説明

長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法

【課題】強化繊維の毛羽が少なく、取扱い性に優れた芯−鞘型の長繊維ペレットを得ることができる長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法を提供する。
【解決手段】強化繊維束[A]、または、該強化繊維束[A]にJIS K7199規格に基づく溶融粘度が0.1〜10Pa・sの範囲である熱可塑性重合体[C]を含浸した熱可塑性重合体含浸強化繊維束[A]に熱可塑性樹脂[B]を被覆した後、3〜20mmの範囲の長さに切断する芯−鞘型の長繊維ペレットの製造方法であって、前記熱可塑性樹脂[B]を4〜20個の口金から構成されるクロスヘッドダイを備えた押出機より、各口金の吐出量の経時変動が口金内平均吐出量の−10〜10%の範囲で、かつ各口金の口金内平均吐出量が口金間平均吐出量の90〜110%の範囲で吐出することを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の機械特性や成形品外観に優れるだけでなく、芯−鞘型の長繊維ペレットの鞘部分に割れが少ないため、強化繊維の毛羽発生量が僅かである長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂の機械特性を向上させる目的でガラス繊維や炭素繊維などの強化繊維を複合化させる技術が知られている。機械特性の向上には成形品中での強化繊維の繊維長が大きく寄与する。成形品中での繊維長を長くするために、ペレット中の強化繊維を長くした、いわゆる長繊維ペレットが求められている。
【0003】
長繊維ペレットには、プルトルージョン技術を利用して強化繊維の束に樹脂を含浸させた樹脂含浸型ペレットと、ワイヤーコーティングの技術を利用して強化繊維の束を熱可塑性樹脂で被覆した芯−鞘型ペレットに大別され、芯−鞘型の長繊維ペレットは生産性に優れるという利点がある。また、芯−鞘型長繊維ペレットを成形した場合、成形品中での強化繊維の分散が悪いという課題があったが、強化繊維束に低粘度の熱可塑性重合体を塗布・含浸することで、強化繊維の成形品への分散が優れ、成形品の機械特性および外観に優れる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、芯−鞘型の長繊維ペレットは、通常のペレットより強化繊維の毛羽が多く、取扱い性が劣っているという問題がある。
【特許文献1】特開平10−138379
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記従来の問題点を解決しようとするものであり、強化繊維の毛羽が少なく、取扱い性に優れた芯−鞘型の長繊維ペレットを得ることができる長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、従来法による芯−鞘型の長繊維ペレットに毛羽が多い原因について、強化繊維を被覆している樹脂部分の鞘に被覆ムラがあるためであろうとの考えの下に原因を検討したところ、鞘の被覆ムラは主として製造工程中の樹脂吐出工程に原因があることを見出すとともに、樹脂吐出条件を特定の条件としたところ、従来法と比較して鞘の被覆ムラが少なく毛羽が格段に少ない製造方法を提供できることを見出した。すなわち、本発明で用いる製造方法は、
(1)強化繊維束[A]、または、該強化繊維束[A]にJIS K7199規格に基づく溶融粘度が0.1〜10Pa・sの範囲である熱可塑性重合体[C]を含浸した熱可塑性重合体含浸強化繊維束[A]に熱可塑性樹脂[B]を被覆した後、3〜20mmの範囲の長さに切断する芯−鞘型の長繊維ペレットの製造方法であって、前記熱可塑性樹脂[B]を4〜20個の口金から構成されるクロスヘッドダイを備えた押出機より、各口金の吐出量の経時変動が口金内平均吐出量の−10〜10%の範囲で、かつ各口金の口金内平均吐出量が口金間平均吐出量の90〜110%の範囲で吐出することを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法。
【0007】
(2)前記クロスヘッドダイを構成する各口金の樹脂吐出量の合計が10〜200kg/hであることを特徴とする(1)に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法。
【0008】
(3)下記の要件(i)〜(iii)を満たすスクリューを備えた単軸押出機で前記熱可塑性樹脂[B]を溶融して吐出することを特徴とする(1)または(2)のいずれかに記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法。
【0009】
(i)スクリューの溶融部/圧縮部/供給部の長さ比が25〜35/2〜10/50〜75であり、
(ii)スクリューの供給部溝深さHと溶融部溝深さHとの比H/H(スクリュー圧縮比)が、2〜6であり、
(iii)スクリューの長さLと直径Dとの比(L/D)が20〜40であるスクリュー。
【0010】
(4)前記クロスヘッドダイを構成する口金1〜3個毎に、1つのギヤポンプを用いて前記熱可塑性樹脂[B]の供給量を制御することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法。
【0011】
(5)前記強化繊維束[A]または前記熱可塑性重合体含浸強化繊維束[A]に前記熱可塑性樹脂[B]を被覆するに当たり、前記強化繊維束[A]または前記熱可塑性重合体含浸強化繊維束[A]の単位長さ当たりの重量に対し、付与する前記熱可塑性樹脂[B]の重量が単位長さ当たり1.5〜19倍量である(1)〜(4)のいずれかに記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法。
【0012】
(6)前記熱可塑性重合体[C]が、フェノールもしくはフェノールの置換基誘導体と脂肪族炭化水素との縮合によって得られ、かつ重量平均分子量が300〜1000の範囲の熱可塑性重合体である(1)〜(5)のいずれかに記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、強化繊維の毛羽の発生が少ない芯−鞘型長繊維ペレットを得ることができ、その結果、成形時のトラブルがなく、外観良好で機械特性に優れた繊維強化熱可塑性樹脂成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明についてさらに詳しく述べる。本発明の芯−鞘型長繊維ペレットの製造方法は、強化繊維束[A]、または、該強化繊維束[A]にJIS K7199規格に基づく溶融粘度が0.1〜10Pa・sの範囲である熱可塑性重合体[C]を含浸した熱可塑性重合体含浸強化繊維束[A]に熱可塑性樹脂[B]が被覆されてなる芯−鞘型の長繊維ペレットの製造方法であって、前記熱可塑性樹脂[B]を4〜20個の口金から構成されるクロスヘッドダイを備えた押出機より、各口金の吐出量の経時変動が口金内平均吐出量の−10〜10%の範囲で、かつ各口金の口金内平均吐出量を口金間平均吐出量の90〜110%の範囲で吐出し、強化繊維束[A]または熱可塑性重合体含浸強化繊維束[A]の連続した強化繊維束に被覆した後、3〜20mmの範囲の長さに切断することを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法である。
【0015】
ここで使用する強化繊維束[A]としては、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、炭素繊維やガラス繊維にニッケルや銅などの金属を被覆した金属被覆繊維などのロービング、ヤーンなどの連続繊維が使用できるが、必ずしもこれに限定されるものではない。また、これらの繊維は、公知の表面処理剤(集束剤)で処理されていてもよい。好ましい強化繊維としては、成形品の機械特性と軽量性のバランスから炭素繊維が好ましい。
【0016】
また、強化繊維束[A]に代えて熱可塑性重合体含浸強化繊維束[A]を用いることも可能である。熱可塑性重合体含浸強化繊維束[A]は、強化繊維束[A]にJIS K7199規格〔溶融温度:軟化温度(または融点)+30℃、剪断速度:10−1〕に基づく溶融粘度が0.1〜10Pa・sの範囲である熱可塑性重合体[C]を含浸して作成する。強化繊維束[A]に熱可塑性重合体[C]を含浸するのは、同一ライン中で熱可塑性樹脂[B]を被覆する工程の前に設定してもよいし、別の装置で予め強化繊維束[A]に熱可塑性重合体[C]を含浸し巻き上げたものを作成しこれを用いてもよい。
【0017】
熱可塑性樹脂[B]としては、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、液晶性ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ABS樹脂などの熱可塑性樹脂から選ぶことができるが、必ずしもこれに限定されるものではない。好ましい樹脂としては、成形品の強度、および成形性の点から、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂などが挙げられる。
【0018】
このような強化繊維束[A]、または、熱可塑性重合体含浸強化繊維束[A]に熱可塑性樹脂[B]を4〜20個の口金から構成されるクロスヘッドダイを備えた押出機より吐出、被覆して芯−鞘型の長繊維ペレットとする製造方法において、前記熱可塑性樹脂[B]の各口金の吐出量の経時変動が口金内平均吐出量の−10〜10%の範囲であり、かつ各口金の口金内平均吐出量が口金間平均吐出量の90〜110%の範囲であるようにするものである。各口金の口金内変動による吐出量ばらつきが口金内平均吐出量の−10〜10%の範囲を外れると、得られたペレット中に鞘部分の樹脂被覆層が部分的に薄くなるものが現れて割れやすくなり、強化繊維束の毛羽発生量が増大するようになる。
【0019】
なお、本発明において吐出量とは、単位時間当たりに吐出される樹脂量を表すものであり、kg/hで表すものとし、各口金の吐出量の経時変動とは、連続で樹脂を吐出している口金において、時間軸に対する樹脂吐出量の変動を表すものであり、以下のように測定する。
【0020】
各口金から1分間に吐出される樹脂を、30分毎に10回採取を行い、採取した樹脂の正確な重量を測定する。10回の測定値の平均をとり、口金内平均吐出量とし、さらに各測定時点毎の測定値と10回測定との平均値の差異を各口金の吐出量の経時変動とする。
【0021】
また、口金間平均吐出量は、上述した各口金の10回測定の平均値を平均化したものである。
【0022】
また、各口金の口金内平均吐出量が口金間平均吐出量の90〜110%の範囲を外れても、同様に鞘部分の樹脂被覆層が部分的に薄くなるものが現れて割れやすくなり、強化繊維束の毛羽発生量が増大するようになる。
【0023】
本発明において、各口金の樹脂吐出量の合計が10〜200kg/hの範囲であることが好ましい。各口金の樹脂吐出量の合計が10〜200kg/hの範囲とすることで、各口金の吐出量の経時変動、および各口金間の時間変動による吐出量ばらつきを抑えることができ、その結果として強化繊維束毛羽の少ないペレット得ることができる。
【0024】
また、熱可塑性樹脂[B]を溶融、吐出する押出機は下記の要件(i)〜(iii)を満たすスクリューを備えた単軸押出機であることが好ましい。
【0025】
(i)スクリューの溶融部/圧縮部/供給部の長さ比が25〜35/2〜10/50〜75であり、
(ii)スクリューの供給部溝深さHと溶融部溝深さHとの比H/H(スクリュー圧縮比)が、2〜6であり、
(iii)スクリューの長さLと直径Dとの比(L/D)が、20〜40であるスクリュー。
【0026】
このようなスクリューを有する単軸押出機を使用することで、熱可塑性樹脂[B]を吐出する際の脈動が小さく、安定して樹脂を吐出することができ、各口金の口金内平均吐出量ばらつきを小さくすることができる。
【0027】
さらに、本発明にて使用するクロスヘッドダイは、該クロスヘッドダイを構成する口金1〜3個毎に、1つのギヤポンプを用いて熱可塑性樹脂[B]の供給量を制御することができるクロスヘッドダイであることが好ましい。ギヤポンプを用いることで、各口金に供給する熱可塑性樹脂[B]のばらつきをより小さくすることが可能となり、その結果として強化繊維束毛羽の少ないペレット得ることができる。
【0028】
強化繊維束[A]または熱可塑性重合体含浸強化繊維束[A]に熱可塑性樹脂[B]を被覆するにあたり、強化繊維束[A]または熱可塑性重合体含浸強化繊維束[A]の単位長さ当たりの重量に対し、付与する熱可塑性樹脂[B]の重量が単位長さ当たり1.5〜19倍量であることが好ましい。熱可塑性樹脂[B]の重量が単位長さ当たり1.5倍より小さいと、熱可塑性樹脂[B]による強化繊維束[A]または熱可塑性重合体含浸強化繊維束[A]の被覆部分が薄くなってしまい、被覆樹脂が割れやすくなり毛羽が増加するようになる。また、熱可塑性樹脂[B]の重量が単位長さ当たり19倍より大きいと強化繊維による物性向上が低くなる。かかる熱可塑性樹脂[B]の被覆量のコントロールは、強化繊維束[A]または熱可塑性重合体含浸強化繊維束[A]の装置を通過する速度(引き取り速度)や、熱可塑性樹脂[B]の吐出量などにより行うことができる。
【0029】
次に、本発明に用いられる樹脂系材料、すなわち、熱可塑性樹脂[B]、および熱可塑性重合体[C]について詳細に説明する。
【0030】
熱可塑性樹脂[B]は、前述のとおり、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、液晶性ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ABS樹脂などの熱可塑性樹脂から選ぶことができるが、必ずしもこれに限定されるものではない。好ましい樹脂としては、成形品の強度および、成形性の点から、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂などが挙げられる。
【0031】
これらの熱可塑性樹脂は単独でも、混合物でも、共重合体であってもよい。また、混合物の場合は相溶化剤を併用してもよい。さらにまた難燃剤として臭素系難燃剤、シリコン系難燃剤、赤リンなどを加えてもよい。さらに、リン酸エステルやカーボンブラックを配合してもよい。
【0032】
さらに、良好な成形品特性、機械特性を得ることを目的として、種々の添加剤を加える場合もある。添加剤としては、炭酸カルシウム、シリカ、カオリン、クレー、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、アルミナ、水酸化マグネシウムのような無定形フィラー、タルク、マイカ、あるいはガラスフレークなどの板状フィラー、ワラステナイト、チタン酸カリウム、塩基性硫酸マグネシウム、セピオライト、ゾノトライト、あるいはホウ酸アルミニウムなどの針状フィラー、金属粉、金属フレーク、カーボンブラックなどの導電性フィラーなどが用いられる。これら添加剤は単体もしくは複数の組み合わせで使用してもよいし、その表面に炭素被覆またはシランカップリング処理などを施したものを単体もしくは複数の組み合わせとして使用してもよい。
【0033】
また、前述のように強化繊維束[A]に代えて熱可塑性重合体含浸強化繊維束[A]を用いることも成形性の良い材料が得られることから好ましい。熱可塑性重合体含浸強化繊維束[A]は、強化繊維束[A]にJIS K7199規格〔溶融温度:軟化温度(または融点)+30℃、剪断速度:10−1〕に基づく溶融粘度が0.1〜10Pa・sの範囲である熱可塑性重合体[C]を含浸して得られる。
【0034】
これを熱可塑性樹脂[B]で被覆して得られたペレットは、熱可塑性重合体[C]が強化繊維束[A]の繊維間に存在することで、成形の際に熱可塑性樹脂中への強化繊維の分散がよくなり、機械特性及び外観に優れた成形品が得られる。
【0035】
好ましい熱可塑性重合体[C]としては、フェノールもしくはフェノールの置換基誘導体と、脂肪族炭化水素との縮合によって得られる熱可塑性重合体が挙げられる。縮合反応は、強酸もしくはルイス酸の存在化に行うことができる。フェノールの置換基誘導体としては、フェノールのベンゼン核上に、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基より選ばれる置換基を1〜3個有するものが好ましく用いられる。その具体例としては、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、ブチルフェノール、t−ブチルフェノール、ノニルフェノール、3,4,5−トリメチルフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、クロロクレゾール、ヒドロキノン、レゾルシノール、オルシノールなどが挙げられる。特に好ましくはフェノールおよびクレゾールが挙げられる。脂肪族炭化水素は二重結合を2個有する脂肪族炭化水素であり、環状構造を有してもよい。環状構造を持たない例としては、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、ヘキサジエンなどが挙げられる。環状構造を有する例としては、単環性の化合物としては、シクロヘキサジエン、ビニルシクロヘキセン、シクロヘプタジエン、シクロオクタジエン、C1016の分子式で表される単環式モノテルペン(ジペンテン、リモネン、テルピノレン、テルピネン、フェランドレン)など、二環性の化合物としては、2,5−ノルボルナジエン、テトラヒドロインデン、C1524の分子式で表される二環式セスキテルペン(カジネン、セリネン、カリオフィレンなど)など、三環性の化合物としてジシクロペンタジエンなどが挙げられる。これらの中で特に好ましいのは、C1016の分子式で表される単環式モノテルペンが挙げられる。より好ましい熱可塑性重合体[C]としては、フェノールもしくはフェノールの置換基誘導体と、C1016の分子式で表される単環式モノテルペンとの縮合物で、かつ重量平均分子量が300〜1000の範囲の熱可塑性重合体である。重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を使用し、検出器として低角度光散乱高度計(LALLS)を使用した装置で測定される。
【0036】
また、本発明の製造方法によって得られる長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットは、各種の熱可塑性樹脂、例えば、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、液晶性ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ABS樹脂などの熱可塑性樹脂、あるいはそれらの変性物やエラストマー類を配合することにより、成形用樹脂ペレットとして性能をさらに改良することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0038】
実施例、比較例に使用した熱可塑性樹脂と熱可塑性重合体の評価項目、およびその方法、および実施例、比較例で得られた長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの評価項目およびその方法を以下に示す。
【0039】
(a)熱可塑性重合体の溶融粘度
JIS K 7199規格に準拠した測定方法にて評価した。キャピラリーレオメータ (キャピラリーノズル径0.5mm)に、粉砕した熱可塑性重合体をシリンダーに入れ、180℃(軟化温度+30℃の温度)で5分間予熱した後、剪断速度10−1で溶融粘度を測定した。
【0040】
(b)各口金の樹脂吐出量のばらつき測定
各口金から1分間に吐出される樹脂を、30分毎に10回採取を行った。採取した樹脂の正確な重量を測定した。10回の測定値の平均をとり、口金内平均吐出量とし、さらに各測定時点毎の測定値と10回測定との平均値の差異を各口金の吐出量の経時変動とした。
【0041】
また、口金間平均吐出量は、上述した各口金の10回測定の平均値をさらに平均化したものである。
【0042】
(c)ペレット中の毛羽含有率、および割れのあるペレット含有率の測定
1時間毎に5回、ペレット約200gを採取し、正確な重量を測定した。その後、採取したペレット中に含まれていた毛羽量、および割れのあるペレットの重量を測定し、それぞれを全体の重量で除して含有率とした。
【0043】
次に、実施例、比較例で使用した原料を以下に示す。
強化繊維束[A]:東レ(株)製 “トレカ(登録商標)”T700SC、単繊維径7μm
熱可塑性樹脂[B]:ポリアミド6樹脂 東レ(株)製“アミラン(登録商標)”CM1001
熱可塑性重合体[C]:ヤスハラケミカル(株)製 テルペンフェノール樹脂 K140
軟化温度:150℃、重量平均分子量:790
溶融粘度:3.5Pa・s(180℃、剪断速度10−1
実施例、比較例に用いた長繊維ペレット製造装置の概略を図1に示す。
【0044】
図1において、強化繊維束1は熱可塑性重合体の含浸部2を通って、熱可塑性重合体が付着、含浸される。熱可塑性重合体が含浸された強化繊維束3は樹脂被覆用のクロスヘッドダイ5を通って、周囲に熱可塑性樹脂が被覆される。熱可塑性樹脂が被覆された強化繊維束6(以下、ガットと記載)は冷却装置7にて冷却された後、ストランドカッター8で所定の長さにカットされ、長繊維ペレット9を得る。
【0045】
実施例、比較例に用いた押出機のスクリューの概略を図2、図3に示す。
【0046】
図2はタイプAのスクリューである。本スクリューは、溶融部/圧縮部/供給部=30/5/65、圧縮比:4、φ50mm、L/D:30である。
【0047】
図3はタイプBのスクリューである。本スクリューは、溶融部/圧縮部/供給部=30/25/45、圧縮比:4、φ50mm、L/D:30である。
【0048】
[実施例1]
8本の炭素繊維束それぞれに180℃で溶融したテルペンフェノール樹脂を滴下し一定量を付着させ、それぞれの炭素繊維束を210℃に加熱し、ベアリングで自由に回転する一直線上に配置された10本のロールの上下を交互に通過させ、テルペンフェノール樹脂を炭素繊維束の内部にまで含浸させ、炭素繊維とテルペンフェノール樹脂よりなる連続した複合体を形成した。
【0049】
熱可塑性重合体を十分に含浸させた後に、260℃に温度制御され口金2個につき1台のギヤポンプを備えたクロスヘッドダイに引き込み、ポリアミド6樹脂をクロスヘッドダイに接続されたタイプAのスクリューを備えた単軸押出機により溶融させ供給し、該炭素繊維束周りにポリアミド6樹脂を被覆させ冷却装置で冷却し、ペレタイザーで長さ7mmに切断し、芯−鞘型長繊維ペレットを得た。
【0050】
このとき、各口金からの樹脂吐出量のばらつきは表1に示すとおりであった。炭素繊維束の引き取り速度は20m/分で行い、得られたペレットの炭素繊維含有量は25重量%であった。
【0051】
[実施例2]
ガットの引取速度を30m/分に変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0052】
[実施例3]
押出機のスクリューをBタイプに変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0053】
[比較例1]
押出機のスクリューをBタイプに変更し、ギヤポンプのないクロスヘッドダイに変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0054】
[比較例2]
押出機のスクリューをBタイプに変更し、ギヤポンプのないクロスヘッドダイに変更した以外は、実施例2と同様に行った。
【0055】
【表1】

【0056】
表1の結果より、本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造法により製造した長繊維強化熱可塑性樹脂ペレット(実施例1〜3)は、いずれも毛羽および鞘部分の割れたペレットの含有率が0のペレットが得られた(総合評価:○)。
【0057】
これに対し、樹脂吐出量のばらつきが大きく、本発明の範囲を超えるもの(比較例1〜2)では毛羽および鞘部分の割れたペレットの含有率が多くなる。(総合評価:×)。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造法を用いれば、強化繊維の毛羽の発生が非常に少ない芯−鞘型の長繊維ペレットを得ることができ、その結果、成形時のトラブルがなく、外観良好で機械特性に優れた成形品を得られ、パソコン、OA機器、AV機器、家電製品、玩具用品などの電気・電子機器の部品や筐体に広く利用することができるが、その応用範囲は、これらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る芯−鞘型長繊維ペレット製造装置の一例を示す概略図である。
【図2】実施例1、2に使用した単軸押出機スクリューの概略図である。
【図3】実施例3、比較例1、2に使用した単軸押出機スクリューの概略図である。
【符号の説明】
【0060】
1:強化繊維束
2:熱可塑性重合体の含浸部
3:熱可塑性重合体が含浸された強化繊維束
4:押出機
5:樹脂被覆用のクロスヘッドダイ
6:熱可塑性樹脂で被覆された強化繊維束(ガット)
7:冷却装置
8:ガット引取装置及びストランドカッター
9:芯−鞘型長繊維ペレット
10:単軸押出機スクリュー:タイプA
11:単軸押出機スクリュー:タイプB

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維束[A]、または、該強化繊維束[A]にJIS K7199規格に基づく溶融粘度が0.1〜10Pa・sの範囲である熱可塑性重合体[C]を含浸した熱可塑性重合体含浸強化繊維束[A]に熱可塑性樹脂[B]を被覆した後、3〜20mmの範囲の長さに切断する芯−鞘型の長繊維ペレットの製造方法であって、前記熱可塑性樹脂[B]を4〜20個の口金から構成されるクロスヘッドダイを備えた押出機より、各口金の吐出量の経時変動が口金内平均吐出量の−10〜10%の範囲で、かつ各口金の口金内平均吐出量が口金間平均吐出量の90〜110%の範囲で吐出することを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法。
【請求項2】
前記クロスヘッドダイを構成する各口金の樹脂吐出量の合計が10〜200kg/hであることを特徴とする請求項1に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法。
【請求項3】
下記の要件(i)〜(iii)を満たすスクリューを備えた単軸押出機で前記熱可塑性樹脂[B]を溶融して吐出することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法。
(i)スクリューの溶融部/圧縮部/供給部の長さ比が25〜35/2〜10/50〜75であり、
(ii)スクリューの供給部溝深さHと溶融部溝深さHとの比H/H(スクリュー圧縮比)が、2〜6であり、
(iii)スクリューの長さLと直径Dとの比(L/D)が20〜40であるスクリュー。
【請求項4】
前記クロスヘッドダイを構成する口金1〜3個毎に、1つのギヤポンプを用いて前記熱可塑性樹脂[B]の供給量を制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法。
【請求項5】
前記強化繊維束[A]または前記熱可塑性重合体含浸強化繊維束[A]に前記熱可塑性樹脂[B]を被覆するに当たり、前記強化繊維束[A]または前記熱可塑性重合体含浸強化繊維束[A]の単位長さ当たりの重量に対し、付与する前記熱可塑性樹脂[B]の重量が単位長さ当たり1.5〜19倍量であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法。
【請求項6】
前記熱可塑性重合体[C]が、フェノールもしくはフェノールの置換基誘導体と脂肪族炭化水素との縮合によって得られ、かつ重量平均分子量が300〜1000の範囲の熱可塑性重合体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−183793(P2008−183793A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−19013(P2007−19013)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】