説明

金属粉末

本発明は、被覆を形成させるための新機種類の金属粉末に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属支持体を熱溶射、例えばプラズマ溶射または高速フレーム溶射(HVOF)、フレーム溶射、アーク溶射、レーザー溶射または肉盛溶接(Auftragsschweissen)、例えばPTA法によって表面被覆するための新規種類の粉末混合物に関する。
【0002】
この種の粉末は、少なくとも1つの微粒状硬質物質粉末、例えばWC、Cr32、TiC1、B4C、TiCN、Mo2C1等、ならびに微粒状の金属または合金マトリックス粉末からなる。硬質物質粉末とマトリックス粉末とは、強力に、多くの場合に有機結合剤の存在下で場合によっては共通の粉砕下に混合され、噴霧され、乾燥され、篩別され、引続き有機結合剤の除去および焼結結合の形成のために水素含有雰囲気下で加熱され、したがって粒径10〜100μmの大きな凝集体が生じる。
【0003】
ドイツ連邦共和国特許出願公告第1446207号明細書B2の記載から、硬質物質として金属炭化物を含有しかつ金属としてアルミニウムおよびニッケル10〜45%を含有するフレーム溶射粉末は、公知である。
【0004】
マトリックス金属粉末として、殊にコバルト含有粉末およびニッケル含有粉末は、当該技術への入口であることが見い出された。。
【0005】
本発明の課題は、一面でコバルトの使用をさらに減少させることである。それというのも、コバルトは、遙かに周知された使用のために不足する原料になっているからである。
【0006】
本発明のもう1つの課題は、通常のCo−Cr−マトリックス合金と比較して比較可能な摩滅安定性および空洞化安定性または高められた摩滅安定性および空洞化安定性を有するコバルト貧有のサーメット被覆を提供することである。
【0007】
更に、本発明の改題は、サーメット被覆の耐蝕性を上昇させ、殊に被覆からのマトリックス金属の溶解性を減少させることである。
【0008】
本発明の対象は、少なくとも1つの硬質物質75〜90質量%および1つまたはそれ以上のマトリックス金属粉末10〜25質量%、ならびに変性剤3質量%までを含有するサーメット粉末であり、
この場合単数または複数のマトリックス金属粉末は、コバルト0〜38質量%、ニッケル0〜38質量%、アルミニウム0〜20質量%、鉄0〜90質量%およびクロム10〜35質量%を含有し、および
更に鉄およびクロムの含有量の総和は、10〜95質量%であり、コバルト、ニッケルおよび鉄の含有量の総和は、65〜95質量%である。
【0009】
この場合、好ましいのは、少なくとも1つの尿素粉末75〜90質量%および1つまたはそれ以上のマトリックス金属粉末10〜25質量%、ならびに変性剤3質量%までを含有するサーメット粉末であり、この場合単数または複数のマトリックス金属粉末は、コバルト38質量%まで、ニッケル38質量%まで、アルミニウム20質量%まで、鉄90質量%まで、有利に75質量%までおよびクロム20〜35質量%を含有し、および更に鉄およびクロムの含有量の総和は、25〜95質量%であり、コバルト、ニッケルおよび鉄の含有量の総和は、65〜95質量%、有利に65〜75質量%である。
【0010】
殊に好ましいのは、少なくとも1つの硬質物質粉末75〜90質量%および1つまたはそれ以上のマトリックス金属粉末10〜25質量%、ならびに変性剤3質量%までを含有する請求項1記載のサーメット粉末であり、
この場合1つまたはそれ以上のマトリックス金属粉末は、コバルト0〜38質量%、ニッケル0〜38質量%、アルミニウム0〜20質量%、鉄0〜75質量%およびクロム20〜35質量%を含有し、
さらに鉄およびクロムの含有量の総和は、25〜95質量%であり、コバルト、ニッケルおよび鉄の含有量は、65〜75質量%である。
【0011】
本発明のもう1つの実施態様は、少なくとも1つの硬質物質粉末75〜90質量%および1つまたはそれ以上のマトリックス金属粉末10〜25質量%、ならびに変性剤3質量%までを含有するサーメット粉末に関し、
この場合1つまたはそれ以上のマトリックス金属粉末は、コバルト0〜38質量%、ニッケル0〜38質量%、アルミニウム0〜20質量%、鉄30〜90質量%、有利に鉄30〜75質量%、およびクロム10〜35質量%を含有し、
さらに鉄およびクロムの含有量の総和は、10〜95質量、有利に60〜95質量であり、コバルト、ニッケルおよび鉄の含有量の総和は、65〜95質量である。
【0012】
好ましい本発明によるサーメット粉末は、マトリックス金属ニッケルおよびコバルトを少なくとも2:3の質量比、さらに有利に1:1の質量比、殊に有利に3:2の質量比で含有する。
【0013】
特に好ましい本発明によるサーメット粉末は、コバルト不含である。更に、好ましいサーメット粉末は、コバルト不含およびニッケル不含である。
【0014】
本発明によれば、さらに好ましい特にコバルト貧有またはコバルト不含のサーメット粉末は、少なくとも30質量%のマトリックス金属中の鉄の含量を有し、この場合1つまたはそれ以上のマトリックス粉末の鉄およびクロムの含量の総和は、少なくとも60質量%である。この種のサーメット粉末の場合、1つまたはそれ以上のマトリックス金属粉末は、
コバルト0〜10質量%、
ニッケル0〜38質量%、
アルミニウム0〜20質量%、
鉄30〜90質量%、有利に鉄30〜75質量%および
クロム10〜35質量%を含有する。
【0015】
本発明の殊にコバルト不含のサーメット粉末の場合、クロムおよlびアルミニウムの含量の総和と鉄、ニッケルおよびクロムの含量の総和との比は、質量部で特に1:2.2〜1:3.7、特に有利に1:2.7〜1:3.6である。1つの好ましい組成は、クロム20〜26質量%、鉄64〜72質量%およびアルミニウム5〜16質量%を有することができる。
【0016】
硬質物質粉末としては、サーメット被覆の通常の硬質物質成分、例えばWC,Cr32、VC、TiC、B4C、TiCN、SiC、TaC、NbC、Mo2Cおよびそれらの混合物がこれに該当する。好ましいのは、WCおよびCr32、殊にWCである
マトリックス粉末は、自体公知の方法で金属溶融液または合金溶融液、または部分合金溶融液を噴射することによって製造されうる。部分合金粉末または前合金化されていない金属粉末が使用される場合には、合金化は、サーメット粉末の使用中(例えば、噴霧塗布中)に行なわれる。
【0017】
好ましいコバルト部分合金化マトリックス粉末、ニッケル部分合金化マトリックス粉末および/または鉄部分合金化マトリックス粉末は、ドイツ連邦共和国特許出願公開第19822663号明細書A1または米国特許第6554885号明細書B1に記載された、相応する塩を過剰の蓚酸と反応させることによる化学的沈殿、乾燥および熱処理によって取得され、この場合クロムは、金属粉末として混入される。
【0018】
変性剤としては、殊に鋼基質精密加工元素(Stahlsubstrat-Veredelungselemente)、例えばMo、Nb、Si、W、Taおよび/またはVがこれに該当する。
【0019】
特に、マトリックス金属粉末またはマトリックス合金粉末は、許容可能な不純物を除いて他の成分を含有していない。
【0020】
また、本発明は、上記の組成を有するサーメットならびにこのようなサーメットで被覆された、形成された対象に関する。
【0021】
サーメット粉末を製造するために、場合によっては異なる平均粒度を有するが、しかし、好ましくはそれぞれ10μm未満の直径である、1つ以上の硬質物質粉末および1つ以上のマトリックス粉末ならびに変性剤は、自体公知の方法で有機結合剤の水溶液中に懸濁され、ボールミル、磨砕機または攪拌機中で均一化され、懸濁液は、噴霧乾燥器中で噴霧され、この場合水は、噴霧小液滴から蒸発する。生じる粉末凝集物は、分級化法(篩別、篩分け)により公称粒子(Nennkorn)に変換され、凝集物の有機結合剤は、約1300℃まで、殊に1100℃〜1300℃の温度での焼結によって水素含有雰囲気中に移される。生じる焼結ケーキは、精錬(破砕、微粉砕、篩別、篩分け)によって公称粒子ベルト中に返送される。
【0022】
本発明によるサーメットは、記載されたサーメット粉末を圧縮および焼結によって得ることができるか、或いは熱溶射、即ち熱溶射法、例えば高速火炎溶射、冷却ガス溶射、プラズマ溶射または類似の方法によって得ることができる。従って、本発明は、同様に、サーメットまたは上記組成を有する対象の製造方法に関し、この方法は、次の工程を有する:
熱溶射に適した、形または調剤の請求項1から11までのいずれか1項に記載の粉末の準備、
この粉末を用いての熱溶射の実施、
サーメットまたは対象の取得。
【0023】
従って、本発明は、同様に、サーメットまたは上記組成を有する対象の製造方法に関し、この方法は、次の工程を有する:
請求項1から11までのいずれか1項に記載の粉末の準備、
成形体を得るための加圧下での粉末の成形、
サーメットまたは対象を得るための生成形体の加熱。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、実施例1(図1a))、実施例2(図1b))および実施例3(図1c))からの粉末で製造された被覆の光学顕微鏡による組織撮影図を示す。
【図2】図2は、噴霧パラメーター"標準"(図2a))、"冷時および急速"(図2b))または"熱時および緩徐"(図2c))を有する実施例7からの粉末で形成された被覆の光学顕微鏡による組織撮影図を示す。
【実施例】
【0025】
実施例1〜7:
6.1質量%の炭素含量および0.05質量%の遊離炭素含量を有する、それぞれFSSSにより測定された0.9μmの粒度の炭化タングステン粉末を使用した。
【0026】
第1表中に記載された組成を有する実施例1〜5のマトリックス粉末1(第1表)をドイツ連邦共和国特許出願公開第19822663号明細書A1の実施例2の記載と同様に化学的沈殿によって製造した。粒度は、1.8〜2.6m2/gのBETによる比表面積の際にFSSS1.4〜2.2μmであった。実施例1〜3のマトリックス粉末2は、3.1μmの粒度D50の電気分解により得られた粉末である(レーザー回折)。
【0027】
実施例6および7のマトリックス金属粉末をFe、Crおよびあlからなる合金溶融液を噴霧することによって得た。粒度D90は、10.8または10.2μmであった(レーザー回折)。
【0028】
結合剤としてのポリビニルアルコール約1%(PVA、Shin-Etsu, GP05)および湿潤剤としてのNalco約0.5%(Deutsche Nalco GmbH)を有する水10 lからの受器中に、WCと第1表に記載された組成のマトリックス合金とからなるサーメット粉末約50kgを搬入し、ボールミルにより均質化し、均質化された懸濁液を市販の噴霧乾燥器中で噴霧し、水を噴霧小液滴から蒸発させる。こうして得られた凝集された粉末を熱処理に掛け、それによって結合を焼結結合に変える。こうして得られた焼結ケーキを、破砕、微粉砕、篩別および篩分けによって公称粒子ベルト中に移す。炭素含量、回折格子により測定された平均粒度、粒度分布およびサーメット粉末の嵩密度は、第1表中に記載されている。
【0029】
【表1】

【0030】
前記粉末を用いて、高速溶射(HVOFシステムDiamond Jet Hybrid 2600)によって建築鋼ST37上に被覆が形成された。
【0031】
第2表には、被覆の性質が記載されている。
【0032】
【表2】

【図1a)】

【図1b)】

【図1c)】

【図2a)】

【図2b)】

【図2c)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの硬質物質粉末75〜90質量%および1つまたはそれ以上のマトリックス金属粉末10〜25質量%、ならびに変性剤3質量%までを含有し、
この場合1つ以上のマトリックス金属粉末は、コバルト0〜38質量%、ニッケル0〜38質量%、アルミニウム0〜20質量%、鉄0〜90質量%およびクロム10〜35質量%を含有し、および
この場合さらに鉄およびクロムの含量の総和は、10〜95質量%であり、コバルト、ニッケルおよび鉄の含量の総和は、65〜95質量%である、サーメット粉末。
【請求項2】
少なくとも1つの硬質物質粉末75〜90質量%および1つまたはそれ以上のマトリックス金属粉末10〜25質量%、ならびに変性剤3質量%までを含有し、
この場合1つ以上のマトリックス金属粉末は、コバルト0〜38質量%、ニッケル0〜38質量%、アルミニウム0〜20質量%、鉄0〜75質量%およびクロム20〜35質量%を含有し、および
この場合さらに鉄およびクロムの含量の総和は、25〜95質量%であり、コバルト、ニッケルおよび鉄の含量の総和は、65〜75質量%である、請求項1記載のサーメット粉末。
【請求項3】
マトリックス金属粉末が鉄0〜75質量%を含有する、請求項1または2記載のサーメット粉末。
【請求項4】
コバルト、ニッケルおよび鉄の含量の総和は、65〜75質量%である、請求項1から3までのいずれか1項に記載のサーメット粉末。
【請求項5】
ニッケルおよびコバルトが1つ以上のマトリックス粉末中で少なくとも2:3の質量比で含有されている、請求項1から4までのいずれか1項に記載のサーメット粉末。
【請求項6】
1つ以上のマトリックス粉末がコバルト不含である、請求項1から5までのいずれか1項に記載のサーメット粉末。
【請求項7】
1つ以上のマトリックス粉末がコバルト不含およびニッケル不含である、請求項1から6までのいずれか1項に記載のサーメット粉末。
【請求項8】
1つ以上のマトリックス粉末中の鉄の含量が少なくとも30質量%である、請求項1から7までのいずれか1項に記載のサーメット粉末。
【請求項9】
1つ以上のマトリックス粉末中の鉄およびクロムの含量の総和が少なくとも60質量%である、請求項1から8までのいずれか1項に記載のサーメット粉末。
【請求項10】
クロムおよびアルミニウムの含量の総和と鉄、ニッケルおよびクロムの含量の総和との比が質量部で1:2.2〜1:3.7である、請求項1から9までのいずれか1項に記載のサーメット粉末。
【請求項11】
マトリックス粉末がクロム20〜26質量%、鉄64〜72質量%およびアルミニウム5〜16質量%の組成を有する、請求項1から10までのいずれか1項に記載のサーメット粉末。
【請求項12】
硬質物質粉末がWC、Cr32、VC、TiC、B4C、TiCN、SiC、TaC、NbC、Mo2Cおよびこれらの混合物からなる群から選択される粉末である、請求項1から11までのいずれか1項に記載のサーメット粉末。
【請求項13】
変性剤がMo、Nb、Si、W、Ta、Vおよびこれらの混合物からなる群から選択されている、請求項1から12までのいずれか1項に記載のサーメット粉末。
【請求項14】
熱溶射法による表面被覆のための請求項1から13までのいずれか1項に記載の粉末の使用。
【請求項15】
請求項1から13までのいずれか1項に記載の組成を有するサーメット。
【請求項16】
請求項15記載のサーメットを有する被覆を有する形成された物体。
【請求項17】
請求項15記載のサーメットまたは請求項16記載の物体の製造法において、次の工程:
熱溶射に適した、形または調剤の請求項1から11までのいずれか1項に記載の粉末の準備、
この粉末を用いての熱溶射の実施、
サーメットまたは対象の取得を有することを特徴とする、請求項15記載のサーメットまたは請求項16記載の物体の製造法。
【請求項18】
請求項15記載のサーメットまたは請求項16記載の物体の製造法において、次の工程:
請求項1から11までのいずれか1項に記載の粉末の準備、
生成形体を得るための加圧下での粉末の成形、
サーメットまたは対象を得るための生成形体の加熱を有することを特徴とする、請求項15記載のサーメットまたは請求項16記載の物体の製造法。

【公表番号】特表2010−504426(P2010−504426A)
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−528736(P2009−528736)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【国際出願番号】PCT/EP2007/060058
【国際公開番号】WO2008/034902
【国際公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(507239651)ハー.ツェー.スタルク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (59)
【氏名又は名称原語表記】H.C. Starck GmbH
【住所又は居所原語表記】Im Schleeke 78−91, D−38642 Goslar, Germany
【Fターム(参考)】