説明

鉄鋼スラグの処理方法

【課題】製鋼スラグや高炉徐冷スラグからのフッ素溶出を効果的に抑制することができ、且つ特別な設備や処理剤などを用いることなく低コストに実施可能なスラグ処理方法を提供する。
【解決手段】製鋼スラグ、高炉徐冷スラグの中から選ばれる1種以上のスラグであって、フッ素含有量が0.15mass%以上の鉄鋼スラグ(A)に対して、カルシウムとリンを含有する鉱物相を有し且つフッ素含有量が0.15mass%未満の鉄鋼スラグ(B)を添加し、鉄鋼スラグ(A)の含有成分と鉄鋼スラグ(B)の含有成分によりフッ素を含む難溶性化合物を生成させ、フッ素をスラグに固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼スラグ(製鋼スラグ、高炉徐冷スラグの中から選ばれる1種以上のスラグ)に含まれるフッ素を固定化し、スラグからのフッ素の溶出を効果的に抑制することができるスラグ処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、製鋼スラグや高炉徐冷スラグは、コンクリート骨材や路盤材料、港湾土木材料などの土木材料として広く利用されている。
鉄鋼製造プロセスの精錬工程では、CaOなどの精錬剤の滓化促進剤としてフッ化カルシウム(CaF)を主成分とするホタル石が使用されることがあり、このような精錬工程で発生するスラグはフッ素を含有している。また、スラグには、上記のようなフッ素源以外に、高炉装入原料を通じて不可避的にフッ素が混入することもある。
【0003】
このようなフッ素含有スラグを骨材や土木材料として利用した場合、スラグが水(例えば、雨水、地下水など)に接するとスラグ中のフッ素が水に溶け出し、水質や土壌などを汚染する可能性がある。このような問題に対して、スラグからのフッ素の溶出を抑制するための方法が幾つか提案されている。
例えば、特許文献1には、製鋼スラグ融体にアルミニウム化合物を添加し、凝固過程において安定なCaO−Al23−F系化合物を生成させることでフッ素を固定するとともに、製鋼スラグの雨水や地下水などへの溶解に際して、製鋼スラグから溶出するカルシウムイオンやアルミニウムイオンを用いて、スラグから溶出するフッ素を捕捉する方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、フッ素を含む製鋼スラグに、カルシウムアルミネートを含む粉末からなるフッ素固定剤と、高炉徐冷スラグなどからなる増容材を添加し、フッ素を固定化する方法が提案されている。
また、特許文献3には、フッ素を含有する製鋼スラグに、燐含有化合物や燐含有鉱物などのような燐含有物を添加し、スラグからのフッ素の溶出を抑制するようにした方法が提案されている。
【特許文献1】特開2000−247694号公報
【特許文献2】特開2000−335946号公報
【特許文献3】特開2003−226906号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法は、スラグの凝固プロセスにおける処理であるため、アルミニウム化合物を添加するための設備が必要となるほか、生成するスラグ量も増加するため、経済性やスラグ処理の面で問題がある。
また、特許文献2の方法は、フッ素固定剤(カルシウムアルミネートを含む粉末)をかなり多量に混合しないと、フッ素の溶出量を環境基準値以下に抑えることができず、経済性に大きな問題がある。
また、特許文献3の方法も、フッ素の溶出を十分に抑制することができない。また、効果を高めようとして多量の燐含有物を添加すると、本来の用途に必要な一軸圧縮強度などの性能が悪化するおそれがある。
【0006】
したがって本発明の目的は、製鋼スラグや高炉徐冷スラグからのフッ素溶出を効果的に抑制することができ、しかも特別な設備や処理剤などを用いることなく低コストに実施可能なスラグ処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下を要旨とするものである。
[1]鉄鋼スラグにフッ素の溶出抑制処理を施す方法において、
製鋼スラグ、高炉徐冷スラグの中から選ばれる1種以上のスラグであって、フッ素含有量が0.15mass%以上の鉄鋼スラグ(A)に対して、カルシウムとリンを含有する鉱物相を有し且つフッ素含有量が0.15mass%未満の鉄鋼スラグ(B)を添加し、鉄鋼スラグ(A)の含有成分と鉄鋼スラグ(B)の含有成分によりフッ素を含む難溶性化合物を生成させることを特徴とする鉄鋼スラグの処理方法。
【0008】
[2]上記[1]の処理方法において、鉄鋼スラグ(B)のリン含有量が0.3mass%以上であることを特徴とする鉄鋼スラグの処理方法。
[3]上記[1]又は[2]の処理方法において、鉄鋼スラグ(B)のカルシウムとリンを含有する鉱物相が、リンを固溶した2CaO・SiO、リンを固溶した3CaO・SiO、4CaO・P、3CaO・P、2CaO・P、Ca10(PO)(OH)の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする鉄鋼スラグの処理方法。
【0009】
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの処理方法において、鉄鋼スラグ(B)は、平成3年8月23日環境庁告示第46号(平成13環告16)に準拠した溶出試験により測定されるCa溶出量が100mg/L以上であることを特徴とする鉄鋼スラグの処理方法。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかの処理方法において、鉄鋼スラグ(B)が転炉脱炭スラグであることを特徴とする鉄鋼スラグの処理方法。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかの処理方法において、鉄鋼スラグ(B)の粒径10mm以下の割合が50mass%以上であることを特徴とする鉄鋼スラグの処理方法。
【0010】
[7]上記[1]〜[6]のいずれかの処理方法において、鉄鋼スラグ(A)に鉄鋼スラグ(B)を添加して混合し、該混合スラグは添加水を含むことを特徴とする鉄鋼スラグの処理方法。
[8]製鋼スラグ、高炉徐冷スラグの中から選ばれる1種以上のスラグであって、フッ素含有量が0.15mass%以上の鉄鋼スラグ(A)と、カルシウムとリンを含有する鉱物相を有し且つフッ素含有量が0.15mass%未満の鉄鋼スラグ(B)とからなり、鉄鋼スラグ(A)の含有成分と鉄鋼スラグ(B)の含有成分により生成したフッ素を含む難溶性化合物を含有することを特徴とする鉄鋼スラグ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鉄鋼スラグ(A)の含有成分と鉄鋼スラグ(B)の含有成分によりフッ素を含む難溶性化合物が生成し、鉄鋼スラグ(A)のフッ素が固定されるので、鉄鋼スラグ(A)からのフッ素の溶出を効果的に抑制することができる。特に、本発明では、(i)鉄鋼スラグ(B)は同じ鉱物相にカルシウムとリンを含有するため、反応に用いられるカルシウムとリンが同じ場所で供給され、且つカルシウムとリンが薄く広く分散することにより、純度が高いカルシウム、リンを使用するよりも少ない量でフッ素を固定でき、その分反応効率が高くなること、(ii)鉄鋼スラグ(B)のスラグ粒子表面がフッ素を含む化合物の析出サイトとして機能すること、などによると考えられる作用により、高いフッ素固定効果が得られる。また、特別な設備や処理剤を用いず、被処理鉄鋼スラグに他の鉄鋼スラグを添加・混合するだけでよいため、リサイクル材である鉄鋼スラグのみで完結し、他の天然資源、特に貴重な資源であるリンを新たに使用する必要がない。このため、鉄鋼スラグのフッ素溶出抑制処理を低コストに且つ低い環境負荷で実施することができる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の鉄鋼スラグ(鉄鋼製造プロセスで発生するスラグ)の処理方法は、鉄鋼スラグにフッ素の溶出抑制処理を施す方法であり、製鋼スラグ、高炉徐冷スラグの中から選ばれる1種以上のスラグであって、フッ素含有量が0.15mass%以上の鉄鋼スラグ(A)に対して、カルシウムとリンを含有する鉱物相を有し且つフッ素含有量が0.15mass%未満の鉄鋼スラグ(B)を添加し、鉄鋼スラグ(A)の含有成分と鉄鋼スラグ(B)の含有成分によりフッ素を含む難溶性化合物を生成させるものである。
なお、鉄鋼スラグ(A),(B)のフッ素含有量には、スラグ粒子からその表面に存在(付着)する水に溶出したフッ素分も含まれる。
【0013】
本発明において、被処理スラグとなる鉄鋼スラグ(A)は、フッ素含有量が0.15mass%以上の製鋼スラグ、高炉徐冷スラグである。このようなフッ素含有量が0.15mass%以上の鉄鋼スラグは、通常、フッ素溶出量(環境庁告示第46号に準拠した溶出試験によるフッ素溶出量)が土壌環境基準を上回るので、フッ素溶出の抑制処理を施す必要がある。
ここで、製鋼スラグには、溶銑予備処理、転炉吹錬、鋳造などの工程で発生する製鋼系スラグ(例えば、転炉脱炭スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグ、造塊スラグなど)、クロム鉱石溶融還元スラグ、電気炉スラグなどがあり、鉄鋼スラグ(A)の対象となる製鋼スラグとしては、フッ素含有量が0.15mass%以上のものであれば種類を問わないが、一般には、脱硫スラグ、脱燐スラグ、脱珪スラグ、クロム鉱石溶融還元スラグなどに、高フッ素含有量のもの(F≧0.15mass%)がある。
【0014】
本発明では、鉄鋼スラグに含まれるフッ素、リンおよびカルシウムの三成分によって難溶性化合物を生成させることで、スラグにフッ素を固定させるべく、鉄鋼スラグ(B)を鉄鋼スラグ(A)に添加するものであり、鉄鋼スラグ(B)に含まれるリンとカルシウム(或いはさらに鉄鋼スラグ(A)に含まれるリンまたはカルシウム)が鉄鋼スラグ(A)のフッ素とともに難溶性化合物を生成し、フッ素を固定する。すなわち、CaとPの溶液反応により、水には難溶解性であるがフッ素との反応活性が高いリン酸水素カルシウム水和物が生成し、この水和物とフッ素とが反応し、フッ素が固定される。このフッ素を固定した反応生成物(難溶性化合物)は、Ca(POF(フルオロアパタイト、Ca10(PO62と表記されることもある)であると考えられ、この反応生成物は水への溶解度が低いため、フッ素固定機能が長期間にわたって持続し、スラグからのフッ素溶出を長期間にわたって効果的に抑制することができ、また環境へのPの流失も防止することができる。
【0015】
ここで、カルシウムとリンの供給源として鉄鋼スラグ(B)を用いることが本発明の大きな特徴であり、(i)鉄鋼スラグ(B)は同じ鉱物相にカルシウムとリンを含有するため、反応に用いられるカルシウムとリンが同じ場所で供給され、且つカルシウムとリンが薄く広く分散することにより、純度が高いカルシウム、リンを使用するよりも少ない量でフッ素を固定でき、その分反応効率が高くなること、(ii)鉄鋼スラグ(B)のスラグ粒子表面がフッ素を含む化合物の析出サイトとして機能すること、などの複合的な作用により、高いフッ素固定効果が得られるものと考えられる。
【0016】
鉄鋼スラグ(B)中のカルシウムとリンを含有する鉱物相としては、リンを固溶した2CaO・SiO、リンを固溶した3CaO・SiO、4CaO・P、3CaO・P、2CaO・P、Ca10(PO)(OH)などが挙げられ、鉄鋼スラグ(B)としては、これら鉱物相の1種以上を含むものが好ましい。
また、鉄鋼スラグ(B)は、リンとカルシウムの供給源となるものであるため、相応の量のリンとカルシウムを含有することが好ましい。具体的には、リン含有量が0.3mass%以上、好ましくは0.6mass%以上であることが好ましい。リン含有量が0.3mass未満では十分なリン供給源とならず、効果が少ない。また、カルシウムについては、平成3年8月23日環境庁告示第46号(平成13環告16)に準拠した溶出試験により測定されるCa溶出量が100mg/L以上であることが望ましい。Ca溶出量が100mg/L未満では、十分なカルシウム供給源とならず、効果が少ない。
鉄鋼スラグ(A)は、フッ素を固定する難溶性化合物を形成するべきリンおよび/またはカルシウムが不足したスラグであり、一般には、下記の(a)および/または(b)に該当するスラグである。
(a)リン含有量が0.3mass%未満
(b)平成3年8月23日環境庁告示第46号(平成13環告16)に準拠した溶出試験により測定されるCa溶出量が100mg/L未満
【0017】
鉄鋼スラグ(B)は、カルシウムとリンを含有する鉱物相を有し且つフッ素含有量が0.15mass%未満のものであれば種類を問わないが、そのような条件を満足する鉄鋼スラグとしては、転炉脱炭スラグ、脱燐スラグなどの製鋼スラグが多い。
但し、鉄鋼スラグ(B)としては、特に転炉脱炭スラグが特に望ましい。転炉脱炭スラグは、主要鉱物相である2CaO・SiO中にリンが均一に分布しているため、スラグ粒子のほぼ全ての表層からリンを供給することができ、リンの供給効率が高いという利点がある。また、そのようなリンの均一な分布を有することは、スラグ粒子表面全体をフッ素を含む化合物の析出サイトとして機能させるという面でも好ましい。
【0018】
鉄鋼スラグ(B)のカルシウムとリンを含有する鉱物相を有効に活用するには、鉄鋼スラグ(B)の粒径がある程度小さい方が好ましく、この意味で、鉄鋼スラグ(B)は粒径10mm以下の割合が50mass%以上であることが好ましい。また、鉄鋼スラグ(A)の粒径は、特に規定しないが、混合スラグの粒度が用途に適した粒度分布となるように、鉄鋼スラグ(A),(B)の粒度を適宜選定することが好ましい。
鉄鋼スラグ(A)に対する鉄鋼スラグ(B)の添加量は特に制限はないが、鉄鋼スラグ(A)のフッ素含有量、鉄鋼スラグ(B)のリン含有量およびCa溶出量などに応じて、鉄鋼スラグ(A)のフッ素を適切に固定できるよう、添加量が選定される。
また、本発明では、被処理スラグである鉄鋼スラグ(A)のフッ素含有量を0.15mass%以上とし、この鉄鋼スラグ(A)に添加する鉄鋼スラグ(B)のフッ素含有量を0.15mass%未満とするものであるが、本発明の効果をより有効に生じさせるには、鉄鋼スラグ(B)のフッ素含有量は0.1mass%以下が好ましい。
【0019】
本発明の処理方法では、基本的に鉄鋼スラグ(A)に対して鉄鋼スラグ(B)を添加・混合するだけでよく、これにより元々スラグに含まれている水分を介して上述した機構に基づく反応が生じ、フッ素を含む難溶性化合物が生成し、スラグにフッ素が固定される。また、反応を供用前に進行させるために鉄鋼スラグ(A)および/または鉄鋼スラグ(B)或いはそれらの混合スラグ(スラグの混合中を含む)に水を添加してもよい。但し、添加水の一部が流失しないような限度行うことが好ましい。
混合は重機による混合、混合プラントによる混合など任意の方法で行うことができる。養生は必ずしも必要ではないが、1日以上、望ましくは3日以上養生することにより、供用前にフッ素固定を進行させることができる。
【0020】
鉄鋼スラグ(A)に鉄鋼スラグ(B)を添加・混合する場合、それぞれが粉砕処理などで粒度調整された鉄鋼スラグ(A)と鉄鋼スラグ(B)を混合してもよいし、鉄鋼スラグ(A)と鉄鋼スラグ(B)を混合した混合スラグを粉砕処理など粒度調整してもよい。
本発明の処理法によれば、鉄鋼スラグ(A)と鉄鋼スラグ(B)とからなり、且つ上記難溶性化合物を含有するフッ素溶出抑制処理スラグ(混合スラグ)が得られる。
【実施例】
【0021】
表1に、被処理スラグであるスラグ(A1)〜(A3)と、これらのスラグに添加するスラグ(B)について、スラグの成分組成、フッ素溶出量およびカルシウム溶出量を示す。なお、スラグのフッ素溶出量およびカルシウム溶出量は、いずれも平成3年8月23日環境庁告示第46号(平成13環告16)に準拠した溶出試験による溶出量(以下の実施例で示すフッ素溶出量、カルシウム溶出量についても同様)であり、各スラグを2mmの篩目で篩った篩下材(以下、2mm篩下材という)について測定した溶出量である。
【0022】
[実施例1]
被処理スラグとして、フッ素溶出量が1.1mg/L、カルシウム溶出量が10mg/Lであるスラグ(A1)を用い、このスラグ(A1)にスラグ(B)を質量比(A1):(B)=90:10の割合で添加・混合した。このときの両スラグ中の2mm篩下材の質量比(A1):(B)は、78.3:21.7であった。添加・混合してから3日後に測定した混合スラグのフッ素溶出量は0.35mg/Lであり、土壌環境基準(0.8mg/L以下)を満足した。また、混合スラグのカルシウム溶出量は700mg/Lであった。
図1は、本発明例でのフッ素溶出抑制効果を示すもので、横軸が混合スラグ中でのスラグ(B)の配合率(但し、2mm篩下材としての配合率)である。図中、点線がスラグ(A1)単体でのフッ素溶出量とスラグ(B)単体でのフッ素溶出量を合算して求めた混合スラグのフッ素溶出量(計算値)であるが、これに対して、本発明例ではフッ素溶出量が大幅に低減しており、フッ素溶出の顕著な抑制効果が得られていることが判る。
【0023】
[実施例2]
被処理スラグとして、フッ素溶出量が1.2mg/L、カルシウム溶出量が12mg/Lであるスラグ(A2)を用い、このスラグ(A2)にスラグ(B)を質量比(A2):(B)=90:10の割合で添加・混合した。このときの両スラグ中の2mm篩下材の質量比(A1):(B)は、76.4:23.6であった。添加・混合してから3日後に測定した混合スラグのフッ素溶出量は0.41mg/Lであり、土壌環境基準(0.8mg/L以下)を満足した。また、混合スラグのカルシウム溶出量は750mg/Lであった。
図2は、本発明例でのフッ素溶出抑制効果を示すもので、横軸が混合スラグ中でのスラグ(B)の配合率(但し、2mm篩下材としての配合率)。図中、点線がスラグ(A2)単体でのフッ素溶出量とスラグ(B)単体でのフッ素溶出量を合算して求めた混合スラグのフッ素溶出量(計算値)であるが、これに対して、本発明例ではフッ素溶出量が大幅に低減しており、フッ素溶出の顕著な抑制効果が得られていることが判る。
【0024】
[実施例3]
被処理スラグとして、フッ素溶出量が2.8〜4.5mg/L、カルシウム溶出量が400〜520mg/Lである7種類のスラグ(A3)を用い、これらのスラグ(A3)に対し、それぞれスラグ(B)を質量比(A3):(B)=50:50の割合で添加・混合した。
表2に、添加・混合してから3日後に測定した各混合スラグのフッ素溶出量とカルシウム溶出量を示す。併せて、両スラグ中の2mm篩下材の質量比、スラグ(A3)単体でのフッ素溶出量とカルシウム溶出量、スラグ(A3)単体でのフッ素溶出量とスラグ(B)単体でのフッ素溶出量を合算して求めた混合スラグのフッ素溶出量(計算値)を表2に示す。
表2によれば、各混合スラグのフッ素溶出量は0.41〜0.58mg/Lであり、土壌環境基準(0.8mg/L以下)を満足している。そして、スラグ(A3)単体でのフッ素溶出量とスラグ(B)単体でのフッ素溶出量を合算して求めた混合スラグのフッ素溶出量(計算値)に対して、本発明例ではフッ素溶出量が大幅に低減しており、フッ素溶出の顕著な抑制効果が得られていることが判る。
【0025】
[比較例]
被処理スラグとして、フッ素溶出量が2.8mg/L、カルシウム溶出量が450mg/Lであるスラグ(A3)を用い、このスラグ(A3)に水酸化カルシウムを5mass%添加した。この処理後のスラグ(A3)のフッ素溶出量は2.7mg/Lであり、土壌環境基準(0.8mg/L以下)を満足しなかった。また、同スラグ(A3)のカルシウム溶出量は900mg/Lであった。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1でのフッ素溶出抑制効果を示すグラフ
【図2】実施例2でのフッ素溶出抑制効果を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼スラグにフッ素の溶出抑制処理を施す方法において、
製鋼スラグ、高炉徐冷スラグの中から選ばれる1種以上のスラグであって、フッ素含有量が0.15mass%以上の鉄鋼スラグ(A)に対して、カルシウムとリンを含有する鉱物相を有し且つフッ素含有量が0.15mass%未満の鉄鋼スラグ(B)を添加し、鉄鋼スラグ(A)の含有成分と鉄鋼スラグ(B)の含有成分によりフッ素を含む難溶性化合物を生成させることを特徴とする鉄鋼スラグの処理方法。
【請求項2】
鉄鋼スラグ(B)のリン含有量が0.3mass%以上であることを特徴とする請求項1に記載の鉄鋼スラグの処理方法。
【請求項3】
鉄鋼スラグ(B)のカルシウムとリンを含有する鉱物相が、リンを固溶した2CaO・SiO、リンを固溶した3CaO・SiO、4CaO・P、3CaO・P、2CaO・P、Ca10(PO)(OH)の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の鉄鋼スラグの処理方法。
【請求項4】
鉄鋼スラグ(B)は、平成3年8月23日環境庁告示第46号(平成13環告16)に準拠した溶出試験により測定されるCa溶出量が100mg/L以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鉄鋼スラグの処理方法。
【請求項5】
鉄鋼スラグ(B)が転炉脱炭スラグであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の鉄鋼スラグの処理方法。
【請求項6】
鉄鋼スラグ(B)の粒径10mm以下の割合が50mass%以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の鉄鋼スラグの処理方法。
【請求項7】
鉄鋼スラグ(A)に鉄鋼スラグ(B)を添加して混合し、該混合スラグは添加水を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の鉄鋼スラグの処理方法。
【請求項8】
製鋼スラグ、高炉徐冷スラグの中から選ばれる1種以上のスラグであって、フッ素含有量が0.15mass%以上の鉄鋼スラグ(A)と、カルシウムとリンを含有する鉱物相を有し且つフッ素含有量が0.15mass%未満の鉄鋼スラグ(B)とからなり、鉄鋼スラグ(A)の含有成分と鉄鋼スラグ(B)の含有成分により生成したフッ素を含む難溶性化合物を含有することを特徴とする鉄鋼スラグ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−40650(P2009−40650A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209146(P2007−209146)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】