示すように、一方の金属化フィルム(21)の金属膜(23)が形成されていない面(以下、非蒸着面という)と、もう一方の金属化フィルム(21)の蒸着面とが接触する。
【0033】
巻芯(13)は、樹脂によって、図1に示すように円筒状に形成されている。巻芯(13)の軸方向長さは、概ね金属化フィルム(21)の幅と同じである。
【0034】
それぞれのメタリコン電極(14,14)は、コンデンサ本体(20)の両端部に設けられている。これらのメタリコン電極(14,14)は、コンデンサ本体(20)の両方の軸方向端部(側端面)に、金属をそれぞれ溶射することによって形成されている。一方のメタリコン電極(14)は、一方の金属化フィルム(21)の金属膜(23)と電気的に導通し、もう一方の金属化フィルム(21)の金属膜(23)とは、前記サイドマージン部によって電気的に絶縁されている。同様に、もう一方のメタリコン電極(14)は、もう一方の金属化フィルム(21)のみの金属膜(23)と電気的に導通している。
【0035】
また、それぞれの外部端子(16)は、図1に示すように、その基端部がコンデンサ本体(20)の軸心付近からコンデンサ本体(20)の径方向外方に向かって延び、その先端部が封止樹脂(18)から外方に突出している。各外部端子(16,16)は、コンデンサ本体(20)の軸心付近で、対応したメタリコン電極(14,14)と電気的に接続されている。本実施形態では、それぞれの外部端子(16)は、メタリコン電極(14)に半田付けされている。なお、これらの外部端子(16,16)は、基板(26)に半田付けなどによって接続される(図1参照)。
【0036】
絶縁カバー(24)は、樹脂材料からなるシート状の部材を、円筒状のコンデンサ本体(20)の外周面に沿うように丸めて円筒状にしたものである。この絶縁カバー(24)は、コンデンサ本体(20)の外周面全体を覆うように設けられている。なお、絶縁カバー(24)は必須ではなく、例えば、該コンデンサ本体(20)を封止樹脂(18)で直接、封止するような構成であってもよい。
【0037】
封止樹脂(18)は、絶縁カバー(24)の外周側、それぞれのメタリコン電極(14,14)及び外部端子(16,16)の基端部を封止するように設けられている。すなわち、この封止樹脂(18)は、各外部端子(16,16)の先端側を除いて、フィルムコンデンサ(11)の構成部品全体を覆うように設けられている。
【0038】
《プレヒーリング装置》
次に、金属化フィルム(21)に存在する絶縁欠陥部を修復するプレヒーリング装置について説明する。図3は、本発明の実施形態にかかるプレヒーリング装置(30)の構成を示す概略図である。プレヒーリング装置(30)は、金属化フィルム(21)の両面間に所定の電圧を印加することによって、金属化フィルム(21)に存在する絶縁欠陥部周辺の蒸着金属を溶融させて除去し、絶縁欠陥部を修復する(以下、この修復をプレヒーリングという)。本実施形態のプレヒーリング装置(30)は、図3に示すように、上流側ローラ(31)、下流側ローラ(35)、及び電圧印加ユニット(32)を備えている。
【0039】
上流側ローラ(31)は、プレヒーリングが行われていない金属化フィルム(21)が巻き付けられるローラである。この例では、上流側ローラ(31)に金属化フィルム(21)を巻きつけた状態で外側になる面が前記蒸着面である。すなわち、図3では、上流側ローラ(31)、下流側ローラ(35)間の金属化フィルム(21)は、上側が金属膜(23)側(前記蒸着面)である。下流側ローラ(35)は、上流側ローラ(31)から金属化フィルム(21)を引き出して巻き取るローラである。この上流側ローラ(31)と下流側ローラ(35)とで、本発明の搬送装置の一例を構成している。
【0040】
電圧印加ユニット(32)は、交流電源(32a)、第1、及び第2電圧印加ローラ(43,33)を備えている。交流電源(32a)は、例えば、スライダックとトランスを組み合わせて構成され、所定の交流電圧を出力するようになっている。この例では、交流電源(32a)は、商用交流電源(例えば100V,50Hz)を入力として、300〜500Vの交流電圧(50Hz)を出力する。図4は、交流電源(32a)の出力交流の電圧波形を示す図である。図4に示すように、前記出力交流の電圧波形は正弦波である。
【0041】
第1、及び第2電圧印加ローラ(43,33)は、上流側ローラ(31)と下流側ローラ(35)との間における、金属化フィルム(21)の搬送経路において、金属化フィルム(21)の搬送方向に回転するように配設されている(図3参照)。これらの電圧印加ローラ(43,33)のうち、第1電圧印加ローラ(43)は、上流側ローラ(31)と下流側ローラ(35)との間において、その外周面が金属化フィルム(21)の前記蒸着面(図3では金属化フィルム(21)の上側の面)に押し付けられている。第1電圧印加ローラ(43)は、導電性の部材(例えば金属)で形成されている。
【0042】
第2電圧印加ローラ(33)も、導電性の部材(例えば金属)で形成されている。第2電圧印加ローラ(33)は、上流側ローラ(31)と下流側ローラ(35)との間において、その外周面が、金属化フィルム(21)の非蒸着面(図3では金属化フィルム(21)の下側の面)に押し付けられている。図5は、金属化フィルム(21)と第2電圧印加ローラ(33)との接触状態を説明する図である。この第2電圧印加ローラ(33)は、金属化フィルム(21)が下流側ローラ(35)に巻き取られる際に、交流電源(32a)が出力する交流電圧の半周期以上の期間(この例では10mS以上の期間)、第2電圧印加ローラ(33)と金属化フィルム(21)とが接するように、金属化フィルム(21)との接触長が確保されている。この接触長は、下流側ローラ(35)の巻き取りスピードに応じて、第2電圧印加ローラ(33)を金属化フィルム(21)に押し付ける量を調整することで設定できる。
【0043】
このプレヒーリング装置(30)では、第1電圧印加ローラ(43)が交流電源(32a)の一方の出力端子に接続され、第2電圧印加ローラ(33)が交流電源(32a)のもう一方の出力端子に接続されている。これにより、第1、及び第2電圧印加ローラ(43,33)は、交流電源(32a)が出力する交流電圧を、金属化フィルム(21)の両面間に印加する。
【0044】
《プレヒーリング装置の動作》
本実施形態のプレヒーリング装置(30)では、上流側ローラ(31)に、プレヒーリングが行われていない金属化フィルム(21)を巻き付けておく。そして、その金属化フィルム(21)の一端を、下流側ローラ(35)で巻き取れるように、下流側ローラ(35)に固定しておく。また、第1電圧印加ローラ(43)を金属化フィルム(21)の前記蒸着面から接触させ、第2電圧印加ローラ(33)を金属化フィルム(21)の前記非蒸着面から接触させる。そして、下流側ローラ(35)で金属化フィルム(21)を巻き取る(搬送工程)。すなわち、上流側、及び下流側ローラ(31,35)によって、金属化フィルム(21)の蒸着面に第1電圧印加ローラ(43)を接触させ、且つ金属化フィルム(21)の非蒸着面に第2電圧印加ローラ(33)を接触させた状態で、金属化フィルム(21)を搬送するのである。
【0045】
この搬送が行われている間、電圧印加ユニット(32)は、金属化フィルム(21)の両面間に交流電圧を印加する。具体的には、交流電源(32a)が、第1、及び第2電圧印加ローラ(43,33)を介して、搬送中の金属化フィルム(21)に交流電圧を印加する(電圧印加工程)。
【0046】
図6は、金属化フィルム(21)の絶縁欠陥部(後述)を模式的に示す図である。図6に示すように、フィルム体(22)には、製造時にピンホール(27)ができてしまう場合がある。このようなピンホール(27)がある状態でフィルム体(22)に金属を蒸着すると、ピンホール(27)内に金属が蒸着し、ピンホール(27)部分で絶縁欠陥が起こる(以下、ピンホール(27)に入り込んだ蒸着金属の部分を絶縁欠陥部(25)とよぶ)。
【0047】
金属化フィルム(21)の両面間に交流電圧が印加された状態で、絶縁欠陥部(25)が第2電圧印加ローラ(33)上を通過すると、前記交流電圧により、絶縁欠陥部(25)、及びその周辺の蒸着金属が溶融する。これにより、絶縁欠陥部(25)は除去されることになる。図7は、金属化フィルム(21)の絶縁欠陥部(25)を除去した後の状態を示す概略図である。同図に示すように、金属化フィルム(21)の絶縁欠陥は修復され、この金属化フィルム(21)を他の金属化フィルム(21)と重ねても、修復部分では短絡が起こらない。
【0048】
なお、交流電圧を印加すると、交流電圧が低い期間に絶縁欠陥部(25)が第2電圧印加ローラ(33)を通過すると、十分に絶縁欠陥部(25)を除去できないとも考えられる。しかしながら、本実施形態では、既述の通り、金属化フィルム(21)が搬送される際に、交流電源(32a)が出力する交流電圧の半周期以上の期間(この例では10mS以上の期間)、該第2電圧印加ローラ(33)と金属化フィルム(21)とが接するように、金属化フィルム(21)との接触長が確保されている。そのため、通過する絶縁欠陥部(25)には、前記交流電圧の最大値が必ず印加される。すなわち、本実施形態では、より確実に絶縁欠陥部(25)を除去できる。
【0049】
《本実施形態の効果》
この電圧印加工程で、もし、直流電圧を印加すれば、金属化フィルム(21)は、残留分極状態の蓄積による帯電が起こる。しかしながら、本実施形態では、電圧印加工程で交流電圧を印加しているので、残留分極状態の蓄積による帯電が起こらない。すなわち、本実施形態によれば、プレヒーリングにおける金属化フィルム(21)の帯電量を低減させることができる。これにより、金属化フィルム(21)におけるしわの発生や埃の付着を低減することが可能になる。このように、しわの発生や埃の付着が低減すると、フィルムコンデンサ(11)の耐圧低下の抑制や絶縁不良の低減が可能になる。
【0050】
また、金属化フィルム(21)の帯電量を低減させることができると、印加電圧を高くすることが可能になる。印加電圧をより高くできると、絶縁欠陥の除去効果(プレヒーリング効果)をより向上できる。
【0051】
また、本実施形態は、高誘電率のフィルム体(22)を用いた金属化フィルム(21)のプレヒーリングに有用である。高誘電率材料(誘電分極が大きい材料)では、低い直流電圧でもフィルム体が大きく帯電する。しかしながら、本実施形態のプレヒーリング装置(30)を用いれば、帯電させることなく高誘電率のフィルム体(22)を用いた金属化フィルム(21)のプレヒーリングを行うことができる。なお、高誘電率のフィルム体(22)としては、前記のポリフッ化ビニリデンの他に、例えばシアノセルロース、ポリ塩化ビニル(PVC:polyvinyl chloride)アセチルセルロース、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂などが挙げられる。
【0052】
《その他の実施形態》
なお、フィルムコンデンサ(11)の構造は例示である。
【0053】
また、フィルム体(22)の材料は例示である。
【0054】
また、本発明は、両面に金属を蒸着した金属化フィルムのプレヒーリングに適用してもよい。
【0055】
また、交流電源(32a)は、例えば、市販の耐圧試験機(絶縁の検査を行う試験機)を利用してもよい。
【0056】
また、金属化フィルム(21)に印加する交流電圧や周波数は例示である。
【0057】
また、金属化フィルム(21)に印加する交流の電圧波形は、正弦波には限定されない。例えば、出力交流の電圧波形は、矩形波(図8参照)でもよい。金属化フィルム(21)に印加する電圧の波形は、時間に対して交互に極性反転する波形であればよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、フィルムコンデンサに用いる金属化フィルムのプレヒーリング方法及びプレヒーリング装置として有用である。
【符号の説明】
【0059】
11 フィルムコンデンサ
21 金属化フィルム
22 フィルム体
23 金属膜
25 絶縁欠陥部
30 プレヒーリング装置
31 上流側ローラ
32a 交流電源
33 第2電圧印加ローラ
35 下流側ローラ
43 第1電圧印加ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム体(22)の一方の面又は両面に蒸着によって金属膜(23)が形成された金属化フィルム(21)のプレヒーリング方法であって、
前記金属化フィルム(21)の両面間に交流電圧を印加し、絶縁欠陥部(25)を溶融させて除去する電圧印加工程を有することを特徴とするプレヒーリング方法。
【請求項2】
請求項1のプレヒーリング方法において、
前記金属化フィルム(21)の一方の面に導電性の第1電圧印加ローラ(43)を接触させ、且つ前記金属化フィルム(21)のもう一方の面に導電性の第2電圧印加ローラ(33)を接触させた状態で、前記金属化フィルム(21)を搬送する搬送工程を有し、
前記電圧印加工程では、前記搬送工程によって搬送中の前記金属化フィルム(21)に、前記第1、及び第2電圧印加ローラ(43,33)を介して前記交流電圧を印加することを特徴とするプレヒーリング方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のプレヒーリング方法において、
前記電圧印加工程では、前記金属化フィルム(21)の一箇所当たり、前記交流電圧の半周期以上の期間、前記交流電圧を印加することを特徴とするプレヒーリング方法。
【請求項4】
フィルム体(22)の一方の面又は両面に蒸着によって金属膜(23)が形成された金属化フィルム(21)のプレヒーリング装置であって、
前記金属化フィルム(21)の両面間に交流電圧を印加し、絶縁欠陥部(25)を溶融させて除去する交流電源(32a)を備えたことを特徴とするプレヒーリング装置。
【請求項5】
請求項4のプレヒーリング装置において、
導電性の第1、及び第2電圧印加ローラ(43,33)と、
前記金属化フィルム(21)の一方の面に前記第1電圧印加ローラ(43)を接触させ、且つ前記金属化フィルム(21)のもう一方の面に前記第2電圧印加ローラ(33)を接触させた状態で、前記金属化フィルム(21)を搬送する搬送装置(31,35)を備え、
前記交流電源(32a)は、一方の出力端子が前記第1電圧印加ローラ(43)に接続され、もう一方の出力端子が前記第2電圧印加ローラ(33)に接続されていることを特徴とするプレヒーリング装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5のプレヒーリング装置において、
前記交流電源(32a)は、前記金属化フィルム(21)の一箇所当たり、前記交流電圧の半周期以上の期間、前記交流電圧を印加することを特徴とするプレヒーリング装置。
【請求項7】
請求項6のプレヒーリング装置において、
前記金属化フィルム(21)は、片面のみに前記金属膜(23)が形成され、
前記第2電圧印加ローラ(33)は、前記金属膜(23)が形成されていない側の面から、前記金属化フィルム(21)が前記交流電圧の半周期の間に搬送される長さ以上、前記金属化フィルム(21)と接することを特徴とするプレヒーリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−69841(P2012−69841A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214910(P2010−214910)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】