説明

防振マウントのブラケット

【課題】車両用の防振マウントに用いられる鋳物のブラケットに錘を付加する場合に、簡易な構造でコストの上昇を招くことなく、錘をしっかりと取り付けできるようにする。
【解決手段】一例であるエンジンマウントMにおいてアルミ・ダイキャスト製のハウジング3に一体に設けられたブラケット部5には、肉盗みのための凹部53が形成されている。凹部53の内周面には鋳型の抜き方向に延びるように複数の突条54を形成する。凹部53に高比重樹脂からなる錘8を嵌め込み、突条54により押圧することによって、しっかりと固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のエンジンマウント等に用いられるブラケットに関し、特に、振動特性を調整するための錘を取り付ける構造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より一般に車両のエンジンマウントは、車体とエンジンや変速機(パワープラント)との間にゴム弾性体を介在させて、その静荷重を弾性的に支持するとともに、該パワープラントからの振動を吸収し或いは減衰させて、車体への伝達を抑制するために用いられる。このマウントは、パワープラント側及び車体側のブラケットをゴム弾性体により相対変位可能に連結したものであり、さらに緩衝液を封入したものも知られている。
【0003】
また、そうしてゴム弾性体により連結されるブラケットは従来、安価な鉄板の板金加工によるものが主流であったが、近年では車両全体の軽量化の要請が高まっていることを受けて、比重の小さなアルミ・ダイキャスト製のものが増えつつある。
【0004】
ところが、軽量なアルミ合金を用いたブラケットでは共振点がエンジンの実用回転域に現れることがあり、パワープラントを実際に車体に搭載した状態で試験した結果、ノイズやバイブレーション等(NVH)を抑制するために錘を付加したり、或いはダイナミックダンパを取り付けることもある。例えば引用文献1、2には、ブラケットに形成した収容空間にウエイト(錘)とゴム弾性体とからなるダイナミックダンパを収容したものが記載されている。
【0005】
すなわち、ダイナミックダンパにおいてウエイトを支持するゴム弾性体は紫外線や油脂類等の付着により劣化し、実使用における繰り返し変形によって破断することになるから、この場合のウエイトの脱落を阻止するために、特許文献1のものでは二つのブラケットに設けた凹所を組み合わせて外気と遮断された収容空間を形成しており、また、引用文献2のものではブラケットに設けた凹所を蓋金具によって閉ざしている。
【特許文献1】特許第3319236号公報
【特許文献2】特許第3994437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来例のように、ダイナミックダンパの収容空間を閉塞するためだけに複数の部材を組み合わせるのは如何にも無駄があり、部品点数や組み付け工数が増えてマウントのコストの上昇を招くきらいがある。
【0007】
また、前記のようなダイナミックダンパではなく単に錘を取り付ける場合でも、アルミ・ダイキャスト製のブラケットには錘を溶接することが難しいので、ボルト留め等せざるを得ず、やはりコストの上昇を招くことになる。
【0008】
斯かる点に鑑みて本発明の目的は、アルミダイキャストのような鋳物のブラケットに錘を付加するための構造に工夫を凝らし、簡易な構造でコストの上昇を招くことなく、錘をしっかりと取り付けできるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本願の請求項1に係る発明は、車両用の防振マウントに用いられる鋳物のブラケットを対象とし、このブラケットに一般的に設けられる肉盗みのための凹部に着目して、ここに錘を嵌め込むとともに、この錘を押圧して移動不能となるように固定する固定部を設けたものである。
【0010】
前記構成のブラケットによると、一般的に設けられている肉盗みのための凹部を利用して錘をしっかりと取り付けることができる。すなわち、錘が凹部に嵌め込まれているだけでなく、これを押圧して移動不能に固定する固定部が設けられており、従来例のダイナミックダンパのように錘が振動することがないので、それが脱落する心配は非常に少ない。よって、蓋金具等の追加やボルト留めも不要で、コストの上昇を抑制できる。
【0011】
そうして錘を固定するためには、例えば凹部の内周面に鋳型の抜き方向に延びるように複数の突条を形成するのが好ましく(請求項2)、こうすれば錘をしっかりと押圧して固定できるとともに、ブラケットの鋳造時に型抜きの邪魔になることもない。
【0012】
また、凹部の開口周縁に錘をかしめるように突部を設けてもよい(請求項3)。この突部は、ブラケットの鋳造時に開口周縁にその開口方向に突出するよう一体に成形しておき、錘を嵌入した後に折り曲げてかしめるようにする。さらに、凹部の開口周縁と錘との間に別体の楔部材を嵌入してもよく(請求項4)、こうすれば、より確実に固定することができる。
【0013】
そうして固定される錘はブラケットよりも比重の大きな材料で形成するのが好ましく、ブラケットがアルミ合金製であれば鉄、銅、タングステンのような金属も考えられるが、特に高比重樹脂を用いれば肉盗みの形状に合わせた成形が容易である上に、その微小な変形によって寸法誤差の吸収が期待できる(請求項5)。また、錘をゴム膜によって被覆して、その外面を凹部の内周面に接着するようにしてもよく、こうすれば、特に金属を用いた場合に、ゴム膜の変形による寸法誤差の吸収が有効なものになる(請求項6)。
【発明の効果】
【0014】
以上、説明したように本発明に係る防振マウントでは、鋳物のブラケットに一般的な肉盗みのための凹部に錘を嵌め込むとともに、これを押圧して移動不能となるように固定する簡易な構造の固定部を設けたから、コストの上昇を招くことなく、錘をしっかりと取り付けできる。特に、錘を高比重樹脂で形成すれば、肉盗みの形状に合わせて容易に成形が可能であり、寸法誤差の吸収というメリットもある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0016】
(実施形態1)
図1は、本発明に係るブラケットを用いた自動車用エンジンマウントMの一実施形態を示し、車両に搭載された状態で斜め前方から見た斜視図である。このマウントMは、図示しないエンジン及び変速機(以下、まとめてパワープラントという)と車体との間に介設されて、そのパワープラントの静荷重を支持するとともに、当該パワープラントからの振動を吸収し或いは減衰させて、車体への伝達を抑制する。
【0017】
概略構造を説明すると、図示のマウントMは、車体側にブラケット部材1によって連結される円柱状のインナ金具2と、このインナ金具2の外周を取り囲み且つ上方に離間するハウジング3とを備え、両者がゴム弾性体によって連結されてなる。図2(a)に下方から見て示すように、インナ金具2の下端はブラケット部材1の長手方向の中央部付近にボルト4により締結されている。そして、図には示さないが、インナ金具2の外周から放射状に斜め上方に延びるようにゴム弾性体が形成されている。
【0018】
すなわち、ゴム弾性体は、上方に開口する中空コーン状とされ、その内周端がインナ金具2の外周に被着される一方、外周端はハウジング3の内周に被着されていて、ハウジング3をインナ金具2及びブラケット部材1に対して上下に相対変位可能に支持している。また、そのハウジング3の外周における一側(図の右側)には一体にブラケット部5(防振マウントのブラケット)が形成されていて、図示しない別体のブラケット部材を介してエンジンに連結されるようになっている。
【0019】
この例ではハウジング3はアルミ・ダイキャスト製で略円筒状であり、これに連なるブラケット部5は、上下方向に延びる3つのボス部50,50,…を車両の前後方向(以下、単に前後方向という)に並べて一体化したような形状である。そして、図示はしないが、各ボス部50の中心孔50aにそれぞれ上方からボルトが挿入され、その軸部が、ブラケット部5の下端に接続される別体のブラケット部材のボルト穴に螺入されて、両者を締結するようになっている。
【0020】
尚、図の例ではハウジング3の外壁には、ブラケット部材1の延びる方向、即ち前後方向の両面にそれぞれストッパゴム層30,30が形成されている。また、図示はしないが、ハウジング3の上部にはダイヤフラムが取り付けられてゴム弾性体の中空部を閉塞し、緩衝液の封入された液室を区画しており、そのダイヤフラムの上方を覆うようにキャップ7が取り付けられている。
【0021】
本発明の特徴は、前記マウントMのハウジング3に一体成形されたブラケット部5の構造にある。図2に示すように下方から見ると、ブラケット部5は、3つのボス部50,50,…がリブ51,51によって連結されているように見えるが、見方を変えれば、ブロック状の塊からボス部50やリブ51を除いて余肉を取り除いたものと言うこともできる。こうして余肉を除いて、強度の確保に必要な肉厚のみとすることは鋳物の常套手段であり、軽量化が図られるとともに巣の発生も防止できる。
【0022】
すなわち、ブラケット部5は、ハウジング3の外周に設けられたブロック状の塊の外側(ハウジング3と反対の側)から3つのボス部50,50,…を除いて余肉を盗む一方、内側(ハウジング3に近い側)では、それらボス部50,50,…を互いに連繋するリブ51,51と、それらをハウジング3に連繋するブリッジ部52,52,…とを除いて、下方から余肉を盗んだような形状であり、この肉盗みの部分が下方に開口する2つの凹部53,53となっている。
【0023】
そして、図の例では一方の凹部53(図2の上側の凹部)に錘8が嵌め込まれて、固定されている。こうして錘8を取り付けるのは、マウントMを用いてパワープラントを実際に車体に搭載した状態で試験を行い、エンジンの実用回転域に共振点が現れたときに、ブラケット部5の質量を増大さることによって、共振点をアイドル回転数よりも低周波側にずらし、NVHを抑制するためである。
【0024】
詳しくは同図(b)に拡大して示すように、凹部53にはその開口からはみ出すように、即ちブラケット部5の下面から下方に飛び出すようにして、当該凹部53と概ね同じ形状の錘8が嵌め込まれている。錘8は、アルミ合金よりも比重の大きな材料で形成するのが好ましく、この実施形態では、タングステンのような高比重の金属を練り込んだ高比重樹脂を用いている。高比重樹脂は、凹部53の形状に合わせて任意の形状に容易に成形できる上に、適度に変形して凹部53の寸法誤差を吸収する。
【0025】
そうして嵌め込んだ錘8を両側から押圧するように、凹部53の内周面には複数の突条54,54,…が形成されている。すなわち、図3に拡大して示すように、凹部53は、左右両側の長手側壁面と、それらの前端を繋ぐ円弧状壁面と、後端を繋ぐとともに凹部53の底から開口に向かい大きく傾斜した異形状壁面と、からなり、図の例では互いに対向する長手側壁面にそれぞれ、凹部53の底から開口に向かうように、即ち鋳型の抜き方向に延びるように複数の突条54,54,…が形成されている。
【0026】
そして、図示のように圧入される錘8が突条54,54,…により左右両側から押圧されて、しっかりと固定されることから、エンジンや車体の振動を受けても錘8が振動することはなく、それが脱落する心配はない。また、そうして錘8を押圧するための突条54,54,…はハウジング3及びブラケット部5を鋳造する際の鋳型の抜き方向に延びているので、型抜きの邪魔になることはない。
【0027】
したがって、この実施形態1に係るエンジンマウントMによると、ハウジング3に一体成形したブラケット53の肉盗みのための凹部53に、錘8を嵌め込むとともに、その凹部53の内周面に設けた突条54,54,…によって押圧し、錘8を移動不能に固定することができる。よって、錘8を覆う蓋金具等を追加したり、それらをボルト留めする必要もなく、コストは殆ど上昇しない
(実施形態2)
図4は、本発明の実施形態2に係るブラケット部5への錘8の固定構造を示す。この実施形態の特徴は、凹部53の開口周縁に突出片55,55,…(突部)を一体に形成し、これを内側に折り曲げて錘8をかしめるようにしたことにある。図の例では、凹部53の外側の長手側壁面と前端の円弧状壁面及び後端の異形状壁面とにそれぞれ対応して、周方向に長い突出片55,55,…を設けているが、これに限るものではない。
【0028】
また、図の例では、実施形態1と同じく凹部53内周面に突条54,54,…も設けているが、突出片55,55,…により錘8をかしめるのであれば、突条54,54,…はなくてもよい。
【0029】
また、図の例では、錘8を実施形態1のものに比べてやや厚みの小さなものとしており、その下面(図の左側の面)がブラケット部5の下面と略同一面上に位置して、前記のように折り曲げた突出片55,55,…によりかしめやすくなっているが、これに限ることもない。
【0030】
(実施形態3)
さらに、図5は、実施形態3に係るブラケット部5への錘8の固定構造を示し、この実施形態の特徴は、凹部53の開口周縁と錘8との間に別体の環状部材9(楔部材)を嵌入するようにしたことにある。図の例では環状部材9は、例えばスタンピングによって凹部53の開口形状に対応する形状に成形されている。
【0031】
環状部材9は、それ自体の断面が楔状である必要はなく、図示のように凹部53の開口周縁や錘8の下部周縁に面取りが施されているので、これらの間に環状部材9を嵌入することは困難ではない。
【0032】
また、図の例では錘8を実施形態2のものよりもさらに厚みの小さなものとしており、その下面(図の左側の面)がブラケット部5の下面よりも奥に引っ込んでいるため、前記のように嵌入した環状部材9が凹部53から飛び出さないようになり、好ましい。
【0033】
また、図の例では凹部53の内周面に突条54,54,…を設けていないが、環状部材9と干渉しないように開口付近を除いて、凹部53の内周面の下側のみに突条54,54,…を設けてもよい。
【0034】
さらに、環状部材9ではなくて、複数の楔部材を凹部53の開口周縁と錘8との間に嵌入するようにしてもよい。
【0035】
尚、前記した実施形態1〜3では、いずれも錘8を高比重樹脂で形成しているが、これは例えば鉄、銅、タングステンのようにアルミ合金よりも比重の大きな金属で形成してもよい。鉄系材料を用いれば安価であるが、この場合には寸法誤差に起因してブラケット部5にひび割れを生じる虞れがあるので、好ましくは薄いゴム膜によって被覆するのがよい。こうすればゴム膜の変形によって寸法誤差が吸収されるとともに、電食も防止できる。
【0036】
また、そうしてゴム膜により被覆した錘8の外面を凹部53の内周面に接着するようにしてもよく、この場合には圧入接着の技術が有効である。
【0037】
さらに、前記各実施形態では本発明に係るブラケットを、エンジンマウントMのハウジング3と一体に設けているが、これに限らず、別体のブラケット部材にも本発明を適用することができる。マウントは実施形態のような縦置きのエンジンマウントMに限定されず、横置きのエンジンマウント、さらにはサスペンション用のマウント等にも本発明は適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上、説明したように、本発明に係る防振マウントのブラケットは、非常に簡易な構造でコストの上昇を招くことなく、錘をしっかりと取り付けることができるので、自動車用として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態1に係るエンジンマウントの外観を示す斜視図である。
【図2】同マウントを下方から見た斜視図である。
【図3】ブラケットの凹部へ錘の嵌め込む説明図である。
【図4】実施形態2に係る図3相当図である。
【図5】実施形態3に係る図3相当図である。
【符号の説明】
【0040】
M エンジンマウント(防振マウント)
5 ブラケット部(鋳物のブラケット)
53 肉盗みのための凹部
54 突条
55 突出片(突部)
8 錘
9 環状部材(別体の楔部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用の防振マウントに用いられる鋳物のブラケットであって、
肉盗みのための凹部に錘が嵌め込まれているとともに、この錘を押圧して移動不能に固定する固定部が設けられていることを特徴とする防振マウントのブラケット。
【請求項2】
固定部は、凹部の内周面に鋳型の抜き方向に延びるように形成された複数の突条を有している、請求項1に記載のブラケット。
【請求項3】
固定部は、凹部の開口周縁に錘をかしめるように設けられた突部を有している、請求項1又は2のいずれかに記載のブラケット。
【請求項4】
固定部は、凹部の開口周縁と錘との間に嵌入された別体の楔部材を有している、請求項1〜3のいずれか1つに記載のブラケット。
【請求項5】
錘が高比重樹脂からなる、請求項1〜4のいずれか1つに記載のブラケット。
【請求項6】
錘がゴム膜によって被覆されていて、その外面が凹部の内周面に接着されている、請求項1〜4のいずれか1つに記載のブラケット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−111204(P2010−111204A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284313(P2008−284313)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)
【Fターム(参考)】