説明

鉄鋼副生物から効率的に有価金属を回収する電気製錬方法

【課題】コークス、SiCを副原料として使用する電気製錬法において、有価金属を最大限回収し、産業廃棄物等として処理されるスラグを極力少なくするための最適なコークス、SiC、電力の各使用量を規定する。
【解決手段】鉄鋼副生物である製鋼ダスト、廃酸スラッジ、およびスケール材を主成分とする酸化物原料を溶融還元してNi、Cr、Fe、Mn等の有価金属を回収する電気製錬方法において、酸化物原料中のNi、Cr、Fe、Mn等の有価金属の含有量をX質量%とした場合に、酸化物の粉体原料1m当たりの炭材投入量Y(単位:kg/m)および1チャージあたりの電力投入量Y(単位:100kwh/ch)が以下の範囲で規定されることを特徴とする電気製錬方法。
8.5X−280≦Y≦8.5X−94
1.70X+12≦Y≦1.70X+42
ただし、20≦X≦80かつY≧40である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、鉄鋼副産物中に含まれる有価金属をメタルとスラグに分離回収する電気製錬方法に係り、特に、高すぎると有害元素であるが、少なすぎると電気製錬操業に支障をきたすメタル中のS量を適正量に制御しながら、産業廃棄物などで処理されるスラグ量を極力低減させ、なおかつ、鉄、ニッケル、クロム、マンガン等の有価金属を効率的に製錬することができる方法について提案する。
【背景技術】
【0002】
従来より、製鋼工程で発生する製鋼ダストや、熱延工程で発生するスケール、酸洗工程で発生する廃酸スラッジ等に含まれる有価金属を回収する技術として、ペレットもしくはブリケット状に製団した原料を電気炉を用いて還元製錬する技術が多々提案されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されている電気製錬炉の付着物の低減方法は、コークス原単位が250〜320kg/トン・メタルになるように外装コークス供給量を調整するように規定している。また、特許文献2に開示されている産廃からの有価金属回収方法では、SiC(炭化ケイ素)を使用する例が開示されている。
【0004】
しかしながら、いずれの方法においても、その際のコークス、SiC、電力の最適な使用量は記されていない。また、スラッジを含む原料はSの含有率が高く、従来の製錬方法では、回収メタルに0.5%以上のSを含有することもあった。回収メタル中のSが高いと次工程の製錬の負担が増大するため、有害元素であるSは0.2%、好ましくは0.1%以下にする必要がある。
【0005】
【特許文献1】特開平8−260014号公報
【特許文献2】特開平10−330822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、コークス、SiCを副原料として使用する電気製錬法において、有価金属を最大限回収し、産業廃棄物等として処理されるスラグを極力少なくするための最適なコークス、SiC、電力の各使用量を規定することが求められている。すなわち、本発明は、効率的かつ安全な電気製錬操業を維持しつつ、産業廃棄物等で処理されるスラグ量を極力低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電気製錬方法は、鉄鋼副生物である製鋼ダスト、廃酸スラッジ、およびスケール材を主成分とする酸化物原料を溶融還元してNi、Cr、Fe、Mn等の有価金属を回収する電気製錬方法において、酸化物原料中のNi、Cr、Fe、Mn等の有価金属の含有量をX質量%とした場合に、酸化物の粉体原料1m当たりの炭材投入量Y(単位:kg/m)および1チャージあたりの電力投入量Y(単位:100kwh/ch)が以下の範囲で規定されることを特徴としている。
8.5X−280≦Y≦8.5X−94
1.70X+12≦Y≦1.70X+42
ただし、20≦X≦80かつY≧40である。
【0008】
また、本発明の電気製錬方法は、鉄鋼副生物である製鋼ダスト、廃酸スラッジ、およびスケール材を主成分とする酸化物原料を溶融還元してNi、Cr、Fe、Mn等の有価金属を回収する電気製錬方法において、上記酸化物原料中の上記Ni、Cr、Fe、Mn等の有価金属の含有量をX質量%とした場合に、上記酸化物の粉体原料1m当たりの炭材投入量Y(単位:kg/m)、SiC投入量Y(単位:kg/m)、および1チャージあたりの電力投入量(Y)(単位:100kwh/ch)が以下の範囲で規定されることを特徴としている。
8.5X−280≦Y≦8.5X−94
1.70X+12≦Y≦1.70X+42
7.5X−266≦Y≦7.5X−126
ただし、20≦X≦80かつY≧40かつY≧0である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記の範囲に副原料およびエネルギーのインプットを制御することにより、スラグの溶融性および流動性を適正な領域に制御することができ、鉄鋼副生物である製鋼ダスト、廃酸スラッジ、およびスケール材からなる酸化物原料を、効率良く電気製錬により還元処理することが可能となる。回収されたメタル分は、ステンレス鋼や特殊鋼等の原料としてリサイクル使用が可能であるため、Fe、Cr、Ni、Mnなどの貴重な資源を節約することが可能である。したがって、近年課題となっている地球の環境保全にも、大いに役に立つ発明である。さらに、本発明では、回収メタルのS含有量を厳密な範囲に制御し、比較的低いS含有量とすることができるため、ステンレス鋼等の原料として溶解する際にも、脱硫の負荷が低減可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の電気製錬方法は、鉄鋼副生物である製鋼ダスト、廃酸スラッジ、およびスケール材からなる酸化物原料の粉体を製団機によりブリケットに製団し、数日間の養生にて予備乾燥する製団工程と、これを内装炭材とともに焙焼して水分を揮発除去するとともに原料を焼結させる焙焼工程を経た酸化物原料を、電気炉に外装炭材および/またはSiCとともに投入し、有価金属を還元してメタル分とスラグ分に分離し、有価金属を回収する方法である。以下、本発明における酸化物原料の化学成分、材料組成、本発明の前工程である製団工程、焙焼工程、および本発明の電気製錬方法(還元工程)について詳細に説明する。
【0011】
なお、本発明にて記述されている各構成成分はS、F以外は酸化物として表記されているが、実際は水酸化物、フッ化物、硫化物、硫酸化物など複雑であるため、簡便のために酸化物表記としている。また、本発明おける有価金属とは、特に限定されるものではないが、少なくとも鉄、ニッケル、クロム、マンガンが含まれる。
【0012】
1.化学成分
本発明は原料中の各成分バランスを適正なものとし、電気炉にて得られるスラグを、操業に適した特性とすることが重要である。下記に、各成分の限定理由を説明する。
【0013】
(1)Fe、Mn、Ni、及びCr
本発明において、これらは還元されて有価金属となるため、必要不可欠な成分である。Fe、Mn、Ni、及びCrのうちの少なくとも1種類の含有率が合計で20質量%未満では、製錬にかかるコストに見合わないこともあるため、Fe、Mn、Ni、及びCrのうちの少なくとも1種類の含有率は合計20質量%以上が望ましい。コストを考慮して、好ましくは30質量%以上である。
【0014】
また、上限は特に限定はしないが、80質量%以下程度に抑えることが望ましい。その理由は、次のとおりである。すなわち、80質量%を超えると、スラグ量が著しく少なくなってしまうおそれがあるからである。スラグをある程度確保せねば、電気炉操業時に温度コントロールが困難になったり、スラグと溶鋼間で起こる脱硫反応が不充分になってしまい、溶鋼中のS濃度が0.2質量%を超えて高くなるためである。得られた鋼塊は、ステンレス鋼の製鋼工程で原料としてリサイクルされるものであるから、S濃度が高すぎると脱硫負荷が高くなり、コスト高を引き起こしてしまう。このような理由から、電気炉における脱硫反応に必要なスラグ量を確保するために、上限は80質量%以下程度に抑えることが望ましい。したがって、Fe、Mn、Ni、及びCrの金属元素のうち少なくとも1種類の含有率が合計で20〜80質量%の範囲で含まれることが望ましい。好ましくは、30〜60質量%、さらに好ましくは35〜55質量%である。
【0015】
(2)Al
Alはスラグの融点を適正値に制御するのに必要な元素である。Alの含有率が0.3質量%未満又は3.5質量%超では、融点が高くなり、流動性が悪化し、その結果有価金属回収率を低下させる。そのため、Alの含有率は0.3〜3.5質量%の範囲で含むとより効果的である。Alは製鋼ダストに含まれる成分であり、製鋼ダストの配合率を10〜50質量%とすると、より制御性の向上が期待できる。
【0016】
(3)MgO
MgOはスラグの融点を適正値に制御するのに必要な元素である。MgOの含有率が2質量%未満又は7質量%超では、融点が高くなり、流動性が悪化し、その結果、有価金属回収率を低下させる。そのため、MgOは、2〜7質量%の範囲で含むことが望ましい。MgOは製鋼ダストに含まれる成分であり、製鋼ダストの配合率を10〜50質量%とすると、より制御性の向上が期待できる。また、必要に応じて仕上げスラグ、フェロニッケルスラグで添加してもよい。
【0017】
(4)CaO及びSiO
CaO及びSiOはスラグの主成分であり、流動性や融点を調整するために必要である。これらの成分は、電気炉に投入する前に、石灰石および/または珪砂で調節することが可能である。しかしながら、もとの原料における含有率が35質量%を超えて高いと、石灰石および/または珪砂を添加せずとも、スラグ量が増加し、逆にメタル量が少なくなり、コスト高となる可能性が高い。そのため、CaO及びSiOの含有率を35質量%以下とするのが望ましい。好ましくは、CaOとSiOの含有率が合計で7.5〜35質量%である。7.5質量%は含有した方が望ましいのは、石灰石、珪砂の副原料費を抑えるためである。より好ましくは、CaOの含有率が3〜15質量%であり、SiOの含有率が4.5〜20質量%の範囲である。CaOは主に廃酸スラッジに含まれる成分であり、廃酸スラッジの配合比率を5〜30質量%にすると上記の成分範囲を得ることができる。SiOは主に製鋼ダストに含有されており、製鋼ダストの配合比率を10〜50質量%とすることで、より制御性の向上が期待できる。また、必要に応じて、フェロニッケルスラグを添加して調整してもよい。
【0018】
(5)F
Fはスラグの流動性を適正範囲に制御するために必要な成分である。Fの含有率が1質量%未満では、流動性が悪く、その結果、有価金属回収率を低下させる。逆に6質量%を超えて高いと、流動性が良すぎる他にも、HF、SiFなどの腐食性ガスを発生させ、設備を腐食、損傷させる。そのため、Fの含有率は、1〜6質量%の範囲がより好ましい実施形態と言える。Fは廃酸スラッジに含まれる成分であり、上記の成分範囲を得るためには、廃酸スラッジの配合比率を5〜30質量%にすることが望ましい。
【0019】
(6)S
Sは電気炉において、溶鋼の表面張力を低下させて、流動性を確保するために必要な成分である。回収メタル中のSは、本願にては特に限定しないものの、0.2%を超えて高すぎると、回収メタルを原料にして生産される金属製品に有害となるが、0.01%未満と低くなると、還元炉操業に支障をきたす。その理由は、高すぎる場合は、回収メタルを製鋼工場の電気炉にて溶解し、ステンレス鋼などの原料にリサイクルする際に、脱硫する負荷が高くなってしまい、製錬時間の延長や石灰石投入量が増え、コスト高を引き起こすからである。また、低すぎる場合は、還元炉操業において、充分な溶鋼流動性が得られず、還元炉内にて形成されるコークベッドをうまく通過できない。このような観点からSの好ましい範囲は、0.01〜0.2%であり、さらに好ましくは0.01〜0.15%であり、最も好ましくは0.01〜0.1%である。
【0020】
メタル中のSは、下記式によりスラグとメタルに分配されることが分かった。
(CaO)+=(CaS)+
Sを0.01〜0.2%に調整するためには、系の酸素ポテンシャルとスラグ中のCaOの活量を適正な値に制御すればよい。そのためには、石灰石を適正量としておき、CとSiCを適正量に制御すればよいことが分かった。なお、ここで、石灰石はスラグ中のCaO源の一つであり、その他のCaO源としては、廃酸スラッジもある。これらを調節して適正量を得ている。
【0021】
(7)ZnO
ZnOがCで還元されると、亜鉛のガスが発生し、これが原料内の気圧を上昇せしめ突沸現象を起こすため、抑制せねばならない成分である。ZnOの含有率が2質量%を超えて高いと、その傾向が強く現れるようになり、電気炉内で吹上げ現象を引き起こす。そのために、特に限定はしないが、ZnOの含有率を2質量%以下と規定した。ZnOは製鋼ダストに含有する成分であり、製鋼ダストの配合率を50質量%以下にすることが、より好ましい実施形態と言える。
【0022】
2.材料組成
本発明の還元用リサイクル原料は、製鉄所で発生する製鋼ダスト、廃酸スラッジ、及び、スケール材からなる鉄鋼副生物であり、上記の化学成分範囲は、製鋼ダスト、廃酸スラッジ及びスケール材を、各構成成分を詳細に考慮して適切な比率で配合することにより実現できる。その適正配合量の目安になる数値について、また、その数値を推奨する理由を説明する。
【0023】
(1)製鋼ダスト
製鋼ダストはステンレス鋼の製錬工程で発生するものであり、SiO、Al、MgO濃度を上記の化学成分範囲に制御するためには、配合率を10〜50質量%にすることが望ましい。また、ZnOを2質量%以下に抑えるために、製鋼ダストの配合率を50質量%以下にすることが好ましい。
【0024】
(2)廃酸スラッジ
廃酸スラッジは焼鈍酸洗ラインで生じるものであり、CaO、F、S濃度を上記の化学成分範囲に制御するために、配合率を5〜30質量%にすることが好ましい。
【0025】
(3)スケール材
スケール材は熱延、連続鋳造などで生成するものであり、スケール材には、Fe、Mn、Ni、Crといった有価金属を含む。スケール材の配合率が30質量%未満では、Fe、Mn、Ni、Crの少なくとも1種類の含有率を合計で20質量%以上確保できない可能性がある。そのためには、スケール材の配合率を30質量%以上と定める方が好適である。なお、この4成分の合計値の好ましい上限範囲80質量%以下を満足するには、特に限定しないが、スケール材の配合率は60質量%以下に抑えることが望ましい。当然、製鋼ダスト、廃酸スラッジ、スケール材を、上記の通り配合することにより、有価金属となるFe、Mn、Ni、Crの少なくとも1種類の含有率を合計で20質量%以上確保することも可能であるし、好ましい上限範囲80質量%以下に抑えることも可能である。
【0026】
(4)他の材料組成
本発明における鉄鋼副生物は、電気炉におけるスラグ組成を制御するために、上記材料組成に加えて、SiC、フェロニッケルスラグ、及び、仕上げスラグのうち少なくとも1種類を合計で10質量%以下混合したものであってもよい。具体的には、SiCはスラグ中のSiO源として、また、燃焼時の熱源として混合できる。フェロニッケルスラグは、主として MgO、SiOから構成されるものであり、MgOあるいはSiO源として混合してもよい。さらに、仕上げスラグは、ステンレス鋼、特殊鋼のAODやVODの製錬で発生するスラグであり、CaO、SiO、MgOを主体とするものであるため、CaO、SiO源として混合してもよい。
【0027】
3.製団工程、焙焼工程および還元工程
次に、上述した組成を有する酸化物原料の製団工程、焙焼工程および還元工程について説明する。製団工程では、上記化学成分を有する酸化物原料に、水分、油脂分及び内装炭材を混合し、酸化物原料を製団機によりブリケットに製団し、数日間の予備乾燥を行う。焙焼工程では、ブリケットを焙焼ボックスに入れて焙焼し、水分を揮発除去するとともに酸化物原料を焼結させる。還元工程では、石灰石及び/又は珪砂等の他、外装炭材並びにSiCをさらに混合し、この混合物を電気炉に装入して加熱し、有価金属を還元し、メタル分とスラグ分に分離する。
【0028】
本発明の酸化物原料ブリケットの水分含有量は、水分・油脂分および内装炭材と混合されて製団された直後においては15〜26質量%であるが、数日間の予備乾燥を経て、焙焼工程の直前においては10〜15質量%となっていることが好ましい。水分がこの範囲を超えて多いと、内装された炭材から発生する熱量では水分を蒸発させて乾燥させることができず、酸化物原料の焼結が不十分となってしまう。また、この範囲未満であると、酸化物原料のブリケットが形状を保てず、粉体の発生の原因となってしまう。
【0029】
本発明における炭材は、焙焼工程での熱源として製団工程で混合される内装炭材と、還元反応に必要な分として還元工程で添加される外装炭材がある。内装炭材は、酸化物原料に対して10〜20質量%、すなわち、配合した原料が1tであれば、100〜200kgの重量で配合することが好ましい。また、ブリケットの製団工程においては、例えば双ロール式の製団機を用いてブリケットが成型される。さらに、ブリケットの焙焼工程においては、焙焼ボックス上部をダクトで密閉し、排風機を用いて吸引しながら、下部をバーナーで着火し、いわゆる焙焼処理を行い、水分を揮発させるとともに、各ブリケット内部の原料粒子を焼結させる。
【0030】
有価金属の還元工程においては、焙焼されたブリケットを電気炉に装入して加熱することで、原料を還元し、メタル分とスラグ分に分離させ、Fe、Ni、Cr、Mnなどの有価金属を回収する。また、電気炉への装入時、スラグ量と塩基度(CaO/SiO)調整の目的で、石灰石及び/又は珪砂を、また、副原料(外装炭材およびSiC)を添加する。特に、スラグ側については、上記の化学成分を持つ還元リサイクル原料を用いることで、十分なスラグ量を確保できて、なおかつ、溶融性および流動性が好ましい領域に制御できる。最も望ましいスラグ組成は、特に限定はしないが、CaO、SiO、Al、MgOを80質量%以上含み、CaO/SiOの比率が0.8〜1.4、好ましくは1.0〜1.2、Alの含有率が0.6〜7質量%の範囲である。
【0031】
さらに鋭意解析を進めたところ、今までの操業データを、原料中含有メタル量別に整理することで、副原料(外装炭材およびSiC)、電気エネルギーの適正範囲を下記の通り見出した。
【0032】
(1)外装炭材投入量
上述のように、酸化物原料のブリケットには、焙焼の熱源として10〜20質量%の内装炭材が混合されているが、焙焼工程にて一部の内装炭材が反応せずに残存する場合があり、通常、添加量に対して0〜50%の内装炭材が残存している。すなわち、酸化物原料に対しては0〜10質量%の内装炭材が残存している。これは、ブリケット中の水分含有量や他の反応条件によって変動していると考えられる。還元工程では、残存する内装炭材はそのまま利用し、さらに外装炭材としてコークスや石炭等の炭材を加えて還元に寄与する。
【0033】
上記内装炭材に追加する、酸化物原料1mあたりの外装炭材投入量Y(kg)の適正範囲は、下記式、
8.5X−280≦Y≦8.5X−94(ただしY≧40)
に規定する。ただしXは原料中のメタル中のMn、Cr、Ni、Fe含有量(質量%)である。この下限未満では還元が不足し、メタルの回収が充分に行われない。すなわち、メタル回収率が低下してしまい、コスト高となってしまう。
【0034】
また、この上限を超えて高いと、過剰投入となり、かえって還元の不足が発生した。その原因はコークスの還元反応は吸熱反応であるため、他のエネルギー、例えば、膨大な電気エネルギー等とバランスしながら供給しないと、エネルギーが不足し、溶解量、メタル回収率ともに損なうこととなる。次の項目で記すが、過剰な電気投入量を与えることにより、コスト高となるばかりではなく、炉の内壁や天井を損傷することになる。したがって、コークス投入量は、上式の範囲に制御しなければならない。
【0035】
(2)電力投入量
次に、還元工程における1チャージあたりの電力投入量Y(×100kWh)の適正範囲は、下記式、
1.70X+12≦Y≦1.70X+42
に規定する。この下限未満では、溶解に充分な熱量が得られず、溶解量が減少しメタル回収率は増加しなかった。この上限を超えて高い電力を投入すると、エネルギー過剰となり、コスト高となるばかりではなく、炉の内壁や天井を損傷することとなった。
【0036】
(3)SiC投入量
第三に、本発明では、外装炭材に加えてSiCを投入する態様が好ましい。SiCの添加によれば、SiC自体が還元剤として反応するばかりでなくSiが燃焼することから熱源として寄与させることができる。原料1mあたりのSiCの投入量Y(kg)の適正範囲は、下記式、
7.5X−266≦Y≦7.5X−126(ただしY≧0)
に規定する。この下限未満では、熱エネルギー、還元、脱硫効果として充分に能力を発揮しない。その結果、メタル回収率の低下を引き起こす。SiCの投入量Yは、好ましくは20kg/m以上(Y≧20)とする。
【0037】
また、この上限を超えて高く投入すると、塩基度(=CaO/SiO)が0.8未満となり、反応が弱まりメタル回収が減少する。この理由は、SiC中のSiが酸化することで、SiOを形成し、フラックスとして適正量の石灰石を投入しているが、その比率である塩基度が低くなってしまうことによる。これによりCaO活量が下がり、S濃度も0.2%を超えて高くなってしまう。バランスを取るために、石灰石をさらに多く投入することも解決策になるが、コスト高になることと、産業廃棄物となるスラグの量が多くなってしまい不利である。
【0038】
以上により、本発明によれば、電気製錬法(還元工程)において、最大限のメタル回収を行い最小限のスラグ発生で抑え、なおかつ、メタル中のSの含有量を適正範囲に制御し、かつ、経済的に操業するための指針を与えることができる。
【0039】
なお、本願において、特に限定はしないが、鉄鋼副生物である製鋼ダスト、廃酸スラッジ、およびスケール材、さらに、コークス、SiC、水分を含めて混合した状態において、原料中のMn+Cr+Ni+Feの含有比率をX質量%とすると、20≦X≦80の範囲が好ましい。Xが20質量%未満であると、1回の操業で回収可能なメタル量が少ないことと、発生するスラグ量が多くなり、産廃量が増えてしまう。また、80質量%を超えて高いと、メタル量は多くなるが、充分なスラグ量が確保できなくなるために、メタル中のS濃度が0.2%を超えて高くなってしまう危険性がある。
【0040】
また、本発明における粉体原料の体積1mを単位として上記範囲を規定している。その状態は、鉄鋼副生物である製鋼ダスト、廃酸スラッジ、およびスケール材を混合し、さらに水分量10〜15%、上記で規定される炭材およびSiCを含んだ状態である。原料を圧縮などせず、自然に放置した時の状態における体積として定義する。なお、原料の粒度は、平均粒径としては、50〜300μmほどであるが、これ以外にも、比較的大型の粒子を含んでいても構わない。
【0041】
比較的大型の粒子の割合は、全体の40質量%以下が2.8mm以上20mm以下の粒度を有するものである。この比率は、好ましくは5〜30質量%であり、より好ましくは5〜24質量%である。さらに、40質量%以下が1.2mm以上2.8mm未満の粒度を有していても構わない。この比率は、好ましくは5〜30質量%であり、より好ましくは5〜24質量%である。
【実施例】
【0042】
下記表1に示すメタル分含有率を有する製鋼ダスト、廃酸スラッジ、およびスケール材を主成分とする実施番号1〜8の酸化物原料のブリケットを還元炉に装入し、表1に示すコークス、SiCおよび電力の条件にて、溶融還元を行った。
【0043】
【表1】

【0044】
上記の結果を表1に併記する。表1に示すように、従来例である実施番号1〜4は、いずれもS量が過剰であり、メタル回収率も低かった。一方、電気投入量とコークス投入量が本発明の範囲を満たす実施番号8においては、S量は所定の範囲内に抑え、かつ、メタル回収率が改善していた。さらに、SiCを添加する本発明のより好ましい実施形態である実施番号5〜7においては、メタル回収率がより改善していることが分かる。なお、メタル分(Mn+Cr+Ni+Fe)の含有比率X%と、コークス投入量、SiC投入量、および電力投入量との関係を図1〜3に示した。図において、帯状の範囲内が、本発明の好ましい範囲である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
鉄鋼副生物から効率良くメタル分を回収し、ステンレス鋼や特殊鋼等の高品質な原料としてリサイクル使用が可能になるとともに、産業廃棄物の量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本願発明における原材料中の(Mn+Cr+Ni+Fe)含有量とコークス投入量の関係を示すグラフである。
【図2】本願発明における原材料中の(Mn+Cr+Ni+Fe)含有量とSiC投入量の関係を示すグラフである。
【図3】本願発明における原材料中の(Mn+Cr+Ni+Fe)含有量と電力投入量の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼副生物である製鋼ダスト、廃酸スラッジ、およびスケール材を主成分とする酸化物原料を溶融還元してNi、Cr、Fe、Mn等の有価金属を回収する電気製錬方法において、上記酸化物原料中の上記Ni、Cr、Fe、Mn等の有価金属の含有量をX質量%とした場合に、上記酸化物の粉体原料1m当たりの炭材投入量Y(単位:kg/m)および1チャージあたりの電力投入量Y(単位:100kwh/ch)が以下の範囲で規定されることを特徴とする電気製錬方法。
8.5X−280≦Y≦8.5X−94
1.70X+12≦Y≦1.70X+42
ただし、20≦X≦80かつY≧40である。
【請求項2】
鉄鋼副生物である製鋼ダスト、廃酸スラッジ、およびスケール材を主成分とする酸化物原料を溶融還元してNi、Cr、Fe、Mn等の有価金属を回収する電気製錬方法において、上記酸化物原料中の上記Ni、Cr、Fe、Mn等の有価金属の含有量をX質量%とした場合に、上記酸化物の粉体原料1m当たりの炭材投入量Y(単位:kg/m)、SiC投入量Y(単位:kg/m)、および1チャージあたりの電力投入量(Y)(単位:100kwh/ch)が以下の範囲で規定されることを特徴とする電気製錬方法。
8.5X−280≦Y≦8.5X−94
1.70X+12≦Y≦1.70X+42
7.5X−266≦Y≦7.5X−126
ただし、20≦X≦80かつY≧40かつY≧0である。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電気製錬方法において、前記炭材はコークス、石炭の1種類もしくは2種類の組み合わせからなることを特徴とする電気製錬方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−240138(P2008−240138A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86928(P2007−86928)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000232793)日本冶金工業株式会社 (84)
【出願人】(592116110)ナスエンジニアリング株式会社 (7)
【Fターム(参考)】