説明

金属超微粒子の製造方法および金属超微粒子含有組成物

【課題】厚膜のパターンを形成した際にも、加熱する事なく高い導電性を発現させる事が可能な金属超微粒子の製造方法、および金属超微粒子含有組成物を提供する。
【解決手段】水性媒体中に平均粒径が0.1μm以下の金属超微粒子を分散させた分散液を得る工程、該分散液と水溶性ハロゲン化物とを、金属超微粒子に対する水溶性ハロゲン化物のモル比で0.15%以上8.0%以下の範囲内で混合する工程、および金属超微粒子の精製を行う工程、の3工程を少なくともこの順序に具備する金属超微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属超微粒子の製造方法、および金属超微粒子含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基板上に印刷にて導電性パターンを形成し配線基板を作製するための導電性ペーストとして、金属粉末と樹脂とから構成される導電性ペーストが使用されている。
【0003】
導電性ペーストは、その用途によりカーボンブラックやグラファイト粉、貴金属粉、銅粉、ニッケル粉、アルミニウム粉等を樹脂と溶剤に混合してペースト状にし、これを用いてフィルム等の基材上に塗布、印刷等でパターンを形成し、樹脂を硬化する事により、導電性パターンを形成する。
【0004】
その中でも比較的低い体積抵抗率を有する導電性銀ペーストは配線や電極の形成材料として広く使用されている。例えばキーボード等のメンブレンスイッチ配線、グルコースセンサー用電極、タッチパネルの額縁電極、太陽電池の集電用電極、RFIDのアンテナ等の用途が挙げられる。
【0005】
電極や配線用途では抵抗損失を最低限に抑えるために低抵抗を実現する事が重要である。そのため高銀濃度の導電性銀ペーストを用い、スクリーン印刷等の印刷法を用いて基材上に厚さ10μm以上の厚膜のパターンを形成し、その後導電性を発現させる事で厚膜の導電性パターンを形成する事が一般的に行われており、スクリーン印刷機等の厚膜のパターンを印刷する装置が広く普及している。
【0006】
基材上に形成されたパターンに導電性を発現させる方法として従来から用いられている加熱による硬化では、高い導電性を発現させるためには一般的に150℃で30分間程度の加熱を要する。そのためコストや環境負荷の増大、単位時間当たりの製造効率の低下を招いているほか、使用する基材が耐熱性を有する基材に限定されてしまうという課題があった。近年では120℃で10分間程度の加熱により導電性を発現させる事が可能とうたわれている銀ペーストも市販されているが、加熱後のパターンの導電性が見劣りするという課題があった。
【0007】
加熱後のパターンの導電性改善や、加熱温度の低下、硬化時間の短縮を実現するために、ペーストの金属成分に金属超微粒子を使用する試みは多数行われており、例えば特開2005−294254号公報(特許文献1)には、平均粒径が0.5μm〜20μmの銀粒子と、一次粒子の平均粒径が50nm以下の球状銀粒子とを主成分とする導電性銀ペーストが開示されている。しかし該文献ではパターンの導電性改善は実現しているものの、依然150℃で30分の加熱を要するものであった。
【0008】
これに対し、特開2008−4375号公報(特許文献2)では、保護剤で被覆された金属超微粒子に対しハロゲン化物を作用させる事で該粒子間の結合を促し、加熱を行う事なく短時間で基材上に導電性パターンを形成する方法が開示されている。該文献では、ハロゲン化物を作用させる方法として、(1)基材上に、ハロゲン化物そのもの、あるいはハロゲン化物が含まれている層を事前に全面あるいは必要な部位に形成しておき、その上に金属超微粒子分散液を用い所望の形状を作製する方法、(2)基材上に金属超微粒子分散液を用い所望の形状を作製した後、その上にハロゲン化物を含む溶液を塗布あるいは浸漬する方法、(3)基材上に金属超微粒子分散液を用い所望の形状を作製した後、ハロゲン化物を溶解または分散させた溶液が霧状に存在する環境下に放置する方法、(4)基材上に金属超微粒子分散液と、ハロゲン化物を含む溶液を直前に混合し、所望の形状を作製する方法、(5)水を含まない無極性有機溶媒中に、金属超微粒子とハロゲン化物とを共に分散し、所望の形状を作製し、有機溶媒を揮散あるいは吸収させる方法、が挙げられている。該文献に従えば、加熱を一切必要とせず、任意の基材上に低い体積抵抗率を有する導電性パターンを形成出来る。
【0009】
上記(1)〜(5)のうち、環境負荷を低減する観点から有機溶媒を使用しない(1)〜(4)の方法が好ましい。しかしながら、(1)〜(4)の方法に従い、広く普及しているスクリーン印刷機等の厚膜のパターンを印刷する装置を用いて、例えば厚さ10μm以上の厚膜の導電性パターンを形成した場合、(1)〜(4)のいずれの方法でも最終的に得られる厚膜の導電性パターンの体積抵抗率は満足いくものでは無かった。
【0010】
特開2009−242874号公報(特許文献3)には水性媒体中に、少なくとも水溶性銀塩、塩基性化合物、水溶性高分子化合物および還元剤を含有せしめ、水溶性銀塩由来の銀イオンを還元し銀超微粒子を製造する銀超微粒子の製造方法において、該水溶性高分子化合物および還元剤としてマルトデキストリンを用いる事を特徴とする銀超微粒子の製造方法が開示されている。該文献では、還元反応により水性媒体に分散した状態で得た銀超微粒子に対して遠心分離や限外濾過等による精製を行う事が開示されている。また得られた銀超微粒子に対し特許文献2に従いハロゲン化物を作用させる事で導電性が発現する事、精製された銀超微粒子を用いる事でより高い導電性が発現する事が記載されている。しかしながら該銀超微粒子を含有する組成物を用い、スクリーン印刷により、例えば厚さ10μm以上の導電性パターンを形成しても、十分満足出来る導電性は得られなかった。
【0011】
特開2009−242875号公報(特許文献4)には水性媒体中に水溶性銀塩、塩基性化合物、水溶性高分子化合物および還元剤を含有せしめた混合物をメディアミルを用いて混練する事で銀超微粒子分散液を製造する事を特徴とする銀超微粒子の製造方法が開示されている。また特開2008−50691号公報(特許文献5)には、水溶液中に金属超微粒子が分散した状態で凝集促進剤を添加した後、該金属超微粒子を水溶液から分離する事で低温焼成を可能とする金属超微粒子製造方法が開示され、特開2009−62570号公報(特許文献6)には、金属超微粒子分散液に該粒子の分散安定性を低下させる分散性低下剤を添加し、遠心分離による金属超微粒子の高濃度化を容易にする金属超微粒子の製造方法が開示されている。しかしながらこれらの製造方法により得られた銀超微粒子を含有する組成物を用い、スクリーン印刷により、例えば厚さ10μm以上の導電性パターンを形成しても、十分満足出来る導電性は得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−294254号公報
【特許文献2】特開2008−4375号公報
【特許文献3】特開2009−242874号公報
【特許文献4】特開2009−242875号公報
【特許文献5】特開2008−50691号公報
【特許文献6】特開2009−62570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、厚膜のパターンを形成した際にも、加熱する事なく高い導電性を発現させる事が可能な金属超微粒子の製造方法、および金属超微粒子含有組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の上記目的は、以下の発明によって基本的に達成された。
1.水性媒体中に平均粒径が0.1μm以下の金属超微粒子を分散させた分散液を得る工程、該分散液と水溶性ハロゲン化物とを、金属超微粒子に対する水溶性ハロゲン化物のモル比で0.15%以上8.0%以下の範囲内で混合する工程、および金属超微粒子の精製を行う工程、の3工程を少なくともこの順序に具備する金属超微粒子の製造方法。
2.前記金属超微粒子が、主に銀から成る事を特徴とする上記1記載の金属超微粒子の製造方法。
3.上記1または2記載の製造方法により製造された金属超微粒子を含む金属超微粒子含有組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、厚膜のパターンを形成した際にも、加熱する事なく高い導電性を発現させる事が可能な金属超微粒子の製造方法、および金属超微粒子含有組成物を提供する事が出来る。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明者らは、水性媒体中に平均粒径が0.1μm以下の金属超微粒子を分散させた分散液を得る工程、該分散液と水溶性ハロゲン化物とを、金属超微粒子に対する水溶性ハロゲン化物のモル比で0.15%以上8.0%以下の範囲内で混合する工程、および金属超微粒子の精製を行う工程、の3工程を少なくともこの順序に具備する金属超微粒子の製造方法により得られた金属超微粒子は、スクリーン印刷等の印刷法を用いて基材上に、例えば厚さ10μm以上の厚膜のパターンを形成しても優れた導電性を有する導電性パターンが得られる事を見出した。
【0018】
水性媒体中に平均粒径が0.1μm以下の金属超微粒子を分散させた分散液を得る工程について説明する。本発明において水性媒体とは、固形分を除く分散媒成分の少なくとも50質量%以上が水である事を意味する。水以外に含まれる溶媒としては、アルコール類、グリコール類等の水と混和性の高い有機溶媒を例示する事が出来る。後述するように、金属超微粒子として水性媒体中で合成した金属超微粒子を用いる場合には、合成時の水性媒体をそのまま使用する事が出来る。
【0019】
本発明で用いられる金属超微粒子は、不活性ガス中で金属を蒸発させガスとの衝突により冷却・凝縮し回収するガス中蒸発法、真空中で金属を蒸発させ有機溶剤と共に回収する金属蒸気合成法、レーザー照射のエネルギーにより液中で蒸発・凝縮し回収するレーザーアブレーション法、水溶液中で溶液中金属イオンを還元し生成・回収する化学的還元法、有機金属化合部の熱分解による方法、金属塩化物の気相中での還元による方法、酸化物の水素中還元法等、公知の種々の方法により製造された物を好ましく用いる事が出来る。化学還元法は水性媒体中で金属超微粒子を合成するため、必然的に水性媒体中に金属超微粒子が分散された状態で得られるため、化学還元法で合成された金属超微粒子を用いる事が特に好ましい。
【0020】
化学還元法にて金属超微粒子を合成する場合の分散剤としては公知のものを広く用いる事が出来る。例えばデキストリン等の多糖類や、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子、リンゴ酸二ナトリウム等の各種イオン性化合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の各種界面活性剤、脂肪酸やアミン等を持つ各種有機金属化合物類を挙げる事が出来る。還元剤と分散剤の両方の役割を果たす事からデキストリン等の多糖類を用いる事が特に好ましい。
【0021】
化学還元法以外の方法により得られた金属超微粒子を水性媒体へ分散させる方法については公知の方法を広く用いる事が出来る。例えば金属超微粒子を粉末として得た場合には、スターラー撹拌、プロペラ撹拌、タービン型撹拌、ホモミキサー型撹拌、メディアミル、圧力式分散機、超音波分散機、および薄膜旋回型分散機等を使用し水性媒体へ分散させる方法等が挙げられる。金属超微粒子を有機溶媒に分散した状態で得た場合には、有機溶媒を蒸発させ粉末状の金属超微粒子として回収し、前述の方法により水性媒体へ分散させる方法、特開2010−5506号公報に記載の如く水性媒体に抽出する方法等が考えられる。金属超微粒子の分散濃度としては、あまり高濃度であると本発明の効果を金属超微粒子全体に均一に与えることが困難になるため、好ましい範囲としては0.1〜75質量%であり、より好ましくは0.15〜50質量%である。
【0022】
金属超微粒子を均一に分散させるため、分散剤を用いることも好ましい。分散剤は、金属超微粒子を安定して水性媒体に分散出来るものであれば特に限定はされず、前述の多糖類や水溶性高分子、各種イオン性化合物、各種界面活性剤、各種有機金属化合物類を例示出来る。
【0023】
金属超微粒子の平均粒径は、金属超微粒子の分散安定性の観点から0.1μm以下である事が必要であり、好ましくは0.05μm以下である。なお、金属超微粒子の平均粒径は、電子顕微鏡下での観察により求める事が出来る。詳細にはポリエチレンテレフタレートフィルムの上に、金属超微粒子分散液を塗布、乾燥させ、走査型電子顕微鏡にて観察し、一定面積内に存在する100個の粒子各々の投影面積に等しい円の直径を粒子径として平均し求める。
【0024】
金属超微粒子は、高い導電性、価格、生産性、扱いやすさ等の点から、主に銀からなる事が好ましい。銀の占める割合は少なくとも50質量%以上である事が好ましく、より好ましくは銀の占める割合が70質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上である。銀以外に含まれる金属としては、金、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム、ニッケル、ビスマスを挙げる事が出来る。銀以外の金属は銀超微粒子中に含まれていても良く、銀超微粒子と銀以外の金属の超微粒子が混合していても良い。
【0025】
次に分散液と水溶性ハロゲン化物とを、金属超微粒子に対する水溶性ハロゲン化物のモル比で0.15%以上8.0%以下の範囲内で混合する工程について説明する。本発明で用いられる水溶性ハロゲン化物としては、ハロゲン化水素、無機塩類等を挙げる事が出来る。ハロゲン化水素としては、塩酸、臭化水素酸等を挙げる事が出来る。無機塩類としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、ジルコニウム塩、アルミニウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等を挙げる事が出来る。例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化カルシウム、臭化アンモニウム、沃化リチウム、沃化ナトリウム、沃化カリウム等を挙げる事が出来る。
【0026】
例示した水溶性ハロゲン化物は、1種または2種以上組み合わせて用いる事が出来る。最終的に得られる導電性パターンの導電性の観点より、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化アンモニウムが特に好ましい。
【0027】
前述の特許文献2に記載の通り、水溶性ハロゲン化物は金属超微粒子間の結合を促進する。そのため混合方法によっては金属超微粒子の分散状態が不均一化し、最終的に得られる導電性パターンの導電性が低下する場合がある。このような理由から水溶性ハロゲン化物を混合する際には、混合工程を低温に保ち、短時間のうちに精製工程へと移行する事が好ましい。
【0028】
また金属超微粒子と水溶性ハロゲン化物を混合する際は、水溶性ハロゲン化物を水溶液の状態で混合する事が好ましい。固体の水溶性ハロゲン化物を混合すると、最終的に得られる導電性パターンの導電性が低下する場合がある。水溶液の水溶性ハロゲン化物濃度は、1.2mol/L以下である事が好ましく、より好ましくは0.8mol/L以下である。高濃度の水溶性ハロゲン化物水溶液を用いた場合、最終的に得られる導電性パターンの導電性が低下する場合がある。下限は0.001mol/L以上ある事が望ましい。
【0029】
混合方法としては公知の方法を広く用いる事が出来、前述のスターラー撹拌、プロペラ撹拌、タービン型撹拌、ホモミキサー型撹拌、メディアミル、圧力式分散機、超音波分散機、および薄膜旋回型分散機等を例示出来る。混合が不十分な場合、最終的に得られる導電性パターンの導電性が低下する場合がある。
【0030】
混合工程は低温に保たれる事が好ましい。混合温度は50℃以下である事が好ましく、より好ましくは35℃以下である。50℃を超える環境で混合を実施すると、最終的に得られる導電性パターンの導電性が低下する場合がある。
【0031】
混合工程の時間は、短時間である事が好ましい。混合時間は6時間以下である事が好ましく、より好ましくは1時間以下である。
【0032】
金属超微粒子と水溶性ハロゲン化物との混合比率は、金属に対する水溶性ハロゲン化物のモル比で0.15%以上8.0%以下の範囲内である必要がある。水溶性ハロゲン化物が過剰もしくは不足のいずれの場合でも最終的に得られる導電性パターンの導電性が低下する。
【0033】
金属超微粒子の精製を行う工程について説明する。金属超微粒子の精製とは、金属超微粒子分散液から金属超微粒子を高濃度化し分離し、金属超微粒子以外の成分を減ずる事を意味する。精製方法としては濾過法、限外濾過法、遠心分離法、デカンテーション法、溶媒抽出法といった公知の種々の精製法を好ましく使用する事が出来る。製造効率の観点から濾過法、限外濾過法、遠心分離法を用いる事が好ましい。
【0034】
なお、前記3工程を少なくともこの順序で具備していれば、3工程の前後や各工程間に別の工程を実施する事は問題なく、また各工程を複数回実施する事も可能である。例えば金属超微粒子の精製後に水溶性ハロゲン化物を混合し、その後あらためて金属超微粒子の精製を行えば本発明の目的を達成出来る。
【0035】
本発明の製造方法により得られた金属超微粒子を含む金属超微粒子含有組成物に対し、ポリマー系の分散剤や界面活性剤、消泡剤、高沸点有機溶媒、増粘剤等を適宜添加し、各種印刷方式に適した粘度、表面張力、乾燥性を有する金属ナノインク液にする事が出来る。例えば、フラットスクリーン印刷用の金属ナノインク液として作製する場合には、乾燥を抑制するための高沸点有機溶媒(例えばエチレングリコールやプロピレングリコール、グリセリン等)、多糖類やポリアクリル酸等の増粘剤を適量添加し、スクリーン印刷適性を有した金属ナノインク液とする。印刷方式としては、フラットスクリーン印刷以外にもロータリースクリーン印刷、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、オフセットグラビア印刷、凸版印刷等公知の方法を例示する事が出来る。
【0036】
本発明の製造方法により得られた金属超微粒子は、例えばインクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、オフセットグラビア印刷、凸版印刷により形成される薄膜のパターン形成に用いる事も出来るが、特にこれらの印刷方法を複数回重ねて行う厚膜のパターン形成、あるいはフラットスクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷等による厚膜のパターン形成に用いると、本発明の効果が顕著になるために好ましい。本発明において厚膜のパターンとは、導電性を発現させた後に得られた導電性パターンの厚みとして、好ましくは5μm以上であり、特に好ましくは10μm以上である。
【0037】
本発明の製造方法により得られた金属超微粒子からなる厚膜のパターンは、パターン形成時点では満足いく導電性を発現しない。厚膜のパターンに導電性を発現させる方法としては、前述した特許文献2に記載される(1)〜(3)の方法に従い、あらためて水溶性ハロゲン化物を作用させる方法が最終的に得られる導電性の観点から特に好ましいが、他の導電性発現方法を用いても構わない。例えば本発明の製造方法により得られた金属超微粒子からなる厚膜のパターンに対し、特開2008−235224号公報に記載の如くクエン酸やアスコルビン酸等の還元性物質を作用させる、特開2009−21153号公報に記載の如く亜硫酸塩やチオ硫酸塩等を作用させる、特開2009−104807号公報に記載の如く炭素数3以上のジカルボン酸を含有する水溶液を作用させる、基材の耐熱温度以下の温度で加熱する、等公知の導電性発現方法を用いる事も可能である。
【0038】
(1)の方法に従い水溶性ハロゲン化物を作用させる具体的な方法としては、特許文献2記載の如く、支持体上にカウンターイオンにハロゲンイオンを有するカチオン性高分子化合物を塗布し作製した基材を用いる方法、支持体上にポリビニルアルコール等の樹脂バインダーとともに水溶性ハロゲン化物を塗布し作製した基材を用いる方法、支持体上に微粒子と樹脂バインダーからなる多孔質層を有する基材に対し、水溶性ハロゲン化物を含ませる方法、等が例示出来る。最終的に得られる導電性パターンの導電性の観点から、多孔質層を有する基材に対し、水溶性ハロゲン化物を含ませる方法を用いる事が好ましい。
【0039】
(2)の方法に従い水溶性ハロゲン化物を作用させる具体的な方法としては、任意の基材上に設けた厚膜のパターンに対し、水性媒体中に水溶性ハロゲン化物を溶解させた水溶性ハロゲン化物水溶液を塗布する方法、厚膜のパターンを水溶性ハロゲン化物水溶液に浸漬する方法、等が例示出来る。最終的に得られる導電性パターンの導電性の観点から、水溶性ハロゲン化物水溶液の水溶性ハロゲン化物濃度は0.8mol/L以上である事が好ましい。
【0040】
(3)の方法に従い水溶性ハロゲン化物を作用させる具体的な方法としては、水溶性ハロゲン化物水溶液をスプレーノズルや霧吹き等の公知の噴霧装置を用いて噴霧する方法が例示出来る。最終的に得られる導電性パターンの導電性の観点から、水溶性ハロゲン化物水溶液の水溶性ハロゲン化物濃度は0.8mol/L以上である事が好ましい。
【0041】
(1)〜(3)の方法に従い形成された導電性パターンの導電性を高めるため、さらに水分を供給する事も好ましい。水分の供給には、例えばインクジェット方式による水滴の付与やスプレーノズルや霧吹きにより水の噴霧を行う方法もあるが、単純に周辺雰囲気の湿度を高くしても良い。この場合、温度は10℃から80℃が好ましく、重量絶対湿度Hとして0.01kg/kgD.A.以上である事が好ましい。
【0042】
最終的に得られた厚膜の導電性パターンに対し、必要に応じて水洗を行う事、樹脂成分を塗布する事により導電性パターンを封止し、保護する事も好ましく行う事が出来る。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の内容は実施例に限られるものではない。
【0044】
《実施例1》
<金属超微粒子含有組成物の作製>
10Lのステンレスビーカーに焙焼デキストリン(日澱化学株式会社製、デキストリンNo.3)653gと純水5772gを加え、のこぎり歯状ブレード型分散機を用いて約30分間撹拌し溶解した。その後、硝酸銀1582gを加え、約30分間撹拌し溶解した。この液を氷浴中にて約5℃まで冷却し、水酸化カリウム730gを純水1007gに溶解した10℃の液を添加し、氷浴中で攪拌しながら1時間の還元反応を行った。得られた溶液に酢酸を添加し、pH=5.6に調整した後、ビオザイムF10SD(天野エンザイム株式会社製)を添加し1時間撹拌し、余剰のデキストリンを低分子化した。最終的に10質量%の銀超微粒子分散液1を9888g得た。含まれる銀超微粒子の平均粒径は20nmであり、収率は98.4%であった。
【0045】
銀超微粒子分散液1を800g取り、遠心分離による精製を行い、上澄みと銀超微粒子とを分離した。純水を加えて再分散した後、高沸点有機溶媒、増粘剤を加え銀濃度が45.0質量%のスクリーン印刷適性を有した銀超微粒子含有組成物1を126g得た。
【0046】
銀超微粒子分散液1を800g取り、そこにスターラー撹拌下で0.22mol/Lの塩化ナトリウム水溶液を100mL加え、塩化ナトリウムを銀に対しモル比で3.0%の比率で混合した。10分間の混合中、液温は20℃を維持した。その後遠心分離を行い、上澄みと銀超微粒子とを分離した後、純水を加えて再分散した。高沸点有機溶媒、増粘剤を加え銀濃度が45.0質量%のスクリーン印刷適性を有した銀超微粒子含有組成物2を129g得た。
【0047】
<厚膜の導電性パターンの形成>
水に硝酸(2.5部)とアルミナ水和物(平均一次粒子径15nm)を添加し、のこぎり歯状ブレード型分散機を用いて、固形分濃度30質量%の無機微粒子分散液を得た。無機微粒子分散液中に分散しているアルミナ水和物の平均二次粒子径は160nmであった。この無機微粒子分散液を用い、下記組成の多孔質層形成塗液を作製した。
【0048】
<多孔質層形成塗液>
無機微粒子分散液 (アルミナ水和物固形分として) 100g
ポリビニルアルコール 12g
(ケン化度88%、平均重合度3,500、分子量約150,000)
ホウ酸 0.5g
ノニオン性界面活性剤 0.3g
(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)
固形分濃度が16質量%になるように水で調整した。
【0049】
支持体として、易接着処理がなされた厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製)を用い、支持体上に上記多孔質層形成塗液をアルミナ水和物の固形分として30g/mとなるようにスライドビード方式を用いて塗布を行い、乾燥機により乾燥し、多孔質層を形成した。支持体上に形成された多孔質層の厚みは約40μmである。
【0050】
上記多孔質層上に、下記組成の導電性発現剤塗液を、斜線グラビアロールを用いた塗布方式を用いて塗布を行い、乾燥機により乾燥し、水溶性ハロゲン化物含有基材を得た。ここで用いた斜線グラビアロールは、直径60mm、斜線角度45度、線数90線/インチ、溝深さ110μmのグラビアロールであり、リバース回転で用いた。導電性発現剤塗液の湿分塗布量は、斜線グラビアロールの回転数を調整し20g/mに設定した。得られた水溶性ハロゲン化物含有基材は210mm×297mmのシート状に加工した。水銀ポロシメーターを用いて測定された空隙容量は23.0ml/mであった。
【0051】
<導電性発現剤塗液>
塩化ナトリウム 1.0g
水 99.0g
【0052】
水溶性ハロゲン化物含有基材に対し、銀超微粒子含有組成物1および2を用いスクリーン印刷により厚さ5μm、12μm、15μmのベタパターンをそれぞれ作製した。パターンの厚さは版の紗厚と乳剤厚を変更することで調節した。その後50℃80%Rh(重量絶対湿度H=0.067kg/kgD.A.)の高湿条件下にて5分間放置し、導電性パターン1〜6を得た。マイクロメーターを使用し、各導電性パターンの膜厚を測定した。
【0053】
銀超微粒子含有組成物1および2を用い、易接着処理がなされた厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製)上にスクリーン印刷により厚さ15μmのベタパターンをそれぞれ作製した。その後、20質量%塩化ナトリウム水溶液に1分間浸漬した後、水洗・乾燥させ導電性パターン7および8を得た。マイクロメーターを使用し、各導電性パターンの膜厚を測定した。
【0054】
銀超微粒子含有組成物1および2を用い、易接着処理がなされた厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製)上にスクリーン印刷により厚さ15μmのベタパターンをそれぞれ作製した。その後、パターンに対し20質量%塩化ナトリウム水溶液をスプレーノズルにより5分間噴霧した後、水洗・乾燥させ導電性パターン9および10を得た。マイクロメーターを使用し、各導電性パターンの膜厚を測定した。
【0055】
<導電性の評価>
導電性パターン1〜10それぞれについて、株式会社三菱化学アナリテック製ロレスターGPを用いて電気抵抗値を測定した。測定結果を各導電性パターンの膜厚測定結果とともに表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1の結果から明らかなように、本発明によって加熱する事なく厚膜のパターンに高い導電性を発現させる事が可能な金属超微粒子を製造出来る事が判る。また、本発明の効果が導電性パターンの厚みとして5μm以上、特に10μm以上の場合に顕著になる事が判る。
【0058】
《実施例2》
<金属超微粒子含有組成物の作製>
銀超微粒子分散液1を800g取り、そこにスターラー撹拌下で0.0075mol/Lの塩化ナトリウム水溶液を100mL加え、塩化ナトリウムを銀に対しモル比で0.10%の比率で混合した。10分間の混合中、液温は20℃を維持した。その後遠心分離を行い、上澄みと銀超微粒子とを分離した後、純水を加えて再分散した。高沸点有機溶媒、増粘剤を加え銀濃度が45.0質量%のスクリーン印刷適性を有した銀超微粒子含有組成物3を128g得た。
【0059】
銀超微粒子分散液1を800g取り、そこにスターラー撹拌下で0.015mol/Lの塩化ナトリウム水溶液を100mL加え、塩化ナトリウムを銀に対しモル比で0.20%の比率で混合した。10分間の混合中、液温は20℃を維持した。その後遠心分離を行い、上澄みと銀超微粒子とを分離した後、純水を加えて再分散した。高沸点有機溶媒、増粘剤を加え銀濃度が45.0質量%のスクリーン印刷適性を有した銀超微粒子含有組成物4を129g得た。
【0060】
銀超微粒子分散液1を800g取り、そこにスターラー撹拌下で0.11mol/Lの塩化ナトリウム水溶液を100mL加え、塩化ナトリウムを銀に対しモル比で1.5%の比率で混合した。10分間の混合中、液温は20℃を維持した。その後遠心分離を行い、上澄みと銀超微粒子とを分離した後、純水を加えて再分散した。高沸点有機溶媒、増粘剤を加え銀濃度が45.0質量%のスクリーン印刷適性を有した銀超微粒子含有組成物5を130g得た。
【0061】
銀超微粒子分散液1を800g取り、そこにスターラー撹拌下で0.40mol/Lの塩化ナトリウム水溶液を100mL加え、塩化ナトリウムを銀に対しモル比で5.4%の比率で混合した。10分間の混合中、液温は20℃を維持した。その後遠心分離を行い、上澄みと銀超微粒子とを分離した後、純水を加えて再分散した。高沸点有機溶媒、増粘剤を加え銀濃度が45.0質量%のスクリーン印刷適性を有した銀超微粒子含有組成物6を126g得た。
【0062】
銀超微粒子分散液1を800g取り、そこにスターラー撹拌下で0.52mol/Lの塩化ナトリウム水溶液を100mL加え、塩化ナトリウムを銀に対しモル比で7.0%の比率で混合した。10分間の混合中、液温は20℃を維持した。その後遠心分離を行い、上澄みと銀超微粒子とを分離した後、純水を加えて再分散した。高沸点有機溶媒、増粘剤を加え銀濃度が45.0質量%のスクリーン印刷適性を有した銀超微粒子含有組成物7を131g得た。
【0063】
銀超微粒子分散液1を800g取り、そこにスターラー撹拌下で0.67mol/Lの塩化ナトリウム水溶液を100mL加え、塩化ナトリウムを銀に対しモル比で9.0%の比率で混合した。10分間の混合中、液温は20℃を維持した。その後遠心分離を行い、上澄みと銀超微粒子とを分離した後、純水を加えて再分散した。高沸点有機溶媒、増粘剤を加え銀濃度が45.0質量%のスクリーン印刷適性を有した銀超微粒子含有組成物8を130g得た。
【0064】
銀超微粒子分散液1を800g取り、そこにスターラー撹拌下で0.22mol/Lの塩化カリウム水溶液を100mL加え、塩化カリウムを銀に対しモル比で3.0%の比率で混合した。10分間の混合中、液温は20℃を維持した。その後遠心分離を行い、上澄みと銀超微粒子とを分離した後、純水を加えて再分散した。高沸点有機溶媒、増粘剤を加え銀濃度が45.0質量%のスクリーン印刷適性を有した銀超微粒子含有組成物9を129g得た。
【0065】
銀超微粒子分散液1を800g取り、そこにスターラー撹拌下で0.22mol/Lの臭化ナトリウム水溶液を100mL加え、臭化ナトリウムを銀に対しモル比で3.0%の比率で混合した。10分間の混合中、液温は20℃を維持した。その後遠心分離を行い、上澄みと銀超微粒子とを分離した後、純水を加えて再分散した。高沸点有機溶媒、増粘剤を加え銀濃度が45.0質量%のスクリーン印刷適性を有した銀超微粒子含有組成物10を125g得た。
【0066】
銀超微粒子分散液1を800g取り、遠心分離による精製を行い、上澄みと銀超微粒子とを分離した。0.37mol/Lの塩化ナトリウム水溶液を60mL加え再分散を行い、塩化ナトリウムを銀に対してモル比で3.0%の比率で混合した。10分間の混合中、液温は20℃を維持した。その後精製せずに高沸点有機溶媒、増粘剤を加え銀濃度が45.0質量%のスクリーン印刷適性を有した銀超微粒子含有組成物11を130g得た。
【0067】
<厚膜の導電性パターンの形成>
銀超微粒子含有組成物3〜11を用い、易接着処理がなされた厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製)上にスクリーン印刷により厚さ15μmのベタパターンをそれぞれ作製した。その後、20質量%塩化ナトリウム水溶液に1分間浸漬した後、水洗・乾燥させ導電性パターン11〜19を得た。マイクロメーターを使用し、各導電性パターンの膜厚を測定した。
【0068】
<導電性の評価>
導電性パターン11〜19それぞれについて、株式会社三菱化学アナリテック製ロレスターGPを用いて電気抵抗値を測定した。測定結果を各導電性パターンの膜厚測定結果とともに表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
表2の結果から明らかなように、本発明によって加熱する事なく厚膜のパターンに高い導電性を発現させる事が可能な金属超微粒子を製造出来る事が判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中に平均粒径が0.1μm以下の金属超微粒子を分散させた分散液を得る工程、該分散液と水溶性ハロゲン化物とを、金属超微粒子に対する水溶性ハロゲン化物のモル比で0.15%以上8.0%以下の範囲内で混合する工程、および金属超微粒子の精製を行う工程、の3工程を少なくともこの順序に具備する金属超微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記金属超微粒子が、主に銀から成る事を特徴とする請求項1記載の金属超微粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の製造方法により製造された金属超微粒子を含む金属超微粒子含有組成物。

【公開番号】特開2012−197487(P2012−197487A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62495(P2011−62495)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】