説明

銅箔及びそれを用いた銅張積層板

【課題】銅張積層板に用いたときに曲げ性に優れた銅箔及びそれを用いた銅張積層板を提供する。
【解決手段】厚み5〜30μm、350℃で0.5時間焼鈍後のI(220)/I(200)が0.11以下で、かつ350℃で0.5時間焼鈍後の加工硬化指数が0.3以上0.45以下の銅箔である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばフレキシブル配線板(FPC:Flexible Printed Circuit)に使用される銅箔、及びこの銅箔を樹脂層の少なくとも片面に積層した銅張積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラや携帯電話などの電子機器を駆動させる回路として、フレキシブル配線板(FPC:Flexible Printed Circuit)やCOF(chip of flexible circuit)が用いられている。このFPCやCOFは、樹脂層の片面又は両面に銅箔を積層した銅張積層板(CCL)を用い、銅箔に回路パターンを形成してなる。
そして、このような電子機器を小型化、高機能化するために、ケース内の狭い空間にFPCを折りたたんで収容する方法がとられる。例えば液晶ディスプレイ周辺に用いられるCOFの場合には、ベゼル(いわゆる「額縁」)を細くするために、COFの銅配線を液晶基板の裏側へ折り返している。
【0003】
しかしながら、FPCやCOFを折り畳んだ際、銅箔部分に大きな変形荷重が加わり、破断し易くなるという問題がある。
そこで、柱状の銅結晶粒子を含み、25℃における伸び率5%以上の電解銅箔からFPCを構成することで、配線パターンが破断し難いFPCが得られることが報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-335541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、CCLの銅箔の曲げ性は銅箔の伸びと相関があると考えられており、そのため上記特許文献1に記載されているように、伸びの大きい電解銅箔が用いられている。
ところが、伸びの大きい圧延銅箔を用いても、CCLの曲げ性が向上しない場合があることを本発明者らは見出した。
すなわち、本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、銅張積層板に用いたときに曲げ性に優れた銅箔及びそれを用いた銅張積層板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは種々検討した結果、CCLの曲げ性を向上させる因子として、銅箔の伸びではなく加工硬化指数(n値)が重要であることを見出した。
上記の目的を達成するために、本発明の銅箔は、厚み5〜30μm、350℃で0.5時間焼鈍後のI(220)/I(200)が0.11以下で、350℃で0.5時間焼鈍後の加工硬化指数が0.3以上0.45以下である。
【0007】
本発明の銅箔の半軟化温度が150℃以下であることが好ましい。
又、本発明の銅箔は、無酸素銅若しくはタフピッチ銅からなり、又は無酸素銅若しくはタフピッチ銅にAg及びSnの群からなる1種以上を合計500質量ppm以下含むことが好ましい。
本発明の銅箔は、無酸素銅又はタフピッチ銅にAg、Sn、In、Ti、Zn、Zr、Fe、P、Ni、Si、Te、Cr、Nb、及びVの群から選ばれる一種以上の元素を合計で20〜500質量ppm含むことが好ましい。
前記銅箔の片面に樹脂層を積層した合計厚みが50μm以下で、幅3mm以上5mm以下の試料を用い、前記銅箔の露出面を外側として180度密着曲げを行った場合に、前記銅箔が破断するまでの曲げ回数が4回以上であることが好ましい。
【0008】
最終冷間圧延時の総加工度が85%以上であり、かつ前記最終冷間圧延における最終3パスでの油膜当量を以下の条件として圧延してなることが好ましい。但し、最終パスの2つ前の油膜当量;25000以下、最終パスの1つ前の油膜当量;30000以下、最終パスの油膜当量; 35000以下とする。ここで、インゴットを熱間圧延後、冷間圧延を経て銅箔を製造する際、冷間圧延において冷間圧延と焼鈍とを交互に行う。そして、最後の焼鈍後に最後に行う冷間圧延を「最終冷間圧延」とする。
【0009】
本発明の銅張積層板は、前記銅箔を、樹脂層の少なくとも片面に積層してなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、銅張積層板に用いたときに曲げ性に優れた銅箔が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】IPC摺動屈曲装置による摺動屈曲の方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る銅箔について説明する。なお、本発明において%とは、特に断らない限り、質量%を示すものとする。
本発明の実施形態に係る銅箔は、厚み5〜30μm、350℃で0.5時間焼鈍後のX線回折による(200)回折ピークの積分強度I(200)と、I(220)回折ピークの積分強度との比であるI(220)/I(200)が0.11以下、かつ350℃で0.5時間焼鈍後の加工硬化指数が0.3以上0.45以下である。
【0013】
<加工硬化指数(n値)>
加工硬化指数(n値)は、降伏点以上の塑性変形域における応力とひずみとの関係を、以下の式1(Hollomonの式)で近似した場合の指数nで表される。
[真応力]=[材料定数]×[真ひずみ] (1)
加工硬化指数が大きいほど局所変形が起こりにくく、変形を行ったときに破断しにくい。又、加工硬化指数が高い材料は絞り加工性に優れ、プレス加工に適する。そして、銅箔を、樹脂層の少なくとも片面に積層して銅張積層板を製造し、この銅張積層板の曲げ性を評価した場合に、加工硬化指数が0.3以上の銅箔は局所変形が起こりにくく、曲げ部全体で変形を担うので、銅箔が破断しにくいと考えられる。但し、加工硬化指数が0.45を超える材料は、焼鈍後の強度が低く取り扱い性が悪化するため、銅張積層板用として適当でない。
【0014】
ここで、350℃で0.5時間焼鈍後の加工硬化指数を規定した理由は、銅張積層板を製造する際の加熱条件がこの程度であるためである。なお、銅張積層板の樹脂層が樹脂組成物を銅箔に塗布、硬化して得られる場合(樹脂層と銅箔との間に接着層が介在しない2層CCLの場合)、上記加熱条件で樹脂の硬化を行うことになる。
【0015】
なお、銅箔の曲げ性を向上させる因子として、銅箔の伸びではなく加工硬化指数(n値)が重要である理由は以下のとおりと考えられる。
まず、加工硬化指数は、材料の加工硬化挙動を示す値のひとつであり、この値が大きいほど、材料は加工硬化しやすい性質を持つ。ここで、材料は引張変形を受けると、局部的にくびれを起こして破断するが、加工硬化係数が大きい材料では、くびれを起こした部分が加工硬化し、くびれ部が変形しにくくなる。そのため、変形しにくいくびれ部に代わって、それ以外の部分が変形しはじめる。これを繰り返すことで、材料全体が均等に変形する。一方、伸びはそのような状況を考慮せずにマクロ的に捕らえた指標なので、伸びが大きいものでも加工硬化指数が大きいとは限らない。
【0016】
従来、このような材料全体の均等な変形のしやすさの指標として、厚みのある材料の絞り加工において、加工硬化指数が用いられる例はあるものの、銅箔のように薄い材料は絞り加工などの加工を行わないので、加工硬化指数を指標とすることはこれまでなかった。本発明においては、銅箔の加工硬化指数を大きくすれば、CCLの180度密着曲げにおいても、曲げ部全体が均等に変形することによって破断を起こさずに曲がると考えた。
【0017】
さらに、200℃で0.5時間焼鈍後の加工硬化指数も0.3以上0.45以下であることが好ましい。これは、樹脂層としてフィルムを用い、フィルムと銅箔とを接着層を介して積層した3層CCLの製造時のラミネート温度が200℃程度であるからである。加工硬化指数は加熱によって銅箔が再結晶することによって大きくなるため、350℃より低温の200℃で加工硬化指数が0.3以上であれば、350℃でも0.3以上の加工硬化指数が得られる。また、上記焼鈍で充分に再結晶組織を得るためには、銅箔の半軟化温度は150℃以下であることが好ましい。
【0018】
(厚み)
なお、従来、構造部材のような厚みのある材料の絞り加工において、材料全体の均等な変形のしやすさの指標である加工硬化指数が用いられた例はあるが、銅箔のように薄い材料は絞り加工などの加工を行わないので、加工硬化指数を指標に用いることはなかった。
このようなことから、本発明の圧延銅箔の厚みを5〜30μmに規定する。
【0019】
又、銅箔の厚みが5〜30μmと比較的薄い場合、材料表面に面した結晶粒の割合が多くなるため、変形によって導入された転位は結晶粒界に蓄積せず、材料表面から解放される割合が高くなる。このため銅箔の加工硬化指数は、比較的厚い材料に比べて低くなる。一方、加工硬化指数は、変形によって材料中に導入される転位の量と、転位の移動し易さとによって決まる。つまり、転位ループの発生源となるような析出物や、転位の移動を妨げる固溶元素及び結晶粒界が存在すると加工硬化指数は大きくなる。しかしながら、転位の移動を大きく妨げる程度の固溶元素や、析出物を生成しうる程度の合金元素の添加は導電率の低下を招くため、フレキシブル配線板用銅箔として好ましくない。
【0020】
(組成)
本発明の銅箔は、JIS−H3100の合金番号C1100に規格するタフピッチ銅又はJIS−H3100の合金番号C1020に規格する無酸素銅を組成とすることが好ましい。上記した純銅に近い組成とすると、銅箔の導電率が低下せず、FPCやCOFに適する。圧延銅箔に含まれる酸素濃度は、タフピッチ銅の場合は0.01〜0.05質量%、無酸素銅の場合は0.001質量%以下である。
また、無酸素銅としてJIS−H3510の合金番号C1011に規格する無酸素銅を用いることもできる。
さらに、Ag及びSnの群から選ばれる1種以上を合計500質量ppm以下含有してもよい。圧延銅箔にAg又はSnを添加すると転位の移動を妨げるため、加工硬化係数が大きくなる。圧延銅箔へのAg又はSnの合計添加量が500質量ppmを超えると、導電率が低下すると共に再結晶温度が上昇し、最終焼鈍において銅箔の表面酸化を抑えつつ再結晶焼鈍することが困難になる場合がある。なお、AgとSnの合計添加量の下限は特に規定しないが、通常、合計20質量ppm以上である。
又、上記タフピッチ銅又は上記無酸素銅に、Ag、Sn、In、Ti、Zn、Zr、Fe、P、Ni、Si、Te、Cr、Nb、及びVの群から選ばれる一種以上の元素を合計で20〜500質量ppm含有してもよい。
【0021】
350℃で0.5時間焼鈍後の銅箔の加工硬化指数を0.3以上に管理する方法としては、最終冷間圧延時の総加工度を85%以上とし、さらに最終冷間圧延における最終3パスにおける油膜当量を調整することが挙げられる。具体的には、最終冷間圧延における最終パスの2つ前の油膜当量;25000以下、最終パスの1つ前の油膜当量;30000以下、最終パスの油膜当量; 35000以下とする。
なお、材料厚みが薄くなると油膜当量は大きくなる傾向にあるため、最終3パスにおける油膜当量の値は、徐々に大きくなる。そこで、それぞれ厚みの異なる最終3パスについて、適正な油膜当量を設定する必要がある。
最終冷間圧延において圧延油粘度と材料降伏応力が全パスで等しいとすると、油膜当量は、(圧延速度)/(噛み込み角)に比例する。加工度が同じ場合、材料厚みが薄くなると噛み込み角は小さくなるために、最終パスに近づくほど油膜当量は大きくなる傾向にある。また生産性を保つためには、材料長さの長い最終パスに近づくほど圧延速度を上げる必要があり、これによっても最終パスに近づくほど油膜当量は大きくなる傾向にある。
【0022】
そして、最終冷間圧延における中間パスでの油膜当量が大きいと、最終パスで油膜当量を低く抑えても加工硬化指数を0.3以上にする効果を得ることができない。このようなことから、最終冷間圧延における最終3パスにおける油膜当量を管理している。
油膜当量を低減するために、最終パスの圧延加工度を25%以上にするのが良い。
【0023】
なお、上記油膜当量は下記式で表される。(油膜当量)={(圧延油粘度、40℃の動粘度;cSt)×(圧延速度;m/分)}/{(材料の降伏応力;kg/mm)×(ロール噛込角;rad)}
圧延油粘度は4.0〜8.0cSt程度、圧延速度200〜600m/分、ロールの噛込角は例えば0.0005〜0.005rad、好ましくは0.001〜0.04radとすることができる。
【0024】
<I(220)/I(200)>
本発明の銅箔において、I(220)/I(200)を0.11以下とする。純銅型の再結晶集合組織は銅箔表面方向に(200)面が向くことが特徴であるが、このとき圧延平行方向および圧延直角方向にも(200)面が向く。又、一般的に銅箔を曲げる場合、圧延平行方向または圧延直角方向に曲げ軸を取るが、このとき銅箔にかかる変形によって銅の主すべり面である{111}面が多重すべりを生じ、高い加工硬化指数が得られる。一方、 (200)面以外の結晶方位が支配的である場合には、充分な多重すべりが起こらず、高い加工硬化指数が得られない。以上の理由から、曲げ軸に対して{001}方位をもつ結晶が多いほど、曲げ性に優れた銅箔となる。
ここで、純銅型の再結晶集合組織は、ND方向(圧延面法線方向)、RD方向、TD方向の各方向に{001}方位を向けることから、曲げ方向であるRD方向やTD方向を代用して測定の容易なND方向の(200)面回折強度を指標として用いることができる。
なお、本発明の銅箔は、CCL形成時相当の熱処理に相当する処理(350℃で0.5時間焼鈍)後のI(220)/I(200)を0.11以下とする。焼鈍雰囲気としては、表面酸化を防止するため、非酸化性雰囲気が好ましい。
【0025】
又、以下の理由により、焼鈍によって充分に再結晶組織を得る必要があることから、銅箔の半軟化温度を150℃以下にすることが好ましい。充分に再結晶組織を得るためには、銅箔の組成と加工度を調整して再結晶温度を適切に管理する必要があるが、銅箔の組成と加工度を上記範囲に規定すれば、再結晶温度が120〜150℃程度となり、半軟化温度を150℃以下とすることができる。
ここで、未再結晶組織は加工ひずみが残留しており、すでに加工硬化しているために曲げ変形による加工硬化がしにくく、加工硬化指数が小さくなり、曲げ性が悪くなる。加工硬化指数を大きな値にするには、銅箔をCCLに積層した状態が加工硬化してない状態、すなわち加工ひずみが除去された状態である必要がある。言い換えれば、CCL製造過程で銅箔は熱処理を受けるが、その熱処理によりひずみが除去され、再結晶することが必要となる。そして、銅箔の半軟化温度が150℃以下であれば、CCL製造過程で受ける程度の熱処理によっても銅箔の再結晶が期待でき、加工硬化指数を大きくすることができる。
【0026】
さらに、本発明の実施形態に係る銅箔の片面に樹脂層を積層した合計厚みが50μm以下で、幅3mm以上5mm以下の試料を用い、銅箔の露出面を外側として180度密着曲げを行った場合に、銅箔が破断するまでの曲げ回数が4回以上であることが好ましい。
銅箔の片面に樹脂層を積層した合計厚みが50μm以下の試料は、銅張積層板を模したものであり、その180度密着曲げの曲げ回数は、銅張積層板の曲げ性を評価したことになる。
樹脂層としては、ポリイミド;PET(ポリエチレンテレフタレート);エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂;飽和ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂を用いることができるがこれらに限定されない。又、これら樹脂層の成分を溶剤に溶かしたワニス(例えば、ポリイミドの前駆体のポリアミック酸溶液)を銅箔の片面に塗布し、加熱することで溶媒を除去して反応(例えばイミド化反応)を進行させ、硬化させてもよい。
【0027】
180度密着曲げは、折り目が自身の幅方向に平行になるように試料を折り返し、ハンドプレスで潰して重ねて行う。そして、曲げ部の断面の銅箔部分の破断の有無を光学顕微鏡で観察する。破断がなければ、密着曲げ後の試料を開き、ハンドプレスを用いて平らに伸ばした後に、同じ場所でもう一度折り返してハンドプレスで潰す。このようにして、銅箔が破断するまでの曲げ回数を求める。
【0028】
本発明の銅張積層板は、上記した銅箔を、上記樹脂層の少なくとも片面に積層してなる。本発明の実施形態に係る銅箔は、曲げ性に優れるため、これを用いた銅張積層板も曲げ性に優れる。例えば、本発明の銅張積層板は、半径5mm以下で90〜180度折り曲げる用途に好適に使用できる。
【実施例】
【0029】
無酸素銅(JIS H0500)またはタフピッチ銅(JIS H0500)を溶解し、必要に応じて表1、表2に示す元素を添加して鋳造し、厚さ20mm、幅60mmのインゴットを作製した。インゴットを厚さ10mmまで熱間圧延後に冷間圧延と焼鈍を適宜繰り返して銅箔を作製した。軟化温度を調整するため、最終冷間圧延時の総加工度を85%以上とし、かつ表面粗さを低減するために、表面が平滑(ロール軸方向でRa≦0.1μm)なロールを用いて最終冷間圧延し、銅箔を製造した。圧延油粘度を4.0〜8.0cSt程度とし、圧延速度200〜600m/分、ロールの噛込角0.003〜0.03radの範囲で調整し、最終冷間圧延における最終3パスでの油膜当量をいずれも35000以下(最終パスの2つ前の油膜当量;25000以下、最終パスの1つ前の油膜当量;30000以下、最終パスの油膜当量; 35000以下)となるようにした。
【0030】
<加工硬化指数>
得られた銅箔を、それぞれ200℃×0.5時間、及び350℃×0.5時間で焼鈍した後に引張試験(JIS-Z2241に準拠)を行い、加工硬化指数を求めた。なお、加工硬化指数は、材料が降伏した後の均一伸びと応力とを用いて求める必要があるため、伸び2%から最大応力点までの値を用いた。そして、測定した伸び及び応力から求めた真ひずみと、真応力との両対数グラフを最小自乗法で近似し、グラフの傾きから加工硬化指数を求めた。真ひずみと真応力は以下の式で求めた。
[真ひずみ]=ln(1+[ひずみ])
[真応力]=(1+[真ひずみ])×[応力]
なお、この引張試験で破断伸びも求めた。従って、表1、表2の破断伸びは350℃×0.5時間で焼鈍した後の値である。
【0031】
<半軟化温度>
得られた銅箔を、それぞれ100〜400℃×0.5時間で非酸化性雰囲気にて焼鈍した後に引張試験を行い、熱処理条件に対する強度(引張り強さ)を求めた。焼鈍後の強度が、圧延上がり(焼鈍前)の強度と、完全に軟化(300℃で30分間焼鈍)した状態の強度の中間の値となる焼鈍温度を、半軟化温度とした。
【0032】
<銅張積層板の折曲回数>
次に、得られた銅箔の片面に、キャスト法で厚み約20μmのポリイミド層を製膜し、片面CCLを作製した。具体的には、得られた銅箔の片面を化学処理(めっき)し、この面にポリイミド樹脂の前駆体ワニス(宇部興産製U−ワニスA)を厚さ20μmになるように塗布した。この後、130℃に設定した熱風循環式高温槽で30分乾燥し、段階的に350℃まで2000秒かけて昇温して硬化(イミド化)して樹脂層(ポリイミド層)を形成し、片面CCLを作製した。
180度密着曲げは以下の手順で行った。まず、この片面CCLを幅3.2mm、長さ30mmで試験片の長さ方向が圧延方向と平行になるように切り出して試験片とし、樹脂層面を内側にしてループ状にし、ハンドプレスで潰して180度密着曲げを行った。そして、曲げ部の断面の銅箔部分の破断の有無を光学顕微鏡で観察した。破断がなければ、密着曲げ後の試料を開き、ハンドプレスを用いて平らに伸ばした後に、同じ場所でもう一度折り返してハンドプレスで潰した。このようにして、銅箔が破断するまでの曲げ回数を求めた。
【0033】
<銅箔の摺動屈曲回数>
次に、得られた銅箔を、幅12.7 mm,長さ200 mmで試験片の長さ方向が圧延方向と平行になるように切り出して試験片とし、200℃で30分間加熱して再結晶させた。このものを、図1に示すIPC(アメリカプリント回路工業会)摺動屈曲装置により,IPC摺動屈曲回数の測定を行った。この装置は,発振駆動体4に振動伝達部材3を結合した構造になっており,試験片1は,矢印で示したねじ2の部分と3の先端部の計4点で装置に固定される。振動部3が上下に駆動すると,試験片1の中間部は,所定の曲率半径rでヘアピン状に屈曲される。本試験では,以下の条件下で屈曲を繰り返した時の破断までの回数を求めた。
曲率半径r:2.5 mm,振動ストローク:25mm,振動速度:1500回/分の条件で試験を行った。ただし、実施例17は曲率半径r:0.9mmとした。これは屈曲時に銅箔にかかるひずみ量を、実施例17より厚い他の実施例と同等とするためである。
【0034】
<I(220)/I(200)>
得られた銅箔を、350℃×0.5時間で非酸化性雰囲気にて焼鈍した後,圧延面のX線回折を行い、それぞれ(220)面及び(200)面の回折ピーク強度の積分値(I)を求めた。
【0035】
得られた結果を表1、表2に示す。なお、表1、表2の組成において、OFC及びTPCは、それぞれ無酸素銅及びタフピッチ銅(JIS H3100)を示し、Ag100ppmTPCは、タフピッチ銅にAgを100質量ppm添加したものを示す。
なお、JIS H3100に規格されている無酸素銅とJIS H0500に規格されている無酸素銅はいずれも合金番号C1020で同じである。また、JIS H3100に規格されているタフピッチ銅とJIS H0500に規格されているタフピッチ銅はいずれも合金番号C1100で同じである。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
表1、表2から明らかなように、I(220)/I(200)が0.11以下、かつ350℃で0.5時間焼鈍後の加工硬化指数が0.3以上である実施例1〜20の場合、180度密着曲げを行ったときの曲げ回数が4回以上であり、曲げ性に優れたものとなった。
一方、最終冷間圧延時の総加工度を85%未満とした比較例3、5,6,7の場合、350℃で0.5時間焼鈍後の加工硬化指数が0.3未満となり、180度密着曲げを行ったときの曲げ回数が4回未満となって曲げ性が劣化した。なお、比較例1の場合、銅箔中のSnの添加量が500質量ppmを超えたために半軟化温度が150℃を超え、加工硬化指数が0.3未満となったものと考えられる。
また半軟化温度が150℃を超えた比較例1、6,7の場合、350℃で0.5時間焼鈍後の加工硬化指数が0.3未満となり、180度密着曲げを行ったときの曲げ回数が4回未満となって曲げ性が劣化した。
【0039】
最終冷間圧延における最終3パスでの油膜当量として、最終パスの2つ前の油膜当量;25000を超え、最終パスの1つ前の油膜当量;30000を超え、最終パスの油膜当量; 35000を超えた比較例2の場合、180度密着曲げを行ったときの曲げ回数が4回未満となって曲げ性が劣化した。
最終冷間圧延における最終3パスでの油膜当量のうち、最終パスの2つ前の油膜当量が25000を超えた比較例4の場合、180度密着曲げを行ったときの曲げ回数が4回未満となって曲げ性が劣化した。
【0040】
なお、比較例1〜7の場合も、従来の屈曲性の評価であるIPC摺動屈曲回数は各実施例と同等であり、摺動屈曲試験では銅張積層板の曲げ性を評価できないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み5〜30μm、350℃で0.5時間焼鈍後のI(220)/I(200)が0.11以下で、かつ350℃で0.5時間焼鈍後の加工硬化指数が0.3以上0.45以下の銅箔。
【請求項2】
半軟化温度が150℃以下である請求項1に記載の銅箔。
【請求項3】
無酸素銅若しくはタフピッチ銅からなり、又は無酸素銅若しくはタフピッチ銅にAg及びSnの群からなる1種以上を合計500質量ppm以下含む請求項1又は2に記載の銅箔。
【請求項4】
無酸素銅又はタフピッチ銅にAg、Sn、In、Ti、Zn、Zr、Fe、P、Ni、Si、Te、Cr、Nb、及びVの群から選ばれる一種以上の元素を合計で20〜500質量ppm含む請求項1又は2に記載の銅箔。
【請求項5】
前記銅箔の片面に樹脂層を積層した合計厚みが50μm以下で、幅3mm以上5mm以下の試料を用い、前記銅箔の露出面を外側として180度密着曲げを行った場合に、前記銅箔が破断するまでの曲げ回数が4回以上である請求項1〜4のいずれかに記載の銅箔。
【請求項6】
最終冷間圧延時の総加工度が85%以上であり、かつ前記最終冷間圧延における最終3パスでの油膜当量を以下の条件として圧延してなる請求項1〜5のいずれかに記載の銅箔。
但し、最終パスの2つ前の油膜当量;25000以下、最終パスの1つ前の油膜当量;30000以下、最終パスの油膜当量; 35000以下
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の銅箔を、樹脂層の少なくとも片面に積層してなる銅張積層板。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−224941(P2012−224941A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206062(P2011−206062)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】