説明

金属系不純物の除去方法

【課題】 シリコンウェーハ内部の金属系不純物を簡便にしかも高効率に除去する。
【解決手段】 ステップS1工程で、表面が露出したシリコンウェーハに第1の洗浄を施す。ここで、シリコンウェーハ表面は清浄化される。次に、ステップS2工程で、上記シリコンウェーハを、室温近くの温度の空気雰囲気中で例えば200時間〜800時間の間、常温保管し放置する。この工程により、シリコンウェーハの内部の金属原子は外方拡散してシリコンウェーハ表面に出てその表面部に凝集する。次に、ステップS3工程で、シリコンウェーハに対して第2の洗浄を施し上記シリコンウェーハ表面部に凝集した金属系不純物を除去する。このようにして、シリコンウェーハ内部の金属系不純物が簡便にしかも高効率に除去される

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属系不純物の除去方法に係り、特にシリコンウェーハ中の金属系不純物の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造に使用されるシリコンウェーハは、単結晶インゴット育成後、例えば、上記インゴットをスライスして薄円盤状のウェーハを得るスライス工程、面取り工程、ラッピング工程、エッチング工程、鏡面研磨工程、洗浄工程、熱処理工程等、多くの工程を経て製品化される。このシリコンウェーハには、単結晶シリコンからなるシリコンバルクウェーハの他にシリコンエピタキシャルウェーハがある。シリコンエピタキシャルウェーハは、例えば1000〜1200℃温度におけるCVD(化学気相成長)法により、シリコンバルクウェーハ上に単結晶シリコン層あるいはSiGe層を含んだ歪みシリコン層がエピタキシャル層として形成されたものである。
【0003】
このようなシリコンウェーハは、上述したウェーハ製造工程においてFe、Cu、Ni、Cr等の金属系不純物の微量な汚染を受ける。また、半導体デバイス製造の工程においても同様な汚染が生じる。この金属系不純物は、シリコンウェーハ中で析出して結晶欠陥を引き起こしたり、シリコンウェーハ表面でパーティクルの付着核になったりする。また、シリコンウェーハ中において電気的に深い準位を形成し半導体デバイス性能を低下させたり、シリコンウェーハ表面に形成したシリコン酸化膜中に存在してその絶縁性を低下させたりする。このように金属系不純物は、その金属の種類にもよるがシリコンウェーハに対して種々の悪影響を及ぼす。
【0004】
そこで、汚染した金属系不純物を除去する方法が色々と提案され、その一部の技術は実用に供されている。また、汚染金属をシリコンウェーハの所定の箇所にゲッタリングさせて、この金属系不純物の上述したような悪影響を低減あるいは防止するための方法がとられている。金属系不純物を除去する方法としては、HCl(塩酸)−H(過酸化水素)−HO(純水)の混合した化学薬液(HPMという)によるシリコンウェーハ表面の洗浄がよく知られている。その他に、例えば、オゾン溶解水−Hの化学薬液により洗浄して除去する方法がある。また、H−HO−クエン酸の化学薬液により金属系不純物を除去すると共にシリコンウェーハ表面に極薄のシリコン酸化膜を形成させる方法も提案されている。
【0005】
そして、金属系不純物をゲッタリングする方法としては、いわゆるエキシトリンシック・ゲッタリング(EG)とイントリンシック・ゲッタリング(IG)がよく知られている。ここで、金属系不純物をゲッタリングさせる箇所(以下、ゲッタリングサイトという)は、シリコンウェーハにおいて半導体デバイスの活性層から離れた領域になる。EGの手法では、シリコンウェーハの裏面側をゲッタリングサイトにし、バックサイドダメッジ(BSD)、ポリSiバックシール(PBS)あるいはリンゲッタリングと呼ばれる手法が古くから使用されている。IGの手法では、シリコンウェーハ内部のほぼ中心領域にSiOxの酸素析出物を形成し結晶欠陥誘起のゲッタリングサイトが用いられる。
【0006】
その他にも、いわゆるp/p構造のシリコンエピタキシャルウェーハにおいて、エピタキシャル基体のp基板を金属のゲッタリングサイトにする方法も提案され、このようなシリコンエピタキシャルウェーハも実用に供されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−165489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した金属系不純物を除去する方法では、シリコンウェーハの表面にある金属は除去することができるが、シリコンウェーハの内部にある金属除去は難しいという問題があった。ここで、シリコンウェーハに熱処理を施し、その内部の金属を外方拡散により表面に出してから上記化学薬液の表面洗浄を施し、その金属を除去する方法も考えられる。しかし、このような方法では、上記熱処理によるシリコンウェーハの逆汚染が生じ易く、その実用化が難しい。
【0008】
また、シリコンウェーハのゲッタリングサイトに金属系不純物をゲッタリングする方法では、汚染金属はシリコンウェーハサイトに残留しシリコンウェーハから除去されないことから、例えば半導体デバイス製造の熱処理工程において上記サイトから再び離脱して、半導体デバイスの活性領域に侵入し上述した悪影響が発生するという問題があった。
【0009】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、シリコンウェーハ内部に存在する金属系不純物を簡便にしかも高効率に除去することができる金属系不純物の除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明にかかる金属系不純物の除去方法は、シリコンウェーハ内部の金属を除去する方法であって、シリコンウェーハの表面が露出している状態にして、前記シリコンウェーハを室温近くの温度で保管する工程と、前記保管後に前記シリコンウェーハ表面部に凝集した前記金属を化学薬液により洗浄除去する工程と、を有する構成になっている。
【0011】
上記発明において、好適な実施態様では、前記保管の時間は300〜600時間の範囲にある。そして、前記室温近くの温度は10〜40℃の範囲にある。
【0012】
上記発明により、シリコンウェーハ内部に存在する金属系不純物は、外方拡散によりシリコンウェーハ表面に出てきて、その表面部において凝集する。そして、この凝集した金属系不純物は簡便にしかも効率的に洗浄除去される。
【0013】
また、この金属系不純物の除去方法は、除去のための新規で格別な装置あるいは設備を必要とせず、極めて簡便で低コスト化が容易な手法であり実用性の高いものとなる。
【0014】
上記発明において、好適な一態様では、前記シリコンウェーハの前記室温近くの温度での保管と前記化学薬液による洗浄除去とを繰り返して複数回おこなう。そして、前記金属系不純物はCu金属あるいはNi金属である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の構成により、シリコンウェーハ内部に存在する金属系不純物、特にCuおよびNiの金属が簡便にしかも高効率に除去される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照して説明する。図1は本実施形態にかかる金属系不純物の除去方法の一例を示す工程フロー図であり、図2は一例であるCu金属の除去工程を模式的に示した工程別断面図である。そして、図3は本実施形態における金属系不純物除去のメカニズムの説明に供する模式図である。
【0017】
図1に示すように、その表面が露出されたシリコンウェーハWに対して、ステップS1の第1の洗浄を施す。そして、第1の洗浄を施したシリコンウェーハWを乾燥させる。ここで、第1の洗浄に用いる洗浄液は、例えばNHOH(アンモニア水)−H−HOの混合した化学薬液(APMという)であり、その温度が例えば80℃程度になるように設定される。また、化学薬液中の不純物成分が例えばppbレベル以下の高純度になっていると好適である。
【0018】
上記ステップS1により、図2(a)に示すように、その内部にCu金属が存在するシリコンウェーハWの表面はパーティクル等の除去を受け清浄化される。上記APMを洗浄液とする第1の洗浄では、図示していないがシリコンウェーハW表面に数nm程度の膜厚の自然酸化膜が形成される。このような自然酸化膜は多孔性を有しており、シリコンウェーハW表面にはSiのダングリングボンド(未結合部)が多く存在している。
【0019】
次に、ステップS2において、第1の洗浄を施し表面を乾燥させたシリコンウェーハWを、室温近くの温度(本発明の説明では常温ともいう)の空気雰囲気において、例えば200時間〜800時間の間、常温保管し放置する。ここで、その詳細は後述されるが、常温保管の温度は10℃〜40℃の範囲が好ましく、室温(20〜25℃)が更に好ましい。また、実用上では保管時間は300時間〜600時間の範囲が好ましい。そして、このようなシリコンウェーハ保管は、パーティクルの少ない例えばクラス100以下にクリーン化された空気雰囲気中で行うことが好ましい。
【0020】
上記ステップS2により、図2(b)に示すように、シリコンウェーハWの内部に存在していたCu原子は、外方拡散してシリコンウェーハW表面に出てきてその露出する表面部において凝集する。この表面部に凝集した金属はパーティクルの付着核になり易いために、上述したようにクリーン化した箇所でシリコンウェーハを保管するのが好ましくなる。このような凝集現象のメカニズムについては図3を参照して後述される。
【0021】
次に、ステップS3において、上記長時間のあいだ例えば室温近くの温度で保管したシリコンウェーハWに対して第2の洗浄を施し、上記シリコンウェーハW表面部に凝集している金属系不純物を洗浄除去する。ここで、第2の洗浄に用いる洗浄液は、例えばHPMがよい。あるいは、上記APMであっても構わない。この第2の洗浄では、その化学薬液の温度は、例えば60℃以下と余り高くならないように設定するのがよい。また、この化学薬液も高純度になっていることが好ましい。そして、第2の洗浄を施したシリコンウェーハWを乾燥させる。
【0022】
上記ステップS3により、図2(c)に示すように、ステップS2においてシリコンウェーハW表面部に凝集したCu金属はほぼ全て除去される。このようにして、シリコンウェーハW内部におけるCu金属は極めて容易に除去されることになる。
【0023】
ここで、図1の破線で示したように、上述したステップS2とステップS3の処理あるいはステップS1〜ステップS3の処理を2回、3回と繰り返してシリコンウェーハW内部に存在する金属系不純物を除去するようにしてもよい。この場合、化学薬液あるいは保管雰囲気からの金属系不純物の再汚染が少なくなるように留意することが重要になる。
【0024】
本実施形態における特徴的技術事項は、上述したように、シリコンウェーハWを、室温近くの温度にした状態で比較的に長時間に亘り保管し、シリコンウェーハW内部の金属を外方拡散により表面に出し、それを表面部に凝集させて洗浄除去するところにある。
【0025】
このようなシリコンウェーハW内部の金属除去にかかるメカニズムについて、図3を参照してCu金属の場合を一例に説明する。ここで、図3(a)はシリコンウェーハWの一部拡大断面図であり、図3(b)はCuについての熱力学上の化学ポテンシャル(μ)のシリコンウェーハWにおける分布を模式的に示したグラフである。ここで、シリコンウェーハWの温度は室温近くの温度にあるとしている。
【0026】
図3(a)に示すように、室温近くで数百時間の長い時間に亘ってシリコンウェーハを保管すると、図2(b)でも説明したようにCu金属はシリコンウェーハWの表面に外方拡散し、露出しているシリコンウェーハ表面部に凝集するようになる。このようなシリコンウェーハ表面部へのCu金属の凝集現象は、熱力学的な現象論からみると、シリコンウェーハにおけるCu金属の化学ポテンシャル(μ)がシリコンウェーハの表面部において急減しているために生じてくると考えられる。すなわち、シリコンウェーハ内部のCu原子は、シリコンウェーハ内部で熱運動しているが、熱運動によりシリコンウェーハ表面に達すると、上記表面部において急減する化学ポテンシャルに落ち込み熱安定化して蓄積され凝集するものと考えられる。
【0027】
上述した凝集現象は、従来の技術で説明したゲッタリングサイトがシリコンウェーハの表面部に存在して生じているとも考えられるが、しかしそのゲッタリングサイトは具体的にどのような構造にあるのか不明である。表面のSiダングリングボンドと関係するものか、あるいは、シリコンウェーハ表面部における自然酸化膜との界面エネルギーに関係するものか現状では定かでない。
【0028】
ここで、シリコンウェーハ表面に凝集したCu金属は、ステップS3における第2の洗浄工程で容易に除去できることを考えると、CuとSiの間のCu−Si結合は表面部では生じていないと考えられる。また、自然酸化膜のO(酸素)とCuの間のCu−O結合も起こっていないと考えられる。これは、図1のステップS3の第2の洗浄において、シリコンウェーハ表面部に凝集したCu金属はAPM等の化学薬液により極めて簡単に洗浄除去できることからである。
【0029】
いずれにしても、本発明者の試行実験では、シリコンウェーハ表面の自然酸化膜の形成状態に関係なく、上記実施形態で説明した金属系不純物の除去方法は有効になることが確認されている。例えば、シリコンウェーハ表面が水素原子でターミネート(終端)する割合が多い場合であっても、同じようなCu金属の除去効果が確認できている。
【0030】
以上のことを考慮すると、上記実施形態では露出したシリコンウェーハ表面に自然酸化膜が形成されて室温近くの温度で長時間の保管がなされてもよいし、自然酸化膜が形成されない状態で保管がなされてもよい。あるいは、空気中保管の場合のように保管中に自然酸化膜が形成されるようになっても構わない。いずれにしても、シリコンウェーハ表面は、他の材料膜が堆積されていない露出した状態にして上記室温に近い温度で保管するのが好ましい。ここで、シリコンウェーハの片面側あるいは一部表面が露出している状態であっても構わない。
【0031】
上記保管の温度は、10〜40℃の範囲が好ましく、更に20〜25℃の範囲が好ましい。このような温度範囲であると、図3で説明した金属の表面凝集のメカニズムが効果的に働くからである。ここで、シリコンウェーハ保管時の温度が例えば40℃よりも高くなると、表面凝集した金属がシリコンウェーハ内部へ再拡散により入り込み易くなり、第2の洗浄による除去効率が低下する。一方、シリコンウェーハ保管時の温度が例えば10℃よりも低くなると、金属原子のシリコンウェーハ内での熱運動による外方拡散が低下して、シリコンウェーハ内部の金属を表面部に到達させるまでの時間が非常に長くなり実用的でなくなる。なお、保管の温度が30〜40℃と室温より高くなる場合は、簡便なホットプレート等を使用することができる。
【0032】
上記実施形態で説明した金属系不純物の除去方法では、シリコンウェーハ内部のCu金属の他にNi金属が比較的に短い保管時間であっても取り除かれる。これは、常温におけるこれ等の金属のシリコンウェーハ中の拡散係数が他の金属に較べて大きくなることによる。また、その詳細な理由は今のところ定かでないが、金属系不純物の除去はシリコンウェーハ中のドーパントの種類にも影響を受ける。例えば、P(リン)をドーパントにした導電型がn型のシリコンウェーハの場合には、実用的な時間におけるCu金属の効果的な除去が難しくなることが確認されている。これは、シリコンウェーハ内部においてCu−P結合が生じ易く、本実施形態のように室温近くの温度におけるCuの熱拡散が阻害されるためと考えられる。
【0033】
そして、本実施形態の図1のステップS1における第1の洗浄に使用する化学薬液は、HF(フッ酸)−H−HOの混合した化学薬液(FPMという)、あるいはHF−HOの混合した化学薬液(DHFという)として、自然酸化膜を除去するものであってもよい。なお、シリコンウェーハWの表面が露出されていれば、ステップS1の工程は省略しても構わない。また、図1のステップS3における第2の洗浄に使用する化学薬液は、HSO(硫酸)−H−HOの混合した化学薬液(SPMという)であっても構わない。なお、上記FPMあるいはDHFのようなF(フッ素)を含む化学薬液を第2の洗浄に使用することも可能である。
【0034】
上述したように、本実施形態では、シリコンウェーハ内部の金属系不純物を容易にしかも高効率に除去することが可能になる。そして、例えば、シリコンウェーハ内部の金属系不純物濃度をppb〜pptレベルまで低下させることができる。特に、導電型がp型のシリコンウェーハにおいて、Cu金属およびNi金属の除去が比較的に短時間の保管時間であっても洗浄除去が可能になる。また、本実施形態の金属系不純物の除去方法であると、シリコンウェーハ中の金属系不純物量は、常温におけるその金属固溶度よりも低くすることが可能になる。
【0035】
また、本実施形態の金属系不純物の除去方法は、そのための新規で格別な装置あるいは設備を必要とせず、しかも極めて簡便で低コストの手法になる。そして、シリコンウェーハの製造コストの増加がほとんど生じないで実用性の高いものになる。
【実施例】
【0036】
次に、実施例により本発明の効果について具体的に説明する。ここで、金属系不純物の除去の試行実験には、6インチφ、p導電型、両面鏡面加工した面方位(100)のシリコンウェーハを用いた。なお、p導電型の抵抗率依存性を調べるために、低抵抗(0.01Ω・cm)と高抵抗(10Ω・cm)のシリコンウェーハを用意した。そして、これ等のシリコンウェーハに対しCuあるいはNiの強制汚染を施した。この強制汚染では、上記シリコンウェーハ表面に上記金属を含む溶液を塗布した後に、Nガス雰囲気中で800℃、1時間程度の熱処理を施した。この熱処理後、FPMの化学薬液によりシリコンウェーハ表面に形成されたシリコン酸化膜を除去した。
【0037】
そして、図1に示したような除去方法によるシリコンウェーハ内の金属除去を行い、強制汚染した金属の除去回収率を調べた。この除去回収率では、強制汚染したシリコンウェーハをHF−HNOの化学薬液により溶かし、ICP−MS(Inductive Coupled Plasma−Mass Spectroscopy)による分析から標準の汚染量を計測し求めた。そして、強制汚染した後に本実施形態の金属除去を施したシリコンウェーハを溶かし、このシリコンウェーハに残留している金属量をICP−MSにより計測し、上記標準の汚染量から残留金属量を減算して金属除去量を算出した。そして、このようにして求めた金属除去量は上記標準の汚染量で除して除去回収率とし評価した。なお、本発明はこのような実施例のみに限定されるものでないことに言及しておく。
【0038】
(実施例1)
上述したようにシリコンウェーハにCu金属を強制汚染させた。ここで、その汚染量は、複数枚のシリコンウェーハにおいて1×1014原子/cm弱の値を示し安定したCu金属汚染量であった。また、この同一ロットによりCu金属汚染したシリコンウェーハに対して、図1に説明した室温保管の時間を1時間、150時間、350時間、800時間と変えた金属除去を施した。この金属除去において、ステップS1工程に用いた洗浄液はAPMであり、シリコンウェーハ保管はクラス100以下のクリーンベンチに置いたクリーンボックス内であり、上記保管温度はほぼ室温20℃であった。そして、ステップS3工程に用いた洗浄液もAPMとした。
【0039】
図4は、横軸にステップS2工程の保管時間をとり、縦軸にCu除去回収率をとっている。図4の○印の比抵抗が0.01Ω・cmのシリコンウェーハの場合、200時間の保管時間までの間においてCu除去回収率は急増し強制汚染したCu金属の99.5%が除去されるようになる。そして、800時間程度の保管でほぼ100%は除去される。ここで、保管時間が200時間〜800時間では除去回収率は単調に増加する。
【0040】
これに対して、●印の比抵抗が10Ω・cmのシリコンウェーハの場合、比抵抗が0.01Ω・cmのシリコンウェーハの場合よりも除去回収率は全般的に高くなる。そして、保管時間が200時間以上になればほぼ100%が除去されることが判る。
【0041】
(実施例2)
同様に、シリコンウェーハにNi金属を強制汚染させた。この場合、その汚染量は、平均して1×1014原子/cm強の値に安定していた。この同一ロットによりNi金属汚染したシリコンウェーハに対して、実施例1と同様な金属除去を施した。図5は、横軸に保管時間をとり縦軸にNi除去回収率をとっている。図5の○印に示す比抵抗が0.01Ω・cmのシリコンウェーハの場合、実施例1の場合とは逆に、●印の比抵抗が10Ω・cmのシリコンウェーハの場合よりも除去回収し易くなっている。そして、1時間の保管で80%が回収され、200時間〜800時間で単調に増加し、800時間でほぼ100%回収される。
【0042】
比抵抗が10Ω・cmのシリコンウェーハの場合、200時間の保管時間までの間でNi除去回収率は急増し強制汚染したCu金属の約85%が除去される。そして、800時間程度の保管でほぼ100%は除去される。この場合も、保管時間が200時間〜800時間で除去回収率は単調に増加する。
【0043】
以上の結果から、図1に示した金属系不純物の除去方法により、シリコンウェーハ内部のCu金属およびNi金属が簡便にしかも高効率に除去できることが確認された。また、シリコンウェーハの保管時間は少なくとも200時間以上になれば好ましく、800時間程度あればほぼ除去できることが判った。そして、シリコンウェーハ製造工程における安定した金属除去およびその生産性を考慮すると保管時間は300時間〜600時間の範囲が好ましくなることが判った。このような好適な保管時間は、保管が室温近くの温度であれば変わらない。
【0044】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものでない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0045】
例えば、本実施形態で説明した金属系不純物の除去方法は、シリコンウェーハの他に、いわゆるSOI(Silicon on Insulator)ウェーハあるいはシリコン単結晶インゴットの内部の金属を除去する場合に適用してもよい。また、本実施形態は、上記シリコン半導体の他に化合物半導体の場合に適用しても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態にかかる金属系不純物の除去方法の一例を示す工程フロー図である。
【図2】本発明の実施形態の一例であるCu金属の除去工程を模式的に示した工程別断面図である。
【図3】本発明の実施形態における金属除去のメカニズムの説明に供する模式図である。
【図4】本発明の実施例1における金属系不純物(Cu)除去の結果を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例2における金属系不純物(Ni)除去の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0047】
W シリコンウェーハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェーハ内部の金属を除去する方法であって、
シリコンウェーハの表面が露出している状態にして、前記シリコンウェーハを室温近くの温度で保管する工程と、
前記保管後に前記シリコンウェーハ表面部に凝集した前記金属を化学薬液により洗浄除去する工程と、
を有することを特徴とする金属系不純物の除去方法。
【請求項2】
前記保管の時間は300〜600時間の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の金属系不純物の除去方法。
【請求項3】
前記室温近くの温度は10〜40℃の範囲にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属系不純物の除去方法。
【請求項4】
前記シリコンウェーハの前記室温近くの温度での保管と前記化学薬液による洗浄除去とを繰り返して複数回おこなうことを特徴とする請求項1,2又は3に記載の金属系不純物の除去方法。
【請求項5】
前記金属系不純物はCu金属あるいはNi金属であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の金属系不純物の除去方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−181941(P2008−181941A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12529(P2007−12529)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】