説明

鋼棒の塗装装置及び塗装方法

【課題】簡単な構成で鋼棒の表面に均等にかつ薄く粉体塗料を塗装し得る鋼棒の塗装装置及び塗装方法を提供する。
【解決手段】鋼棒の塗装装置10は、鋼棒15を軸方向に搬送する搬送手段11と、鋼棒15を予熱する加熱手段12と、予熱した鋼棒15の表面に粉体塗料を帯電噴射する塗装手段20と、粉体塗料が帯電噴射された鋼棒15を水冷する冷却手段30と、を含み、塗装手段20が、鋼棒15の通路に入口及び出口を有するチャンバー21と、チャンバー21内で通路を包囲するように配置した環状の支持部材22と、支持部材22に設けた複数個の支持孔により通路の中心に向かって粉体塗料を噴射する複数個の噴射管と、各噴射管に粉体塗料を供給する塗料供給源と、を備えている。各噴射管が、通路の中心に関して周方向に分散配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼棒を粉体塗料により塗装するための装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築や土木の分野においては、近年、腐蝕環境下で構造物を建築施行や土木施工する状況が増えてきており、このような構造物の建築及び土木のために使用される鉄筋コンクリート高強度鋼材(これを「鋼棒」と総称する。)は、その表面に、エポキシ系粉末塗料を塗装したものが使用されている。
【0003】
このような鋼棒の表面へのエポキシ系粉末塗料の塗布においては、塗布膜の厚さをできるだけ薄くすると共に、鋼棒の曲げ等において付着性が損なわれないようにすることが重要である。このために、このような鋼棒の塗装装置及び塗装方法が種々工夫されている。例えば本出願人による特許文献1では、異形鉄筋を予熱し、その表面にエポキシ系粉体塗料を静電塗装する場合に、異形鉄筋を軸方向送りしつつ誘導加熱手段により所定予熱温度よりも10〜20℃高温に加熱のうえ、送り速度と異形形状とから定まる表面均熱までの所定時間後に異形鉄筋の表面へエポキシ系粉体塗料を静電噴射するようにし、次いで可及的に少数配置した送りローラと塗料被覆異形鉄筋表面との接触点に冷却水の細流を流すようにして搬送し、少なくとも粉体塗料硬化後に塗装鉄筋の表面を水冷するようにしたことを特徴とする、異形鉄筋の塗装方法が開示されている。
【0004】
これに対して、例えば特許文献2には、鋼管表面をブラスト処理等で清浄にしてクロム酸系の化成処理を行なった後に、鋼管表面を170〜210℃に予熱して粉状のエポキシ樹脂塗料を塗装し、鋼管表面に塗装したエポキシ樹脂がゲル化した後にエポキシ樹脂の熱分解温度未満の温度で後加熱することを特徴とする鋼管のエポキシ樹脂粉体塗装方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特公平06−016868号公報
【特許文献2】特開平04−180867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1による異形鉄筋の塗装方法及び装置においては、エポキシ系粉体塗料が、鋼棒に対してその中心軸に対して120度の等角度間隔で配置された三つの静電噴射ガンにより粉体塗料を噴射するようにしている。このため、特に異形鉄筋の場合には、その表面全体に均等な厚さで粉体塗料を付着させることが困難である。
【0007】
静電噴射ガンによる粉体塗料の噴射が大気中で行なわれるので、余分の粉体塗料が浮遊粒子として拡散し外部に散逸してしまう。このため、静電噴射ガンの周囲をチャンバーで覆ったとしても、チャンバーに設けられた鋼棒の出入り口から外部に散逸することになり、塗装に使用される粉体塗料の利用効率が低くなってしまう。
【0008】
さらに、鋼棒の表面が平均270℃程度まで加熱されているので、粉体塗料が鋼棒表面に付着する際に空気等の気泡を巻き込んで、ボイド等のピンホールを形成する原因となり、表面温度に起因する性状の不具合、例えば所謂ゆず肌を生ずることがある。
また、塗装膜と鋼材表面との界面での塗装膜の剥離は、加熱温度に依存する。即ち、加熱温度が低過ぎても高過ぎても塗装膜の良好な付着性が得られず、塗装から冷却開始までの時間が重要である。
【0009】
これに対して、特許文献2による鋼管のエポキシ樹脂粉体塗装方法においては、粉状のエポキシ樹脂塗料の塗装は、低温に加熱した鋼管の表面にエポキシ樹脂塗料を塗装して、エポキシ樹脂塗料をゲル化するようにしている。
しかしながら、エポキシ樹脂塗料の塗装の具体的な方法については言及されておらず、従来と同様に噴射ガンを使用しているものと推察される。このため、特に異形の鋼管を塗装する場合に、表面全体に均等な厚さで粉体塗料を付着させることは困難である。また、鋼管に対する塗布環境については言及されておらず、大気中で塗装が行なわれるものと推察される。従って、同様に粉体塗料の利用効率が低くなってしまう。
【0010】
本発明は上記課題に鑑み、簡単な構成により、鋼棒、特に異形鋼棒の表面に均等にかつ薄く粉体塗料を塗装するようにした鋼棒の塗装装置及び塗装方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、本発明の第一の構成によれば、鋼棒を軸方向に搬送する搬送手段と、搬送手段により搬送される鋼棒を予熱する加熱手段と、加熱手段により予熱された鋼棒の表面に粉体塗料を帯電噴射する塗装手段と、粉体塗料が帯電噴射された鋼棒を水冷する冷却手段と、を含んでいる鋼棒の塗装装置であって、塗装手段が、搬送手段により搬送される鋼棒の通路に入口及び出口を有するチャンバーと、チャンバー内で上記通路を包囲するように配置された環状の支持部材と、支持部材に設けられた複数個の支持孔に支持され通路の中心に向かって粉体塗料を噴射する複数個の噴射管と、各噴射管に粉体塗料を供給する塗料供給源と、を備えており、各噴射管が、通路の中心に関して周方向に分散配置されており、各噴射管から鋼棒の表面に対して均等に粉体塗料が付着するようにした鋼棒の塗装装置により達成される。
【0012】
上記構成によれば、チャンバー内で、鋼棒の通路の中心に関して周方向に分散配置された複数個の噴射管からそれぞれ鋼棒の通路の中心に向かって粉体塗料が噴射される。その際、各噴射管が、鋼棒の通路の周りに環状に配置された支持部材により支持されているので、鋼棒の表面全体に亘って均等に粉体塗料が付着する。従って、例えばふし付きあるいはリブ付きの異形鋼棒であっても、その表面全体に均等の厚さで塗装膜を形成することができる。
【0013】
本発明による鋼棒の塗装装置は、好ましくは、支持部材が、異なる直径を有する複数組の支持孔を有しており、鋼棒に対する塗布噴射量に基づいて選択された直径を有する噴射管が、対応する直径を有する支持孔に支持される。
上記構成によれば、所望の塗布噴射量で鋼棒の表面に対して粉体塗料を噴射することができる。これにより、所望の厚さで特により薄い塗装膜が形成される。
【0014】
本発明による鋼棒の塗装装置は、好ましくは、各組の支持孔が鋼棒の通路の中心に対して等角度間隔に分散配置された4個以上の貫通孔から構成されている。この構成によれば、鋼棒の表面の周方向に関してより均等の厚さで塗装膜が形成される。
【0015】
本発明による鋼棒の塗装装置は、好ましくは、各組の支持孔が鋼棒の通路に沿って間隔をあけて複数段に配置されている。この構成によれば、通路を所定速度で搬送される鋼棒に対して、各段でそれぞれ粉体塗料が噴射管から噴射されることで複数回塗装が行なわれることになり、より一層均等の厚さで塗装膜が形成される。
【0016】
本発明による鋼棒の塗装装置は、好ましくは、チャンバーが、その内部の支持部材の前側及び後側で鋼棒の通路を包囲する中空の保護管を備えている。この場合、通路を搬送される鋼棒が支持部材の領域付近を除いて保護管により覆われるので、各噴射管から噴射されてチャンバー内に浮遊する粉体塗料が鋼棒の上側の表面に堆積するのが保護管によって効果的に阻止される。従って、鋼棒の表面全体に亘ってより一層均等の厚さで塗装膜が形成される。
【0017】
上記目的は、本発明の第二の構成によれば、鋼棒を軸方向に搬送して、鋼棒を予熱する加熱段階と、予熱後に鋼棒の表面に粉体塗料を塗装手段により帯電噴射する塗装段階と、その後鋼棒を水冷する冷却段階と、を備えた鋼棒の塗装方法であって、塗装段階において、チャンバー内で通路を包囲するように配置された環状の支持部材に複数個の支持孔を設けると共に、該支持孔に通路の中心に向かってかつ周方向に等角度間隔に環状に複数個の噴射管を支持して鋼棒の表面に対して均等に粉体塗料を帯電噴射することを特徴とする鋼棒の塗装方法により達成される。
【0018】
本発明による鋼棒の塗装方法は、好ましくは、支持部材が、異なる直径を有する複数組の支持孔を有しており、塗装段階にて、鋼棒に対する塗布噴射量に基づいて選択された直径を有する噴射管を、対応する直径を有する支持孔に支持した状態で、各噴射管から鋼棒の表面に向かって粉体塗料を噴射する。
【0019】
好ましくは、塗装段階にて、鋼棒の通路の中心に対して等角度間隔に分散配置された4個以上の噴射管により鋼棒の表面に向かって粉体塗料を噴射する。この場合、鋼棒の通路に沿って間隔をあけて複数段に配置された噴射管により、搬送される鋼棒に対して複数回粉体塗料を噴射してもよい。好ましくは、塗装段階にて、チャンバー内の支持部材の前側及び後側で鋼棒の通路を包囲する中空の保護管により鋼棒表面への粉体塗料の余分な付着を阻止する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の鋼棒の塗装装置及び塗装方法によれば、簡単な構成により、鋼棒、特に異形鋼棒の表面に均等にかつ薄く粉体塗料を塗装することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面に示した実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明による鋼棒の塗装装置10の一実施形態の構成を示している。
図1において、鋼棒の塗装装置10は、搬送手段11と、加熱手段12と、塗装手段20と、冷却手段30と、から構成されている。
【0022】
搬送手段11は、図示の場合、搬送すべき鋼棒15を上下から挟み込んで、所定速度で回転駆動される複数対の駆動ローラ11aから構成されており、鋼棒15を通路Pに沿って軸方向に搬送する。これにより、例えば10mの定尺に切断された鋼棒15が連続的にまたは間欠的に所定速度、例えば33mm/秒で搬送される。
【0023】
加熱手段12は、図示の場合、通路P上で所定間隔に配置された二つの誘導加熱コイル12a,12bから構成されている。これらの誘導加熱コイル12a,12bは、それぞれ多巻されており、それぞれ図示しない所定の出力と所定の周波数から成る誘導加熱電源に接続されている。鋼棒15は、の上記搬送手段11により通路Pを所定速度で搬送されて加熱手段12の通過時に表面加熱され、所定の表面温度、即ち塗布すべき粉体塗料の分解温度以下の温度、例えば270℃程度の温度まで加熱される。
【0024】
図2は図1の塗装装置10における塗装手段20の構成を示す概略断面図、図3は図1の塗装装置10における塗装手段20の支持部材22を示す部分拡大斜視図で、図4は図3の支持部材22の断面図である。
図2〜図4に示すように、塗装手段20は、チャンバー21と、支持部材22と、噴射管23、塗料供給源24と、塗料回収装置25と、から構成されている。
【0025】
チャンバー21は内部が常圧雰囲気になっており、鋼棒15の通路P上にそれぞれ入口21a及び出口21bを備えている。これらの入口21a及び出口21bには、それぞれチャンバー21の中心に向かって通路Pに沿って支持部材22の手前まで延びる保護管21c,21dが設けられている。
【0026】
保護管21c,21dは、それぞれ内側を鋼棒15が通路Pを通過し得るように通路Pを包囲しており、入口21a及び出口21bに対して気密的に取り付けられている。さらに、チャンバー21の入口21aの手前(上流側)には、図1に示すように、受けローラ26が設けられている。受けローラ26は接地(アース)されている。
【0027】
受けローラ26は、その上方周面により搬送手段11によって加熱手段12を介して搬送されてくる鋼棒15を支持し回転することにより、鋼棒15をチャンバー21内に送り込む。
【0028】
支持部材22は、チャンバー21の内部の中心付近に配置され、鋼棒15の通路Pの中心軸と同心の中空円筒状に形成されている。支持部材22は、図3及び図4に示すように、支持棒22aによりチャンバー21に対して保持されている。
【0029】
支持部材22は、その周面に複数組、図示の場合、二組の支持孔22b,22cと、抜き孔22dと、を有している。一組の支持孔22bは、それぞれ同じ半径dを有しており、図4に示すように、中心軸Oに関して等角度間隔に、図示の場合、30度間隔で配置された12個の支持孔が、中心軸Oに沿って前後にずれて配置されている。即ち、支持孔22bは、鋼棒15の通路Pに対して前後にずれた二段に配置されている。
【0030】
他の組の支持孔22cは、中心軸Oに関して等角度間隔に配置されていると共に、上述した組の支持孔22bとは異なる直径を有している。
【0031】
これにより、各組の支持孔22b,22cはそれぞれ中心軸Oに関して規則性をもって配置されている。
【0032】
抜き孔22dは、支持部材22の支持孔22bのない領域に設けられており、支持部材22自体の重量を軽くすると共に、支持部材22への粉体塗料の付着量を低減するものである。
【0033】
噴射管23は、フッ素樹脂等からなる中空管状の噴射ガンとして構成されており、塗料は中空管状の管璧との摩擦によって帯電する。図示の場合には、噴射管23のそれぞれ先端が、通路Pの中心にほぼ垂直に向くように一つの組の支持孔22bに支持されている。
なお、粉体塗料の噴射流量に応じて、異なる直径を有する噴射管23が対応する直径の支持孔22cに支持されるようにしてもよい。各噴射管23は、図4に示すように、その他端が塗料供給源24に接続されている。
【0034】
これにより、各噴射管23は支持部材22の中心軸Oに関して規則性をもって配置されることになり、塗料供給源24から供給される粉体塗料を支持部材22の中心付近の通路Pに向かって均等に噴射する。
なお、各噴射管23の一端は、帯電噴射ガンとして構成されていてもよい。
【0035】
塗料供給源24は公知の構成であって、圧縮空気等を利用して例えばエポキシ系の粉体塗料を所定の例えば30g/分の流量で各噴射管23に対して供給する。
【0036】
塗料回収装置25は、チャンバー21の底部に配置されたスクリューコンベア25aと、チャンバー21の入口21a及び出口21bに設けられた押し込みノズル25b,25cと、チャンバー21の底部の吸引口21eから粉体塗料を吸引するサイクロン式回収装置25dと、サイクロン式回収装置25dから粉体塗料を吸引して双方の押し込みノズル25b,25cに供給するブロアー25eと、から構成されている。
【0037】
スクリューコンベア25aはモータ25fにより駆動され、チャンバー21の底部に堆積した粉体塗料を吸引口21eに導く。
【0038】
押し込みノズル25b,25cは、チャンバー21の入口21a及び出口21bから保護管21c,21d内に粉体塗料を吹き込むことにより、チャンバー21内に回収した粉体塗料を再供給すると共に、チャンバー21内から各保護管21c,21d内を通って外側に出ようとする粉体塗料をチャンバー21内に押し戻す。
【0039】
これにより、チャンバー21の入口21a及び出口21bからの粉体塗料の流出が防止されると共に、チャンバー21内における粉体塗料の流れが一定に保持される。
【0040】
サイクロン式回収装置25dは、チャンバー21内に堆積した粉体塗料を吸引口21eから吸引して回収する。ブロアー25eは、サイクロン式回収装置25d内に回収された粉体塗料の一部を各押し込みノズル25b,25cに供給する。なお、図示の場合、ブロアー25eにより供給される粉体塗料の一部は、サイクロン式回収装置25dに戻される。
【0041】
図5は図1の塗装装置10における冷却手段30の構成を示す概略断面図である。
図5に示すように、冷却手段30は、塗装手段20に隣接して、鋼棒15の通路Pに沿って配置された樋型の冷却槽31と、冷却槽31の上流側に配置された排水部32と、ドレーンパン33と、ドレーンパン33の一側に設けられた貯水槽34と、給水ポンプ35と、圧縮空気源36と、から構成されている。
【0042】
冷却槽31は密閉式に構成されており、鋼棒15の搬送方向の下流側に設けられた給水口31aを介して給水ポンプ35によって貯水槽34から給水されることで上流側に向かって水流が形成される。
【0043】
給水口31aの具体例について説明する。
図6は図5の冷却手段30の給水口31aの概略断面図であり、図7は図6の給水口31aのA−A方向に沿った平面図である。
図6及び7に示すように、給水口31aは円錐状冷却器38から構成されている。円錐状冷却器38において、鋼棒15の通路となる搬送軸線Pの上部及び下部には、それぞれ冷却水供給配管38aと給気口31dとが配設されている。
【0044】
円錐状冷却器38は、冷却槽31内で入口(上流)側から軸方向、つまり鋼棒15の搬送軸線Pに対して所定の角度の傾斜面を有している。この角度(θ)が好ましくは45〜75°である。複数の冷却水噴射孔Hが、円錐状冷却器38の傾斜面に対して直角となるように穿孔されている。この円錐状冷却器38の中心には、被冷却物である表面に樹脂を塗布した鋼棒15の直径に対応し、かつ、被冷却物を通過させる穴が設けられており、被冷却物の通路となる。このため、円錐状冷却器38は、表面に樹脂が塗布された鋼棒15の円周方向から冷却することができる。
これにより、円錐状冷却器38から冷却槽31内に噴射される水流Wは上流側に向かって進む。つまり、冷却水は鋼棒15の搬送方向に対して対向して流れる。
【0045】
冷却手段30で冷却される被冷却物は、加熱した鋼棒15の表面に樹脂を塗布したものであるので、被冷却物に直接冷却水を噴射して冷却した場合、剥離等の不具合を起こすことがあり得るので、冷却水を被冷却物の表面に沿って被冷却物の出口31c側から乱流とならずに整流として流して冷却することが好ましい。
【0046】
加熱した鋼棒15の表面に樹脂を塗布して冷却した場合、鋼棒15の表面に塗付した樹脂の剥離等の不具合が生起しないように、円錐状冷却器38の傾斜面の角度θを45〜75°としている。角度が45°未満では、冷却水が乱流となり易く樹脂の剥離が生じ好ましくない。逆に、角度が75°を越えると、冷却効果が低下するので好ましくない。また、円錐状冷却器38の傾斜面の角度は、被冷却物に対して60°以上70°以下の範囲がより好ましいことが分かった。
【0047】
冷却槽31は、その鋼棒15の通路P上に入口31b,出口31cを有している。ここで、冷却槽31の下流側の出口31cに隣接して給気口31dが設けられている。圧縮空気源36から送出される圧縮空気により、出口31cから鋼棒15と共に付着して漏れ出す冷却水を冷却槽31へ一部戻すと同時に、ドレーンパン33内に落とすことで、冷却槽31の出口31cからの冷却水の排出が阻止される。
【0048】
ここで、圧縮空気源36から給気口31dを介して冷却槽31へ圧縮空気を送出する目的は、鋼棒15に付着して漏れてくる冷却水を冷却槽31外部へ漏れないように、圧縮空気でドレーンパン33上に落とすことが主であり、漏れてくる冷却水の一部を出口31c方向へ戻ることも考慮している。このため、圧縮空気の流量や圧力は、冷却槽31内の水流が整流となるように、整流に影響の無い範囲とすることが好ましい。
【0049】
これらの操作により、冷却槽31内において、冷却水が水密、つまり満杯な状態で冷却槽31内を満たしている。鋼棒15は、軸方向の下流側から上流側に流れる乱流ではなく整流状態の冷却水で冷却されるので、鋼棒15の表面に塗布された被膜に影響を与えずに被膜された鋼棒15が冷却される。
【0050】
排水部32は、上方が開放した縦樋として構成されており、冷却槽31の入口31bから排出された冷却水を受けて、排水口32aからドレーンパン33内に排出する。ドレーンパン33は、冷却槽31全体の下方に配置されており、排水部32及び冷却槽31の出口31cから排出された冷却水を受けて、貯水槽34に導くように形成されている。
【0051】
貯水槽34には、冷却槽31に供給される冷却水が貯蔵されている。冷却水は、好ましくは例えばチラー等の図示しない冷却槽31用の冷却部により、その温度が例えば5℃に保持されている。
【0052】
本発明の実施形態による鋼棒の塗装装置10は以上のように構成されており、本発明による塗装方法に基づいて、以下のように動作する。
先ず、前処理された鋼棒15は、順次に搬送手段11により連続的または間欠的に通路Pを所定速度で搬送される。
【0053】
通路Pを搬送される鋼棒15は加熱手段12内に導かれ、二つの誘導加熱コイル12a,12bにより表面加熱されて所定の表面温度に予熱される。
続いて、鋼棒15は、受けローラ26を介して塗装手段20のチャンバー21の入口21aから保護管21cを通ってチャンバー21内に導入される。
【0054】
チャンバー21内で、鋼棒15は、所定速度で通過する際に保護管21c,21dの間の区間だけチャンバー21内に露出して、環状の支持部材22により支持された複数個の噴射管23から粉体塗料が噴射されることで塗装される。その際、鋼棒15の上面へのチャンバー21内に浮遊する粉体塗料の堆積が、保護管21c,21dにより阻止される。従って、複数個の噴射管23が環状に規則的に配置されていることと相まって、鋼棒15は、その表面全体に亘って均等の厚さで塗装膜が形成されることができる。
【0055】
さらに、噴射管23の内径及び個数そして塗布すべき粉体塗料の流量が適宜に選定されることにより、塗装膜ができるだけ薄く形成される。
その後、下流側に搬送される鋼棒15は、塗装手段20のチャンバー21の保護管21dを通って出口21bから搬出される。
【0056】
次に、塗装手段20から下流側に搬送される鋼棒15は、冷却手段30の排水部32から冷却槽31内に進入し、冷却槽31内で冷却水中に浸漬されることで冷却される。
その後、下流側に搬送される鋼棒15は、冷却槽31の出口31cから搬出される。
【0057】
冷却槽31から入口31bと鋼棒15の間の間隙を通って排水部32内に排水された冷却水は、ドレーンパン33を通って貯水槽34に戻され、冷却された後、給水ポンプ35により再び給水口31aから冷却槽31内に循環される。
【0058】
また、冷却槽31の出口31cでは、冷却槽31内に向かって給気口31dから圧縮空気が給気されているので、出口31cと鋼棒15との間の間隙から排出されようとする冷却水がこの圧縮空気により押し戻される。従って、冷却槽31の出口31cからの冷却水の洩れは生じない。
【0059】
このようにして、搬送手段11により搬送される鋼棒15は、受けローラ26を介して塗装手段20のチャンバー21内に導入された後は、その表面が何にも触れることなく冷却手段30により冷却され、粉体塗料による塗装膜が硬化される。従って、冷却手段30から排出された鋼棒15は、図示しない第二の搬送手段により搬送されても、塗装膜が傷ついたり鋼棒15の表面から剥がれてしまったりすることはない。
【0060】
ところで、塗装手段20のチャンバー21内に浮遊する粉体塗料は、重力により落下してチャンバー21の底部に堆積する。チャンバー21の底部に堆積した粉体塗料は、スクリューコンベア25aにより吸引口21eに導かれる。その際、チャンバー21の底部に堆積した粉体塗料が固まったとしても、スクリューコンベア25aの駆動により固まった粉体塗料が崩れて容易に吸引口21eに導かれることになる。
そして、吸引口21eに導かれた粉体塗料は、サイクロン式回収装置25dにより吸引される。
【0061】
サイクロン式回収装置25dに吸引され回収された粉体塗料は、その一部がブロアー25eにより押し込みノズル25b,25cからチャンバー21の入口21a及び出口21bに設けられた保護管21c,21d内に噴射される。
これにより、回収された粉体塗料が再びチャンバー21内に供給されると共に、チャンバー21内から保護管21c,21dを通ってチャンバー21から外部に出ようとする粉体塗料がチャンバー21内に押し戻される。従って、チャンバー21内に浮遊する粉体塗料は、保護管21c,21dが存在することもあって、入口21a,出口21bからチャンバー21の外側に漏出しない。
【0062】
このようにして、塗料回収装置25によって、チャンバー21内で堆積した粉体粒子が回収され、再びチャンバー21内に供給されると共に、チャンバー21内に浮遊する粉体塗料がチャンバー21の外側に出ないので、粉体塗料の利用効率が向上し、かつ周囲に対する粉体塗料の飛散が確実に防止される。
【0063】
本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施することができる。
例えば、上述した実施形態においては、鋼棒15の予熱は、二つの誘導加熱コイル12a,12bを備えた加熱手段12により行なわれているが、これに限らず、他の任意の形式の加熱手段12が使用されてもよいことは明らかである。
【0064】
上述した実施形態においては、塗装手段20が塗料回収装置25を備えているが、これに限らず、塗料回収装置25は省略されてもよい。
【0065】
さらに、上述した実施形態においては、塗装後の鋼棒15を冷却するために、冷却手段30が備えられているが、これに限らず、鋼棒15を冷却することができれば任意の構成の冷却手段30を使用することも可能である。
【実施例】
【0066】
以下、本発明による鋼棒の塗装装置10の具体的な実施例について詳細に説明する。
鋼棒の塗装装置10を使用し、鋼棒15にエポキシ樹脂からなる粉体塗料(大日本塗料社製)を塗装した。鋼棒15としては、平均外径32mmの異形鉄筋(ネジボン(高周波熱錬株式会社の登録商標)、D32)を用いた。塗装前の前処理として、鋼棒15にはショットブラスト等による表面清浄化を施した。鋼棒15の送り速度を30mm/秒とした。周波数が25kHzで出力が22kWの誘導加熱装置を加熱手段12として用い、鋼棒15を200〜250℃に加熱した。鋼棒15の熱処理状態の一例を示すと、鋼棒15のチャンバー21の入口21aの表面温度は240℃であり、チャンバー21の出口21bの温度は235℃であり、その後で鋼棒15を冷却槽31において水温5℃の冷却水で冷却し、45℃とした。
なお、上記実験例において、塗工後の鋼棒15にピンホールは認められなかった。
【0067】
(比較例)
実施例に対する比較例として、保護管21c、21dを設置しないチャンバー21を使用し、他は同じ条件によってエポキシ塗料を鋼棒15に塗装した。
【0068】
表1に、実施例及び比較例のエポキシ塗料の塗膜厚さ(μm)を測定した結果を示す。塗膜の厚さは電磁式厚膜計(ケット科学研究所社製、LE−300J)で測定した。
【表1】

【0069】
表1の測定値は、実施例及び比較例の鋼棒15の平滑部、節の低部(節底と呼ぶ)、節の頂部(節頂と呼ぶ)における塗膜の厚さを示している。実施例の場合は、鋼棒15を4本測定した場合の塗膜厚さとその平均値を示し、比較例の場合は、鋼棒15が3本について測定した塗膜厚さとその平均値を示している。
【0070】
実施例の鋼棒15の場合、平滑部上面の塗膜厚さは275μm,298μm,304μm,290μmで、平均厚さは292μmであった。平滑部下面の塗膜厚さは304μm,296μm,309μm,281μmで、平均厚さは298μmであった。節底の塗膜厚さは260μm,271μm,276μm,266μmで、平均厚さは268μmであった。節頂の塗膜厚さは268μm,258μm,242μm,284μmで、平均厚さは263μmであった。
【0071】
比較例の鋼棒15の場合、平滑部の塗膜厚さは345μm,346μm,313μmで、平均厚さは334μmであった。節底の塗膜厚さは268μm,278μm,293μmで、平均厚さは280μmであった。節頂の塗膜厚さは407μm,422μm,435μmで、平均厚さは421μmであった。
【0072】
表1から明らかなように、実施例の鋼棒15の塗膜における平滑部の上面及び下面の塗膜厚さは、それぞれ、292μm,298μmであり、殆ど差がないことが分かる。さらに、実施例の鋼棒15の平滑部における上面及び下面の塗膜厚さは、比較例の場合よりも約30μm薄くなっていることが分かる。実施例の鋼棒15では、節底と節頂の塗膜を平均厚さで比較した場合、差が5μm程度である。
一方、比較例の場合、節底と節頂の塗膜を平均厚さで比較した場合、差が140μm程度と非常に大きいことが分かる。これから、実施例の鋼棒15の塗膜は、比較例の場合よりも塗膜が薄く、かつ、より均一に塗付されていることが判明した。
【0073】
実施例の鋼棒15の塗工には、保護管21c、21dを設置したチャンバー21を使用しており、塗工に保護管21c、21dを設置しない比較例と比較すると、粉体塗料が鋼棒15の表面全体に亘ってより一層均等の厚さとすることができた。保護管21c、21dをチャンバー21内に設けることによって、塗膜の厚さを均等にできることが分かる。
【0074】
実施例の塗工した鋼棒15を、土木学会基準「エポキシ樹脂塗装鉄筋の曲げ試験方法(JSCE−E515−2003)」によって曲げ試験を実施した。
曲げ試験条件を以下に示す。
曲げ試験条件
試験本数 :各水準 6本(加熱温度200℃、240℃)
曲げ内半径:3D、4D(ここで、Dは鋼棒15の直径であり、試験では32mmである。)
曲げ角度 :90°
試験温度 :室温
【0075】
曲げ試験における割れ発生率は、下記(1)式で求めた。
P=A/N×100(%) (1)
ここで、Pは割れ発生率(%)、Aは割れの発生した供試体数、Nは全供試体測定数である。
【0076】
曲げ試験において、曲げ内半径による差は見られなかった。鋼棒15の加熱温度を200℃とした場合、1〜2mm以下のクラックが33%発生した。鋼棒15の加熱温度が240℃の場合、割れは0%、発生しなかった。
【0077】
以上述べたように、本発明によれば、簡単な構成により鋼棒15、特に異形鋼棒15の表面に均等にかつ薄く粉体塗料を塗装するようにした、極めて優れた鋼棒の塗装装置10及び塗装方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明による鋼棒の塗装装置の一実施形態の全体構成を示す概略図である。
【図2】図1の塗装装置における塗装手段の構成を示す概略断面図である。
【図3】図1の塗装装置における塗装手段の支持部材を示す部分拡大斜視図である。
【図4】図3の支持部材の断面図である。
【図5】図1の塗装装置における冷却手段の構成を示す概略断面図である。
【図6】図5の冷却手段の給水口の概略断面図である。
【図7】図6の給水口のA−A方向に沿った平面図である。
【符号の説明】
【0079】
10:鋼棒の塗装装置
11:搬送手段
11a:駆動ローラ
12:加熱手段
12a,12b:誘導加熱コイル
15:鋼棒
20:塗装手段
21:チャンバー
21a:入口
21b:出口
21c,21d:保護管
21e:吸引口
22:支持部材
22a:支持棒
22b,22c:支持孔
22d:抜き孔
23:噴射管
24:塗料供給源
25:塗料回収装置
25a:スクリューコンベア
25b,25c:押し込みノズル
25d:サイクロン式回収装置
25e:ブロアー
25f:モータ
26:受けローラ
30:冷却手段
31:冷却槽
31a:給水口
31b:入口
31c:出口
31d:給気口
32:排水部
32a:排水口
33:ドレーンパン
34:貯水槽
35:給水ポンプ
36:圧縮空気源
38:円錐状冷却器
38a:冷却水供給配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼棒を軸方向に搬送する搬送手段と、搬送手段により搬送される鋼棒を予熱する加熱手段と、加熱手段により予熱された鋼棒の表面に粉体塗料を帯電噴射する塗装手段と、粉体塗料が帯電噴射された鋼棒を水冷する冷却手段と、を含む鋼棒の塗装装置であって、
上記塗装手段が、上記搬送手段により搬送される鋼棒の通路に入口及び出口を有するチャンバーと、上記チャンバー内で上記通路を包囲するように配置された環状の支持部材と、支持部材に設けられた複数個の支持孔に支持され上記通路の中心に向かって粉体塗料を噴射する複数個の噴射管と、各噴射管に粉体塗料を供給する塗料供給源と、を備えており、
上記各噴射管が、上記通路の中心に関して周方向に分散配置されており、各噴射管から上記鋼棒の表面に対して均等に粉体塗料が付着することを特徴とする、鋼棒の塗装装置。
【請求項2】
前記支持部材が、異なる直径を有する複数組の支持孔を有しており、
前記鋼棒に対する塗布噴射量に基づいて選択された直径を有する噴射管が、対応する直径を有する支持孔に支持されることを特徴とする、請求項1に記載の鋼棒の塗装装置。
【請求項3】
前記各組の支持孔が、前記鋼棒の通路の中心に対して等角度間隔に分散配置された4個以上の貫通孔から構成されていることを特徴とする、請求項2に記載の鋼棒の塗装装置。
【請求項4】
前記各組の支持孔が、前記鋼棒の通路に沿って間隔をあけて複数段に配置されていることを特徴とする、請求項2または3に記載の鋼棒の塗装装置。
【請求項5】
前記チャンバーが、その内部の前記支持部材の前側及び後側で、前記鋼棒の通路を包囲する中空の保護管を備えていることを特徴とする、請求項1から4の何れかに記載の鋼棒の塗装装置。
【請求項6】
鋼棒を軸方向に搬送して、該鋼棒を予熱する加熱段階と、予熱後に該鋼棒の表面に粉体塗料を塗装手段により帯電噴射する塗装段階と、その後上記鋼棒を水冷する冷却段階と、を備えた鋼棒の塗装方法であって、
上記塗装段階において、チャンバー内で上記通路を包囲するように配置された環状の支持部材に設けた複数個の支持孔を介して上記通路の中心に向かってかつ周方向に等角度間隔に環状に支持された複数個の噴射管により、上記鋼棒の表面に対して均等に粉体塗料を帯電噴射することを特徴とする、鋼棒の塗装方法。
【請求項7】
前記支持部材が、異なる直径を有する複数組の支持孔を有しており、
前記塗装段階にて、前記鋼棒に対する塗布噴射量に基づいて選択された直径を有する噴射管を、対応する直径を有する支持孔に支持した状態で、各噴射管から前記鋼棒の表面に向かって粉体塗料を噴射することを特徴とする、請求項6に記載の鋼棒の塗装方法。
【請求項8】
前記塗装段階にて、前記鋼棒の通路の中心に対して等角度間隔に分散配置された4個以上の噴射管により前記鋼棒の表面に向かって粉体塗料を噴射することを特徴とする、請求項7に記載の鋼棒の塗装方法。
【請求項9】
前記塗装段階にて、搬送される鋼棒に対して、該鋼棒の通路に沿って間隔をあけて複数段に配置された噴射管により複数回粉体塗料を噴射することを特徴とする、請求項7または8に記載の鋼棒の塗装方法。
【請求項10】
前記塗装段階にて、前記チャンバー内の前記支持部材の前側及び後側で、前記鋼棒の通路を包囲する中空の保護管により鋼棒表面への粉体塗料の付着を阻止することを特徴とする、請求項6から9の何れかに記載の鋼棒の塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−5534(P2010−5534A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167985(P2008−167985)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(390029089)高周波熱錬株式会社 (288)
【Fターム(参考)】