説明

金属化フィルムコンデンサ

【課題】吸着剤に吸着されたガスを脱離させ放出することで、吸着剤の吸着能力を回復させる。これにより、コンデンサ外部から金属化フィルムコンデンサ素子の内部にガスが侵入することを防ぎ、信頼性を向上させる。
【解決手段】開口部を有するコンデンサケース3に収納された金属化フィルムコンデンサ素子2を、吸着剤5が含まれた充填樹脂4を用いて封止することで金属化フィルムコンデンサ1を構成する。吸着剤5にガスを吸着させた後、コンデンサケース3の外部から熱を加えると、吸着剤5に吸着されたガスが脱離されて充填樹脂4に溶け込まれる。そして、充填樹脂4に溶け込んだガスが移動して、コンデンサケース3の開口部より放出される。これにより、吸着剤5の吸着能力が回復されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
各種電子機器に用いられる金属化フィルムコンデンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器に対する信頼性向上の要望に伴い、それに用いられる電子部品にも高い信頼性、長寿命化が求められている。
【0003】
金属化フィルムコンデンサにおいては、コンデンサ内部に存在する水蒸気などのガスが金属化フィルムコンデンサ素子に侵入して、誘電体フィルムや蒸着金属膜を劣化させてしまい、その結果、コンデンサの特性を低下させている。
【0004】
そこで、この特性低下を防ぐために、シリカゲルやゼオライトなどの多数の細孔を有し、この細孔表面にガスを吸着することができる吸着剤を金属化フィルムコンデンサ素子の巻芯部分や外周部分に配設することが知られている(特許文献1参照)。
【0005】
すなわち、図5は金属化フィルムコンデンサ素子の巻芯部分や外周部分に吸着剤を含有する金属化フィルムコンデンサの断面模式図、図6はこの金属化フィルムコンデンサ素子の斜視図である。
【0006】
図5において、13は金属化フィルムコンデンサを示し、この金属化フィルムコンデンサ13は、金属化フィルムコンデンサ素子14と、この金属化フィルムコンデンサ素子14を密封して収納するためのコンデンサケース15と、このコンデンサケース15の上面を貫通し、金属化フィルムコンデンサ素子14と接続される端子16とからなるものである。
【0007】
この金属化フィルムコンデンサ素子14は、ポリプロピレンなどの誘電体フィルムと、この誘電体フィルムの片面に形成された蒸着金属膜とからなる金属化フィルム17を重ね合わせて巻回させ、誘電体フィルムを介して蒸着金属膜が対向することによりコンデンサが形成されたものである。
【0008】
そして、図6に示すように金属化フィルムコンデンサ素子14の巻芯部分18または外周部分19に吸着剤を配設することにより、この吸着剤でコンデンサケース15の内部に存在する水蒸気などのガスを吸着させるように構成している。
【0009】
また、別の従来技術として、同様の吸着剤を充填樹脂に含ませることが知られている(特許文献2参照)。
【0010】
すなわち、図7は吸着剤を充填樹脂に含ませた金属化フィルムコンデンサの断面模式図である。図7において、20は金属化フィルムコンデンサを示し、この金属化フィルムコンデンサ20は、金属化フィルムコンデンサ素子21と、この金属化フィルムコンデンサ素子21に接続された内部端子25と、この金属化フィルムコンデンサ素子21を収納するためのコンデンサケース22と、この金属化フィルムコンデンサ素子21を封止するための充填樹脂23と、コンデンサケース22を密封するための封口板24と、この封口板24を貫通し、内部端子25と接続するための外部端子26とからなるものである。
【0011】
そして、この充填樹脂23に吸着剤27を含ませることにより、この吸着剤27でコンデンサケース22の内部に存在する水蒸気などのガスを吸着させるように構成している。
【特許文献1】特開2002−353064号公報
【特許文献2】特開平1−93108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記従来の金属化フィルムコンデンサでは、コンデンサ内部に存在するガスを吸着剤が吸着するとともに、さらにコンデンサケースを透過して内部に侵入するガスや、コンデンサケースと封口板との隙間から侵入するガスも吸着してしまうため、短期間で吸着剤の細孔が吸着されたガスで満たされてしまい、吸着能力の限界に達してそれ以上のガスが吸着できなくなるものであった。そして、吸着できなかったガスが時間の経過とともにコンデンサ素子内に侵入することにより、コンデンサの特性を低下させてしまい、長期間にわたってコンデンサの特性を維持しつづけることが困難であった。
【0013】
なお、この外部からのガスの侵入を抑えるために、金属製のコンデンサケースを用いることが考えられるが、コンデンサケースを金属製にすると、ガスバリア性および密封性を高めることができるが、コストが高く、また、重いため軽量化が困難になるという課題を有していた。
【0014】
また、吸着剤の吸着能力を回復させるために、ガスが吸着された吸着剤を加熱することにより脱離(脱着)させることが考えられるが、通常コンデンサケースは密封されているため、加熱によりガスが脱離したとしてもコンデンサケースの外部に放出できないため、再び吸着剤に吸着されてしまうものであった。
【0015】
さらに、吸着剤を加熱したとしても、密封されたコンデンサケースの内部においては、脱離されたガスによりコンデンサケース内の圧力が増加して、コンデンサが変形することや、脱離されたガスが金属化フィルムコンデンサ素子に侵入して、コンデンサの特性を低下させることがあるため、吸着されたガスが脱離されるような高温での使用が困難になるという課題も有していた。
【0016】
本発明は、非常に簡単な構成により上記課題を解決して、信頼性を向上させるとともに、長寿命化させることが可能な金属化フィルムコンデンサを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために本発明は、金属化フィルムコンデンサ素子と、前記金属化フィルムコンデンサ素子を収納するとともに開口部を有するコンデンサケースと、前記コンデンサケースに収納された前記金属化フィルムコンデンサ素子を封止するための充填樹脂とからなり、前記充填樹脂に吸着剤を含有させるとともに、前記吸着剤に吸着されたガスが前記コンデンサケースの外部からの熱により脱離して、前記コンデンサケースの開口部から放出される金属化フィルムコンデンサとするものである。
【発明の効果】
【0018】
以上のように本発明による金属化フィルムコンデンサは、吸着剤にガスが吸着しても、コンデンサケースの外部から熱を加えることで、この吸着剤に吸着されたガスを脱離させてコンデンサケースの外部に放出することができ、そのため、吸着剤がコンデンサの外部から侵入する新たなガスを吸着することができるようになる。これにより、吸着剤の吸着能力を常に回復させることができるため、信頼性を向上させるとともに、長寿命化させることが可能な金属化フィルムコンデンサを実現できるという効果が得られるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、実施の形態を用いて、本発明に記載の発明について説明する。
【0020】
(実施の形態1)
図1は、本発明の一実施の形態による金属化フィルムコンデンサの概略構成を示した断面模式図である。図1において、1は金属化フィルムコンデンサを示し、この金属化フィルムコンデンサ1は、金属化フィルムコンデンサ素子2と、この金属化フィルムコンデンサ素子2を収納するコンデンサケース3と、このコンデンサケース3に収納された金属化フィルムコンデンサ素子2を封止するための充填樹脂4と、この充填樹脂4に含有されている吸着剤5とから形成されている。
【0021】
なお、このコンデンサケース3の材質としてはポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと称する)などのポリマーが用いられている。また、コンデンサケース3は金属化フィルムコンデンサ素子2が挿入される側に開口部を設けた有底筒状に形成されている。
【0022】
ここで、この金属化フィルムコンデンサ素子2について詳述すると、この金属化フィルムコンデンサ素子2は、ポリプロピレンなどからなる誘電体フィルムと、この誘電体フィルムの少なくとも片面に蒸着形成された蒸着金属膜とからなる金属化フィルムからなり、この金属化フィルムを重ね合せて巻回して、誘電体フィルムを介して蒸着金属膜を対向させて、コンデンサ部分を形成させたものである。
【0023】
そして、この金属化フィルムコンデンサ素子2には端子6の一端が接続されており、コンデンサケース3に収納された金属化フィルムコンデンサ素子2が充填樹脂4により封止され、この端子6の他端がコンデンサケース3の開口部から充填樹脂4を介して露出している。
【0024】
また、吸着剤5はシリカゲル、活性アルミナ、合成ゼオライト、活性炭や樹脂などからなり多数の細孔を有する、いわゆるポーラスな構造を有するものである。ガスはこの細孔に対して毛細管現象により物理的に結合する、または細孔表面に化学的に結合することにより吸着される。さらに、この吸着したガスは吸着剤5が加熱されると、結合が切断されることにより脱離されるものである。
【0025】
金属化フィルムコンデンサ1を具体的には次の通り作成した。
【0026】
ポリプロピレンからなる誘電体フィルムの片面に亜鉛を含有した金属を蒸着させて、蒸着金属膜が形成された金属化フィルムを形成した。
【0027】
次に、この金属化フィルムに端子6の一端を接続して、この端子6が接続された金属化フィルムを2枚重ね合せて巻回することにより、誘電体フィルムを介して蒸着金属膜が対向するコンデンサ部分を形成して、金属化フィルムコンデンサ素子2を形成した。
【0028】
そして、この金属化フィルムコンデンサ素子2が挿入される側に開口部が設けられるとともに、PPSからなるコンデンサケース3に金属化フィルムコンデンサ素子2を挿入して、端子6がコンデンサケース3の開口部から露出するように収納した。
【0029】
このコンデンサケース3に吸着剤5が含まれたエポキシ樹脂からなる充填樹脂4をコンデンサケース3の開口部まで注入し、この充填樹脂4を硬化させて、金属化フィルムコンデンサ素子2を封止することにより金属化フィルムコンデンサ1を得た。
【0030】
以上のように本実施の形態1の構成により、吸着剤5が金属化フィルムコンデンサ1の内部に存在するガスを吸着することに加えて、コンデンサ外部から侵入するガスを吸着して、吸着剤5が吸着能力の限界に達しても、コンデンサケース3の外部からの熱により吸着剤5に吸着されたガスが脱離することで、吸着剤5の吸着能力を回復させることができる。
【0031】
また、この脱離されたガスは、充填樹脂4へ溶け込み、充填樹脂4および吸着剤5を介して移動することで、金属化フィルムコンデンサ素子2へ侵入することなく、コンデンサケース3の開口部から外部へ放出させることができる。これにより、吸着剤5への再吸着を防ぐことができる。
【0032】
この吸着されたガスの脱離と放出が可能になることで、吸着剤が吸着能力を回復させて、コンデンサの外部から侵入する新たなガスを吸着することができるため、金属化フィルムコンデンサ1の信頼性のさらなる向上や長寿命化をさせることが可能になる。
【0033】
この本発明の特徴である吸着剤5に吸着されたガスが脱離されて、コンデンサケース3の開口部からガスが放出されることについて詳述する。
【0034】
まず、コンデンサケース3の外部から熱が加わり、吸着剤5が加熱されることにより、吸着剤5の細孔に吸着されたガスが細孔から脱離して、充填樹脂4にガスが溶け込む(浸透する)。このガスが脱離することで、吸着剤5は吸着可能な細孔が増えるため、吸着剤5の吸着能力が回復して、再びガスを吸着することが可能になる。
【0035】
この時、固体である充填樹脂4のガス溶解度(ガスが溶け込むことが可能な度合いを意味する)は低いため、吸着剤5から脱離されて充填樹脂4に溶け込まれるガスの量は制限されたものになる。また、脱離したガスは充填樹脂4に溶け込み、充填樹脂4の中を移動するため、移動速度は遅くなるものである。
【0036】
さらに、この脱離されたガスは、ガスの濃度が低く、拡散される方向に充填樹脂4の中を移動するものである。また、脱離されたガスが脱離した元の吸着剤5や、吸着可能な別の吸着剤5に吸着される場合もあるが、加熱されている間は再び脱離して、充填樹脂4に溶け込むものである。
【0037】
ここで、コンデンサケース3の開口部においては、脱離されたガスは、溶解度が高く開放されている外気に溶け込み、放出される。この外気の中ではガスは早く移動できるために、放出されるとともに速やかに拡散して、開放されているコンデンサケースの外部へ排出されてしまう。そのため、外気のガス濃度の変化は小さく、溶解度は高い状態を保つ。
【0038】
そして、ガスが放出されて、開口部にある充填樹脂4のガス濃度が下がることで、充填樹脂4に溶け込んだガスを開口部へ移動させるとともに、吸着剤5から徐々にガスを脱離させ、充填樹脂4に溶け込ませることができる。さらに、外気の溶解度が高いため、開口部に移動してきたガスを徐々に開口部から放出させることが可能になるものである。
【0039】
そして、この吸着剤5に対するガスの吸着と脱離は可逆的なものであり、外部から熱を加えるたびにガスがコンデンサケース3の開口部から放出されて吸着力が戻るため、長期間の高い信頼性を得ることが可能になる。
【0040】
なお、コンデンサケース3に開口部が設けられているが、この開口部からのガスの侵入については、固体である充填樹脂4のガスに対する溶解度は低いため、充填樹脂4に溶け込むガスは少なく、さらに、充填樹脂4の中でのガスの移動は遅く、金属化フィルムコンデンサ素子2にすぐに侵入できないことに加え、充填樹脂4に溶け込んでも吸着剤5にガスが吸着されるために、金属化フィルムコンデンサ素子2に侵入するガスは極めて少なく、金属化フィルムコンデンサ1の特性低下はほとんどないと考えられる。
【0041】
また、充填樹脂4に吸着剤5が含まれておらず、単純に吸着剤5をコンデンサ内部に配置した場合では、コンデンサケース3の外部からの熱により、吸着剤5から一度に空気中に脱離されて、コンデンサ内部に拡散されるので、金属化フィルムコンデンサ素子2の内部にガスが侵入してしまう恐れがあり、本発明の効果を得ることができない。
【0042】
さらに、従来のコンデンサ内部に吸着剤を用いた金属化フィルムコンデンサでは、外部からの加熱により、吸着されたガスを脱離させることは可能であるがコンデンサケースを密封させているため放出させることができず、再び吸着剤に吸着されるため、吸着剤の吸着能力を回復させるという本発明の効果を得ることができない。
【0043】
また、高い熱エネルギーを与えることでガスの脱離と放出を速やかに進行させて、吸着能力を向上させることができるが、金属化フィルムコンデンサ1の特性を低下させないために耐熱温度以下の熱で行うことが好ましい。
【0044】
特に、金属化フィルムコンデンサ1を車両のエンジンルーム近傍となる車両内部に配置することで、車両の断続的な動作に伴う車両内部からの熱をコンデンサケース3の外部からの熱として脱離−再吸着を繰り返し行うために利用することができ、他に特別に加熱手段を用意することなく長期間の高い信頼性を得ることができる。そのため、寿命が延びることで、部品の交換頻度を下げることができ、これにより、構造が複雑で部品交換が難しい車両内部に用いる電子部品として有用なものとなる。
【0045】
また、車両内部からの熱を利用するためにエンジンルーム近傍の車両内部に配置することはこの限りではなく、これ以外にも車両動作に伴う熱をコンデンサケース3の外部からの熱として吸着剤5からガスを脱離させることができる車両内部の箇所に配置するようにしても良い。
【0046】
なお、本実施の形態では金属化フィルムに端子を接続して重ね合せて巻回した金属化フィルムコンデンサ素子2を用いたが、金属化フィルムを積層して両端面に金属溶射により端子電極を形成して、この端子電極に端子を接合したものを用いてもよい。
【0047】
また、アルミニウムなどの金属からなるコンデンサケース3を用いれば、コンデンサの外部から侵入するガスが減り、信頼性を向上させることができるが、ポリマーからなるコンデンサケース3を用いることでコストを低下させるとともに、軽量化も可能になるという効果を得ることができる。
【0048】
また、コンデンサケース3に設けた開口部は、充填樹脂4から放出されるガスが外部に排出するためのものであり、ガスを外部に排出するための孔を有する封口板をコンデンサケース3の開口部に設けるようにしてもよく、この場合、封口板によりコンデンサケース3の開口部から内部にガスが侵入することを防ぐことができるという効果が得られる。
【0049】
さらに、このガスを外部に排出するための孔に一定の圧力により開放される調圧弁を設けるようにすれば、コンデンサケース3の開口部からのガス放出により、内部圧力が上昇したときのみ弁を開放して外部にガスを放出することができ、それ以外では弁が閉じられるため、より外部からのガスの侵入を防ぐことができるようになる。
【0050】
また、吸着剤5の細孔内部を含む表面積と体積との比で表される比表面積が大きいほど、吸着能力が増して信頼性を向上させるため、吸着剤5の体積が小さいものを用いるとよい。
【0051】
さらに、吸着剤5の細孔径と吸着特性との間に相関がある場合は、吸着目的に応じて吸着特性を調整するため、細孔径を調節するとよい。
【0052】
(実施の形態2)
次に実施の形態2について説明する。
【0053】
実施の形態2は実施の形態1での吸着剤5にシリカゲルを用い、この吸着剤5を充填樹脂4の中に分散させるとともに、金属化フィルムコンデンサ素子2の外周部に保護層を設け、さらに、この金属化フィルムコンデンサ素子2の両端に端子電極を形成し、この端子電極に端子を接続するように変更したところに特徴を有しており、その他の点は実施の形態1と同様の構成を有しているので、その説明は省略する。
【0054】
図2は実施の形態2での金属化フィルムコンデンサを示す断面概略図である。図2において、7は金属化フィルムコンデンサを示し、この金属化フィルムコンデンサ7は金属化フィルムコンデンサ素子2と、この金属化フィルムコンデンサ素子2を収納するコンデンサケース3と、このコンデンサケース3に収納された金属化フィルムコンデンサ素子2を封止するための充填樹脂4と、この充填樹脂4に含有されている吸着剤5とから形成されている。
【0055】
この吸着剤5は比重が充填樹脂4と同じ比重であり、充填樹脂4の中に均一に分散されており、また、その粒径が0.5mm以下のシリカゲル粉末からなるものである。なお、この吸着剤5の比重とは細孔を含む吸着剤5の体積から算出した見かけ比重のことである。
【0056】
また、金属化フィルムコンデンサ素子2の外周部には厚手のフィルムを巻回させることにより保護層8が形成されている。さらにこの保護層8が設けられた金属化フィルムコンデンサ素子2の両端には金属溶射により端子電極9が形成され、この端子電極9に端子6が接続されている。
【0057】
金属化フィルムコンデンサ7を具体的には次の通り作成した。
【0058】
ポリプロピレンからなる誘電体フィルムの片面に亜鉛を含有した金属を蒸着させて、蒸着金属膜を形成した金属化フィルムを形成して、この金属化フィルムを2枚重ね合せて巻回して金属化フィルムコンデンサ素子2を作成した。
【0059】
この金属化フィルムコンデンサ素子2の外周部に厚手のフィルムを巻回させることにより保護層8を形成した。さらにこの金属化フィルムコンデンサ素子2の両端に金属溶射により端子電極9を形成し、この端子電極9に端子6を接続した。
【0060】
次に、この金属化フィルムコンデンサ素子2をPPSからなるコンデンサケース3に収納して、シリカゲルからなる吸着剤5とエポキシ樹脂とが混合された充填樹脂4を用いて、金属化フィルムコンデンサ素子2を封止することで、金属化フィルムコンデンサ7を得た。
【0061】
以上のように本実施の形態2の構成により、充填樹脂4に吸着剤5が均一に分散されていることで、脱離されたガスが速やかに別の吸着剤5へ吸着されて移動することができ、これにより、ガスが金属化フィルムコンデンサ素子2へ移動することなく、コンデンサケース3の開口部から放出されることが可能になるものである。
【0062】
このことについて図3の部分拡大図を用いて詳述する。
【0063】
吸着剤5が充填樹脂4の中に均一に分散されているため、熱エネルギーを与えられることにより、コンデンサケース3の開口部近傍にある吸着剤5は、脱離されたガスが開口部から放出されるため、吸着可能な状態に戻り、コンデンサケース3の内部側にある別の吸着剤5から脱離されたガスを再吸着する。
【0064】
充填樹脂4に吸着剤5が均一に分散されることで、吸着剤5の間隔が揃うため、この吸着剤5の脱離−再吸着が図3に示すように、吸着剤5を介して連鎖的に発生させることができる。これにより、コンデンサケース3の内部側で吸着剤5に吸着されたガスが速やかに開口部へ移動して、放出されることが可能になるものである。
【0065】
また、金属化フィルムコンデンサ素子2の外周部に保護層8を設けたことで、ガスが吸着剤5から脱離されて、金属化フィルムコンデンサ素子2へ移動して保護層8と接触しても、保護層8がコンデンサ部分を形成していないため、コンデンサの特性低下を防ぐことができる。これにより、さらに信頼性を高めることができるものである。
【0066】
また、吸着剤5に室温付近での吸着性が高く、100℃前後での脱離性が高いシリカゲルを用いたことで、100℃前後となる耐熱温度以下の熱によるガスの脱離が可能になり、耐熱温度以上の熱が加わってコンデンサの特性を低下させることなく、効率よく吸着−脱離をさせることができるものである。
【0067】
特に、シリカゲルは水蒸気を選択的に吸着することができるため、金属化フィルムコンデンサ素子2に水分が浸入することを防ぐことができ、これにより、金属化フィルムコンデンサ7の耐湿性を向上させることが可能になるものである。
【0068】
また、金属化フィルムを巻回した金属化フィルムコンデンサ素子2の両端に金属溶射により端子電極9を設けたことで、金属化フィルムコンデンサ素子2の端面の隙間が埋められて、吸着剤5が金属化フィルムコンデンサ素子2の内部に侵入しないため、吸着剤5による金属化フィルム間での電界集中も起きないので耐電圧特性を向上させることもできるものである。
【0069】
また、充填樹脂4に用いた硬化させる前のエポキシ樹脂は粘性があり、液体内では移動が緩やかであるため、その比重を吸着剤5の見かけ比重と同じにすることで、単純にこの二つを混合するだけで、時間が経過しても変化の少ない均一な分散状態が得られるものである。
【0070】
さらに、充填樹脂4に吸着剤5を分散させるために、封止する前に混合して吸着剤5を分散させたが、充填樹脂4より比重の小さい吸着剤5をコンデンサケース3に投入した後、充填樹脂4を注ぐようにしてもよい。
【0071】
この場合、吸着剤5が浮遊するため、分散状態を目視で確認できることに加え、開口部まで吸着剤を浮遊させることで、開口部からガスが侵入することをより防止できるという効果が得られるものである。
【0072】
また、吸着剤5の比重が充填樹脂4より大きい場合でも、充填樹脂4をコンデンサケース3に注いだ後、吸着剤5を投入して沈降させることで、充填樹脂4に吸着剤5を分散させるようにしても良い。
【0073】
さらに、比重差が大きい場合は混合してから時間経過とともに分散に偏りが生じやすいので、混合した充填樹脂を速やかに硬化させたり、分散剤などを添加するなどして均一な分散状態を形成するようにするとよい。
【0074】
また、金属化フィルムコンデンサ素子2の外周部に厚手のフィルムを巻回させて保護層8を形成したが、この厚手のフィルムにガスバリア性を有するものを用いることで、さらにガスの侵入を防ぐことが可能になるものである。
【0075】
さらに、金属化フィルムと蒸着金属膜が形成されていないフィルムを重ね合せて巻回して、この蒸着金属膜が形成されていないフィルムを金属化フィルムの巻き終わりより一周以上長く巻回させるようにすれば、金属化フィルムコンデンサ素子2を形成すると同時に外周部に保護層8を容易に形成することが可能になるという効果が得られるものである。
【0076】
なお、吸着剤5が水蒸気以外のガス選択性を有し、金属化フィルムコンデンサ素子2を劣化させる塩素ガスなどの腐食性のガスを選択的に吸着させるようにすれば金属化フィルムコンデンサ7の信頼性を向上させることが可能になるものである。
【0077】
(実施の形態3)
次に実施の形態3について説明する。
【0078】
実施の形態3は実施の形態1で充填樹脂4に気体透過性を有するシリコーンゴムを用いるとともに、金属化フィルムコンデンサ素子2を包囲する充填樹脂皮膜を形成するように変更したところに特徴を有しており、その他の点は実施の形態1と同様の構成を有しているので、その説明は省略する。
【0079】
図4は実施の形態3での金属化フィルムコンデンサを示す断面概略図である。図4において、10は金属化フィルムコンデンサを示し、この金属化フィルムコンデンサ10は金属化フィルムコンデンサ素子2と、この金属化フィルムコンデンサ素子2を収納するコンデンサケース3と、このコンデンサケース3に収納された金属化フィルムコンデンサ素子2を封止するためのシリコーンゴムからなる充填樹脂12と、この充填樹脂12に含有されている吸着剤5とから形成されている。
【0080】
そして、この金属化フィルムコンデンサ素子2は金属化フィルムを巻回して形成されたものであり、その両端には金属溶射によりメタリコン11が形成され、このメタリコン11にはそれぞれ端子6が接続されている。
【0081】
金属化フィルムコンデンサ10を具体的には次の通り作成した。
【0082】
金属化フィルムを2枚重ね合せて巻回して、金属化フィルムコンデンサ素子2を形成し、この金属化フィルムコンデンサ素子2の両端に金属溶射によりメタリコン11を形成して、このメタリコン11に端子6を接続した。
【0083】
次に、この金属化フィルムコンデンサ素子2をPPSからなるコンデンサケース3に収納して、シリカゲルからなる吸着剤5とシリコーンゴムとが混合された充填樹脂12を用いて、金属化フィルムコンデンサ素子2を封止することで、金属化フィルムコンデンサ10を得た。
【0084】
本実施の形態では、充填樹脂12が気体透過性を有し、充填樹脂12に溶け込んだガスが移動しやすくなるため、コンデンサ外部からの熱により、吸着剤5に吸着されたガスを速やかにコンデンサケース3の開口部から放出させることが可能になる。これにより金属化フィルムコンデンサ10の信頼性をさらに向上させることができる。
【0085】
また、充填樹脂12に用いたシリコーンゴムは高い弾性を有しているため、金属化フィルムコンデンサ10に使用環境の温度変化が大きく加わり、コンデンサケース3や金属化フィルムコンデンサ素子2が膨張収縮しても、充填樹脂12がその応力を吸収することで、充填樹脂12にクラックが生じることを防ぐことができ、これにより、金属化フィルムコンデンサ10の信頼性を向上させることができる。
【0086】
さらに、単純に従来のコンデンサに気体透過性を有する充填樹脂を用いた場合は、ガスを放出できずに、移動しやすい充填樹脂にガスが溶け込んでコンデンサ内部に留まるため、金属化フィルムコンデンサ素子に侵入するガスが増加してしまい、かえってコンデンサの特性を低下させてしまうものである。このため、本発明特有の効果を得ることはできず、気体透過性の高い充填樹脂を用いることもできない。
【0087】
さらに、金属化フィルムコンデンサ素子2をメタリコン11が包囲することで、吸着剤5が金属化フィルムの隙間から金属化フィルムコンデンサ素子2の内部に侵入することを防ぐことができ、このため、吸着剤5による金属化フィルム間での電界集中も起きないので耐電圧特性を向上させることもできる。
【0088】
なお、このメタリコン11にエポキシ樹脂などの気体透過性が低くバリア性の高い樹脂を用いることで、充填樹脂12に溶け込んだガスが金属化フィルムコンデンサ素子2の内部に侵入することを防ぐことができる。
【0089】
(実施の形態4)
次に実施の形態4について説明する。
【0090】
実施の形態4は実施の形態1での吸着剤5を選択的に酸素を吸着するものに変更したところに特徴を有しており、その他の点は実施の形態1と同様の構成を有しているので、その説明は省略する。
【0091】
この吸着剤5はその細孔表面がオクチルアミンを用いて化学修飾されて酸素を選択的に吸着できるようにしたものである。
【0092】
本実施の形態では、吸着剤5が酸素を吸着しても、コンデンサケース外部3からの熱により吸着した酸素が脱離されて、コンデンサケース3の開口部から放出されることで、吸着剤5が新たな酸素を吸着することができ、これにより、金属化フィルムコンデンサ素子2内部への酸素の侵入を防ぎ、酸化によるフィルムの劣化や蒸着金属膜の消失を防ぐことができるため、金属化フィルムコンデンサ1の信頼性の向上や長寿命化させることが可能になる。
【0093】
特に、高温での酸化による特性低下を防ぐことができるため、高温での動作に対する耐熱性を向上させることが可能になるものである。
【0094】
また、吸着剤5の細孔表面を化学修飾することで酸素を選択的に吸着させる以外にも、細孔の孔径を酸素分子の分子径3オングストロームよりわずかに大きくしたものを用いてもよい。
【0095】
(比較例1)
次に比較例1について説明する。
【0096】
比較例1は実施の形態2での吸着剤5の粒径を3mmに変更したところに特徴を有しており、その他の点は実施の形態2と同様の構成を有しているので、その説明は省略する。
【0097】
吸着剤5の粒径が大きくなり、粒径が小さな吸着剤に比べて体積あたりの吸着面積が小さくなるために吸着能力が小さくなるものである。
【0098】
(比較例2)
比較例2は、従来の吸着剤を用いた金属化フィルムコンデンサとして、実施の形態2の端子6が挿通される孔を有する図示しない封口板をコンデンサケース3の開口部を設けるように変更したところに特徴を有しており、その他の点は実施の形態2と同様の構成を有しているので、その説明は省略する。
【0099】
この封口板はコンデンサケース3の開口部に設けられ、周縁部が絞り加工されるとともに、端子6が挿通される孔にパッキングを設けて、コンデンサケース3とともに金属化フィルムコンデンサ7を密封するものである。
【0100】
(比較例3)
比較例3は、従来の吸着剤を用いない金属化フィルムコンデンサとして、比較例2の吸着剤が含まれない充填樹脂4を用いるように変更したところに特徴を有しており、その他の点は実施の形態2と同様の構成を有しているので、その説明は省略する。
【0101】
上記の方法で作製した定格500V、400μFの金属化フィルムコンデンサの耐久性試験を行った。試験は、試験環境を湿度85%、温度85℃で100時間行った後、次に温度を100℃まで上げて100時間行われるサイクルが繰り返される熱サイクル条件下で、コンデンサに定格電圧を印加するものとして耐久性試験を行った。結果を(表1)に示す。
【0102】
【表1】

【0103】
試験の結果、比較例2は15サイクル通電後に破壊に至った。初期の容量減少が少なく、空気中の水分の浸入を吸着剤5が防ぐことで、蒸着金属膜の消失を防ぐことができたが、次第に吸着能力以上に水分が浸入したことにより、フィルムの劣化および蒸着金属膜の消失が発生したため、破壊に至ったと考えられる。
【0104】
また、比較例3は10サイクル通電後に破壊に至った。吸着剤がないために空気中の水分の浸入を吸着剤が防ぐことができず、次第に水分が浸入したことにより、フィルムの劣化および蒸着金属膜の消失が発生したため、破壊に至ったと考えられる。
【0105】
実施の形態2は100サイクル通電後に破壊に至った。コンデンサケースの外部からの熱により吸着されたガスが脱離して放出されたことで、吸着剤の吸着能力を回復することができ、そのため、より多くのガスが吸着され、コンデンサ内部への侵入を防ぐことができた。これにより、従来品の比較例より信頼性を向上させるとともに、寿命を延長させることができたと考えられる。
【0106】
また、比較例1は20サイクル通電後に破壊に至った。これは、吸着剤5の粒径が大きいために、比表面積が小さくなり、吸着するガスが少なくなったものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明による金属化フィルムコンデンサは、吸着剤がガスを吸着しても、この吸着剤に熱を加えることで吸着されたガスを脱離させて、コンデンサケースの外部に放出することができ、そのため、吸着剤が新たなガスを吸着することができるようになる。これにより、信頼性を向上させるとともに、長寿命化させることが可能な金属化フィルムコンデンサを実現できるという効果が得られ、電子機器用の金属化フィルムコンデンサとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の実施の形態1における金属化フィルムコンデンサの概略構成を示した断面模式図
【図2】同実施の形態2における金属化フィルムコンデンサの概略構成を示した断面模式図
【図3】同金属化フィルムコンデンサにおける吸着されたガスの脱離動作を示す部分拡大図
【図4】同実施の形態3における金属化フィルムコンデンサの概略構成を示した断面模式図
【図5】従来の金属化フィルムコンデンサの断面模式図
【図6】同金属化フィルムコンデンサ素子の斜視図
【図7】従来の金属化フィルムコンデンサの断面模式図
【符号の説明】
【0109】
1、7、10 金属化フィルムコンデンサ
2 金属化フィルムコンデンサ素子
3 コンデンサケース
4、12 充填樹脂
5 吸着剤
8 保護層
9 端子電極
11 メタリコン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体フィルムと、前記誘電体フィルムの少なくとも片面に蒸着形成された蒸着金属膜とからなる金属化フィルムと、前記金属化フィルムが積層、または重ね合せて巻回されることにより前記誘電体フィルムを介して前記蒸着金属膜が対向することでコンデンサ部分が形成される金属化フィルムコンデンサ素子と、前記金属化フィルムコンデンサ素子を収納するとともに開口部を有するコンデンサケースと、前記コンデンサケースに収納された前記金属化フィルムコンデンサ素子を封止するための充填樹脂とからなり、前記充填樹脂に吸着剤を含有させるとともに、前記吸着剤に吸着されたガスが前記コンデンサケースの外部からの熱により脱離して、前記コンデンサケースの開口部から放出されることを特徴とする金属化フィルムコンデンサ。
【請求項2】
前記吸着剤が前記充填樹脂の中に分散されている請求項1に記載の金属化フィルムコンデンサ。
【請求項3】
前記吸着剤の比重が前記充填樹脂の比重以下である請求項1に記載の金属化フィルムコンデンサ。
【請求項4】
前記吸着剤がガス選択性を有する請求項1に記載の金属化フィルムコンデンサ。
【請求項5】
前記吸着剤が水蒸気を選択的に吸着する請求項1に記載の金属化フィルムコンデンサ。
【請求項6】
前記吸着剤が酸素を選択的に吸着する請求項1に記載の金属化フィルムコンデンサ。
【請求項7】
前記吸着剤がシリカゲルからなる請求項1に記載の金属化フィルムコンデンサ。
【請求項8】
前記金属化フィルムコンデンサ素子の少なくとも最外層にフィルムからなる保護層が設けられた請求項1に記載の金属化フィルムコンデンサ。
【請求項9】
前記金属化フィルムコンデンサ素子が金属化フィルムを重ね合せて巻回して形成されるとともに、前記金属化フィルムコンデンサ素子の両端に金属溶射による端子電極が形成された請求項1に記載の金属化フィルムコンデンサ。
【請求項10】
前記充填樹脂が気体透過性を有する請求項1に記載の金属化フィルムコンデンサ。
【請求項11】
前記充填樹脂がシリコーンゴムからなる請求項1に記載の金属化フィルムコンデンサ。
【請求項12】
前記金属化フィルムコンデンサ素子を包囲する充填樹脂皮膜が設けられた請求項1に記載の金属化フィルムコンデンサ。
【請求項13】
前記コンデンサケースの外部からの熱が車両の動作に伴って発生する車両内部からの熱である請求項1に記載の金属化フィルムコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−91605(P2008−91605A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−270417(P2006−270417)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】