説明

鉄粉汚れ除去剤

【課題】 暑熱条件等で車両等の表面の鉄粉汚れの洗浄を行った場合であっても、鉄錆等の鉄粉汚れの除去効果が良好で、かつ、水道水で簡単にすすぎ落とすことができ、汚れを巻き込んだ状態で乾燥することなく、新たな錆や変色のおそれのない鉄粉汚れ除去剤を提供すること新たな錆や変色のおそれのない鉄粉汚れ除去剤を提供すること。
【解決手段】 チオカルボン酸またはチオカルボン酸塩と、糖類および/または糖類の脱水誘導体以外の誘導体と、水とが含まれてなることを特徴とする鉄粉汚れ除去剤。糖類および/または糖類の脱水誘導体以外の誘導体が、糖類の還元誘導体、特に糖アルコールであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の表面の鉄粉汚れを洗浄するための鉄粉汚れ除去剤に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄粉とは細かい鉄や酸化鉄の破片である。細かい鉄の破片は電車の線路、車のブレーキローターなどから多く発生し、大気中を浮遊し、自動車や電車等の車両等に付着して汚染する。細かい鉄の破片は酸性雨や紫外線によって非常に酸化されやすく、放置すると付着した油分とともに固着しやすく、しかも一度こびりついてしまうと非常に除去しにくくなる。また、塗装表面では、最悪の場合、塗装を浸食することがある。したがって、自動車や電車等の車両は、これら塗膜保護の観点から、また、見栄えの観点からも、その表面に付着した鉄粉汚れ等を洗い流すため、度々洗浄される。
【0003】
車両に固着した鉄粉の除去には、鉄粉落とし用の粘土や、コンパウンドが利用されている。しかし、作業性に難点があるうえ、車両等の表面に微細な損傷を与え、また排水による水質汚染も懸念される。
【0004】
チオグリコール酸塩を主剤とする鉄錆除去剤の技術が特許文献1、2等に開示されている。迅速に鉄錆を溶解し、しかも溶解した鉄イオンを青紫色に発色させるので除錆作業の様子が目でみて分かるという点で優れた効果を有している。
【0005】
【特許文献1】特開平07−216395号公報
【特許文献2】特開平09−241681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この鉄錆除去剤を用いて自動車等車両の表面の鉄錆除去・洗浄を行う場合、希釈して又は希釈することなく濃厚な液のまま直接スポンジ等に含ませて、車両の表面に泡たたせながら塗布し、鉄錆の還元反応を待つために数分間放置する。このとき、汚れを巻き込んだ状態で乾いてしまい易い。また、自動車等車両の非常に広い表面積を洗浄しようとする場合どうしても時間を要し、最初に洗浄した箇所は汚れを巻き込んだ状態で乾いてしまい易く、暑熱条件等で行った場合も、同様に、余分な鉄錆除去剤が汚れを巻き込んだ状態で乾いてしまい易い。汚れを巻き込んだ状態で乾燥したこれらの鉄錆除去剤は変色のおそれがあり、水で洗い流す事は極めて困難となる。また、新たな錆の発生の原因となったり、汚れの再付着をも併発してしまうおそれがある。鉄錆除去剤を希釈した場合、乾燥や変色を防止する方向にできるが、鉄錆除去効果が弱まってしまう。
【0007】
そこで、本発明は、暑熱条件等で車両等の表面の鉄粉汚れの洗浄を行った場合であっても、鉄錆等の鉄粉汚れの除去効果が良好で、かつ、水道水で簡単にすすぎ落とすことができ、汚れを巻き込んだ状態で乾燥することなく、新たな錆や変色のおそれのない鉄粉汚れ除去剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、以下の本発明により達成される。すなわち本発明は、チオカルボン酸またはチオカルボン酸塩と、糖類および/または糖類の脱水誘導体以外の誘導体と、水とが含まれてなることを特徴とする鉄粉汚れ除去剤である。なお、本明細書において、糖類および/または糖類の脱水誘導体以外の誘導体を、「糖類等」と称する場合がある。
【0009】
チオカルボン酸とは、COOH基とSH基を有する化合物である。チオカルボン酸およびその塩は、還元剤およびキレート化剤としての働きを有し、3価鉄イオン (Fe3+) を還元すると同時に、生じた2価鉄イオン(Fe2+)との錯体を形成することにより錆を除去する。また、この2価鉄イオン(Fe2+)との錯体が空気中の酸素で酸化され、3価鉄イオン (Fe3+)との錯体となって青紫色に変色するので、除錆作業の様子が目でみて分かるという点で優れる。
【0010】
糖類等は、保湿性、キレート性に優れており、チオカルボン酸との相乗作用により、鉄錆除去性能を極めて良好に向上させると共に、その界面活性により洗浄性の効果も付与していると考えられる。また、糖類等は、保湿性にも優れており、糖類等を含む本発明の鉄粉汚れ除去剤を、自動車等、非常に広い面積の車両の洗浄に用いたり、暑熱条件下で用いたりしても、水すすぎ性が極めて良好である。したがって、本発明の鉄粉汚れ除去剤を水で簡単にすすぎ落とすことができ、塗装表面が乾燥することによる各種不具合を解消することができる。さらに、糖類等は、比較的多くの量を鉄粉汚れ除去剤に混入させても、塗装表面に悪影響を与えることも無く、鉄粉汚れ除去剤としての良好な特性を発現させることができる。糖類等を添加することで、鉄粉汚れ除去剤の泡質の改善ができ、きめが細かく弾力性のある泡質となり、洗浄作業において快適性が得られる他、他の界面活性剤等の洗浄成分の減量化や、様々な種類の洗浄成分の選択が可能となり、洗浄剤として求める性能を得ることが容易になる。
【0011】
前記糖類等としては、糖類の還元誘導体を含むことが好ましい。糖類の還元誘導体は天然由来の成分が多く、一般的に生分解性が高く、環境にやさしいため、排水処理が為される環境であっても勿論好適であるが、屋外環境で使用され、排水がそのまま自然環境に還るような状況となりやすい車両用鉄粉汚れ除去剤においては、特に好ましい。
【0012】
前記糖類の還元誘導体としては、糖アルコールを含むことがより好ましく、さらに、前記糖アルコールとしては、単糖アルコールおよび/またはオリゴ糖アルコールを含むことが特に好ましい。
【0013】
本発明の鉄粉汚れ除去剤は、両性界面活性剤、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、および、金属封鎖剤からなる群より選ばれる1種または2種以上の洗浄成分を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、暑熱条件等で車両等の表面の鉄粉汚れの洗浄を行った場合であっても、鉄錆等の鉄粉汚れの除去効果が良好で、かつ、水道水で簡単にすすぎ落とすことができ、汚れを巻き込んだ状態で乾燥することなく、新たな錆や変色のおそれのない鉄粉汚れ除去剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の鉄粉汚れ除去剤は、チオカルボン酸またはチオカルボン酸塩と、糖類等と、水とが必須構成成分であり、さらに必要に応じて、洗浄成分、研磨剤またはその他の成分が含まれる。以下、本発明を各成分に分けて詳細に説明する。
【0016】
<チオカルボン酸またはチオカルボン酸塩>
本発明の鉄粉汚れ除去剤には、チオカルボン酸またはチオカルボン酸塩が必須成分として含まれる。チオカルボン酸としては、チオグルコール酸(メルカプト酢酸)、チオ乳酸、チオコハク酸、チオリンゴ酸、チオサルチル酸等が挙げられる。また、チオカルボン酸塩としては、これらのチオカルボン酸の金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。例えば、チオグリコール酸塩としては、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリコール酸カルシウム、チオグリコール酸アンモニウム、チオグリコール酸メチルアミン、チオグリコール酸エチルアミン、チオグリコール酸モノエタノールアミン、チオグリコール酸ジエタノールアミン、チオグリコール酸トリエタノールアミン等が挙げられる。更に、チオリンゴ酸塩としては、チオリンゴ酸アンモニウム、チオリンゴ酸モノエタノールアミン、チオリンゴ酸ジエタノールアミン、チオリンゴ酸トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0017】
本発明において、チオカルボン酸またはチオカルボン酸塩の添加量としては、鉄粉汚れ除去剤全量に対して、0.5質量%以上とすることが好ましく、1.0〜50.0質量%の範囲とすることがより好ましい。
【0018】
<糖類等>
本発明の鉄粉汚れ除去剤には、糖類および/または糖類の脱水誘導体以外の誘導体が、必須成分として含まれる。一般的に「糖類」とは、下記一般式Aで表されるものであり、
n2mm[nおよびmは、それぞれ独立に正の整数。]・・・一般式A
本発明において「糖類」とは、上記一般式Aで表されるものは勿論のこと、その類似体として、アルデヒドやケトンのポリヒドロキシ同族体およびその脱水縮合物を含む概念である。また、その誘導体とは、具体的には還元誘導体や酸化誘導体等が挙げられる。なお、本発明において、糖類の誘導体の中には、脱水誘導体は含まれない。その理由は、脱水反応により水酸基の数が少なくなってしまい、保水性が低下して、期待するすすぎ性の効果を十分に発現できない場合があるからである。
【0019】
本発明に使用可能な糖類としては、上記一般式Aで表されるものや、前記ポリヒドロキシ同族体として単糖類が、その脱水縮合物としてオリゴ糖類、多糖類等が挙げられる。また、本発明に使用可能な糖類の誘導体としては、還元誘導体として糖アルコール、デオキシ糖、グリカール等が、酸化誘導体としてアルドン酸、ウロン酸、糖酸等が、それぞれ挙げられ、その他イノシトール、アミノ糖、チオ糖等が挙げられる。なかでも糖類の還元誘導体、とりわけ糖アルコールは天然由来の成分が多く、一般的に生分解性が高く、環境にやさしいため、排水処理が為される環境であっても勿論好適であるが、屋外環境で使用され、排水がそのまま自然環境に還るような状況となりやすい車両用鉄粉汚れ除去剤においては、特に好ましい。
【0020】
具体的に使用可能な糖アルコールとしては、エリスリトール(トレイトール、トレイット)、アラビニトール(アラビット、アラビトール)、キシリトール(キシリット)、アドニトール(リビトール、リビット)、ソルビトール(ソルビット、グルシット、グルシトール)、マンニトール(マンニット)、イジトール(イジット)、タリトール(タリット)、アリトール(アリット)、ズルシトール(ズルシット、ガラクチトール)等、その他イノシトール(イノシット)等の単糖アルコールや、マルチトール、イソマルチトール、ラクチトール、マルトトリイトール、イソマルトトリイトール、パニトール等のオリゴ糖(複数糖)アルコールが挙げられる。
【0021】
これらのなかでも、オリゴ糖(複数糖)アルコールが好ましく、特に二糖類あるいは三糖類の糖アルコールが好ましい。単糖類でも、十分なすすぎ性を有するが、二糖類あるいは三糖類の方がよりすすぎ性が良好であり、また四糖類以上ではだんだん粘度が高くなり、洗浄作業がし難くなる場合がある。
【0022】
また、これら糖アルコールは、2種類以上混合して用いても何ら差し支えない。また、本発明に用いる糖類等としては、これら糖アルコールとそれ以外の糖類等の混合物でも構わないし、全てが糖アルコール以外の糖類等である混合物でも構わないが、少なくとも糖類の還元誘導体を含むことが好ましく、糖アルコールを含むことがより好ましい。
【0023】
本発明において、糖類等の添加量としては、鉄粉汚れ除去機能のみを有する場合、鉄粉汚れ除去剤全量に対して、1.0質量%以上とすることが好ましく、3.0〜50.0質量%の範囲とすることがより好ましい。糖類等の添加量が少なくなると、本発明の目的であるすすぎ性がだんだん低下し、逆に添加量が多くなると、高コストなものとなってしまう。一方、鉄粉汚れ除去機能以外の機能を有する場合、すなわち水アカ取り洗浄剤を兼ねた場合には、鉄粉汚れ除去剤全量に対して、1.0質量%以上とすることが好ましく、3.0〜50.0質量%の範囲とすることがより好ましい。糖類等の添加量が少なくなると、本発明の目的であるすすぎ性がだんだん低下し、逆に添加量が多くなるとだんだん粘度が高くなり、洗浄作業が悪化する場合がある。
【0024】
<水>
本発明においては、後述する各主成分を安定的に溶解ないし分散させた状態で維持するための溶剤として、水を用いる。この時用いる水については、特に制限はなく、一般的な水道水、工業用水、地下水、純水、脱イオン水、河川水、湧き水等が問題なく使用できる。鉄粉汚れ除去剤としての保存性を高めるためには、できるだけ不純物を含まない方が好ましいため、純水、脱イオン水が好ましいが、水道水、工業用水あるいは地下水であっても、一般的に保存性に大きな影響を与える程ではないため、使用には全く差し支えない。
【0025】
<洗浄成分>
本発明の鉄粉汚れ除去剤は、両性界面活性剤、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、および、金属封鎖剤(キレート剤)からなる群より選ばれる1種または2種以上の洗浄成分を含むことが好ましい。これらは1種類のみでも構わないが、2種以上を組み合わせて用いてもよく、洗浄可能な汚染成分の多様性を考慮したり、相乗作用による洗浄性や発泡性の向上を見極めて、適宜最適の組み合わせを選択すればよい。
【0026】
具体的に使用可能な好ましい両性界面活性剤としては、例えば、アルキルジメチルアミンオキサイド、アルキルヒドロキシエチルアミンオキサイド、アルキルジメチルベタイン、アルキルヒドロキシエチルベタイン、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アミノ酸型両性界面活性剤、脂肪酸アミドアミンオキサイド、上記両性界面活性剤中にフッ化炭化水素基を含有する両性イオン系界面活性剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
また、具体的に使用可能な好ましい陰イオン界面活性剤としては、例えば、直鎖アルキルベンゼン脂肪酸塩、高級アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪酸塩(石鹸)、N−サルコシン酸塩、アシル化ポリペプチド、リグニンスルホン酸塩、N−アシルアルキルタウリン塩、エーテルカルボン酸塩、n−パラフィンスルホン酸塩(SAS)、スルホコハク酸塩、イセチオン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩(AOS)、直鎖第一級アルコール硫酸塩(AS)、ポリオキシエチレン付加直鎖アルコール硫酸塩(AES)、アルキルリン酸エステル、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、上記陰イオン界面活性剤中にフッ化炭化水素基を含有する陰イオン系界面活性剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
また、具体的に使用可能な好ましい非イオン界面活性剤としては、例えば、エチレンオキサイド付加アルキルフェノール(APE)、エチレンオキサイド付加高級アルコール(AE)、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン付加ポリオキシプロピレングリコール、アルカノールアミン−脂肪酸縮合物、アルキルアルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、アルキルグリセリルエーテル、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ヤシ油脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、上記非イオン界面活性剤中にフッ化炭化水素基を含有する非イオン界面活性剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
さらに、具体的に使用可能な好ましい金属封鎖剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミノ五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラアミノ六酢酸(TTHA)、L−グルタミン酸二酢酸(GLDA)、L−アスパラギン酸−N,N−二酢酸(ASDA)、2−ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIMDA)、グルコン酸塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸(HIDS)、ヒドロキシエタンジホスホン酸や、上記組成物もしくは酸の一部ないし全てが、アルカリ金属、アンモニウム等で中和された物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
本発明において、これら洗浄成分の添加量としては、鉄粉汚れ除去剤全量に対する洗浄成分の合計量として0.05〜35.0質量%の範囲とすることが好ましく、1.0〜15.0質量%の範囲とすることがより好ましい。洗浄成分があまりに多量に含まれると塗装表面に影響を与えることがあり、かつ、液の粘性が上昇して取り扱いが困難になる虞がある。
【0031】
<研磨剤>
本発明の鉄粉汚れ除去剤は、研磨剤を含ませることで、鉄粉汚れ除去剤としての良好な特性を保持しつつ、洗浄性、すすぎ性が良好で、水アカ取り洗浄剤として使用可能とすることもできる。この場合、さらに撥水成分を含ませることで、水アカ取り洗浄剤と撥水洗浄剤との双方の機能を併せ持つ鉄粉汚れ除去剤(水アカ取り撥水洗浄剤)とすることもできる。研磨剤は、水アカ取り洗浄剤に研磨剤として使用され得る従来公知の材料を問題なく使用することができる。
【0032】
具体的に使用可能な研磨剤としては、酸化珪素;珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、珪酸ストロンチウム、珪酸アルミニウム、珪酸バリウム、珪酸ジルコニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム等の珪酸金属塩;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸コバルト等の炭酸金属塩;タングステン酸カルシウム等のタングステン酸金属塩;酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化コバルト、α−酸化鉄等の金属酸化物;水和酸化鉄等の金属水酸化物;その他合成ゼオライト、天然ゼオライト、珪藻土等の多孔粉体;チッ化珪素;炭化珪素;等の無機粉体が挙げられる。
【0033】
また、研磨剤としての機能とともに、光触媒としての機能を併せ持つものも好適に使用することができる。具体的には、TiO2、SrTiO3、KTiO3、SnO2、Nb25、WO3、Fe23、Bi23、FeTiO3、ZnO、CdO、MoS2、Si、SiO2、CeO2、ZrO2等の光触媒効果を持つ粉体を挙げることができる。
【0034】
これら研磨剤は、その機能から当然に非水溶性であるため、得られる鉄粉汚れ除去剤の液安定性のために、研磨剤を分散させるための分散剤を併用することが好ましい。使用可能な分散剤としては、具体的には例えば、ポリアクリル酸塩(ナトリウム塩、アンモニウム塩等)、ポリリン酸及びその塩、縮合ナフタレンスルホン酸塩(ナトリウム塩、アンモニウム塩等)等の水溶性の分散剤や、ビニル系ポリマー、変性ポリエステル、脂肪族アルコールサルフェートおよびその塩等の非水溶性の分散剤が挙げられる。
【0035】
本発明において、研磨剤の添加量としては、鉄粉汚れ除去剤全量に対して、0.1〜25.0質量%の範囲とすることが好ましく、1.0〜10.0質量%の範囲とすることがより好ましい。研磨剤の添加量が少なくなると、研磨剤を添加することで得られる水アカ取り効果が発現しなくなり、逆に添加量が多くなると、塗装表面に影響を与えるため、それぞれ好ましくない。研磨剤の分散剤を添加する場合には、その添加量としては、添加する研磨剤全量に対して、5.0〜100質量%の範囲とすることが好ましく、15.0〜50.0質量%の範囲とすることがより好ましい。
【0036】
<その他の成分>
本発明の鉄粉汚れ除去剤には、上記成分以外にも必要に応じ、処方内の安定性を損なわない範囲で、その他の成分を含んでいても構わない。例えば、カーワックスに慣用的に使用されているものであれば、問題なく使用することができ、具体的には、撥水成分、艶出し成分、防腐剤、水溶性溶剤、紫外線遮蔽剤、アルカリ剤、ビルダー類、増粘剤、着色剤、香料および殺菌剤等の任意成分を、塗装表面に悪影響を及ぼさない範囲内で適宜添加することが可能である。
【0037】
例えば、撥水成分、又は艶出し成分として添加可能な油剤成分は、天然ワックス、合成ワックス、各種樹脂、シリコーン系材料等が挙げられる。油剤成分はエマルションを構成して、分散状態が維持されて存在する。撥水成分を含ませることで、鉄粉汚れ除去剤としての良好な特性を保持しつつ、洗浄性、すすぎ性が良好で、撥水洗浄剤として使用可能な鉄粉汚れ除去剤とすることができる。
【0038】
防腐剤としては、芳香族ヒドロキシ化合物、有機酸の金属塩、安息香酸、サリチル酸、パラヒドロキシ安息香酸エステル、ベンゾイソチアゾニオン、メチルイソチアゾニオン等が挙げられる。また、紫外線遮蔽剤としては、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の紫外線遮蔽剤を挙げることができる。
水溶性溶剤としては、EO(エチレンオキシド)系グリコールエーテル、PO(プロピレンオキシド)系グリコールエーテル、又はジアルキルグリコールエーテルを好適に用いることができる。
EO(エチレンオキシド)系グリコールエーテルとしては、1-ヒドロキシ-2-メトキシエタン、2-(2-ヒドロキシエトキシ)ブタン、3-(2-ヒドロキシエトキシ)プロピレン、1-ヒドロキシ-2-フェノキシエタン、1-ヒドロキシ-2-ベンジルオキシエタン等、PO(プロピレンオキシド)系グリコールエーテルとしては、2-ヒドロキシ-1-メトキシプロパン、2-ヒドロキシ-1-プロピルオキシプロパン、2-アセトキシ-1-メトキシプロパン等、ジアルキルグリコールエーテルとしては、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジメトキシプロパン等を例示することができる。
【0039】
その他、低温時における凍結に対する液安定性付与および洗浄性付与の目的で、エチレングリコール等のグリコール類を添加することもできる。本発明において、これらその他の成分の添加量としては、それぞれの添加成分の添加目的に応じ、洗浄性、発泡性、すすぎ性、保存安定性、塗装表面への影響等を勘案して、適宜設定すればよい。
【0040】
<使用方法>
以上説明した本発明の鉄粉汚れ除去剤は、使用に供し得る状態であり、これをそのまま適当な容器に収容して流通経路で取引しても構わないが、液安定性や製造適性、並びに組成割合を考慮した上で濃縮状態にして、適当な容器に収容して流通経路で取引することとしても構わない。後者の場合、実際の使用に際しては、これをユーザーがある程度薄めて、車両等の表面の鉄粉汚れ除去・洗浄に供する。前者の場合であっても勿論、その使用状況によっては希釈して使用しても構わない。濃縮する際の濃縮倍率は、推奨希釈倍率を想定して設定すればよく、そのときの各成分割合としては、既述の各成分割合から一定の濃縮倍率で高濃度にして調製すればよい。なお、勿論このように濃縮された状態の鉄粉汚れ除去剤についても、本発明の鉄粉汚れ除去剤の範疇に含まれる。
【0041】
本発明の鉄粉汚れ除去剤は、そのまま、あるいは必要に応じて希釈された後、一般に、スポンジや布等の多孔質体に含ませて使用する。すなわち、これを車両等の塗装表面やホイール面に擦り付けて、1分乃至数分間放置した後、水で洗い流す。既述の如く、本発明の鉄粉汚れ除去剤は、この鉄粉汚れ除去・洗浄作業において、鉄錆除去性や洗浄性が十分であり、塗装表面にも影響を与えず、しかもすすぎ性が極めて良好である。
【0042】
そして、必要に応じて水滴を除去し、鉄粉汚れ除去・洗浄作業が終了する。さらに必要に応じて、ワックス掛けを行うことで、耐久性のある光沢表面が得られるが、使用した鉄粉汚れ除去剤に既述の撥水成分が含まれる場合には、ワックス掛けを行うことなく、耐久性のある光沢表面が得られる。
【0043】
(実施例)
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0044】
【表1】

【0045】
<実施例1〜2>
表1に示す各処方で組成成分を分散ないし混合して、実施例1〜2の各鉄粉汚れ除去剤を調製した。
【0046】
<比較例1〜4>
表1に示す糖類等を含まない各処方で組成成分を分散ないし混合して、比較例1〜4の各鉄粉汚れ除去剤を調製した。
【0047】
<評価試験>
得られた実施例1〜2および比較例1〜4の各車両用鉄粉汚れ除去剤を用いて、以下に示す評価項目の各評価試験を行った。なお、以下の各評価試験においては、各車両用鉄粉汚れ除去剤を希釈することなく、原液のままで評価に供した。結果は、表1にまとめて示した。
【0048】
(1:錆除去性)
鋼板SPCC-SBに塩水を噴霧し、十分錆びさせたものを試験片とし、その上に各車両用鉄粉汚れ除去剤を滴下し一分間放置した後、流水で洗い流し、錆の除去性を評価した。評価指標は以下に示す通りである。
◎:錆は十分に除去できる。
○:除去できるが十分ではない。
×:除去できない。
【0049】
(2:洗浄性)
自動車の白色塗装面にマフラー部より採取した排気煤を吹き付け、70℃で2時間焼き付け処理したものと、1ヶ月洗車せず屋外に放置した自動車のホイール表面とを試験対象面とした。各々の試験対象面に、各車両用鉄粉汚れ除去剤を吹き付け、30秒後に力を加えずに拭き上げ、白色度の回復状態および汚れの落ち具合を評価した。評価指標は以下に示す通りである。
○:大部分の汚れが落ちた。
△:汚れが若干残る。
×:大部分の汚れが残る。
【0050】
(3:すすぎ性)
上記(2:洗浄性)に示す処理により得られた2種類の試験対象面に、各車両用鉄粉汚れ除去剤を用いてスポンジにて擦り洗いし、試験対象面に車両用鉄粉汚れ除去剤が残った状態のまま、70℃で15分間焼き付け処理を行った(屋外の暑熱下を想定)。その後室温に戻し、圧力を加えず軽く流し掛けるように水道水で洗い流すことにより、すすぎ状態および汚れの再付着状態を目視にて観察した。評価指標は以下に示す通りである。
○:すすぎが非常に容易で、試験対象面に洗浄物の残渣が見られず、汚れの再付着も見られない。
△:すすぎに時間を要する。
×:すすぎに非常に時間を要し、試験対象面に洗浄物の残渣が見られる、もしくは、汚れの再付着が見られる。
【0051】
表1に示す結果からわかるように、本発明の鉄粉汚れ除去剤である実施例1〜2では、チオグリコール酸アンモニウムと糖アルコールの相乗作用により、錆除去性能の改善がなされていることがわかる。また、洗浄性に関する性能に影響を与えることなく(あるいは、さらに高めつつ)、良好な錆除去性とすすぎ性を示していることがわかる。良好なすすぎ性を有しているので、汚れを巻き込んだ状態で乾燥することがなく、新たな錆や変色のおそれがない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオカルボン酸またはチオカルボン酸塩と、糖類および/または糖類の脱水誘導体以外の誘導体と、水とが含まれてなることを特徴とする鉄粉汚れ除去剤。
【請求項2】
前記糖類および/または糖類の脱水誘導体以外の誘導体が、糖類の還元誘導体を含むことを特徴とする請求項1に記載の鉄粉汚れ除去剤。
【請求項3】
前記糖類の還元誘導体が、糖アルコールを含むことを特徴とする請求項2に記載の鉄粉汚れ除去剤。
【請求項4】
前記糖アルコールが、単糖アルコールおよび/またはオリゴ糖アルコールを含むことを特徴とする請求項3に記載の鉄粉汚れ除去剤。
【請求項5】
両性界面活性剤、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤および金属封鎖剤からなる群より選ばれる1種または2種以上の洗浄成分を含むことを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一項に記載の鉄粉汚れ除去剤。

【公開番号】特開2006−182932(P2006−182932A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−378796(P2004−378796)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(594161987)株式会社ウイルソン (4)
【Fターム(参考)】