説明

金属板被覆用ポリエステル系フィルム、ポリエステル系フィルム被覆金属板、及びポリエステル系フィルム被覆金属容器

【課題】
金属板被覆用ポリエステル系フィルムにおいて、ロールに巻き取ったフィルムがブロッキングすることなく、印刷したフィルムを金属板に被覆し、製缶しても金属光沢感を損なうことがなく、また、インキや接着剤とフィルムの間でデラミネーションすることなく、印刷ピッチずれ等のトラブルが起こらず、更に、高温で短時間のレトルト処理を可能ならしめることを課題とする。
【解決手段】
エチレンテレフタレートの組成比が80モル%以上のポリエステル系樹脂を原料とするポリエステル系フィルムであって、該ポリエステル系フィルムの190℃での縦方向の熱収縮率が5%以下、横方向の熱収縮率が2%以下であり、滑剤の含有量が0.03〜0.2重量%、ヘイズが2.0%以下であり、該ポリエステル系フィルムの少なくとも片面が、主として水可溶性のポリエステルポリウレタンを含む組成物からなる塗膜で被覆されてなることを特徴とする金属板被覆用ポリエステル系フィルム。
なし。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に金属缶の胴外面用であり、清涼飲料、ビール、缶詰等の食料品用金属容器の腐食防止等の目的で缶の外面に被覆されるものであり、主に金属板地の光沢感を要求される用途に用いられる高透明性の金属板被覆用ポリエステル系フィルムに関し、該ポリエステル系フィルムを金属板に被覆したポリエステル系フィルム被覆金属板、及び該ポリエステル系フィルム被覆金属板を成形してなるポリエステル系フィルム被覆金属容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、食料品用金属缶の内面および外面の腐食防止のための方法として、熱可塑性樹脂フィルムを被覆する方法が実施されている。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系フィルムや、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系フィルムを、加熱したティンフリースチール等の金属板に被覆し、該フィルム被覆金属板を金属缶に利用するというものである。
【0003】
しかし、熱可塑性樹脂フィルムのうち、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン系フィルムを用いた場合は、耐熱性に劣るため製缶工程での熱履歴や、製缶後におけるレトルト処理等の熱履歴を受けた場合、フィルム被覆金属板からフィルムが剥離するという問題が発生することがある。
【0004】
一方、熱可塑性樹脂フィルムとして、ポリエステル系フィルムを用いる方法は、上記ポリオレフィン系フィルムが有する問題点が改良されるので、より好ましい方法である。
【0005】
上記ポリエステル系フィルムは、フィルムを巻いてロールとしたとき、ブロッキング(blocking;固着現象)を起こしやすいという欠点があり、一般的にブロッキング防止の為に、フィルム中に滑剤を添加している。しかし、フィルム中の滑剤が必要以上に加えられている場合、その滑剤が原因で透明性を阻害したり、滑剤自体が異物の発生原因になったりする場合がある。
【0006】
デザイン面での要求等で飲料缶自体に金属光沢感を持たせることが要求される場合、一般的に使用されている金属板被覆用フィルムに印刷を施し、金属板に貼り合わせても金属光沢感が不足する為、結局、金属板に直接印刷してクリアーコートを施し、フィルム表面の一部分の印刷を抜いて金属板表面の印刷を見せることで金属光沢感を出しているのが現状である。
【0007】
また、ポリエステル系フィルムにおいては、フィルムと接着剤、フィルムとインキとの界面でデラミネーション(delamination;層間剥離現象)が発生し、問題になる場合がある。特に高温のレトルト処理を施すとフィルムと接着剤、フィルムとインキとの界面でデラミネーションが発生し易く、高温で短時間でのレトルト処理ができないため、やむを得ず低温で長時間のレトルト処理を実施しているのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は従来技術の課題を背景になされたもので、金属板被覆用ポリエステル系フィルムにおいて、ロールに巻き取ったフィルムがブロッキングすることなく、印刷したフィルムを金属板に被覆し、製缶しても金属光沢感を損なうことがなく、また、インキや接着剤とフィルムの間でデラミネーションすることなく、印刷ピッチずれ等のトラブルが起こらず、更に、高温で短時間のレトルト処理を可能ならしめることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
(1)エチレンテレフタレートの組成比が80モル%以上のポリエステル系樹脂を原料とするポリエステル系フィルムであって、該ポリエステル系フィルムの190℃での縦方向の熱収縮率が5%以下、横方向の熱収縮率が2%以下であり、滑剤の含有量が0.03〜0.2重量%、ヘイズが2.0%以下であり、該ポリエステル系フィルムの少なくとも片面が、主として水可溶性のポリエステルポリウレタンを含む組成物からなる塗膜で被覆されてなることを特徴とする金属板被覆用ポリエステル系フィルム、
(2)(1)記載のポリエステル系フィルムを、上記塗膜で被覆されてなる面を金属板の少なくとも片面に被覆してなるポリエステル系フィルム被覆金属板であって、該ポリエステル系フィルム被覆金属板のフィルム面側の光線反射率が、450nm、550nm及び700nmの波長においてそれぞれ70%以上であることを特徴とするポリエステル系フィルム被覆金属板、
(3)(2)記載のポリエステル系フィルム被覆金属板を成形してなるポリエステル系フィルム被覆金属容器、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明による金属板被覆用ポリエステル系フィルムは、接着性や透明性、耐熱性に優れるフィルムであり、金属光沢感を要求される金属缶の外面用のフィルムとして使用した場合、より美麗な金属容器にすることができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリエステル系フィルムは、単層フィルム、或いは積層フィルムであってもよい。
【0012】
本発明におけるポリエステル系フィルムの原料として使用されるポリエステル系樹脂は、エチレンテレフタレートが主体のポリエステル系樹脂である。エチレンテレフタレートが主体とは、本発明においては少なくともエチレンテレフタレートの組成比が80モル%以上の割合で構成されることをいう。エチレンテレフタレート成分が上記に示す範囲で構成される場合、金属板被覆用フィルムとして耐熱性に問題が生じることはほとんどない。エチレンテレフタレート成分が80モル%未満である場合、耐熱性に劣り、高温の熱処理を行った後の工程で白化やデラミネーション等のトラブルが生ずる場合がある。
【0013】
本発明において使用されるポリエステル系樹脂には、本発明の要旨を逸脱しない範囲でエチレンテレフタレート以外の成分を共重合もしくは、それらの成分からなるポリエステル系樹脂を添加してもよい。例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等や、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ドデカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノール等の脂環族ジオール;ビスフェノール誘導体のエチレンオキシド付加体等の芳香族ジオール類等を共重合もしくは、これらの成分からなるポリエステル系樹脂を添加してもよい。これらの成分の配合量は、上記エチレンテレフタレートの組成比80モル%以上を確保するため、20モル%以下であることが必要である。
【0014】
本発明において使用されるポリエステル系樹脂の融点は、好ましくは240〜260℃であり、より好ましくは245〜258℃である。融点が240℃未満であると耐熱性が不十分になるので好ましくない場合が多い。また、融点が260℃を超えると製造費用が嵩み、経済的に不利になるため、好ましくない場合が多い。
【0015】
また、本発明において使用されるポリエステル系樹脂の極限粘度(IV)は、0.5〜0.8の範囲であることが好ましい。極限粘度(IV)が0.5未満であるとオリゴマーが析出し易く好ましくない。また、極限粘度(IV)が0.8を超えると製造費用が嵩み、経済的に不利になるからである。
【0016】
本発明において使用されるポリエステル系樹脂には、滑剤を含有させることが必要である。前述したように、ポリエステル系フィルムは、フィルムを巻いてロールとしたとき、ブロッキングを起こしやすいという欠点があり、このブロッキング防止の為に、原料として使用されるポリエステル系樹脂中に滑剤を添加するのが一般的である。
【0017】
上記滑剤の含有量は、ポリエステル系樹脂の全量に対して0.03〜0.2重量%であることが必要で、好ましくは0.05〜0.1重量%である。0.03重量%未満であるとフィルムの耐ブロッキング等の滑り性が劣り、フィルムに疵がつき易くなるからであり、0.2重量%を越えるとフィルムの透明性が低下し、該フィルムを金属板に被覆した場合、金属光沢感が劣るからである。金属光沢感を維持するには、後述するフィルムのヘイズを2%以下に抑える必要があり、ヘイズを2%以下に抑えるには滑剤の含有量を0.2重量%以下とすることが必要である。ここで、滑剤としては、シリカ、アルミナ、カオリン、クレー、酸化チタン、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、フッ化リチウム、硫酸バリウム、カーボンブラック等の不活性無機粒子が好ましい。特に、シリカが滑剤として好ましい。滑剤の平均粒径は、1〜3μmが好ましい。1μm未満では耐ブロッキング等の滑り性が劣るからであり、逆に3μmを越えると、滑剤の脱落が起こり易くなり、金属板被覆時にフィルム破断が起こる場合があるからである。
【0018】
上記滑剤のポリエステル系樹脂への配合は、ポリエステル系樹脂の製造工程で行ってもよいし、ポリエステル系樹脂に上記成分を加えて溶融混練してもよい。また、上記成分を高濃度に含むポリエステル系樹脂を製造し、これをマスターバッチとして、上記成分を含まないか、または少量含むポリエステル系樹脂と共に溶融混練することも可能である。
【0019】
また、本発明におけるポリエステル系樹脂は、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、顔料、帯電防止剤、潤滑剤、結晶核剤等を含有することができる。
【0020】
本発明のポリエステル系フィルムの製造方法としては特に限定されないが、例えば、使用されるポリエステル系樹脂原料を、残留する水分率が150ppm以下になるようにホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥し、押出機を用いて200〜300℃の温度でフィルム状に押し出す方法で製造することができる。あるいは、未乾燥のポリエステル系樹脂原料をベント式押出機内で水分を除去しながら同様にフィルム状に押し出す方法を採用してもよい。いずれの場合も残留する水分率が150ppmを超えると得られるフィルムの粘度が低下し、フィルム延伸時に破断等のトラブルが発生する為、好ましくない。押出しに際してはTダイ法、チューブラ法等、既存のどの方法を採用しても構わない。押出し後は、急冷して未延伸フィルムを得る。
【0021】
本発明のポリエステル系フィルムは、好ましくは上記未延伸フィルムを縦・横方向に延伸した二軸延伸フィルムである。ポリエステル系フィルムを二軸延伸することでバリアー性が増し、空気中の水分等を起因とする金属の錆を防止することができる。二軸延伸する方法としては、特に限定されないが、逐次二軸延伸法を使用する方が製造可能な厚みの範囲が広くなり好ましい。この場合、縦方向の延伸倍率としては、好ましくは2〜5倍、より好ましくは2.5〜4倍であり、延伸温度としては、好ましくは100〜150℃、より好ましくは110〜140℃である。横方向の延伸倍率としては、好ましくは2〜5倍、より好ましくは2.5〜4倍であり、延伸温度としては、好ましくは120〜160℃、より好ましくは125〜150℃である。
【0022】
上記ポリエステル系フィルムの二軸延伸による残留収縮応力は、熱固定法等によって低減または除去されていることが好ましい。そうすることによって製缶工程等での熱履歴による寸法変化を低減させることができるからである。当該フィルムの二軸延伸による残留収縮応力の低減または除去は、好ましくは当該フィルムの融点より10〜30℃低い温度以下、より好ましくは、フィルムの融点より20〜30℃低い温度以下の温度条件で熱固定することである。
【0023】
本発明のポリエステル系フィルムの厚みは、5〜25μmの範囲であることが好ましい。厚みが5μm未満であるとバリアー性に劣り、耐腐食性が悪くなる恐れがあるからであり、一方上記フィルムの厚みが25μmを超えると製造する為の費用が嵩み、経済的に不利になるからである。
【0024】
本発明のポリエステル系フィルムは、接着性の点から、詳細にはポリエステル系フィルムと接着剤との接着性、及びポリエステル系フィルムと印刷インキとの密着性の点から、少なくとも片面が、主として水可溶性のポリエステルポリウレタンを含む組成物からなる塗膜で被覆されてなることが必要である。特にレトルト処理後の密着性の観点から、この塗膜は、水可溶性のポリエステルポリウレタン樹脂を含有する組成物であることが必要である。
【0025】
上記ポリエステルポリウレタン樹脂とは、主鎖中にエステル結合とウレタン結合を持つ樹脂である。
【0026】
前記ポリエステルポリウレタン樹脂において、主鎖中のウレタン結合はイソシアネート成分とポリオール成分との反応により形成される。イソシアネート成分としては、2,4−トリレンジイソシアネ−ト、2,6−トリレンジイソシアネ−ト、キシリレンジイソシアネ−ト、ジフェニルメタンジイソシアネ−ト、イソホロンジイソシアネ−ト、1,5−ナフタレンジイソシアネ−ト、ヘキサメチレンジイソシアネ−ト、水添化ジフェニルメタンジイソシアネ−トなどがあり、これらを単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を併用してもよい。ポリオール成分としては、例えばジオールとして、エチレングリコール、プロパンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、ビスフェノールA,ビスフェノールS等の芳香族グリコールなどがあり、これらを単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を併用してもよい。
【0027】
前記ポリエステルポリウレタン樹脂において、主鎖中のエステル結合は、ジカルボン酸成分とジオール成分の反応により形成される。ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、その他オキシカルボン酸、脂環族ジカルボン酸などがあり、これらを単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を併用してもよい。また、ジオール成分としては、上記のエチレングリコール、プロパンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、ビスフェノールA,ビスフェノールS等の芳香族グリコールなどがあり、これらを単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を併用してもよい。
【0028】
本発明のポリエステル系フィルムに用いるポリエステルポリウレタン樹脂は、上記したように水可溶性であることが性能上必要であり、取り扱い性の点からも水可溶性の形態で塗布することが好ましい。ポリエステルポリウレタン樹脂に水可溶性を付与するためには、例えば、ジオール成分の一部として、側鎖にスルホン酸基や、カルボキシル基などの親水基を持った化合物を共重合することが好ましい。親水基を持った化合物としては、具体的にはジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジヒドロキシフマル酸、2−スルホン酸ナトリウム−1,4ブタンジオール等を挙げることができる。
【0029】
本発明のポリエステル系フィルムは、前記したように、少なくとも片面が上記組成物からなる塗膜で被覆されてなることが必要である。該塗膜は、所謂コーティングにより塗布され、0.001μm〜1μmの厚みに制御されてなることが好ましい。塗膜厚みが0.001μm以下では、密着性が十分ではなく、印刷インキの界面でデラミネーションを起こしたりして好ましくないからであり、また、塗膜厚みが1μmを超えると過剰品質であり、経済的に好ましくないからである。このコーティング処理は、製膜中(インライン)の延伸膜でも、製膜後(オフライン)のフィルムに処理しても、どちらでも良い。
【0030】
本発明のポリエステル系フィルムは、フィルムを金属板に被覆した時の金属光沢感を得るために透明性の高いことが必要で、そのヘイズは、フィルムが上記ポリエステルポリウレタン樹脂の塗膜で被覆された状態で2%以下であることが必要である。ヘイズが2%を超えると、フィルムを金属板に被覆した時、フィルムを被覆していない金属板と比較すると明らかに金属光沢感が劣るから好ましくない。これは、フィルム中に含有される滑剤が、光を吸収、ないし拡散してしまうからである。
【0031】
本発明のポリエステル系フィルムは、金属板に被覆されてフィルム被覆金属板を形成した場合、充分な金属光沢感を得るために、後記する測定方法により測定される光線反射率、即ち、該フィルム被覆金属板のフィルム面側からの450nm、550nm、700nmの波長の光線反射率が70%以上を示すことが好ましいが、該光線反射率を70%以上にするには上記ヘイズが2%以下であることが必要である。
【0032】
本発明のポリエステル系フィルムは、190℃での縦方向の熱収縮率が5%以下、横方向の熱収縮率が2%以下であることが必要である。この範囲を外れた場合、例えば飲料缶の表面の傷付き防止の為に、後述するような高温で架橋するタイプの硬化耐熱層をポリエステル系フィルムに設けてから印刷すると、熱履歴による収縮が発生し、缶毎の印刷のピッチがずれるというトラブルの原因になり、好ましくない。
【0033】
上記ポリエステル系フィルムの190℃での縦方向の熱収縮率を5%以下、横方向の熱収縮率を2%以下にする方法としては、特に限定はされないが、例えば、上記ポリエステル系樹脂の成分としてブタンジオールを共重合させ、結晶化速度を高めることによって結晶化度の高いフィルムとして熱収縮を抑える方法や、該ポリエステル系フィルムが前述の二軸延伸フィルムである場合、前述のような温度条件で熱固定をして熱収縮を抑える方法、或いは該ポリエステル系フィルムが後述の延伸フィルムである場合、延伸後に緩和工程を設けることによって熱収縮を抑える方法等を挙げることができる。
【0034】
上記ポリエステル系フィルムには、少なくとも塗布面とは反対面に予め印刷インキ、または接着剤との密着性を上げるための濡れ性改善の処理を施しておくことが好ましい。例えば、コロナ放電処理を施すことにより、そのフィルム表面の表面張力を40mN/m以上に、より好ましくは45mN/m以上にすることである。
【0035】
本発明のポリエステル系フィルムを所謂グラビア印刷に用いる場合、当該フィルムのポリエステルポリウレタン樹脂塗膜の塗布面と反対側に、予め硬化耐熱層を設けることが好ましい。該硬化耐熱層は、製缶工程を始め各工程でのフィルムの傷付き防止や通板性を付与する役割を果たすものであり、また製缶時のシーム溶接や内容物封入後の熱処理やレトルト処理等にフィルムの軟化や白化現象を抑制する役割も果たすものである。
【0036】
上記硬化耐熱層に用いられる材料は硬化性樹脂であり、例えば、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、フェノキシ系樹脂、オキサゾリン系樹脂、及びそれらの各種変性樹脂等の種々の硬化反応性樹脂が使用される。これらの硬化反応性樹脂は単独でもよいし、2種以上併用しても良い。また、耐熱性に優れていることが要求されるので、融点もしくは分解温度が250℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがより好ましい。
【0037】
上記硬化反応性樹脂の硬化反応は、熱、光、又は電子線等による硬化反応であってもよいし、従来公知の低分子タイプの硬化剤を使用してもよい。低分子タイプの硬化剤としては、例えば、ヘキサメチロールメラミンおよびそのアルコキシ誘導体等のメラミン化合物、トリレンジイソシアネート等のイソシアネート等が挙げられる。
【0038】
上記硬化耐熱層の形成方法も特に限定されないが、硬化反応性樹脂を溶剤に溶解し、フィルムに塗布して乾燥・硬化を行う、いわゆる塗布法が好ましい実施態様である。
【0039】
上記硬化耐熱層の塗布量は、乾燥・硬化状態で0.3〜10g/m となるよう制御されるのが好ましい。より好ましくは0.3〜5g/m の範囲である。塗布量(乾燥・硬化状態)が0.3g/m 未満の場合、ポリエステル系フィルム表面の保護効果が不充分となる場合が多く、逆に10g/m を超える場合、被覆金属板の曲げ加工時に硬化耐熱層にクラックが生じ易くなる。
【0040】
本発明のポリエステル系フィルム被覆金属板は、ポリエステル系フィルムの前記ポリエステルポリウレタン樹脂塗膜の塗布面にグラビア印刷等の多色印刷インキ層を設けた後、該インキ層側に接着剤層を設け、該接着剤層を介してポリエステル系フィルムを金属板に被覆することで得ることができる。ポリエステル系フィルムを、接着剤層を介して金属板に被覆することでポリエステル系フィルムと金属板とを強固に密着させることができるため、熱履歴によるポリエステル系フィルムの寸法変化を低減させることができ、またバリアー性や耐食性をより優れたものにすることができる。
【0041】
上記接着剤を用いた被覆方法としては、例えば、部分硬化状態で接着剤層をフィルム上に形成しておき、金属板に被覆した状態で完全に硬化させるのが好ましく、硬化方法としては熱、光、又は電子線等を用いた方法が好ましい。上記方法において使用される接着剤は、例えば、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエステルポリウレタン系樹脂、イソシアネート系樹脂等あるいはこれらの各種変性樹脂等が挙げられる。又、従来公知の低分子タイプの硬化剤を併用してもよい。低分子タイプの硬化剤としては、例えば、ヘキサメチロールメラミンおよびそのアルコキシ誘導体等のメラミン化合物、トリレンジイソシアネート等のイソシアネート等が挙げられる。
【0042】
上記接着剤層の形成方法も特に限定されないが、接着剤樹脂を溶剤に溶解し、塗布する、いわゆる塗布法が好ましい実施態様である。
【0043】
上記接着剤層は、硬化後の厚さが0.5〜5μmとなるよう制御されるのが好ましい。より好ましくは1〜3μmの範囲である。硬化後の厚さが0.5μm未満の場合、ポリエステル系フィルムと金属板との接着力が不充分となる場合が多く、逆に硬化後の厚さが5μmを超える場合、製造費用が嵩むばかりでなく、曲げ加工等のストレスがかかる際にクラックが生じ易くなり好ましくない場合が多い。
【0044】
上記フィルム被覆金属板に用いられる金属板としては、特に限定されないが、金属光沢感の観点から、ティンフリースチールを用いることが特に好ましい。また、その厚さは、特に限定されないが、材料の費用や製缶加工速度等に代表される経済性、一方では材料強度の確保の点から、好ましくは100〜500μm、より好ましくは150〜400μmである。
【0045】
上記のようにして得られたポリエステル系フィルム被覆金属板は、金属光沢感を得るために、後記する測定方法により測定される光線反射率、即ち、該フィルム被覆金属板のフィルム面側からの450nm、550nm、700nmの波長の光線反射率が70%以上であることが好ましい。フィルム被覆金属板のフィルム面に金属光沢を得るためには可視スペクトルの全ての波長がフィルムを透過し、金属板表面で反射される必要があるが、上記光線反射率70%以上を得るために、前述したように、ヘイズが2%以下であることが必要である。可視スペクトルの全ての波長の中で、特に450nm、550nm、700nmの波長の光線反射率を70%以上とすることで、光の三原色である青と緑と赤の特有の吸収をバランス化でき、ポリエステル系フィルム被覆金属板のフィルム面において充分な金属光沢感を得ることができるようになる。
【0046】
上記のようにして得られたポリエステル系フィルム被覆金属板は、美粧されかつ表面の耐摩耗性に優れており、この被覆金属板をそのままの状態で様々のパネル材や美粧外板材等として使用できるばかりでなく、これを硬化耐熱層を外側として常法に従って所望の形状に製缶すると、極めて美麗で意匠性の高い金属容器を得ることができるので、例えば清涼飲料、ビール、缶詰の如き金属缶材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明の内容および効果を具体的に説明するが、本発明は、その要旨を逸脱しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
なお、実施例および比較例におけるフィルムの各特性の測定方法を以下に記載する。
【0049】
(1)極限粘度の測定方法
フェノール/テトラクロロエタンの混合溶媒(重量比で6/4)に、実施例1、比較例1の原材料としてのポリエステル系樹脂を濃度0.4g/dlとなるように溶解し、ウベローデ型粘度管を用いて温度30℃で測定した。
【0050】
(2)融点の測定方法
実施例1、比較例1の原材料としてのポリエステル系樹脂を300℃で5分間加熱溶融した後、液体窒素で急冷した。その10mgを試料とし、20℃/分の速度で昇温していった際に現れる結晶融解に基づく吸熱ピーク温度を株式会社島津製作所の示差走査型熱量計(DSC−60)で測定した。
【0051】
(3)水分率測定方法
乾燥過程を終了した直後の実施例1、比較例1のポリエステル系樹脂原料チップをそれぞれ容器にサンプリングし、水分率測定まで密封しておく。原料チップを約2g程度を秤量し、京都電子工業株式会社製の水分気化装置(ADP−351)付きカールフィッシャ水分計(MKC−210)を用いて、気化温度180℃で測定した。
【0052】
(4)ヘイズの測定方法
JIS K7105に示すところによるヘイズ(曇価)の測定方法により、実施例1、比較例1で得られたポリエステル系フィルムを、ポリエステルポリウレタン樹脂の塗膜で被覆された状態で測定した。
【0053】
(5)熱収縮率の測定法
JIS C−2318に基づいて、実施例1、比較例1で得られたポリエステル系フィルムの190℃、30分後の熱収縮率を測定した。測定方向は縦方向、横方向の2方向とした。
【0054】
(6)フィルムの濡れ性(表面張力)の測定方法
JIS K6768のポリエチレン及びポリプロピレンフィルムのぬれ試験方法に従って、実施例1、比較例1で得られたポリエステル系フィルムのコロナ放電処理面の表面張力を測定した。
【0055】
(7)グラビア印刷性(印刷鮮明性)評価
実施例1、比較例1で得られたポリエステル系フィルムのコロナ放電処理面にポリエステル樹脂/エポキシ樹脂/メラミン樹脂から構成されるコート液(MA310(商品名)、桜ノ宮化学株式会社製)でクリアーコートし、ポリエステルポリウレタン樹脂の塗膜面側に、多色のテストパターンのグラビア印刷を実施し、印刷抜けやインキ飛びの発生状況、印刷鮮明性を目視確認した。
○;問題なし
△;印刷鮮明性劣る
×;印刷抜け/インキ飛び発生
【0056】
(8)光線反射率
日立ハイテクノロジーズ製分光光度計(U−3310形分光光度計)を用いて、上記(7)と同様に得たフィルム被覆金属板をおおよそ40mm角に切出したサンプルを280〜780nmの間で光線反射率測定を行った。入射光強度に対する反射光強度を百分率で表した。
【0057】
(9)密着性評価
実施例1、比較例1で得られたポリエステル系フィルム被覆金属板を130mm×190mmの大きさに切り出し、フィルム被覆金属板を円筒成形した後、蓋加工をし、ポリエステル系フィルム被覆金属容器を得、その時点での蓋成形部分の状況と、125℃で30分間レトルト処理を実施した後の蓋成形部分の状況を評価した。
○:変化なし
×:成形部分でデラミネーション発生
【0058】
(10)金属光沢感
上記のポリエステル系フィルム被覆金属容器に、直射日光を当てた時の金属光沢感を以下の判断基準に従って評価した。
○:金属光沢感が充分あり
×:金属光沢感が劣る
【0059】
[実施例1]
(ポリエステル系フィルムの製造)
原料のポリエステル系樹脂として、極限粘度が0.62、融点が254℃のポリエチレンテレフタレート(RE553/ST553(何れも商品名)(東洋紡績株式会社製)を重量比25/75で混合したもの)を用い、その中に平均粒径1.5μmの凝集タイプのシリカ0.05重量%を含有するようにシリカの量を調整し、プレスしてチップ状に成形した。この原料チップをパドルドライヤーで乾燥させ、水分率を測定すると39ppmであった。乾燥した原料チップを285℃で押出し機で溶融させた。この溶融体をダイから、35℃の冷却ドラム上に押出し、無定形シートとした。その後、上記無定形シートを120℃で縦方向に3.3倍、130℃で横方向に4.0倍延伸し、235℃で熱固定して、厚さ12μmのポリエステル系フィルムを製造した。該フィルムに対して、水可溶性のポリエステルポリウレタン樹脂を含有する組成物として、塗布層の厚みが0.05μmとなるように調整した塗布液(ハイドランHW340(商品名)、大日本インキ化学工業株式会社製)をグラビアコーティング法にてコーティングし、235℃で乾燥した。同時に、塗布面とは反対側の面にコロナ放電処理を施した。得られたフィルムのヘイズ、190℃での熱収縮率(縦方向、および横方向)および表面張力を測定した所、それぞれ、1.8%、1.7%、0.3%、51mN/mであった。結果は表1に示した。
【0060】
また、得られたポリエステル系フィルムのコロナ放電処理面を、ポリエステル樹脂/エポキシ樹脂/メラミン樹脂から構成されるコート液(MA310(商品名)、桜ノ宮化学株式会社製)でクリアーコートし、ポリエステルポリウレタン樹脂塗膜面側に多色のテストパターンをグラビア印刷法にて印刷したところ、印刷抜け、インキ飛び等の問題は発生しなかった。又、印刷鮮明性も十分であった。結果は表1に示した。
【0061】
(フィルム被覆金属板の製造)
実施例1のポリエステル系フィルムの塗布液(ハイドランHW340)塗膜面(印刷面)に、接着剤として、線状飽和ポリエステルからなるポリエステル系接着剤(バイロン−300(商品名)、東洋紡績株式会社製)および硬化剤(コロネートL(商品名)、日本ポリウレタン工業株式会社製)の混合物(重量比:93/7)を硬化後の厚さが1.5μmとなるように塗布した。次いで、脱脂処理した厚さ190μmの金属板(ティンフリースチール、Lタイプブライト仕上げ、表面粗さ0.3〜0.5μm、新日本製鐵社製)を200℃に予熱しておき、該金属板と、上記ポリエステル系フィルムの接着剤層側の面とを合わせ、圧力を500N/cmとしたゴムロールとゴムロールとの間を、速度10m/分の条件で通過させ、次いで急水冷させてフィルム被覆金属板を得た。得られたフィルム被覆金属板のフィルム面側の450nm、550nm、700nmの波長の光線反射率は、それぞれ、78.2%、82.8%、95.1%であった。結果は表1に示した。
【0062】
(金属容器の製造)
得られたポリエステル系フィルム被覆金属板を用い、3ピース缶を製造した。缶の製造時、フィルムのデラミネーション等の問題は発生しなかった。また、125℃×30分間のレトルト処理を行っても、密着性評価は○であった。更に、得られた金属容器の金属光沢感を評価したところ、○であった。結果は表1に示した。
【0063】
[比較例1]
上記実施例1において、凝集タイプのシリカの含有量を0.25重量%にした以外は上記実施例1と同様にしてポリエステル系フィルムを製造した。なお、乾燥過程を終了した直後の原料チップの水分率は45ppmであった。
【0064】
上記比較例1のポリエステル系フィルムのヘイズ、190℃での熱収縮率(縦方向、および横方向)および表面張力は、それぞれ4.6%、1.8%、0.2%、51mN/mであった。又、多色テストパターンのグラビア印刷評価では、印刷抜け、インキ飛び等の問題は発生しなかったが、印刷鮮明性が劣るものであった。結果は表1に示した。
【0065】
上記ポリエステル系フィルムを実施例1と同様に金属板に被覆してポリエステル系フィルム被覆金属板を得、得られたポリエステル系フィルム被覆金属板のフィルム面側の450nm、550nm、700nmの波長の光線反射率を測定したところ、それぞれ、52.1%、68.6%、88.3%であった。結果は表1に示した。
【0066】
得られたポリエステル系フィルム被覆金属板を用い、3ピース缶を製造した。缶の製造時、フィルムのデラミネーション等の問題は発生しなかった。また、125℃×30分間のレトルト処理を行っても、密着性評価は○であった。更に、得られた金属容器の金属光沢感を評価したところ、×であった。結果は表1に示した。
【0067】
【表1】

注)ETP;エチレンテレフタレート
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の金属板被覆用ポリエステル系フィルムを使用することによって、インキや接着剤とフィルムの間でデラミネーションすることなく、印刷ピッチずれ等のトラブルが起こらず、飲料を高温、短時間でレトルト処理することが可能になり、更に、充分な金属光沢感を得られるフィルム被覆金属板で金属容器を製造することができるため、産業界に寄与すること大である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンテレフタレートの組成比が80モル%以上のポリエステル系樹脂を原料とするポリエステル系フィルムであって、該ポリエステル系フィルムの190℃での縦方向の熱収縮率が5%以下、横方向の熱収縮率が2%以下であり、滑剤の含有量が0.03〜0.2重量%、ヘイズが2.0%以下であり、該ポリエステル系フィルムの少なくとも片面が、主として水可溶性のポリエステルポリウレタンを含む組成物からなる塗膜で被覆されてなることを特徴とする金属板被覆用ポリエステル系フィルム。
【請求項2】
請求項1記載のポリエステル系フィルムを、上記塗膜で被覆されてなる面を金属板に相接して該金属板の少なくとも片面に被覆してなるポリエステル系フィルム被覆金属板であって、該ポリエステル系フィルム被覆金属板のフィルム面側の光線反射率が、450nm、550nm及び700nmの波長においてそれぞれ70%以上であることを特徴とするポリエステル系フィルム被覆金属板。
【請求項3】
請求項2記載のポリエステル系フィルム被覆金属板を成形してなるポリエステル系フィルム被覆金属容器。

【公開番号】特開2006−1033(P2006−1033A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−176928(P2004−176928)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】