説明

関節軟骨細胞外マトリクス分解阻害剤

【課題】関節軟骨細胞外マトリクスの分解を良好に阻害する医薬の創製。
【解決手段】デプシペプチド化合物等のヒストン脱アセチル化酵素阻害化合物を有効成分として含有する本発明の関節軟骨細胞外マトリクス分解阻害剤。本発明の関節軟骨細胞外マトリクス分解阻害剤は、関節軟骨細胞外マトリクス分解・変性の関与する疾患や病態、殊に骨関節炎、関節リウマチ、変形性関節症等において、関節軟骨細胞外マトリクス分解・変性の予防並びに治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨関節炎、関節リウマチ、変形性関節症などの関節疾患の治療剤として有用な関節軟骨細胞外マトリクス分解阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の核内のDNAはヌクレオソームを基本としたクロマチン構造を形成している。ヌクレオソームはコアヒストン(ヒストンH2A, H2B, H3, H4それぞれ2分子ずつから成る8量体)とDNAとが巻き付いた構造体で、ヒストンN末端に存在する正電荷を帯びたリジン残基は負電荷を帯びたDNAと電荷的に安定な状態を形成することでヌクレオソームは高次に折り畳まれた状態で存在している(Wolffe,A.P. et al Cell 84, 817-819, 1996)。核内で遺伝子の転写反応が起こるためにはその構造を解けた状態にして、様々な転写因子がDNAに接触できるようにすることが必要である。転写が抑制されている遺伝子領域のヒストンはアセチル化の程度は少なく、活発に転写が起こっている遺伝子領域のヒストンは強くアセチル化されているといったように、ヒストンのアセチル化と転写活性化の関連性が以前より知られていた(Hebbes,T.R. et al EMBO J. 7, 1395-1402, 1988、Grunstein,M. et al Nature 389, 349-352, 1997)。ヌクレオソーム中のヒストンのリジン残基がアセチル化されるとその正電荷は中和され、ヌクレオソーム構造が弛緩することで様々な転写因子がDNAに接触できるようになり、転写が起こりやすくなると考えられている(Hong,L.et al J.Biol.Chem. 268, 305-314, 1993)。
【0003】
ヒストンのアセチル化はヒストンアセチル化酵素(ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(Histone Acetyltransferase); HAT)とヒストン脱アセチル化酵素(ヒストンデアセチラーゼ(Histone Deacetylase); HDAC)とのバランスによって制御されていることが知られており、近年、いくつかのHAT並びに HDACが同定されその転写調節における重要性が報告されている(Ogryzko,V.V. et al Cell 87, 953-959, 1996、Brown,C.E. et al Trends Biochem.Sci. 25(1), 15-19, 2000、Grozinger,C.M. et al Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96, 4868-4873, 1999)。
一方で、細胞周期停止、形質転換細胞の形態正常化、分化誘導など多彩な作用を有する酪酸は、細胞内に高アセチル化ヒストンを蓄積させ、HDAC阻害作用を有することが以前より知られていた(Counsens,L.S.et al J.Biol.Chem. 254, 1716-1723, 1979)。また、微生物代謝産物のTrichostatin A (TSA)は細胞周期の停止、分化誘導を示すことが知られていたが(Yoshida,M. et al Cancer Res 47, 3688-3691, 1987、Yoshida,M. et al Exp.Cell Res 177, 122-131, 1988)、細胞内に高アセチル化ヒストンを蓄積させ、部分精製したHDACを用いた検討からTSAが強力なHDAC阻害剤であることが明らかとなった(Yoshida,M. et al J.Biol.Chem. 265, 17174-17179, 1990)。
【0004】
他のHDAC阻害剤についても研究が進んでいる。微生物代謝産物であるTrapoxinは細胞増殖を抑制し、v-sis形質転換細胞の形態を正常化する作用が知られていたが(Itazaki,H. et al J.antibiotics 43(12), 1524-1534,1990)、後にHDAC阻害剤であることが明らかとなった(Kijima,M. et al J.Biol.Chem. 268, 22429-22435, 1993)。その阻害形式は不可逆的であることから、このTrapoxinを分子プローブとしてこれに結合するヒトHDACのクローニングも報告されている(Taunton,J. et al Science 272 408-411, 1996)。その他、Depudecin(Kwon,H.J. et al Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95, 3356-3361, 1998)、Phenylbutyrate(Warrell,R.P.Jr. et al J.Natl.Cancer Inst. 90(21), 1621-1625, 1998)、Pivaloyloxymethyl butyrate (Aviram, A. et al Int.J.Cancer 56, 906-909, 1994)、MS-27-275(Saito,A. et al Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96, 4592-4597, 1999)、CI-994(Howard, C.T et al Proc.Am.Assoc.Cancer Res. abst #2886, 2002)、SAHA(Richon,V.M. et al Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 95, 3003-3007, 1998)、CHAP (cyclic hydroxamic acid-containing peptide)(Furumai,R. et al Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 98, 87-92, 2001)、Valproic acid(Gottlicher, M. EMBO J. 20, 6969-78, 2001)、NVP-LAQ824(Perez, L.B. et al Proc.Am.Assoc.Cancer Res. abst #3671, 2002、WO02/22577公報)、Apicidin(Cancer Res. 60, 6068-6074, 2000)などの化合物がHDAC阻害作用を有することが報告されている。
【0005】
また、最近になって、いくつかのデプシペプチド誘導体が良好なHDAC阻害作用を有することが報告されている。例えば、FK228(Nakajima,H.et al Exp.Cell Res. 241, 126-133,1998)及び下式(I)で示されるデプシペプチド化合物(国際公開WO02/06307号パンフレット公報:特許文献1)、下記一般式(II)で示されるデプシペプチド化合物(特開2001-348340号公報)及び下記一般式(IIa)で示されるデプシペプチド化合物(特開2001-354694号公報)等の報告がある。以下、式(I)で示されるデプシペプチド化合物をFK288還元体、一般式(II)においてRがイソプロピル基であるものを化合物A、sec-ブチル基であるものを化合物B、イソブチル基であるものを化合物C、また一般式(IIa)で示されるデプシペプチド化合物を化合物A〜Cの還元体とそれぞれ略記する。
【化2】

(式中Rは、イソプロピル基、sec-ブチル基又はイソブチル基を意味する。)
【0006】
HDAC阻害剤は、細胞周期停止、形質転換細胞の形態正常化、分化誘導、アポトーシス誘導、血管新生阻害作用などを示すことから、抗腫瘍剤としての効果が期待されている(非特許文献1及び2参照)。またその他にも、例えば感染症、自己免疫疾患、皮膚病(非特許文献3参照)などの細胞増殖性疾患の治療・改善薬、またハンチントン病などの進行性神経変性疾患の予防・治療薬(非特許文献4参照)、さらに遺伝子治療におけるベクター導入の効率化(非特許文献5参照)、導入遺伝子の発現亢進(非特許文献6参照)など様々な応用も試みられている。
しかしながら、現在まで、HDACと関節軟骨細胞外マトリクスの関連を示す具体的報告は無く、HDAC阻害剤が関節軟骨細胞外マトリクス成分の分解・変性を阻害し、関節軟骨細胞外マトリクス成分の分解・変性を伴う関節疾患の予防・治療に有用であることを示唆する報告も何等なされていない。
なお、前記FK228還元体の特許明細書(特許文献1)には、FK228還元体はそのHDAC阻害活性により異常な遺伝子発現によって引き起こされる疾患に有用として、多数の疾患が羅列されている中にリウマチ性関節炎や変形性関節症が挙げられているが、具体的な効果の記載は無く、治療効果を示す根拠も示されていない。また、国際公開WO02/055017号パンフレット(特許文献2)には、HDAC阻害剤が全身性エリトマトーデス患者から採取したT細胞において異常な免疫関連遺伝子の発現を正常な状態にする効果が示されたことに基づき、関節リウマチを含む自己免疫疾患の治療に使用できるとの記載がある。しかしながら、関節リウマチに対する具体的な効果の開示は無く、HDAC阻害剤が関節軟骨細胞外マトリクス成分の分解・変性を阻害することを示唆する記載も無い。
骨関節炎、関節リウマチ(RA)、変形性関節症(OA)などの関節疾患は、関節軟骨の損傷・変性を主病変とする疾患である。関節疾患の中で最も患者数の多い疾患はOAであるが、現行の治療法においては鎮痛消炎剤やヒアルロン酸製剤が軟骨変性・軟骨下骨破壊に伴う痛みを軽減する目的で対症療法的に用いられているに過ぎず、十分な治療効果を上げているとは言えない状況にある。
【0007】
関節疾患は、外傷による軟骨表面の亀裂、自己免疫の異常或いはマトリクスメタロプロテアーゼの異常等、様々の原因により生じ、その初期の段階においては関節軟骨における細胞外マトリクスの分解・変性が共通して観察される(非特許文献7及び8参照)。細胞外マトリクスは主にII型コラーゲンと軟骨特異的プロテオグリカンであるアグリカンから構成されており、どちらの破綻も細胞外マトリクスの破壊を引き起こし、軟骨組織の破壊につながる。さらにこの軟骨組織の破壊が、RAにおいては軟骨下骨組織の露出、破壊、変性を引き起こし、関節機能の障害を招く一方、OAにおいては軟骨下骨の増殖による骨棘形成や骨硬化を引き起こし、関節の変形を招く(前記非特許文献8参照)。そのため、古くからこれらの関節疾患に共通する細胞外マトリクスの分解・変性を制御することが関節疾患の治療に繋がると考えられており、その分解を担うプロテアーゼ(コラゲナーゼ、アグリカナーゼ)の同定、そして、それらの阻害剤の探索、医薬品としての開発の試みが精力的に行われてきている(前記非特許文献7、9及び10参照)。しかしながら、現在に至るまで、関節軟骨細胞外マトリクスの分解・変性を制御する関節疾患治療薬は上市されていない(非特許文献11及び12参照)。
【0008】
【特許文献1】国際公開WO02/06307号パンフレット
【特許文献2】国際公開WO02/055017号パンフレット
【非特許文献1】Marks,P.A.ら、「Journal of the National Cancer Institute」、2000年、第92巻、p.1210-1216
【非特許文献2】Kim,M.S.ら、「Nature Medicine」、2001年、第7巻、p.437-443
【非特許文献3】Darkin-Rattray,S.J.ら、「Proceedings of the National Academy of Sciences of United States of America」、1996年、第93巻、p.13143-13147
【非特許文献4】Steffan,J.S.ら、「Nature」、2001年、第413巻、p.739-743
【非特許文献5】Dion, L.D.ら、「Virology」、1997年、第231巻、p.201-209
【非特許文献6】Chen,W.Y.ら、「Proceedings of the National Academy of Sciences of United States of America」、1997年、第94巻、p.5798-5803
【非特許文献7】Ishiguro, N、「別冊・医学のあゆみ(細胞外マトリックス)」、医歯薬出版株式会社、1997年2月25日、p.81-85
【非特許文献8】Ozaki, S ら、「知っておきたい骨・関節疾患の新たな診療」、真興交易(株)医書出版部、2001年11月20日、p.46-95
【非特許文献9】Lohmander, LS.ら、「Arthritis and Rheumatism」、1993年、第36巻、第9号、p.1214-22
【非特許文献10】Malfait, AM.ら、「Journal of Biological Chemistry」、2002年、第277巻、第25号、p.22201-8
【非特許文献11】Close,D.R.ら、「Annals of the Rheumatic Diseases」、2001年、第60巻、第3号、p.62-67
【非特許文献12】Arner, E.C.ら、「Current Opinion in Pharmacology」、2002年、第2巻、p.322-329
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
今なお、関節軟骨細胞外マトリクスの分解を良好に阻害する医薬の創製が切望されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、HDAC阻害化合物の作用につき鋭意検討する中で、多くの構造の全く異なるHDAC阻害化合物が、いずれも良好な関節軟骨細胞外マトリクス分解阻害作用を有することを知見し、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明は、
(1)FK228、下式(I)で示されるデプシペプチド化合物、下記一般式(II)で示されるデプシペプチド化合物、下記一般式(IIa)で示されるデプシペプチド化合物、MS-27-275、Trichostatin A、NVP-LAQ824、SAHA、Apicidin、Phenylbutyrate、Valproic acid、Pivaloyloxymethyl butyrate、CI-994、Depudecin、Trapoxin、CHAP及び酪酸から選択されるヒストン脱アセチル化酵素阻害化合物を有効成分として含有する関節軟骨細胞外マトリクス分解阻害剤、
【化3】

(式中Rは、イソプロピル基、sec-ブチル基又はイソブチル基を意味する。)
(2) 前記ヒストン脱アセチル化酵素阻害化合物が、FK228、上記式(I)で示されるデプシペプチド化合物、上記一般式(II)で示されるデプシペプチド化合物、上記一般式(IIa)で示されるデプシペプチド化合物、MS-27-275、Trichostatin A、NVP-LAQ824、SAHA、Apicidin、Phenylbutyrate及びValproic acidから選択される(1)記載の剤、
(3)前記ヒストン脱アセチル化酵素阻害化合物が、FK228、上記式(I)で示されるデプシペプチド化合物、上記一般式(II)で示されるデプシペプチド化合物、上記一般式(IIa)で示されるデプシペプチド化合物、MS-27-275、Trichostatin A、NVP-LAQ824、SAHA及びApicidinから選択される(2)記載の剤、
(4) 骨関節炎の予防又は治療剤である(1)乃至(3)のいずれかに記載の剤、
(5) 関節リウマチの予防又は治療剤である(1)乃至(3)のいずれかに記載の剤、及び
(6) 変形性関節症の予防又は治療剤である(1)乃至(3)のいずれかに記載の剤
に関する。
【0012】
本発明は転写調節に関与するHDAC阻害化合物が、意外にも骨関節炎の主病変である関節細胞外マトリクス分解・変性そのものを抑制し、骨関節炎治療の中心的役割を担え得る可能性を見出したものであり、まさに画期的な発明であるといえる。
【0013】
以下、本発明につき詳述する。
本発明医薬に用いられるHDAC阻害化合物としては、HDACを阻害する化合物並びにその塩であり、具体的には、公知のHDAC阻害化合物である、FK228及びその還元体、デプシペプチド化合物(化合物A,B及びC)及びそれらの還元体、MS-27-275、Trichostatin A、NVP-LAQ824、SAHA、Apicidin、酪酸及びその誘導体(Phenylbutyrate、Pivaloyloxymethyl butyrate、Valproic acid等)、CI-994、Depudecin、Trapoxin並びにCHAPなどが挙げられる。これらのHDAC阻害化合物は、市販されているか、文献既知の方法を用いて入手することができる。好ましくは、FK228及びその還元体、デプシペプチド化合物(化合物A,B及びC)及びそれらの還元体、MS-27-275、Trichostatin A、NVP-LAQ824、SAHA、Apicidin、Phenylbutyrate及びValproic acidであり、より好ましくは、FK228及びその還元体、デプシペプチド化合物(化合物A,B及びC)及びそれらの還元体、MS-27-275、Trichostatin A、NVP-LAQ824、SAHA及びApicidinである。また、同様の作用を持つこれらの化合物の誘導体も本発明のHDAC阻害化合物として好適である。
【0014】
HDAC阻害活性は、公知の一般的方法、例えば、Yoshida, M. et al J.Biol.Chem. 265, 17174-17179, 1990に記載の方法に従って容易に測定できる。具体的には、当該文献記載の方法で調製された[3H]アセチルヒストン及びヒストン脱アセチル化酵素画分を使用し、被験化合物を[3H]アセチルヒストンとDTTを含む反応溶液中に加え、室温にて1時間プレインキュベーション後、ヒストン脱アセチル化酵素画分を混合し室温にて2時間反応させ、1M 塩酸及び酢酸エチルを添加後、遠心分離により分離した酢酸エチル層中の放射活性を液体シンチレーションカウンターで測定することにより行うことができる。
【0015】
代表的なHDAC阻害化合物の、HDAC阻害活性を引用文献名と共に示す。なお、化合物Aについては上記方法にて測定した結果を示す。
・FK228: 1.1 nM (IC50値;Exp.Cell Res. 241, 126-133,1998)
・化合物A: 30 nMにおいて約85%阻害
・MS-27-275: 2 μM (IC50値;Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96, 4592-4597, 1999)
・酪酸(Na塩): 280 μM (IC50値;Exp.Cell Res. 241, 126-133,1998)
・Butyrates (酪酸, Phenylbutyrate, etc.): mMオーダー(Nat. Rev. Drug Discov. 2002 1, 287-299, 2002)
・Valproic acid: mMオーダー(Nat. Rev. Drug Discov. 2002 1, 287-299, 2002)
・Trichostatin A: 2.1 nM(IC50値;Exp.Cell Res. 241, 126-133, 1998)
・NVP-LAQ824: 0.03μM(IC50値;Blood First Edition Paper, prepublished online June 19, 2003)
・SAHA: 10〜20 nM(IC50値;Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95, 3003-3007, 1998)
・Apicidin: 5 nM(IC50値;Cancer Res. 60, 6068-6074, 2000 )
本発明の別の好ましいHDAC阻害化合物は、上記Yoshida等の方法により測定したHDAC阻害活性(IC50値)が100 μM以下、より好ましくは10 μM以下、更に好ましくは1 μM以下の化合物である。
【0016】
以下に本発明の関節軟骨細胞外マトリクス分解阻害剤の製剤化法及び投与方法を詳述する。
HDAC阻害化合物の1種又は2種以上を有効成分として含有する医薬組成物は、通常用いられている製剤用の担体や賦形剤、その他の添加剤を用いて、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、液剤、注射剤、坐剤、軟膏、貼付剤等に調製され、経口的又は非経口的に投与される。
HDAC阻害化合物のヒトに対する臨床投与量は、HDAC阻害化合物の種類に応じて適宜設定することができる。通常経口投与の場合、1日当たり約0.001から500mg、好ましくは0.01〜300mgが適当であり、これを1回であるいは2乃至4回に分けて投与する。関節内、筋肉内、皮下若しくは静脈内等に非経口投与される場合は、1回当たり約0.0001から100mgが、好ましくは0.001〜10mgが適当である。投与頻度、投与量は症状、年令、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定される。
【0017】
本発明による経口投与のための固体組成物としては、錠剤、散剤、顆粒剤等が用いられる。このような固体組成物においては、一つ又はそれ以上の活性化合物が、少なくとも一つの不活性な希釈剤、例えば乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムと混合される。組成物は、常法に従って、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えばステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤や繊維素グリコール酸カルシウムのような崩壊剤、更に安定化剤や溶解補助剤を含有していてもよい。錠剤又は丸剤は必要によりショ糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートなどの糖衣または胃溶性あるいは腸溶性化合物のフィルムで被膜してもよい。
経口投与のための液体組成物は、薬剤的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤等を含み、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば精製水、エチルアルコールを含む。この組成物は不活性な希釈剤以外に溶解補助剤、湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤を含有していてもよい。
【0018】
非経口投与のための注射剤としては、無菌の水性又は非水性の溶液剤、懸濁剤、乳濁剤を包含する。水性の溶液剤、懸濁剤の希釈剤としては、例えば注射剤用蒸留水及び生理食塩水が含まれる。非水溶性の溶液剤、懸濁剤の希釈剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、エチルアルコールのようなアルコール類、ポリソルベート80(商品名)等がある。このような組成物は、さらに等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤(例えば、ラクトース)、溶解補助剤のような添加剤を含んでもよい。これらは例えばバクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合又は照射によって無菌化される。これらは又無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水又は無菌の注射用溶媒に溶解して使用することもできる。
本発明医薬に用いられる化合物の溶解性が低い場合には、可溶化処理を施してもよい。可溶化処理としては、医薬製剤に適用できる公知の方法、例えば界面活性剤を添加する方法、薬物と可溶化剤例えば高分子(水溶性高分子や腸溶性高分子)との固体分散体を形成する方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明医薬の有効成分であるHDAC阻害化合物は、関節軟骨細胞外マトリクスの分解を良好に阻害することから、本発明医薬は、特に関節軟骨細胞外マトリクスの分解・変性の関与する骨関節炎、関節リウマチ、変形性関節症等の予防又は治療剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、実施例にて本発明の有効成分であるHDAC阻害化合物の関節軟骨細胞外マトリクス分解阻害作用を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
ウサギ軟骨初代培養細胞におけるプロテオグリカン(PG)破壊阻害活性(レチノイン酸刺激)
(試験方法)
ウサギ(日本白色種、オス、1.0〜1.5kg)を過剰麻酔下で致死させた後、膝関節を摘出し、関節表面の軟骨層をメスにて剥離、細断した。さらに、トリプシン-EDTA(0.25%-1mM;GIBCO-BRL社製)にて37℃、1時間処理の後、1500rpm、5分で遠心分離し沈殿した細胞をダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、GIBCO-BRL社製)で洗浄した。続いてコラゲナーゼA(0.15%;ベーリンガー・マンハイム社製)/DMEMにて37℃、3〜12時間処理した後、ナイロンメッシュフィルター(100μm、Falcon社製)通過画分を1500rpm、5分の遠心分離にかけ、軟骨細胞を沈殿させた。DMEM/10%FBS培地で十分に洗浄した後、DMEM/10%FBS培地に2×105cells/mlになるように懸濁し、I型コラーゲンをコートした96穴プレート(旭テクノグラス社製)に200μl/穴で蒔いた。3日後に培地を50μg/mlアスコルビン酸含有DMEM/10%FBS培地(以下、アスコルビン酸培地)200μlに交換し、さらに2日間培養を2回繰り返した。その後、ウサギ膝関節軟骨初代培養細胞を終濃度10μCi/mlのNa235SO4含有アスコルビン酸培地200μlにて3日間培養、標識した後、200μlのアスコルビン酸培地で3回洗浄し、200μlのアスコルビン酸培地で1日間培養した。終濃度1μMのall-transレチノイン酸(シグマ社製)で刺激し、48時間後の培養上清を20μlずつ回収し、トップカウント(Packard社製)を用い、放射活性を計測した。被験化合物は刺激開始と同時添加し、レチノイン酸非添加群を100%、レチノイン酸添加群を0%とした百分率でそのPG分解阻害活性を算出した。
(被験化合物)
【0022】
【化4】

(結果) 結果を下表1に示す。各HDAC阻害化合物は、構造に関係なく、そのHDAC阻害を示す濃度域において、濃度依存的にPG分解を阻害することが判明した。
【0023】
【表1】

【実施例2】
【0024】
ウサギ軟骨初代培養細胞におけるPG破壊阻害活性(IL-1刺激)
(試験方法)
実施例1と同様にしてウサギ軟骨初代培養細胞を調製した。終濃度10ng/mlのヒトIL-1β(R&D System社製)で刺激し、48時間後の培養上清を20μlずつ回収し、トップカウント(Packard社製)を用い、放射活性を計測した。被験化合物は刺激開始と同時添加し、IL-1非添加群を100%、IL-1添加群を0%とした百分率でそのPG分解阻害活性を算出した。
(結果) 結果を下表2に示す。被験化合物である各種HDAC阻害化合物は、そのHDAC阻害を示す濃度域において、PG分解を阻害することが判明した。
【0025】
【表2】

【0026】
上記実施例1並びに2の試験方法は、関節軟骨に対する被験化合物の作用、特に細胞外マトリクスの分解・変性に対する作用を評価する簡便な評価法として、従来より関節疾患治療剤のスクリーニングに広く用いられている方法である(Spirito S.et al, Agents Actions;39, C160-2, 1993)。実際、in vitroにおいて、レチノイン酸またはIL-1等によるPG分解を抑制する作用があるマトリクスメタロプロテアーゼ阻害剤(Lawrence J. et al, Arch Biochem Biophys. 344(2), 404-12, 1997)は、骨関節炎モデルマウスにおいても細胞外マトリクスの分解・変性を良好に抑制することが確認されている(Ann Rheum Dis. 54(8), 662-9, 1995、J Exp Med. 182(2), 449-57, 1995、Adv Dent Res. 12(2), 82-5, 1998及びInflamm Res. 49(4), 144-6, 2000)。よって、本評価系で優れた効果が確認された本発明の有効成分であるHDAC阻害化合物は、関節軟骨細胞外マトリクスの分解・変性を抑制する薬剤として有用である。特に、本発明の有効成分であるHDAC阻害化合物は、軟骨細胞外マトリクスの分解・変性を惹起する代表的な刺激物質であるIL-1或いはレチノイン酸のいずれに対しても良好に関節軟骨細胞細胞外マトリクスの分解・変性を抑制する作用を有し、刺激物質の種類にかかわらず軟骨細胞細胞外マトリクスの分解・変性を抑制する薬剤として有用である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明医薬は、特に関節軟骨細胞外マトリクスの分解・変性の関与する骨関節炎、関節リウマチ、変形性関節症等の予防又は治療剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FK228、下式(I)で示されるデプシペプチド化合物、下記一般式(II)で示されるデプシペプチド化合物、下記一般式(IIa)で示されるデプシペプチド化合物、MS-27-275、Trichostatin A、NVP-LAQ824、SAHA、Apicidin、Phenylbutyrate、Valproic acid、Pivaloyloxymethyl butyrate、CI-994、Depudecin、Trapoxin、CHAP及び酪酸から選択されるヒストン脱アセチル化酵素阻害化合物を有効成分として含有する関節軟骨細胞外マトリクス分解阻害剤。
【化1】

(式中Rは、イソプロピル基、sec-ブチル基又はイソブチル基を意味する。)
【請求項2】
前記ヒストン脱アセチル化酵素阻害化合物が、FK228、請求項1記載の式(I)で示されるデプシペプチド化合物、請求項1記載の一般式(II)で示されるデプシペプチド化合物、請求項1記載の一般式(IIa)で示されるデプシペプチド化合物、MS-27-275、Trichostatin A、NVP-LAQ824、SAHA、Apicidin、Phenylbutyrate及びValproic acidから選択される請求項1記載の剤。
【請求項3】
前記ヒストン脱アセチル化酵素阻害化合物が、FK228、請求項1記載の式(I)で示されるデプシペプチド化合物、請求項1記載の一般式(II)で示されるデプシペプチド化合物、請求項1記載の一般式(IIa)で示されるデプシペプチド化合物、MS-27-275、Trichostatin A、NVP-LAQ824、SAHA及びApicidinから選択される請求項2記載の剤。
【請求項4】
骨関節炎の予防又は治療剤である請求項1乃至3のいずれかに記載の剤。
【請求項5】
関節リウマチの予防又は治療剤である請求項1乃至3のいずれかに記載の剤。
【請求項6】
変形性関節症の予防又は治療剤である請求項1乃至3のいずれかに記載の剤。

【公開番号】特開2009−137979(P2009−137979A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331707(P2008−331707)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【分割の表示】特願2004−530568(P2004−530568)の分割
【原出願日】平成15年8月19日(2003.8.19)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】