説明

鉛蓄電池の製造方法

【課題】安価な方法にてブッシングと電池蓋との間の密着性を向上させ、電解液の染み出しを防止できる鉛蓄電池の製造方法を提供すること。
【解決手段】最上段の環状突起3Aとインサート成型用の金型10との間に第一の空隙14を設けて、この金型10をブッシング1に対して配置し、上金型11、下金型12間に樹脂材料を充填し、当該樹脂材料の圧力で、最上段の環状突起3Aを第一の空隙14の形状に合わせて塑性変形させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用などに用いられる鉛蓄電池の製造方法に係り、特に、ブッシングを電池蓋にインサート成型する際の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用などに用いられる鉛蓄電池は、合成樹脂製の電槽と、この電槽の上部に融着されて当該電槽を閉じる合成樹脂製の電池蓋とを備えている。これら電槽および電池蓋は、ABS樹脂あるいはポリプロピレン(PP)樹脂などの合成樹脂で製作されている。通常、電池蓋の上部には端子部が設けられ、この端子部は、電槽内から外部へと延在する鉛合金製の極柱(電極)と、この極柱が挿入された鉛合金製のブッシングとを備えている。このブッシングはインサート成形により電池蓋に形成され、極柱がブッシングに電槽の外部において溶接されて保持されている。
【0003】
インサート成形時には、極柱を保持するブッシング本体のほぼ下半部を電池蓋の樹脂材料内にインサートして成形される。しかし、ブッシングの金属材料と電池蓋の樹脂材料との間には実質的に接着力が生じることがない。このため、ブッシング本体のほぼ下半部外周に環状突起を上下複数段に形成し、これら環状突起の形成部を電池蓋の樹脂内にインサートすることにより、電槽内の電解液が這い上がり端子部に染み出すことを防止している。(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−235050公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記したように、ブッシング本体の外周に複数の環状突起を設けた場合であっても、ブッシングと電池蓋とが密着せずにその境界面に微小な隙間が生じるため、時間の経過と共に、その隙間を通して電槽内の電解液が這い上がり端子部を変色させることがあった。これを防止するために、基端側から先端側に向かうほど厚みが増す環状突起を形成し、この環状突起を樹脂内にインサートすることにより、電槽蓋の樹脂材料との間に、樹脂のアンカー効果を持たせることで、ブッシングと樹脂材料との間の密着性を向上させることが想定される。
しかし、この形状の環状突起を設けたブッシングを鋳造方式で製造することは困難である。また、鋳造後のブッシングの環状突起を切削加工したり、先端を塑性加工して、同様の形状を持たせることは可能であるが、この方式では、ブッシングを加工する工程が余計に入るため、コストが大幅に上昇してしまうという問題があった。
本発明は、安価な方法にてブッシングと電池蓋との間の密着性を向上させ、電解液の染み出しを防止できる鉛蓄電池の製造方法を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、電極を保持する本体部の外周に周方向に延びる複数の環状突起を一体に設けた金属製のブッシングを備え、このブッシングを樹脂製の電池蓋にインサート成型して形成した鉛蓄電池の製造方法において、少なくとも一の環状突起とインサート成型用の金型との間に空隙を設けて、この金型を前記ブッシングに対して配置し、当該金型間に樹脂材料を充填し、当該樹脂材料の圧力で、前記一の環状突起を前記空隙の形状に合わせて塑性変形させたことを特徴とする。
【0007】
この構成において、前記本体部と前記金型との間には、前記一の環状突起が塑性変形する時に当該本体部の延びを吸収する他の空隙を設けた構成としても良い。また、前記他の空隙は、前記本体部の上端と前記金型との間に設け、前記空隙は最上段の環状突起の上面部と前記金型との間に設けた構成としても良い。
【0008】
また、前記一の環状突起と前記金型との空隙の形状は、当該一の環状突起の先端部と前記金型とが接するように断面略三角形状とする構成としても良い。また、前記一の環状突起と前記金型との空隙の上下方向の厚みは、0.5mm〜3mmとし、かつ、当該一の環状突起に隣接して設けられる環状溝の先端距離を超えないものとする構成としても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、少なくとも一の環状突起とインサート成型用の金型との間に空隙を設けて、この金型をブッシングに対して配置し、当該金型間に樹脂材料を充填し、当該樹脂材料の圧力で、一の環状突起を空隙の形状に合わせて塑性変形させたため、この塑性変形した環状突起間に流入した樹脂材料がいわゆるアンカー効果を発揮し、ブッシングと樹脂材料との間の密着性が向上される。これにより、鋳造したブッシングを別途加工する等の、工程を省くことができるため、安価な方法で気密性及び液密性の向上を図ることができ、電解液の染み出しを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1Aは、ブッシングに配置された金型を示す側断面図であり、図1Bは、ブッシングがインサート成型された電池蓋を示す側断面図である。
【図2】図1Aの部分拡大図である。
【図3】図3Aは、変形例にかかるブッシングに配置された金型を示す側断面図であり、図3Bは、ブッシングがインサート成型された電池蓋を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1Aは、本実施形態に係る鉛蓄電池のブッシング1と、このブッシング1に配置されたインサート成型用の金型10とを示す側断面図であり、図1Bは、ブッシング1がインサート成型された電池蓋20を示す側断面図である。また、図2は、図1Aの部分拡大図である。
ブッシング1は、図1A及び図1Bに示すように、鉛合金からなる中空円筒状の本体部2と、この本体部2のほぼ下半部外周に一体に上下複数段(本実施形態では3段)に突出形成された環状突起3とを備えている。各環状突起3は、本体部2の周方向に連続して延びる鍔形状の突起であり、その互いに隣り合う環状突起間が環状溝4となっている。最上部の環状突起3Aはその外径寸法がその下側の環状突起3の外径寸法よりも大きく形成されている。本実施形態では、ブッシング1は、例えば所定形状の金型(不図示)を用い、金型温度180〜240℃、鉛合金溶湯温度400〜440℃の条件で重力鋳造により作製されている。
【0012】
金型10は、図1Aに示すように、ブッシング1を電池蓋20(図1B)にインサート成型するためのものであり、上下一対の上金型11及び下金型12を備えて構成されている。これら上金型11と下金型12との間には、樹脂材料(例えば、ABS樹脂あるいはポリプロピレン(PP)樹脂)が充填される空間13が形成され、この空間13内に樹脂材料を射出することにより、図1Bに示すように、ブッシング1の最上段の環状突起3Aより下側をインサートした電池蓋20が成形される。
上金型11は、図2に示すように、ブッシング1の上半部と略接合する形状に形成され、本構成では、上金型11及び下金型12をブッシング1に配置した際に、最上段の環状突起3Aの上面3A1とこれに接する上金型11との間に密封された第一の空隙14が形成されるとともに、本体部2の上端面2Aと上金型11との間に第二の空隙(他の空隙)15が形成される。
第一の空隙14は、変形対象である最上段の環状突起3Aの上部に形成され、上記空間13内に高圧圧力(例えば、100MPa)で射出された樹脂材料により、最上段の環状突起3Aを第一の空隙14の形状に合わせて塑性変形させるためのものである。第一の空隙14は、上金型11の環状突起3Aと接する部分の一部を切削加工して形成され、環状突起3Aの基端部側を高さHとし、環状突起3Aの先端部側で上金型11と接するような断面略三角形状の密封された空隙に形成されている。
また、環状突起3Aの下端面3A2は、上記空間13を形成する上金型11の上面11Aと略同一の高さ位置、もしくは、この上面11Aより僅かに高い高さ位置に形成される。なお、第一の空隙14は断面半扇形に形成しても良い。
【0013】
また、第二の空隙15は、最上段の環状突起3Aが塑性変形する際に、本体部2に生じる延び(変形量を)吸収するためのものであり、環状突起3Aが変形時に、本体部2が歪んだり、本体部2に過度な応力がかかることを防止している。
また、第二の空隙15を本体部2の上端面と上金型11との間に設けることで、環状突起3Aが上方に変形させる際の射出圧力をスムーズに本体部2の延びに用いることができ、応力の伝達ロスを減少することができる。
【0014】
ブッシング1を電池蓋20にインサート成型する場合には、図1Aに示すように、ブッシング1を上金型11及び下金型12に配置し、この状態で、上金型11と下金型12との間の空間13に樹脂材料を射出する。
すると、この射出された樹脂材料の応力によって、最上段の環状突起3Aが第一の空隙14の形状に合わせて塑性変形するとともに、本体部2が第二の空隙15の形状に合わせて塑性変形される。そして、この射出された樹脂材料によって、天板部21と、ブッシング1と接合する接合部22とを備える電池蓋20が形成される。
この場合、最上段の環状突起3Aと2段目の環状突起3Bとの間の環状溝4Aは、図1Bに示すように、環状溝4Aの基端部側が先端側よりも高さが高くなるように変形するため、この環状溝4Aに流入した接合部22を形成する樹脂材料がいわゆるアンカー効果を発揮し、ブッシング1と樹脂材料との間の密着性が向上される。
本実施形態では、発明者の実験により、第一の空隙14の高さ(厚み)Hは、0.5mm〜3mmとすることが望ましいと判明している。この高さHが0.5mmより小さい場合には、変形量が小さく、樹脂材料がアンカー効果を十分に発揮することができない。また、高さHが3mmより大きい場合には、射出圧力が過剰に高くする必要が生じ、効率が低下する。さらに、第一の空隙14の高さHは、上記環状溝4Aの先端距離を超えないことが望ましい。これは、第一の空隙14の高さHの方が環状溝4Aの先端距離よりも大きくすると、環状突起3Aの変化により環状溝4A先端が封口してしまい樹脂が切断されるためである。この様にして成形された電池蓋20は、その後、電槽開口部に施されて電槽を封口すると共に、該電槽内に収納された、正負極をセパレータを介して交互に積層してなる極板群に形成された極柱(電装)がブッシング1の本体部2の内部中空部に貫通され、互いに溶接して本体部2が極柱を保持するものである。
【0015】
次に、変形例について説明する。
図3は、図1の変形例であり、図3Aは、変形例にかかるブッシング1に配置された金型10を示す側断面図であり、図3Bは、ブッシング1がインサート成型された電池蓋20を示す側断面図である。
図3中の符号について、図1と共通する部材には、共通の符号を付して説明を省略する。
この図3に示す変形例では、第一の空隙24が上記した第一の空隙14と異なる。具体的には、ブッシング1は本体部2の外周に形成された最上段の環状突起3Dが、その上面3D1を基端部から先端部にかけて昇り傾斜となるように形成されている。一方、これに対する上金型11は、水平であり最上段の環状突起3Dに対応する箇所の下面11Bが、空間13を形成する上金型11の下面13Aと略平行に形成されている。このため、ブッシング1を上金型11及び下金型12に配置した場合に、最上段の環状突起3Dと上金型11との間には、環状突起3Dの基端部側を高さHとし、環状突起3Dの先端部側で上金型11と接するような断面略三角形状の密封された第一の空隙24が形成されている。
この変形例では、ブッシング1の最上段の環状突起3Dの上面に傾斜面を形成することにより、最上段の環状突起3Dと上金型11との間に第一の空隙24を形成している。このため、上金型11は従来と同一のものをそのまま使用することが可能となるため、ブッシング1の設計を変更するだけで、簡単に電解液の染み出しを防止することができる。
【0016】
以上、説明したように、本実施形態によれば、極柱を保持する本体部2の外周に周方向に延びる複数の環状突起3A〜3Cを一体に設けた金属製のブッシング1を備え、このブッシング1を樹脂製の電池蓋20にインサート成型して形成した鉛蓄電池の製造方法において、少なくとも最上段の環状突起3Aとインサート成型用の上金型11との間に第一の空隙14を設けて、上金型11及び下金型12をブッシング1に対して配置し、上金型11と下金型12間に樹脂材料を充填し、当該樹脂材料の圧力で、最上段の環状突起3Aを第一の空隙14の形状に合わせて、図2中矢印X方向に塑性変形させたため、この塑性変形した最上段の環状突起3Aと2段目の環状突起3Bとの間に流入した樹脂材料がいわゆるアンカー効果を発揮し、ブッシング1と樹脂材料との間の密着性が向上される。これにより、鋳造したブッシング1を別途加工する等の、工程を省くことができるため、安価な方法で気密性及び液密性の向上を図ることができ、電解液の染み出しを防止することができる。
【0017】
また、本実施形態によれば、本体部2と上金型11との間には、最上段の環状突起3Aが塑性変形する時に当該本体部2の延びを吸収する第二の空隙15を設けたため、環状突起3Aが変形した時に、本体部2や環状突起3Aに過度な応力がかかることを防止している。
【0018】
また、本実施形態によれば、第二の空隙15は、本体部2の上端面2Aと上金型11との間に設けられ、第一の空隙14は最上段の環状突起3Aの上面3A1と上金型11との間に設けたため、環状突起3Aが上方に変形させる際の射出圧力を、本体部2が第二の空隙15に向けてスムーズに延びる力として用いることができ、応力の伝達ロスを減少することができる。
【0019】
また、本実施形態によれば、最上段の環状突起3Aと上金型11との第一の空隙14の形状は、最上段の環状突起3Aの先端部と上金型11とが接するように断面略三角形状としたため、この第一の空隙14に樹脂材料が流入することを防止しつつ、最上段の環状突起3Aと2段目の環状突起3Bとの間に形成される環状溝4Aに流入した樹脂材料の射出圧力によって、環状突起3Aが上方に持ち上げられて、第一の空隙14の形状に合わせて塑性変形される。これにより、環状溝4Aは、この環状溝4Aの基端部側が先端側よりも高さが高くなるように変形するため、この環状溝4Aに流入した接合部22を形成する樹脂材料がいわゆるアンカー効果を発揮し、ブッシング1と樹脂材料との間の密着性が向上される。
【0020】
また、本実施形態によれば、最上段の環状突起3Aと上金型11との第一の空隙の上下方向の厚みは、0.5mm〜3mmとし、かつ、当該最上段の環状突起3Aに隣接して設けられる環状溝4Aの先端距離を超えないように形成しているため、環状突起3A歪みを抑えつつ、ブッシング1と樹脂材料との間の密着性が向上される。
【0021】
上述した各実施形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の主旨を逸脱しない範囲で任意に変形及び応用が可能である。
【0022】
例えば、環状突起3の段数を、自動車用の鉛蓄電池に一般に用いられる3段としたが、自動二輪車用の鉛蓄電池とする場合には、これを減少しても良い。
【符号の説明】
【0023】
1 ブッシング
2 本体部
2A 上端面
3、3A、3B、3C、3D 環状突起
3A1、3D1 上面
3A2 下端面
4 環状溝
10 金型
11 上金型
12 下金型
13 空間
14、24 第一の空隙(空隙)
15 第二の空隙(他の空隙)
20 電池蓋
21 天板部
22 接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極を保持する本体部の外周に周方向に延びる複数の環状突起を一体に設けた金属製のブッシングを備え、このブッシングを樹脂製の電池蓋にインサート成型して形成した鉛蓄電池の製造方法において、
少なくとも一の環状突起とインサート成型用の金型との間に空隙を設けて、この金型を前記ブッシングに対して配置し、当該金型間に樹脂材料を充填し、当該樹脂材料の圧力で、前記一の環状突起を前記空隙の形状に合わせて塑性変形させたことを特徴とする鉛蓄電池の製造方法。
【請求項2】
前記本体部と前記金型との間には、前記一の環状突起が塑性変形する時に当該本体部の延びを吸収する他の空隙を設けたことを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池の製造方法。
【請求項3】
前記他の空隙は、前記本体部の上端と前記金型との間に設け、前記空隙は最上段の環状突起の上面部と前記金型との間に設けたことを特徴とする請求項2に記載の鉛蓄電池の製造方法。
【請求項4】
前記一の環状突起と前記金型との空隙の形状は、当該一の環状突起の先端部と前記金型とが接するように断面略三角形状とすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の鉛蓄電池の製造方法。
【請求項5】
前記一の環状突起と前記金型との空隙の上下方向の厚みは、0.5mm〜3mmとし、かつ、当該一の環状突起に隣接して設けられる環状溝の先端間距離を超えないものとすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の鉛蓄電池の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−150946(P2011−150946A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12545(P2010−12545)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】