説明

金属微粒子およびその製造方法

【課題】 優れた耐食性を有する金属微粒子とその製造方法を提供する。
【解決手段】 Feを主成分としグラファイトで被覆された金属微粒子であって、含有窒素量が0.1〜5wt%であることを特徴とする。さらに、金属微粒子の製造方であって、酸化鉄粉末と炭素を含有する粉末とを混合し、混合後の粉末を非酸化性雰囲気中で熱処理して、Feを主成分としグラファイトで被覆された金属微粒子を得た後に、さらに前記金属微粒子に窒化処理を施すことによって前記金属微粒子を得ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気テープ、磁気記録ディスク等の磁気記録媒体や、電波吸収体、インダクタ(圧粉磁芯)、プリント基板等の電子デバイス、更には核酸抽出用磁気ビーズや医療用マイクロスフィア等の原材料に用いる磁性金属微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型軽量化に伴い、電子デバイスを構成する原材料自体もナノサイズ化が要求されている。同時にデバイスの高性能化も実現しなければならない。例えば磁気記録密度の向上を目的として、磁気テープに塗布する磁性粒子のナノサイズ化と磁化の向上が同時に要求される。
【0003】
ナノ磁性粒子の製法は、共沈法や水熱合成法などで代表される液相合成法が主流であった。上記液相法で得られるナノ磁性粒子はフェライトやマグネタイトなどの酸化物粒子であった。また最近では金属有機物質の熱分解を利用した手法がとられており、例えばFe(CO)からFeのナノ粒子を合成するものがある。
【0004】
金属の磁性粒子は酸化物に比べて磁化が大きいため、工業的利用への期待が大きい。例えば、金属Feはその飽和磁化が218A・m/kgと酸化鉄に比べて非常に大きく、磁場応答性に優れる、信号強度が大きくとれる、といったメリットがある。しかし金属Feなどの金属粒子は容易に酸化するため、特に100μm以下、さらには1μm以下の微粒子状にした場合は比表面積が極端に増大してしまい、粒子が大気中で激しく酸化して燃えてしまう、水溶液中で激しく酸化して変質してしまう、等の問題が生じ、結果として磁性が劣化してしまう。したがってFeを主体とする金属微粒子を乾燥粒子として取り扱うことが難しかった。そのためフェライトやマグネタイトなどの酸化物粒子がより広く利用されてきた。
【0005】
そこで、上記金属粒子を乾燥粒子として取り扱う際、金属としての機能を損なわせないためには、粒子を直接大気(酸素)に触れさせないように粒子表面に被膜を付与することが不可欠である。しかし、金属酸化物で表面を被覆する方法は、少なからず金属を酸化劣化させている(特許文献1)。
【0006】
これに対して、金属Fe粒子を化学的に不活性なグラファイトでコーティングする手法(非特許文献1)や、酸化鉄を還元して金属Feとなすと同時にグラファイトの被覆を形成する手法が報告されている(特許文献2)。
【0007】
【特許文献1】特開2000−30920号公報
【特許文献1】特開2004−124248号公報
【非特許文献1】「ダイヤモンド アンド リレイティッド マテリアルズ (Diamond & Related Materials)」vol.13,P.1270,2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
防食性や耐酸化性向上を目的に上述のような金属微粒子にグラファイトをコーティングする手法が考案されているが、金属微粒子を完全に被覆することは困難であるため、例えば磁気ビーズ用途のように高い耐食性が要求される用途に対しては、それのみでは耐食性は必ずしも満足いくものではなかった。特にグラファイトは2次元のグラフェンシートが積層した構造であるため、球状粒子を被覆する場合は格子欠陥の導入が不可避となり、被覆が不完全となる恐れがあった。例えば金属Fe粒子は大気中で容易に酸化するため、上記グラファイト被覆が不完全であると酸化による減磁率が大きくなるという問題があった。したがって、これらの欠陥が存在する被覆では、磁気ビーズ用途など高度の耐食性が要求される用途においては満足の行くものとは言えなかった。そこで、本発明は、耐食性がいっそう高い金属微粒子とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果本発明に至った。
【0010】
本発明の金属微粒子は、Feを主成分とし、グラファイトで被覆された金属微粒子であって、含有窒素量が0.1〜5wt%であることを特徴とする。グラファイト被覆を有するともに、含有窒素量を前記範囲とすることで、耐食性に優れる金属微粒子を提供することができる。Feを主成分とするとは、構成元素のうちFeの含有量が重量換算で最も多いことを意味する。
【0011】
また、前記金属微粒子において、含有酸素量が0.2wt%以下であることが好ましい。含有酸素量を前記範囲とすることによって飽和磁化等の磁気特性に優れる金属微粒子が実現できる。
【0012】
さらに、前記金属微粒子は、FeNおよびFeNのうち少なくとも1種を含むことが好ましい。含有する窒素がFeNおよびFeNのうち少なくとも1種の形で存在することによって、高飽和磁化、高耐食性が発揮される。
【0013】
さらに、前記金属微粒子は、大気中300℃で24時間加熱した場合における加熱後の飽和磁化が加熱前の飽和磁化の90%以上であることが好ましい。かかる特性を発揮する金属微粒子は、特に耐酸化性、耐食性に優れ、高い耐熱性や耐食性が要求される用途に好適に用いることができる。
【0014】
さらに、前記金属微粒子は、前記加熱後の飽和磁化が170Am/kg以上であることが好ましい。かかる特性を発揮する金属微粒子は、高い耐熱性や耐食性が要求される用途において、非常に高い飽和磁化を有することにより優れた磁気応答性を発揮しうる。また、グラファイトの加えてさらに被覆を設ける場合など、非磁性の被覆部分の割合が増えても全体としても高い飽和磁化を維持できる。例えば非磁性成分が略40wt%まで占めていても、酸化物磁性体であるマグネタイトの飽和磁化以上の飽和磁化を維持できる。より好ましくは、前記加熱後の飽和磁化は180Am/kg以上とすることで、非磁性成分が略50wt%まで占めていてもマグネタイトの飽和磁化以上の飽和磁化を維持できる。なお、飽和磁化の値は、試料振動型磁力計を用い、1.6MA/mの印加磁界で測定した値である。
【0015】
本発明の金属微粒子の製造方法は、酸化鉄粉末と炭素を含有する粉末とを混合し、混合後の粉末を非酸化性雰囲気中で熱処理して、Feを主成分としグラファイトで被覆された、金属微粒子を得た後に、前記金属微粒子に窒化処理を施すことを特徴とする。グラファイト被覆を形成した後に、窒化処理することによってグラファイト被覆の欠陥に起因する耐食性の劣化を効果的に抑えることができる。
【0016】
また、前記窒化処理は、アンモニアを含む雰囲気中における250〜500℃の温度範囲での熱処理であることが好ましい。アンモニアが窒化を促進するため、アンモニアを含む雰囲気が効果的である。熱処理温度が250℃未満であると窒化が十分に進行しなくなり、500℃を超えるとグラファイト被覆膜が破壊されて耐食性が著しく低下するため、250〜500℃が好ましい。より好ましくは300〜500℃である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた耐食性を有する磁性金属微粒子とその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の金属微粒子は、以下の製造方法により合成される。すなわち、酸化鉄粉末と炭素を含有する粉末とを混合し、混合後の粉末を非酸化性雰囲気中で熱処理して、Feを主成分としグラファイトで被覆された金属微粒子を得た後に、前記金属微粒子に窒化処理を施す。
【0019】
炭素を含有する粉末は、グラファイトやカーボンブラック、天然黒鉛等の炭素粉が適しているが、炭素を含む化合物であってもよい。すなわち石炭や活性炭、コークスや脂肪酸、ポリビニルアルコールなどの高分子、B−C化合物、金属を含む炭化物であってもよい。ただし、被膜の炭素純度を高くするためには、炭素粉を用いるとよい。酸化鉄粉末はFeやFe等を用いることができる。酸化鉄の粉末の平均粒径は0.001〜1μmが好ましい。平均粒径0.001μm未満の粉末は作製困難であり実用的でない。平均粒径が1μmを越えると粒の中心部まで十分に還元しにくくなる。また炭素を含有する粉末の平均粒径は0.01〜100μmが好ましく、さらには0.1〜と50μmが好ましい。0.1μm未満の平均粒径の炭素粉末は高価であり実用的でない。また、平均粒径が100μmを越えると混合粉末中での分散に偏りが生じ、最終的に金属粒子を均一に被覆することが困難になる。酸化鉄粉末と炭素を含有する粉末との混合比は、炭素を含有する粉末が重量比で25〜95%の範囲となることが好ましい。炭素を含有する粉末の重量比が25%未満であると炭素が不足することにより還元反応が不十分になりやすい。また炭素を含有する粉末の配合比が95%を越えると還元される金属の体積率が極端に小さくなり実用的ではない。
【0020】
酸化鉄粉末と炭素を含有する粉末の混合にはV型混合機や、粉砕機(例えば、ライカイ機のように粉砕と混合を兼ねる装置)や、乳鉢などを使用する。混合粉末は、例えばアルミナ、窒化ほう素、黒鉛等の耐熱ルツボに所定量を充填して所定の条件で加熱処理されて、Feを主成分とし、グラファイトで被覆された金属微粒子を得る。熱処理時の雰囲気は、非酸化性雰囲気とする。非酸化性雰囲気としては、例えば不活性ガスを用いることができるが、窒素ガスの他、窒素を主要成分として含んだアルゴンガス等の不活性ガスとの混合雰囲気なども用いることができる。熱処理温度は600℃〜1600℃が好ましく、さらに好ましくは900℃〜1400℃の範囲が好ましい。900℃未満では反応が完了するまでの所要時間が長くなる。また600℃未満では反応自体が進行しない。また非酸素雰囲気中で1400℃を越えると炉部材として使用している酸化物セラミックスの分解により酸素が放出されることが懸念されると同時に例えばアルミナ製ルツボが短期間で破損する場合がある。1600℃を越えるとルツボのみならず設備自体に耐熱部材の使用が不可欠になり、製造コスト高となり工業化に適しない。熱処理は管状芯を有する固定静止型電気炉、ロータリーキルンなどのように炉心管が熱処理時に動的に動く機能を有する電気炉、流動層などのように粉体自体が飛散された状態で熱を印加される機構を有する装置、微粒子を重力を利用して落下させる途上で高周波プラズマなど高エネルギーを印加させる手段を有する装置、などにより達成できる。いずれにしても、酸化鉄粒子が炭素還元されると同時に粒子表面でグラファイト層が生成し、最終的にグラファイトが金属Fe粒子を被覆する。出発原料の構成元素であるFeは、グラファイト層形成の触媒の役割を果たしていると考えられる。
【0021】
酸化鉄粉末と炭素を含有する粉末との混合粉末を非酸化性雰囲気中で熱処理して得られた、Feを主成分としグラファイトで被覆された金属微粒子に、本発明では、さらに窒化処理を施す。この処理によって、グラファイトの被覆形成後に、前記金属微粒子のFeを主成分とした金属核部分を窒化することができる。前記窒化処理は、アンモニアを含む雰囲気中において250〜500℃の温度範囲で行なうことが好ましい。アンモニアは窒化を促進する効果があり、アンモニアを含む雰囲気中において250〜500℃の温度範囲とすれば、上述の被覆形成のための熱処理と同様の単純な熱処理で窒化することができる。アンモニアを含む雰囲気は、アンモニア単体の他、アンモニア+水素、アンモニア+不活性ガス(Arなど)、アンモニア+窒素などでも良い。前記窒化処理によって、グラファイトで被覆された金属微粒子が部分的に窒化される。グラファイト被覆層の欠陥、あるいは被覆膜が付与されていない等、被覆が不完全な箇所が窒化される。例えば、該箇所からアンモニアガスが侵入し、Feを主成分とする金属核の部分を窒化する。特に、グラファイト被覆が不完全で、耐食性に劣る部分を集中的に窒化することができるのである。また、アンモニアを含む雰囲気での処理温度が250℃未満では窒化が十分進まず、一方500℃を超えるとグラファイト被覆膜が極端に破壊されて金属粒子の露出が顕著となり、耐食性が極端に低下するため、飽和磁化が低下する。グラファイト被覆層を維持しつつ、当該被覆を補完する目的で窒化するためには、より好ましくは、300〜500℃であり、該範囲では含有酸素量を0.14wt%以下に維持しつつ、窒化することが可能であり、飽和磁化も170Am/kg以上が実現可能である。
【0022】
上述の本発明によって、Feを主成分とし、窒化された、すなわち窒素を含有するグラファイト被覆金属微粒子が得られ、これが耐食性に特に優れることが新たに知見されたのである。すなわち、本発明の、Feを主成分としグラファイトで被覆された金属微粒子であって、含有窒素量が0.1〜5wt%である金属微粒子である。窒素を前記範囲で含有してFeの一部が窒化されていることによって、グラファイトで被覆された効果と相俟って特に優れた耐食性を発揮するのである。含有窒素量が0.1wt%未満であると実質的に耐食性向上の効果が発揮されず、5wt%を超えると飽和磁化の低下が顕著になる。また、Feを主成分とし、グラファイトで被覆した金属微粒子で5wt%を超えるものを実現しようとしても含有酸素量の増加、すなわち酸化劣化が顕著になる。より好ましくは、0.15〜4wt%である。含有される前記窒素は、金属微粒子を構成するFeを主成分とする核部分の内部よりも、グラファイト被覆の近傍すなわち、核の表面近傍に多く存在する濃度勾配を持つことが好ましい。特にグラファイトの被覆の欠陥部分近傍に多く存在することが、グラファイトの欠陥を補完して耐食性を向上する上で好ましい。そして、これらは、上述のグラファイト被覆形成後の窒化処理によって実現することができる。含有される窒素は、FeNおよびFeNのうち少なくとも1種の形で含まれることが好ましい。これらの形成により耐食性の向上に寄与し、同時に高い飽和磁化を維持する。FeN、FeNは金属Feと同等の磁化を有する軟磁性材料であり、その飽和磁化は前者が221Am/kg、後者が200Am/kgである。そのため金属粒子がFeを主体として上記窒化鉄を含んでいたとしても飽和磁化は殆ど低下せず、高飽和磁化の特長を維持できる。上記窒化鉄は金属Feよりも耐食性に優れており、たとえグラファイト被覆が不完全であっても、金属粒子は上記窒化鉄を含むことにより高い耐食性を発現することができるのである。
【0023】
本発明に係る金属微粒子は、鉄を主成分とするものであればよく、Fe単体の他、CoやNiなどの磁性金属元素、Feとの合金組織中のγ相生成を抑制しうるAl、Be、Cr、Ga、Mo、P、Sb、Si、Sn、Ti、V、W、Znなどの元素、その他の不可避不純物を含有したものでもよい。これらFe以外の元素を含有する場合は、それらの元素は、化合物粉の形で酸化鉄粉等と混合して熱処理を行なえばよい。
【0024】
鉄を主成分とし、グラファイトで被覆された本発明の金属微粒子のFeを主成分とする核の部分の粒径は、0.01〜5μmの範囲に入ることが好ましい。0.01μm未満であると超常磁性の発現により飽和磁化等磁気特性の低下を招くようになる。5μm超であると磁気デバイス用途に用いるには構成単位として大きすぎて好ましくない。また、核の部分の粒径が大きくなりすぎると、グラファイトや必要に応じてさらに施す他の被覆の形成が不十分になる場合がある。より好ましい範囲は0.01〜2μmである。また、グラファイトの被覆の厚さは1〜100nmが好ましい。1nm未満であるとグラファイト被覆の実質的な効果が十分に発揮されず、100nm超であると非磁性成分が多くなる。グラファイト被覆による耐食性、高飽和磁化の観点からは、より好ましくは5〜80nmである。グラファイト被覆された金属微粒子の平均粒径は、磁気特性や分散性等作業上の観点からは0.05〜5μmが好ましく、0.1〜2μmがより好ましい。被覆グラファイト被覆は、その六方晶のC面((002)面)が、Feを主成分とする金属核部分表面に平行になるように積層した形態である。なお、Feを主成分とする核の部分の粒径は、SEMによる反射電子像から直接的に測定することができる。該SEM像における最大直径をもって、該核部分の粒子径とすればよい。また、被覆の厚さは粒子を直接観察した透過電子顕微鏡(TEM)写真または断面が観察できるように加工した粒子のTEM写真から算出し、厚さが不均一な場合は、最大厚さと最小厚さの平均を被覆の厚さとすればよい。
【0025】
また、本発明の金属微粒子のグラファイト層の上にさらに別の被覆層を設けたりしてもよい。別の被覆層を設けた場合の全体の粒径は、その用途に応じて選定される。例えば、上述のようにしてFeを主成分としグラファイトで被覆された金属微粒子に窒化処理を施した後、さらに被覆層形成の工程を付加し、該被覆層の厚さを変えてもよい。生体物質抽出用の磁気ビーズ用途では、シリカ被覆を設けて平均粒径を0.1〜10μmとすることが分散性等の観点から好ましい。なお、被覆された金属微粒子の平均粒径は、レーザー回折による湿式粒径測定器で測定したd50の値を用いればよい。但し、粒径が100nm未満と小さい場合は、上述のFeを主成分とする核の部分の評価と同様の手法で、複数の粒子の平均値を取ればよい。
【0026】
また、本発明の金属微粒子の製造方法によれば、含有酸素量を0.2wt%以下としつつ、前記含有窒素量の窒化された金属微粒子を得ることが可能であり、含有酸素量が該範囲であることで、酸化劣化を抑えられ、高い飽和磁化が実現される。高い飽和磁化を得るためには含有酸素量はより好ましくは0.1wt%以下である。
【0027】
前記本願本願発明の金属微粒子はグラファイトで被覆を形成した上で窒素を含有しているため、グラファイトの欠陥が補われていることから、耐食性に優れる。このうち、特に
大気中300℃で24時間加熱した場合における加熱後の飽和磁化が加熱前の飽和磁化の90%以上であり、かつ前記加熱後の飽和磁化が100Am/kg以上の金属微粒子を採用することで、高耐食性が要求される磁気ビーズ用途や高温に晒される圧粉磁芯などの電子部品に好適な金属微粒子を提供することができる。前記加熱条件でも90%以上の飽和磁化が維持されるものは、熱減磁しにくく、例えば100℃程度での耐熱性が要求される電子部品用途における使用にも耐えることができ、また、生体物質抽出用磁気ビーズ等の高耐食性用途にも耐えうる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明を説明する。ただし、これら実施例により本発明が必ずしも限定されるものではない。
【0029】
平均粒径0.03μmのα−Fe粉75gと平均粒径0.02μmのカーボンブラック粉25gとをV型混合機に投入して10時間混合した。この混合粉末をアルミナ製ボートに適量充填し、管状炉内に前記ボートを設置して流量2l/minの窒素ガス気流中で、室温から3℃/minの速度で昇温した後、1400℃で2時間保持して室温まで3℃/minの速度で炉冷した。得られた粉末に対してCuKα線を用いてX線回折を行い、その回折パターンからFeとグラファイトの生成を確認した(図3)。なお、図3では、グラファイトのピークはFeのピークに対して小さく視認しにくいため、図示していない。また、粉末のTEM写真を図4に示すが、Feを主成分とする金属核1の外側にグラファイト被覆2が形成されていることがわかる。図4では、核の粒径は0.3μm、グラファイト被覆の厚さは約70nmであった。処理後の試料5gをIPA50ml中で10分間超音波照射し、磁石で磁気分離する操作を50回繰り返した。該磁気分離後の粉末を、さらにアンモニアガス中、300〜500℃の範囲の所定温度で窒化のための熱処理を行なった(実施例1〜3)。得られた金属微粒子について、X線回折、磁気特性、含有酸素量、含有窒素量の評価を行なった。磁気特性は、VSM(試料振動型磁力計)を用いて1.6MA/mの印加磁界で測定した。また、含有酸素量、含有窒素量の測定は、金属中ガス分析装置(堀場製作所製EMGA−1300)にて行なった。なお、窒化処理をしていない状態のものを比較例1として示した。結果を表1に示す。なお、湿式のレーザー回折法(堀場製作所製LA−920を使用)で測定したd50は窒化処理の前後で変化はなく、1.6μmであった。
【0030】
含有窒素量が0.02wt%である窒化処理未実施の比較例1に対して、実施例1〜3では含有窒素量が増加しており、グラファイト被覆された金属微粒子が窒化されていることがわかる。アンモニア中、300〜500℃の温度範囲で処理した実施例1〜3の試料では、含有窒素量を0.1〜5wt%の範囲とすることが可能であることがわかる。具体的には、含有窒素量が0.15〜3.98wt%と、未処理のものに比較して含有窒素量が7〜20倍と大幅に増加している。未処理、すなわち窒素中熱処理だけでは、窒化は進行していないのに対して、アンモニアを含む雰囲気で、300〜500℃で処理することで窒化が促進されていることがわかる。また、グラファイトの被覆と酸化物の還元によるFeを主成分とする金属核の形成が同一工程で行なわれるため、含有酸素量も窒化のために加熱処理する前で0.07wt%、500℃までの加熱処理後でも0.14wt%以下と、含有酸素量はいずれも0.2wt%以下の低い値を示した。窒化の処理温度が300〜400℃の処理では、含有窒素量は0.15〜0.97wt%まで高められつつ、含有酸素量の増加は処理前に対して0.01wt%以下であり、その絶対値も0.1wt%以下の非常に低い値を維持している。また、実施例2および3の金属微粒子について、X線回折を行った結果を図1および図2に示すが、グラファイトとFeのピークの他にFeNとFeNのピークが確認された。窒化処理でFeN、FeNが形成されているため、窒化に伴う飽和磁化の低下も小さく、300〜400℃までの窒化処理では、飽和磁化の低下は処理未実施に対して10Am/kg以下であり、その絶対値は180Am/kg以上、300〜500℃までの窒化処理でも飽和磁化の低下は処理未実施に対して25Am/kg以下、その絶対値は170Am/kg以上であった。500℃での窒化処理では、窒化による影響の他、酸素量の増加によって飽和磁化の低下がやや大きくなっているものと推定される。
【0031】
【表1】

【0032】
表1の実施例1、2および比較例1の金属微粒子に対して、大気中100〜300℃で24時間加熱した場合における加熱前後の飽和磁化を評価した。なお、カルボニルFeに対して同様の評価を行なった結果を比較例2として示した。含有窒素量が0.1〜5wt%の範囲内に入る実施例1および2の金属微粒子では、大気中加熱による飽和磁化の減少率が小さいことがわかる。大気中300℃にて24時間加熱処理した後の飽和磁化の減少率は、実施例1および実施例2とも10%未満、すなわち加熱後の飽和磁化が加熱前の飽和磁化の90%以上であった。また、100℃での加熱では、飽和磁化の減少率は1%未満すなわち加熱後の飽和磁化が加熱前の飽和磁化の99%以上であり、飽和磁化の低下がほとんどないことがわかる。これは、使用環境が100℃程度の用途に対しても、本発明の金属微粒子が好適に用いられることを示す。これに対して、窒化処理していない比較例1、グラファイト被覆もない比較例2では、前記条件の加熱による飽和磁化の減少率は11%以上となり、飽和磁化の減少が顕著になった。これらの結果から、窒化処理して、本発明の範囲の窒素を含有し、Feを主成分とし、グラファイトで被覆された金属微粒子が、耐酸化性、耐食性に特に優れることがわかる。
【0033】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例2の金属微粒子のX線回折パターンを示す図である。
【図2】実施例3の金属微粒子のX線回折パターンを示す図である。
【図3】酸化鉄粉末と炭素を含有する粉末との混合粉を非酸化性雰囲気中で熱処理した後(窒化処理前)の試料粉末のX線回折パターンを示すグラフである。
【図4】酸化鉄粉末と炭素を含有する粉末との混合粉を非酸化性雰囲気中で熱処理した後(窒化処理前)の試料粉末のTEM像である。
【符号の説明】
【0035】
1:金属核 2:グラファイト被覆

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feを主成分としグラファイトで被覆された金属微粒子であって、含有窒素量が0.1〜5wt%であることを特徴とする金属微粒子。
【請求項2】
含有酸素量が0.2wt%以下であることを特徴とする請求項1に記載の金属微粒子。
【請求項3】
FeNおよびFeNのうち少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の金属微粒子。
【請求項4】
大気中300℃で24時間加熱した場合における加熱後の飽和磁化が加熱前の飽和磁化の90%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属微粒子。
【請求項5】
前記加熱後の飽和磁化が170Am/kg以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の金属微粒子。
【請求項6】
酸化鉄粉末と炭素を含有する粉末とを混合し、混合後の粉末を非酸化性雰囲気中で熱処理して、Feを主成分としグラファイトで被覆された金属微粒子を得た後に、前記金属微粒子に窒化処理を施す金属微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記窒化処理は、アンモニアを含む雰囲気中における250〜500℃の温度範囲での熱処理であることを特徴とする請求項6に記載の金属微粒子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−46074(P2007−46074A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−228993(P2005−228993)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】