説明

開環共重合体、開環共重合体水素化物、それらの製造方法および組成物

【課題】低吸水率で、金属などの他材料との密着性および硬化剤など他化合物との相溶性に優れ、さらに高耐熱性を有し、高周波域での信号遅延や信号ノイズが少ない開環メタセシス共重合体およびその水素化物を提供する。
【解決手段】ヒドロキシル基を有するノルボルネン系単量体と、無置換の三環体以上のノルボルネン系単量体とを、中性の電子供与性配位子が配位している有機ルテニウム化合物を主成分とする触媒の存在下で、開環メタセシス共重合することによって、さらにそれを水素化することによって、ヒドロキシル基を有し、所望の単量体組成を有し、かつ高分子量の開環メタセシス共重合体及び開環メタセシス共重合体水素化物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なノルボルネン系開環メタセシス共重合体(以下、「開環メタセシス共重合体」または「共重合体」という)および該共重合体の水素化物に関する。より詳細には、低吸水性及び電気特性と、金属密着性および他材料との相溶性とのバランスに優れ、しかも耐熱性に優れた開環メタセシス共重合体およびその水素化物に関する。
【背景技術】
【0002】
極性基を含まないノルボルネン系単量体の開環メタセシス重合体およびその水素化物は、耐熱性、電気特性、低吸水性に優れているため、電気絶縁用途に広く使われている。しかし、銅やシリコンなどの金属あるいはガラスなどの他材料に対する密着性が低いことや、硬化剤やエポキシ樹脂などの他の化合物との相溶性が低い。
【0003】
一方、極性基を含むノルボルネン系単量体を重合したものが提案されている。具体的には、5,6−ジヒドロキシメチル−ビシクロ−[2.2.1]−ヘプト−2−エンのアセテートのごときエステル基またはヒドロキシル基を有するノルボルネン系単量体をタングステン系触媒の存在下で単独開環重合し、水素化して得られたヒドロキシル基等の極性基を多数有する重合体(特許文献1参照);タングステン系触媒を用いて得られた8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンの単独開環重合体や、8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンとビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンとの開環共重合体を、水素化し、さらに加水分解して得られるヒドロキシカルボニル基を有する重合体(特許文献2参照)が開示されている。これらの重合体は、極性基を含まない重合体に比べ密着性が若干改善されているけれど、吸水率が高く、GHz帯域の高周波信号の伝搬遅延時間が長く、また信号ノイズを拾いやすい。また上記のごとく極性基を有するノルボルネン系単量体と2環のノルボルネン系単量体とからなる高分子量の共重合体は、ガラス転移温度(Tg)が低く、耐熱性も不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−155988号公報
【特許文献2】特開平11−52574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、電気特性及び低吸水性に優れ、且つ金属などの他材料との密着性および硬化剤など他化合物との相溶性に優れ、さらに高耐熱性を有する開環メタセシス共重合体およびその水素化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特許文献2などに開示されているように、8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンに高いTgを与える3環以上の環を有するノルボルネン系単量体をタングステン系触媒を用いて共重合させようとしたが、副反応が起きて、所望の分子量及び繰り返し単位比を有する開環共重合体を得ることができなかった。
【0007】
そこで、本発明者らは、上述の目的を達成するためにさらに研究を行った結果、特定のルテニウム系触媒を用いることによって、ヒドロキシル基を有する繰り返し単位と無極性基のみからなる繰り返し単位が所望の割合で結合した高分子量のノルボルネン系開環メタセシス共重合体およびその水素化物を得ることができ、さらにその共重合体およびその水素化物が金属やガラスなどの他材料に対する密着性および硬化剤など他化合物との相溶性に優れ、さらに耐熱性、電気特性および低吸水性の特性をバランスよく有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして本発明によれば、一般式(1)で表される繰り返し単位と、一般式(2)で表される繰り返し単位または一般式(3)で表される繰り返し単位とからなり、全繰り返し単位に対するヒドロキシル基の数の割合が5〜100%であり、かつゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が1,000〜500,000である開環メタセシス共重合体が提供される。
【0009】
【化1】

(1)
(式(1)中、R〜Rの少なくとも一つがヒドロキシル基を含む置換基(ヒドロキシカルボニル基は除く)であり、その他は水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基又はハロゲン原子、ケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む基(ヒドロキシル基及びヒドロキシカルボニル基を除く)を示す。mは0〜2の整数を表す。)
【0010】
【化2】

(2)
(式(2)中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、RまたはRがRまたはRと結合して環を形成しても構わない。nは1〜2の整数を表す。)
【0011】
【化3】

(3)
(式(3)中、R、R10、R11およびR12は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、RまたはR10がR11またはR12と結合して環を形成している。)
【0012】
本発明によれば、一般式(1)で表される繰り返し単位と、一般式(2)または(3)で表される繰り返し単位と、一般式(5)で表される繰り返し単位と、一般式(6)または(7)で表される繰り返し単位とからなり、一般式(1)、(2)及び(3)で表される繰り返し単位の合計が全繰り返し単位の50〜0%であり、一般式(5)、(6)及び(7)で表される繰り返し単位の合計が全繰り返し単位の50〜100%であり、全繰り返し単位に対するヒドロキシル基の数の割合が5〜100%であり、かつゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が1,000〜500,000である開環メタセシス共重合体水素化物が提供される。
【0013】
【化4】

(5)
(式(5)中、R〜Rの少なくとも一つがヒドロキシル基を含む置換基(ヒドロキシカルボニル基を除く)であり、その他は水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基又はハロゲン原子、ケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む基(ヒドロキシル基及びヒドロキシカルボキシル基を除く)を示す。mは0〜2の整数を表す。)
【0014】
【化5】

(6)
(式(6)中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、RまたはRがRまたはRと結合して環を形成しても構わない。nは1〜2の整数を表す。)
【0015】
【化6】

(7)
(式(7)中、R、R10、R11およびR12は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、RまたはR10がR11またはR12と結合して環を形成している。)
【0016】
また本発明によれば、前記開環メタセシス共重合体及び開環メタセシス共重合体水素化物から選ばれる少なくとも1種の共重合体と、硬化剤とを含有する硬化性樹脂組成物が提供される。
【0017】
さらに本発明によれば、一般式(9)で表される単量体と、一般式(10)で表される単量体または一般式(11)で表される単量体とを、中性の電子供与性配位子が配位している有機ルテニウム化合物を主成分とする触媒の存在下で、開環メタセシス共重合することを含む開環メタセシス共重合体の製造方法、及び この製造方法で得られた開環メタセシス共重合体の主鎖二重結合を水素化することを含む開環メタセシス共重合体水素化物の製造方法が提供される。
【0018】
【化7】

(9)
(式(9)中、R〜Rの少なくとも一つが、−OH(すなわち、ヒドロキシル基)を含む置換基(ヒドロキシカルボニル基は除く)であり、その他は水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基又はハロゲン原子、ケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む基(ヒドロキシル基及びヒドロキシカルボキシル基を除く)を示す。mは0〜2の整数を表す。)
【0019】
【化8】

(10)
(式(10)中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、RまたはRがRまたはRと結合して環を形成しても構わない。nは1〜2の整数を表す。)
【0020】
【化9】

(11)
(式(11)中、R、R10、R11およびR12は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、RまたはR10がR11またはR12と結合して環を形成している。)
【発明の効果】
【0021】
本発明の製造方法によれば、ヒドロキシル基を有するノルボルネン系単量体と、3環体以上のノルボルネン系単量体との開環メタセシス共重合ができ、所望の単量体組成比で、高分子量のものが得られる。また、本発明の開環メタセシス共重合体及びその水素化物は、吸水性が低く、信号遅延や信号ノイズが少なく、銅やシリコンとの密着性に優れ、さらに、従来相溶性の低かった硬化剤との相溶性にも優れている。本発明の共重合体及び水素化物と、硬化剤とを含有する組成物は、それを硬化することによって、電子部品や多層回路基板などの電気絶縁材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の開環メタセシス共重合体は、一般式(1)で表される繰り返し単位と、一般式(2)または(3)で表される繰り返し単位とからなるものである。
【0023】
本発明の開環メタセシス共重合体水素化物は、一般式(1)で表される繰り返し単位と、一般式(2)または(3)で表される繰り返し単位と、一般式(5)で表される繰り返し単位と、一般式(6)または(7)で表される繰り返し単位とからなるものである。
【0024】
なお、本発明の好適な開環メタセシス共重合体及び開環メタセシス共重合体水素化物は、上記繰り返し単位以外の繰り返し単位を実質的に含まないものである。
【0025】
本発明の開環メタセシス共重合体及び開環メタセシス共重合体水素化物を構成する一般式(1)及び(5)で表される繰り返し単位は、ヒドロキシル基が置換基として結合しているものである。一方、一般式(2)、(3)、(6)及び(7)で表される繰り返し単位は、置換基が無いか、または炭化水素基が置換基として結合しているものである。
【0026】
ヒドロキシル基(ヒドロキシカルボニル基中のヒドロキシル基を除く)の数は、開環メタセシス共重合体または開環メタセシス共重合体水素化物を構成する繰り返し単位に対して5〜100%、好ましくは8〜90%、より好ましくは10〜80%である。共重合体中のヒドロキシル基の数の割合を上記範囲にすることによって、他材料との密着性および他化合物との相溶性に優れ、さらに耐熱性、電気特性および低吸水性の特性がバランスする。
【0027】
一般式(1)及び(5)で表される繰り返し単位中の、ヒドロキシル基を含む基は、共重合時に使用する単量体中に既に結合していたものであってもよいし、共重合後あるいは水素化後に、加水分解反応等によって導入したものであってもよい。
【0028】
本発明の開環メタセシス共重合体水素化物は、一般式(1)、(2)及び(3)で表される繰り返し単位の合計が50〜0%、好ましくは30〜0%、より好ましくは20〜0%、特に好ましくは10〜0%であり、一般式(5)、(6)及び(7)で表される繰り返し単位の合計が50〜100%、好ましくは70〜100%、より好ましくは80〜100%、特に好ましくは90〜100%である。
【0029】
一般式(1)〜(3)で表される繰り返し単位は、ノルボルネン系単量体に由来する単位であり、ノルボルネン系単量体を後述の触媒の存在下に開環メタセシス共重合することによって得られる。
【0030】
また、一般式(5)〜(7)で表される繰り返し単位も、ノルボルネン系単量体に由来する単位であり、ノルボルネン系単量体を後述の触媒の存在下に開環メタセシス共重合した後、主鎖の不飽和結合を水素化することによって得られる。
【0031】
ノルボルネン系単量体には、m又はnが0であるビシクロヘプテン誘導体、m又はnが1であるテトラシクロドデセン誘導体、m又はnが2であるヘキサシクロヘプタデセン誘導体等が含まれる。また置換基によってさらに環を形成したものも含まれる。環形成のための置換基としては、例えば、ビニレン基、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基などが挙げられる。
【0032】
一般式(2)、(3)、(6)及び(7)で表される繰り返し単位は、置換基が無いか、または炭化水素基が置換基として結合している3環体以上のノルボルネン系単量体に由来する。
【0033】
無置換あるいは炭化水素基置換の3環体以上のノルボルネン系単量体の具体例としては、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−シクロヘキシルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−シクロペンチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−ビニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−プロペニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−シクロヘキセニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−シクロペンテニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−フェニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンのごときテトラシクロドデセン誘導体や;ヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]ヘプタデカ−4−エン、11−メチルヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]ヘプタデカ−4−エン、11−フェニルヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]ヘプタデカ−4−エンのごときヘキサシクロヘプタデセン誘導体などの一般式(10)で代表されるような無置換あるいは炭化水素基置換の単量体と;トリシクロ[4.3.12,5.0]−3−デセン、トリシクロ[4.3.12,5.0]−デカ−3,7−ジエン(別名:ジシクロペンタジエン)、テトラシクロ[6.5.12,5.01,6.08,13]テトラデカ−3,8,10,12−テトラエン(別名:1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[6.6.12,5.01,6.08,13]ペンタデカ−3,8,10,12−テトラエン(別名:1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−ヘキサヒドロアントラセン)のごとき一般式(11)で代表
されるような無置換あるいは炭化水素基置換の単量体が挙げられる。
【0034】
上記無置換または炭化水素基置換のノルボルネン系単量体は、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。耐熱性、溶媒への溶解性に優れる開環共重合体を得るために、一般式(11)で表されるような無置換あるいは炭化水素基置換の単量体、及びテトラシクロドデセン誘導体が好ましく、具体的には、トリシクロ[4.3.12,5.0]−3−デセン、トリシクロ[4.3.22,5.0]−デカ−3,7−ジエン、テトラシクロ[8.6.12,5.01,6.08,13]ペンタデカ−3,8,10,12−テトラエン;テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンが好ましい。
【0035】
2環体のノルボルネン系単量体としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−プロピルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ペンチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ヘプチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン、5−オクチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ノニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−デシルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エチリデンビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−シクロヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−シクロへキセニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−フェニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンのごときビシクロヘプテン誘導体が挙げられる。これらは耐熱性が低くならない範囲において共重合させることができる。ただし、高い耐熱性を求める場合には2環体のノルボルネン系単量体を共重合させない方がよい。
【0036】
一般式(1)及び(5)で表される繰り返し単位は、ヒドロキシル基を含む置換基が結合しているノルボルネン系単量体、あるいは加水分解等によってヒドロキシル基に化学変化させることができる基が結合しているノルボルネン系単量体、好適には、一般式(9)で代表される単量体に由来する。ヒドロキシル基を含む置換基は、ヒドロキシル基が含まれていれば、ヒドロキシル基以外にハロゲン原子、ケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含んでもよい炭素数1〜20の炭化水素基を置換基として有していても構わない。
【0037】
ヒドロキシル基を有するノルボルネン系単量体としては、5−ヒドロキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ヒドロキシメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,6−ジヒドロキシメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ヒドロキシエトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−ヒドロキシエトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ヒドロキシブトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ヒドロキシプロポキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−ヒドロキシプロポキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンなどのビシクロヘプテン誘導体;8−ヒドロキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−ヒドロキシメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8,9−ジヒドロキシメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−ヒドロキシエトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−ヒドロキシエトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−ヒドロキシブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−ヒドロキシプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−ヒドロキシプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンなどのテトラシクロドデセン誘導体;11−ヒドロキシヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]−ヘプタデカ−4−エン、11−ヒドロキシメチルヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]−ヘプタデカ−4−エン、11,12−ジヒドロキシメチルヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]−ヘプタデカ−4−エン、11−ヒドロキシエトキシカルボニルヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]−ヘプタデカ−4−エン、11−メチル−11−ヒドロキシエトキシカルボニルヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]−ヘプタデカ−4−エン、11−ヒドロキシブトキシカルボニルヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]−ヘプタデカ−4−エン、11−ヒドロキシプロポキシカルボニルヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]−ヘプタデカ−4−エン、11−メチル−11−ヒドロキシプロポキシカルボニルヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]−ヘプタデカ−4−エンなどのヘキサシクロヘプタデセン誘導体等を挙げることができる。
【0038】
ヒドロキシル基に化学変化させることができる基は、分解あるいは還元などによりヒドロキシル基になりうるものであればよく、例えば、−OCOR、−COOR、ジカルボン酸無水物基などが挙げられる。ここでRは、直鎖状、分枝鎖状または環状の飽和炭化水素基または不飽和炭化水素基のいずれでもよく、ハロゲン原子、ケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む基(ヒドロキシル基を除く)が置換したものであってもよい。
【0039】
−OCORが結合したノルボルネン系単量体としては、前述のビシクロヘプテン誘導体、テトラシクロドデセン誘導体、へキサシクロヘプタデセン誘導体などのホルメート、アセテート、プロピオネート、ブチレート、バレートやベンゾエートなどが挙げられる。
【0040】
−COORが結合したノルボルネン系単量体としては、前述のビシクロヘプテン誘導体、テトラシクロドデセン誘導体、へキサシクロヘプタデセン誘導体などのメチルエステル、エチルエステル、イソプロピルエステル、n−ブチルエステル、t−ブチルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステルなどが挙げられる。
【0041】
ジカルボン酸無水物基が結合したノルボルネン系単量体としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物、5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物などのビシクロヘプテン誘導体、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン−8,9−ジカルボン酸無水物、8−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン−8,9−ジカルボン酸無水物などのテトラシクロドデセン誘導体、ヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]−ヘプタデカ−4−エン−11,12−ジカルボン酸無水物、11−メチルヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]−ヘプタデカ−4−エン−11,12−ジカルボン酸無水物などのへキサシクロヘプタデセン誘導体を挙げることができる。
【0042】
上記置換基を有するノルボルネン系単量体は、それぞれ独立で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。耐熱性、溶媒への溶解性に優れる開環共重合体を得るために、2環体〜4環体のノルボルネン系単量体が好ましく、具体的には、一般式(9)において、mが0であるビシクロヘプタン誘導体、あるいはmが1であるテトラシクロドデセン誘導体が好ましい。
【0043】
本発明の開環メタセシス共重合体及び開環メタセシス共重合体水素化物は、その重量平均分子量が1,000〜500,000、好ましくは2,000〜400,000、より好ましくは4,000〜200,000である。分子量が小さいと機械的強度が不十分であり、大きいと共重合後の水素化反応が困難になることがある。また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、通常1〜4、好ましくは1.5〜3である。重量平均分子量及び数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の値である。
【0044】
本発明の好適な開環メタセシス共重合体及び開環メタセシス共重合体水素化物は、非晶性樹脂である。本発明の好適な開環メタセシス共重合体及び開環メタセシス共重合体水素化物は、そのガラス転移温度が100℃以上、好ましくは120℃以上である。また、本発明の好適な開環メタセシス共重合体及び開環メタセシス共重合体水素化物は、その280℃におけるメルトインデックス(ASTM D1238に準拠)が、約1〜約200、好ましくは約5〜100である。
【0045】
本発明の好適な開環メタセシス共重合体及び開環メタセシス共重合体水素化物は、比誘電率及び誘電正接が、JIS C2330による1MHzにおける測定値でそれぞれ3.2以下、0.015以下、好ましくはそれぞれ3.0以下、0.01以下である。比誘電率及び誘電正接が上記範囲にある本発明の共重合体及び共重合体水素化物は、1GHzの高周波信号であっても、信号遅延が無く、且つ信号ノイズが低くなる。
【0046】
本発明の開環メタセシス共重合体の製造方法は、中性の電子供与性配位子を有する有機ルテニウム化合物を主成分とする触媒の存在下で、前述のノルボルネン系単量体を開環メタセシス共重合し、必要に応じてさらに加水分解等を行い置換基を変性するものである。
【0047】
また、本発明の開環メタセシス共重合体水素化物の製造方法は、中性の電子供与性配位子を有する有機ルテニウム化合物を主成分とする触媒の存在下で、前述のノルボルネン系単量体を開環メタセシス共重合し、次いで得られた共重合体の主鎖二重結合を水素化し、必要に応じてさらに加水分解等を行い置換基を変性するものである。
【0048】
本発明において使用される触媒は、中性の電子供与性配位子が配位している有機ルテニウム化合物を主成分とする触媒である。
【0049】
該有機ルテニウム化合物を構成する、中性の電子供与性配位子は、中心金属(すなわちルテニウム)から引き離されたときに中性の電荷を持つ配位子である。
【0050】
また、本発明に用いる好適な有機ルテニウム化合物には、アニオン性配位子が配位している。アニオン性配位子は、ルテニウムから引き離されたときに負の電荷を持つ配位子である。また、さらに対アニオンが存在していてもよい。対アニオンは、ルテニウム陽イオンとイオン対を形成する陰イオンをいい、こうした対を形成できる陰イオンであれば特に限定されない。
【0051】
本発明に用いる好適な有機ルテニウム化合物の代表例として一般式(13)〜(15)で表されるものが挙げられる。
【0052】
【化10】

(13)
(式(13)中、Yはそれぞれ独立に任意のアニオン性配位子を示し、Lはそれぞれ独立に中性電子供与性配位子を示す。Yおよび/またはLの2個、3個または4個はお互いに結合して多座キレート配位子を形成してもよい。a及びbはそれぞれ独立に1〜4の整数で、xは1〜6の整数である。)
【0053】
【化11】

(14)
(式(14)中、Lはそれぞれ独立に中性の電子供与性配位子を表し、Yはそれぞれ独立にアニオン性の配位子を表す。Qはそれぞれ独立に水素または炭素数1〜20個の炭化水素基(ハロゲン原子、窒素原子、酸素原子、珪素原子、リン原子、硫黄原子を含んでいてもよい)を表す。c、d及びyはそれぞれ独立に1〜4の整数を表し、eは0または1を表す。)
【0054】
【化12】

(15)
(式(15)中、Lはそれぞれ独立に中性電子供与性配位子を表し、Yはそれぞれ独立にアニオン性配位子を表す。Xは対アニオンを表す。f及びgはそれぞれ独立に1〜4の整数を表し、zは1または2である。)
【0055】
中性電子供与性配位子としては、酸素、水、カルボニル類、アミン類、ピリジン類、エ−テル類、ニトリル類、エステル類、ホスフィン類、ホスフィナイト類、ホスファイト類、スチビン類、スルホキシド類、チオエーテル類、アミド類、芳香族類、ジオレフィン類(環状であってもよい)、オレフィン類(環状であってもよい)、イソシアニド類、チオシアネ−ト類、複素環式カルベン化合物などが挙げられる。なかでも、ビピリジンなどのピリジン類;トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィンなどのホスフィン類;p−シメンなどの芳香族類;シクロペンタジエンなどの環状ジオレフィン類;又は1,3−ジメシチルイミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデンなどの複素環式カルベン化合物が配位していると共重合活性が高くなる場合がある。
【0056】
アニオン性配位子としては、F、Br、Cl、Iなどのハロゲン、ヒドリド、アセチルアセトナート基などのジケトナート基、シクロペンタジエニル基、アリル基、アルケニル基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールカルボキシル基、カルボキシル基、アルキルまたはアリールスルフォネート基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アルキルスルホニル基、アルキルスルフィニル基などを挙げることができる。なかでも、ハロゲン、シクロペンタジエニル基、アリル基、アルキル基又はアリール基が配位していると共重合活性の点で優れている。
【0057】
上記一般式(14)におけるQの具体例としては、水素、アルケニル基、アルキニル基、アルキル基、アルキリデン基、アリール基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アルキルスルホニル基、アルキルスルフィニル基などを挙げることができる。なかでも、炭素数1〜100のアルキル基、アルキリデン基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基又はアリールチオ基が配位していると触媒の共重合活性が高くなる場合がある。
【0058】
対アニオンの例としては、BF、B(C、B(C、PF、SbF、ClO、IO、p−トルエンスルホン酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオンなどを挙げることができる。なかでも、BF、B(C、B(C、PF又はSbFが対アニオンとして存在すると触媒活性が高くなる場合がある。
【0059】
一般式(13)で表される重合触媒の例としては、ビス(シクロペンタジエニル)ルテニウム、クロロ(シクロペンタジエニル)ビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)ルテニウム、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、シス−ジクロロビス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム・二水和物、ジクロロビス〔(p−シメン)クロロルテニウム〕〕、ジクロロ(2,7−ジメチルオクタ−2,6−ジエン−1,8−ジイル)ルテニウムなどが挙げられる。
【0060】
一般式(14)で表される重合触媒の例としては、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)−3,3−ジフェニルプロペニリデンルテニウムジクロリド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)フェニルビニリデンルテニウムジクロリド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)t−ブチルビニリデンルテニウムジクロリド、ビス(1,3−ジイソプロピルイミダゾリン−2−イリデン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリン−2−イリデン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリドなどが挙げられる。
【0061】
一般式(15)で表される重合触媒の例としては、[(p−シメン)(CHCN)Ru](BF、[(C)(CHCN)(Cl)Ru](BF)、[(C)(CHCN)Ru](PF、[(CHCN)(Cl)(2,7−ジメチルオクタ−2,6−ジエン−1,8−ジイル)Ru](BF)、[(CHCN)(2,7−ジメチルオクタ−2,6−ジエン−1,8−ジイル)Ru](BFなどが挙げられる。
【0062】
また、上述した重合触媒の共重合活性を高める方法として、ピリジン類;ホスフィン類;前述の1,3−ジイソプロピルイミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデンなどの複素環式カルベン化合物などの中性の電子供与性化合物をルテニウム金属に対して、重量比で1〜100倍の割合で添加することもできる。
【0063】
さらに、一般式(13)、(14)および(15)で表される重合触媒を使用する場合には、共重合活性を高めるために、例えば、NCHCOOEtなどのジアゾ化合物、フェニルアセチレンなどのアセチレン化合物またはEtSiH、PhMeSiHなどのシリル化合物を、ルテニウム金属に対して、重量比で1〜100倍の割合で添加することもできる。Etはエチル基、Phはフェニル基、Meはメチル基である。
【0064】
上述した触媒のうち、一般式(14)で表される重合触媒は高い共重合活性を示すので、好ましい。
【0065】
開環メタセシス共重合反応は溶媒中で行っても、無溶媒中で行ってもよいが、共重合反応後、ポリマーを単離せずにそのまま水素化反応ができるので、溶媒中で共重合する方が好ましい。重合溶媒は、共重合体を溶解し、かつ共重合反応を阻害しない溶媒であれば特に限定されない。重合溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデンシクロヘキサン、シクロオクタンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどの含窒素系炭化水素;ジエチルエ−テル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエ−テル類;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンなどの含ハロゲン系炭化水素が挙げられる。これらの溶媒の中でも、比誘電率が2〜5、好ましくは2.1〜4.5の範囲に含まれる溶媒、又は2種以上の溶媒を混合して上記比誘電率の範囲に含まれるようにした混合溶媒が好ましい。溶媒の比誘電率は”Organic solvent”第2版、John A. Riddick and Emory E. Toops Jr.,1955に開示されている。
【0066】
共重合を溶媒中で行う場合には、ノルボルネン系単量体の濃度は、1〜50重量%とすることが好ましく、2〜45重量%とすることがより好ましく、5〜40重量%とすることが特に好ましい。ノルボルネン系単量体の濃度が1重量%未満では共重合体の生産性が悪くなることがあり、50重量%を超えると共重合後の粘度が高すぎて、その後の水素化などが困難となることがある。
【0067】
重合触媒の量は、重合触媒中の金属ルテニウムに対するノルボルネン系単量体のモル比で、(金属ルテニウム:単量体=)1:100〜1:2,000,000、好ましくは1:500〜1:1,000,000、より好ましくは1:1,000〜1:500,000である。触媒量が1:100の比よりも多くなると触媒除去が困難となることがある。1:2,000,000の比よりも少なくなると十分な共重合活性が得られないことがある。重合温度は特に制限はないが、通常、−100℃〜200℃、好ましくは−50℃〜180℃、より好ましくは−30℃〜160℃、最も好ましくは0℃〜140℃である。重合時間は、通常1分〜100時間であり、共重合の進行状況によって適宜調節することができる。
【0068】
本発明においては、共重合体及びその水素化物の分子量を調整するために、分子量調整剤を用いることができる。分子量調整剤としては、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−オレフィン;スチレン、ビニルトルエンなどのスチレン類;エチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのエーテル類;アリルクロライドなどのハロゲン含有ビニル化合物;酢酸アリル、アリルアルコール、グリシジルメタクリレートなど酸素含有ビニル化合物;アクリルアミドなどの窒素含有ビニル化合物などを挙げることができる。 分子量調整剤を、ノルボルネン系単量体に対して、0.1
〜100モル%の範囲の量で任意に選択することにより、所望の分子量の開環メタセシス共重合体及びその水素化物を得ることができる。
【0069】
水素化反応は、通常、水素化触媒の存在下に水素を導入し、開環メタセシス共重合体の主鎖中の不飽和二重結合を飽和単結合にする反応である。
【0070】
水素化反応に用いる水素化触媒は、オレフィン化合物の水素化に際して一般的に使用されているものであればよい。
【0071】
水素化触媒としては、酢酸コバルトとトリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナートとトリイソブチルアルミニウム、チタノセンジクロリドとn−ブチルリチウム、ジルコノセンジクロリドとsec−ブチルリチウム、テトラブトキシチタネートとジメチルマグネシウムのごとき遷移金属化合物とアルカリ金属化合物の組み合わせからなるチーグラー系触媒;上記一般式(13)、(14)、及び(15)で示される有機ルテニウム化合物、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウムや、特開平7−2929、特開平7−149823、特開平11−209460特開平11−158256、特開平11−193323、特開平11−209460などに記載されているルテニウム化合物のごとき貴金属錯体触媒などの均一系触媒;ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウムなどの金属を、カーボン、シリカ、ケイソウ土、アルミナ、酸化チタンなどの担体に担持させた不均一触媒;具体的にはニッケル/シリカ、ニッケル/ケイソウ土、ニッケル/アルミナ、パラジウム/カーボン、パラジウム/シリカ、パラジウム/ケイソウ土、パラジウム/アルミナなどが挙げられる。
【0072】
これらの水素化触媒のうち、官能基が変性するなどの副反応が起きず、共重合体中の炭素−炭素不飽和結合を選択的に水素化できる点から、ロジウム、ルテニウムなどの貴金属錯体触媒が好ましく、上記一般式(13)、(14)、及び(15)で示される有機ルテニウム化合物がより好ましく、電子供与性の高い複素環式カルベン化合物若しくはホスフィン類が配位したルテニウム化合物が特に好ましい。
【0073】
一般式(13)、(14)、及び(15)で示される有機ルテニウム化合物は、前述のごとく重合触媒でもあるので、共重合反応終了後、該化合物をそのまま水素化触媒として、あるいはエチルビニルエーテルなどのビニル化合物やα−オレフィンなどの触媒改質剤を添加して該化合物を活性化させてから、水素化反応にそのまま供することができる。
【0074】
水素化反応は、通常、有機溶媒中で実施する。有機溶媒は生成する水素化物の溶解性により適宜選択することができ、前記重合溶媒と同様の有機溶媒を使用することができる。したがって、共重合反応後、溶媒を入れ替えることなくそのまま水素添加触媒を添加して反応させることもできる。
【0075】
水素化反応の好適な条件は、使用する水素化触媒によって異なるが、水素化温度は、通常、−20〜250℃、好ましくは−10〜220℃、より好ましくは0〜200℃であり、水素圧力は、通常0.01〜10MPa、好ましくは0.05〜8MPa、より好ましくは0.1〜5MPaである。水素化温度が−20℃未満では反応速度が遅くなり、逆に250℃を超えると副反応が起こりやすい。また、水素圧力が0.01MPa未満では水素化速度が遅くなり、10MPaを超えると高耐圧反応装置が必要となる。水素化反応時間は、水素化率をコントロールするために適宜選択される。水素化反応時間が0.1〜50時間の範囲では、共重合体中の主鎖の炭素−炭素二重結合のうち、50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上を水素化することができる。
【0076】
本発明の開環メタセシス共重合体及び開環メタセシス共重合体水素化物の製法においては、必要に応じて、加水分解等を行って官能基を変性する。
【0077】
例えば、−OCOR、−COOR、またはカルボン酸無水物基を加水分解等することによって、―OHに変性することができる。
【0078】
この変性反応は、一般に知られているエステルまたはカルボン酸無水物を分解してアルコールにする方法と同じ方法でできる。この変性反応方法としては、加水分解による方法、熱分解による方法、水素化還元による方法等を挙げることができる。
【0079】
エステルまたはカルボン酸無水物の加水分解方法の具体例としては、1.水と直接反応させる方法、2.水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水などのアルカリ水溶液と反応させる方法、3.塩酸、硫酸、リン酸、有機スルホン酸などの酸水溶液と反応させる方法、4.炭素数1〜6の低級アルコールなどあるいは炭素数1〜6の低級カルボン酸などとエステル交換反応させる方法などを挙げることができる。エステル交換反応の触媒として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、アミン化合物などのアルカリ性化合物を用いても良い。加水分解反応は無溶媒下でも、溶媒存在下でも行うことができる。溶媒は、重合溶媒、水素化反応溶媒で用いられるものと同様のものが使用でき、それ以外に水、アルコール、エステルなども使用することができる。
【0080】
熱分解は、通常、−OCOR、−COOR、またはカルボン酸無水物基を有する開環メタセシス共重合体または開環メタセシス共重合体水素化物を100℃以上400℃以下に1秒間以上加熱することにより行われる。特に、Rがイソプロピル基、2−エチルヘキシル基、2−フェニルエチル基、t−ブチル基などの二級あるいは三級アルキル基であるときに熱分解反応が促進するので好ましい。加熱温度は150℃以上にするのが好ましい。
【0081】
水素化還元による方法は、−OCORまたは−COORを水素化還元することによって、またはカルボン酸無水物基を水素化することによって行われる。この水素化還元方法に用いる水素化触媒は、開環共重合体の主鎖二重結合を水素化するために使用する触媒と同様のものが用いられ、その手順も開環共重合体の主鎖二重結合を水素化するときとほぼ同様にできる。したがって、開環共重合体の主鎖二重結合を水素化するときに−OCOR、−COORまたはカルボン酸無水物基を同時に水素化還元してもよいし;主鎖二重結合を水素化した後、−OCOR、−COORまたはカルボン酸無水物基の水素化還元をしてもよいし;また−OCOR、−COORまたはカルボン酸無水物基の水素化還元をした後、主鎖二重結合を水素化してもよい。
【0082】
開環メタセシス共重合体または開環メタセシス共重合体水素化物は、−OCOR、−COOR、またはカルボン酸無水物基を有する開環メタセシス共重合体または開環メタセシス共重合体水素化物中の−OCOR、−COORあるいはカルボン酸無水物基の50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上を−OHに変換して得るのが好ましい。
【0083】
本発明の開環メタセシス共重合体または開環メタセシス共重合体水素化物は電気絶縁性、電気特性、低吸水性に優れている。例えば、吸水率は、JIS K7209による測定値で、2%以下、好ましくは1.5%以下である。密着性は、JIS K5400で定めるXカットテープ法による銅、シリコン、ガラス基板に対するXカット部の交点からのはがれが1.5mm以下、好ましくは1mm以下である。
【0084】
本発明の開環メタセシス共重合体または開環メタセシス共重合体水素化物は、上記のように電気特性、低吸水性に優れ、しかも金属などの他材料との密着性にも優れている。さらに、硬化剤などの官能基を有する化合物との相溶性も良好である。
【0085】
本発明の硬化性樹脂組成物は、前記の開環メタセシス共重合体及び開環メタセシス共重合体水素化物から選ばれる共重合体と、硬化剤とを含有するものである。
【0086】
硬化剤として、例えば、イオン性硬化剤、ラジカル性硬化剤又はイオン性とラジカル性とを兼ね備えた硬化剤等が用いられる。
【0087】
イオン性硬化剤としては、例えば、ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミンなどの脂肪族ポリアミン化合物;ジアミノシクロヘキサン、3(4),8(9)−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、1,3−(ジアミノメチル)シクロヘキサン、メンセンジアミン、イソホロンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン等の脂環式ポリアミン化合物;4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、メタフェニレンジアミン、メタキシリレンジアミン等の芳香族ポリアミン化合物;4,4’−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、4,4’−ジアジドカルコン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)−4−メチルシクロヘキサノン、4,4’−ジアジドジフェニルスルホン、4,4’−ジアジドジフェニルメタン、2,2’−ジアジドスチルベン等のビスアジド化合物;無水フタル酸、無水ピロペリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ナジック酸無水物、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、無水マレイン酸変性ポリプロピレン等の酸無水物;フマル酸、フタル酸、マレイン酸、トリメリット酸、ハイミック酸等のジカルボン酸化合物;
【0088】
1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ヒドロキノンジヒドロキシエチルエーテル、トリシクロデカンジメタノール等のジオール化合物;1,1,1−トリメチロールプロパン等のトリオール;フェノールノボラック、クレゾールノボラック等の多価フェノール;ナイロン−6、ナイロン−66,ナイロン−610、ナイロン−11、ナイロン−612、ナイロン−12,ナイロン−46、メトキシメチル化ポリアミド、ポリヘキサメチレンジアミンテレフタルアミド、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド等のポリアミド化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート、トリグリシジルイソシアヌレート等のジイソシアネート化合物;フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、クレゾール型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、臭素化ビスフェノールA型エポキシ化合物、臭素化ビスフェノールF型エポキシ化合物等のグリシジルエーテル型エポキシ化合物;脂環式エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物、イソシアヌレート型エポキシ化合物等の多価エポキシ化合物;等が挙げられる。これらの中でも、ジオール化合物、多価フェノール化合物及び多価エポキシ化合物が好ましく、多価エポキシ化合物が特に好ましい。
【0089】
ラジカル硬化剤としては、例えば、メチルエチルケトンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、1,1−(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブタン、t−ブチルハイドロペルオキシド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロペルオキシド、ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、オクタノイルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド、ペルオキシジカーボネート等の有機ペルオキシド等が挙げられる。
【0090】
イオン性とラジカル性とを兼ね備えた硬化剤としては、例えば、トリアリルシアヌレート等のシアヌレート;1−アリルイソシアヌレート、1,3−ジアリルイソシアヌレート、1,3−ジアリル−5−ベンジルイソシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、1−アリル−3,5−ジベンジルイソシアヌレート、1−アリル−3,5−ジグリシジルイソシアヌレート、1,3−ジアリル−5−グリシジリルイソシアヌレート等のイソシアヌレートが挙げられる。
【0091】
これらの硬化剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの硬化剤のうち、イソシアヌレート硬化剤は、優れた難燃性を有する硬化物が得られるので好ましい。硬化剤の量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、前記開環メタセシス共重合体または開環メタセシス共重合体水素化物100重量部に対して、通常0.1〜200重量部、好ましくは1〜150重量部、より好ましくは10〜100重量部の範囲である。
【0092】
本発明の好適な硬化性樹脂組成物は開環メタセシス共重合体または開環メタセシス共重合体水素化物と、硬化剤とが均一に相溶したものである。相溶した状態になると、組成物が二層に分離したり、組成物自体が不透明になることがない。本発明の組成物には、上記成分以外に、ゴム、他の樹脂、難燃剤、充填剤、耐熱安定剤、老化防止剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス、乳化剤などを含有させることができ、その量は、本発明の目的を損ねない範囲で適宜選択される。
【0093】
本発明の硬化性組成物は、それを硬化させたものが、電気特性に優れているので、多層基板用、電子部品用、ICチップ用および配線用などの絶縁材料;プリプレグ;ソルダーマスク;プリント基板、電子部品、ICチップ、表示素子などの保護膜や層間絶縁膜;EL装置、液晶装置などの表示装置の材料;などに、また素子内蔵多層回路基板にも好適である。
【実施例】
【0094】
以下に、実施例と比較例とを挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、「部」は特段の表記がない限り重量基準である。
(1)分子量は、テトラヒドロフランを溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値として測定した。
(2)共重合体中の単量体組成比は、H−NMRスペクトルにより測定した。
(3)水素化率は、H−NMRスペクトルにより測定した。
(4)加水分解率は、IRスペクトル(KBr法)により測定した。
【0095】
[実施例1]
攪拌機付きガラス反応器に、テトラヒドロフラン311部、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン77.8部、5−ヒドロキシエトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン22.2部、および1−ヘキセン0.51部を仕込んだ。テトラヒドロフラン44.9部に溶解した(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド0.05部を添加して、70℃で共重合を行った。2時間後、共重合反応液を多量のイソプロパノールに注いで固形分を析出させ、濾別洗浄後、40℃で18時間減圧乾燥し開環メタセシス共重合体を得た。得られた開環メタセシス共重合体の収量は98部で、分子量(ポリスチレン換算)は、数平均分子量(Mn)=22,100、重量平均分子量(Mw)=44,400であった。共重合体中の単量体組成比はテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン/5−ヒドロキシエトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン=80/20(モル/モル)であった。全繰り返し単位に対するヒドロキシル基の数の割合は20%であった。
【0096】
[実施例2]
テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン77.8部、及び5−ヒドロキシエトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン22.2部を、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン37部及び5−ヒドロキシエトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン63部に変えた以外は、実施例1と同様にして開環メタセシス共重合体を得た。得られた開環メタセシス共重合体の収量は63部で、分子量(ポリスチレン換算)は、数平均分子量(Mn)=26,200、重量平均分子量(Mw)=58,600であった。共重合体中の単量体組成比はテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン/5−ヒドロキシエトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン=42/58(モル/モル)であった。全繰り返し単位に対するヒドロキシル基の数の割合は58%であった。
【0097】
[実施例3]
テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン77.8部、及び5−ヒドロキシエトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン22.2部を、8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン80.3部、及び5−ヒドロキシエトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン19.7部に変えた以外は、実施例1と同様にして開環メタセシス共重合体を得た。得られた開環メタセシス共重合体の収量は95.1部で、分子量(ポリスチレン換算)は、数平均分子量(Mn)=21,600、重量平均分子量(Mw)=44,100であった。共重合体中の単量体組成比は8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン/5−ヒドロキシエトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン=82/18(モル/モル)であった。全繰り返し単位に対するヒドロキシル基の数の割合は18%であった。
【0098】
[実施例4]
重合溶媒としてのテトラヒドロフランをトルエン(比誘電率=2.379)に、1−ヘキセンの仕込み量を0.91部に、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリドの仕込み量を0.02部に変えた以外は、実施例3と同様にして開環メタセシス共重合体を得た。得られた開環メタセシス共重合体の収量は93.2部で、分子量(ポリスチレン換算)は、数平均分子量(Mn)=13,400、重量平均分子量(Mw)=24,200であった。共重合体中の単量体組成比は8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン/5−ヒドロキシエトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン=80/20(モル/モル)であった。全繰り返し単位に対するヒドロキシル基の数の割合は20%であった。
【0099】
開環メタセシス共重合体100部をトルエン400部に溶解した後、攪拌機付きオートクレーブに仕込み、次いでビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウム(IV)ジクロリド0.05部及びエチルビニルエーテル0.39部をトルエン20部に溶解した水素化触媒溶液を添加し、水素圧4.5MPa、120℃で6時間水素化反応を行った。水素化反応液を多量のイソプロパノールに注いで固形分を完全に析出させ、濾別洗浄後、90℃で18時間減圧乾燥して開環共重合体水素化物を得た。分子量(ポリスチレン換算)は、数平均分子量(Mn)=18,100、重量平均分子量(Mw)=32,800であった。ヒドロキシル基およびエステル基が完全に保存され、どちらも20%であり、主鎖中の炭素−炭素二重結合の99%以上が水素化されていることをH−NMRにより確認した。
【0100】
[実施例5]
5−ヒドロキシエトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンを、8−ヒドロキシメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンに変えた以外は、実施例2と同様にして開環メタセシス共重合体を得た。得られた開環メタセシス共重合体の収量は93部で、分子量(ポリスチレン換算)は、数平均分子量(Mn)=20,600、重量平均分子量(Mw)=36,600であった。共重合体中の単量体組成比はテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン/8−ヒドロキシメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン=35/65(モル/モル)であった。
【0101】
得られた開環共重合体1部をテトラヒドロフラン65.3部に溶解した後、攪拌機付きオートクレーブに仕込み。次いでビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウム(IV)ジクロリド0.09部及びエチルビニルエーテル0.8部をテトラヒドロフラン16.3部に溶解した水素化触媒溶液を添加し、水素圧1MPa、100℃で4時間水素化反応を行った。水素化反応液を多量のイソプロパノールに注いで固形分を完全に析出させ、濾別洗浄後、70℃で18時間減圧乾燥し開環共重合体水素化物を得た。分子量(ポリスチレン換算)は、数平均分子量(Mn)=27,300、重量平均分子量(Mw)=48,800であった。ヒドロキシル基が完全に保存され、ヒドロキシル基の数の割合は65%であり、主鎖中の炭素−炭素二重結合の99%以上が水素化されていることをH−NMRにより確認した。
【0102】
[実施例6]
テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン77.8部、及び5−ヒドロキシエトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン22.2部を、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン50.8部、及び5,6−ジヒドロキシメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン49.2部に変えた以外は、実施例1と同様にして開環メタセシス共重合体を得た。得られた開環メタセシス共重合体の収量は68.3部で、分子量(ポリスチレン換算)は、数平均分子量(Mn)=32,100、重量平均分子量(Mw)=59,500であった。共重合体中の単量体組成比はテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン/5,6−ジヒドロキシメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン=55/45(モル/モル)であった。全繰り返し単位に対するヒドロキシル基の数の割合は90%であった。
【0103】
[実施例7]
攪拌機付きガラス反応器に、シクロヘキサン386部とジシクロペンタジエン91.3部、5,6−ジアセチルオキシメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン8.7部、および1−ヘキセン0.61部を仕込んだ。シクロヘキサン13.3部に溶解した(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド0.06部を添加して、80℃で共重合を行った。2時間後、重合反応液を多量のイソプロパノールに注いで固形分を析出させ、濾別洗浄後、40℃で18時間減圧乾燥し開環共重合体を得た。開環共重合体の収量は87.6部で、分子量(ポリスチレン換算)は、数平均分子量(Mn)=15,900、重量平均分子量(Mw)=29,700、全繰り返し単位に対するエステル基の数が12%であった。
【0104】
得られた開環共重合体1部をシクロヘキサン39部に溶解した後、攪拌機付きオートクレーブに仕込んだ。次いでビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウム(IV)ジクロリド0.1部及びエチルビニルエーテル0.88部をシクロヘキサン7.8部に溶解した水素化触媒溶液を添加し、水素圧10MPa、100℃で8時間水素化反応を行った。水素化反応液を多量のイソプロパノールに注いで固形分を完全に析出させ、濾別洗浄後、40℃で18時間減圧乾燥し開環共重合体水素化物を得た。分子量(ポリスチレン換算)は、数平均分子量(Mn)=20,700、重量平均分子量(Mw)=38,600であった。H−NMRスペクトル測定により、エステル基が完全に保存されていることおよび主鎖中の炭素−炭素二重結合の99%以上が水素化されていることを確認した。
【0105】
攪拌機付きガラス反応器に、得られた開環共重合体水素化物1部とテトラヒドロフラン200部を仕込んだ。そこにナトリウムメトキシド(10%)メタノール溶液20部を加え、12時間加熱還流を行った。反応液を多量のイソプロパノールに注いで固形分を完全に析出させ、濾別洗浄後、80℃で18時間減圧乾燥した。IRスペクトル測定により、3300cm−1付近の幅広いアルコールO−H伸縮振動由来の吸収が出現したことを確認した。さらに、1740cm−1付近のエステル基C=O伸縮振動由来の吸収が完全に消滅したことから、加水分解率は100%であることを確認した。全繰り返し単位に対するヒドロキシル基の数の割合は12%であった。
【0106】
[比較例1]
単量体を8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン100部として、実施例4と同様にして重合反応を行った。得られた開環重合体の収量は95部で、分子量(ポリスチレン換算)は、数平均分子量(Mn)=15,400、重量平均分子量(Mw)=34,200であった。
【0107】
得られた開環重合体を用いた以外は実施例4と同様にして、水素化反応を行った。分子量(ポリスチレン換算)は、数平均分子量(Mn)=18,600、重量平均分子量(Mw)=38,200であった。H−NMRスペクトル測定により、エステル基が完全に保存されていることおよび主鎖中の炭素−炭素二重結合の99%以上が水素化されていることを確認した。全繰り返し単位に対するエステル基の数は100%で、ヒドロキシカルボニル基の数の割合は0%であった。
【0108】
[比較例2]
比較例1で得られた重合体水素化物10部、N−メチルピロリドン10部、プロピレングリコール50部、水酸化カリウム8部を反応器に仕込み、190℃で5時間攪拌した。得られた反応溶液を大量の水、テトラヒドロフランおよび塩酸の混合溶液に注いで、加水分解物を凝固させた。凝固ポリマーを水洗、乾燥して加水分解物を得た。加水分解率は95%であった。全繰り返し単位に対するエステル基の数は5%で、ヒドロキシカルボニル基の数の割合は95%であった。
【0109】
[比較例3]
単量体を8−エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン100部として、実施例4と同様にして重合反応を行った。得られた開環重合体の収量は99部で、分子量(ポリスチレン換算)は、数平均分子量(Mn)=12,800、重量平均分子量(Mw)=29,200であった。
【0110】
得られた開環重合体を用いた以外は実施例4と同様にして、水素化反応を行った。分子量(ポリスチレン換算)は、数平均分子量(Mn)=15,200、重量平均分子量(Mw)=34,100であった。水素化率は99%以上であった。全繰り返し単位に対する官能基の数は0%であった。
【0111】
[実施例8]
実施例1〜7および比較例1〜3で得られた開環メタセシス共重合体または開環メタセシス共重合体水素化物2部をクロロベンゼン6.5部にそれぞれ溶解した。
【0112】
各溶液を加圧ろ過し、ろ液を銅基板、シリコン基板それぞれにスピンコートした。これらの基板を60℃、2分間加熱した後、200℃で2時間窒素気流下にて加熱乾燥することにより、銅基板、シリコン基板上に(見かけ上)密着した膜厚30±1ミクロンの共重合体及び共重合体水素化物のフィルムを得た。
【0113】
さらに、スピンコート条件を適切に調整し、前述と同様な操作を行い、テフロン(登録商標)基板上に膜厚約5ミクロンのフィルムを得た。
【0114】
(評価法)
銅基板およびシリコン基板に密着した各フィルムの密着性をJIS K5400に従ってXカットテープ試験によって測定し、○:1.0mm以下、△:1.0〜2.0mm、×:2.0mm以上を指標とした。
【0115】
テフロン基板からフィルムを丁寧に剥がし、剥がしたフィルムについて吸水率、誘電率および誘電正接を測定した。
【0116】
吸水率はJIS K7209に従って測定し、○:1%以下、△:1〜2%、×:2%以上を指標とした。
【0117】
また、誘電率および誘電正接をJIS C2330に従って1MHzの高周波で測定し、下記の指標で表示した。
【0118】
比誘電率 ○:3.0以下、△:3.0〜3.5、×:3.5以上
誘電正接 ○:0.01以下、△:0.01〜0.02、×:0.02以上
調製した各溶液2部に硬化剤として水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:EPICLON EXA−7015:大日本インキ株式会社製)0.1部を添加し、よく攪拌後、静置し、目視観察し、均一な溶液になるかどうかで硬化剤との相溶性を評価した。評価指標として、○:均一な溶液、×:濁り、または相分離あり を用いた。
【0119】
信号遅延及び信号ノイズは、硬化剤を配合した共重合体溶液を硬化させ、その表面にメッキにより導体層配線を形成し、1GHzの高周波信号を流して観測した。遅延が実質無い場合を○、在る場合を×、信号ノイズが実質無い場合を○、在る場合を×として評価した。−は未測定。
【0120】
【表1】

【0121】
[比較例4]
1−ヘキセンの添加量を72部とし、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリドに代えて、トリエチルアルミニウムのシクロヘキサン溶液(0.5mol/l)0.74部、t−ブタノール/メタノールで変性したWCl(t−ブタノール/メタノール/WCl=0.35/0.3/1;モル比)のシクロヘキサン溶液(0.01mol/l)7.4部を触媒溶液として用いた以外は、実施例7と同様にして、8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン/5−t−ブトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンの共重合を試みた。反応途中で副反応を併発するようになり、反応液の粘度が急激に上昇し固化し、不溶性のポリマーが得られ、本発明の開環共重合体は得られなかった。
【0122】
[比較例5]
(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリドに代えて、トリエチルアルミニウムのテトラヒドロフラン溶液(0.5mol/l)0.74部、t−ブタノール/メタノールで変性したWCl(t−ブタノール/メタノール/WCl=0.35/0.3/1;モル比)のテトラヒドロフラン溶液(0.01mol/l)7.4部を触媒溶液として加えた以外は、実施例1と同様にして、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン/5−ヒドロキシエトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンの共重合を試みた。6時間後、重合反応液を多量のイソプロパノールに注いだが、固形分は析出しなかった。本発明の開環共重合体は得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される繰り返し単位と、一般式(2)で表される繰り返し単位または一般式(3)で表される繰り返し単位とからなり、全繰り返し単位に対するヒドロキシル基の数の割合が5〜100%であり、かつゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が1,000〜500,000である開環メタセシス共重合体。
【化1】

(1)
(式(1)中、R〜Rの少なくとも一つが、−OH(すなわち、ヒドロキシル基)を含む置換基(ヒドロキシカルボニル基は除く)であり、その他は水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基又はハロゲン原子、ケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む基(ヒドロキシル基及びヒドロキシカルボニル基を除く)を示す。mは0〜2の整数を表す。)
【化2】

(2)
(式(2)中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、RまたはRがRまたはRと結合して環を形成しても構わない。nは1〜2の整数を表す。)
【化3】

(3)
(式(3)中、R、R10、R11およびR12は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、RまたはR10がR11またはR12と結合して環を形成している。)
【請求項2】
一般式(1)で表される繰り返し単位と、一般式(2)または(3)で表される繰り返し単位と、一般式(5)で表される繰り返し単位と、一般式(6)または(7)で表される繰り返し単位とからなり、一般式(1)、(2)及び(3)で表される繰り返し単位の合計が全繰り返し単位の50〜0%であり、一般式(5)、(6)及び(7)で表される繰り返し単位の合計が全繰り返し単位の50〜100%であり、全繰り返し単位に対するヒドロキシル基の数の割合が5〜100%であり、かつゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が1,000〜500,000である開環メタセシス共重合体水素化物。
【化4】

(5)
(式(5)中、R〜Rの少なくとも一つがヒドロキシル基を含む置換基(ヒドロキシカルボニル基は除く)であり、その他は水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基又はハロゲン原子、ケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む基(ヒドロキシル基及びヒドロキシカルボニル基を除く)を示す。mは0〜2の整数を表す。)
【化5】

(6)
(式(6)中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、RまたはRがRまたはRと結合して環を形成しても構わない。nは1〜2の整数を表す。)
【化6】

(7)
(式(7)中、R、R10、R11およびR12は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、RまたはR10がR11またはR12と結合して環を形成している。)
【請求項3】
請求項1記載の開環メタセシス共重合体及び請求項2記載の開環メタセシス共重合体水素化物から選ばれる少なくとも1種の共重合体と、硬化剤とを含有する硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
一般式(9)で表される単量体と、一般式(10)で表される単量体または一般式(11)で表される単量体とを、中性の電子供与性配位子が配位している有機ルテニウム化合物を主成分とする触媒の存在下で、開環メタセシス共重合することを含む開環メタセシス共重合体の製造方法。
【化7】

(9)
(式(9)中、R〜Rの少なくとも一つが、−OHを含む置換基(ヒドロキシカルボニル基は除く)であり、その他は水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基又はハロゲン原子、ケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む基(ヒドロキシル基及びヒドロキシカルボニル基を除く)を示す。mは0〜2の整数を表す。)
【化8】

(10)
(式(10)中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、RまたはRがRまたはRと結合して環を形成しても構わない。nは1〜2の整数を表す。)
【化9】

(11)
(式(11)中、R、R10、R11およびR12は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、RまたはR10がR11またはR12と結合して環を形成している。)
【請求項5】
請求項4記載の製造方法で得られた開環メタセシス共重合体の主鎖二重結合を水素化することを含む開環メタセシス共重合体水素化物の製造方法。

【公開番号】特開2009−167433(P2009−167433A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113088(P2009−113088)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【分割の表示】特願2001−174872(P2001−174872)の分割
【原出願日】平成13年6月8日(2001.6.8)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】