説明

鋳造装置

【課題】製造時の熱サイクルによって溶融坩堝が軟化し、保持坩堝と咬み込んでしまうことによって坩堝が破損したり、溶融坩堝の交換が困難になってしまう問題点を解消する。
【解決手段】内部に保持したシリコン原料を加熱溶融させて形成したシリコン融液3を、底部から出湯させるための出湯口1aを備えた、二酸化珪素を主成分とする材質から成る溶融坩堝1と、溶融坩堝1を外側から保持するとともに、溶融坩堝1の出湯口1aの位置に、この出湯口1aよりも大きい開口部2aが設けられた保持坩堝2と、溶融坩堝1内のシリコン原料を加熱溶融させてシリコン融液3とする加熱手段6、7と、溶融坩堝1から出湯したシリコン融液3が注湯される位置に備えられた鋳型9と、を具備して成る鋳造装置であって、保持坩堝2の開口部2aの端縁部は、溶融坩堝1に面した側に面取り部2bを有するような構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に太陽電池用多結晶シリコンを鋳造するのに適した鋳造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は入射した光エネルギーを電気エネルギーに変換するものである。太陽電池のうち主要なものは使用材料の種類によって結晶系、アモルファス系、化合物系等に分類される。このうち、現在市場で流通しているのはほとんどが結晶系シリコン太陽電池である。この結晶系シリコン太陽電池はさらに単結晶型、多結晶型に分類される。単結晶型のシリコン太陽電池は基板の品質が良いために高効率化が容易であるという長所を有する反面、基板の製造コストが高いという短所を有する。これに対して多結晶型のシリコン太陽電池は低コストで製造できるという長所がある反面、基板の品質が単結晶基板に比して劣るために高効率化が難しいという短所がある。しかし最近では多結晶シリコン基板の品質の向上やセル化技術の進歩により、研究レベルでは18%程度の変換効率が達成されている。
【0003】
一方、量産レベルの多結晶シリコン太陽電池は低コストであったため従来から市場に流通してきたが、近年環境問題が取りざたされる中でさらに需要が増してきている。
【0004】
多結晶シリコン太陽電池に用いる多結晶シリコン基板は一般的にキャスティング法と呼ばれる方法で鋳造される。このキャスティング法とは、離型材を塗布した石英等からなる鋳型の中でシリコン融液を冷却固化することによりシリコンインゴットを形成する方法である。
【0005】
このシリコンインゴットを所望の大きさに切り出し、切り出したインゴットを所望の厚みにスライスして太陽電池を形成するための多結晶シリコン基板を得る。
【0006】
特許文献1に開示されているシリコン等を鋳造する従来の鋳造装置を図2に示す。図2において1は溶融坩堝、1aは出湯口、2は保持坩堝、2aは開口部、3はシリコン融液、4は出湯口1aを塞ぐシリコン原料、5はノズル、6は側部加熱手段、7は上部加熱手段、8は鋳型加熱手段、9は鋳型を示す。
【0007】
鋳造装置の上部には原料シリコンを溶融し、シリコン融液3とするための溶融坩堝1が保持坩堝2に保持されて配置され、溶融坩堝1の底部にはシリコン融液3を出湯させるための出湯口1aを有するノズル5が設けられ、保持坩堝2の底部の開口部2aを介して、下方に設けられた鋳型9にシリコン融液を出湯できるように構成されている。溶融坩堝1、保持坩堝2の下部にはシリコン融液3が注ぎ込まれる鋳型9が配置され、その上部にはシリコン融液の凝固を制御するための鋳型加熱手段8が配置される。
【0008】
溶融坩堝1は耐熱性能とシリコン融液中に不純物が拡散しないこと等を考慮して、たとえば高純度の石英等が用いられる。保持坩堝2は、石英等でできた溶融坩堝1がシリコンの融点近傍の高温で軟化してその形状を保てなくなるため、これを保持するためのものであり、その材質はグラファイト等が用いられる。加熱手段6、7、8は、抵抗加熱式のヒーターや誘導加熱式のコイル等が用いられる。鋳型9は石英等からなり、その内側に窒化珪素等を主成分とする離型材を塗布して用いられる。またこの鋳型9の周りには万一鋳型が破損した場合に鋳型から漏れ出したシリコン融液を受け止めるための鋳型受け容器(図不示)が設置されることもある。鋳型受け容器は耐熱性等を考慮してグラファイト材等が一般には用いられる。また鋳型の下方には注湯されたシリコン融液を冷却、固化するため冷却板(図不示)が設置される場合もある。なお、これらはすべて真空容器(図不示)内に配置される。
【0009】
特許文献1に記載された方法によれば、溶融坩堝1の底部に設けた出湯口1aをシリコン原料4で塞いでおき、その上で溶融坩堝1内にシリコン原料を投入する。その後溶融坩堝1の側部、上部に設置された側部加熱手段6と上部加熱手段7で溶融坩堝1内のシリコン原料を溶解させ、出湯口1aを塞ぐシリコン原料4を最後に溶解させる。このようにすることによって、シリコン原料が完全に融液となった瞬間に出湯が開始されることからシリコン原料溶解後の出湯を効率よく行うことができる。また溶融坩堝1の底部から垂下するようにノズル5は、出湯したシリコン融液の飛散を防止する働きも有している。
【特許文献1】特開2003−247783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の構成によれば、溶融坩堝1は、内部に保持したシリコン原料を加熱溶融させてシリコン融液を形成させるので、シリコン融点近傍温度に達する。したがって、石英材のようにシリコン融点より低い温度で軟化する材質からなる溶融坩堝1を使用する場合には、溶融坩堝1を繰り返し使用するごとに底部が軟化変形し、下方へ垂れ込むという問題がある。通常、溶融坩堝1は再度使用されるので、低温、高温の熱サイクルを受けると、保持坩堝2が膨張し下部の開口部2aが開いた状態で溶融坩堝1が再度軟化し出湯口1a近傍が開口部2aから下方へ垂れ込むという現象が繰り返されるために、再利用を繰り返すうちに、保持坩堝2と溶融坩堝1とが相互に咬み込んでしまい、溶融坩堝1を交換する際には溶融坩堝1を破壊しなければ脱離できなくなることがあった。特に、溶融坩堝1にノズル5を設けた構成の場合、交換が困難になることが多かった。
【0011】
本発明はこのような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、製造時の熱サイクルによって溶融坩堝が軟化し、保持坩堝と咬み込んでしまうことによって坩堝が破損したり、溶融坩堝の交換が困難になってしまう問題点を解消した鋳造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に係る鋳造装置は、内部に保持したシリコン原料を加熱溶融させて形成したシリコン融液を、底部から出湯させるための出湯口を備えた、二酸化珪素を主成分とする材質から成る溶融坩堝と、前記溶融坩堝を外側から保持するとともに、前記溶融坩堝の出湯口の位置に、この出湯口よりも大きい開口部が設けられた保持坩堝と、前記溶融坩堝内の前記シリコン原料を加熱溶融させてシリコン融液とする加熱手段と、前記溶融坩堝から出湯したシリコン融液が注湯される位置に備えられた鋳型と、を具備して成る鋳造装置であって、前記保持坩堝の前記開口部の端縁部は、前記溶融坩堝に面した側に面取り部を有する。
【0013】
また、本発明の請求項2に係る鋳造装置は、請求項1に記載の鋳造装置において、前記溶融坩堝の外側には、前記出湯口を覆うようにノズルが垂下されて設けられるとともに、前記ノズルは、前記保持坩堝の前記開口部に対して、ノズル外周部と前記開口部の端縁部との間に所定のクリアランスを設けた状態で緩挿して成る。
【0014】
本発明の請求項3に係る鋳造装置は、請求項1又は請求項2に記載の鋳造装置において、前記面取り部はR面とした。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明の鋳造装置は、内部に保持したシリコン原料を加熱溶融させて形成したシリコン融液を、底部から出湯させるための出湯口を備えた、二酸化珪素を主成分とする材質から成る溶融坩堝と、前記溶融坩堝を外側から保持するとともに、前記溶融坩堝の出湯口の位置に、この出湯口よりも大きい開口部が設けられた保持坩堝と、前記溶融坩堝内の前記シリコン原料を加熱溶融させてシリコン融液とする加熱手段と、前記溶融坩堝から出湯したシリコン融液が注湯される位置に備えられた鋳型と、を具備して成る鋳造装置であって、前記保持坩堝の前記開口部の端縁部は、前記溶融坩堝に面した側に面取り部を有するようにした。したがって、溶融坩堝の使用に伴って温度サイクルが印加されて、二酸化珪素を主成分とする溶融坩堝が軟化し、保持坩堝に設けられた開口部から下方に垂れ込んでも、開口部の端縁に面取り部が存在しているため、溶融坩堝と保持坩堝との咬み込みを防ぐことができる。その結果、保持坩堝から溶融坩堝を脱離する際に、坩堝を破壊することを防止できるから、溶融坩堝の交換が簡単になり、さらに従来に比べて溶融坩堝の繰り返し使用回数を多くすることが可能となる。
【0016】
また、溶融坩堝の外側には、出湯口を覆うようにノズルが垂下されて設けられ、このノズルは、保持坩堝の開口部に対して、ノズル外周部と開口部の端縁部との間に所定のクリアランスを設けた状態で緩挿して成るようにすれば、溶融坩堝と保持坩堝とを組合せたり、溶融坩堝を交換したりする作業が極めて容易となる。また、ノズルを設けた場合、ノズルの重みにより出湯口付近の垂れ込みが大きくなるため溶融坩堝と保持坩堝との咬み込みが起こりやすくなるが、本発明における保持坩堝を用いることによって、咬み込みを効果的に抑制することができる。
【0017】
また、面取り部をR面とすることによって、温度サイクルが印加されたときの溶融坩堝と保持坩堝との咬み込みがより起こりにくくなり、溶融坩堝の脱着をさらに容易とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を添付図面に基づき詳細に説明する。図1は、本発明に係る鋳造装置の一実施形態を説明するための図である。図1において、1は溶融坩堝、1aは出湯口、2は保持坩堝、2aは開口部、2bは面取り部、3はシリコン融液、4は出湯口1aを塞ぐシリコン原料、5はノズル、6は側部加熱手段、7は上部加熱手段、8は鋳型加熱手段、9は鋳型を示す。
【0019】
溶融坩堝1は、シリコン原料を加熱溶融し、得られたシリコン融液3を鋳型9に注湯するものである。なお、シリコン融液は、鋳型9に注湯されて冷却、固化して多結晶シリコンのインゴットが製造され、さらに加工して、太陽電池用多結晶シリコン基板材料等に用いられる。
【0020】
溶融坩堝1は、投入されたシリコン原料を溶解するものであり、シリコン原料の融解温度以上の温度において、融解、蒸発、軟化、変形、分解等を生じず、半導体材料中心に不純物が拡散しないことを考慮して、高純度の石英等の二酸化珪素を主成分とする材質が用いられる。しかし二酸化珪素を主成分とする材質から成る溶融坩堝1は高温になると軟化して形を保てないため、高温でも変形しない材質であるグラファイト等からなる保持坩堝2により溶融坩堝1を外側から保持する。溶融坩堝1の寸法は、一度に溶解する溶解量(およそ1kg〜250kgの範囲)に応じたシリコン原料を内包できる寸法とする。
【0021】
溶融坩堝1の底部には、加熱溶融させたシリコン融液3を出湯させる出湯口1aが設けられている。また、溶融坩堝1の外側には、出湯口1aを覆うようにノズル5が垂下されて設けられている。さらに、溶融坩堝1を外側から保持する保持坩堝2の底部には、溶融坩堝1の出湯口1aの位置に対応して、この出湯口1aよりも大きい開口部2aが設けられている。さらに、溶融坩堝1と保持坩堝2とを組み立てた状態で、ノズル5がこの開口部2を貫くような位置関係となっているので、溶融坩堝1内で溶融させたシリコン融液3を保持坩堝2の外部へと出湯させることができる。なお、本発明は、この保持坩堝2の開口部2aの端縁部は、溶融坩堝1に面した側に面取り部2bを有しているが、詳細は後述する。
【0022】
なお、溶融坩堝1の底部に設けられる出湯口1a及びノズル5の位置は溶融坩堝1内の最低部であれば、図上の如何なる位置でも構わないが、溶融坩堝1内での水平方向の温度分布を考慮すれば坩堝の中心位置にあるのが望ましい。また、ノズル5は、石英等の耐熱性の材質から成り、保持坩堝2にぶつからない範囲で、熱によりノズル5の形状が変化しない程度の強度を持たせるために、肉厚を厚くすることが望ましい。また、ノズル5は垂直に垂下していてもいいし、下方に向かって先細な形状を有していてもよい。さらに、石英製の溶融坩堝1と一体に形成するようにしてもいいし、溶融坩堝1とは別に形成して、溶融坩堝1の底部に取り付けるようにしてもよい。
【0023】
また、出湯初期においては、出湯口1aを通過する融液は水位に依存する圧力によって押し出されるが、出湯後期には水位による圧力がほとんどなくなるために、自重による落下で出湯口1aから流れ出るようになる。したがって、無駄なく出湯させるためには、溶融坩堝1の底部は出湯口1aに向けてある一定以上の傾斜があるほうが好ましい。なお、溶融坩堝1の本体の形状は、上述の説明や図に限定されるものではない。
【0024】
また、溶融坩堝1内のシリコン原料を加熱溶融させてシリコン融液3とする加熱手段として、溶融坩堝1の側部と上部には抵抗加熱式のヒーターや誘導加熱式のコイル等から成る側部加熱手段6、上部加熱手段7が設けられている。
【0025】
なお、本構成では、出湯口を塞ぐシリコン原料4によりあらかじめ溶融坩堝1の出湯口1aが塞がれた状態としてから溶融坩堝1内にシリコン原料を保持するようにしている。そして、側部加熱手段6及び上部加熱手段7によって、溶融坩堝1内のシリコン原料を加熱溶融させることによって、シリコン原料は上部から下部へと徐々に溶解していき、最後に出湯口1aを塞ぐシリコン原料4が溶解して、シリコン融液3を出湯させる。このように出湯口を塞ぐシリコン原料4を設けることによって、溶融坩堝1内のシリコン原料が完全に溶解される前に出湯漏れが起こらないようにできる。
【0026】
また、シリコン融液を注湯する鋳型9は、溶融坩堝1から出湯したシリコン融液3が注湯される位置、通常は溶融坩堝1、保持坩堝2の下方に配置されている。そして、鋳型9は、石英等の二酸化珪素材や黒鉛等のカーボン材、又はセラミック材等の耐熱性を有する材質からなり、その内側には窒化珪素、炭化珪素、あるいは酸化珪素等を主成分とする離型材(図不示)が塗布されて用いられる。また、鋳型9の上部にはシリコン融液の凝固を制御するための鋳型加熱手段8が配置される。またこの鋳型9の周りには万一鋳型が破損した場合に鋳型から漏れ出したシリコン融液を受け止めるための鋳型受け容器(図不示)が設置されることもある。鋳型受け容器は、耐熱性等を考慮してグラファイト材等が一般に用いられる。また鋳型の下方には注湯されたシリコン融液を冷却、固化するため冷却板(図不示)を設置してもよい。なお、これらはすべて真空容器(図不示)内に配置される。
【0027】
次に、本発明に係る保持坩堝2の開口部2aの端縁部の形状についてさらに詳しく説明する。
【0028】
図1に示すように、保持坩堝2は、開口部2aの端縁部のうち、溶融坩堝1に面した側に面取り部2bを有している。二酸化珪素を主成分とする溶融坩堝1は、通常繰り返して使用されるので、高温−低温の温度サイクルが印加され、このサイクルの繰り返しとともに、溶融坩堝1の出湯口1a近傍が次第に、保持坩堝2の開口部2aから下方に垂れ込んでいく。しかしながら、本発明の構成では、保持坩堝2の開口部2aの端縁に面取り部2bが存在しているため、溶融坩堝1の出湯口1a近傍が、保持坩堝2の開口部2aから下方に向かって垂れ込む場合も、この面取り部2bに沿って緩やかに進行する。したがって、溶融坩堝1と保持坩堝2とが咬み込みにくく、保持坩堝2から溶融坩堝1を脱離させる際に、坩堝を破壊することを防止できるから、溶融坩堝1の交換が簡単になり、従来に比べて溶融坩堝1の繰り返し使用回数を多くすることが可能となる。なお、開口部2a近傍の保持坩堝2の厚みは、溶融坩堝1を保持できる厚みであればよく、例えば、18mm以上あればよい。
【0029】
なお、溶融坩堝1には必ずしもノズル5を設ける必要はないが、ノズルの重みにより出湯口1a付近の垂れ込みが大きくなるため溶融坩堝と保持坩堝との咬み込みが起こりやすくなるが、面取り部2bが設けられた保持坩堝2の開口部2aの端縁と咬み込みにくくなるので望ましい。また、ノズル5を設ける場合、保持坩堝2と溶融坩堝1及びノズル5とを脱着する作業をスムーズに行うため、保持坩堝2の開口部2aの端縁部とノズル5の外周との間には、3mm以上15mm以下のクリアランス10を設け、ノズル5を開口部2aに緩挿するようにすることが望ましい。この範囲よりも小さいと作業性が悪く、この範囲よりも大きいと保持坩堝2の底部の面積が減少して溶融坩堝1を安定して保持しづらくなるからである。
【0030】
また、面取り部2bは、C面でもよいが、R面とすることがより望ましい。温度サイクルが印加されたときに溶融坩堝1と保持坩堝2との咬み込みがより起こりにくくなり、溶融坩堝1の脱着をさらに容易とすることができるからである。R面の最適な大きさは、溶融坩堝1に垂下するノズル5の寸法や溶融坩堝1の重量により異なるが、例えば、石英製の溶融坩堝1及びノズル5において、ノズル5の長さが30mm以上ならば、R面の半径を5mm以上にすることによって、ノズル5の破損を防ぎ、使用回数をより多くすることが可能となる。さらに、R面の半径を20mm以上とすることがさらに望ましい。
【0031】
なお、本発明の実施形態は上述の例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることはもちろんである。
【0032】
例えば、出湯口1aを塞ぐシリコン原料4を加熱溶融するための加熱手段を別に設けても良い。このようにすることで、その他の部分の影響を考慮することなく、出湯口1aを塞ぐシリコン原料4を溶解させることが可能になるとともに、短時間で出湯口1aを塞ぐシリコン原料4を溶解させることができるようになるため、溶融坩堝1の中のシリコン融液3の出湯のタイミングを任意に図ることが可能になる。このように出湯口1a付近に加熱手段を設けることで、溶融坩堝1は、より軟化しやすくなるが本発明の効果により、保持坩堝2と溶融坩堝1との咬み込みを防止できる。
【0033】
なお、保持坩堝2の中に溶融坩堝1を挿入する際の作業をスムーズに行うために、溶融坩堝と保持坩堝の間にクリアランス10を設けているが、必ずしも設ける必要はなく、ノズル5と保持坩堝2が接触しても、保持坩堝2の開口部2aの所定位置に面取り部2bを設けることで、溶融坩堝1の損傷を抑制することができる。
【0034】
さらに、溶融坩堝1にノズル5を設けない場合でも、本発明は有効であり、坩堝の繰り返し使用により出湯口1aの近傍が軟化して下方へ垂れ込んだときに、保持坩堝2と溶融坩堝1との咬み込みを抑制できる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例によって説明する。図1に示す鋳造装置を用いて以下に示す実験を行った。
【0036】
まず、溶融坩堝1としては、底部に出湯口1aを有し、石英からなる溶融坩堝1をグラファイトからなる保持坩堝2で保持した。なお、溶融坩堝1の外側にはノズル5が設けられている。ノズル5は筒状で下方に向かって先細な形状であり、上端部から下端部までの直線距離を30mmとした。
【0037】
溶融坩堝1の出湯口1aは、あらかじめ出湯口を塞ぐシリコン原料4により塞がれた状態とし、溶融坩堝1内に100kgのシリコン原料を投入した。溶融坩堝1の上部に上部加熱手段7を設け、側部にはノズルより上方に側部加熱手段6を設置し、これらの加熱手段によって溶融坩堝1内のシリコン原料を溶解させた。
【0038】
その後、溶融坩堝1内のシリコン融液3の温度を上昇させ、出湯口を塞ぐシリコン原料4を溶解し、溶融坩堝1の下部に配設された鋳型9内にシリコン融液を注湯した。
【0039】
上記の操作を1サイクルとして、10サイクルの試験を行い、溶融坩堝1の出湯口1a近傍の損傷頻度を調べた。
【0040】
なお、調査条件としては、実施例として図1に示されるように、本発明に係る保持坩堝2の開口部2aの溶融坩堝1側を面取り部2bとした試料を準備した。なお、この面取り部2bは、C面−1種類、R面−4種類(Rの半径を変えたもの)の計5種類の試料とした。具体的には、R面の場合、半径を3〜20mmに変化させ、それぞれ本発明1〜4とした。また、C面の場合、面取り長さを5mmとし、本発明5とした。また、従来例として図2に示すように保持坩堝2の開口部2aの所定箇所を面取りしない従来の構造に係る保持坩堝2を用意した。
【0041】
以上の本発明、従来例の保持坩堝2を用いて調査した結果を表1に示す。なお、表1の「結果」欄は、溶融坩堝1の出湯口1a近傍の損傷頻度を示すものであり、以下のように分類される。
【0042】
○:損傷無く再度使用可能、△:損傷少しあるが再度使用可能、×:損傷あり、10回の鋳造不可
【表1】

【0043】
表1より、保持坩堝2の開口部2の所定位置に面取り部を設けていない従来例では、繰り返し鋳造を行うことによって、溶融坩堝1と保持坩堝2との咬み込みが発生し、溶融坩堝1の出湯口1a近傍が損傷し、10回の鋳造を行うことができなかった。
【0044】
これに対して、開口部2の所定位置に面取り部2bを設けた本発明に係る構造を有する保持坩堝2を用いた本発明1乃至5においては、いずれも10回の鋳造を行うことが可能であった。なお、面取り部2bをR面とした場合、R半径が3mmの本発明1では、若干の溶融坩堝1と保持坩堝2との咬み込みが見られたが再度使用可能であり、R半径が5mm〜20mmの本発明2、3、4ではいずれも溶融坩堝1と保持坩堝2との咬み込みは見られず、良好な結果であった。
【0045】
なお、面取り部2bをC面(面取り長さ5mm)とした本発明5では、若干の溶融坩堝1と保持坩堝2との咬み込みが見られたが再度使用可能であった。
【0046】
以上のように、実施例によって本発明の効果を確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の鋳造装置の一実施形態を示す断面概略図である。
【図2】従来の鋳造装置を示す断面概略図である。
【符号の説明】
【0048】
1・・・溶融坩堝
1a・・出湯口
2・・・保持坩堝
2a・・開口部
2b・・面取り部
3・・・シリコン融液
4・・・出湯口を塞ぐシリコン原料
5・・・ノズル
6・・・加熱手段である側部加熱手段
7・・・加熱手段である上部加熱手段
8・・・鋳型加熱手段
9・・・鋳型
10・・・クリアランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に保持したシリコン原料を加熱溶融させて形成したシリコン融液を、底部から出湯させるための出湯口を備えた、二酸化珪素を主成分とする材質から成る溶融坩堝と、
前記溶融坩堝を外側から保持するとともに、前記溶融坩堝の出湯口の位置に、この出湯口よりも大きい開口部が設けられた保持坩堝と、
前記溶融坩堝内の前記シリコン原料を加熱溶融させてシリコン融液とする加熱手段と、
前記溶融坩堝から出湯したシリコン融液が注湯される位置に備えられた鋳型と、を具備して成る鋳造装置であって、
前記保持坩堝の前記開口部の端縁部は、前記溶融坩堝に面した側に面取り部を有する鋳造装置。
【請求項2】
前記溶融坩堝の外側には、前記出湯口を覆うようにノズルが垂下されて設けられるとともに、前記ノズルは、前記保持坩堝の前記開口部に対して、ノズル外周部と前記開口部の端縁部との間に所定のクリアランスを設けた状態で緩挿して成る請求項1に記載の鋳造装置。
【請求項3】
前記面取り部はR面である請求項1又は請求項2に記載の鋳造装置。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−242418(P2006−242418A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−55733(P2005−55733)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】