鉄損最適化システム
【課題】軟磁性材料の透磁率や磁気抵抗率に対する、異方性と応力の影響を考慮に入れてマックスウェル方程式を解き鉄損を算出する鉄損最適化システムの計算時間を短縮する。
【解決手段】微小領域における軟磁性材料の予め定められた方向と磁束密度の方向との間の成す角度θおよび応力σを異方性のパラメータとして、H−B曲線を格納するデータベースとW−B曲線を格納するデータベースと、微小領域においてマックスウェル方程式に基づき、前記角度θ、および、磁束密度の大きさBを決定する磁束密度ベクトル決定手段と、微小領域の鉄損を計算する鉄損計算手段と、前記微小領域の鉄損の総和を求める鉄損総和手段とを有し、応力を磁束密度ベクトルBの方向の相当応力を使用することを特徴とする鉄損最適化システム。
【解決手段】微小領域における軟磁性材料の予め定められた方向と磁束密度の方向との間の成す角度θおよび応力σを異方性のパラメータとして、H−B曲線を格納するデータベースとW−B曲線を格納するデータベースと、微小領域においてマックスウェル方程式に基づき、前記角度θ、および、磁束密度の大きさBを決定する磁束密度ベクトル決定手段と、微小領域の鉄損を計算する鉄損計算手段と、前記微小領域の鉄損の総和を求める鉄損総和手段とを有し、応力を磁束密度ベクトルBの方向の相当応力を使用することを特徴とする鉄損最適化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板をはじめとする軟磁性材料の異方性および弾性圧縮応力による磁気特性劣化を考慮した応力・電磁場連成解析システムに関し、特に軟磁性材料の弾性圧縮応力に関する磁気特性の劣化の影響を最小化する電気機器の形状決定を高速に行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題に対する意識の高まりにより、受配電に使用される変圧器ならびに空調機やハイブリット自動車に使用されるモータに対し、鉄損や銅損に代表される損失の低減の要求が高まっている。それに対し、軟磁性材料として実用上多く使用されている電磁鋼板は、鋼板圧延方向からの角度、励磁方向への応力やさらに応力による曲げにより、励磁特性や鉄損特性が劣化する。このため、変圧器やモータ等の電気機器の性能を高精度に予測するためには、このような使用している材料の異方性や励磁方向への応力による磁気特性の劣化を考慮することが欠かせない。
【0003】
従来の弾性応力の影響評価方法は実機試作を前提としていたため、時間的、金銭的なコストがかかることに加え、形状を連続的に変更し試作することが困難であるため、電気機器設計時に損失最小となる最適形状を求めることが非常に困難であった。
【0004】
一方、従来よりマックスウエル方程式による電磁場解析法は、鋼板等の軟磁性材料の鉄損評価に用いられてきた。以下ここでは、軟磁性材料として実用上多く使用されている鋼板でもって代表的に説明することにする。非特許文献1に示されるように、電磁場解析には、コンピュータが使用され、鋼板の形状、計算のために分割された微小領域の大きさ、磁界Hに対する磁束密度B、周波数等は、コンピュータによる計算の解を求めるための物理量パラメータ条件として採用されている。即ち、これらの条件を考慮に入れて、マックスウエル方程式の計算機解が得られる。
【0005】
マックスウエル方程式の計算機解に、磁束密度Bに対応して測定された鉄損Wのデータ(W−B曲線)を考慮に加えて鉄損が求められている。例えば図1は、従来技術に基づいて実行される鉄損の数値計算ルーチンの流れを示すブロック図である。まず、鋼板の形状、微小領域分割、周波数等をパラメータとしてH−B曲線など、解を求めるための条件を与え、計算によってマックスウエル方程式の数値解を求める。磁束密度Bに対応して測定された、微小領域における鋼材の鉄損Wのデータ(W−B曲線)を上の数値解に与え、鋼板全体の損失Wを算出する。ここで、鋼板に作用する弾性圧縮応力の影響は無視され、鋼板に圧縮応力が加わっても磁気特性は変わらないと仮定している。
【0006】
特許文献1には、磁性体の予め与えられた方向と磁束密度の方向との間の角度θおよび応力σを異方性のパラメータとして磁束密度と磁界とを関係づける解析式およびデータに基づくH−B曲線、および、磁束密度と鉄損とを関係づける解析式およびデータに基づくW−B曲線を用いて磁束密度ベクトル決定手段と鉄損総和手段により、磁気特性を求める方法について記載されている。しかし、テンソル量である応力とベクトル量である磁束密度に対して、どのように異方性のパラメータとして関連つければよいかについての開示はなされていない。
【0007】
ここで、マックスウエル方程式の解法について簡単に説明する。公知の多くの文献から明らかなように、マックスウエル方程式は次式で与えられる。
【0008】
【数1】
【0009】
ここで、B、H、D、E、Jはそれぞれ磁束密度、磁界、電束密度、電界、電流密度である。また、ρは電荷密度である。B、H、D、E、Jの間には、次の関係がある。
【0010】
【数2】
【0011】
ここで、μ、ε、σはそれぞれ、透磁率、誘電率、導電率である。
【0012】
一方、非特許文献1によれば、電磁界に関する解析が詳細に記載されている。同文献よれば、∂D/∂tは無視されている。磁束の発散は常に零であるので、連続であり、ベクトルポテンシャルAが次式によって与えられている。
【0013】
【数3】
【0014】
これらの式から
【0015】
【数4】
【0016】
が得られている。従って、
【0017】
【数5】
【0018】
が得られる。ここで、−gradφ=E、J0は外部からの強制電流密度、Jeはうず電流密度、テンソル量で与えられる磁気抵抗率[ν]は、[ν]=1/[μ]である。(5)式は、ガラーキン法(Galerkin Method)により2次元的、及び3次元的に解かれる。実際には、透磁率は、一般的に圧縮応力の影響を受ける。しかし、従来の鉄損評価法では、透磁率が圧縮応力の影響を受けないと仮定して、数値解析が行われ、解が求められていた。
【0019】
また、H−B曲線は圧縮応力に対して影響がなく、一定であると仮定している。このようにして、与えられた磁界強度Hに対する微小領域ごとに求められた、H−B曲線から、各微小領域における磁束密度の分布が求められる。一方、磁束密度Bと鉄損Wの関係は圧縮応力σに対しては一定としており、W−B曲線の形でデータベースに格納されている。従って、上記数値計算によって求められた磁束密度分布をデータベースに格納されたW−B曲線に適用すれば、与えられた磁界強度Hに対する鋼板全体の鉄損が数値計算によって求められる。上記従来技術では、鉄損を求めるための電磁場解析において、透磁率は等方性とし、また、圧縮応力の影響を無視した透磁率でもって計算を行っているため、実際の鉄鋼材料において存在する透磁率の異方性や圧縮応力の影響が無視され、そのために実測値の計算値からの乖離が無視できず、鉄損を十分に評価できないという欠点があった。
【0020】
さらに、有限要素法による電磁界解析で解析精度を向上させるためには、解析対象を微小領域に分割することが必要で、微小領域に分割した解析対象を計算するためには、長時間の計算を余儀なくされている。さらに、何らかの最適化アルゴリズムを用いて制約条件の中での最適鉄損値をこの有限要素法での電磁界解析で求めるためには、1条件につき数週間オーダでの計算時間を必要とする。
【0021】
【特許文献1】特許3676761号公報
【非特許文献1】中田、高橋:「電気工学の有限要素法」(森北出版、1982)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
そこで、本発明は、このような従来技術の問題点を解決し、従来の解決方法を踏襲しながら、軟磁性材料の物性値パラメータに対する、異方性と圧縮応力の影響を考慮に入れた電磁場解析システムによる鉄損評価を高速に行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成するため、本発明による鉄損最適化システムは、軟磁性材料の電磁場解析対象領域を複数の微小領域に分割する領域分割手段と、該微小領域における磁性体の予め定められた方向と磁束密度Bの方向との間の成す角度θおよび軟磁性材料の応力σを異方性のパラメータとして、磁束密度Bと磁界Hとを関係付けるH−B曲線および磁束密度Bと鉄損Wとを関係付けるW−B曲線を格納するデータベースと、該データベースに格納されているH−B曲線を基にして、前記微小領域におけるマックスウエル方程式および応力σに基づいて、前記角度θおよび前記磁束密度Bの大きさを決定する磁束密度ベクトル決定手段と、前記データベースに格納されているW−B曲線を基にして、前記微小領域の鉄損Wを計算する鉄損計算手段と、前記微小領域の鉄損Wの総和を求める鉄損総和手段と、軟磁性材料に加わる応力σの値を低減させ、鉄損の総和を最小にするために軟磁性材料の形状を変更する形状変更手段と、鉄損の総和が最小であるか否かを判定する鉄損最適判定手段と、を有し、磁束密度ベクトル決定手段での計算を一度とし、鉄損最適計算は、磁束密度ベクトル決定手段の適用の結果得られる磁束密度分布を入力とし、形状変更手段、鉄損計算手段、鉄損総和手段、鉄損最適判定手段を用いて行うことを特徴とする。
【0024】
また、前記応力σを磁束密度の方向の相当応力とすることを特徴とする。
【0025】
また、前記磁束密度Bおよび磁界Hは、該磁束密度Bと磁界Hとの位相差θBHを考慮して関係付けられることを特徴とする。
【0026】
また、前記磁束密度Bは、時間高調波成分を含む磁束密度であることを特徴とする。
【0027】
さらに、前記磁束密度ベクトル決定手段は、前記応力σを算出する応力σ分布算出手段を備えることを特徴とする。
【0028】
さらに、前記磁束密度ベクトル決定手段は、前記微小領域における磁束密度ベクトルBを、その大きさBmaxと、前記の磁性体の予め定められた方向とのなす角度θとに分解し、前記H−B曲線から、前記角度θにおけるH−B曲線を導出し、前記微小領域における磁束密度およびその前記角度θ、磁界とが、その曲線上に存在するように、収束計算を行うことを特徴とする。
【0029】
さらに、前記H−B曲線およびW−B曲線は、前記応力σをパラメータとして、磁束密度と磁界の関係より磁界増分係数α(=Hσ/Hσ=0)、磁束密度と鉄損値の関係より鉄損増分係数β(Wσ/Wσ=0)を求め、前記応力σのときのH−B曲線およびW−B曲線に前記磁界増分係数αと鉄損増分係数βとを乗じて得られるH−B曲線およびW−B曲線であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、圧延による軟磁性材料の異方性と圧縮応力のH−B曲線およびW−B曲線への影響を考慮した鉄損の評価手段を見出し、電磁場解析システムとして具現化したものである。すなわち、本発明は鉄鋼材料の全領域を微小領域に分割し、分割された各微小領域に対して予め与えられた方向と磁束密度の方向との成す角度と、例えば、加工の影響で生じた応力の磁束密度方向の相当応力とをパラメータとして考慮に入れた鉄損データを、データベースから求めて計算し、更に各微小領域で求められた鉄損データの総和をとることにより、異方性が応力の影響の大きい材料であっても、磁束密度の異方性・応力影響や磁界に対する磁束密度の非直線性を意識しないで鉄損を評価計算することができる。さらに、鉄損と焼嵌め保持力を評価指標とした最適計算により、必要保持力を維持したまま鉄損最小となるコア形状最適化計算の実行も可能となる。また、磁束密度Bと磁界Hとの位相差θBH、時間高調波を考慮した電磁場解析を高速に行うことが出来るなど産業上有用な、著しい効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0032】
鉄鋼材料には鋼材の予め定められた方向、例えば圧延方向とそれに直角の方向とでは透磁率に異方性がある。このような鉄鋼材料の透磁率の異方性を考慮に入れれば、鉄損を精度よく評価することが可能となる。まず、電磁場解析の対象とする全領域を複数の微小領域に分割する。各微小領域の内部で透磁率が等方性を満足する場合は、各微小領域間で透磁率μ及び磁気抵抗率νや、予め定められた方向、例えば圧延方向と磁束密度Bの方向との間の成す角度θに差があっても容易に計算をすることができる。透磁率に異方性がある場合は、各微小領域にそれぞれ角度θとそれに対する透磁率を与えれば、コンピュータを利用してマックスウェル方程式の解を求めることができる。
【0033】
また、鉄鋼材料には、モータ製造工程の一つである焼嵌めやボルト固定により、鋼板に圧縮応力が印加されている場合が多く、この応力により、透磁率をはじめとした磁気特性が大きく変化する。このような鉄鋼材料の透磁率に対する応力の影響を考慮に入れれば、鉄損を精度よく評価することが可能となる。この場合、電磁場解析の対象とする全領域を複数の微小領域に分割し、各微小領域の内部で応力が一定であるとすれば、その微小区間内では同一の磁気特性、透磁率を用いても差し支えない。このように、各微小領域にそれぞれと応力とそれに対する透磁率の関係を与えれば、コンピュータを利用してマックスウェル方程式の解を求めることができる。
【0034】
図2は、鉄鋼材料の対象とする全領域を格子状の複数の微小領域に分割した模様を示す説明図である。図2において、鉄鋼材料は、1,2,3……,i,i+1,i+2,……,j,j+1,j+2,……,nの微小領域に分割してある。例えば、i番目の微小領域の磁束密度がΔBiであるとし、鉄損がwiであるとする。
【0035】
図2において分割された各微小領域の内部においては、透磁率μ及び磁気抵抗率νは一定の値であるとする。このようにすれば、有限要素法において、各微小領域間の境界では不連続であっても、領域内では一様なパラメータをもっていると考えることができる。従って、異方性・応力の影響や磁界に対する磁束密度の非直線性を有する鉄鋼材料の鉄損の計算においても、予め計算された各微小領域の鉄損の総和を求めることによって全体鉄損を容易に計算することができる。図2では、全体の鉄損W(watts)は
【0036】
【数6】
【0037】
で与えられる。ここで、wiは微小領域内の鉄損である。また、ΔBiの方向θと大きさΔBiは、各微小領域によってそれぞれ異なった値をとる。鉄損Wは磁束密度Bが大きい程、大きな値をとるが、必ずしも直線関係になるわけではない。上記領域分割は有限要素法が適用されることを前提にして実施したものであるが、差分法或いはその他、類似の計算方式に適用可能であることは云うまでもない。
【0038】
図3は、磁束密度の異方性を示す説明図である。以下応力だけでなく磁束密度の異方性をも考慮した場合についても考えてみる。RDは鋼板の圧延方向を(rolling direction)、TDはそれに直角な方向(transversal direction)である。磁束密度Bの方向と鋼板の圧延方向RDとの間の角度をθとすれば、H−B曲線及びW−B曲線のθ依存性は、例えば図4(a)、(b)に示すような形状で与えられる。ここで、鋼板の圧延方向の代わりに、任意の予め与えられた方向とすることも可能である。図4(a)、(b)はいずれも角度θの依存性を表したものであるが、複数葉のデータは更に応力σに対する依存性も示している。
【0039】
図4(a)、(b)では、θ=0°,15°,30°……のデータがH−B関数及びW−B関数として与えられているが、その他の角度θではデータが関数として与えられていない。この場合、θ=20°において求める必要のある磁束密度と磁界との関係は、θ=15°及びθ=30°におけるデータから求められた近似関数について、以下で詳細に述べる補間内挿して求めたり、ニュートンラプソン法によるテイラー展開からマックスウェル方程式との連成により繰り返し計算して求められる。一方、磁束密度が与えられたときの鉄損は、θ=15°及びθ=30°におけるデータから補間内挿して求められる。ここで、応力の変化が十分に無視できるほど小さい場合は、応力は一定であると仮定してかまわない。もし、応力σが十分に大きく変化する場合には、それぞれの応力に対応したH−B曲線及びW−B曲線を選択して繰り返し計算を実行する。ここで、H−B曲線及びW−B曲線は、データに基づいて求める方法について記したが、理論的に得られた解析式およびデータから得られた回帰式といった解析式を用いても構わない。
【0040】
次に図4(a)、(b)に含まれている応力σに対する依存性に関して少し詳細に説明する。例えば、図4(a)、(b)では、−20[MPa]<σ<0[MPa](応力の負の値は圧縮応力を示す)の範囲のデータを取り扱い、サンプル化された応力σの値に対するデータとして示している。従って、データの表に直接与えられていない応力に対する磁束密度や鉄損は、角度θの場合と同様にニュートンラプソン法によるテイラー展開から補間内挿して求められる。すなわち、(Bi,θi,σi)によって微小領域iにおける鉄損wiが求められる。
【0041】
例えば、図4(b)に示すσ=−20[MPa]のデータにおいて、θ=15°及び30°の曲線、及びB=1.0T(Tesla)及び1.2Tによって切断され、点ABCDによって囲まれた領域を仮定し、点P(θ=20°、B=1.1T)における鉄損を求めるものとする。まず、θ=15°及び30°の曲線から内挿近似によって級数展開を行い、θ=20°のW−B曲線を求める。次にB=1.0T及び1.2Tの直線(曲線でもよい。)によって上記θ=20°のW−B曲線を切断、B軸上の内挿によってB=1.1Tにおける点Pを確定する。確定された点Pの縦軸から鉄損Wを読取ることができる。実際の処理では、図4(b)のグラフはデータベース内に格納されているので、コンピュータのソフトウエア処理によって内挿計算を行い、鉄損を求めることができる。
【0042】
応力σの影響によってH−B曲線が変化することは、図4によって示したとおりである。例えば、コンプレッサ等で使用される凹型鉄芯は鋼板をせん断して成形され、70℃から90℃くらいに加熱された軟鋼製の円筒リングに挿入されることで焼嵌めにより固定され、電気機器である回転電機に使用される。円筒リングが常温まで冷却収縮することにより、凹型鉄芯は、内部に圧縮応力を受ける。
【0043】
図27は、凹型鉄芯における圧縮応力の磁束密度への影響例を示した説明図である。図27において、xは鋼板のある方向としての圧延方向(RD)、Bは磁束の接線方向であり磁束密度を表す、θはx方向と磁束密度Bとのなす角度を示す。空間上の指定された位置を決定すると、磁束密度ベクトルBが与えられ、応力σの値が決定される。すなわち、指定された空間位置において、H−B曲線より、(θ、σ)に対応する磁束密度Bが求められ、これによって、W−B曲線に(B、θ、σ)を適用することにより鉄損Wが算出される。空間位置に対応する応力は、構造力学の理論に従って有限要素法により算出することが可能である。
【0044】
図5は、磁束密度と磁界のベクトルの位相差を示す図である。図5において、磁界Hと磁束密度Bはベクトルで、その間に位相差θBHがある。このとき、磁気抵抗率νは簡略的に次式のようにモデル化できる。
【0045】
【数7】
【0046】
このとき、磁束密度ベクトルおよび磁界ベクトルは次式で表される。
【0047】
【数8】
【0048】
従って、磁気抵抗率νは、Bおよびθの関数として
【0049】
【数9】
【0050】
であらわされ、図6のようなH−B曲線から求めることができる。また、磁束密度Bと磁界Hとの位相差θBHも、Bおよびθの関数として
【0051】
【数10】
【0052】
で表されるので、図7のようなB−θBH曲線をデータベースとして用いることによりθBHを考慮した磁束密度ベクトルを決定することができる。
【0053】
図8は、磁束密度Bの時間的変化を示す図である。図8において、横軸は時間、縦軸は磁束密度を示している。例えば、磁界Hが正弦波であっても、磁束密度Bは正弦波とはならず時間高調波成分を含むため図8のような歪が生じているので、正確な電磁場解析を行うためにはこの時間高調波を考慮する必要がある。そこで、時間高調波成分を含んだ磁束密度Bをフーリエ級数展開し、その周波数ごとに図9のようなH−B曲線と図10のようなW−B曲線をデータベースとして用いることによって時間高調波成分を考慮した電磁場解析を行うことができる。このH−B曲線およびW−B曲線から磁気抵抗率νおよび鉄損Wは、B,θおよび周波数fの関数として、次式で与えられる。
【0054】
【数11】
【0055】
また、時間高調波成分を含んだ磁束密度Bをフーリエ級数展開すると、Bのx成分、y成分はそれぞれ次式で表される。
【0056】
【数12】
【0057】
これにより、高調波における第i番目の磁束密度ベクトルおよび、その位相差は次式によって定義できる。
【0058】
【数13】
【0059】
【数14】
【0060】
これによって、高調波成分における鉄損Wを次式によって求めることができる。
【0061】
【数15】
【0062】
このようにして、高調波成分を含む磁束密度ベクトルに基づいた鉄損Wを求めることができる。ここで求めたWは、高調波成分を考慮しない場合に比べて約30%大きな鉄損値となり、実機の鉄損との差も低減することから、より正確な電磁場解析が実現できる。
【0063】
図11に示すように、応力σ毎にH−B曲線およびW−B曲線を作成し、磁束密度Bおよび鉄損Wのデータベースを構築することにより、応力σを考慮した電磁場解析を行うことができる。このH−B曲線およびW−B曲線から、磁気抵抗率νおよび鉄損Wは、B,θ,σの関数として、次式で与えられる。
【0064】
【数16】
【0065】
上記計算処理のルーチンを図12に示す。図12において、1は領域分割手段、2は磁束密度決定手段、3は磁束密度及び鉄損のデータベース、4は補間内挿計算手段、5は微小領域内鉄損計算手段、6は鉄損総和手段、7は応力分布算出手段である。応力分布算出手段7は、コンピュータを用いた構造解析による解析結果や三次元形状測定装置の測定結果により微小領域内aiの応力分布σiを算出する。データベース3はH−B曲線を表すデータベース、及びW−B曲線を表すデータベースより成り立つ。H−B曲線は周波数に依存し、磁気抵抗率νは周波数の増加に伴って増加する。従って、マックスウェル方程式では、νによって鋼板の周波数特性を含ませている。領域分割手段1は鉄鋼材料の対象領域全体を複数の微小領域(i=1〜n)に分割する。鉄鋼材料が一様な厚さの平面状板材であれば、微小領域の形状を三角形とすることができ、この場合には有限要素法による計算の適用が容易となる。磁束密度ベクトル決定手段2には、応力分布算出手段7から算出された応力分布データを入力し、一方では領域分割手段1からの領域分割の結果、及びデータベース3からの(H−B曲線)のデータを入力する。磁束密度ベクトル決定手段2では、分割された領域ごとにニュートンラプソン法を用い、マックスウェル方程式との連成により、テイラー展開から磁束密度ベクトルの収束計算を実行する。
【0066】
即ち、領域分割手段1からの入力データを基にして、磁束密度ベクトル決定手段は微小領域aiで、鋼板の圧延方向RDと磁束密度の方向との間の角度θ、及び磁束密度の大きさBとを決定して、補間内挿計算手段4に与える。ここで、圧延方向の代わりに、予め与えられた任意の方向とすることもできる。磁束密度に対する磁界(H−B曲線)及び鉄損(W−B曲線)のデータベース3は、応力σの値をパラメータとして表したデータ別に複数葉に分けられたデータの表を格納し、各データの表には角度θに対するH−B曲線及びW−B曲線を格納している。データベース3に格納されているH−B曲線及びW−B曲線は、それぞれサンプル化して与えられた角度θと応力σに対応して、磁束密度と磁界、及び磁束密度と鉄損の関係を与えるものである。これらのデータは、予め測定されたデータをサンプル化された角度θと応力σの関数の形で保持している。
【0067】
従って、任意の角度θと応力σに対する磁束密度Bと損失Wの関係は、補間内挿計算手段4により補間内挿法として、ニュートンラプソン法を使い、繰り返し計算を実行して求める。鉄鋼材料の鉄損データ(W−B曲線)は、データベースから補間内挿計算手段4に提供される。次にデータベース3からのW−B曲線のデータを利用し、補間内挿計算手段4によって求められた微小領域ai内の磁束密度Bと角度θを使い、微小領域鉄損計算手段5によって鉄損wiを計算する。そこで、鉄損総和手段6は、微小領域ai内の鉄損wiの総和Wを求める。このようにして、異方性をもった鉄鋼材料の鉄損が具体的に数値計算によって求められる。
【0068】
図13では、具体的実測に基づいたH−B曲線データについて、異方性を考慮した鉄鋼材料の鉄損計算ルーチンを示した。このルーチンによって実行されるマックスウェル方程式の解は、理論モデルにより次のように精度よく求められる。すなわち、ベクトルポテンシャルAを用いて電流密度J0を表すと、次式が得られる。
【0069】
【数17】
【0070】
νをテンソル表示し、二次元場の式で表すと次式が得られる。
【0071】
【数18】
【0072】
これに対応した汎関数χは次式で与えられる。
【0073】
【数19】
【0074】
これを要素eにおける値で表し、要素eを構成する節点ieのポテンシャルで偏微分すると、
【0075】
【数20】
【0076】
が得られる。そこで、
【0077】
【数21】
【0078】
が有限要素法で解くべき方程式である。
【0079】
ここで、nuが未知節点の総数である。そこで、ニュートンラプソン法を適用するために書き直すと、次式が得られる。
【0080】
【数22】
【0081】
このマトリックスを解くことにより得られたk回目のδAjが求められれば、k+1回目の反復で得られる節点iでのポテンシャルの近似解
【0082】
【数23】
【0083】
が得られる。ただし、
【0084】
【数24】
【0085】
さらに解析を行うと、次式が得られる。
【0086】
【数25】
【0087】
上記の解析に従えば、テンソルで表された磁気抵抗率が解析モデルによる数値計算により求められる。具体的計算ルーチンの一例を図13に示す。図13に示したように、最初のステップS61において時刻を0にセットする。
【0088】
次に、S62で、
【0089】
【数26】
【0090】
の初期値を設定する。ここで、t=0のときは、
【0091】
【数27】
【0092】
t>0のときは、
【0093】
【数28】
【0094】
と、一つ前の時刻の値を用いる。次にS63で、式26に基づき、剛性マトリックス[K]、荷重ベクトル[F]の計算を行う。これにより、S64で、式29に基づき、δA(k,t)を計算する。これにより、S65で、k+1でのベクトルポテンシャル
【0095】
【数29】
【0096】
を計算する。
【0097】
S66で、ベクトルポテンシャルに基づき、式3より、磁束密度ベクトルBを求める。そこで、S67で、収束判定
【0098】
【数30】
【0099】
を行い、所定の収束性を満たしておれば、S71に進む。もし、収束性が不十分であれば、S68に進む。S68で、磁束密度ベクトルを、
【0100】
【数31】
【0101】
で、最大値とある方向の角度に分解する。そこで、S69で、予めデータベースにある異方性を考慮したH−B曲線より、その角度θ(k,t)における磁束密度と磁界の関係が分かり、それにより、磁気抵抗率νを求めることができる。ここでのH−B曲線は、その微小領域における応力におけるH−B曲線であり、この応力を考慮したH−B曲線を用いることで、異方性および応力を考慮した磁束密度を得ることができる。
【0102】
これにより、
【0103】
【数32】
【0104】
の計算を行うことができる。これらは、S63で用いる剛性マトリックス、荷重ベクトルを求めるのに使用される。S71でkをひとつ進める。そして、S63に進み、計算を続ける。S63−S70までの計算は、すべての領域について計算を行う。この収束計算を行うことで、各微小領域において応力を考慮したH−B曲線上にのった磁束密度ベクトルを計算することができ、応力を考慮した計算ができる。S67で収束していたら、S71で時刻を一つ進めて、S62に向かう。この計算は、複数周期実行し、1周期分収束するまで計算を続ける。収束したら、S72に進み、鉄損の計算を行う。図13よりマックスウェル方程式の数値解から応力を考慮した磁気抵抗率νがテンソル量として精度よく与えられているので、H−B曲線が精度よく解析される。
【0105】
次に、磁界増分係数αおよび鉄損増分係数βを用いてH−B曲線、W−B曲線を求める方法について述べる。そもそも、すべての鋼材、異方性を考慮した場合に対してH−B曲線、W−B曲線を求めることは通常大変なことであり、何らかの簡易計算が必要となる。ここでは、基本となる、H−B曲線、W−B曲線があった場合に、他の鋼材、異方性を考慮した特性を得る方法について述べる。
【0106】
図14は、実験から求められる磁束密度をパラメータとした応力と磁界の関係図の一例である。磁束密度B1からB3に対して、応力を0(応力なし)から−50[MPa]まで変更したときの磁界特性を示している。このとき、磁束密度Bをパラメータとして磁界増分係数α(=Hσ/Hσ=0)(ここで、Hσ=0:応力0のときの磁界、Hσ:応力σのときの磁界)が、図14上の各点に対して求めることができる。このデータに対し、応力をパラメータにして、磁束密度−磁界増分係数αの関係を示したのが図15である。実測結果を尊重し、磁界増分係数αの磁束密度に対する関係は、測定生データを用いた。磁界増分係数αの場合、特性上B=0の近傍では、α=1となり、磁束密度Bが大きくなるにつれてαは大きくなるが、磁束密度が飽和する2T近傍では再びα=1となる。ここで、磁界増分係数αの磁束密度に対する関係式は生データを用いたが、測定生データのバラツキの影響を排除する意味合いから、測定生データの代わりに回帰式を用いても構わない。
【0107】
図16は、実験から求められる磁束密度をパラメータとした応力と鉄損との関係図の一例である。磁束密度B1からB4に対して、応力を0から−50[MPa]までかけた時の鉄損特性を示している。このとき、磁束密度Bをパラメータにして鉄損増分係数β(=Wσ/Wσ=0)(ここで、Wσ=0:応力0のときの鉄損、Wσ:応力σのときの鉄損)が、図16上の各点に対して求めることができる。これのデータに対して、応力をパラメータとして磁束密度−鉄損増分係数βの関係にしたのが、図17である。
【0108】
ここで、鉄損増分係数βの磁束密度に対する関係は、測定生データを用いたが、測定生データのバラツキの影響を排除する意味合いから、測定生データの代わりに回帰式を用いても構わない。
【0109】
このとき、図18の点線のように、応力0のときのH−B曲線が与えられたときに、点線上のある磁束密度に対して下記の式で、応力σとなったときの磁界Hσを求めることができる。
【0110】
【数33】
【0111】
これを、応力0のときの、H−B曲線のすべての磁束密度に対して計算すれば、応力ありのときのH−B曲線を求めることができる。これを図18上では、実線で示している。
【0112】
一方、図19の点線のように、応力0のW−B曲線が与えられたときに、点線上のある磁束密度に対して下記の式で、応力σとなったときの鉄損Wσを求めることができる。
【0113】
【数34】
【0114】
これを、応力0のときのW−B曲線のすべての磁束密度に対して計算すれば、応力ありのときのW−B曲線を求めることができる。これを図19では、実線で示している。
【0115】
次に、形状変更手段と鉄損最適判定手段を用いて鉄損値の最適値を算出する方法について説明する。本発明の対象となる鉄損の最適値を算出する電気機器の一例として、図21に示す電動機を考えるが、他の極数、ならびにスロット数の電動機ならびに変圧器でも同様である。
【0116】
図21のステータコア16は、周囲を胴シェル(図示せず)により焼嵌めされて使用されることがある。この焼嵌めによりステータコア16は、圧縮応力分布を受け、その結果ステータコア16内の磁束密度分布が変化するとともに、圧縮応力による磁気特性の劣化により、鉄損が増加する。
【0117】
図23に示すように、最適形状を検討に際しては、ステータコアの形状ならびに接触位置の中心角θ1の初期値を設定する。領域分割手段1にてステータコア16、ロータ17、周囲の領域(図示せず)を微小領域に分割した後、マックスウェル方程式に基づく磁束密度ベクトル決定手段2により、磁束ベクトル分布を決定した後、微小領域内鉄損計算手段5、鉄損総和手段6を経て応力なしでの鉄損値を得る。この鉄損値は、電磁場解析の結果得られた磁束密度分布に対して、応力0のW−B曲線と参照することにより求めた。
【0118】
その後、応力解析23により、焼嵌めによる応力分布を計算する。応力解析は、市販ソフトABAQUSやMARC等を用いて求解すればよい。応力解析は、入力データとして、ステータコア形状、焼嵌めシェル厚、ステータコアに使用した電磁鋼板や焼嵌めシェルのヤング率、焼嵌め時の温度を用いて、有限要素法により求解した後、焼嵌め後のステータコアにかかる応力分布を出力値とした。ここで得られた応力分布より、相当応力計算手段22により、微小領域ai毎の相当応力σξiを得る。相当応力σξiは、以下の式により算出される。
【0119】
【数35】
【0120】
ただし、δ:磁化容易軸と全体座標系のなす角(rad)、φ:磁化容易軸と磁束密度ベクトルのなす角(rad)、σξ:磁束密度方向の相当応力(MPa)、σx:x軸方向の応力(MPa)、σy:y軸方向の応力(MPa)、τxy:xy平面のせん断応力(MPa)である。
【0121】
この結果求められた微小領域ai毎の相当応力σξiに応じて、図4(a)に示す応力毎のH−B曲線を適用し、さらにマックスウェル方程式に基づく磁束密度ベクトル決定手段2により焼嵌め応力を考慮した磁束密度ベクトルを得る。この焼嵌め応力を考慮した磁束密度ベクトルより、図4(b)に示す応力毎のW−B曲線を適用し、微小領域鉄損手段5、鉄損総和手段6により鉄損値を得る。この鉄損値が最小値であるか否かならびに焼嵌めによるステータの保持力が基準値を満たしているかを判断基準として鉄損最適判定手段24にて判定する。結果が非最適解である場合は、形状変更手段であるパラメータ修正手段21に戻り、最適解が求められるまでこの作業を続ける。パラメータ修正手段21のパラメータ修正の考え方は、線形計画法、遺伝的アルゴリズムや非線形計画法、組み合わせ最適化のような他の最適化手法を用いて行う。
【0122】
図20は、本発明のハードウエア構成を例示する図である。本発明における電磁場解析システムを実現するハードウエアは、スタンドアローン式のコンピュータと、十分な記憶容量を有するハードディスクでもよいが、多くのユーザが使用できる環境を整えるためには、図20のようなネットワークコンピュータと専用サーバから構成される方が好ましい。この構成により、ユーザ自身のコンピュータ端末からネットワークコンピュータに格納された本発明の電磁場解析システムに接続し、電磁場解析に必要な解析条件を入力することにより、ネットワークを通じて、本発明の電磁場解析システムが行った電磁場解析結果として、鉄損の評価情報を受け取ることができる。
【実施例】
【0123】
図21に示す、外径φ200mm、内径φ130mm、積厚70mmのステータコア16に対して、外径φ129mm、積厚70mmの6極のロータ17を挿入したモータに対して、1スロットあたりの励磁電流1100ATrms、50Hzの三相交流を励磁し、供試材は35A300とした条件での電磁場解析により、本発明の有効性を確認した。
【0124】
焼嵌め時の応力を考慮するため、焼嵌め条件を板厚2.8mmのSS400製の焼嵌めシェル(図示せず)を常温でのステータコア外径と常温での焼嵌めシェルの内径の差で示される焼嵌め代を直径で300μmとした。また、ステータコアと焼嵌めシェルの接触位置を図21で示す接触位置の中心角θ1で表現し、この接触位置を変更することで、必要な保持力を維持したまま、最適な鉄損を得ることができる形状を最適計算にて求める。この接触位置は、極数に応じた60°の回転対称となっている。よって、ステータコアと胴シェルは、12箇所で接触していることになる。
【0125】
まず、比較例1として、図22のブロック図で示す計算手順で最適計算を実行した。その際、接触位置の中心角θ1の初期値を50°と設定した。
【0126】
始めに、領域分割手段1にてステータコア16、ロータ17、周囲の領域(図示せず)を微小領域に分割した後、マックスウェル方程式に基づく磁束密度ベクトル決定手段2により、磁束ベクトル分布を決定した後、微小領域内鉄損計算手段5、鉄損総和手段6を経て応力なしでの鉄損値を得る。この鉄損値は、電磁場解析の結果得られた磁束密度分布に対して、応力0のW−B曲線と参照することにより求めた。
【0127】
その後、応力解析23により、焼嵌めによる応力分布を計算する。応力解析は、入力データとして、ステータコア形状、焼嵌めシェル厚、ステータコアに使用した電磁鋼板や焼嵌めシェルのヤング率、焼嵌め時の温度を用いて、有限要素法を用いた市販ソフトABAQUSを用いて求解した後、焼嵌め後のステータコアにかかる応力分布を出力値とした。ここで得られた応力分布より、相当応力計算手段22により、微小領域ai毎の相当応力σξiを得る。相当応力σξiは、以下の式により算出される。
【0128】
【数36】
【0129】
ただし、δ:磁化容易軸と全体座標系のなす角(rad)、φ:磁化容易軸と磁束密度ベクトルのなす角(rad)、σξ:磁束密度方向の相当応力(MPa)、σx:x軸方向の応力(MPa)、σy:y軸方向の応力(MPa)、τxy:xy平面のせん断応力(MPa)である。
【0130】
この結果求められた微小領域ai毎の相当応力σξiに応じて、図4(a)に示す応力毎のH−B曲線を適用し、さらにマックスウェル方程式に基づく磁束密度ベクトル決定手段2により焼嵌め応力を考慮した磁束密度ベクトルを得る。この焼嵌め応力を考慮した磁束密度ベクトルより、図4(b)に示す応力毎のW−B曲線を適用し、微小領域鉄損手段5、鉄損総和手段6により鉄損値を得る。この鉄損値が最小値であるか否かならびに焼嵌めによるステータの保持力が基準値を満たしているかを判断基準として鉄損最適判定手段24にて判定する。結果が非最適解である場合は、形状変更手段であるパラメータ修正手段21に戻り、最適解が求められるまでこの作業を続ける。
【0131】
パラメータ修正手段21のパラメータ修正の考え方は、線形計画法を用いて行った。このパラメータ修正の方法は、線形計画法のみで実現されるものではなく、遺伝的アルゴリズムや非線形計画法、組み合わせ最適化のような他の最適化手法でも構わない。さらに、今回、形状変更手段としてのパラメータ修正手段で最適値を算出した、ステータコアと焼嵌めシェルの接触位置を図21で示す接触位置の中心角θ1としたが、使用するパラメータは、θ1に限らないし、形状変更手段は、ステータコアの形状パラメータを変更するパラメータ修正手段に限らない。
【0132】
その結果、図24に示すような接触角と鉄損比の関係を得た。この図24は、得られた結果の代表点をプロットしたものである。必要保持力を満たした中で最適な鉄損値は、接触角25°と算出された。この計算を実行するのに、2.8GHzのCPUを持つ計算機にて305時間の計算時間かかった。この最適形状と同じ形状でモータコアを製作し、同一運転条件で動作させた際の鉄損値と比較したところ、97%の値であった。
【0133】
次に、実施例1として、図23のブロック図で示す計算手順で最適計算を実行した。その際、接触位置の中心角θ1の初期値を50°と設定した。実施例の特徴は、計算時間がかかるマックスウェル方程式に基づく磁束密度ベクトル決定手段2の計算を応力なし条件の1回のみ行い、以降接触角を変更しても同一の磁束密度ベクトルであるとする点である。
【0134】
始めに、領域分割手段1にてステータコア16、ロータ17、周囲の領域(図示せず)を微小領域に分割した後、マックスウェル方程式に基づく磁束密度ベクトル決定手段2により、磁束ベクトル分布を決定する。この磁束密度ベクトルを以降最適計算を実行する際の磁束密度ベクトルとする。
【0135】
その後、応力解析23により、焼嵌めによる応力分布を計算する。応力解析は、入力データとして、ステータコア形状、焼嵌めシェル厚、ステータコアに使用した電磁鋼板や焼嵌めシェルのヤング率、焼嵌め時の温度を用いて、有限要素法を用いた市販ソフトABAQUSを用いて求解した後、焼嵌め後のステータコアにかかる応力分布を出力値とした。ここで得られた応力分布より、相当応力計算手段22により、微小領域ai毎の相当応力σξiを得る。相当応力σξiは、以下の式により算出される。
【0136】
【数37】
【0137】
ただし、δi:磁化容易軸と全体座標系のなす角(rad)、φi:磁化容易軸と磁束密度ベクトルのなす角(rad)、σξ:磁束密度方向の相当応力(MPa)、σxi:x軸方向の応力(MPa)、σyi:y軸方向の応力(MPa)、τxiyi:xy平面のせん断応力(MPa)である。
【0138】
前記磁束密度ベクトルより、図4(b)に示す応力毎のW−B曲線を適用し、微小領域鉄損手段5、鉄損総和手段6により鉄損値を得る。この鉄損値が最小値であるか否かならびに焼嵌めによるステータの保持力が基準値を満たしているかを判断基準として鉄損最適判定手段24にて判定する。結果が非最適解である場合は、形状変更手段であるパラメータ修正手段21に戻り、最適解が求められるまで応力解析23以降の作業を続ける。
【0139】
パラメータ修正手段21のパラメータ修正の考え方は、線形計画法を用いて行った。このパラメータ修正の方法は、線形計画法のみで実現されるものではなく、遺伝的アルゴリズムや非線形計画法、組み合わせ最適化のような他の最適化手法でも構わない。さらに、今回、形状変更手段としてのパラメータ修正手段で最適値を算出した、ステータコアと焼嵌めシェルの接触位置を図21で示す接触位置の中心角θ1としたが、使用するパラメータは、θ1に限らないし、形状変更手段は、ステータコアの形状パラメータを変更するパラメータ修正手段に限らない。
【0140】
このことにより、最適計算の時間短縮化が実現できる。前述した応力解析23、相当応力計算手段22、補間内挿計算手段4、微小領域鉄損計算手段5、鉄損総和手段6、鉄損最適判定手段24により、ステータの保持力を基準値以上かつ最小の鉄損値を満たすコア形状を求めた。その結果は、図24である。比較例1と実施例1それぞれの接触角と鉄損比、保持力比はほぼ同一の結果を得た。この同一の結果を得るのに2.8GHzのCPUを持つ8時間であった。この解析で求めた鉄損値と同一条件での鉄損結果との比は、0.95であった。比較例1より実験結果と差が生じている理由は、磁束密度分布が焼嵌め応力のない条件のものを使用しているため、実際のものと若干異なっていることが原因と考えられる。しかしながら、本手法は、図26に示すように計算時間が従来の1/38であるにもかかわらず、計算精度は、図25に示すように、実験結果ならびに従来手法と同等であるということが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】従来技術に基づいて実行される鉄損の数値計算ルーチンの流れを示すブロック図である。
【図2】鉄鋼材料の対象とする全領域を格子状の複数の微小領域に分割した模様を示す説明図である。
【図3】磁束密度の異方性を示す説明図である。
【図4】応力に対する依存性を複数葉のグラフで与えることにより、H−B曲線及びW−B曲線の角度θ依存性及び応力σ依存性を示すグラフ図である。
【図5】磁束密度と磁界のベクトルの位相差を示す図である。
【図6】本発明に用いるH−B曲線を示す図である。
【図7】本発明に用いるB−θBH曲線を示す図である。
【図8】磁束密度Bの時間的変化を示す図である。
【図9】本発明に用いるH−B曲線を示す図である。
【図10】本発明に用いるW−B曲線を示す図である。
【図11】本発明に用いるH−B曲線ならびにW−B曲線を示す図である。
【図12】従来技術の異方性を考慮した鉄鋼材料の鉄損計算ルーチンを示すブロック図である。
【図13】マックスウェル方程式により磁気抵抗率νをテンソルとして精度よく求めるルーチンを示す説明図である。
【図14】実験から求められる磁束密度をパラメータとした応力と磁界の関係図の一例である。
【図15】図14より求めた応力をパラメータとした磁束密度と磁界増分係数との関係図の一例である。
【図16】実験から求められる磁束密度をパラメータとした応力と鉄損との関係図の一例である。
【図17】図16より求めた応力をパラメータとした磁束密度と鉄損増分係数との関係図の一例である。
【図18】図15より求めた応力ありの場合におけるH−B曲線の一例を示す図である。
【図19】図17より求めた応力ありの場合におけるW−B曲線の一例を示す図である。
【図20】本発明のハードウエア構成を例示する図である。
【図21】実施例で使用した最適化計算前ステータコアの概形を示す図である。
【図22】応力印加時鉄損最小化計算の従来の計算手法を示すブロック図(比較例1)である。
【図23】本実施例に示す応力印加時鉄損最小化高速計算ルーチンを示すブロック図である。
【図24】本実施例1ならびに比較例1におけるステータと焼き嵌めリング接触角と鉄損値と固定力との関係を示す図である。
【図25】従来手法と本実施例の最適計算後の鉄損値を示す図である。
【図26】従来手法と本実施例の最適化計算にかかった時間を示す図である。
【図27】鉄芯における応力の磁束密度への影響例を示した説明図である。
【符号の説明】
【0142】
1 領域分割手段
2 磁束密度ベクトル決定手段
3 磁束密度及び鉄損のデータベース
4 補間内挿計算手段
5 微小領域内鉄損計算手段
6 鉄損総和手段
7 応力分布算出手段
11 凹型鉄芯
12 円筒リング
16 ステータコア
17 ロータ
21 パラメータ修正手段(形状変更手段)
22 相当応力計算手段
23 応力計算手段
24 鉄損最適判定手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板をはじめとする軟磁性材料の異方性および弾性圧縮応力による磁気特性劣化を考慮した応力・電磁場連成解析システムに関し、特に軟磁性材料の弾性圧縮応力に関する磁気特性の劣化の影響を最小化する電気機器の形状決定を高速に行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題に対する意識の高まりにより、受配電に使用される変圧器ならびに空調機やハイブリット自動車に使用されるモータに対し、鉄損や銅損に代表される損失の低減の要求が高まっている。それに対し、軟磁性材料として実用上多く使用されている電磁鋼板は、鋼板圧延方向からの角度、励磁方向への応力やさらに応力による曲げにより、励磁特性や鉄損特性が劣化する。このため、変圧器やモータ等の電気機器の性能を高精度に予測するためには、このような使用している材料の異方性や励磁方向への応力による磁気特性の劣化を考慮することが欠かせない。
【0003】
従来の弾性応力の影響評価方法は実機試作を前提としていたため、時間的、金銭的なコストがかかることに加え、形状を連続的に変更し試作することが困難であるため、電気機器設計時に損失最小となる最適形状を求めることが非常に困難であった。
【0004】
一方、従来よりマックスウエル方程式による電磁場解析法は、鋼板等の軟磁性材料の鉄損評価に用いられてきた。以下ここでは、軟磁性材料として実用上多く使用されている鋼板でもって代表的に説明することにする。非特許文献1に示されるように、電磁場解析には、コンピュータが使用され、鋼板の形状、計算のために分割された微小領域の大きさ、磁界Hに対する磁束密度B、周波数等は、コンピュータによる計算の解を求めるための物理量パラメータ条件として採用されている。即ち、これらの条件を考慮に入れて、マックスウエル方程式の計算機解が得られる。
【0005】
マックスウエル方程式の計算機解に、磁束密度Bに対応して測定された鉄損Wのデータ(W−B曲線)を考慮に加えて鉄損が求められている。例えば図1は、従来技術に基づいて実行される鉄損の数値計算ルーチンの流れを示すブロック図である。まず、鋼板の形状、微小領域分割、周波数等をパラメータとしてH−B曲線など、解を求めるための条件を与え、計算によってマックスウエル方程式の数値解を求める。磁束密度Bに対応して測定された、微小領域における鋼材の鉄損Wのデータ(W−B曲線)を上の数値解に与え、鋼板全体の損失Wを算出する。ここで、鋼板に作用する弾性圧縮応力の影響は無視され、鋼板に圧縮応力が加わっても磁気特性は変わらないと仮定している。
【0006】
特許文献1には、磁性体の予め与えられた方向と磁束密度の方向との間の角度θおよび応力σを異方性のパラメータとして磁束密度と磁界とを関係づける解析式およびデータに基づくH−B曲線、および、磁束密度と鉄損とを関係づける解析式およびデータに基づくW−B曲線を用いて磁束密度ベクトル決定手段と鉄損総和手段により、磁気特性を求める方法について記載されている。しかし、テンソル量である応力とベクトル量である磁束密度に対して、どのように異方性のパラメータとして関連つければよいかについての開示はなされていない。
【0007】
ここで、マックスウエル方程式の解法について簡単に説明する。公知の多くの文献から明らかなように、マックスウエル方程式は次式で与えられる。
【0008】
【数1】
【0009】
ここで、B、H、D、E、Jはそれぞれ磁束密度、磁界、電束密度、電界、電流密度である。また、ρは電荷密度である。B、H、D、E、Jの間には、次の関係がある。
【0010】
【数2】
【0011】
ここで、μ、ε、σはそれぞれ、透磁率、誘電率、導電率である。
【0012】
一方、非特許文献1によれば、電磁界に関する解析が詳細に記載されている。同文献よれば、∂D/∂tは無視されている。磁束の発散は常に零であるので、連続であり、ベクトルポテンシャルAが次式によって与えられている。
【0013】
【数3】
【0014】
これらの式から
【0015】
【数4】
【0016】
が得られている。従って、
【0017】
【数5】
【0018】
が得られる。ここで、−gradφ=E、J0は外部からの強制電流密度、Jeはうず電流密度、テンソル量で与えられる磁気抵抗率[ν]は、[ν]=1/[μ]である。(5)式は、ガラーキン法(Galerkin Method)により2次元的、及び3次元的に解かれる。実際には、透磁率は、一般的に圧縮応力の影響を受ける。しかし、従来の鉄損評価法では、透磁率が圧縮応力の影響を受けないと仮定して、数値解析が行われ、解が求められていた。
【0019】
また、H−B曲線は圧縮応力に対して影響がなく、一定であると仮定している。このようにして、与えられた磁界強度Hに対する微小領域ごとに求められた、H−B曲線から、各微小領域における磁束密度の分布が求められる。一方、磁束密度Bと鉄損Wの関係は圧縮応力σに対しては一定としており、W−B曲線の形でデータベースに格納されている。従って、上記数値計算によって求められた磁束密度分布をデータベースに格納されたW−B曲線に適用すれば、与えられた磁界強度Hに対する鋼板全体の鉄損が数値計算によって求められる。上記従来技術では、鉄損を求めるための電磁場解析において、透磁率は等方性とし、また、圧縮応力の影響を無視した透磁率でもって計算を行っているため、実際の鉄鋼材料において存在する透磁率の異方性や圧縮応力の影響が無視され、そのために実測値の計算値からの乖離が無視できず、鉄損を十分に評価できないという欠点があった。
【0020】
さらに、有限要素法による電磁界解析で解析精度を向上させるためには、解析対象を微小領域に分割することが必要で、微小領域に分割した解析対象を計算するためには、長時間の計算を余儀なくされている。さらに、何らかの最適化アルゴリズムを用いて制約条件の中での最適鉄損値をこの有限要素法での電磁界解析で求めるためには、1条件につき数週間オーダでの計算時間を必要とする。
【0021】
【特許文献1】特許3676761号公報
【非特許文献1】中田、高橋:「電気工学の有限要素法」(森北出版、1982)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
そこで、本発明は、このような従来技術の問題点を解決し、従来の解決方法を踏襲しながら、軟磁性材料の物性値パラメータに対する、異方性と圧縮応力の影響を考慮に入れた電磁場解析システムによる鉄損評価を高速に行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成するため、本発明による鉄損最適化システムは、軟磁性材料の電磁場解析対象領域を複数の微小領域に分割する領域分割手段と、該微小領域における磁性体の予め定められた方向と磁束密度Bの方向との間の成す角度θおよび軟磁性材料の応力σを異方性のパラメータとして、磁束密度Bと磁界Hとを関係付けるH−B曲線および磁束密度Bと鉄損Wとを関係付けるW−B曲線を格納するデータベースと、該データベースに格納されているH−B曲線を基にして、前記微小領域におけるマックスウエル方程式および応力σに基づいて、前記角度θおよび前記磁束密度Bの大きさを決定する磁束密度ベクトル決定手段と、前記データベースに格納されているW−B曲線を基にして、前記微小領域の鉄損Wを計算する鉄損計算手段と、前記微小領域の鉄損Wの総和を求める鉄損総和手段と、軟磁性材料に加わる応力σの値を低減させ、鉄損の総和を最小にするために軟磁性材料の形状を変更する形状変更手段と、鉄損の総和が最小であるか否かを判定する鉄損最適判定手段と、を有し、磁束密度ベクトル決定手段での計算を一度とし、鉄損最適計算は、磁束密度ベクトル決定手段の適用の結果得られる磁束密度分布を入力とし、形状変更手段、鉄損計算手段、鉄損総和手段、鉄損最適判定手段を用いて行うことを特徴とする。
【0024】
また、前記応力σを磁束密度の方向の相当応力とすることを特徴とする。
【0025】
また、前記磁束密度Bおよび磁界Hは、該磁束密度Bと磁界Hとの位相差θBHを考慮して関係付けられることを特徴とする。
【0026】
また、前記磁束密度Bは、時間高調波成分を含む磁束密度であることを特徴とする。
【0027】
さらに、前記磁束密度ベクトル決定手段は、前記応力σを算出する応力σ分布算出手段を備えることを特徴とする。
【0028】
さらに、前記磁束密度ベクトル決定手段は、前記微小領域における磁束密度ベクトルBを、その大きさBmaxと、前記の磁性体の予め定められた方向とのなす角度θとに分解し、前記H−B曲線から、前記角度θにおけるH−B曲線を導出し、前記微小領域における磁束密度およびその前記角度θ、磁界とが、その曲線上に存在するように、収束計算を行うことを特徴とする。
【0029】
さらに、前記H−B曲線およびW−B曲線は、前記応力σをパラメータとして、磁束密度と磁界の関係より磁界増分係数α(=Hσ/Hσ=0)、磁束密度と鉄損値の関係より鉄損増分係数β(Wσ/Wσ=0)を求め、前記応力σのときのH−B曲線およびW−B曲線に前記磁界増分係数αと鉄損増分係数βとを乗じて得られるH−B曲線およびW−B曲線であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、圧延による軟磁性材料の異方性と圧縮応力のH−B曲線およびW−B曲線への影響を考慮した鉄損の評価手段を見出し、電磁場解析システムとして具現化したものである。すなわち、本発明は鉄鋼材料の全領域を微小領域に分割し、分割された各微小領域に対して予め与えられた方向と磁束密度の方向との成す角度と、例えば、加工の影響で生じた応力の磁束密度方向の相当応力とをパラメータとして考慮に入れた鉄損データを、データベースから求めて計算し、更に各微小領域で求められた鉄損データの総和をとることにより、異方性が応力の影響の大きい材料であっても、磁束密度の異方性・応力影響や磁界に対する磁束密度の非直線性を意識しないで鉄損を評価計算することができる。さらに、鉄損と焼嵌め保持力を評価指標とした最適計算により、必要保持力を維持したまま鉄損最小となるコア形状最適化計算の実行も可能となる。また、磁束密度Bと磁界Hとの位相差θBH、時間高調波を考慮した電磁場解析を高速に行うことが出来るなど産業上有用な、著しい効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0032】
鉄鋼材料には鋼材の予め定められた方向、例えば圧延方向とそれに直角の方向とでは透磁率に異方性がある。このような鉄鋼材料の透磁率の異方性を考慮に入れれば、鉄損を精度よく評価することが可能となる。まず、電磁場解析の対象とする全領域を複数の微小領域に分割する。各微小領域の内部で透磁率が等方性を満足する場合は、各微小領域間で透磁率μ及び磁気抵抗率νや、予め定められた方向、例えば圧延方向と磁束密度Bの方向との間の成す角度θに差があっても容易に計算をすることができる。透磁率に異方性がある場合は、各微小領域にそれぞれ角度θとそれに対する透磁率を与えれば、コンピュータを利用してマックスウェル方程式の解を求めることができる。
【0033】
また、鉄鋼材料には、モータ製造工程の一つである焼嵌めやボルト固定により、鋼板に圧縮応力が印加されている場合が多く、この応力により、透磁率をはじめとした磁気特性が大きく変化する。このような鉄鋼材料の透磁率に対する応力の影響を考慮に入れれば、鉄損を精度よく評価することが可能となる。この場合、電磁場解析の対象とする全領域を複数の微小領域に分割し、各微小領域の内部で応力が一定であるとすれば、その微小区間内では同一の磁気特性、透磁率を用いても差し支えない。このように、各微小領域にそれぞれと応力とそれに対する透磁率の関係を与えれば、コンピュータを利用してマックスウェル方程式の解を求めることができる。
【0034】
図2は、鉄鋼材料の対象とする全領域を格子状の複数の微小領域に分割した模様を示す説明図である。図2において、鉄鋼材料は、1,2,3……,i,i+1,i+2,……,j,j+1,j+2,……,nの微小領域に分割してある。例えば、i番目の微小領域の磁束密度がΔBiであるとし、鉄損がwiであるとする。
【0035】
図2において分割された各微小領域の内部においては、透磁率μ及び磁気抵抗率νは一定の値であるとする。このようにすれば、有限要素法において、各微小領域間の境界では不連続であっても、領域内では一様なパラメータをもっていると考えることができる。従って、異方性・応力の影響や磁界に対する磁束密度の非直線性を有する鉄鋼材料の鉄損の計算においても、予め計算された各微小領域の鉄損の総和を求めることによって全体鉄損を容易に計算することができる。図2では、全体の鉄損W(watts)は
【0036】
【数6】
【0037】
で与えられる。ここで、wiは微小領域内の鉄損である。また、ΔBiの方向θと大きさΔBiは、各微小領域によってそれぞれ異なった値をとる。鉄損Wは磁束密度Bが大きい程、大きな値をとるが、必ずしも直線関係になるわけではない。上記領域分割は有限要素法が適用されることを前提にして実施したものであるが、差分法或いはその他、類似の計算方式に適用可能であることは云うまでもない。
【0038】
図3は、磁束密度の異方性を示す説明図である。以下応力だけでなく磁束密度の異方性をも考慮した場合についても考えてみる。RDは鋼板の圧延方向を(rolling direction)、TDはそれに直角な方向(transversal direction)である。磁束密度Bの方向と鋼板の圧延方向RDとの間の角度をθとすれば、H−B曲線及びW−B曲線のθ依存性は、例えば図4(a)、(b)に示すような形状で与えられる。ここで、鋼板の圧延方向の代わりに、任意の予め与えられた方向とすることも可能である。図4(a)、(b)はいずれも角度θの依存性を表したものであるが、複数葉のデータは更に応力σに対する依存性も示している。
【0039】
図4(a)、(b)では、θ=0°,15°,30°……のデータがH−B関数及びW−B関数として与えられているが、その他の角度θではデータが関数として与えられていない。この場合、θ=20°において求める必要のある磁束密度と磁界との関係は、θ=15°及びθ=30°におけるデータから求められた近似関数について、以下で詳細に述べる補間内挿して求めたり、ニュートンラプソン法によるテイラー展開からマックスウェル方程式との連成により繰り返し計算して求められる。一方、磁束密度が与えられたときの鉄損は、θ=15°及びθ=30°におけるデータから補間内挿して求められる。ここで、応力の変化が十分に無視できるほど小さい場合は、応力は一定であると仮定してかまわない。もし、応力σが十分に大きく変化する場合には、それぞれの応力に対応したH−B曲線及びW−B曲線を選択して繰り返し計算を実行する。ここで、H−B曲線及びW−B曲線は、データに基づいて求める方法について記したが、理論的に得られた解析式およびデータから得られた回帰式といった解析式を用いても構わない。
【0040】
次に図4(a)、(b)に含まれている応力σに対する依存性に関して少し詳細に説明する。例えば、図4(a)、(b)では、−20[MPa]<σ<0[MPa](応力の負の値は圧縮応力を示す)の範囲のデータを取り扱い、サンプル化された応力σの値に対するデータとして示している。従って、データの表に直接与えられていない応力に対する磁束密度や鉄損は、角度θの場合と同様にニュートンラプソン法によるテイラー展開から補間内挿して求められる。すなわち、(Bi,θi,σi)によって微小領域iにおける鉄損wiが求められる。
【0041】
例えば、図4(b)に示すσ=−20[MPa]のデータにおいて、θ=15°及び30°の曲線、及びB=1.0T(Tesla)及び1.2Tによって切断され、点ABCDによって囲まれた領域を仮定し、点P(θ=20°、B=1.1T)における鉄損を求めるものとする。まず、θ=15°及び30°の曲線から内挿近似によって級数展開を行い、θ=20°のW−B曲線を求める。次にB=1.0T及び1.2Tの直線(曲線でもよい。)によって上記θ=20°のW−B曲線を切断、B軸上の内挿によってB=1.1Tにおける点Pを確定する。確定された点Pの縦軸から鉄損Wを読取ることができる。実際の処理では、図4(b)のグラフはデータベース内に格納されているので、コンピュータのソフトウエア処理によって内挿計算を行い、鉄損を求めることができる。
【0042】
応力σの影響によってH−B曲線が変化することは、図4によって示したとおりである。例えば、コンプレッサ等で使用される凹型鉄芯は鋼板をせん断して成形され、70℃から90℃くらいに加熱された軟鋼製の円筒リングに挿入されることで焼嵌めにより固定され、電気機器である回転電機に使用される。円筒リングが常温まで冷却収縮することにより、凹型鉄芯は、内部に圧縮応力を受ける。
【0043】
図27は、凹型鉄芯における圧縮応力の磁束密度への影響例を示した説明図である。図27において、xは鋼板のある方向としての圧延方向(RD)、Bは磁束の接線方向であり磁束密度を表す、θはx方向と磁束密度Bとのなす角度を示す。空間上の指定された位置を決定すると、磁束密度ベクトルBが与えられ、応力σの値が決定される。すなわち、指定された空間位置において、H−B曲線より、(θ、σ)に対応する磁束密度Bが求められ、これによって、W−B曲線に(B、θ、σ)を適用することにより鉄損Wが算出される。空間位置に対応する応力は、構造力学の理論に従って有限要素法により算出することが可能である。
【0044】
図5は、磁束密度と磁界のベクトルの位相差を示す図である。図5において、磁界Hと磁束密度Bはベクトルで、その間に位相差θBHがある。このとき、磁気抵抗率νは簡略的に次式のようにモデル化できる。
【0045】
【数7】
【0046】
このとき、磁束密度ベクトルおよび磁界ベクトルは次式で表される。
【0047】
【数8】
【0048】
従って、磁気抵抗率νは、Bおよびθの関数として
【0049】
【数9】
【0050】
であらわされ、図6のようなH−B曲線から求めることができる。また、磁束密度Bと磁界Hとの位相差θBHも、Bおよびθの関数として
【0051】
【数10】
【0052】
で表されるので、図7のようなB−θBH曲線をデータベースとして用いることによりθBHを考慮した磁束密度ベクトルを決定することができる。
【0053】
図8は、磁束密度Bの時間的変化を示す図である。図8において、横軸は時間、縦軸は磁束密度を示している。例えば、磁界Hが正弦波であっても、磁束密度Bは正弦波とはならず時間高調波成分を含むため図8のような歪が生じているので、正確な電磁場解析を行うためにはこの時間高調波を考慮する必要がある。そこで、時間高調波成分を含んだ磁束密度Bをフーリエ級数展開し、その周波数ごとに図9のようなH−B曲線と図10のようなW−B曲線をデータベースとして用いることによって時間高調波成分を考慮した電磁場解析を行うことができる。このH−B曲線およびW−B曲線から磁気抵抗率νおよび鉄損Wは、B,θおよび周波数fの関数として、次式で与えられる。
【0054】
【数11】
【0055】
また、時間高調波成分を含んだ磁束密度Bをフーリエ級数展開すると、Bのx成分、y成分はそれぞれ次式で表される。
【0056】
【数12】
【0057】
これにより、高調波における第i番目の磁束密度ベクトルおよび、その位相差は次式によって定義できる。
【0058】
【数13】
【0059】
【数14】
【0060】
これによって、高調波成分における鉄損Wを次式によって求めることができる。
【0061】
【数15】
【0062】
このようにして、高調波成分を含む磁束密度ベクトルに基づいた鉄損Wを求めることができる。ここで求めたWは、高調波成分を考慮しない場合に比べて約30%大きな鉄損値となり、実機の鉄損との差も低減することから、より正確な電磁場解析が実現できる。
【0063】
図11に示すように、応力σ毎にH−B曲線およびW−B曲線を作成し、磁束密度Bおよび鉄損Wのデータベースを構築することにより、応力σを考慮した電磁場解析を行うことができる。このH−B曲線およびW−B曲線から、磁気抵抗率νおよび鉄損Wは、B,θ,σの関数として、次式で与えられる。
【0064】
【数16】
【0065】
上記計算処理のルーチンを図12に示す。図12において、1は領域分割手段、2は磁束密度決定手段、3は磁束密度及び鉄損のデータベース、4は補間内挿計算手段、5は微小領域内鉄損計算手段、6は鉄損総和手段、7は応力分布算出手段である。応力分布算出手段7は、コンピュータを用いた構造解析による解析結果や三次元形状測定装置の測定結果により微小領域内aiの応力分布σiを算出する。データベース3はH−B曲線を表すデータベース、及びW−B曲線を表すデータベースより成り立つ。H−B曲線は周波数に依存し、磁気抵抗率νは周波数の増加に伴って増加する。従って、マックスウェル方程式では、νによって鋼板の周波数特性を含ませている。領域分割手段1は鉄鋼材料の対象領域全体を複数の微小領域(i=1〜n)に分割する。鉄鋼材料が一様な厚さの平面状板材であれば、微小領域の形状を三角形とすることができ、この場合には有限要素法による計算の適用が容易となる。磁束密度ベクトル決定手段2には、応力分布算出手段7から算出された応力分布データを入力し、一方では領域分割手段1からの領域分割の結果、及びデータベース3からの(H−B曲線)のデータを入力する。磁束密度ベクトル決定手段2では、分割された領域ごとにニュートンラプソン法を用い、マックスウェル方程式との連成により、テイラー展開から磁束密度ベクトルの収束計算を実行する。
【0066】
即ち、領域分割手段1からの入力データを基にして、磁束密度ベクトル決定手段は微小領域aiで、鋼板の圧延方向RDと磁束密度の方向との間の角度θ、及び磁束密度の大きさBとを決定して、補間内挿計算手段4に与える。ここで、圧延方向の代わりに、予め与えられた任意の方向とすることもできる。磁束密度に対する磁界(H−B曲線)及び鉄損(W−B曲線)のデータベース3は、応力σの値をパラメータとして表したデータ別に複数葉に分けられたデータの表を格納し、各データの表には角度θに対するH−B曲線及びW−B曲線を格納している。データベース3に格納されているH−B曲線及びW−B曲線は、それぞれサンプル化して与えられた角度θと応力σに対応して、磁束密度と磁界、及び磁束密度と鉄損の関係を与えるものである。これらのデータは、予め測定されたデータをサンプル化された角度θと応力σの関数の形で保持している。
【0067】
従って、任意の角度θと応力σに対する磁束密度Bと損失Wの関係は、補間内挿計算手段4により補間内挿法として、ニュートンラプソン法を使い、繰り返し計算を実行して求める。鉄鋼材料の鉄損データ(W−B曲線)は、データベースから補間内挿計算手段4に提供される。次にデータベース3からのW−B曲線のデータを利用し、補間内挿計算手段4によって求められた微小領域ai内の磁束密度Bと角度θを使い、微小領域鉄損計算手段5によって鉄損wiを計算する。そこで、鉄損総和手段6は、微小領域ai内の鉄損wiの総和Wを求める。このようにして、異方性をもった鉄鋼材料の鉄損が具体的に数値計算によって求められる。
【0068】
図13では、具体的実測に基づいたH−B曲線データについて、異方性を考慮した鉄鋼材料の鉄損計算ルーチンを示した。このルーチンによって実行されるマックスウェル方程式の解は、理論モデルにより次のように精度よく求められる。すなわち、ベクトルポテンシャルAを用いて電流密度J0を表すと、次式が得られる。
【0069】
【数17】
【0070】
νをテンソル表示し、二次元場の式で表すと次式が得られる。
【0071】
【数18】
【0072】
これに対応した汎関数χは次式で与えられる。
【0073】
【数19】
【0074】
これを要素eにおける値で表し、要素eを構成する節点ieのポテンシャルで偏微分すると、
【0075】
【数20】
【0076】
が得られる。そこで、
【0077】
【数21】
【0078】
が有限要素法で解くべき方程式である。
【0079】
ここで、nuが未知節点の総数である。そこで、ニュートンラプソン法を適用するために書き直すと、次式が得られる。
【0080】
【数22】
【0081】
このマトリックスを解くことにより得られたk回目のδAjが求められれば、k+1回目の反復で得られる節点iでのポテンシャルの近似解
【0082】
【数23】
【0083】
が得られる。ただし、
【0084】
【数24】
【0085】
さらに解析を行うと、次式が得られる。
【0086】
【数25】
【0087】
上記の解析に従えば、テンソルで表された磁気抵抗率が解析モデルによる数値計算により求められる。具体的計算ルーチンの一例を図13に示す。図13に示したように、最初のステップS61において時刻を0にセットする。
【0088】
次に、S62で、
【0089】
【数26】
【0090】
の初期値を設定する。ここで、t=0のときは、
【0091】
【数27】
【0092】
t>0のときは、
【0093】
【数28】
【0094】
と、一つ前の時刻の値を用いる。次にS63で、式26に基づき、剛性マトリックス[K]、荷重ベクトル[F]の計算を行う。これにより、S64で、式29に基づき、δA(k,t)を計算する。これにより、S65で、k+1でのベクトルポテンシャル
【0095】
【数29】
【0096】
を計算する。
【0097】
S66で、ベクトルポテンシャルに基づき、式3より、磁束密度ベクトルBを求める。そこで、S67で、収束判定
【0098】
【数30】
【0099】
を行い、所定の収束性を満たしておれば、S71に進む。もし、収束性が不十分であれば、S68に進む。S68で、磁束密度ベクトルを、
【0100】
【数31】
【0101】
で、最大値とある方向の角度に分解する。そこで、S69で、予めデータベースにある異方性を考慮したH−B曲線より、その角度θ(k,t)における磁束密度と磁界の関係が分かり、それにより、磁気抵抗率νを求めることができる。ここでのH−B曲線は、その微小領域における応力におけるH−B曲線であり、この応力を考慮したH−B曲線を用いることで、異方性および応力を考慮した磁束密度を得ることができる。
【0102】
これにより、
【0103】
【数32】
【0104】
の計算を行うことができる。これらは、S63で用いる剛性マトリックス、荷重ベクトルを求めるのに使用される。S71でkをひとつ進める。そして、S63に進み、計算を続ける。S63−S70までの計算は、すべての領域について計算を行う。この収束計算を行うことで、各微小領域において応力を考慮したH−B曲線上にのった磁束密度ベクトルを計算することができ、応力を考慮した計算ができる。S67で収束していたら、S71で時刻を一つ進めて、S62に向かう。この計算は、複数周期実行し、1周期分収束するまで計算を続ける。収束したら、S72に進み、鉄損の計算を行う。図13よりマックスウェル方程式の数値解から応力を考慮した磁気抵抗率νがテンソル量として精度よく与えられているので、H−B曲線が精度よく解析される。
【0105】
次に、磁界増分係数αおよび鉄損増分係数βを用いてH−B曲線、W−B曲線を求める方法について述べる。そもそも、すべての鋼材、異方性を考慮した場合に対してH−B曲線、W−B曲線を求めることは通常大変なことであり、何らかの簡易計算が必要となる。ここでは、基本となる、H−B曲線、W−B曲線があった場合に、他の鋼材、異方性を考慮した特性を得る方法について述べる。
【0106】
図14は、実験から求められる磁束密度をパラメータとした応力と磁界の関係図の一例である。磁束密度B1からB3に対して、応力を0(応力なし)から−50[MPa]まで変更したときの磁界特性を示している。このとき、磁束密度Bをパラメータとして磁界増分係数α(=Hσ/Hσ=0)(ここで、Hσ=0:応力0のときの磁界、Hσ:応力σのときの磁界)が、図14上の各点に対して求めることができる。このデータに対し、応力をパラメータにして、磁束密度−磁界増分係数αの関係を示したのが図15である。実測結果を尊重し、磁界増分係数αの磁束密度に対する関係は、測定生データを用いた。磁界増分係数αの場合、特性上B=0の近傍では、α=1となり、磁束密度Bが大きくなるにつれてαは大きくなるが、磁束密度が飽和する2T近傍では再びα=1となる。ここで、磁界増分係数αの磁束密度に対する関係式は生データを用いたが、測定生データのバラツキの影響を排除する意味合いから、測定生データの代わりに回帰式を用いても構わない。
【0107】
図16は、実験から求められる磁束密度をパラメータとした応力と鉄損との関係図の一例である。磁束密度B1からB4に対して、応力を0から−50[MPa]までかけた時の鉄損特性を示している。このとき、磁束密度Bをパラメータにして鉄損増分係数β(=Wσ/Wσ=0)(ここで、Wσ=0:応力0のときの鉄損、Wσ:応力σのときの鉄損)が、図16上の各点に対して求めることができる。これのデータに対して、応力をパラメータとして磁束密度−鉄損増分係数βの関係にしたのが、図17である。
【0108】
ここで、鉄損増分係数βの磁束密度に対する関係は、測定生データを用いたが、測定生データのバラツキの影響を排除する意味合いから、測定生データの代わりに回帰式を用いても構わない。
【0109】
このとき、図18の点線のように、応力0のときのH−B曲線が与えられたときに、点線上のある磁束密度に対して下記の式で、応力σとなったときの磁界Hσを求めることができる。
【0110】
【数33】
【0111】
これを、応力0のときの、H−B曲線のすべての磁束密度に対して計算すれば、応力ありのときのH−B曲線を求めることができる。これを図18上では、実線で示している。
【0112】
一方、図19の点線のように、応力0のW−B曲線が与えられたときに、点線上のある磁束密度に対して下記の式で、応力σとなったときの鉄損Wσを求めることができる。
【0113】
【数34】
【0114】
これを、応力0のときのW−B曲線のすべての磁束密度に対して計算すれば、応力ありのときのW−B曲線を求めることができる。これを図19では、実線で示している。
【0115】
次に、形状変更手段と鉄損最適判定手段を用いて鉄損値の最適値を算出する方法について説明する。本発明の対象となる鉄損の最適値を算出する電気機器の一例として、図21に示す電動機を考えるが、他の極数、ならびにスロット数の電動機ならびに変圧器でも同様である。
【0116】
図21のステータコア16は、周囲を胴シェル(図示せず)により焼嵌めされて使用されることがある。この焼嵌めによりステータコア16は、圧縮応力分布を受け、その結果ステータコア16内の磁束密度分布が変化するとともに、圧縮応力による磁気特性の劣化により、鉄損が増加する。
【0117】
図23に示すように、最適形状を検討に際しては、ステータコアの形状ならびに接触位置の中心角θ1の初期値を設定する。領域分割手段1にてステータコア16、ロータ17、周囲の領域(図示せず)を微小領域に分割した後、マックスウェル方程式に基づく磁束密度ベクトル決定手段2により、磁束ベクトル分布を決定した後、微小領域内鉄損計算手段5、鉄損総和手段6を経て応力なしでの鉄損値を得る。この鉄損値は、電磁場解析の結果得られた磁束密度分布に対して、応力0のW−B曲線と参照することにより求めた。
【0118】
その後、応力解析23により、焼嵌めによる応力分布を計算する。応力解析は、市販ソフトABAQUSやMARC等を用いて求解すればよい。応力解析は、入力データとして、ステータコア形状、焼嵌めシェル厚、ステータコアに使用した電磁鋼板や焼嵌めシェルのヤング率、焼嵌め時の温度を用いて、有限要素法により求解した後、焼嵌め後のステータコアにかかる応力分布を出力値とした。ここで得られた応力分布より、相当応力計算手段22により、微小領域ai毎の相当応力σξiを得る。相当応力σξiは、以下の式により算出される。
【0119】
【数35】
【0120】
ただし、δ:磁化容易軸と全体座標系のなす角(rad)、φ:磁化容易軸と磁束密度ベクトルのなす角(rad)、σξ:磁束密度方向の相当応力(MPa)、σx:x軸方向の応力(MPa)、σy:y軸方向の応力(MPa)、τxy:xy平面のせん断応力(MPa)である。
【0121】
この結果求められた微小領域ai毎の相当応力σξiに応じて、図4(a)に示す応力毎のH−B曲線を適用し、さらにマックスウェル方程式に基づく磁束密度ベクトル決定手段2により焼嵌め応力を考慮した磁束密度ベクトルを得る。この焼嵌め応力を考慮した磁束密度ベクトルより、図4(b)に示す応力毎のW−B曲線を適用し、微小領域鉄損手段5、鉄損総和手段6により鉄損値を得る。この鉄損値が最小値であるか否かならびに焼嵌めによるステータの保持力が基準値を満たしているかを判断基準として鉄損最適判定手段24にて判定する。結果が非最適解である場合は、形状変更手段であるパラメータ修正手段21に戻り、最適解が求められるまでこの作業を続ける。パラメータ修正手段21のパラメータ修正の考え方は、線形計画法、遺伝的アルゴリズムや非線形計画法、組み合わせ最適化のような他の最適化手法を用いて行う。
【0122】
図20は、本発明のハードウエア構成を例示する図である。本発明における電磁場解析システムを実現するハードウエアは、スタンドアローン式のコンピュータと、十分な記憶容量を有するハードディスクでもよいが、多くのユーザが使用できる環境を整えるためには、図20のようなネットワークコンピュータと専用サーバから構成される方が好ましい。この構成により、ユーザ自身のコンピュータ端末からネットワークコンピュータに格納された本発明の電磁場解析システムに接続し、電磁場解析に必要な解析条件を入力することにより、ネットワークを通じて、本発明の電磁場解析システムが行った電磁場解析結果として、鉄損の評価情報を受け取ることができる。
【実施例】
【0123】
図21に示す、外径φ200mm、内径φ130mm、積厚70mmのステータコア16に対して、外径φ129mm、積厚70mmの6極のロータ17を挿入したモータに対して、1スロットあたりの励磁電流1100ATrms、50Hzの三相交流を励磁し、供試材は35A300とした条件での電磁場解析により、本発明の有効性を確認した。
【0124】
焼嵌め時の応力を考慮するため、焼嵌め条件を板厚2.8mmのSS400製の焼嵌めシェル(図示せず)を常温でのステータコア外径と常温での焼嵌めシェルの内径の差で示される焼嵌め代を直径で300μmとした。また、ステータコアと焼嵌めシェルの接触位置を図21で示す接触位置の中心角θ1で表現し、この接触位置を変更することで、必要な保持力を維持したまま、最適な鉄損を得ることができる形状を最適計算にて求める。この接触位置は、極数に応じた60°の回転対称となっている。よって、ステータコアと胴シェルは、12箇所で接触していることになる。
【0125】
まず、比較例1として、図22のブロック図で示す計算手順で最適計算を実行した。その際、接触位置の中心角θ1の初期値を50°と設定した。
【0126】
始めに、領域分割手段1にてステータコア16、ロータ17、周囲の領域(図示せず)を微小領域に分割した後、マックスウェル方程式に基づく磁束密度ベクトル決定手段2により、磁束ベクトル分布を決定した後、微小領域内鉄損計算手段5、鉄損総和手段6を経て応力なしでの鉄損値を得る。この鉄損値は、電磁場解析の結果得られた磁束密度分布に対して、応力0のW−B曲線と参照することにより求めた。
【0127】
その後、応力解析23により、焼嵌めによる応力分布を計算する。応力解析は、入力データとして、ステータコア形状、焼嵌めシェル厚、ステータコアに使用した電磁鋼板や焼嵌めシェルのヤング率、焼嵌め時の温度を用いて、有限要素法を用いた市販ソフトABAQUSを用いて求解した後、焼嵌め後のステータコアにかかる応力分布を出力値とした。ここで得られた応力分布より、相当応力計算手段22により、微小領域ai毎の相当応力σξiを得る。相当応力σξiは、以下の式により算出される。
【0128】
【数36】
【0129】
ただし、δ:磁化容易軸と全体座標系のなす角(rad)、φ:磁化容易軸と磁束密度ベクトルのなす角(rad)、σξ:磁束密度方向の相当応力(MPa)、σx:x軸方向の応力(MPa)、σy:y軸方向の応力(MPa)、τxy:xy平面のせん断応力(MPa)である。
【0130】
この結果求められた微小領域ai毎の相当応力σξiに応じて、図4(a)に示す応力毎のH−B曲線を適用し、さらにマックスウェル方程式に基づく磁束密度ベクトル決定手段2により焼嵌め応力を考慮した磁束密度ベクトルを得る。この焼嵌め応力を考慮した磁束密度ベクトルより、図4(b)に示す応力毎のW−B曲線を適用し、微小領域鉄損手段5、鉄損総和手段6により鉄損値を得る。この鉄損値が最小値であるか否かならびに焼嵌めによるステータの保持力が基準値を満たしているかを判断基準として鉄損最適判定手段24にて判定する。結果が非最適解である場合は、形状変更手段であるパラメータ修正手段21に戻り、最適解が求められるまでこの作業を続ける。
【0131】
パラメータ修正手段21のパラメータ修正の考え方は、線形計画法を用いて行った。このパラメータ修正の方法は、線形計画法のみで実現されるものではなく、遺伝的アルゴリズムや非線形計画法、組み合わせ最適化のような他の最適化手法でも構わない。さらに、今回、形状変更手段としてのパラメータ修正手段で最適値を算出した、ステータコアと焼嵌めシェルの接触位置を図21で示す接触位置の中心角θ1としたが、使用するパラメータは、θ1に限らないし、形状変更手段は、ステータコアの形状パラメータを変更するパラメータ修正手段に限らない。
【0132】
その結果、図24に示すような接触角と鉄損比の関係を得た。この図24は、得られた結果の代表点をプロットしたものである。必要保持力を満たした中で最適な鉄損値は、接触角25°と算出された。この計算を実行するのに、2.8GHzのCPUを持つ計算機にて305時間の計算時間かかった。この最適形状と同じ形状でモータコアを製作し、同一運転条件で動作させた際の鉄損値と比較したところ、97%の値であった。
【0133】
次に、実施例1として、図23のブロック図で示す計算手順で最適計算を実行した。その際、接触位置の中心角θ1の初期値を50°と設定した。実施例の特徴は、計算時間がかかるマックスウェル方程式に基づく磁束密度ベクトル決定手段2の計算を応力なし条件の1回のみ行い、以降接触角を変更しても同一の磁束密度ベクトルであるとする点である。
【0134】
始めに、領域分割手段1にてステータコア16、ロータ17、周囲の領域(図示せず)を微小領域に分割した後、マックスウェル方程式に基づく磁束密度ベクトル決定手段2により、磁束ベクトル分布を決定する。この磁束密度ベクトルを以降最適計算を実行する際の磁束密度ベクトルとする。
【0135】
その後、応力解析23により、焼嵌めによる応力分布を計算する。応力解析は、入力データとして、ステータコア形状、焼嵌めシェル厚、ステータコアに使用した電磁鋼板や焼嵌めシェルのヤング率、焼嵌め時の温度を用いて、有限要素法を用いた市販ソフトABAQUSを用いて求解した後、焼嵌め後のステータコアにかかる応力分布を出力値とした。ここで得られた応力分布より、相当応力計算手段22により、微小領域ai毎の相当応力σξiを得る。相当応力σξiは、以下の式により算出される。
【0136】
【数37】
【0137】
ただし、δi:磁化容易軸と全体座標系のなす角(rad)、φi:磁化容易軸と磁束密度ベクトルのなす角(rad)、σξ:磁束密度方向の相当応力(MPa)、σxi:x軸方向の応力(MPa)、σyi:y軸方向の応力(MPa)、τxiyi:xy平面のせん断応力(MPa)である。
【0138】
前記磁束密度ベクトルより、図4(b)に示す応力毎のW−B曲線を適用し、微小領域鉄損手段5、鉄損総和手段6により鉄損値を得る。この鉄損値が最小値であるか否かならびに焼嵌めによるステータの保持力が基準値を満たしているかを判断基準として鉄損最適判定手段24にて判定する。結果が非最適解である場合は、形状変更手段であるパラメータ修正手段21に戻り、最適解が求められるまで応力解析23以降の作業を続ける。
【0139】
パラメータ修正手段21のパラメータ修正の考え方は、線形計画法を用いて行った。このパラメータ修正の方法は、線形計画法のみで実現されるものではなく、遺伝的アルゴリズムや非線形計画法、組み合わせ最適化のような他の最適化手法でも構わない。さらに、今回、形状変更手段としてのパラメータ修正手段で最適値を算出した、ステータコアと焼嵌めシェルの接触位置を図21で示す接触位置の中心角θ1としたが、使用するパラメータは、θ1に限らないし、形状変更手段は、ステータコアの形状パラメータを変更するパラメータ修正手段に限らない。
【0140】
このことにより、最適計算の時間短縮化が実現できる。前述した応力解析23、相当応力計算手段22、補間内挿計算手段4、微小領域鉄損計算手段5、鉄損総和手段6、鉄損最適判定手段24により、ステータの保持力を基準値以上かつ最小の鉄損値を満たすコア形状を求めた。その結果は、図24である。比較例1と実施例1それぞれの接触角と鉄損比、保持力比はほぼ同一の結果を得た。この同一の結果を得るのに2.8GHzのCPUを持つ8時間であった。この解析で求めた鉄損値と同一条件での鉄損結果との比は、0.95であった。比較例1より実験結果と差が生じている理由は、磁束密度分布が焼嵌め応力のない条件のものを使用しているため、実際のものと若干異なっていることが原因と考えられる。しかしながら、本手法は、図26に示すように計算時間が従来の1/38であるにもかかわらず、計算精度は、図25に示すように、実験結果ならびに従来手法と同等であるということが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】従来技術に基づいて実行される鉄損の数値計算ルーチンの流れを示すブロック図である。
【図2】鉄鋼材料の対象とする全領域を格子状の複数の微小領域に分割した模様を示す説明図である。
【図3】磁束密度の異方性を示す説明図である。
【図4】応力に対する依存性を複数葉のグラフで与えることにより、H−B曲線及びW−B曲線の角度θ依存性及び応力σ依存性を示すグラフ図である。
【図5】磁束密度と磁界のベクトルの位相差を示す図である。
【図6】本発明に用いるH−B曲線を示す図である。
【図7】本発明に用いるB−θBH曲線を示す図である。
【図8】磁束密度Bの時間的変化を示す図である。
【図9】本発明に用いるH−B曲線を示す図である。
【図10】本発明に用いるW−B曲線を示す図である。
【図11】本発明に用いるH−B曲線ならびにW−B曲線を示す図である。
【図12】従来技術の異方性を考慮した鉄鋼材料の鉄損計算ルーチンを示すブロック図である。
【図13】マックスウェル方程式により磁気抵抗率νをテンソルとして精度よく求めるルーチンを示す説明図である。
【図14】実験から求められる磁束密度をパラメータとした応力と磁界の関係図の一例である。
【図15】図14より求めた応力をパラメータとした磁束密度と磁界増分係数との関係図の一例である。
【図16】実験から求められる磁束密度をパラメータとした応力と鉄損との関係図の一例である。
【図17】図16より求めた応力をパラメータとした磁束密度と鉄損増分係数との関係図の一例である。
【図18】図15より求めた応力ありの場合におけるH−B曲線の一例を示す図である。
【図19】図17より求めた応力ありの場合におけるW−B曲線の一例を示す図である。
【図20】本発明のハードウエア構成を例示する図である。
【図21】実施例で使用した最適化計算前ステータコアの概形を示す図である。
【図22】応力印加時鉄損最小化計算の従来の計算手法を示すブロック図(比較例1)である。
【図23】本実施例に示す応力印加時鉄損最小化高速計算ルーチンを示すブロック図である。
【図24】本実施例1ならびに比較例1におけるステータと焼き嵌めリング接触角と鉄損値と固定力との関係を示す図である。
【図25】従来手法と本実施例の最適計算後の鉄損値を示す図である。
【図26】従来手法と本実施例の最適化計算にかかった時間を示す図である。
【図27】鉄芯における応力の磁束密度への影響例を示した説明図である。
【符号の説明】
【0142】
1 領域分割手段
2 磁束密度ベクトル決定手段
3 磁束密度及び鉄損のデータベース
4 補間内挿計算手段
5 微小領域内鉄損計算手段
6 鉄損総和手段
7 応力分布算出手段
11 凹型鉄芯
12 円筒リング
16 ステータコア
17 ロータ
21 パラメータ修正手段(形状変更手段)
22 相当応力計算手段
23 応力計算手段
24 鉄損最適判定手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性材料の電磁場解析対象領域を複数の微小領域に分割する領域分割手段と、該微小領域における磁性体の予め定められた方向と磁束密度Bの方向との間の成す角度θおよび軟磁性材料の応力σを異方性のパラメータとして、磁束密度Bと磁界Hとを関係付けるH−B曲線および磁束密度Bと鉄損Wとを関係付けるW−B曲線を格納するデータベースと、該データベースに格納されているH−B曲線を基にして、前記微小領域におけるマックスウエル方程式および応力σに基づいて、前記角度θおよび前記磁束密度Bの大きさを決定する磁束密度ベクトル決定手段と、前記データベースに格納されているW−B曲線を基にして、前記微小領域の鉄損Wを計算する鉄損計算手段と、前記微小領域の鉄損Wの総和を求める鉄損総和手段と、軟磁性材料に加わる応力σの値を低減させ、鉄損の総和を最小にするために軟磁性材料の形状を変更する形状変更手段と、鉄損の総和が最小であるか否かを判定する鉄損最適判定手段と、を有し、磁束密度ベクトル決定手段での計算を一度とし、鉄損最適計算は、磁束密度ベクトル決定手段の適用の結果得られる磁束密度分布を入力とし、形状変更手段、鉄損計算手段、鉄損総和手段、鉄損最適判定手段を用いて行うことを特徴とする鉄損最適化システム。
【請求項2】
前記応力σを磁束密度の方向の相当応力とすることを特徴とする請求項1に記載の鉄損最適化システム。
【請求項3】
前記磁束密度Bおよび磁界Hは、該磁束密度Bと磁界Hとの位相差θBHを考慮して関係付けられることを特徴とする請求項1または2に記載の鉄損最適化システム。
【請求項4】
前記磁束密度Bは、時間高調波成分を含む磁束密度であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の鉄損最適化システム。
【請求項5】
前記磁束密度ベクトル決定手段は、前記応力σを算出する応力σ分布算出手段を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の鉄損最適化システム。
【請求項6】
前記磁束密度ベクトル決定手段は、前記微小領域における磁束密度ベクトルBを、その大きさBmaxと、前記の磁性体の予め定められた方向とのなす角度θとに分解し、前記H−B曲線から、前記角度θにおけるH−B曲線を導出し、前記微小領域における磁束密度およびその前記角度θ、磁界とが、その曲線上に存在するように、収束計算を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の鉄損最適化システム。
【請求項7】
前記H−B曲線およびW−B曲線は、前記応力σをパラメータとして、磁束密度と磁界の関係より磁界増分係数α(=Hσ/Hσ=0)、磁束密度と鉄損値の関係より鉄損増分係数β(Wσ/Wσ=0)を求め、前記応力σのときのH−B曲線およびW−B曲線に前記磁界増分係数αと鉄損増分係数βとを乗じて得られるH−B曲線およびW−B曲線であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の鉄損最適化システム。
【請求項1】
軟磁性材料の電磁場解析対象領域を複数の微小領域に分割する領域分割手段と、該微小領域における磁性体の予め定められた方向と磁束密度Bの方向との間の成す角度θおよび軟磁性材料の応力σを異方性のパラメータとして、磁束密度Bと磁界Hとを関係付けるH−B曲線および磁束密度Bと鉄損Wとを関係付けるW−B曲線を格納するデータベースと、該データベースに格納されているH−B曲線を基にして、前記微小領域におけるマックスウエル方程式および応力σに基づいて、前記角度θおよび前記磁束密度Bの大きさを決定する磁束密度ベクトル決定手段と、前記データベースに格納されているW−B曲線を基にして、前記微小領域の鉄損Wを計算する鉄損計算手段と、前記微小領域の鉄損Wの総和を求める鉄損総和手段と、軟磁性材料に加わる応力σの値を低減させ、鉄損の総和を最小にするために軟磁性材料の形状を変更する形状変更手段と、鉄損の総和が最小であるか否かを判定する鉄損最適判定手段と、を有し、磁束密度ベクトル決定手段での計算を一度とし、鉄損最適計算は、磁束密度ベクトル決定手段の適用の結果得られる磁束密度分布を入力とし、形状変更手段、鉄損計算手段、鉄損総和手段、鉄損最適判定手段を用いて行うことを特徴とする鉄損最適化システム。
【請求項2】
前記応力σを磁束密度の方向の相当応力とすることを特徴とする請求項1に記載の鉄損最適化システム。
【請求項3】
前記磁束密度Bおよび磁界Hは、該磁束密度Bと磁界Hとの位相差θBHを考慮して関係付けられることを特徴とする請求項1または2に記載の鉄損最適化システム。
【請求項4】
前記磁束密度Bは、時間高調波成分を含む磁束密度であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の鉄損最適化システム。
【請求項5】
前記磁束密度ベクトル決定手段は、前記応力σを算出する応力σ分布算出手段を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の鉄損最適化システム。
【請求項6】
前記磁束密度ベクトル決定手段は、前記微小領域における磁束密度ベクトルBを、その大きさBmaxと、前記の磁性体の予め定められた方向とのなす角度θとに分解し、前記H−B曲線から、前記角度θにおけるH−B曲線を導出し、前記微小領域における磁束密度およびその前記角度θ、磁界とが、その曲線上に存在するように、収束計算を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の鉄損最適化システム。
【請求項7】
前記H−B曲線およびW−B曲線は、前記応力σをパラメータとして、磁束密度と磁界の関係より磁界増分係数α(=Hσ/Hσ=0)、磁束密度と鉄損値の関係より鉄損増分係数β(Wσ/Wσ=0)を求め、前記応力σのときのH−B曲線およびW−B曲線に前記磁界増分係数αと鉄損増分係数βとを乗じて得られるH−B曲線およびW−B曲線であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の鉄損最適化システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2009−52914(P2009−52914A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217481(P2007−217481)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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