説明

鋼管用ねじ継手

【課題】グリーンドープさらにはノンドープ下でも十分な耐漏れ性と耐焼付き性を発揮する油井管用ねじ継手を提供する。
【解決手段】ねじ部(1a、2a)とねじ無し金属接触部(1b、2b)とを有する接触表面をそれぞれ備えたピン1とボックス2で構成され、ピン1とボックス2の少なくとも一方の接触表面に、Sn−Bi合金めっき又はCu−Sn−Bi合金めっきを形成した鋼管用ねじ継手。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐焼付き性を向上させた鋼管用ねじ継手に関する。
【背景技術】
【0002】
油田や天然ガス田にて使用する油井管は、その全長が長いものは数千メートルにもなる。この長い油井管は、十数メートルのピンと呼ばれる単位長の炭素鋼、ステンレス鋼、高合金製の鋼管同士を、短いボックスと呼ばれる筒状ねじ継手を使用して多数本継ぎ足して構成される。
【0003】
図9はピン1とボックス2のそれぞれの一端部を断面で示したもので、ピン1の端部外周面に形成された雄ねじ部1aを、ボックス2の端部内周面に形成された雄ねじ部2aに螺合させて両者を結合する。油井管は定期的な検査等のために時々引き上げられて、ピン1がボックス2から外されるため、雄ねじ1aと雌ねじ2aの各摺接面や、ピン1の先端のシール部(ねじ無し金属接触部)1bとこの先端シール部1bが突き当て当接するボックス側のシール部(ねじ無し金属接触部)2bは、強い摩擦を繰返し受けることになる。ピン21とボックス2は何度も締付けと締戻しを繰返すため、十分な耐久性がないと、前記シール部1b、2bやねじ部1a、2aで、シール不良(耐漏れ性能不良)やゴーリング(焼付き)といった問題が起こる(特許文献1参照)。
【0004】
従って、油井管用ねじ継手の機能としては、a)接続された管の自重による軸方向の引張り力に耐えることは勿論のこと、b)内外の流体の圧力に耐えることと共に、c)ケーシング(大径サイズ)では4回以上、チュービンク゛(小径サイズ)では10回以上の繰返し使用によっても良好な耐漏れ性ないし耐焼付き性を維持することが要求される。特に、近年では油井の深さが益々深くなる傾向にあり、また極地等の過酷な環境での使用頻度が増し、要求される品質は益々厳しくなってきている。
【特許文献1】特開2003−74763号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来は特公平1−12995等で提案されているように、ねじ部1a、2aに銅めっきを施したり、あるいは燐酸塩処理等の表面処理を施すと共に、さらに耐焼付き性を向上させるために締結(メークアップ)時にピン1またはボックス2の継手界面にドープと呼ばれるPbなどの重金属入りのコンパウンドグリスを塗布することが行われてきた。
【0006】
しかし、世界的な環境汚染防止が緊急の課題となりつつある昨今では、Pb入りのドープは使用が制限されつつある。Pb,ZN,CU等の重金属を含有させないドープ(グリーンドープと呼称)も開発、使用されつつあるが、性能不足のため継手の材質によっては焼付きの発生を防止できないという問題がある。
【0007】
耐漏れ性と耐焼付き性を向上させる他の方法として、1)フッ素樹脂の粉末をめっき層に分散混合する方法、2)スパッタリングにより潤滑性保護皮膜を形成する方法、3)コンパウンドグリスの代わりに固体潤滑皮膜を用いる方法等が提案されているが、どれも十分な耐漏れ性ないし耐焼付き性能を得るには至っていない。
【0008】
本発明は、グリーンドープさらにはノンドープ下でも十分な耐漏れ性と耐焼付き性を発揮する油井管用ねじ継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、請求項1の発明は、ねじ部とねじ無し金属接触部とを有する接触表面をそれぞれ備えたピンとボックスで構成され、ピンとボックスの少なくとも一方の接触表面に、Sn−Bi合金めっきを形成したものである。
【0010】
Bi(ビスマス)は低摩擦特性を有する材料として知られるが、Sn(錫)ペストといわれるSnの低温脆性を改善する効果があることやSnとBiの合金めっきとすることで鋼管締結時の耐焼付き性を大幅に向上する効果があることが本発明者らによって初めて見出された。Biの低温脆性改善効果によりSn−Bi合金は低温でもSnがα変態により粉末化することがない(ペストガード効果)。
【0011】
請求項2の発明は、ねじ部とねじ無し金属接触部とを有する接触表面をそれぞれ備えたピンとボックスで構成され、ピンとボックスの少なくとも一方の接触表面に、Cu−Sn−Bi合金めっきを形成したものである。
【0012】
Sn−Cu−Bi合金はSn−Bi合金に比べてやや硬いが、Cuを加えることにより、ペストガード効果の他に耐摩耗性が高まるという利点が得られる。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、Sn−Bi合金めっき又はCu−Sn−Bi合金めっきの下層に、Snめっき、Cuめっき又はNiめっきを形成したものである。
【0014】
特に、ステンレス鋼や高合金製油井管では、母材表面にSn−Bi合金めっき又はCu−Sn−Bi合金めっきを直接形成することは結合力が弱いため難しいことがある。Sn−Bi合金めっき又はCu−Sn−Bi合金めっきをそのような材料に直接めっきしても、簡単に剥離してしまうことがある。そこで、母材と該合金めっきとの間に、Snめっき、Cuめっき又はNiめっきを形成すると、これを媒介として、Sn−Bi合金めっき又はCu−Sn−Bi合金めっきの安定性が向上する。
【0015】
請求項4の発明は、請求項1から3の発明において、合金めっきの表面に、潤滑被膜を形成したものである。
これにより、耐焼付き性が更に一層向上する。
【0016】
請求項5の発明は、請求項4の発明において、潤滑被膜を、粘稠液体又は半固体の潤滑被膜としたものである。
【0017】
請求項6の発明は、請求項4の発明において、潤滑被膜を、固体潤滑被膜としたものである。
【0018】
請求項7の発明は、請求項4の発明において、潤滑被膜を、下層の固体潤滑被膜と、上層の粘稠液体又は半固体の潤滑被膜としたものである。
【0019】
請求項8の発明は、請求項6又は7の発明において、固体潤滑被膜が、固体粉末含有するものである。
【0020】
固体粉末としては潤滑効果を発揮する公知の物質であれば特に限定されるものではないが、黒鉛、MoS2(二硫化モリブデン)、WS2(二硫化タングステン)、BN(ボロンナイトライト)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、CF(フッ化炭素)、CaCO3(炭酸カルシウム)などが好ましい。とりわけ黒鉛、MoS2がより好ましい。つまり、面内結合強度が高く面間結合強度が弱いので面間剥離を生じやすく、耐焼付き性の向上に好都合である。固体粉末とエポキシ樹脂等のバインダとを混合分散し、塗布し、被膜化する。好ましくは、約150℃〜250℃の温度で焼成する。
【0021】
油井管の締付け(メイクアップ)および締戻し(ブレークアウト)を繰り返すと、固体粉末がSn−Bi合金めっき又はCu−Sn−Bi合金めっきに押し込まれる。この押し込まれる量は、面圧やメイクアップおよびブレークアウトの回数に比例して多くなる。固体潤滑被膜を母材表面に直接焼付けた場合は、メイクアップおよびブレークアウトの際に、母材が硬すぎて固体粉末が母材に押し込まれずに剥離脱落する。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る鋼管用ねじ継手を用いると、グリーンドープを使用しても、あるいはノンドープであっても、従来より耐漏れ性が良好で、且つ焼付き発生を有効に抑制することができる。しかし、環境面からは重金属を含有しないド−プを使用するのが好ましく。本発明に係るめっきであればそのようなド−プを使用しても十分な耐漏れ性と耐焼付き性を発揮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明中、各めっきは電気めっきその他の方法により形成するものとする。図1は、油井管用ねじ継手のピン又はボックスの母材5の表面に、Sn−Bi合金めっき又はCu−Sn−Bi合金めっき6を単層で形成したものである。母材は、例えばステンレスに通常のニッケルストライク下地処理を施したものである。めっき6の厚みは、通常、3〜30μmが好ましい。
【0024】
Sn−Bi合金めっき層の形成には、例えば、アルカリめっき方法や酸性めっき方法を採用することができる。これらめっき方法でSnにBiを添加することにより、Sn層6の場合に比べて被膜硬度が大幅に増大する。例えば0.5〜10%のBiをSnに共析させることにより、被膜硬度は、純Sn(Hv8〜10)に比べ2〜3倍に増大する。
【0025】
アルカリめっき方法のめっき条件は、例えば、Sn酸カリ:100〜110(g/L)、苛性カリ:35〜60(g/L)、Bi:0.5〜1.5(g/L)、浴温度:75〜85(℃)、電流密度:0.5〜3(A/dm2)である。
【0026】
また、酸性めっき方法のめっき条件は、Sn−Bi合金めっきについては、例えば、有機酸:130(g/L)、Sn金属:10(g/L)、Bi金属:3(g/L)、浴温度:30〜40(℃)、電流密度:0.3〜3.5(A/dm2)である。
同じく、Cu−Sn−Bi合金めっきについては、めっき条件は、例えば、有機酸:130〜180(g/L)、Cu金属:1(g/L)、Sn金属:15(g/L)、Bi金属:1.5(g/L)、浴温度:15〜30(℃)、電流密度:0.5〜3.5(A/dm2)である。
【0027】
図2は、母材5の表面に、Snめっき、Cuめっき又はNiめっき7を形成し、このめっき7の上に、Sn−Bi合金めっき又はCu−Sn−Bi合金めっき6を形成したものである。
【0028】
Snめっき6の形成には、例えば、ホウフッ化第一スズを200g/L,ホウフッ化水素酸を125g/L,ホウ酸を25g/L,ゼラチンを2g/L,ベータナフトールを1g/Lとして脱イオン水に溶解した水溶液をめっき浴とし、浴温20〜25℃、電流密度1〜5A/dm2でめっきを行い、必要膜厚を確保する。Snめっきではこのホウフッ化浴が一般的であるが、廃水処理のし易さを考慮して市販の有機スルフォン酸ベースのSnめっき浴を利用してもよい。
【0029】
図3は、図1又は図2において、Sn−Bi合金めっき又はCu−Sn−Bi合金めっき6の上を、潤滑被膜8で覆ったものである。潤滑被膜としては、例えば、特開2001−65751号公報、特開2002−221288号公報、特開2002−327875号公報、特開2002−348587号公報等に記載の固体潤滑被膜、特開2002−173692号公報、特開2004−53013号公報等に記載の粘稠液体または半固体状被膜を使用することができる。
【0030】
図4は、図3において、潤滑被膜8を上下二層としたもので、固体潤滑被膜8aを下層に形成し、粘稠液体又は半固体の潤滑被膜8bを上層に形成したものである。
【0031】
図5は、母材5の表面に、Sn−Bi合金めっき又はCu−Sn−Bi合金めっき6を形成し、その上に、MoS2含有固体潤滑層8a1を形成したものである。MoS2含有固体潤滑層8a1は焼付けにより形成する。各層の厚みは、通常、めっき6が3〜30μm厚、MoS2含有固体潤滑層8a1が5〜30μm厚程度であり、全体として10〜45μm厚が好ましい。
【0032】
図6は、母材5の表面に、Sn−Bi合金めっき又はCu−Sn−Bi合金めっき6を形成し、その上に、黒鉛含有固体潤滑層8a2を形成したものである。黒鉛含有固体潤滑層8a2は焼付けにより形成する。各層の厚みは、通常、めっき6が3〜30μm厚、黒鉛含有固体潤滑層8a2が5〜30μm厚程度であり、全体として10〜45μm厚が好ましい。
【0033】
MoS2含有固体潤滑層8a1や黒鉛含有固体潤滑層8a2の焼付けは、MoS2や黒鉛の微粒粉末をエポキシ樹脂に混練し、これをめっき6の上に塗布した後、約150℃〜250℃の温度で焼成する。図5および図6において、母材5とめっき6との間に、Cuストライクめっき層を1〜2μm厚で施しておくとよい。これにより、MoS2含有固体潤滑層8a1や黒鉛含有固体潤滑層8a2を150〜250℃に加熱する際の熱で、めっき6と、母材5との間に、緩やかな濃度カーブのCu−Sn金属間化合物層を約1μm厚で形成することができ、両者の密着強度を向上させることができる。
【0034】
めっき6をねじ継手の表面、すなわち、図9の継手の雄ねじ部1a、雌ねじ部2a及びメタル−メタルシール部(ねじ無し金属接触部)1b、2bの表面に形成するには、電気めっきの他に、無電解めっきや気相めっき等によっても形成することができる。ただし、電気めっきが効率的且つ経済的であるので好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、表1〜3に示すように、本発明の実施例を比較例と共に挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【表1】

【表2】

【表3】

【0036】
図9に示す雄ねじ1a及びメタル−メタルシール部1bを一端に設けた外径244.5mm,肉厚13.84mmで長さ1200mmの継目無鋼管からなるピン1を多数本製造した。一方、このピン1を挿入し接続するために、内面の両端に図9に示すような雌ねじ2a及びメタル−メタルシール部2bを設けたボックス2も多数製造した。そして、このボックス2の内面上に前記した手法で本発明に係るめっきを施し、その上に潤滑被膜を形成した後、表面をグラスビーズでブラストした前記ピン1で締結する試験を行った。なお、ピン1及びボックス2は、いずれもCr13質量%―Ni―Moを含有する鋼種である。
【0037】
試験は、常温で、49351.8N・m(36400ft・lbs)のトルクで締付け、さらに取り外した後、潤滑被膜を溶剤洗浄により除去して焼付きの発生状況を目視観察することにより行った。この作業を10回まで繰り返し、焼付きが初めて発生する回数を試験結果とした。
【0038】
(実施例1)ボックスの内周(雌ねじ及びメタル−メタルシールネジ部)を対象として、Sn−Bi合金めっきを15μm厚で形成してグリ−ンド−プを塗布して、前記焼付き試験に供した。その結果、8回まで焼付きを起こすことなく、締付け・締戻しを行うことができた。
【0039】
(実施例2)ボックスの内周(雌ねじ及びメタル−メタルシールネジ部)を対象として、Snめっきを5μm厚で形成し、さらにその上にSn−Bi合金めっきを12μm厚で形成してグリ−ンド−プを塗布して、前記焼付き試験に供した。その結果、10回まで焼付きを起こすことなく、締付け・締戻しを行うことができた。
【0040】
(実施例3)ボックスの内周(雌ねじ及びメタル−メタルシールネジ部)を対象として、Cuめっきを3μm厚で形成し、さらにその上にSn−Bi合金めっきを14μm厚で形成してグリ−ンド−プを塗布して、前記焼付き試験に供した。その結果、10回まで焼付きを起こすことなく、締付け・締戻しを行うことができた。
【0041】
(実施例4)ボックスの内周(雌ねじ及びメタル−メタルシールネジ部)を対象として、Niめっきを1μm厚で形成し、さらにその上にSn−Bi合金めっきを25μm厚で形成してグリ−ンド−プを塗布して、前記焼付き試験に供した。その結果、10回まで焼付きを起こすことなく、締付け・締戻しを行うことができた。
【0042】
(実施例5)ボックスの内周(雌ねじ及びメタル−メタルシールネジ部)を対象として、Cu−Sn−Bi合金めっきを12μm厚で形成してグリ−ンド−プを塗布して、前記焼付き試験に供した。その結果、8回まで焼付きを起こすことなく、締付け・締戻しを行うことができた。
【0043】
(実施例6)ボックスの内周(雌ねじ及びメタル−メタルシールネジ部)を対象として、Snめっきを10μm厚で形成し、さらにその上にCu−Sn−Bi合金めっきを10μm厚で形成してグリ−ンド−プを塗布して、前記焼付き試験に供した。その結果、10回まで焼付きを起こすことなく、締付け・締戻しを行うことができた。
【0044】
(実施例7)ボックスの内周(雌ねじ及びメタル−メタルシールネジ部)を対象として、Cuめっきを5μm厚で形成し、さらにその上にCu−Sn−Bi合金めっきを15μm厚で形成してグリ−ンド−プを塗布して、前記焼付き試験に供した。その結果、10回まで焼付きを起こすことなく、締付け・締戻しを行うことができた。
【0045】
(実施例8)ボックスの内周(雌ねじ及びメタル−メタルシールネジ部)を対象として、Niめっきを5μm厚で形成し、さらにその上にCu−Sn−Bi合金めっきを15μm厚で形成してグリ−ンド−プを塗布して、前記焼付き試験に供した。その結果、10回まで焼付きを起こすことなく、締付け・締戻しを行うことができた。
【0046】
(実施例9)ボックスの内周(雌ねじ及びメタル−メタルシールネジ部)を対象として、Sn−Bi合金めっきを5μm厚で形成し、さらにその上に黒鉛含有固体潤滑層を30μm厚で焼付け形成して前記焼付き試験に供した。その結果、8回まで焼付きを起こすことなく、締付け・締戻しを行うことができた。
【0047】
(実施例10)ボックスの内周(雌ねじ及びメタル−メタルシールネジ部)を対象として、Snめっきを3μm厚で形成し、さらにその上にSn−Bi合金めっきを11μm厚で形成し、さらにその上に黒鉛含有固体潤滑層を30μm厚で焼付け形成して前記焼付き試験に供した。その結果、8回まで焼付きを起こすことなく、締付け・締戻しを行うことができた。
【0048】
(実施例11)ボックスの内周(雌ねじ及びメタル−メタルシールネジ部)を対象として、Sn−Bi合金めっきを10μm厚で形成した。さらにその上に潤滑被膜としてまず黒鉛含有固体潤滑層を10μm厚で焼付け形成し、さらにワックス、高塩基性Ca塩からなる粘稠液体の潤滑被膜を形成して、前記焼付き試験に供した。前記焼付き試験に供した。その結果、10回まで焼付きを起こすことなく、締付け・締戻しを行うことができた。
【0049】
(実施例12)ボックスの内周(雌ねじ及びメタル−メタルシールネジ部)を対象として、Snめっきを5μm厚で形成し、さらにその上にSn−Bi合金めっきを10μm厚で形成した。さらにその上に潤滑被膜としてまず黒鉛含有固体潤滑層を10μm厚で焼付け形成し、さらにワックス、高塩基性Ca塩からなる粘稠液体の潤滑被膜を形成して、前記焼付き試験に供した。前記焼付き試験に供した。その結果、10回まで焼付きを起こすことなく、締付け・締戻しを行うことができた。
【0050】
(実施例13)ボックスの内周(雌ねじ及びメタル−メタルシールネジ部)を対象として、Niめっきを1μm厚で形成し、その上にCuめっきを5μm厚で形成し、さらにその上にSn−Bi合金めっきを10μm厚で形成した。さらにその上に潤滑被膜としてまず黒鉛含有固体潤滑層を10μm厚で焼付け形成し、さらにワックス、高塩基性Ca塩からなる粘稠液体の潤滑被膜を形成して、前記焼付き試験に供した。前記焼付き試験に供した。その結果、10回まで焼付きを起こすことなく、締付け・締戻しを行うことができた。
【0051】
(比較例1)ボックスの内周を対象として、Niめっきを1μm厚で形成し、その上にCuめっきを10μm厚で形成し、グリ−ンド−プを塗布して、前記焼付き試験に供した。その結果、4回で焼付きが発生した。
【0052】
(比較例2)ボックスの内周を対象として、Niめっきを1μm厚で形成し、その上にCuめっきを10μm厚で形成した後,その上層に黒鉛含有固体潤滑層を25μm厚で焼付け形成し、グリ−ンド−プを塗布して、前記焼付き試験に供した。その結果、4回で焼付きが発生した。
【0053】
(比較例3)ボックスの内周を対象として、Niめっきを1μm厚で形成し、その上にCuめっきを10μm厚で形成した後,その上層にMoS2含有固体潤滑層を25μm厚で焼付け形成し、グリ−ンド−プを塗布して、前記焼付き試験に供した。その結果、4回で焼付きが発生した。
【0054】
(比較例4)ボックスの内周を対象として、Cu−Snめっきを10μm厚で形成した後、グリ−ンド−プを塗布して、前記焼付き試験に供した。その結果、6回で焼付きが発生した。
【0055】
(比較例5)ボックスの内周を対象として、Niめっきを1μm厚で形成し、その上にCuめっきを8μm厚で形成して、前記焼付き試験に供した。その結果、2回で焼付きが発生した。
【0056】
(比較例6)ボックスの内周を対象として、Niめっきを1μm厚で形成し、その上にCuめっきを8μm厚で形成した後,その上層に黒鉛含有固体潤滑層を25μm厚で焼付け形成して、前記焼付き試験に供した。その結果、2回で焼付きが発生した。
【0057】
(比較例7)ボックスの内周を対象として、Niめっきを1μm厚で形成し、その上にCuめっきを9μm厚で形成した後,その上層にMoS2含有固体潤滑層を25μm厚で焼付け形成して、前記焼付き試験に供した。その結果、2回で焼付きが発生した。
【0058】
(比較例8)ボックスの内周を対象として、Cu−Snめっきを12μm厚で形成した後,その上層に黒鉛含有固体潤滑層を25μm厚で焼付け形成し、前記焼付き試験に供した。その結果、3回で焼付きが発生した。
【0059】
また、同様の試験をグリーンドープを塗らないで、すなわち潤滑被膜なしでも行ったが、実施例1では6回まで、実施例2では8回まで、それぞれ焼付きを起こすことなく、締付け・締戻しを行うことができた。これに対して、潤滑被膜なしで試験した比較例1と2は1回で焼付きが発生した。
【0060】
以上の実施例及び比較例の結果より、本発明に係る油井鋼管用ねじ継手は、比較例に比べて明らかに焼付きの抑制効果が大きいことがわかる。
【0061】
(なじみ性の差)
次に、Cuめっき被膜と、Sn又はSn合金めっき被膜とのなじみ性(濡れ性)の差について検証する。図7、8(写真)は、めっき被膜表面に液体を一滴ずつ乗せて濡れ性の大きさを比較したものである。Cuめっき被膜と、Sn又はSn−Bi合金めっき被膜では、後者の方が濡れ性が小さいことが分かる(なじみ性大)。実際に、Cuめっき被膜及びSn−Bi合金めっき被膜に黒鉛含有潤滑被膜を焼付け形成したピンないしボックスの耐焼付き性は、Sn−Bi合金めっき被膜の方が圧倒的に優れていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1実施形態に係る鋼管用ねじ継手の接触表面の断面図。
【図2】本発明の第2実施形態に係る鋼管用ねじ継手の接触表面の断面図。
【図3】本発明の第3実施形態に係る鋼管用ねじ継手の接触表面の断面図。
【図4】本発明の第4実施形態に係る鋼管用ねじ継手の接触表面の断面図。
【図5】本発明の第5実施形態に係る鋼管用ねじ継手の接触表面の断面図。
【図6】本発明の第6実施形態に係る鋼管用ねじ継手の接触表面の断面図。
【図7】Cuめっき被膜の濡れ性の大きさを示す写真。
【図8】Sn−Bi合金めっき被膜の濡れ性の大きさを示す写真。
【図9】一般的な油井管用ねじ継手のピンとボックスの断面図。
【符号の説明】
【0063】
1 ピン
1a 雄ねじ部
1b メタル−メタルシール部
2 ボックス
2a 雌ねじ部
2b メタル−メタルシール部
5 母材
6 Sn−Bi合金めっき又はCu−Sn−Bi合金めっき
7 MoS2含有固体潤滑被膜層
8 潤滑被膜
8a 固体潤滑被膜
8a1 MoS2含有固体潤滑被膜層
8a2 黒鉛含有固体潤滑被膜
8b 粘稠液体又は半固体の潤滑被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ部とねじ無し金属接触部とを有する接触表面をそれぞれ備えたピンとボックスで構成され、ピンとボックスの少なくとも一方の接触表面に、Sn−Bi合金めっきを形成した鋼管用ねじ継手。
【請求項2】
ねじ部とねじ無し金属接触部とを有する接触表面をそれぞれ備えたピンとボックスで構成され、ピンとボックスの少なくとも一方の接触表面に、Cu−Sn−Bi合金めっきを形成した鋼管用ねじ継手。
【請求項3】
Sn−Bi合金めっき又はCu−Sn−Bi合金めっきの下層に、Snめっき、Cuめっき又はNiめっきを形成した請求項1又は2の鋼管用ねじ継手。
【請求項4】
合金めっきの表面に、潤滑被膜を形成した請求項1から3のいずれかの鋼管用ねじ継手。
【請求項5】
潤滑被膜が、粘稠液体又は半固体の潤滑被膜である請求項4の鋼管用ねじ継手。
【請求項6】
潤滑被膜が、固体潤滑被膜である請求項4の鋼管用ねじ継手。
【請求項7】
潤滑被膜が、下層の固体潤滑被膜と、上層の粘稠液体又は半固体の潤滑被膜である請求項4の鋼管用ねじ継手。
【請求項8】
固体潤滑被膜が、固体粉末を含有する請求項5、請求項6又は7の鋼管用ねじ継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−71231(P2007−71231A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−255657(P2005−255657)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(505333207)関西機化工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】