説明

長手磁気記録媒体

【課題】電磁変換特性、熱安定性が共に優れた長手磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】非磁性基板上に、シード層と、bcc構造を有するCr合金からなる下地層と、hcp構造を有するRu合金からなる中間層と、Co-Cr-Pt-B基合金からなる下部記録層と、前記下部記録層と同じ合金の基成分を有し、下部記録層よりBの原子濃度が大きく、かつ、Co原子濃度とCr原子濃度の比が大きな値を有する上部記録層と、保護層とを形成した磁気記録媒体において、前記下部記録層は、第一下部記録層と第二下部記録層との二層からなり、第一下部記録層のB原子濃度をB1、第二下部記録層のB原子濃度をB2とした場合に、B1<B2の関係を満たし、かつ第一下部記録層のCo原子濃度とCr原子濃度との比を(Co/Cr)1、前記第二下部記録層のCo濃度とCr濃度との比を(Co/Cr)2とした場合に、(Co/Cr)1 < (Co/Cr)2 の関係を満たすものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ハードディスク、磁気テープ等の各種磁気記録装置に使用される長手磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
情報機器用記憶装置の高記録密度化が進み、磁気記録装置においても情報を読み書きする磁気ヘッドの高度化、および情報が読み書きされる磁気記録媒体の高度化により、磁気記録媒体の高記録密度化が進められている。
【0003】
磁気記録媒体の高記録密度化のためには、強磁性金属からなる磁性記録層の保磁力(Hc)を高くし、かつ情報信号の記録再生を行う際の再生信号と媒体ノイズの比率であるS/N比(SNR)を高めること等が必要である。
【0004】
周知のように、現在、Co合金を記録層とする長手磁気記録媒体においては、図2に示すような積層構造が用いられている。図2において、1は基板、2はシード層、3は下地層、4は安定化層、5はスペーサー層、6aは下部記録層、6bは上部記録層、10は保護膜である。
【0005】
図2に示す磁気記録媒体は、アルミニウム基板あるいはガラス基板1上に、シード層2、例えばCo合金のhcp-c軸を面内配向させるためのNi-P等のシード層、その上に1層から3層程度のCrあるいはCr合金からなる下地層3を形成する。さらに、その上にhcp構造を有するCo-Cr合金層4(安定化層と呼称)を1層ないし2層形成し、その上にRu、あるいはCr,B等を添加したRu合金層5(スペーサー層と呼称)を形成する。
【0006】
さらに、その上にhcp構造を有するCo-Cr合金層(記録層と呼称)を2層積層し、即ち下部記録層6aおよび上部記録層6bを設け、さらに、上部記録層6bの上に保護膜10を設ける。なお、保護膜10の表面には、図示しない潤滑層を設けるのが一般的である。
【0007】
上記のような積層構造はAFC構造と呼称される。AFCとはAnti Ferro Coupling (反強磁性結合)の略である。スペーサー層5の膜厚を適当な値(通常1nm程度)とすることで安定化層4の磁化は記録層と反平行に配列する。これによって安定化層4の磁化膜厚と記録層の磁化膜厚の一部は相殺されるため、実質的な磁化膜厚の増加なしに、熱安定性に寄与する強磁性層の体積(安定化層と記録層とを合わせた体積)を確保することができる。これにより、媒体の良好な熱安定性と、良好な電磁変換特性(ひいては高記録密度化)とが両立できると言われている(特許文献1参照)。
【0008】
しかしながら、実際上はAFC構造を用いても、前記電磁変換特性と熱安定性の両立は不十分である。安定化層の磁化膜厚増加によって電磁変換特性の劣化が生じるためである。要因については諸説あり、明確にはなっていないが、実際に用いられている媒体の多くは、安定化層の磁化膜厚を小さくすることで電磁変換特性の劣化を防いでいる。そのため反強磁性結合導入の目的である熱安定性向上は実用上ほとんど期待できない。
【0009】
一方、磁化膜厚を小さく設計した安定化層、スペーサー層を導入することで媒体の電磁変換特性は著しく向上する。安定化層、スペーサー層を計1〜3nm程度形成することで、積層媒体の結晶構造は下地層のbcc構造(body-centered cubic structure)からhcp構造(hexagonal close-packed structure)へと変化する。これによって同じhcp構造を有する記録層の結晶成長が円滑に進み、記録層内の結晶欠陥密度が減少するため、電磁変換特性が向上すると考えられる。記録層内の結晶欠陥密度が増加すると結晶粒子間の相互作用を断ち切る働きをするCr, Bの原子拡散が不十分となり、ノイズの要因となる粒間相互作用が大きくなる。電磁変換特性向上のためには結晶欠陥を出来る限り排除する必要がある。
【0010】
上述のような積層構造を有する媒体において、記録層の組織構造、磁気特性を詳細に検討すると、安定化層/スペーサー層によって緩和されているとは言え、なおスペーサー層上に形成された記録層下部には結晶欠陥が多い領域が存在する。
【0011】
このような結晶欠陥の影響を低減するには、低い飽和磁化(Ms≦150emu/cc)を有し、また低いB濃度(5at%前後)のCo合金を記録層として用いることが有効である。Coに固溶しにくいB濃度を低くすることで結晶成長が促進され、また高Cr濃度化(25at%前後)によって飽和磁化(Ms)が低くなり、粒間相互作用が小さくなるためである。なお、前記飽和磁化の単位emu/ccをSI単位に換算する場合には、1emu/cc=0.0012566Wb/m2により換算すればよい。
【0012】
しかし、高Cr濃度や低B,Ta濃度としたCo合金を媒体記録層とすることのみでは、下記の問題がある。媒体磁気特性、磁性層膜厚は、用いる記録・再生ヘッドに適した値が必要であり、例えば100Gb/in2の記録密度を達成するには記録層磁気特性としては飽和磁化Msが200emu/cc前後、磁気異方性定数Kuは1.0〜2.0×106erg/cc程度の値が必要となる。なお、前記磁気異方性定数の単位erg/ccをSI単位に換算する場合には、erg/cc=10-1J/m3により換算すればよい。
【0013】
また、粒間相互作用と同じくノイズの要因となる粒子径バラつきを抑制するためには、8から15at%前後のB添加が必要となる。従って、前述の高Cr濃度(25at%前後)、また低B(5at%前後)のCo合金のみでは、磁気記録媒体としての要求を満たす設計はできない。
【0014】
上記のような理由から、記録層を2層積層構造とするのが好ましいことが知られている。例えば、上部記録層にMs、Kuが高く、高B濃度の組成を用いることで前述の要求される媒体磁気特性を達成できる。一方で高いMsを有する材料は大きな粒間相互作用を持つ。下部記録層の飽和磁化を適当な値に設計することにより、上部記録層が担うべき媒体磁化膜厚は低減され、磁気特性と粒間相互作用のバランスをとることが可能となる。
【0015】
なお、特許文献2には、上記とは異なる2層の記録層(磁性層)を備えた磁気記録媒体が開示されている。特許文献2は、「下部磁性層に含まれるコバルトと白金の濃度の和が上部磁性層に含まれるコバルトと白金の濃度の和以下とすることにより、熱安定性と電磁変換特性を良好にすることができる」旨を開示する。
【0016】
また、特許文献3は、磁性層をさらに1層追加した3層の記録層(磁性層)を備えた磁気記録媒体を開示する。特許文献3は、その要約文を引用すると、「高い媒体S/Nを有し、オーバーライト特性に問題なく、ビットエラーレートに優れ、かつ熱揺らぎに対しても十分に安定な面内磁気記録媒体を提供すること」を課題とし、その解決手段として、「基板上に、下地膜、磁性膜、保護膜を順次形成した磁気記録媒体において、磁性膜は、クロムを含有するコバルト基合金膜であり、非磁性層を介さずに積層された複数の磁性層を有し、複数の磁性層は、第1と第2と第3の磁性層を有し、第1の磁性層は下地膜と第2の磁性層との間に配置され、第2の磁性層は第1の磁性層と第3の磁性層との間に配置され、第3の磁性層は第2の磁性層と保護膜との間に配置され、第1の磁性層に含有されるクロムの濃度は、第2の磁性層に含有されるクロム濃度より低く、第1の磁性層の膜厚は第2の磁性層の膜厚より薄く、第1の磁性層の上層側の磁性層はさらに白金と硼素を含有し、第3の磁性層に含有されるクロムの濃度は第2の磁性層に含有されるクロムの濃度より低い磁気記録媒体」を開示する。
【特許文献1】特開2003−22511号公報
【特許文献2】特開2006−85751号公報
【特許文献3】特開2006−179133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
前述のように、記録層を2層積層構造とし、上部記録層にMs、Kuが高く、高B濃度の組成を用い、前記特許文献2や特許文献3とは異なる媒体積層構成を備えた磁気記録媒体においては、上記のように下部記録層は、初期層における粒間相互作用低減と上部記録層磁化膜厚低減の相反する要求のバランスをとり、記録層全体としての粒間相互作用を低く抑えるように組成設計がなされている。そのため、非常に困難な組成設計を要求されている。この要因の一つは、前述のように、下地層から記録層間の結晶構造変化に起因して形成される成長初期層の存在である。
【0018】
そこで、この発明の課題は、上記のような問題点を解消し、電磁変換特性、熱揺らぎ耐性(熱安定性)が共に優れた長手磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題は、以下により達成される。即ち、本発明によれば、非磁性基板上に、シード層と、bcc構造を有するCr合金からなる下地層と、hcp構造を有するRu合金からなる中間層と、Co-Cr-Pt-B基合金からなる下部記録層と、前記下部記録層と同じ合金の基成分を有し、下部記録層よりBの原子濃度が大きく、かつ、Co原子濃度とCr原子濃度の比が大きな値を有する上部記録層と、保護層とを形成した磁気記録媒体において、前記下部記録層は、前記中間層側に形成した第一下部記録層と、前記上部記録層側に形成した第二下部記録層との二層からなり、さらに、前記第一下部記録層のB原子濃度をB1、前記第二下部記録層のB原子濃度をB2とした場合に、 B1<B2 の関係を満たし、かつ前記第一下部記録層のCo原子濃度とCr原子濃度との比を(Co/Cr)1、前記第二下部記録層のCo濃度とCr濃度との比を(Co/Cr)2とした場合に、 (Co/Cr)1 < (Co/Cr)2 の関係を満たすことを特徴とする(請求項1)。
【0020】
さらに、前記請求項1の発明の実施態様としては、請求項2ないし6に記載の発明が好ましく、前記請求項1を含めて、これらの詳細について以下に述べる。
【0021】
下部記録層はCo-Cr-Pt-B-M合金からなり、組成比率の異なる層を2層形成する。即ち、第一下部記録層および第二下部記録層を形成する。Mとしては、結晶構造に影響を与えず、飽和磁化Msを調整する元素であるCu,Ru,Ag,Zr,Taから選ばれる元素のうち、少なくとも一種を含む。下部記録層の内、中間層上に形成される第一下部記録層は下層との格子不整合によって導入される結晶欠陥の減少を目的として形成される。
【0022】
この層においては、初期層形成を抑制するために結晶成長を阻害するB濃度を6.0at%以下とすることが望ましい。B濃度増加は結晶子の粒径バラつきを低減し、SNR特性向上に効果があるが、6at%以上添加すると結晶性が悪化し、著しいO/W特性(オーバーライト特性)、SNR特性の悪化を招く。
【0023】
なお、第一下部記録層に、Co-Cr基合金への固溶限が低いAg,Zr,Ta等を添加する場合には、Co-Cr-Pt系合金の固溶限以内の濃度とすることが望ましい。また、第一下部記録層においては粒界形成が不十分となりやすく、粒間の交換相互作用が大きくなり易い。従って、飽和磁化をある程度低くする必要がある。この飽和磁化値については、通常用いられている単層下部記録層の長手媒体において検討されており、Ms≦150emu/cc程度とし、この磁気特性を満たすためにCoとCrの原子濃度比Co/Cr≦2.1とすることが望ましい。これ以上の飽和磁化とする場合、O/W特性の悪化、それにともなうSNRの悪化が生じる。特にCo/Cr<2.0の組成がO/W, SNRの向上には望ましい。
【0024】
また、第一下部記録層は結晶欠陥密度の高い成長初期層分のみを形成すれば良く、実験結果から、その膜厚は1.5〜8.0nm程度であることが望ましい。
【0025】
次に、下部記録層の内、ヘッド側に形成される第二下部記録層は、第一下部記録層と第二下部記録層の上に形成される上部記録層の間のエピタキシャル成長を円滑にしつつ、ノイズ増加を抑えながらある程度の磁化膜厚を確保する目的で形成される。この層のB濃度は粒径バラつき抑制のために高濃度であることが望ましい。ただし良好なエピタキシャル成長を得るため下層のB濃度より高く、上部記録層のB濃度より低い濃度であることが必要である。ノイズを増加することなく磁化膜厚を確保するためには、Co濃度とCr濃度の原子濃度の比が2.1〜2.3 程度であることが望ましい。
【0026】
上部記録層にはCo-Cr-Pt-B-M合金からなる層を一層以上形成する。Mとしては結晶構造に影響を与えず、Msを調整する元素としてCu,Ru,Ag,Zr,Taを含んでいても良い。また、上部記録層として同じ合金系からなる層を複数層形成しても良いが、良好なエピタキシャル成長を得るためには上部記録層各層のB濃度は、下層のB濃度より高く、上部記録層のB濃度より低い濃度であることが必要である。
【0027】
下地層についてはbcc構造を有するCr合金層を少なくとも1層積層する。なお、前記下地層はCrの他、Mo, W, B, Mn, Vから選ばれる元素のうち、少なくとも一種を含むことが好ましく、従来の長手磁気記録媒体と同様に記録層側に向かって格子定数が大きくなるように、Mo, W, B, Mn, Vなど格子定数を調整する元素の比率を変えた層を複数積層した構造とするのが望ましい。
【0028】
中間層としては、RuあるいはRuの他、Cr,B,Co,Ptから選ばれる元素のうち、少なくとも一種を含むことができ、これらの層を少なくとも1層形成する。
【0029】
記録層としては、前記請求項1に記載のようなものとする。Coの他、Cr,Bなどhcp構造を取りにくくする元素を含み、さらにPtによって格子長が大きくなっているため、bcc下地層の上に直接記録層を成膜した場合、bccからhcpへの結晶構造変化が円滑に進まず、結晶配向、構造が乱れやすくなる。そこであらかじめhcp構造を組み易いRu合金層を中間層として記録層成膜前に形成しておくことで記録層の結晶成長を円滑にすることができる。前記特許文献3の場合には、本発明と同様に、3層の磁性層を設けているが、Ru中間層を用いてはいない。また、Ru中間層直上に形成される記録層としては格子定数、粒径分散の観点から本発明に係るCo-Cr-Pt-B系合金が適している。
【0030】
なお、下地層の格子定数がRu合金よりも小さい場合には、下地層、Ru合金中間層の間にCo-Cr-M合金(Mとしては、Ta,B,Pt,Zr,Ruの内の少なくとも一種を含む)層を形成することにより、格子不整合が緩和され、電磁変換特性向上に効果がある。
【発明の効果】
【0031】
この発明によれば、下地層から記録層での結晶構造変化に起因して生じる結晶欠陥の記録層への干渉を防ぐことができ、電磁変換特性、熱揺らぎ耐性(熱安定性)が共に優れた長手磁気記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
次に、この発明の実施例に関して比較例と共に以下に述べる。この発明の実施例に係る長手磁気記録媒体の模式的断面図を図1に示す。図1において、1は基板、2はシード層、3は下地層、8は中間層、9aは第一下部記録層、9bは第二下部記録層、9cは上部記録層、10は保護膜である。
【0033】
下記の実施例および比較例において、磁気記録媒体における第一下部記録層、第二下部記録層および上部記録層の組成、ならびにCo原子濃度とCr原子濃度との比(Co/Cr)については図8に示す。また、実験した各試料の電磁変換特性の評価結果については、後述する図3〜図7に示す。
【0034】
なお、下記の実施例は、本発明の磁気記録媒体を好適に説明するための代表例に過ぎず、これらに限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
図1に示す層構成の媒体を作製した。基板は直径95mm、内径20mm、厚さ1.27mmのAlディスクを使用し、シード層として12μmのNi-Pメッキを施し、Co合金の円周/半径方向への配向制御、ヘッド浮上性を制御するための表面形状加工を施した。上記基板をランプヒーターを用いて真空雰囲気中で250℃に加熱後、下地層としてCr(4.0nm)、Cr70Mo30(2nm)を順に成膜し、中間層としてCo76Cr20Ta4(2.0nm)、Ru80Cr20(0.8nm)を順に成膜した。さらに、その上に第一下部記録層(7nm)/第二下部記録層(8nm程度)/上部記録層(7nm程度)/カーボン保護膜(3.0nm)を順に成膜、室温に冷却後、表面に潤滑層を形成した。前記加熱工程からカーボン保護膜形成までの工程は、DCマグネトロンカソードおよびCVDを備える枚葉式スパッタ装置で成膜した。
【0036】
次に、試料作製条件について述べる。記録層に使用したターゲット組成、および下部記録層のCo/Cr値を図8に示した。第一下部記録層のB濃度は6at%, Co/Cr原子濃度比は1.85、第二下部記録層はB濃度を8at%、Co/Cr原子濃度比は2.08、上部記録層のB濃度は13at%、Co/Cr原子濃度比は5.55である。試料磁気特性は、残留磁化と膜厚との積(Mrt)が0.39emu/cm2, 残留保磁力(Hcr)が4.0kOeから4.5kOeの範囲になるように作製した。
【0037】
なお、前記OeをSI単位に変換する場合には、1Oe=79.58A/mにより換算すればよい。また、基板条件、加熱、下地層〜中間層組成・膜厚は全ての試料について同一条件とし、前記の磁気特性範囲となるよう第二下部記録層、上部記録層の膜厚を設計した。
【0038】
(比較例1)
実施例1に対し、下部記録層を1層、即ち、第一下部記録層のみとして試料を作製した。用いたターゲット組成は図8に示した。磁気特性は、Mrtが0.39emu/cm2, Hcrが4.0kOeから4.5kOeの範囲になるように作製した。基板条件、加熱、下地層〜中間層組成・膜厚は全ての試料について同一条件とし、前記の磁気特性範囲となるよう下部記録層、上部記録層の膜厚を設計した。
【0039】
(実施例2)
実施例1に対し、第二下部記録層の組成を変更して試料を作製した。作製方法、条件は実施例1と同様である。記録層に使用したターゲット組成、および下部記録層のCo/Cr値を図8に示した。第二下部記録層は、B濃度を6at%、Co/Cr原子濃度比を2.15とした。
【0040】
(比較例2)
比較例2として、実施例2に対し第一下部記録層、第二下部記録層の組成を変更して試料を作製した。第一下部記録層のCo,Crの原子濃度比(Co/Cr)1と第二下部記録層のCo,Crの原子濃度比(Co/Cr)2が、(Co/Cr)1>(Co/Cr)2 の関係となるよう組成を調整した。試料作製方法、条件は実施例1と同様である。記録層に使用したターゲット組成、および下部記録層のCo/Cr値は図8に示した。第一下部記録層のB濃度は4at%, Co/Cr原子濃度比は1.98、第二下部記録層のB濃度は9at%、Co/Cr原子濃度比は1.92である。
【0041】
(実施例3)
実施例1に対し、第一下部記録層の組成を変更して試料を作製した。作製方法、条件は実施例1と同様である。記録層に使用したターゲット組成、および下部記録層のCo/Cr値を図8に示した。第一下部記録層のB濃度は4at%, Co/Cr原子濃度比は1.98、第二下部記録層はB濃度を8at%、Co/Cr原子濃度比は2.08である。
【0042】
(比較例3)
比較例3として、実施例3に対し第一下部記録層、第二下部記録層の組成を変更して試料を作製した。第一下部記録層のB原子濃度B1と、第二下部記録層のB原子濃度B2が B1>B2 の関係となるよう組成を調整した。試料作製方法、条件は実施例1と同様である。記録層に使用したターゲット組成、および下部記録層のCo/Cr値は図8に示した。第一下部記録層のB濃度は6at%, Co/Cr原子濃度比は1.85、第二下部記録層のB濃度は4at%、Co/Cr原子濃度比は2.12である。
【0043】
(実施例4)
実施例4は、実施例3の構成において、第一下部記録層の膜厚を0から9nmの範囲で変更した媒体を作製した。磁気特性は、Mrtを0.39emu/cm2, Hcrを4.5kOeとした。基板、加熱、下地層から中間層までの膜厚は実施例3と同条件とした。前記磁気特性をなるように、第二下部記録層、上部記録層の膜厚を設計した。
【0044】
(比較例4)
実施例1に対し、第一下部記録層、第二下部記録層の組成を変更して試料を作製した。作製方法、条件は実施例1と同様である。記録層に使用したターゲット組成、および下部記録層のCo/Cr値を図8に示した。第一下部記録層のB濃度は8at%、Co/Cr原子濃度比は1.85、第二下部記録層のB濃度は9at%、Co/Cr原子濃度比は1.92である。
【0045】
上記の様に作製した試料について電磁変換特性を評価した。その評価結果を図3〜図7に示す。評価は記録用の電磁誘導型ヘッドと再生用のGMR型ヘッドを有する複合型ヘッドを用い、スピンスタンド型テスターにより行った。100Gn/in2程度の記録周波数をHFとし、孤立波記録時の再生出力とHF記録時の媒体ノイズから信号/雑音比SNRを求めた。
【0046】
上記実施例1、比較例1の電磁変換特性を図3に示す。図3の縦軸はSNR(db)、横軸はO/W(-db)である。下部記録層を2層構成とすることでO/W特性に対するSNR特性が向上する。
【0047】
上記実施例2、比較例2の電磁変換特性を図4に示す。第一下部記録層と第二下部記録層のCo,Crの原子濃度比 (Co/Cr)1、(Co/Cr)2が、(Co/Cr)1<(Co/Cr)2となるような構成とすることにより、O/Wに対するSNR特性が向上する。
【0048】
上記実施例3、比較例3の電磁変換特性を図5に示す。第一下部記録層と第二下部記録層のB原子濃度B1,B2がB1<B2 となるような構成にすることでO/Wに対するSNR特性が向上する。第一下部記録層から第二下部記録層におけるエピタキシャル成長が促進されたためであると考えられる。
【0049】
上記実施例4と比較例1の電磁変換特性を図6に示す。下部記録層を2層とし、かつ第一下部記録層の膜厚を1.5nmから8nmの範囲とすることによりSNR特性が向上する。
【0050】
上記実施例1、実施例3と比較例4の電磁変換特性を図7に示す。第一下部記録層のB濃度が6at%を超えるとSNRが悪化する。
【0051】
上記実施例から明らかなように、本発明により、下地から記録層での結晶構造変化に起因して生じる結晶欠陥の記録層への干渉を防ぐことができ、媒体特性の向上が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】この発明の実施例に係る長手磁気記録媒体の模式的断面図。
【図2】従来の長手磁気記録媒体の一例の模式的断面図。
【図3】実施例1、比較例1の電磁変換特性を示す図。
【図4】実施例2、比較例2の電磁変換特性を示す図。
【図5】実施例3、比較例3の電磁変換特性を示す図。
【図6】実施例4と比較例1の電磁変換特性を示す図。
【図7】実施例1、実施例3と比較例4の電磁変換特性を示す図。
【図8】各実施例および比較例における各記録層の組成およびCo/Cr原子濃度比を示す図。
【符号の説明】
【0053】
1:基板、2:シード層、3:下地層、8:中間層、9a:第一下部記録層、9b:第二下部記録層、9c:上部記録層、10:保護膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板上に、シード層と、bcc構造を有するCr合金からなる下地層と、hcp構造を有するRu合金からなる中間層と、Co-Cr-Pt-B基合金からなる下部記録層と、前記下部記録層と同じ合金の基成分を有し、下部記録層よりBの原子濃度が大きく、かつ、Co原子濃度とCr原子濃度の比が大きな値を有する上部記録層と、保護層とを形成した磁気記録媒体において、
前記下部記録層は、前記中間層側に形成した第一下部記録層と、前記上部記録層側に形成した第二下部記録層との二層からなり、さらに、前記第一下部記録層のB原子濃度をB1、前記第二下部記録層のB原子濃度をB2とした場合に、 B1<B2 の関係を満たし、かつ前記第一下部記録層のCo原子濃度とCr原子濃度との比を(Co/Cr)1、前記第二下部記録層のCo濃度とCr濃度との比を(Co/Cr)2とした場合に、 (Co/Cr)1 < (Co/Cr)2 の関係を満たすことを特徴とする長手磁気記録媒体。
【請求項2】
前記第一下部記録層の膜厚を1.5nm〜8nmとすることを特徴とする長手磁気記録媒体。
【請求項3】
前記第一下部記録層は、そのB原子濃度B1が6%以下であり、かつ、Co原子濃度とCr原子濃度との比(Co/Cr)1が2.1以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の長手磁気記録媒体。
【請求項4】
前記各記録層は、Co, Cr, Pt, Bの他、Cu, Ru, Ag, Zr, Taから選ばれる元素のうち、少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の長手磁気記録媒体。
【請求項5】
前記下地層は、Crの他、Mo, W, B, Mn, Vから選ばれる元素のうち、少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の長手磁気記録媒体。
【請求項6】
前記中間層は、Ruの他、Cr,B,Co,Ptから選ばれる元素のうち、少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の長手磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−159144(P2008−159144A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345966(P2006−345966)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】