説明

長尺中空管の内部空間の湿度調整装置

【課題】橋・建造物等で使用される垂直又は斜めに設置された長尺中空管の内部で生じる高湿度と低湿度の一日一サイクルの高い湿度変動を、無電源で抑制して結露・溜水を抑えることで、錆等による中空管の劣化を少なくして高い耐久性を保持できるようにする。
【解決手段】垂直の鋼管製中空管1の最上端に、中空管1の内部空間1cと連通するようにキャップ体10を設け、同キャップ体10の外周面に多数の小孔10bを設け、各小孔10bに対し連通筒の内部通気路に所要間隔離して3枚の防水性透過膜を設けた小型湿度変動抑制器11を水平に取り付け、同小型湿度変動抑制器11の外端部を支持する固定板12とメッシュネット13を取り付け、これらを包被して下方の通気路15aを形成するように外套14を取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋、建造物の主柱パイプの如く、垂直又は斜めに高く立設された鋼管・パイプ等の中空管の内部空間の湿度が、大気の湿度・温度によって大きく変動するのを水蒸気透過膜を用いて低く抑えて抑止して、湿度変動によって生じる結露水による中空管の錆・腐食等の劣化を少なくして中空管の耐久性を高める技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この垂直な中空管内の湿度調整は、自然通気の他には具体的な対策が行われていない。地球温暖化などで、熱交換のヒートベルト循環に異常をきたしている現状の気象環境では、寒暖の差が大きくなり、急激な気象の変動や風速の変動など、垂直の中空管内の腐食進行にとって不利な状況が進む。また、温度上昇に伴って化学反応の一種である腐食現象も急速に進展し、予測されていた耐用年数を大きく下回る実用年数となる可能性が高くなり、安全性も著しく脅かされるリスクが高まったが、温暖化が明らかとなる前は、予測は不可能であった。
【0003】
従来、屋外で設置される垂直の主柱の鋼管の内部に雨水・虫・鳥・塵等の進入を抑える対策として、特開2004−229811号公報に示すように、主柱内部の最上端開口に、下方を開口した逆J字状のエルボー管を連結し、下方開口にメッシュを取り付けた構造のものが知られている。しかしながら、鋼管内部は大気と連通していて、空気及び湿度(水蒸気)の出入りは自由である。そのため大気の湿度が大きく変動する場合、鋼管内部の空気の湿度も大きく変動し、この変動によって、鋼管内部に結露・溜水が生じることがあった。これが鋼管内部の腐食・錆の進行を速めて鋼管の耐久年数が短くなることがある。これを避けるため、鋼管内に結露水・雨水が溜まらないように鋼管下部に排水孔を設けていた。しかし、これでも結露による劣化は抑えられなかった。更に鋼管内を完全密閉しても結露や密閉したはずの保護空間内に水が貯留する現象は避けることができなかった。
【0004】
本出願の発明者は、密閉した室と大気とを連通する通気路に防水性水蒸気透過膜を複数配置することで、水蒸気の移動を制御して室内部の湿度変動を低く抑える水蒸気移動制御装置を開発し出願し、この出願は特開平7−68124号公報、特開平5−322060号公報、特開2008−200552号公報として公開されている。
本発明者が開発したこれら装置は、大略室空間125Lにつき1個の配置で湿度降下速度を維持できていた。しかしながら、100m以上の建造物の中空管という特殊な管内部の湿度調整に、透過膜を使用することは想致されるものでなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−229811号公報
【特許文献2】特開平7−68124号公報
【特許文献3】特開平5−322060号公報
【特許文献4】特開2008−200552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来のこれらの問題点を解消し、屋外で使用される橋・建造物等で使用される垂直又は傾斜した中空管内部で生じる高湿度と低湿度の一日一サイクルの高い湿度変動を無電源で抑制して結露・溜水を抑え、大きな湿度変化による錆等による中空管の劣化を少なくして高い耐久性を保持できるようにする長尺中空管の湿度調整装置を提供することにある。
【0007】
又、別の課題として、水蒸気移動制御装置が湿度制御する中空管の空間容積が大容量になると膜面積も大きくなり、天候の変化にともなって発生する表面温度の温度の上下動の幅も大きくなり、閉鎖空間である保護空間の内部空気の膨張や収縮による呼吸現象も大きくなり、このため膜の耐圧性・耐久性が問題となってくる。
腐食の進行を抑制するためには、腐食反応を促進する外来異物(塩分や硫化物など)による表面汚損の予防と腐食反応が急速に生じる水分の抑制が重要である。
又、膜の引張り強さや変形を考慮すると、大面積に対して適用する場合には、防水可能な透過膜自体の変形が発生し、透過量の異常な変動や予期しがたい温度勾配などが発生する可能性が高く、大きな表面積の装置を作成することは困難であった。本発明の別の課題は、湿度調整する中空管の内部空間が大容量になっても膜が適正な膜強度以内で、水蒸気の移動制御を長期にわたって確実に確保することができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決した本発明の構成は、
1) 屋外で垂直又は斜めに設置された非開放の長尺中空管の内部空間の湿度調整装置であって、中空管の管内部と外気とを連通するように形成した通気路に複数の防水性水蒸気透過膜を所定間隔離して配置して膜特性によって管内の湿度変動を抑止する上部湿度変動抑制装置を中空管の最上端に設け、同上部湿度変動抑制装置を除いて中空管内部を気密化し、最下端に管内の水を毛細管現象によって外部に排水する非通気性のフェルト製排水体を設けて非通気の排水路を形成し、中空管内部を上部湿度変動抑制装置の水蒸気透過膜と排水体とで大気の粉塵・雨水及び虫の進入を防止するとともに中空管内部の湿度の大きな変動を抑制して中空管の湿度変動による劣化を抑えて中空管の耐久性を高める、長尺中空管の内部空間の湿度調整装置
2) 中空管の最下端にも、外気と連通する通気路に複数の防水性水蒸気透過膜を所定間隔離して配置して膜特性によって管内の湿度変動を抑える下部湿度変動抑制装置を設け、同下部湿度変動抑制装置内部に非通気性のフェルト製排水体を設けて非通気の排水路を形成した、前記1)記載の長尺中空管の内部空間の湿度調整装置
3) 最上端の上部湿度変動抑制装置が、中空管の最上端の管開口に取り付けられる中空の有蓋筒状キャップ体の外周面に多数の小径の連通孔を設け、同連通孔に一端が接続され他端が大気と連通するように設けた小径の連通筒の内部の通気路に所定間隔離して複数の防水性水蒸気透過膜を設けた小型湿度変動抑制器を各連通孔それぞれに気密状に且つ水平に取り付け、更に同小型湿度変動抑制器の外側に直接風雨水が接触しないようにするメッシュネットを有蓋筒外側に設け、更にその外側を通気空間のある外套で保護した構造とした、前記1)又は2)記載の長尺中空管の内部空間の湿度調整装置
にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、中空管の最上端の上部湿度変動抑制装置によって中空管内部の水蒸気が高湿度のときは中空管内部の水蒸気を大気へ排出し、又低湿度のときは大気側の水蒸気を中空管内へ移動させ、中空管内の湿度の変動を抑える。そして最上端の上部湿度変動抑制装置で水蒸気を排出するときは、中空管内の水蒸気は中空管内を上昇する傾向があって、上部空間の湿度がより高くなって速やかに排出される。
これによって、中空管内の湿度が80%を超える湿度となったとしても、速やかに相対湿度が80%以下にでき、又50%よりかなり低い湿度の場合は50%に近い湿度に高めることができ、中空管内の湿度変動を抑え、よって大きい湿度変動による腐食の発生を少なくし、結露水や水蒸気濃度の変動を抑えて、腐食反応の起き初めた物質内への水分の拡散を抑えて、錆の発生を抑制する。
又中空管内の底部に溜まった水は、非通気性のフェルト製排水体によって、中空管の外へ排水でき、高湿度となること、水による錆の発生及び中空管の劣化を防ぐ。
更に、雨水・粉塵・塩分・火山灰・黄砂及び虫は、上部湿度変動抑制装置の防水性水蒸気透過膜と非通気性排水体によって遮断され、中空管内に進入しないようにしている。
【0010】
最上端の上部湿度変動抑制装置が、中空管の最上端に取り付けた有蓋筒状キャップ体の外周面に多数の小孔を設け、各小孔に小型湿度変動抑制器を多数設けた構造としたものでは、小型湿度変動抑制器の内径が小さいので、空気圧で膜が大きく膨らむように変形することがなく、耐圧性が高くでき、大容量の中空管内部空間の場合でも使用できるものとしている。
加えて、これら小型湿度変動抑制器の外周に、メッシュネット・外套を設けたものでは、雨水・風・虫・粉塵・火山灰・黄砂が小型湿度変動抑制器に直接接触しないようにして、これらの影響を少なくしている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施例の全体配置を示す説明図である。
【図2】図2は、実施例の上部湿度変動抑制装置のキャップ体と、固定板との分解説明図である。
【図3】図3は、実施例の上部湿度変動抑制装置の縦断面図である。
【図4】図4は、実施例の小型湿度変動抑制器の取付状態を示す説明図である。
【図5】図5は、実施例の小型湿度変動抑制器の縦断面図である。
【図6】図6は、下部と中間の湿度変動抑制装置の縦断面図である。
【図7】図7は、斜めの中空管に取り付けた例を示す説明図である。
【図8】図8は、透過膜による水蒸気移動質量の時間変化を示す模式図である。
【図9】図9は、透過膜による水蒸気移動質量比を示す説明図である。
【図10】図10は、透過膜の不織布面から撥水面方向の透過質量を示し、98→65%RH及び50→65%RHへの3種類の膜の時間経過に伴う水蒸気移動質量として、透過特性の変化を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で、中空管の最上端位置に中空管内部と連通するように取り付ける上部湿度変動抑制装置は、一個でも複数個でも、又は小型湿度変動抑制器を多数集合させたものでもよい。
又中空管の最上端に設ける小型湿度変動抑制器は水平に設置されるのが好ましい。
【0013】
中空管の最下端及び途中位置にも湿度変動抑制装置又は非通気性排水体付き湿度変動抑制装置を取り付けると、更に湿度の変動を抑止できる能力が高くなる。
これは、管路内の流体の流路が、高度の高い部位と低い部位での風速の違いから発生する空気への熱伝達や、雨の後の風による大きな気化熱による管路の表面温度の温度下降に伴う湿度上昇や結露を予防するための、中間部リーク点である。中間部の取付位置は、管路内の実測データなどを考慮して算出された飽和水蒸気圧によって発生する浮力と、中間部の取り付けた中間湿度変動抑制装置を経由した空気による中空管内の乱流の発生で流入する乾燥空気の比率を効果的に排気方向に上昇を促進しやすい位置に配置される。
又、中空管の最下端の非通気性のフェルト製排水体は最下端に設けた湿度変動抑制装置内に一体的に設けてもよい。
【0014】
上部・下部又は中部に設けられる湿度変動抑制装置及び小型湿度変動抑制器に用いられる防水性透過膜としては、外気側は吸湿性がある不織布から構成される防水性透過膜からなり、内側は外気側よりも透過性が高い防水性透過膜からなり、中間の膜は内側及び外気側よりも透過性が高い防水性透過膜であって、水蒸気の移動透過特性が時間経過に伴って変化する度合いが前記順番が一定時間は大小関係が変化しない組み合わせの膜を使用する。
【0015】
更に、防水性透過膜に近接して導電性多孔体のメッシュを設けることが好ましい。このメッシュ(導電性多孔体)は、膜近傍に配置され、膜近傍の温度変化を均質化するとともに、水蒸気の移動の方向性も均質化し、膜の支持と補強を行い、又銅によるオリゴジナミー効果で、細菌や真菌による膜部の表面汚損を予防する。
【実施例】
【0016】
本発明を、100mを超える建造物の略垂直の主柱鋼管を中空管として実施した実施例でもって説明する。
【0017】
本実施例は、建造物の主柱鋼管である中空管の最上端の開口に有蓋筒状の金属製キャップ体を開口とキャップ体内部が連通するように取り付け、同キャップ体の外周面に沿って小径の小孔を多数設け、各小孔に小型湿度変動抑制器を水平に取り付け、その小型湿度変動抑制器の外周にメッシュネットと外套を取り付けている。更に中空管の途中と最下端それぞれに、上記小型湿度変動抑制器より通気路の膜部が補強された中間・下部湿度変動抑制装置を設け、同中間・下部湿度変動抑制装置には毛細管現象によって外部に排水する非通気性のフェルト製排水体を備え、内部に非通気の排水路を形成させている。
【0018】
図1,2,3,4,5中、Tは100m以上の建造物の主柱、Wは中空管1の最上端に取り付けた上部湿度変動抑制装置、Lは主柱となる鋼管の中空管1の最下端に取り付けた中型の排水体を内部に形成した下部湿度変動抑制装置、Mは中空管1の中間に取り付けた中型の排水体を内部に形成した中間湿度変動抑制装置である。
【0019】
1は主柱Tとなる内径30cmで高さ100m以上のフランジで継がれた鋼管製中空管、1a,1bは中空管1のフランジ部、2は主柱Tのコンクリート基礎である。10は上部湿度変動抑制装置Wの内径30cmの有蓋の8角筒状のキャップ体、10aは同キャップ体のフランジ部、10bはキャップ体10の8角筒の各外周面に設けた1列縦6個の一面2列の割合で各8面に設けた段付きの96個の小孔、10cはフランジ部10aに設けた中空管1の最上端のフランジ部1aと連結するためのボルト孔、10dはフランジ部1a,10aとの連結を気密にするパッキンで、中空管1と熱的に断熱する作用ももつ。10eは上面のネジ孔、10fはキャップ体10の内部空間、11は各小孔10bに取り付けられる内径が約32mmで外径が約36mmの小型湿度変動抑制器、11a,11b,11cは小型湿度変動抑制器11内の通気路の防水性透過膜であり、外気側は吸湿性がある不織布から構成される防水性透過膜からなり、内側は外気側よりも透過性が高い防水性透過膜からなり、中間の膜は内側及び外気側よりも透過性が高い防水性透過膜であって、水蒸気の移動透過特性が時間経過に伴って変化する度合いが、前記順番が一定時間は大小関係が変化しない組み合わせの膜を使用している。
【0020】
11dは小型湿度変動抑制器11の内部を通気路とするケーシングの連通筒、11eは中間の防水性透過膜11bに近接して設けた導電性多孔体のメッシュ、11fは防水性透過膜11a,11bで区画される外側小室、11gは防水性透過膜11b,11cで区画される内側小室、11hは小孔10bの内壁面と当接させるパッキンであり、小孔10bは、小型湿度変動抑制器11の外気側空間15cとキャップ体10と内腔10fとを連通する通気路となる。
【0021】
12は縦6個2列の小型湿度変動抑制器11の外周部をキャップ体10の外周面に保持する縦長の固定板、12aは小型湿度変動抑制器11と外気側空間15cとを連通する同固定板内側面に設けた小型湿度変動抑制器11の外縁を係止する段付きの係止孔、12bは固定板12をキャップ体10の外周面に固定するためのスプリング12c付の取付ネジ、12cは固定板12及びメッシュネット13をキャップ体10方向に付勢するスプリング、13は固定板12の外周に配置され、連結ネジ12dでもって固定板12にスペーサ12eで間隔をあけて取り付けられ、風・水等や後述の外套14からの輻射熱が直接小型湿度変動抑制器11に影響するのを防ぐ縦長板状のメッシュネットである。図中のメッシュネット13と固定板12は平行に記載配置されているが、例えば上方が狭く下方が広い配置として輻射熱や風雨からの悪作用を裂けるようにしてもよい。14は同メッシュネットの外側に同メッシュネット・小型湿度変動抑制器・キャップ体の全体を被せるように取り付けられる金属製外套、14aは同外套をキャップ体10の上面に取り付ける取付ネジ、14bは断熱材、15a,15b,15cは通気路、17はフランジ部10aの外側に取り付けた下端に排水溝を設けた排水と凍結破壊防止のための水切り板、18a,18c,18cは金属製外套14・キャップ体10・中空管1とを接続する防雷の為にする電気的接地のためのアース線である。
【0022】
20a〜20kは下部湿度変動抑制装置L及び中間湿度変動抑制装置Mの共通した構成部分であって、小型湿度変動抑制器11と同様な通気路と膜構造を有し、小型湿度変動抑制器11に比べ外径が大きくて47mmとする中型のものである。20a,20b,20cは小型湿度変動抑制器11の防水性透過膜11a,11b,11cと同質の膜で内径は等しい防水性透過膜である。20dはケーシングである連通筒、20eは防水性透過膜20bに近接して設けた導電性多孔体のメッシュ、20fは防水性透過膜20a,20bで区画される外側小室、20gは防水性透過膜20b,20cで区画される内側小室、20hは中空管1の内部空間と下部・中間湿度変動抑制装置L,Mの連通筒20dとを連通する連通管、20iはフェルト製の毛細管現象で水を移動させる非通気性排水体、20kは連通筒20dの周壁内に形成された排水路である。
尚、膜の補強メッシュを付与して、上部の小型湿度変動抑制器11よりも強化されている。
【0023】
フェルト製の排水体20iは、フェルト内の繊維に、寒天又はオブラート等の長鎖タンパク質を防腐剤としてタンニン酸を用いて、防腐処理・防虫処理を行ったエマルジョンをpH調整してほぼ中性としたコロイド状液を含浸させ、乾燥させたフェルトの表面に、アラビアのり等の被膜状の水溶性糊剤により表面を覆う処理を行った。
全体をアラビアのりのような糊剤で固めると、フェルト内に含まれる硬化乾燥した後に水分に接触しても、膨潤して崩壊するまでに長時間を要する。ところで、水分に接触して早期に気密性を破壊し、通水性を確保するためには、フェルト内に浸入したタンパク鎖の膨潤を活用して、最外側の被膜(アラビアのりの被膜)を早く(3分以内)崩壊して、排水を促進することができる。
本排水機構にあっては、排水機能が作動した後は、前記糊剤やフェルト内のタンパク質は一部溶出した後でも、フェルト材はエアフィルター効果を持ち、外界の異物の保護空間内への侵入を阻止して通気路となるが水蒸気の移動には制限がかけられる。フェルト材の素材とては、ポリエステル綿・ナイロン・合成繊維・天然繊維など任意であるが、耐候性の高い物質が好ましい。又吸湿性は低い素材の方が、前記のコロイド液乾燥に都合がよく、製作しやすく、安定した機能を得やすい。
【0024】
中空管1に傾斜がある場合には、図6のように、11aや11cの外側に水が付着貯留しにくいように、また小型湿度変動抑制器11が水平に配置されるように、大容量対応型水蒸気移動制御装置を水平に配置するように、配置するための補助傾斜リング19を配置してもよい。
【0025】
上部湿度変動抑制装置Wの外套14は、導電性体により被覆されるか、導電性構成材料によって構成され、中空管1に電気的にアース線18a,18b,18cに接続され、接地される。この結果、直撃雷による焼損が予防される。
尚、同外套14は、強い風・雨水・粉塵及び紫外線などの太陽光等が直接小型湿度変動抑制器11に当たるのを防ぐ。その内側のメッシュネット13によって更に被覆され、水滴が滞りにくい構造となっている。この結果、地上での風速が2m/secでも高度の高い60m位置などでは8m/secであるような場合は頻繁に発生しているために、水蒸気の移動制御を行うための、装置・膜の表面温度が異常に変動して、水蒸気移動が悪作用を受けることを予防することができる。
【0026】
外套14の下に配置される、外套14下で風力を低下させるメッシュネット13の設計は任意であり、実施例では、パンチ小孔の配置は、俵積み配列など任意であるし、複数の多孔メッシュを打ち抜き板から構成し、離隔をおいてこれらの多孔メッシュを複数配置してもよい。
また、15cの空間は固定板と平行でなくともよい。
【0027】
最下位や中間部の湿度変動抑制装置L,Mは、排水や管路内の乱流の発生による水蒸気の排出促進作用を有する。最外側の外套14は日除け及び雨よけ、外套14の内側のリム状の水切り板17は乱流発生堤防となる。
【0028】
固定板12は、小型湿度変動抑制器11の外周部をキャップ体10の外周面に設けられた段付き小孔10b内のパッキン11hを介して、取付ネジ12bとスプリング12cによりキャップ体10へ圧接される。メッシュネット13と固定板12は、連結ネジ12dにより12eのスペーサで間隔をあけて固定される。これらは、取付ネジ12bにより貫通され、スプリング12cによってキャップ体10の方向に小型湿度変動抑制器11を段付き小孔10b内のパッキン11hを介して圧接される。
【0029】
もしも建造物の中空管1頂部等に落雷が起きたときには、中空管内部1c及びキャップ体10の内部空間10fの内圧が急激に上昇して、小型湿度変動抑制器11の内部に過剰な圧力が加わらないように、前記小型湿度変動抑制器11は、段付き小孔10b内を滑走して浮き上がり、中空管1の内部空間1cやキャップ体10の内部空間10fの急激な圧力の変化は、リークによって緩衝され、小型湿度変動抑制器11の内部の破損を防止する。又図中には省略したが、11と同径の圧力変化検出用センサを配置して、圧力異常を検出することができる。
【0030】
環状の水切り板17は、外套14の内側にあり、キャップ体10のフランジ部10aに固定されている。外套14とキャップ体10のフランジの間には、隙間が5mm程度を隔てる、通気路15aが環状に在る。
水蒸気の移動は、中空管内部1cにより、キャップ体の内部空間10fを経由して、小型湿度変動抑制器11の通気路となる膜11a,11b,11c,小室11f,11gを通り、メッシュネット13と固定板12の間通気路15cよりメッシュネット13を経由して、外套14内側の通気路15bに至り、通気路15aより大気中に拡散する。水切り板17は、外套14からの直接の風当たりを撹拌する作用や、風雨の直接の小型湿度変動抑制器11への吹きつけを防止し、前記小型湿度変動抑制器11の水蒸気の移動特性への悪作用を小さくする。
【0031】
又、固定板12とキャップ体10の間の間隙dに耐熱性保温材を配置してもよい。
外套14は、キャップ体10の頂部に取付ネジ14aにて取り付けるが、このネジ孔10eはキャップ体10の頂部を貫通せず水漏れが起こることはない。
メッシュネット13は、地上では2m/sec位の風速でも50mなどの高さでも風速は高くなり8〜10m/secとなることは多いので、小型湿度変動抑制器11の外表面等に直接強風が当たって前記小型湿度変動抑制器11の急激な温度変動を避けることができ、性能の安定化と耐久性の安定化が図られる。
【0032】
外套14は、日除け及び通気路15aをキャップ体10のフランジ部10aの間に形成し、強風や強雨が外套14内に浸入することを予防する小さな環状スリット15aを形成する。
外套14の素材は金属製であるが、内面には耐熱性の断熱性塗装が施され、外套14から前記小型湿度変動抑制器11への輻射熱による悪作用を予防し、又外套14内を紫外線から保護する。
又外套14の下に、輻射熱を断熱するための断熱材をメッシュネット13の外周に配置してもよい。
【0033】
本実施例において、中空管1内の水蒸気は主として上部湿度変動抑制装置Wによって、副次的に下部湿度変動抑制装置L,中間湿度変動抑制装置Mによって移動制御され、中空管1内の湿度変動は大略80%RH以下で、下方は50%RH近い湿度に抑制される。
【0034】
上部湿度変動抑制装置Wには、水蒸気が上昇流とともに集まる傾向があるが、その水蒸気は中空管1の最上端の内径30cmのキャップ体10の内部に進入する。この水蒸気はキャップ本体10の外周面に水平に設けられた96個の内径32mm程の小型湿度変動抑制器11によって中空管1内の湿度変動を小さくするように作用するとともに、外気側への水蒸気の拡散を促進する。同様に中空管1の下部と中間でも、外径47mmの中型の湿度変動抑制装置L,Mによっても湿度変動を少なくして乱流を生じ効率的に水蒸気の排出を促進するようにしている。
【0035】
これらの小型湿度変動抑制器11及び下部・中間の中型の湿度変動抑制装置L,Mの水蒸気移動制御による湿度変動抑制の作用は、防水性透過膜11a,11b,11c,20a,20b,20cの作用によるものである。以下、その湿度抑制の現象を説明する。
【0036】
中空管内と外気とを連通する通気路においてこれら3種類の防水性透過膜の移動境界面から2小室に区分され、これらの空間の間で熱交換が行われる。移動現象が膜によって制限され、等圧変化傾向で、移動境界面の熱交換が移動方向に行われる。この経過で移動エネルギーの伝搬ロスが発生する。
この熱伝達は逆方向でも同様であるが、大気側は図9に示したように容積に制限はないので、圧力変化は発生しない。そこで、中空管側から大気側への移動には、中空管内と大気間の水蒸気圧差で移動が発生し、大気側と中空管内の水蒸気圧が等しくなるまで移動が継続しやすく、大気方向へ移動し易い。
同様に、外気側の方が中空管内に比べて水蒸気圧が高い場合には、中空管方向への水蒸気の移動が発生する。しかし、この移動方向では、結果的に中空管内部の圧力上昇をまねき、明らかな仕事量を必要とする。また中空管内圧及び中間の透過膜から他の透過膜への圧力上昇のための仕事量が必要となるが、熱エネルギーの伝搬ロスがあるため抑制される。これらの結果、中空管内は、中空管内部よりも高い外気側の水蒸気圧量にはなりにくく、圧力差の矛盾は、水蒸気の移動が抑制されるかわりに、空気が移動して安定する。この現象は、結果的には逆浸透現象に類似する。
具体的な水蒸気の移動経過では、中空管内部空間からの熱伝播は、外気方向への水蒸気の浮力によって、最上部にある上部湿度変動抑制装置の小型湿度抑制器11の集合体から、熱的には並列回路として排出される。
下方又は中間の湿度変動抑制装置L,Mでは、外気からの水蒸気の保護空間への移動を妨げる効果を期待するので、膜部の補強を行う。この結果、除湿された空気が、保護空間に流入するとともに、外気流の異物の侵入を妨げる。
【0037】
水蒸気移動量の差を形成する境界面の移動量を説明するため、図8,9に通気路の透過膜の透過量の比率で示す模式図を示している。
更に水蒸気の移動量を求めるために、中空管内側の圧力を1として、等温等圧下での水蒸気の移動量を精密測定した結果をもとに、時間経過に伴って変化させた水蒸気の移動質量図8の上3本を、理論的に組み合わせた場合を仮定して、透過量を単純に比率計算して求める。
図10に、膜の不織布から撥水面方向の透過質量を示している。この結果は、不織布から撥水面方向への水蒸気の透過質量を示す。逆方向の移動量の変化は、膜では、表面積が大きい不織布の方が外気側を向いている場合の方が移動速度は速くなるが、温度の影響は大きくなりやすい。
しかし、概ね、水蒸気の不織布から撥水面方向への移動量と、撥水面から不織布面への移動量はほぼ等しいものとして差し支えない。これらの方向性は、膜の表面汚損や表面の温度変化を考慮して配置することが望ましい。
【0038】
特に、本実施例の上部湿度変動抑制装置Wは、キャップ体の内径が300mmに対し、小型湿度変動抑制器11の内径が32mmで約1/10の径で、面積にして1/100程となるので、透過膜の圧力に対する耐圧性は全く問題なく使用できる。
【0039】
以上のように、本実施例の装置なしでは、鉄塔内の中間管1内の湿度が90%RH以上から40%RH以下の湿度変動を一日一サイクルで生じる場合でも、湿度を80%RH以下で低い方も50%RH近くにまでできて湿度変動幅を大きく低減し、中空管内の結露の発生を抑え、管路内の表面汚損を予防して、中空管の内部の錆・腐食を少なくして、寿命を長くできるものとした。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、屋外の橋・建物の主柱の中空管の他、建物内に設置した垂直なパイプ内の湿度による劣化にも使用できる。
【符号の説明】
【0041】
T 主柱
W 上部湿度変動抑制装置
L 下部湿度変動抑制装置
M 中間湿度変動抑制装置
1 中空管
d 間隙
1a,1b フランジ部
1c 内部空間
2 コンクリート基礎
10 キャップ体
10a フランジ部
10b 小孔
10c ボルト孔
10d パッキン
10e ネジ孔
10f 内部空間
11 小型湿度変動抑制器
11a,11b,11c 防水性透過膜
11d 連通筒
11e メッシュ
11f 外側小室
11g 内側小室
11h パッキン
12 固定板
12a 係止孔
12b 取付ネジ
12c スプリング
12d 連結ネジ
12e スペーサ
13 メッシュネット
14 外套
14a 取付ネジ
14b 断熱材
15a,15b,15c 通気路
17 水切り板
18a,18b,18c アース線
19 補助傾斜リング
20a,20b,20c 防水性透過膜
20d 連通筒
20e メッシュ
20f 外側小室
20g 内側小室
20h 連通管
20i 排水体
20k 排水路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋外で垂直又は斜めに設置された非開放の長尺中空管の内部空間の湿度調整装置であって、中空管の管内部と外気とを連通するように形成した通気路に複数の防水性水蒸気透過膜を所定間隔離して配置して膜特性によって管内の湿度変動を抑止する上部湿度変動抑制装置を中空管の最上端に設け、同上部湿度変動抑制装置を除いて中空管内部を気密化し、最下端に管内の水を毛細管現象によって外部に排水する非通気性のフェルト製排水体を設けて非通気の排水路を形成し、中空管内部を上部湿度変動抑制装置の水蒸気透過膜と排水体とで大気の粉塵・雨水及び虫の進入を防止するとともに中空管内部の湿度の大きな変動を抑制して中空管の湿度変動による劣化を抑えて中空管の耐久性を高める、長尺中空管の内部空間の湿度調整装置。
【請求項2】
中空管の最下端にも、外気と連通する通気路に複数の防水性水蒸気透過膜を所定間隔離して配置して膜特性によって管内の湿度変動を抑える下部湿度変動抑制装置を設け、同下部湿度変動抑制装置内部に非通気性のフェルト製排水体を設けて非通気の排水路を形成した、請求項1記載の長尺中空管の内部空間の湿度調整装置。
【請求項3】
最上端の上部湿度変動抑制装置が、中空管の最上端の管開口に取り付けられる中空の有蓋筒状キャップ体の外周面に多数の小径の連通孔を設け、同連通孔に一端が接続され他端が大気と連通するように設けた小径の連通筒の内部の通気路に所定間隔離して複数の防水性水蒸気透過膜を設けた小型湿度変動抑制器を各連通孔それぞれに気密状に且つ水平に取り付け、更に同小型湿度変動抑制器の外側に直接風雨水が接触しないようにするメッシュネットを有蓋筒外側に設け、更にその外側を通気空間のある外套で保護した構造とした、請求項1又は2記載の長尺中空管の内部空間の湿度調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−209532(P2010−209532A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54306(P2009−54306)
【出願日】平成21年3月7日(2009.3.7)
【出願人】(592013129)株式会社九州山光社 (10)
【Fターム(参考)】