説明

開閉弁

【課題】流体通路に沿って流通する圧力流体の流通量を多段階に制御することができると共に、従来と比較して弁体の変位量を大きく設定すること。
【解決手段】着座部56に対して着座又は離間する弁体32を含む弁機構部54と、第1圧力室58aと第2圧力室58bとに分割すると共に、第1圧力室58aと第2圧力室58bとの圧力差によって弁体32と一体的に変位するダイヤフラム60と、大気と連通する大気開放路96を開閉することにより、第1圧力室58aと大気とが連通する大気連通状態と、第1圧力室58aと大気との連通が遮断された大気非連通状態とを切り換えるソレノイド部30とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁体が変位することによって流体通路を開閉する開閉弁に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、固体高分子型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)等の燃料電池を搭載した燃料電池自動車の開発が盛んである。この燃料電池自動車は、燃料電池の発電電力によってモータを回転させ走行する。
【0003】
燃料電池は、一般に、複数の単セルが積層されたスタックによって構成される。単セルは、MEA(Membrane Electrode Assembly:膜電極接合体)を備えている。そして、MEAのアノードに燃料ガス(水素)が、カソードに酸化剤ガス(酸素を含む空気)がそれぞれ供給されると、各単セルにおいて電位差が発生し、次いで、燃料電池に接続されるモータ等の外部負荷と電気的に接続されることにより、燃料電池が発電する。
【0004】
燃料電池を含む燃料電池システムにおいて、例えば、特許文献1には、燃料電池のカソードに酸化剤ガスとしてエアを供給するエア供給ライン中に放熱部(インタクーラ)を設け、前記放熱部を迂回するバイパス通路中に燃料電池用開閉弁を配設することが開示されている。例えば、低温環境下で燃料電池システムを始動させる場合等、スタックの温度を運転に適した温度に短時間で上昇させるためには、放熱部を迂回するバイパス通路を経由させてエアコンプレッサから吐出される比較的高温の圧縮エアをカソードに対して直接的に供給することが好ましいからである。
【特許文献1】特開2004−183706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された燃料電池用開閉弁では、パイロット圧によって撓曲するダイヤフラムを用いて弁体を作動させているため、弁体が着座部に着座した弁閉状態と弁体が着座部から離間した弁開状態の二つの状態において、バイパス通路を単に開閉させているだけである。この場合、燃料電池システムの運転状況や周囲環境等に対応して、バイパス通路を経由してカソードに直接供給されるエア(酸化剤ガス)の流量を制御したいという産業界の要請がある。換言すると、バイパス通路を含む流体通路の単なる開閉だけでなく、前記流体通路(バイパス通路)を流通する圧力流体の流量を多段階に調整することが可能な開閉弁が希求されている。
【0006】
また、このような燃料電池用開閉弁を含む通常の開閉弁に対して電磁弁を適用し、ソレノイドのオン・オフによって弁体を作動させるようにした場合、可動コアと一体的に変位する弁体の変位量は、前記可動コアの固定コアに対する接近乃至離間動作量によって設定されるため、前記弁体の変位量を大きくとることができないという問題がある。
【0007】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、流体通路に沿って流通する圧力流体の流通量を多段階に制御することができると共に、従来と比較して弁体の変位量を大きく設定することが可能な開閉弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明は、圧力流体が出入するインレットポート及びアウトレットポートを有する本体部と、前記本体部内に設けられ、着座部に対して着座又は離間する弁体を含む弁機構部と、前記本体部内に設けられた空間部を第1圧力室と第2圧力室とに分割すると共に、前記第1圧力室と前記第2圧力室との圧力差によって前記弁体と一体的に変位するダイヤフラムと、前記本体部に設けられ、大気と連通する大気開放路を開閉することにより、前記第1圧力室又は前記第2圧力室と大気とが連通する大気連通状態と、前記第1圧力室又は前記第2圧力室と大気との連通が遮断された大気非連通状態とを切り換えるアクチュエータとを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、弁体が着座部から離間した弁開状態を、第1圧力室と第2圧力室との圧力差によって弁体をストローク中間位置に変位させる中間状態と、アクチュエータを作動させて大気開放路を開放し大気非連通状態から大気連通状態に切り換えることにより弁体をストロークエンドの全開状態の2段階の変位動作とすることにより、インレットポートから導入されてアウトレットポートから導出される圧力流体の流量を多段階に制御することができる。
【0010】
また、本発明では、第1圧力室と第2圧力室との差圧によってダイヤフラムを撓曲させ前記ダイヤフラムと一体的に弁体を変位させるだけでなく、アクチュエータを作動させて、例えば、第1圧力室を大気開放状態とし、さらに弁体を変位させることによって弁体の変位量を従来と比較して大きく設定することができる。
【0011】
この場合、アクチュエータは、コイルに対する通電作用下に、固定コア側に向かって吸引される可動コアと、前記可動コアと一体的に変位して大気開放路を開閉する弁部とを有するソレノイド部によって構成されることにより、制御を簡便化することができる。
【0012】
さらに、本発明によれば、本体部にパイロット機構が一体的に設けられることにより、パイロット室である第1圧力室又は第2圧力室にパイロット圧を供給するための配管(通路)を別個に設けることが不要となり、配管の接続作業を省略化することができると共に、配管流路による圧力損失を軽減することができる。さらに、前記パイロット機構が本体部に一体的に設けられることにより、省スペース化が可能となる。
【0013】
さらにまた、本発明によれば、パイロット通路中に、圧力流体の流通量を絞るオリフィスを設けることにより、例えば、第1圧力室(パイロット室)よりも第2圧力室の圧力が増大したとき、パイロット通路を通じてパイロット圧が第1圧力室内に供給されることが抑制され、第1圧力室と第2圧力室との圧力差に起因してダイヤフラムを迅速に作動させることにより、前記ダイヤフラムの応答性を向上させることができる。
【0014】
またさらに、本発明によれば、弁体に固定される弁ロッドを有し、前記弁体と前記弁ロッドとの連結部位に前記弁ロッドの外周面を囲繞するシール部材が設けられることにより、インレットポートから導入された圧力流体が弁体と弁ロッドとの連結部位から漏洩することを防止して好適にシール機能を発揮させることができる。
【0015】
またさらに、本発明によれば、開閉弁が、燃料電池を含む燃料電池システムに組み込まれ、前記燃料電池のカソードに酸化剤ガスを供給するカソード流路に設けられた放熱部を迂回するバイパス通路中に配設されることにより、燃料電池システムの状況に対応してバイパス通路を開成したときに、弁体の中間状態と全開状態とのいずれかの状態を適宜切り換えることにより、前記バイパス通路を流通する圧力流体の流量を好適に制御することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、流体通路に沿って流通する圧力流体の流通量を多段階に制御することができると共に、従来と比較して弁体の変位量を大きく設定することが可能な開閉弁を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る開閉弁が組み込まれた燃料電池システムの構成図である。
【0018】
なお、本実施形態では、燃料電池システムに組み込まれた燃料電池用の開閉弁をその一例として以下に説明しているが、これに限定されるものではなく、燃料電池システム以外のもの、例えば、一般的な機械・装置等に本実施形態に係る開閉弁を適用してもよい。また、本実施形態では、開閉弁が組み込まれた燃料電池システムを燃料電池自動車に搭載した場合を例示しているが、これに限定されるものではなく、船舶や航空機等の車両以外のもの、又は定置式の家庭用電源に適用してもよい。
【0019】
図1に示される燃料電池システム10は、図示しない燃料電池自動車に搭載され、燃料電池(スタック)12の発電電力によって走行モータ(図示せず)が回転駆動することにより、前記燃料電池自動車が走行する。
【0020】
燃料電池システム10は、燃料電池(スタック)12と、前記燃料電池12のアノードに対して水素(燃料ガス、反応ガス)を供給及び排出するアノード系14と、前記燃料電池12のカソードに対して酸素を含むエア(酸化剤ガス、反応ガス)を供給及び排出するカソード系16と、前記アノード系14及びカソード系16を構成する各構成要素(後記する)を電子制御するECU(Electronic Control Unit)17とを含む。
【0021】
燃料電池(スタック)12は、単セルが複数積層されることによって構成された固体高分子型燃料電池である。単セルは、電解質膜(固体高分子膜)の両面をアノード及びカソードで挟んで形成されるMEA(Membrane Electrode Assembly)と、前記MEAを挟む一対のセパレートとを含んで構成される。
【0022】
アノードに対して水素が供給され、カソードに対して酸素を含むエアが供給されることにより、アノード、カソードに含まれる触媒(Pt等)上で電気化学反応が起こり、各単セルで電位差(OCV(Open Circuit Voltage))が発生するようになっている。次いで、このように各単セルで電位差が発生した燃料電池12に対して、走行モータ等の外部負荷から発電要求があり、電流が取り出されると燃料電池12が発電するようになっている。
【0023】
アノード系14には、例えば、水素が貯留された図示しない水素タンク、遮断弁、エゼクタ、パージ弁等が含まれる。
【0024】
カソード系16は、カソード流路18に接続され、ECU17からの指令信号によって制御されることにより圧縮エアを酸化剤ガス(掃気時には掃気ガス)として燃料電池12のカソードに送給するエアコンプレッサ20と、前記エアコンプレッサ20の下流側に接続され前記エアコンプレッサ20から吐出された比較的高温の圧縮エアを冷却する放熱部として機能するインタクーラ22とを含む。
【0025】
また、カソード系16は、例えば、前記インタクーラ22の下流側に接続されたノーマルオープンタイプのバタフライ弁からなり、ECU17からの電気信号(オンオフ信号)に基づいて前記カソード流路18を開閉するオンオフ弁23と、前記オンオフ弁23から導出されたエアを発電に適した湿度に加湿する加湿器24とを有する。なお、圧縮エアを加湿する加湿源としては、燃料電池12のカソードから排出されるカソードオフガスに含まれる水(発電時に生成される生成水)が用いられる。
【0026】
さらに、カソード系16には、エアコンプレッサ20とインタクーラ22との間のカソード流路18から分岐して前記オンオフ弁23と前記加湿器24の間のカソード流路18に接続されることにより、前記インタクーラ22及びオンオフ弁23を迂回するバイパス通路26が設けられる。このバイパス通路26には、後記するパイロット通路28を介して導入されるパイロット圧及びソレノイド部30(後記する)の作用によって弁体32を変位させることにより、前記バイパス通路26を開閉すると共に前記バイパス通路26を流通するエア流量を制御する開閉弁34が配設される。なお、前記開閉弁34の詳細については後記する。
【0027】
燃料電池12の出口側には、前記燃料電池12から排出されたアノードオフガスと、加湿器24を経由して前記燃料電池12から排出されたカソードオフガスとを希釈空間部内で混合させて、前記アノードオフガスを所定濃度に希釈する希釈器36が配設される。前記希釈器36によって所定濃度に希釈された混合ガスは、前記希釈器36の出口から外部に排出される。
【0028】
なお、カソード流路18から分岐してアノード流路38に接続された図示しない分岐通路中には、燃料電池12のアノード側に対して掃気ガス(掃気エア)を供給する図示しない掃気弁が設けられる。この場合、掃気時に前記掃気弁が弁開状態となることにより、エアコンプレッサ20から吐出された掃気ガス(掃気エア)がカソード系16からアノード系14に導入される。
【0029】
次に、開閉弁34について、以下詳細に説明する。
図2は、開閉弁の縦断面図、図3は、開閉弁の他の縦断面図、図4は、弁体と弁ロッドとの間に設けられたシール部材の拡大縦断面図、図5は、開閉弁を構成するパイロット機構の拡大縦断面図である。
【0030】
この開閉弁34は、ノーマルクローズタイプのバルブからなり、インタクーラ22及びオンオフ弁23を迂回するバイパス通路26が閉塞されてエアの流通が遮断された弁閉状態と、前記バイパス通路26が開成されてインタクーラ22及びオンオフ弁23を迂回したエアが流通する弁開状態とが切り換え可能に設けられる。なお、前記弁開状態には、後記するように、弁体32がストローク中間位置にある中間状態(半開状態)(図7参照)と、弁体32がストロークエンドの位置にある全開状態(図8参照)の2段階の状態が含まれる。
【0031】
前記開閉弁34は、図2に示されるように、下部側に設けられインタクーラ22を経由しないエアコンプレッサ20からのエアが導入されるインレットポート44aと、上部側に向かって突出する管体46に設けられ前記インレットポート44aから導入されたエアが導出されるアウトレットポート44bとを有するバルブボデイ48を備える。
【0032】
また、前記開閉弁34は、図3に示されるように、ねじ部材49を介して前記バルブボデイ48の上部側に一体的に締結され、上部側にソレノイド部30が配設されたカバー部材50を備える。なお、前記バルブボデイ48及び前記カバー部材50は、本体部として機能するものであり、ピン52を介して相互に位置決めされた状態で一体的に結合される。
【0033】
バルブボデイ48とカバー部材50によって閉塞された内部空間には、図2及び図3に示されるように、弁機構部54が配設される。前記弁機構部54は、バルブボデイ48の内壁に形成された着座部56に対して着座乃至離間可能に設けられた弁体32と、前記バルブボデイ48とカバー部材50との間で外周縁部が挟持されることにより上部側の第1圧力室58aと下部側の第2圧力室58bとに分割する撓曲自在なダイヤフラム60とを含む。
【0034】
前記弁体32は、異径の円板形状からなる上部側の小径部32a及び下部側の大径部32bと、前記小径部32aと前記大径部32bとを連結する略円筒状の中間部32cとが一体的に構成される。また、前記小径部32a、中間部32c及び大径部32bを軸方向に沿って直線状に貫通する貫通孔33が形成され、前記貫通孔33の一端部には、前記小径部32aの上面に延在するテーパ面32d(図4参照)が形成される。
【0035】
さらに、弁機構部54は、前記弁体32の貫通孔33内にねじ締結されて直線状に延在するロッド部62aとダイヤフラム60の中心部近傍を挟持する円板部62bとが一体的に形成された弁ロッド62と、一端部が前記弁ロッド62に係着され他端部がカバー部材50の環状段部50aに係着され、ばね力によって弁体32を着座部56に向かって押圧するばね部材64と、前記ダイヤフラム60の内側に設けられた円筒体からなり前記ダイヤフラム60の異常な変形を防止するリテーナ66と、カバー部材50の突起部50bに形成された有底孔部50d内にねじ締結され摺動孔68aに沿って弁ロッド62のロッド部62aを摺動させることにより前記弁ロッド62を直線状に案内する軸受部材68とを備える。
【0036】
この場合、図4に示されるように、弁体32と弁ロッド62との間であって、前記弁ロッド62の円板部62bと下部側のロッド部62aとの境界部位には、例えば、Oリングからなるシール部材69が装着される。このシール部材69は、下部側の弁ロッド62の外周面を囲繞してシールすると共に、弁体32の小径部32aの中心部近傍に形成されたテーパ面32dを押圧してシールすることにより、インレットポート44aから導入されたエア(圧力流体)が弁ロッド62のロッド部62aと弁体32の貫通孔33との間(弁体32と弁ロッド62との連結部位)から漏洩することを防止して好適にシール機能を発揮させることができる。
【0037】
前記弁体32の下面であって上方に向かって突出する着座部56と当接する部位には、図2及び図3に示されるように、環状溝を介してリング状のシート体70が装着される。前記シート体70は、例えば、ゴムやスポンジ等の弾性材料によって形成される。
【0038】
図2に示されるように、前記弁機構部54の横方向に沿った側部であって、バルブボデイ48とカバー部材50との連結部位には、パイロット通路28を介して、アウトレットポート44b側に向かうエアをパイロット室である第1圧力室58aに対して供給するパイロット機構71が設けられる。なお、下部側の第2圧力室58bは、アウトレットポート44b及びバイパス通路26を通じて、常時、カソード流路18と連通した状態にある。
【0039】
このパイロット機構71は、図5に示されるように、上部側の第1圧力室58aに連通する屈曲したパイロット通路28aと、下部側の第2圧力室58bに連通する屈曲したパイロット通路28bと、前記バルブボデイ48とカバー部材50の合わせ目に形成された凹部内に挿着され、前記上部側のパイロット通路28aと下部側のパイロット通路28bとをそれぞれ連通させると共に、中央部に縮径するオリフィス75が形成された通路形成部材77と、前記通路形成部材77の外周面に環状溝を介して装着され前記凹部内壁との間でシールするシールリング79とを備える。なお、パイロット通路28a、パイロット通路28b及び通路形成部材77に形成された通路を総称してパイロット通路28という。
【0040】
この場合、パイロット通路28中において、前記通路形成部材77によって圧力流体の流通量を絞るオリフィス75を設けることにより、上部側の第1圧力室58a(パイロット室)よりも下部側の第2圧力室58bの圧力が増大したとき、前記パイロット通路28を通じてパイロット圧が第1圧力室58a内に供給されることが抑制され、第1圧力室58aと第2圧力室58bとの圧力差に起因してダイヤフラム60を迅速に作動させることにより、前記ダイヤフラム60の応答性を向上させることができる。
【0041】
換言すると、仮に、パイロット通路28中にオリフィス75を設けない場合には、上部側の第1圧力室58aと下部側の第2圧力室58bとを連通させるパイロット通路28によって、圧力が増大した第2圧力室58b側のパイロット圧が瞬時に第1圧力室58a内に供給されて第1圧力室58aの圧力と第2圧力室58bの圧力とがバランス(平衡)するため、第1圧力室58aと第2圧力室58bとの差圧によってダイヤフラム60を迅速に作動させることが困難となるからである。
【0042】
また、図2に示されるように、バルブボデイ48及びカバー部材50からなる本体部内にパイロット機構71を一体的に設けることにより、第1圧力室58aにパイロット圧を供給するための配管(通路)を別個に設けることが不要となり、配管の接続作業を省略化することができると共に、配管流路による圧力損失を軽減することができる。さらに、前記パイロット機構71がバルブボデイ48及びカバー部材50によって構成される本体部の側部に一体的に設けられることにより、省スペース化が可能となる。
【0043】
前記カバー部材50の上部側には、図3に示されるように、パイロット圧が導入される第1圧力室58aを、大気に連通させて大気開放する大気連通状態と、大気との連通が遮断された大気非連通状態とを切り換えるソレノイド部30が設けられる。なお、本実施形態では、アクチュエータとしてソレノイド部30を用いて後記する弁部88を変位させることにより大気開放路96を開閉しているが、これに限定されるものではなく、例えば、図示しない流体圧シリンダやリニアアクチュエータ等のアクチュエータを用いて前記大気開放路96を開閉するようにするとよい。
【0044】
このソレノイド部30は、図3及び図9に示されるように、断面略U字状のハウジング72内に収容されるコイル組立体と、前記ハウジング72の内壁の上端部にナット部材74を介して固定される固定コア76と、前記固定コア76に対して接近乃至離間可能に設けられた可動コア78とを有する。
【0045】
所定間隔離間する前記可動コア78と前記固定コア76との間には、復帰ばね80が設けられる。また、前記コイル組立体は、樹脂製材料によって形成され軸方向に沿った両端部にフランジを有するコイルボビン82と、前記コイルボビン82に巻回されるコイル84とから構成される。
【0046】
前記可動コア78には、その中心部を貫通する貫通孔を介してシャフト86が固定され、前記シャフト86の一端部には、半径外方向に所定長だけ拡径した円板状の弁部88が設けられる。前記弁部88は、カバー部材50の孔部底面に貼着され弾性材料で形成された弁座部材90に着座するように設けられる。また、カバー部材50の孔部内壁によって囲繞されて前記弁部88が臨む室92と前記第1圧力室58aとを連通させる連通路94が設けられる。
【0047】
さらに、前記弁座部材90の下方側には、断面略L字状に形成されて大気と連通する大気開放路96が設けられる。弁部88が弁座部材90に着座することにより、前記大気開放路96が閉塞されて大気との連通が遮断された大気非連通状態となり、一方、前記弁部88が弁座部材90から離間することにより前記大気開放路96が開口し、室92及び連通路94を通じて第1圧力室58aが大気と連通する大気連通状態となる。
【0048】
この場合、図示しない電源をオンにしてソレノイド部30のコイル84に電流を流すことにより励磁作用が発生し、前記励磁作用によって可動コア78、シャフト86及び弁部88が固定コア76側に向かって一体的に変位することにより、弁部88を弁座部材90から離間させることができる。
【0049】
本実施形態に係る開閉弁34が組み込まれた燃料電池システム10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその動作並びに作用効果について説明する。
【0050】
先ず、燃料電池システム10の運転停止状態では、図示しないイグニッションスイッチがOFF状態となっており、ECU17によって、燃料電池12に対するアノード系14からの水素の供給が遮断されていると共に、エアコンプレッサ20が停止して燃料電池12に対するカソード系16からのエアの供給が停止している。
【0051】
次に、図示しないイグニッションスイッチがON状態となると、ECU17によって、図示しない水素供給源から燃料電池12のアノードに対して水素が供給されると共に、指令信号に基づいてエアコンプレッサ20が駆動され、前記エアコンプレッサ20から吐出された酸素を含むエアがカソード流路18に沿って流通することにより、燃料電池12のカソードに供給される。これにより、燃料電池12では、触媒の作用によって水素イオンと酸素と電子との反応によって水が生成されると共に、発電が開始される。
【0052】
その際、開閉弁34には、ECU17から制御信号が入力されることがなく、弁体32が着座部56に着座した弁閉状態(図6参照)となってバイパス通路26が閉塞された状態にある。
【0053】
このような燃料電池システム10の運転中において、例えば、燃料電池自動車が走行を停止してアイドル状態となったとき、ECU17は、オンオフ弁23に対して電気信号を送給し前記オンオフ弁23を弁閉状態としてカソード流路18を閉塞する。エアコンプレッサ20からカソード流路18に沿ってエアが供給された状態では、前記カソード流路18がオンオフ弁23によって閉塞されることにより、バイパス通路26及びアウトレットポート44bを通じてカソード流路18と連通する下部側の第2圧力室58bの圧力が増大する。
【0054】
従って、ダイヤフラム60によって区分された上部側の第1圧力室58aの圧力と比較して下部側の第2圧力室58bの圧力が打ち勝つことにより、ダイヤフラム60を上方に向かって押圧する力が発生し、このダイヤフラム60を上方に向かって押圧する力によって弁体32は弁ロッド62と一体的に上昇して着座部56から離間する。この場合、ダイヤフラム60が撓曲すると共に、弁ロッド62の上部側のロッド部62aが軸受部材68によって直線状にガイドされることにより、弁体32、弁ロッド62及びダイヤフラム60が一体的に上昇し、弁体32は、ストロークエンドまで到達することがなく、ストローク中間位置の中間状態(図7参照)で停止する。
【0055】
なお、ばね部材64のばね力は、第1圧力室58aと第2圧力室58bとの差圧との関係で弁体32がストロークエンドまで到達することがなく、ストローク中間位置で停止するように所定のばね定数に予め設定されている。
【0056】
燃料電池自動車がアイドル状態のとき、ソレノイド部30には電流が流されておらず、弁座部材90に着座する弁部88によって大気開放路96が閉塞されたままであり、上部側の第1圧力室58aは大気と連通していない大気非連通状態にある。
【0057】
このように、第1圧力室58aと第2圧力室58bとの差圧によって弁体32が着座部56から離間した中間状態(半開状態)となり、弁体32と着座部56との間隙を通じてインレットポート44aから導入された圧力流体がアウトレットポート44bから導出され、バイパス通路26に沿って流通する。
【0058】
一方、例えば、燃料電池システム10を停止して図示しない掃気弁を介して掃気する際、ECU17からソレノイド部30に電流が流されて通電状態となり、コイル84の励磁作用によって磁気回路が発生し、固定コア76側に向かって可動コア78が吸引される(図9参照)。その際、可動コア78に連結された弁部88が弁座部材90から離間することにより大気開放路96が開成され、前記大気開放路96、室92及び連通路94を通じて第1圧力室58aが大気と連通した大気連通状態となる。
【0059】
従って、第1圧力室58a側の圧力が減少して略大気圧となり、第2圧力室58b側のダイヤフラム60を上方に向かって押圧する力によって、弁体32、弁ロッド62及びダイヤフラム60が一体的に上方に向かって変位する。この場合、第1圧力室58aの圧力が大気圧と略同等となって何ら抵抗となるものがないため、弁体32はストロークエンドの位置まで変位して全開状態(図8参照)となり、弁体32と着座部56との間隙を通じて、インレットポート44aからアウトレットポート44bに対して、大流量のエア(掃気ガス)を流通させることができる。なお、図8に示されるように、弁ロッド62の円板部62bがカバー部材50の突起部50bに当接することにより、弁体32の変位が規制されてストロークエンドとなる。
【0060】
本実施形態では、弁体32が着座部56から離間した弁開状態を、図7に示されるストローク中間位置の中間状態(半開状態)と、図8に示されるストロークエンドの全開状態の2段階とすることにより、インレットポート44aから導入されてアウトレットポート44bから導出されてバイパス通路26を流通する圧力流体(エア)の流量を多段階に制御することができる。
【0061】
このように、燃料電池システム10の状況に対応してバイパス通路26を開成したときに、弁体32の中間状態と全開状態とのいずれかの状態を適宜選択することにより、前記バイパス通路26を流通する圧力流体の流量を好適に制御することができる。
【0062】
ところで、燃料電池12の運転開始時において、例えば、外気温が氷点下の低温環境にある場合、ECU17は、開閉弁34に制御信号を導入して弁体32を弁開状態として低温早期起動を実行する。この低温早期起動は、燃料電池システム10を搭載した燃料電池自動車を、例えば、氷点下の環境で起動させる際に暖機を行い、常温で起動する場合と比較して通常流量よりも多い流量、通常圧力よりも高い圧力でエアを供給して、自己発熱量を増大させることが可能な起動方法である。
【0063】
前記暖機は、例えば、弁体32が着座部56から最も離間したストロークエンドの位置にある全開状態(図8参照)を第1段階とし、続いて、弁体32がストロークの中間位置にある中間状態(半開状態)(図7参照)を第2段階として2段階に分けて行われる。なお、中間状態(半開状態)を第1段階とし、続いて、全開状態を第2段階としてもよい。
【0064】
先ず、ECU17は、オンオフ弁23を弁閉状態とすると共に、開閉弁34のソレノイド部30に電流を流して通電状態とし、可動コア78を固定コア76側に吸引して弁部88を弁座部材90から離間させてオン状態とする。ソレノイド部30の弁部88が弁座部材90から離間して大気開放路96が開成することにより、第1圧力室58aが大気と連通状態になり、ダイヤフラム60と一体的に変位する弁体32が着座部56から離間してストロークエンドの位置である全開状態(図8参照)となる(第1段階)。
【0065】
この全開状態では、弁体32が着座部56から最も離間した状態で弁体32と着座部56との間の間隙が最も大きく設定され、大流量のエアがインレットポート44aからアウトレットポート44bに導出することができる。
【0066】
前記第1段階が所定時間経過した後、ECU17は、ソレノイド部30への通電を停止してオフ状態とし、大気開放路96を弁部88で閉塞することによって第1圧力室58aと大気との連通が遮断された大気非連通状態とする。従って、パイロット通路28を介して第1圧力室58a内にパイロット圧が供給され、上部側の第1圧力室58aと下部側の第2圧力室58bとの差圧によって弁体32がストロークエンドの位置からストロークの中間位置である中間状態(図7参照)となる(第2段階)。
【0067】
この弁体32の中間状態では、全開状態よりもエアの流通量が減少するが、所定の中間流量からなるエア流量がアウトレットポート44bを通じて導出することができる。
【0068】
本実施形態では、このようにソレノイド部30がオン状態で第1圧力室58aを大気開放した弁体32の全開状態によって大流量のエアによる第1段階の暖機を遂行し、続いて、ソレノイド部30をオフ状態としパイロット圧が導入された第1圧力室58aと第2圧力室58bとの差圧による弁体32の中間状態によって中間流量のエアによる第2段階の暖機を遂行し、前記第1段階と前記第2段階とを切り換えて好適に暖機を遂行することができる。
【0069】
従って、エアコンプレッサ20から吐出されたエアは、インタクーラ22及びオンオフ弁23を迂回してバイパス通路26に沿って流通し燃料電池12のカソードに供給されて好適に暖機される。
【0070】
本実施形態では、バイパス通路26を介して暖機に使用されるエア流量を第1段階と第2段階とに多段階に切り換えることにより、エアを効率的に使用してエアの省力化を達成することができる。
【0071】
また、本実施形態では、ダイヤフラム60を間にした上部側の第1圧力室58aと下部側の第2圧力室58bとの圧力差(差圧)によって弁体32を着座状態から半開状態(ストローク中間位置)とする第1変位量と、ソレノイド部30をオンにして第1圧力室58aを大気に連通させて弁体32を前記半開状態から全開状態(ストロークエンドの位置)とする第2変位量とし、前記弁体32の変位量が前記第1変位量と前記第2変位量とが加算された合計の変位量(第1変位量+第2変位量)とすることにより、従来と比較して弁体32の変位量を大きく設定することができる。
【0072】
換言すると、本実施形態では、第1圧力室58aと第2圧力室58bとの差圧によって単にダイヤフラム60を撓曲させて変位させるだけでなく、ソレノイド部30を作動させて第1圧力室58aを大気開放状態とし、さらに弁体32を変位させることによって弁体32の変位量を従来と比較して大きく設定することができる。
【0073】
この場合、平面視して、弁ロッド62の軸心とソレノイド部30のシャフト86の軸心とが異なるように異軸に設定すると共に、横方向から側面視して、弁ロッド62の軸線とソレノイド部30のシャフト86の軸線とが略平行となるように設定することにより、弁体32の変位量の増大に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の実施形態に係る開閉弁が組み込まれた燃料電池システムの構成図である。
【図2】前記開閉弁の縦断面図である。
【図3】前記開閉弁の他の縦断面図である。
【図4】前記開閉弁を構成する弁体と弁ロッドとの間に設けられたシール部材の拡大縦断面図である。
【図5】前記開閉弁を構成するパイロット機構の拡大縦断面図である。
【図6】前記弁体が着座部に着座した弁閉状態を示す拡大縦断面図である。
【図7】前記弁体が着座部から離間した中間状態を示す拡大縦断面図である。
【図8】前記弁体が着座部から離間してストロークエンドに到達した全開状態を示す拡大縦断面図である。
【図9】前記開閉弁を構成するソレノイド部のオン状態を示す部分縦断面図である。
【符号の説明】
【0075】
10 燃料電池システム
12 燃料電池
18 カソード流路
22 インタクーラ(放熱部)
26 バイパス通路
28 パイロット通路
30 ソレノイド部
32 弁体
34 開閉弁
44a インレットポート
44b アウトレットポート
48 バルブボデイ(本体部)
50 カバー部材(本体部)
54 弁機構部
56 着座部
58a 第1圧力室
58b 第2圧力室
60 ダイヤフラム
62 弁ロッド
69 シール部材
71 パイロット機構
75 オリフィス
76 固定コア
78 可動コア
84 コイル
88 弁部
96 大気開放路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力流体が出入するインレットポート及びアウトレットポートを有する本体部と、
前記本体部内に設けられ、着座部に対して着座又は離間する弁体を含む弁機構部と、
前記本体部内に設けられた空間部を第1圧力室と第2圧力室とに分割すると共に、前記第1圧力室と前記第2圧力室との圧力差によって前記弁体と一体的に変位するダイヤフラムと、
前記本体部に設けられ、大気と連通する大気開放路を開閉することにより、前記第1圧力室又は前記第2圧力室と大気とが連通する大気連通状態と、前記第1圧力室又は前記第2圧力室と大気との連通が遮断された大気非連通状態とを切り換えるアクチュエータと、
を備えることを特徴とする開閉弁。
【請求項2】
請求項1記載の開閉弁において、
前記アクチュエータは、コイルに対する通電作用下に、固定コア側に向かって可動コアが吸引されることにより、大気開放路を開閉する弁部を有するソレノイド部からなることを特徴とする開閉弁。
【請求項3】
請求項1記載の開閉弁において、
前記本体部には、パイロット通路を介して、インレットポートからアウトレットポートに向かう圧力流体をパイロット室である第1圧力室又は第2圧力室に供給するパイロット機構が一体的に設けられ、前記パイロット通路には、圧力流体の流通量を絞るオリフィスが設けられることを特徴とする開閉弁。
【請求項4】
請求項1記載の開閉弁において、
前記弁機構部は、弁体に固定される弁ロッドを有し、前記弁体と前記弁ロッドとの連結部位には、前記弁ロッドの外周面を囲繞するシール部材が設けられることを特徴とする開閉弁。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の開閉弁において、
前記開閉弁は、燃料電池を含む燃料電池システムに組み込まれ、前記燃料電池のカソードに酸化剤ガスを供給するカソード流路に設けられた放熱部を迂回するバイパス通路中に配設されることを特徴とする開閉弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−53983(P2010−53983A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220378(P2008−220378)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000141901)株式会社ケーヒン (1,140)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】