説明

鉄筋コンクリート構造物の電気防食工法

【課題】
流電陽極方式であってコンクリート構造物の表面に付着する溶射金属の付着力を増大させると共に該溶射金属の耐久性を向上させるべくした鉄筋コンクリート構造物の電気防食工法の技術を提供する。
【解決手段】
鉄筋コンクリート構造物16の内部には鉄筋16aを埋設している。該鉄筋コンクリート構造物16の表面16bはブラスト処理をする。ブラスト処理することにより鉄筋コンクリート構造物16の表面16bは凸部16cと凹部16dが形成される。そしてブラスト処理された前記鉄筋コンクリート構造物16の表面16bに溶射金属層17を形成する。この溶射金属層17はアルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)の合金でなる。合成金属液を所定の風圧(kg/m)でもって平均塗膜厚さが約300(μm)になるように溶射を行って形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流電陽極方式であってコンクリート構造物の表面に付着する溶射金属の付着力を増大させると共に該溶射金属の耐久性を向上させるべくした鉄筋コンクリート構造物の電気防食工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の鉄筋コンクリート構造物の電気防食工法に於ける一つの例として図4に示す特開平10−245280号公開特許公報に開示された技術がある。
これについて説明すれば、補強材として鉄筋2を埋め込んだコンクリート構造物1の表面を、必要に応じて塵や油などの付着物を除去した後、プライマーを塗布、乾燥させ、プライマー層3を形成する。プライマーの塗布はスプレーなど従来から用いられている塗装手段により行い、その乾燥後の塗布量が、例えば、10〜300g/m、好ましくは20〜150g/mとなるようにする。ブラスト処理法を行う代わりに、骨材を含んだプライマーを塗布してこの問題点を克服したのである。このようにして形成されたプライマー層3上に、亜鉛、アルミニウム及び亜鉛・アルミニウム合金の線材から選ばれた2本の線材を同時に溶射することにより、亜鉛・アルミニウム擬合金溶射被膜からなる第二次電極層4を形成する。プライマー層3上に形成された亜鉛・アルミニウム擬合金溶射被膜の第二次電極層4の膜厚は、任意に決めることができるが、通常では20〜1000(μm)、特に、30〜200(μm)とする。次いで、第二次電極層4上に亜鉛、アルミニウム、マグネシウムあるいはこれらの合金からなる第一次電極層5を少なくとも部分的に形成する。第一次電極層5は第二次電極層4の表面全体に施してもよいが亜鉛・アルミニウム擬合金溶射被膜からなる第二次電極層4は、長期間安定して均一な防食電流を流すことできるので、通常では第一次電極層5の表面積を、第二次電極層4の総表面積に対し、好ましくは5〜70(%)、特に10〜50(%)となるように形成する。また、第一次電極層5の厚さは板状物の場合は、例えば、300〜10,000(μm)、特に500〜5,000(μm)が好ましく、溶射膜の場合は、例えば、100〜3,000(μm)、特に120〜1,000(μm)が好ましい。このように形成された第二次電極層4と鉄筋2とを絶縁被覆した導電性材料6で接続する。これにより、第二次電極層4上の第一次電極層5が第一次電極、即ち、流電陽極として機能し、鉄に代わって電気的に分解されて腐食し、その結果、鉄筋2が電気的に防食されるのである。
【0003】
従来の技術に於ける他の例としては、図5及び図6に示す第2973449号特許公報に開示された金属溶射被覆方法の技術がある。
これについて説明すれば、7は溶融金属供給系、8は金属溶射ノズル、9は溶融樹脂供給系、10は樹脂射出ノズル、11は母材、12は溶射金属、13は被覆金属層、14は溶融樹脂、15は封孔樹脂層、Aは金属溶射点、Bは樹脂噴出点、Lは金属溶射点Aと樹脂噴出点Bとの離間距離である。前記溶融金属供給系7は、母材11の材質が例えば炭素鋼である場合に、耐食性を付与し得る金属として、アルミニウム、亜鉛等の被覆金属材を溶解させた状態で、金属溶射ノズル8に供給して噴出させるものである。前記溶融樹脂供給系9は、熱可塑性樹脂を溶解させた状態で樹脂射出ノズル10に供給して、図5に示す被覆金属層13の上に噴出させ、被覆金属層13の上に溶融樹脂を付着させて封孔樹脂層15を形成するものである。また、金属溶射点Aと樹脂噴出点Bとの離間距離すなわち金属溶射ノズル8と樹脂射出ノズル10との離間距離Lは、後述する各部の温度分布に基づいて適宜設定される。そして、被覆金属層13は高温状態から冷却と共に徐々に温度が冷却するがこの冷却途中での温度と類似する温度で溶解した溶融樹脂14を被覆金属層13の上に付着させると、両者間に親和性が生じて空隙Pへ入り込み易くなり付着力が向上することとなる。また、被覆金属層13の上を溶融樹脂14で覆うことにより、空隙Pの開口を閉塞した状態とする。そして溶融樹脂14の冷却が進行する場合に、被覆金属層13と接触している内側の方が温度低下が遅れることにより、溶融樹脂14の溶融状態の維持がなされる。また、被覆金属層13の金属粒と共にその間の空間に閉じ込められた気体が冷却すると、金属粒の間に閉じ込められた気体が収縮して負圧状態となるため、該溶融樹脂14の一部が金属粒の空隙Pに取り込まれる現象が生じ、その後、金属粒の空隙Pの冷却にともなう個化現象の進行に従って、金属粒の空隙Pに介在した状態のまま個化して封孔状態となり、封孔樹脂層15の剥離強度が向上される。
【特許文献1】特開平10−245280号公開特許公報
【特許文献2】第2973449号特許公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術は、叙上した構成であるので次の課題が存在した。
先ず前述した一つの例によれば、溶射直後は多孔性であり、自己封孔により密実になる前に海水等に濡れると、それが内部に浸透し、溶射被膜を腐食し水素ガスを発生させるという問題点があり、このためコンクリート構造物の表面をブラスト処理して溶射材料の付着性を向上させることが考えられるが、粉塵の発生による作業環境及び周辺環境を悪化させることとなり、また骨材が抜け落ち鋼材表面のブラストと異なり鋭い凹凸面が得られず付着力が得られないという問題点があった。
また前述した他の例によれば、被覆金属層表面は多孔質状態であるので塗膜層を施して金属粒の空隙Pに入り込むものの、使用した有機溶剤の蒸発孔により完全な密封性を得ることが困難であるという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る鉄筋コンクリート構造物の電気防食工法は叙上の問題を解決すべく発明したものであり、流電陽極方式であってコンクリート構造物の表面に溶射した溶射金属の付着力を増大させると共に該溶射金属の耐久性を向上させることを目的としたものであって、次の構成、手段から成立する。
【0006】
すなわち、請求項1記載の発明によれば、電気防食工法に於ける流電陽極方式であって鉄筋コンクリート構造物の表面をブラスト表面処理を行った後に溶射をして厚さが270(μm)から330(μm)までの範囲内の陽極でなる溶射金属層を形成し、該溶射金属層の表面に合成樹脂材料を塗布しかつ含浸させて合成樹脂層を形成したことを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明に於いて、前記溶射金属層がアルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、マグネシウム(Mg)の中から選ばれた1種類以上の合金で形成されたことを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明によれば、請求項1記載の発明に於いて、前記合成樹脂層がアクリルエマルジョン系樹脂材料、アルコキシシラン系樹脂材料、珪酸ナトリウム系樹脂材料、シロキサン樹脂材料、溶剤アクリルクリア系樹脂材料、水性アクリルエマルジョン系樹脂材料、シリコーン変性ウレタン系樹脂材料、シラン系樹脂材料の中から選ばれた1種の樹脂材料で形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る鉄筋コンクリート構造物の電気防食工法は、叙上の構成を有するので次の効果がある。
すなわち、請求項1記載の発明によれば、電気防食工法に於ける流電陽極方式であって鉄筋コンクリート構造物の表面をブラスト表面処理を行った後に溶射をして厚さが270(μm)から330(μm)までの範囲内の陽極でなる溶射金属層を形成し、該溶射金属層の表面に合成樹脂材料を塗布しかつ含浸させて合成樹脂層を形成したことを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の電気防食工法を提供する。
このような構成としたので、溶射金属層が鉄筋コンクリート構造物の表面への付着力を増大させると共に該溶射金属層と鉄筋との間に通電する防食電流を溶射金属層の長寿命化の範囲に制御することが可能となり、防食電流を長期間にわたり供給可能である。
【0010】
請求項2記載の発明によれば、前記溶射金属層がアルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、マグネシウム(Mg)の中から選ばれた1種類以上の合金で形成されたことを特徴とする請求項1記載の鉄筋コンクリート構造物の電気防食工法を提供する。
このような構成としたので、請求項1記載の発明の効果に加えて、溶射金属層を汎用金属例えばアルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、マグネシウム(Mg)の中から選ばれた1種類以上の合金で構成することができ、実施化を容易にするという効果がある。
【0011】
請求項3記載の発明によれば、前記合成樹脂層がアクリルエマルジョン系樹脂材料、アルコキシシラン系樹脂材料、珪酸ナトリウム系樹脂材料、シロキサン樹脂材料、溶剤アクリルクリア系樹脂材料、水性アクリルエマルジョン系樹脂材料、シリコーン変性ウレタン系樹脂材料、シラン系樹脂材料の中から選ばれた1種の樹脂材料で形成されたことを特徴とする請求項1記載の鉄筋コンクリート構造物の電気防食工法を提供する。
このような構成としたので、請求項1記載の発明の効果に加えて、鉄筋コンクリート構造物の表面まで含浸可能な合成樹脂材料にし、溶射金属層の付着力をさらに増大させるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る鉄筋コンクリート構造物の電気防食工法に於ける実施の形態について添付図面に基づき詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る鉄筋コンクリート構造物の垂直断面図を示している。図2は該鉄筋コンクリート構造物に形成した溶射金属層の表面に塗布する合成樹脂の種類及び溶射金属層の付着力(N/mm)を示す図面である。
【0014】
16は鉄筋コンクリート構造物であり、その内部には鉄筋16aを埋設している。該鉄筋コンクリート構造物16の表面16bはブラスト処理をする。ここでブラスト処理とは鉄筋コンクリート構造物16の表面16bを荒面化すべく、例えば粉末状の研磨材を衝突させて表面処理を行う加工法である。このようにブラスト処理することにより鉄筋コンクリート構造物16の表面16bは凸部16cと凹部16dが形成される。そしてブラスト処理された前記鉄筋コンクリート構造物16の表面16bに溶射金属層17を形成する。この溶射金属層17は例えばアルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、マグネシウム(Mg)の中から選ばれた1種類以上の合金でなる。合成金属液を所定の風圧(kg/m)でもって平均塗膜厚さが約300(μm)になるように溶射を行って形成される。
【0015】
次に前述した溶射金属層17の表面に例えば図2に示すいずれかの樹脂を塗布し合成樹脂層18を形成する。ここで、電気防食工法は防食電流の供給方式によって、外部電源方式と流電陽極方式に区分され流電陽極方式はコンクリート内部の鋼材よりも電気的に卑な金属の陽極システムをコンクリート表面あるいはその近傍に設置し、鋼材と接続させることで両者間の電位差を利用して防食電流を流し、防食を行う方式である。電源設備が不要であることが特徴である。本方式では既設の鉄筋コンクリート構造物はもとよりPC構造物、予防保全の目的から新設構造物への適用も可能である。
【0016】
ここで、本発明に係る電気防食方法を説明するに先立ち、当該鉄筋コンクリート構造物16に於ける鉄筋16aが腐食する現象等を説明する。
鋼材としての鉄筋16aは水分がその表面に接触すればいわゆる酸素濃淡電池が生じ酸素濃度の小さい該水分の中央部に接する鉄筋16aの部分はアノード(陽極)を形成し、酸素濃度の大きい該水分の周辺部と接する鉄筋16aの部分はカソード(陰極)を形成する。この電位差により該鉄筋16a内には腐食電流が通電し腐食電流により該鉄筋16aのアノード(陽極)部分が腐食する。
【0017】
そこで、本発明では、図1に示すように、先ず鉄筋コンクリート構造物16の表面16bに陽極でなる溶射金属層17を形成する。溶射金属層17は基本的にイオン化傾向に於いて鉄(Fe)で構成される鉄筋16aよりイオン化し易い亜鉛(Zn)金属とする。鉄筋16aが錆びるには水分(HO)と酸素(O)の存在が条件であり、鉄筋コンクリート構造物16の内部及び外部からの水分(HO)と酸素(O)はイオンになりやすい亜鉛(Zn)と化合しやすい。
アノードで生じる酸化反応すなわちアノード反応は
(A) Fe → Fe2+ + 2e
(B) Zn → Zn2+ + 2e
であるが、鉄(Fe)と亜鉛(Zn)が結線されているので前記(B)の反応が起こり、前記(A)の反応は抑制される。そして鉄筋16aの腐食が抑制される。詳しくは亜鉛(Zn)のコンクリート面より前記(B)の反応が起こり2eは鉄筋16aに向って流れる。残った亜鉛Zn2+は水酸基と化合して別の物質すなわちZn(OH)を生成する。すなわち該溶射金属層17は鉄筋16aよりもイオン化し易く、マイナス側の電位を有しておりこれが鉄筋16aを接触させると陽極として作用する。このため、該鉄筋16aがカソードとなり溶射金属層17から該鉄筋16aの表面に電流が流れ、この電流が防食電流といわれ前述した腐食電流より大きな電流が流れると図3に示すように鉄筋16aの腐食現象は防止できるが、この防食電流が大きすぎるとこの陽極でなる溶射金属層17が自ら溶解し該溶射金属層17の付着力を低下させ溶射金属層17の寿命を短くすることとなる。以上のことから本発明では実験結果により図3に示すように例えば溶射金属層17の寿命を約15年保証するのであれば防食電流を低値に制御して防食電流密度(mA/m)が約5.0に設定するように構成する必要があることが判明した。
【0018】
次に、本発明に係る鉄筋コンクリート構造物の電気防食工法に於ける実施の形態に基づく手順や作用等を説明する。
【0019】
図1に示すように鉄筋コンクリート構造物16の表面16bを例えば粉末状の研磨材または研削材を所定風圧(kg/m)でもって所定使用量(kg/m)で衝突させてブラスト表面処理を行う。該ブラスト表面処理により該鉄筋コンクリート構造物16の表面16bは凸部16cと内壁面が例えば略球状の凹部16dを形成し、荒面化される。そして、溶射機器(図示せず)を使用して例えばアルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、マグネシウム(Mg)の金属のいずれか又はその合成金属で構成される金属溶解液を所定の風圧(kg/m)でもってブラスト表面処理された前記鉄筋コンクリート構造物16の表面16bに溶射する。これにより平均塗膜厚さが例えば300(μm)程度の溶射金属層17を形成する。次に別の塗布手段を使用し該溶射金属層17の表面に例えば図2に示す合成樹脂材料すなわちアルコキシシラン系樹脂材料やアクリルエマルジョン系樹脂材料又は図示しないが珪酸ナトリウム系樹脂材料、シロキサン樹脂材料、溶剤アクリルクリア系樹脂材料、水性アクリルエマルジョン系樹脂材料、シリコーン変性ウレタン系樹脂材料、シラン系樹脂材料を塗布し含浸させ合成樹脂層18を形成する。
【0020】
そして時間経過と共にこの合成樹脂層18からその樹脂液18aが前記溶射金属層17に予め形成されている細孔17a内に垂下・浸透する。この樹脂液18aは図1に示すように、鉄筋コンクリート構造物16の表面16bまで到達するが、該溶射金属層17に形成された全細孔17a内のすべてに垂下・浸透せず細孔17aの一部に未浸透部分が存在する。これにより水酸化アルミ二ウムが浸出する。
【0021】
而して、さらに時間が経過すると、鉄筋コンクリート構造物16の表面16bまでに垂下・浸透した樹脂液18aは硬化し絶縁体を形成し溶射金属層17に鉄筋コンクリート構造物16の表面16bへの付着力を付与することとなる。そのために前記溶射金属層17と鉄筋16aとの間で通電する防食電流は流れ難くなる。そして、前述したように、鉄筋コンクリート構造物16の表面16bを凸部16cと凹部16dに形成し、ブラスト表面処理をしており、この表面16bに金属溶解液を溶射することにより溶解粒子がからみ付いて皮膜を形成する。これはいわゆる投錨効果である。この投錨効果により溶射金属層17が形成される。
【0022】
前記溶射金属層17の厚さが270(μm)から330(μm)までの範囲内に設定することによりその付着力(N/mm)が増大することが確認できたが、特に、図2に示す実験データのように例えば溶射により形成された溶射金属層17であって、形成した厚さ300(μm)の場合、該溶射金属層17の表面に形成した合成樹脂層18に使用する図2に示すその各合成樹脂材料によるとその塗布量を100(g/mm)から150(g/mm)にすると図2から分るように溶射金属層17の付着力(N/mm)の値は3.3(N/mm)ないし4.8(N/mm)となり未塗装である場合の2.3〜3.4倍程度に向上した。
【0023】
かくて、本発明では溶射金属層17の細孔17aより合成樹脂層18の樹脂液18aが鉄筋コンクリート構造物16の表面16bまで垂下・浸透する好適な合成樹脂材料を選定し該溶射金属層17が鉄筋コンクリート構造物16の表面16bへの付着力の増大を確保する構成を案出した。さらに前述した溶射金属層17の厚さが270(μm)未満の場合と、それの330(μm)を越える場合とにより次のことが明確になった。
【0024】
溶射金属層17の厚さが270(μm)未満の場合は、イオン化傾向により溶射金属層17は電池の回路で陽極となるため経年を経ると減少していく。電気防食の寿命を(8mA)で15年とすると、この値以下では保証できない。また溶射金属層17の厚さが330(μm)を越えた場合は図1に示すように未浸透部がなくなり水酸化アルミニウムを浸出できなくなる。そして浸出距離が長くなり鉄筋コンクリート構造物16の表面16aまで合成樹脂材料が到達できないことにより溶射金属層17の付着力が不足する。
尚、実験結果によれば前記溶射金属層17に形成された細孔17aの多少に拘らず合成樹脂層18を形成する樹脂液18aの塗布量が多い程溶射金属層17の付着力が急激に増大することが判明した。
【0025】
一方、本発明の特徴点をさらに明確にすべく実験したところ、図3に示すように溶射金属層17の耐久性つまり寿命(年)と防食電流値、詳しくは防食電流密度(mA/m)との関係特性図を得ることができた。かかる関係特性図によれば、防食電流密度が高値なときは溶射金属層17の寿命が2ないし3年で非常に短く設定され耐久性に劣り、該防食電流密度が5.0(mA/m)未満のとき、溶射金属層17の寿命が15年ないし20年となり長期に設定され耐久性を向上させることが判明した。このことから関係特性図から溶射金属層17の寿命を15(年)と考えると電流密度を5.0(mA/m)に制御することが好適である。この電流密度(mA/m)の制御方法は外部からの水分の補給を制御することで可能となる。つまり溶射金属層17の細孔17aに樹脂液18aをどの程度塗布すればよいか決定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る鉄筋コンクリート構造物の垂直断面図である。
【図2】鉄筋コンクリート構造物に形成した溶射金属層の表面に塗布する合成樹脂の種類及び溶射金属層の付着力(N/mm)を示す図面である。
【図3】本発明に係る鉄筋コンクリート構造物に基づく溶射金属層の寿命(年)に対する防食電流密度(mA/m)の関係特性図である。
【図4】従来の技術に於ける一つの例を示す垂直断面図である。
【図5】従来の技術に於ける他の例を示す説明概要図である。
【図6】図5の要部を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0027】
16 鉄筋コンクリート構造物
16a 鉄筋コンクリート構造物の鉄筋
16b 鉄筋コンクリート構造物の表面
16c 鉄筋コンクリート構造物の表面の凸部
16d 鉄筋コンクリート構造物の表面の凹部
17 溶射金属層
17a 溶射金属層の細孔
18 合成樹脂層
18a 合成樹脂層の樹脂液


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気防食工法に於ける流電陽極方式であって鉄筋コンクリート構造物の表面をブラスト表面処理を行った後に溶射をして厚さが270(μm)から330(μm)までの範囲内の陽極でなる溶射金属層を形成し、該溶射金属層の表面に合成樹脂材料を塗布しかつ含浸させて合成樹脂層を形成したことを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の電気防食工法。
【請求項2】
前記溶射金属層がアルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、マグネシウム(Mg)の中から選ばれた1種類以上の合金で形成されたことを特徴とする請求項1記載の鉄筋コンクリート構造物の電気防食工法。
【請求項3】
前記合成樹脂層がアクリルエマルジョン系樹脂材料、アルコキシシラン系樹脂材料、珪酸ナトリウム系樹脂材料、シロキサン樹脂材料、溶剤アクリルクリア系樹脂材料、水性アクリルエマルジョン系樹脂材料、シリコーン変性ウレタン系樹脂材料、シラン系樹脂材料の中から選ばれた1種の樹脂材料で形成されたことを特徴とする請求項1記載の鉄筋コンクリート構造物の電気防食工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−263739(P2009−263739A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116707(P2008−116707)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000107044)ショーボンド建設株式会社 (71)
【Fターム(参考)】