説明

鉄道車両の側構体

【課題】無塗装車両での外観を向上させる。
【解決手段】裾部長尺材4は、外側面板部4aと内側面板部4bとがウエブにて結合されるダブルスキン構造の押し出し形材で、鉛直方向に延びる本体部分4eから車体内方側に延びる上側水平延長部分4fが一体的に形成されている。裾部長尺材4の下端縁の内側面板部4bが側はり3aの下側部分外側面に溶接により接合され、水平延長部分4fが側はり3aの上側部分に溶接により接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の側構体、特に開口部が多い通勤型鉄道車両の側構体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
国内の通勤型鉄道車両における構体として、アルミニウム合金製構体(以下、アルミ構体という)が知られている。
【0003】
そのようなアルミ構体においては、大型断面の押出し形材が用いられ、それらを接合する手段としてはMIG溶接と摩擦撹拌接合(以下FSWという)とを併用して採用している。
【0004】
具体的には、例えば図7に示すように、車体前後方向に延びる軒部長尺材101と台枠の側はり102との間を、車両上下方向に延びる前の縦パネル部材103(103a,103b)と後の縦パネル部材104(104a,104b)で連結する共に、前記前後の縦パネル部材103,104の下側部分を、前後方向に延びる横パネル部材105(105a,105b)にて接合することで、ドア開口部S11や窓開口部S12を有する側構体106が形成される。この場合、前の縦パネル部材103の部材103a,103b間の接合ラインL11、後の縦パネル部材104の部材104a,104b間の接合ラインL12、および横パネル部材105の部材105a,105b間の接合ラインL13はFSW(自動化)により接合されているが、軒部長尺材101と前後の縦パネル部材103,104との間の接合ラインL14,L15、前後の縦パネル部材103,104及び横パネル部材105と側はり102との接合ラインL16、前後の縦パネル部材103,104と横パネル部材105との間の縦方向の接合ラインL17,L18はMIG溶接(手作業)により接合されている。
【0005】
このように、従来の側構体では、MIG溶接が多用されるため、ブローホール等の溶接欠陥の抑制や溶接ビードの均一化などの接合品質は作業者の力量に委ねられるが、誰が作業しても一定の品質が確保できるようにしたいという要求がある。無塗装の車体の場合には溶接の部位はとくに目立ち、その要求はさらに増す。
【0006】
そこで、側構体にFSWを全面適用することが考えられる。このようにすれば、FSWにより自動化を図ることで作業者に品質を委ねることがなく、また接合作業時に高精度・高品質の作り込みが可能で歪み取りなどの修正作業が削減可能である。
【0007】
ところで、従来、ダブルスキン構造の押し出し形材(中空形材)を用いた鉄道車両の構体は知られている(例えば特許文献1,2参照)。
【0008】
全面FSW化というと従来技術では、図8に示すように、押出し形材をすべて車体前後方向に配置したオールダブルスキン方式の側構体201も知られている。
【特許文献1】特開2000−351365号公報(段落番号0009〜0012及び図1)
【特許文献2】特開2002−178913号公報(段落番号0007〜00018及び図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そのようなオールダブルスキン方式の側構体では、一般に材料の歩留りが悪いのに加えて、構造・強度的に無駄が多く、素材費が大幅に増加し構体重量も重くなる。また、オールダブルスキン方式の側構体では表裏両方にFSWによる接合線が存在し、また側出入口・側窓の開口端部に垂直方向のフサギ構造を後付けする必要があり、さらに戸尻柱など形材に直交する骨部材も後付けしなければならない。従って、接合線も多く、品質の低下とコストアップに直結する。従って側開口の多い通勤型車両ではメリットが出ない。
【0010】
そこで、発明者は、最も歩留りがよい図7に示すような形材の配置パターンをベースとして、すべての形材をFSWで接合することを可能とした本発明をなすに至った。ここで、形材がT字状に交わる接合ラインをFSWによって接合しなければならない。従来構造では前後の縦パネル部材103,104における縦方向の接合ラインL11,L12と横パネル部材105における横方向の接合ラインL13にのみFSWを適用していた。しかし(i)軒部長尺材101と縦パネル部材103,104との間の横方向の接合ラインL14,L15、(ii)縦パネル部材103,104および横パネル部材105と台枠の側はり102との間の横方向の接合ラインL16、(iii)縦パネル部材103,104と横パネル部材105との間の縦方向の接合ラインL17,L18の3ラインについてはFSWが適用できていない。本発明は、これら(i)〜(iii)の部分についてもFSWの適用できるようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明は、車体前後方向に延び台枠の側はりに接合される裾部長尺材を備え、前記裾部長尺材の上側に側出入口開口部が形成される鉄道車両の側構体であって、前記裾部長尺材は、外側面板部と内側面板部とがウエブにて結合されるダブルスキン構造の押し出し形材であり、前記裾部長尺材は、鉛直方向に延びる本体部から車体内方側に延びる水平延長部分が一体的に形成されており、前記裾部長尺材の下端縁の内側面板部が側はりの下側部分外側面に溶接により接合され、前記水平延長部分が側はりの上側部分に溶接により接合されていることを特徴とする。
【0012】
このようにすれば、側構体(裾部長尺材)の側はりとの結合はやはりMIG溶接で実施する必要があるが、プラットホーム上にいる乗客の目につかない、裾部長尺材の下端縁の内側面板部を側はりの下側部分外側面に(隅肉)溶接を行うことによりMIG溶接のビードが表に出ず、また溶接ビードの仕上げ作業も不要になる。車両外部から見える側構体はすべてFSWにより接合して組み立てることを実現する上で有利となる。
【0013】
請求項2に記載のように、前記裾部長尺部材の水平延長部分は、前記本体部から水平方向内方に延びる厚肉の水平部と、この水平部の下側と前記本体部とを連結する傾斜部とにより形成され、前記水平延長部分上に、前記側出入口開口部に対応する部分では、側引き戸の下部が移動可能に係合するレール部材が配設されている構成とすることができる。
【0014】
このようにすれば、裾部長尺材がレール部材の取付面を含むので、側引戸の動作範囲がすべて側構体ブロックに含まれることになり、側引戸の動作範囲を一工程で高精度に組み立てることができ、側引戸の機能の高品質化を図ることができる。
【0015】
この場合、請求項3に記載のように、前記裾部長尺材の下縁部は、外側面板部が内側面板部より下方にまで延びていること、請求項4記載のように、前記裾部長尺材の本体部は、床面より上方まで延びていることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
以上のように構成したから、本発明は、通常乗客の目に見える範囲をすべてFSWにより接合しているので、外板品質がアップし、また従来必要とされていた溶接ビードの仕上げや歪み取りなどの二次作業を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に沿って説明する。
【0018】
図1、図2は本発明に係る鉄道車両の側構体を示し、図1は斜視図、図2は図1のII-II線における断面図である。
【0019】
図1(a)(b)に示すように、鉄道車両の側構体1は、車体前後方向に延び屋根構体(図示せず)の側縁に接合される軒部長尺材2と、車体前後方向に延び台枠3の側はり3aに接合される裾部長尺材4と、車両上下方向に延び前記軒部長尺材2及び裾部長尺材4を車体前後方向において間隔をもって相互に連結する前後の縦パネル部材5,6(戸袋パネル部材)とを備える。このように、裾部長尺材4を側構体ブロックに取り込んで一体で組み立てれば、後述するように通常乗客の目に見える範囲をすべてFSWにより組み立てることが実現される。
【0020】
そして、軒部長尺材2及び裾部長尺材4、並びに前後の縦パネル部材5,6によって囲まれて側出入口開口部S1が形成される。
【0021】
また、前後の縦パネル部材の下側部分を相互に連結する横パネル部材7とを備え、前記軒部長尺材2、裾部長尺材4、前後の縦パネル部材5,6及び横パネル部材7によって囲まれて側窓開口部S2が形成される。
【0022】
軒部長尺材2及び裾部長尺材4、前後の縦パネル部材5,6、横パネル部材7は、外側面板部と、内側面板部と、それらを結合するウエブ部とを有し、中空部が車体前後方向に延びるダブルスキン構造の中空押し出し形材である。そして、軒部長尺材2及び裾部長尺材4は、中空部が車体前後方向に延び、前後の縦パネル部材5,6は中空部が車両上下方向に延び、横パネル部材7は中空部が車体前後方向に延びる。
【0023】
前後の縦パネル部材5,6はそれぞれ2つの部材5A,5B,6A,6Bが摩擦撹拌接合により周知の継ぎ手構造でもって接合されてなる。部材5Aには戸先柱部5dが一体に成形され、部材5Bには戸尻柱部5eが一体に成形されている(図4参照)。
【0024】
また、横パネル部材7も、2つの部材7A,7Bが摩擦撹拌接合により周知の継ぎ手構造でもって接合されてなる。さらに、裾部長尺材4と横パネル部材7(部材7B)とも、中空部が共に車体前後方向に延びるので、摩擦撹拌接合により周知の継ぎ手構造でもって接合されてなる。
【0025】
また、前記軒部長尺材2と縦パネル部材5(又は6)とは、中空部の延びる方向が異なる(すなわち、それらは直交している)ので、従来周知の継ぎ手構造を採用できず、図3に示すように構成されている。すなわち、軒部長尺材2は、前記縦パネル部材5(部材5A,5B)の幅に対応して、内側面板部2b及びウエブ2cを切削により取り除き外側面板部2aのみを残すことで、下方に延びる第1の延長部分(例えばL1=20〜30mm)が形成されている。一方、縦パネル部材5にも、内側面板部5b及びウエブ5cを切削により取り除き外側面板部5aのみを残すことで、第1の延長部分に対応して第2の延長部分(例えばL2=20〜30mm)が形成されている。そして、第1及び第2の延長部分の先端縁どうしが突き合わされ、その突き合わせ部分が摩擦撹拌接合により内側から接合されている。
【0026】
このようにすることで、2つの部材2,5(又は6)の端面間に摩擦撹拌接合用の回転ツールTを接合線Lに沿って移動させる溝(空間部)を形成することができるので、摩擦撹拌接合により接合することが可能になる。
【0027】
前記第1及び第2の延長部分(外側面板部2a,5a)の接合部分に対しては、内側に接合線方向に延びる閉塞部材11(閉断面構造の部材)が設けられている。この閉塞部材11は、縦パネル部材5の端面に当接する当接板部11aと、軒部長尺材2の段部2dに接触する接触板部11bとを有するもので、当接板部11aと接触板部11bとの部位でMIG溶接により接合される。この部分は、外側から見えないので、外観を損なうこともない。なお、この閉塞部材11は、(剛性を特に必要としない場合などにおいて)必要に応じて省略することができる。
【0028】
なお、軒部長尺材2と縦パネル部材6との接合、裾部長尺材4と前後の縦パネル部材5,6との接合、及び前後の縦パネル部材5,6と横パネル部材7との接合も、軒部長尺材2と縦パネル部材5との接合と同様に、摩擦撹拌接合により接合されている。
【0029】
軒部長尺材2及び裾部長尺材4には、側出入口開口部S1を設ける部位に対応して、側出入口開口部S1の上側部分及び下側部分の一部を構成する切り欠き部2A,4Aが形成されている(図1参照)。この切り欠き部2A,4Aは、押し出し形材である軒部長尺材2及び裾部長尺材4を削り出すことにより形成される。
【0030】
よって、応力が集中しやすい側出入口開口部S1のコーナ部は、従来の場合とは異なり、図4及び図5に示すように、軒部長尺材2及び裾部長尺材4の一部として構成され、MIG溶接部を含まないので疲労強度的に優れる。なお、前記側出入口開口部S1のコーナ部は塞ぎ板部材12で閉塞され、見栄えを損ねないようにされている。
【0031】
また、図4に示すように、縦パネル部材5と裾部長尺材4との接合部分及び縦パネル部材5と横パネル部材7との接合部分の内側にも、第1及び第2の延長部分(外側面板部2a,5a)の接合部分即ち軒部長尺材2と縦パネル部材5との接合部分と同様に、閉断面構造の閉塞部材11A,11Bが設けられている。
【0032】
また、裾部長尺材4は、前述したように中空部が車体前後方向に延びるダブルスキン構造の押し出し形材であるが、図2に示すように、鉛直方向に延び台枠3の上面(床面)より上方まで延びる本体部4eと、この本体部4eから車体内方側に延びる延長部分4fとが一体的に形成されている。
【0033】
この延長部分4fは、鉛直方向に延びる本体部4eから水平方向内方に延びる厚肉の水平部4faと、この水平部4faの下側と本体部4eとを連結する傾斜部4fbとにより構成される。そして、延長部分4f(水平部4fa)の先端部分(下面側)が側はり3aの上側部分の段部3bにMIG溶接により接合されている。
【0034】
延長部分4fのうち、ドア開口部S1(側出入口開口部)に対応する部分では、前記裾部長尺材4の延長部分4f(水平部4fa)上に、側引き戸(図示せず)が開閉の際に移動可能に案内されるレール部材13が配設されている。
【0035】
一方、本体部4e(裾部長尺材4)の下端縁の内側面板部4bは、車体内方側に突出する突部4gを有し、この突部4gの部分において、側はり3aの下側部分(外側面)にMIG溶接により接合されている。また、裾部長尺材4の下縁部は、外側面板部4aが内側面板部4bより下方にまで延びているので、溶接部分Pが外側面板部4aにて隠されている。
【0036】
このように構成すれば、側構体1を直接に台枠の側はりに接合するのではなく、図3に示すように、所定形状の裾部長尺材4を介して接合する構成(側構体1と台枠3の外側に位置する側はり3aとをつなぐ位置に別パーツとして裾部長尺材4を長土台状に追加する構成)を採用すると共に、形材がT字状に交わる接合ラインにおける接合構造を工夫することで、側構体1のうち、通常乗客から見える外側部分の接合をすべてFSWによる接合とすることができる。よって、無塗装車両であっても外観を損なうことがなくなる。
【0037】
それに加えて、従来の、車体前後方向にすべての形材が配される側構体(オールダブルスキン構造)に比べて、余分な材料が少なく材料費が安価であるのに加え、完成構体でも軽量化が図れる。
【0038】
また、裾部長尺材4の本体部4eは、床面より上方まで延びているので、図6に示すように、側方からの衝突により衝撃力Fが作用しても、衝突時に大きなせん断力が作用する床上面に、溶接部でなく母材が配置されることになるので、図10に示すように、床上面が従来の溶接部に位置する構造よりも、破断(剪断)に強い構造となる利点も得られる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る鉄道車両の側構体を示す斜視図である。
【図2】図1のII-II線における断面図である。
【図3】軒部長尺材と縦パネル部材との継ぎ手構造の説明図である。
【図4】本発明に係る鉄道車両の側構体を内側からみた状態を示す斜視図である。
【図5】(a)(b)はそれぞれ側出入口開口部のコーナ部の説明図である。
【図6】側方より衝撃力が作用する場合の説明図である。
【図7】従来の鉄道車両の側構体を示す斜視図である。
【図8】従来の鉄道車両の側構体(オールダブルスキン構造)を示す斜視図である。
【図9】従来の側出入口開口部のコーナ部の説明図である。
【図10】従来構造についての、側方より衝撃力が作用する場合の説明図である。
【符号の説明】
【0040】
1 側構体
2 軒部長尺材
2A 切り欠き部
2a 外側面板部(第1の延長部分)
3 台枠
3a 側はり
4 裾部長尺材
4A 切り欠き部
5,6 縦パネル部材
5a 外側面板部(第2の延長部分)
7 横パネル部材
11,11A,11B 閉塞部材
12 塞ぎ板部材
S1 ドア開口部
S2 側窓開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前後方向に延び台枠の側はりに接合される裾部長尺材を備え、前記裾部長尺材の上側に側出入口開口部が形成される鉄道車両の側構体であって、
前記裾部長尺材は、外側面板部と内側面板部とがウエブにて結合されるダブルスキン構造の押し出し形材であり、
前記裾部長尺材は、鉛直方向に延びる本体部から車体内方側に延びる水平延長部分が一体的に形成されており、
前記裾部長尺材の下端縁の内側面板部が側はりの下側部分外側面に溶接により接合され、前記水平延長部分が側はりの上側部分に溶接により接合されていることを特徴とする鉄道車両の側構体。
【請求項2】
前記裾部長尺部材の水平延長部分は、前記本体部から水平方向内方に延びる厚肉の水平部と、この水平部の下側と前記本体部とを連結する傾斜部とにより形成され、
前記水平延長部分上に、前記側出入口開口部に対応する部分では、側引き戸の下部が移動可能に係合するレール部材が配設されていることを特徴とする請求項1記載の鉄道車両の側構体。
【請求項3】
前記裾部長尺材の下縁部は、外側面板部が内側面板部より下方にまで延びている請求項1または2記載の鉄道車両の側構体。
【請求項4】
前記裾部長尺材の本体部は、床面より上方まで延びている請求項1〜3のいずれかに記載の鉄道車両の側構体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−149849(P2010−149849A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12692(P2010−12692)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【分割の表示】特願2004−42759(P2004−42759)の分割
【原出願日】平成16年2月19日(2004.2.19)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】