説明

金属芯入り多層基板の製造方法

【課題】 製造工程の短縮化および低コスト化が可能な金属芯入り多層基板の製造方法を提供する。
【解決手段】 熱プレス工程が、真空引きを行いながら熱プレス温度を上昇させて、第1の絶縁体3及び第2の絶縁体5の樹脂を溶融しながら熱プレスを行うことにより、金属板4の貫通孔4aに樹脂を充填する第1の充填工程と、第1の絶縁体3及び第2の絶縁体5の樹脂がゲル化する前に、常圧に戻しながら熱プレスのプレス圧力を高めることにより、貫通孔4aに樹脂を補充充填する第2の充填工程と、第1の絶縁体3及び第2の絶縁体5の樹脂を硬化させる熱硬化工程とを備える金属芯入り多層基板の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属芯入り多層基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器等に使用される従来の多層基板として、放熱性の付与等を目的とする金属芯を内層に有する構成が知られている。例えば、特許文献1には、貫通孔を有する金属板の片面に絶縁層を介して導電箔を設け、導電箔で一方を閉鎖した貫通孔を穴埋め樹脂で埋めた後、金属板の他面にプリプレグを配置して加熱硬化させる金属芯入りプリント配線板の製造方法において、加熱時に穴埋め樹脂を硬化させた後プリプレグを硬化させることが開示されている。
【特許文献1】特開平7−193368号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上記従来の製造方法は、貫通孔を穴埋め樹脂で埋める工程が必要になるだけでなく、穴埋め樹脂を硬化させた後にプリプレグを硬化させる必要があるため、製造に長時間を要するという問題があった。
【0004】
そこで、本発明は、製造工程の短縮化および低コスト化が可能な金属芯入り多層基板の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の前記目的は、一対の導電箔間に電気絶縁体が介在され、前記電気絶縁体の内部に金属芯が設けられた金属芯入り多層基板の製造方法であって、一方の前記導電箔に第1の絶縁体を形成する第1の絶縁体形成工程と、貫通孔を有する金属板を前記第1の絶縁体に配置する金属板配置工程と、前記金属板に第2の絶縁体を形成する第2の絶縁体形成工程と、前記第2の絶縁体に他方の前記導電箔を配置して積層体を形成する導電箔配置工程と、前記積層体を熱プレスする熱プレス工程とを備え、 前記第1の絶縁体及び第2の絶縁体は、繊維基材に熱硬化性樹脂を含浸させたBステージ状態のプリプレグシートからなり、前記熱プレス工程は、真空引きを行いながら熱プレス温度を上昇させて、前記第1の絶縁体及び第2の絶縁体の樹脂を溶融しながら熱プレスを行うことにより、前記金属板の貫通孔に樹脂を充填する第1の充填工程と、前記第1の絶縁体及び第2の絶縁体の樹脂がゲル化する前に、常圧に戻しながら熱プレスのプレス圧力を高めることにより、前記貫通孔に樹脂を補充充填する第2の充填工程と、前記第1の絶縁体及び第2の絶縁体の樹脂を硬化させる熱硬化工程とを備える金属芯入り多層基板の製造方法により達成される。
【0006】
この金属芯入り多層基板の製造方法において、前記第2の充填工程は、雰囲気圧力の上昇を開始した後に、プレス圧力の上昇を開始することが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の金属芯入り多層基板の製造方法によれば、製造工程の短縮化および低コスト化が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る金属芯入り多層基板の製造方法を説明するための工程断面図である。
【0009】
まず、図1(a)に示すように、銅箔やアルミ箔などの導電性金属材料からなる導電箔1の表面に、補助プリプレグシート2を配置した後、補助プリプレグシート2の表面に、第1の絶縁体3を形成する(第1の絶縁体形成工程)。
【0010】
補助プリプレグシート2は、含有する基材によって最小限の厚みを保証することにより、導電箔1及び後述する金属板4間の厚み方向の耐電圧性を確保できるものが好ましく、例えば、厚みが0.06〜0.1mmのFR−4積層板など、ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグを好ましく挙げることができる。補助プリプレグシート2は、本発明の効果を奏する上で必須のものではなく、導電箔1の表面に第1の絶縁体3を直接形成することも可能である。或いは、補助プリプレグシート2の表面に第1の絶縁体3を貼り合わせて一体化したものを使用することも可能であり、工程の短縮化を図ることができる。
【0011】
第1の絶縁体3は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂をBステージ化したものであり、ガラスクロスの代わりに無機充填材を有する基材レスのプリプレグを好ましく使用することができる。熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合、ビスフェノール型、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、ビフェニル型、ナフタレン型などを使用可能であり、常温で固形のものの他、常温固形のものに常温液状のものを混合してBステージ状態での脆性を改善したものであってもよい。エポキシ樹脂は、メチルエチルケトン(MEK)などの溶剤に溶解させて常温で液状のものを、離型紙や離型フィルム上に所定の厚みとなるように塗布し、乾燥により溶剤を揮発させて、常温で固形状にすることができる。
【0012】
エポキシ樹脂に対する硬化剤としては、ジシアンジアミド、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどが挙げられ、硬化促進剤としてイミダゾール化合物などを用いることができる。また、硬化後の強度向上、熱膨張の低減、熱伝導率の向上などを目的として、無機充填材を含むことが好ましい。無機充填材としては、シリカやアルミナの他、金属のチッ化物(例えば窒化ホウ素、窒化アルミニウム)の微粒子粉末(最大粒径が50μm以下で、好ましくは20μm以下)が好ましく、例えば、エポキシ樹脂との混合物中に60〜90重量%(好ましくは70〜80重量%)を単独或いは組み合わせて配合することができる。
【0013】
上記の含浸樹脂は、150℃でのゲルタイムが、約3〜5分であることが好ましい。ゲルタイムは、熱盤法やキュラストメーターにより測定することができる。第1の絶縁体3は、Bステージ化されて補助プリプレグシート2に積層されるため、補助プリプレグシート2のゲルタイム(例えば、約1〜2分)とほぼ一致するように、Bステージ化する際の乾燥温度や乾燥時間を適宜調整することが好ましい。乾燥条件の一例を挙げると、乾燥温度が60〜150℃(より好ましくは100〜120℃)で、乾燥時間が5〜20分程度である。
【0014】
ついで、図1(b)に示すように、貫通孔4aが形成された金属板4を、絶縁性樹脂3上に配置する(金属板配置工程)。金属板4は、アルミニウム板や銅板など熱伝導性に優れたものを好ましく用いることができる。
【0015】
次に、図1(c)に示すように、金属板4の表面に第2の絶縁体5を配置した後、補助プリプレグシート6を配置する(第2の絶縁体形成工程)。第2の絶縁体5は、第1の絶縁体3と同様にBステージ化したプリプレグであり、第1の絶縁体3の材料として例示したものを使用可能である。また、補助プリプレグシート6についても、上記の補助プリプレグシート2と同様の材料を使用可能である。
【0016】
そして、図1(d)に示すように、導電性金属材料からなる導電箔7を補助プリプレグシート6上に配置し、一対の導電箔1,7の間に、補助プリプレグシート2、第1の絶縁体3、金属板4、第2の絶縁体5及び補助プリプレグシート6が積層された積層体10を形成する(導電箔配置工程)。
【0017】
最後に、真空熱プレス機(図示せず)のチャンバ内に積層体10を収容した後、この積層体10を熱プレスすることにより、図1(e)に示すように、第1の絶縁体3及び第2の絶縁体5の内部に金属板4からなる金属芯が設けられた金属芯入り多層基板を得る(熱プレス工程)。
【0018】
熱プレス工程においては、チャンバ内の雰囲気圧力、プレス圧力及びプレス温度の制御が重要になる。この制御パターン及び状態変化を、それぞれ図2及び図3を参照しながら説明する。
【0019】
まず、図3(a)に示すように、一対の導電箔1,7の両側を、それぞれ鏡面板12,14及びクッション材16,18を介して、一対の熱板20,22により挟持する。そして、チャンバ内の真空引きを行うことにより真空度を高めながら(すなわち、雰囲気圧力を低下させながら)、一対の熱板20,22のプレス圧力を500〜1000kPa程度の接触圧に維持し、熱板20,22の温度を徐々に上昇させていくことにより、第1の充填工程を行う(図2の工程a)。真空引き後のチャンバ内の雰囲気圧力は、例えば、133〜1330Pa程度に設定することが好ましい。
【0020】
第1の絶縁体3及び第2の絶縁体5は、当初は固体状であるため、金属板4の貫通孔4aは、第1の絶縁体3及び第2の絶縁体5と金属板4との界面に存在する微細な隙間を介して積層体10の外部と連通している。したがって、チャンバ内の真空引きに伴い、貫通孔4aの内部が減圧される。
【0021】
一方、熱プレスのプレス温度は徐々に上昇するため、貫通孔4aの内部が十分減圧された後に第1の絶縁体3及び第2の絶縁体5の樹脂が溶融を開始するようにプレス温度を設定し(例えば、120〜130℃)、樹脂を溶融しながら熱プレスを行うことにより、貫通孔4a内への樹脂の充填が行われる。また、第1の絶縁体3及び第2の絶縁体5や補助プリプレグシート2,6に混入している気泡Aは、樹脂の溶融に伴いこの段階で脱気される。こうして、貫通孔4aの大部分には、図3(a)に示すように、第1の絶縁体3及び第2の絶縁体5の樹脂Rが充填される。
【0022】
ところで、上記第1の充填工程においては、貫通孔4aの高さ方向の中央付近に空隙Sが存在し易く、プレス圧力を高めても貫通孔4aに充填されずに外方へ流出する溶融樹脂の量が増加するだけであり、貫通孔4aの内部全体に樹脂Rを充填することが困難である。このような空隙Sは、貫通孔4a内の樹脂Rが硬化すると密封されるため、最終的にボイドとして残存することになる。
【0023】
そこで、本実施形態においては、上記第1の充填工程の後、第1の絶縁体3及び第2の絶縁体5の樹脂がゲル化する前に、雰囲気圧力を常圧に戻しながら熱プレスのプレス圧力を徐々に高めることにより、貫通孔4a内に樹脂を補充充填する第2の充填工程を行う(図2の工程b)。貫通孔4a内に存在していた空隙Sは、図3(b)に示すように、雰囲気圧力を常圧に戻すことで樹脂Rにより押し潰されてほぼ消滅し、これによって嵩減りした分の樹脂Rは、プレス圧力を高めることで第1の絶縁体3及び第2の絶縁体5から補充される。すなわち、プレス圧力によって樹脂が外方に向かって流動しているにも拘わらず、外部の雰囲気圧力を高めることで空隙Sの体積を十分低減することができるので、貫通孔4a内の全体に樹脂を確実に行き渡らせることができる。第2の充填工程におけるプレス圧力は、例えば3000〜4000kPaまで上昇させることが好ましい。第1の絶縁体3及び第2の絶縁体5の樹脂がゲル化するタイミングは、上記のようにゲルタイムを適宜調整することで制御可能である。
【0024】
上記の第2の充填工程においては、雰囲気圧力の上昇を開始してから、プレス圧力を上昇させることが好ましく、これによって、空隙Sをほぼ消滅させた後に補充充填を確実に行うことができる。但し、プレス圧力の上昇を、雰囲気圧力の上昇とほぼ同時に行ってもよく、或いは、雰囲気圧力の上昇より若干先行させることも可能である。また、本実施形態において、第2の充填工程における熱プレス温度は、第1の充填工程の熱プレス温度を維持するようにしているが、第1の絶縁体3及び第2の絶縁体5の樹脂がゲル化する前に補充充填を行うことが可能であれば、第1の充填工程の熱プレス温度より高い温度であってもよい。
【0025】
第1の充填工程及び第2の充填工程においては、第1の絶縁体3及び第2の絶縁体5の樹脂の一部が外方へはみ出して流出し、第2の充填工程後も、一部が金属板4の表裏面に層状に残存するため、これらを考慮した上で貫通孔4aの全体に樹脂を確実に充填できるように、第1の絶縁体3及び第2の絶縁体5の合計厚みを設定することが好ましい。例えば、貫通孔4aの容積合計が金属コアの体積の30〜50%である場合、第1の絶縁体3及び第2の絶縁体5の合計厚みは、50〜200μmであることが好ましく、100〜150μmであることがより好ましい。
【0026】
第2の充填工程後は、プレス温度を更に上昇させて(例えば、150〜180℃)、第1の絶縁体3及び第2の絶縁体5の樹脂が完全に硬化するまでこの状態を維持することにより(例えば、60〜180分)、熱硬化工程を行う(図2の工程c)。熱硬化工程においては、プレス温度を第2の充填工程よりも高めることが好ましいが、第2の充填工程で十分高温になっている場合には、第2の充填工程のプレス温度を熱硬化工程において維持するようにしてもよい。
【0027】
この後、プレス温度を降下させて常温に戻すと共に、プレス圧力を解放して、積層体10を取り出す(図2の工程d)。本実施形態の金属芯入り多層基板の製造方法によれば、貫通孔4aの内部に絶縁性樹脂3,5を迅速且つ確実に充填することができ、製造工程の短縮化及び低コストを図ることができる。絶縁性樹脂3,5に埋設された金属板4は、高い放熱効果が得られるだけでなく、多層基板にスルーホールを形成して接続することにより、電源回路として利用することも可能である。
【0028】
本実施形態においては、金属芯入りの3層基板について説明したが、層構成は限定されるものではなく、例えば、5層や6層以上の多層基板についても本実施形態と同様の製造方法を適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係る金属芯入り多層基板の製造方法を説明するための工程断面図である。
【図2】前記金属芯入り多層基板の製造方法の一工程における制御パターン図である。
【図3】図2の制御パターンによる状態変化を示す断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1,7 導電箔
2,6 補助プリプレグシート
3 第1の絶縁体
4 金属板
4a 貫通孔
5 第2の絶縁体
10 積層体
20,22 熱板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の導電箔間に電気絶縁体が介在され、前記電気絶縁体の内部に金属芯が設けられた金属芯入り多層基板の製造方法であって、
一方の前記導電箔に第1の絶縁体を形成する第1の絶縁体形成工程と、
貫通孔を有する金属板を前記第1の絶縁体に配置する金属板配置工程と、
前記金属板に第2の絶縁体を形成する第2の絶縁体形成工程と、
前記第2の絶縁体に他方の前記導電箔を配置して積層体を形成する導電箔配置工程と、
前記積層体を熱プレスする熱プレス工程とを備え、
前記第1の絶縁体及び第2の絶縁体は、繊維基材に熱硬化性樹脂を含浸させたBステージ状態のプリプレグシートからなり、
前記熱プレス工程は、
真空引きを行いながら熱プレス温度を上昇させて、前記第1の絶縁体及び第2の絶縁体の樹脂を溶融しながら熱プレスを行うことにより、前記金属板の貫通孔に樹脂を充填する第1の充填工程と、
前記第1の絶縁体及び第2の絶縁体の樹脂がゲル化する前に、常圧に戻しながら熱プレスのプレス圧力を高めることにより、前記貫通孔に樹脂を補充充填する第2の充填工程と、
前記第1の絶縁体及び第2の絶縁体の樹脂を硬化させる熱硬化工程とを備える金属芯入り多層基板の製造方法。
【請求項2】
前記第2の充填工程は、雰囲気圧力の上昇を開始した後に、プレス圧力の上昇を開始する請求項1に記載の金属芯入り多層基板の製造方法。












【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−16143(P2010−16143A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−174118(P2008−174118)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(391003624)サンユレック株式会社 (28)
【Fターム(参考)】