説明

防振支持装置

【課題】車体と燃料タンクとの間に配置される弾性部材を備える防振支持装置において、弾性部材に荷重が作用する際の初期段階や小荷重が作用する際における弾性部材による振動の伝達抑制効果の向上、および弾性部材の防振性能の等方性の向上を図り、以て弾性部材の防振性能の向上を図る。
【解決手段】防振支持装置は、車体2と燃料タンク10との間に配置される弾性部材20を備え、弾性部材20の弾性変形により車体2と燃料タンク10との間の振動の伝達が抑制される。弾性部材20は、上下方向に平行な軸線を中心に円環状に配置された複数の球状体30が互いに結合した環状体であり、円環状に配置された複数の球状部31,32を有する。複数の球状部31,32は、ほぼ同一形状であり、上下方向で車体2および燃料タンク10にそれぞれ接触する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持部材と該支持部材に支持される被支持部材との間に配置されて、支持部材および被支持部材間での振動の伝達を抑制する弾性部材を備える防振支持装置に関する。そして、該防振支持装置は、例えば車両に備えられ、前記弾性部材は、例えば車体と該車体に支持される燃料タンクとの間に配置される。
【背景技術】
【0002】
車両が備える防振支持装置として、車体と燃料タンクとの間に、車体および燃料タンクに上下方向で対向して配置された弾性部材を備え、該弾性部材により車体と燃料タンクとの間での振動の伝達を抑制するものは知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−7957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車体および燃料タンクに対して上下方向で対向して配置された弾性部材を備える防振支持装置において、弾性部材が直方体状であることに起因して、または、弾性部材が複数の突起を有する場合に該突起の形状や配置に起因して、弾性部材の剛性が上下方向に直交する方向である水平方向での異なる方向(例えば、前後方向と左右方向)に対して比較的大きく異なることがある。このような場合に、燃料タンクまたは車体の振動に起因して該弾性部材に作用する荷重が、上下方向以外に、水平方向の成分を有する場合、水平方向での荷重の方向に依存して、弾性部材の防振性能にバラツキが生じる、すなわち防振性能が方向性を有することになる。そして、弾性部材の防振性能に方向性があると、特定の方向の外力に対して防振性能が低下する分、弾性部材の防振性能が低下して、振動および騒音の低減効果が低下する。
【0005】
また、荷重による弾性部材の初期段階での変形を容易にすることにより、例えば荷重が小さいときには、荷重が大きいときに比べて、荷重の変化量に対する弾性部材の弾性変形量を大きくすることで、車体および燃料タンク間での振動の伝達抑制効果を高めることが望ましい。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、支持部材と被支持部材との間に配置される弾性部材を備える防振支持装置において、弾性部材に荷重が作用する際の初期段階や小荷重が作用する際における弾性部材による振動の伝達抑制効果の向上、および弾性部材の防振性能の等方性の向上を図り、以て弾性部材の防振性能の向上を図ることを目的とする。
そして、本発明は、さらに、防振支持装置の弾性部材が水などの異物に曝される環境で使用される場合に、弾性部材と被支持部材または支持部材との間に侵入した異物の排出を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、支持部材(2)と前記支持部材(2)に支持される被支持部材(10)とが互いに対向する対向方向で、前記支持部材(2)および前記被支持部材(10)の間に配置された弾性部材(20,120,220)を備え、前記弾性部材(20,120,220)の弾性変形により前記支持部材(2)と前記被支持部材(10)との間の振動の伝達が抑制される防振支持装置において、前記弾性部材(20,120,220)は、前記対向方向に平行な軸線(L)を中心に円環状に配置された複数のほぼ同一形状の球状部(31,32)を有し、前記各球状部(31,32)は、前記対向方向で前記支持部材(2)または前記被支持部材(10)に接触する防振支持装置である。
【0008】
これによれば、弾性部材は、円環状に配置された複数の、ほぼ同一形状の球状部にて支持部材または被支持部材に接触するので、対向方向に直交する直交方向での異なる方向(または、弾性部材の周方向)での剛性のバラツキを減少させて、異なる直交方向(または、周方向)での弾性部材の剛性を均一化できる。そして、球状部の数を増加させるほど、異なる直交方向での剛性の均一性が向上する。
さらに、支持部材または被支持部材との接触部位である各球状部の形状が球状であることにより、各球状部自体が、前記直交方向の任意の方向での剛性がほぼ均一である。
これらの結果、前記直交方向の荷重に対する弾性部材の防振性能のバラツキを小さくできるので、該防振性能の等方性が向上し、したがって弾性部材の防振性能が向上する。
しかも、支持部材または被支持部材との接触部位が球状部であることにより、弾性部材に対する荷重の作用の初期段階、および荷重が小荷重であるときには、支持部材または被支持部材との接触面積が小さいために球状部が弾性変形し易く、さらに周方向で隣接する球状部同士の間には空隙が形成されるので、球状部が一層弾性変形し易い。この結果、荷重の作用の初期段階、および荷重が小荷重であるときに、被支持部材および支持部材間での振動の伝達抑制効果が向上する。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の防振支持装置であって、前記弾性部材(20,120)は、前記球状部(31,32)の径方向内方が内側空間(Si)となり、前記球状部(31,32)の径方向外方が外側空間(So)となる環状体であり、前記球状部(31,31;32,32)同士の周方向での間には、環状溝(40)が形成されるものである。
これによれば、弾性部材には、環状溝が周方向に間隔をおいて形成されるので、内側空間に侵入した異物が、環状溝を通じて外側空間に排出され易くなり、内側空間からの異物の排出性が向上する。
【0010】
請求項3記載の発明は、前記支持部材(2)に対して前記被支持部材(10)を保持するための保持バンド(50)を備える請求項1または2記載の防振支持装置であって、前記保持バンド(50)は、前記球状部(31,32)が前記支持部材(2)または前記被支持部材(10)に接触した状態で前記被支持部材(10)を支持し、前記球状部(31,32)は、前記対向方向から見て前記保持バンド(50)と重なる位置に配置されるものである。
これによれば、被支持部材が支持部材に対して保持バンドにより支持されることにより、保持バンドによる被支持部材の支持状態では、弾性部材の球状部が支持部材または被支持部材と接触状態にあるので、弾性部材は、被支持部材および支持部材間の微小な振動に対しても伝達抑制効果を発揮する。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項記載の防振支持装置であって、前記支持部材(2)は、車両の車体(2)であり、前記被支持部材(10)は、前記車体(2)の下方に配置された燃料タンク(10)であり、前記対向方向は、前記車両(2)の上下方向であるものである。
これによれば、車体と燃料タンクとの間に配置される弾性部材を備える防振支持装置において、請求項1から3記載の発明に対応する作用効果が奏される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、支持部材と被支持部材との間に配置される弾性部材を備える防振支持装置において、弾性部材に荷重が作用する際の初期段階や小荷重が作用する際における弾性部材による振動の伝達抑制効果を向上させること、および弾性部材の防振性能の等方性を向上させることができ、以て弾性部材の防振性能を向上させることができる。
そして、本発明によれば、さらに、防振支持装置の弾性部材が水などの異物に曝される環境で使用される場合に、弾性部材と被支持部材または支持部材との間に侵入した異物の排出を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態である防振支持装置に支持される燃料タンクの斜視図である。
【図2】図1のII−II矢視での断面図である。
【図3】図1の防振支持装置が備える弾性部材の斜視図である。
【図4】図1における弾性部材付近の上平面図である。
【図5】図2における弾性部材付近の拡大図である。
【図6】図4のVI−VI線断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態を示し、図4に相当する図である。
【図8】図7のVIII−VIII線断面図である。
【図9】本発明の第3実施形態を示し、図5に相当する図である。
【図10】本発明の第4実施形態を示し、図5に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を、図1〜図10を参照して説明する。
図1〜図6は、本発明の第1実施形態を説明する図である。
図1,図2を参照すると、本発明の第1実施形態である防振支持装置1は、機械としての車両である4輪の自動車に備えられ、該自動車が備える車両用部品である燃料タンク10の振動を抑制する。
前記自動車は、車両用部品である支持部材としての車体2と、車体2の下方に配置されて該車体2に支持される被支持部材としての燃料タンク10と、ゴム状弾性を有する弾性材料(例えば、ゴムまたはエラストマー)から形成された弾性部材20を備える防振支持装置1と、を備える。燃料タンク10は、防振支持装置1により車体2に支持される。
【0015】
車体2は、該車体2の下部部材としてのフロアパネル3と、フロアパネル3に結合されると共に燃料タンク10の前後に配置されて左右方向に延びている1対の補強部材であるクロスメンバ4,5とを有する。この実施形態では上下方向に平行な対向方向で互いに対向して配置されたフロアパネル3および燃料タンク10において、燃料タンク10はフロアパネル3の下方に配置される。したがって、防振支持装置1は、水や塵埃などの異物に曝される環境で使用され、該異物が、弾性部材20と燃料タンク10およびフロアパネル3との間から弾性部材20の内側空間Siに侵入することがある。
【0016】
なお、実施形態において、上下、前後および左右は、自動車を基準としたときのものである。また、平面視とは、上下方向から見ることを意味し、さらに、上方を前記対向方向での一方向および他方向の一方とするとき、下方は前記対向方向での一方向および他方向の他方である。
【0017】
給油口に連なる給油管(図示されず)が接続されると共に該給油管を通じて給油された液体燃料を貯留する燃料タンク10は、偏平の直方体状の密閉容器であるタンク本体11と、タンク本体11に設けられて弾性部材20を燃料タンク10に支持するための支持部15(図5も参照)とを有する。タンク本体11および支持部15は、いずれも合成樹脂から形成される。
【0018】
タンク本体11は、平面視でほぼ矩形の上壁12および下壁13を有する。上下方向でフロアパネル3に対向する対向壁である上壁12には、該上壁12に設けられた開口14を閉塞する支持フランジ6が着脱可能に取り付けられる。燃料タンク10内には、自動車が備えるエンジンとしての内燃機関に燃料供給管8を通じて燃料を供給する燃料ポンプ7が配置される。燃料ポンプ7は、ステー6aを介して支持フランジ6に支持される。
【0019】
図5を参照すると、台座としての支持部15は、弾性部材20が載置される円板状の載置部16と、該載置部16と一体に設けられると共にタンク本体11の本体側結合部11aに結合される支持部側結合部17と、弾性部材20に挿入されて弾性部材20を保持する柱状の突起から構成される保持部18とを有し、これら載置部16と結合部17と保持部18とが一体成形された単一の部材である。
弾性変形を容易にするための割り溝17aが形成された凸部から構成される支持部側結合部17は、凹部から構成される本体側結合部11aに、支持部側結合部17の弾性変形による弾性力を利用した結合手段としての圧入により着脱可能に結合される。別の例として、支持部15がタンク本体11に一体成形されて設けられてもよい。
【0020】
弾性部材20の内側空間Si(図3,図4参照)に配置される保持部18は、例えば円柱状であり、弾性変形させる荷重が作用していない状態(以下、「自然状態」という。)の弾性部材20に対して、径方向での空隙を形成している状態で、または、弾性部材20に弾性変形を生じさせないか、もしくは僅かな弾性変形を生じさせる程度に接触している状態で、配置される。
【0021】
防振支持装置1は、1以上の、ここでは複数としての4つの弾性部材20から構成されて上下方向で上方部材としての車体2と下方部材としての燃料タンク10との間に配置された防振部材と、フロアパネル3および燃料タンク10に対する各弾性部材20の接触状態を保持するための保持部材としての1以上の、ここでは左右方向での弾性部材20の配置に対応して配置される少なくとも2つを含む複数の保持バンド50とを備える。該複数の保持バンド50は、左右方向に間隔をおいて並んで配置される。
【0022】
金属製で帯状の各保持バンド50は、上下方向で燃料タンク10に対して車体2側である上側とは反対側である下側でタンク本体11を、上下方向で上部部材である上壁12とは反対側の下部部材である下壁13において上方に押圧するようにして支持していて、フロアパネル3に燃料タンク10を取り付けるための取付部材でもある。
保持バンド50は、上下方向でフロアパネル3との間でタンク本体11を挟むと共に、前後のクロスメンバ4,5間に掛け渡された状態で、その両端部51,52において結合具としてのボルト53により、車体2における取付部位である両クロスメンバ4,5にそれぞれ固定される。このため、燃料タンク10は、車体2の下方に吊り下げられた状態で固定される。
以下、各弾性部材20の上側接触部21および下側接触部22がフロアパネル3および載置部16にそれぞれ接触している状態で、燃料タンク10が防振支持装置1により車体2に支持された状態を、燃料タンク10の支持状態という。
【0023】
燃料タンク10の上壁12には、上下方向に直交する方向である水平方向において、第1水平方向(対向方向に直交する第1直交方向である。)としての前後方向に離隔して複数としての2つずつの弾性部材20が配置されて取り付けられている。上壁12における前後方向での一方向側部分および他方側部分である前部および後部のそれぞれには、第1水平方向に直交する第2水平方向(対向方向に直交する第2直交方向である。)としての左右方向に離隔して複数である2つの弾性部材20が配置され、この実施形態では、同一の構造およびほぼ同一の形状を有する4つの弾性部材20が上壁12の4つの隅に1つずつ配置される。なお、「形状」には、形および大きさが含まれる。
【0024】
本発明および実施形態において、「ほぼ」との修飾語は、該修飾語がない場合を含むと共に、「ほぼ」との修飾語がない場合とは厳密には一致しないものの、該修飾語がない場合に比べて作用効果に関して有意の差がない程度にずれた範囲を含むことを意味する。
【0025】
各弾性部材20は、その弾性変形により、燃料タンク10内の燃料の波立ち等による燃料タンク10の振動を低減し、したがって燃料タンク10の振動が車体2のフロアパネル3に伝達されることを抑制すると共に、車体2の振動がフロアパネル3から燃料タンク10に伝達されることを抑制し、したがって燃料タンク10の振動を低減する。このため、各弾性部材20により、燃料タンク10の振動に起因する振動および騒音が低減する。
【0026】
図1,図3〜図5を参照すると、対向方向(この実施形態では上下方向である。)で車体2のフロアパネル3および燃料タンク10の上壁12に対向して配置された各弾性部材20は、軸線Lを中心に円環状に配置された複数である所定数の、ここでは9つの同一形状の弾性体要素としての球状体30が周方向に配列された状態で連結されて単一の部材となった円環状の環状体である。
【0027】
各球状体30は、第1球状面としての上側球状面31aを有する第1球状部としての上側球状部31と、第2球状面としての下側球状面32aを有する第2球状部としての下側球状部32と、軸線方向で上側球状部31と下側球状部32との間の中間部33とを有する。上側球状部31および下側球状部32は、球状体30において、それぞれ軸線方向での第1端部および第2端部である。
各上側球状面31aおよび各下側球状面32aは、ほぼ同一形状であり、したがって各上側球状部31および各下側球状部32は、ほぼ同一形状である。
【0028】
燃料タンク10の前記支持状態において、軸線Lは対向方向に平行、したがってこの実施形態では上下方向に平行であり、また、弾性部材20に対して、その径方向内方は内側空間Siであり、その径方向外方は外側空間Soである。
【0029】
本発明および実施形態では、前記自然状態の弾性部材20において、球状体30の表面の一部である各球状面31a,32aは、その形状が、軸線Lに直交する平面での断面(以下、「横断面」という。)でほぼ円形であり、かつ、軸線Lを含む平面での断面(以下、「縦断面」という。)で1つの円弧または複数の異なる半径を有する円の円弧により近似できる弧状形状である面を意味する。なお、直線は、半径が無限大の円弧であるとする。
また、弾性部材20に関連して、軸線Lに平行な方向を軸線方向(この実施形態では、燃料タンク10の前記支持状態において、上下方向でもある。)であるとし、径方向および周方向は、軸線Lを中心とする径方向および周方向であるとする。
そして、この実施形態において、球状体30の基本形は、1つの点からの距離(半径)がほぼ等しい球体であり、球状体30は、該球体の一部で構成されている。
【0030】
弾性部材20は、フロアパネル3の平面状の接触面3c(図6参照)に接触する円環状の第1接触部としての上側接触部21と、燃料タンク10の載置部16の平面状の接触面16c(図6参照)に接触する円環状の第2接触部としての下側接触部22と、軸線方向で上側接触部21および下側接触部22の間の円環状の本体部23とを有する。
この実施形態において、本体部23は、周方向で隣接する球状体30,30同士が結合している連結部23aを有する。該連結部23aは、球状体30の基本形である前記球体が周方向で部分的に重合する部分である。連結部23aの縦断面はほぼ円であり、該円の直径が前記球径体の半径よりも大きいことで、連結部23aの剛性、ひいては本体部23の剛性が高められる。
【0031】
上側接触部21は、複数である第1所定数の上側球状部31を有し、同様に下側接触部22は、複数である第2所定数の下側球状部32を有する。上側球状部31は、上側接触部21における車体2のフロアパネル3との接触部位であり、下側球状部32は、下側接触部22における燃料タンク10の載置部16との接触部位である。
また、この実施形態では、前記第1,第2所定数は、同じ数であり、前記所定数に等しい。
なお、軸線方向に直交する方向における弾性部材20の防振性能の方向性を少なくして、等方性を向上させること、すなわち前記直交方向(ここでは、水平方向であり、弾性部材20の周方向でもある。)での防振性能の等方性を向上させる効果を高めるためには、球状体30の数が多いほど好ましく、これら所定数および第1,第2所定数は、6以上であるのが好ましい。
【0032】
図2,図5,図6を参照すると、燃料タンク10の前記支持状態において、各上側球状面31aは、軸線方向でフロアパネル3に接触し、各下側球状面32aは、軸線方向で燃料タンク10の載置部16に接触する。
そして、上側球状部31においては、上方に位置する(または、フロアパネル3または車体2に近い)部位ほど、該部位での横断面の面積が連続的に小さくなり、下側球状部32においては、下方に位置する(または、載置部16または燃料タンク10に近い)部位ほど、該部位での横断面の面積が連続的に小さくなる。このため、弾性部材20に軸線方向(この実施形態では、上下方向でもある。)での荷重が作用するとき、上側球状部31および下側球状部32における軸線方向での圧縮量(または変形量)が増加するにつれて、接触面積が連続的に増加する。このときの接触面積の形状もほぼ円形である。
【0033】
図3〜図6を参照すると、弾性部材20の上側接触部21、下側接触部22および本体部23は、周方向で隣接する球状体30,30同士で形成される環状溝40を形成し、連結部23aは、環状溝40の底壁を形成する。連結部23aの周囲に形成される環状溝40は、連結部23aの縦断面において該連結部23aを全周に渡って囲んで形成される。したがって、環状溝40は、球状部31,31;32,32同士の周方向での間に形成されており、弾性部材20には、複数の環状溝40が周方向に等しい間隔をおいて設けられている。
【0034】
各環状溝40は、上側接触部21において上側球状部31,31同士により形成される第1溝としての上側溝41と、下側接触部22において下側球状部32,32同士により形成される第2溝としての下側溝42と、本体部23において中間部33,33同士により形成される内側溝43および外側溝44とを有する。上側溝41は、各上側球状部31のフロアパネル3との接触状態において、内側空間Siと外側空間Soとを連通させ、下側溝42は、各下側球状面32aの載置部16との接触状態において、内側空間Siと外側空間Soとを連通させる。さらに、内側溝43は、内側空間Siにおいて径方向で弾性部材20と保持部18との間で、上側溝41と下側溝42とを連通させる。
【0035】
上側接触部21および下側接触部22のそれぞれの少なくとも一部は、平面視で保持バンド50と重なる位置に配置され(図4参照)、したがって保持バンド50の真上に配置される。そして、燃料タンク10が前記支持状態にあるとき、保持バンド50が燃料タンク10に加える押圧力により、各弾性部材20は、上下方向での初期荷重でフロアパネル3および燃料タンク10の載置部16に押圧されて、フロアパネル3および載置部16と接触した状態になる。
【0036】
燃料タンク10が前記支持状態にあり、かつ燃料タンク10が振動していない状態(以下、「初期支持状態」という。)で、各上側球状部31は、その頂点31b(図6参照)において、ほぼ点接触に近い状態または小接触面積でフロアパネル3に接触し、各下側球部32は、その頂点32bにおいて、ほぼ点接触に近い状態または小接触面積で載置部16(図6参照)に接触する。
【0037】
このため、自動車の走行時等において、燃料タンク10および車体2の少なくとも一方に発生した振動に起因して、弾性部材20に上下方向の(または、上下方向の成分を有する)荷重(以下、単に「荷重」という。)が作用するとき、該荷重の作用の初期段階、または該荷重が予め設定された所定値以下である小荷重であるときには、接触面積が変化する範囲において接触面積が小さい領域で圧縮されることから、上側球状部31および下側球状部32が容易に弾性変形する。
それゆえ、上側球状部31および下側球状部32に作用する荷重の作用初期段階、または該荷重が小荷重であるときには、荷重の変化量に対する各球状部31,32の弾性変形量が大きく、フロアパネル3と燃料タンク10との間での振動の伝達を抑制する効果に優れる。
【0038】
一方、荷重が前記所定値を超える大荷重であるときは、軸線方向での圧縮量が大きくなるにつれて次第に接触面積が大きくなり、振動荷重の変化量に対する弾性変形量が小さくなって、各球状部31,32が変形しにくくなるため、燃料タンク10の支持安定性が向上する。
なお、荷重の前記所定値は、燃料タンク10の重量や予測される荷重の大きさに応じて適宜設定される。
【0039】
次に、前述のように構成された実施形態の作用および効果について説明する。
弾性部材20の弾性変形により車体2と燃料タンク10との間の振動の伝達が抑制される防振支持装置1において、弾性部材20は、上下方向に平行な軸線Lを中心に円環状に配置された複数である所定数の球状部31,32を有する接触部21,22を有し、所定数の球状部31,32は、ほぼ同一形状の球状面31a,32aを有し、各球状部31,32は、球状面31a,32aにおいて、上下方向で車体2および燃料タンク10にそれぞれ接触する。
この構造により、弾性部材20の接触部21,22は、円環状に配置された複数の、ほぼ同一形状の球状面31a,32aを有する球状部31,32にて車体2および燃料タンク10に接触するので、上下方向に直交する直交方向である水平方向での異なる方向(または、弾性部材20の周方向)での剛性のバラツキを減少させて、前後方向および左右方向を含む異なる水平方向(または、周方向)での弾性部材20の剛性を均一化できる。そして、球状部31,32の数を増加させるほど、異なる水平方向での剛性の均一性が向上する。
さらに、接触部21,22における車体2または燃料タンク10との接触部位である各球状部31,32の、車体2および燃料タンク10との接触面の形状が球状面31a,32aであることにより、各球状面31a,32aでは、上下方向に直交する平面での断面形状がほぼ円形であるため、球状部31,32自体が、前後方向および左右方向を含む水平方向の任意の方向での剛性がほぼ均一である。
これらの結果、水平方向の成分を有する荷重に対する弾性部材20の防振性能のバラツキを小さくできるので、該防振性能の等方性が向上し、したがって弾性部材20の防振性能が向上する。
しかも、接触部21,22における車体2および燃料タンク10との接触部位が球状部31,32であることにより、弾性部材20に対する荷重の作用の初期段階、および荷重が小荷重であるときには、車体2および燃料タンク10との接触面積が小さいために球状部31,32が弾性変形し易く、さらに周方向で隣接する球状部31,31;32,32同士の間には空隙が形成されるので、球状部31,32が一層弾性変形し易い。この結果、荷重の作用の初期段階、および荷重が小荷重であるときに、燃料タンク10および車体2間での振動の伝達抑制効果が向上する。
【0040】
環状体の弾性部材20において、上側接触部21は、前記第1所定数の同一形状の上側球状部31を有し、下側接触部22は、前記第2所定数の同一形状の下側球状部32を有し、上側接触部21は、車体2との接触状態において、周方向で隣接する球状部31の間に内側空間Siと外側空間Soとを連通させる上側溝41を形成し、下側接触部22は、燃料タンク10との接触状態において、周方向で隣接する下側球状部32の間に内側空間Siと外側空間Soとを連通させる下側溝42を形成する。
この構造により、防振支持装置1の弾性部材20が水や塵埃などの異物に曝される環境で使用される場合に、互いに接触状態にある車体2と上側接触部21との間には上側溝41が形成され、互いに接触状態にある燃料タンク10と下側接触部22との間には下側溝42が形成されるので、弾性部材20の内側空間Siに侵入した異物が、上側溝41および下側溝42を通じて外側空間Soに排出され易くなる。この結果、異物による弾性部材20の防振性能の低下が抑制されて、良好な防振性能を維持できる。
【0041】
弾性部材20の所定数の球状体30のそれぞれは、上側球状部31および下側球状部32を有し、周方向で隣接する球状体30,30同士の間には、上側溝41および下側溝42を有する環状溝40が形成される。
この構造により、弾性部材20には、上側溝41および下側溝42をその一部として有する環状溝40が周方向に間隔をおいて形成されるので、内側空間Siに侵入した異物が、環状溝40を通じて外側空間Soに排出され易くなり、内側空間Siからの異物の排出性が向上する。
さらに、環状溝40が、上側溝41および下側溝42に加えて、内側溝43を有することにより、内側空間Siからの異物の排出性が一層向上する。
【0042】
車体2に対して燃料タンク10を保持するための保持バンド50は、上側接触部21および下側接触部22が車体2および燃料タンク10にそれぞれ接触した状態で、上下方向で燃料タンク10に対して車体2側とは反対側で燃料タンク10を支持し、上側球状部31および下側球状部32は、上下方向から見て保持バンド50と重なる位置に配置される。
この構造により、燃料タンク10が車体2に対して保持バンド50により支持されることにより、保持バンド50による燃料タンク10の支持状態では、弾性部材20の上側接触部21および下側接触部22が車体2および燃料タンク10とそれぞれ接触状態にあるので、弾性部材20は、燃料タンク10および車体2間の微小な振動に対しても伝達抑制効果を発揮する。
【0043】
次に、図7〜図10を参照して、本発明の第2,第3,第4実施形態を説明する。この第2実施形態は、第1実施形態とは、弾性部材の形状の点で相違し、その他は基本的に同一の構成を有するものである。そのため、同一の部分についての説明は省略または簡略にし、異なる点を中心に説明する。なお、第1実施形態の部材と同一の部材または対応する部材については、必要に応じて同一の符号を使用した。
【0044】
図7,図8を参照すると、第2実施形態は、第1実施形態とは、弾性部材20の球状体30の連結部の点で相違する。第2実施形態の弾性部材20の本体部23において、周方向で隣接する球状体30,30同士が結合している連結部23bは、周方向での所定範囲において、ほぼ同一の縦断面形状を有すると共に、周方向に沿って延びている柱状の部分を有する。そして、この第2実施形態では、該連結部23bは、ほぼ円形の縦断面形状を有すると共に、円柱状の部分を有する。なお、連結部23bの別の例として、連結部23bが周方向に円弧状に湾曲した柱状を呈するものであってもよい。
連結部23bの周囲には、該連結部23bを底壁とする環状溝40が形成される。該環状溝40は、第1実施形態と同様に、上側接触部21における球状部31,31同士の周方向での間に形成される上側溝41と、下側接触部22における球状部32,32同士の周方向での間に形成される下側溝42と、本体部23における中間部33,33同士の周方向での間に形成される内側溝43および外側溝44とを有する。
そして、この第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用・効果が奏される。
【0045】
図9を参照すると、第3実施形態において、弾性部材120は、前記所定数のほぼ同一形状の弾性体要素130が周方向に配列された状態で連結されて単一の部材となった円環状の環状体である。各弾性体要素130は、上側球状面31aを有する上側球状部31と、下側球状面32aを有する下側球状部32と、両球状部31,32の間の中間部133とを有する。
そして、弾性部材120は、前記第1所定数の上側球状部31を有する上側接触部21と、前記第2所定数の下側球状部32を有する下側接触部22と、本体部123とを有する。本体部123の連結部123aは、中間部133の基本形である円柱が周方向で部分的に重合することで形成される部分である。周方向で隣接する弾性体要素130,130同士の間には、上側溝41、下側溝42、外側溝44および第1実施形態の内側溝43に相当する内側溝(図示されず)を有する環状溝40が形成される。
【0046】
この第3実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用および効果が奏されるほか、次の作用および効果が奏される。弾性体要素が球状体30である場合に比べて、弾性部材120を構成する弾性体要素130の数を多くした場合にも、軸線方向での弾性部材120の所要の大きさを確保することが容易になる。
【0047】
図10を参照すると、第4実施形態において、弾性部材220は、前記所定数のほぼ同一形状の弾性体要素230が周方向に配列された状態で連結されて単一の部材となった円環状の環状体である。各弾性体要素230は、上側球状面31aを有する上側球状部31と、円筒を周方向に分割した形状の基部234とを有する。図10には、説明の便宜上、周方向で隣接する基部234の境界が二点鎖線で示されている。
【0048】
そして、弾性部材220は、前記所定数の上側球状部31を有する上側接触部21と、周方向で隣接する基部234,234同士が結合した形態の本体部223とを有する。周方向で隣接する弾性体要素230,230同士の間には、上側溝41が形成され、基部234には、内周面に複数の軸線方向溝(図示されず)が軸線方向に延びていて、かつ周方向に間隔をおいて設けられ、載置部16との間に、内側空間Siに相当する内側空間に連通する複数の径方向溝242が、周方向に間隔をおいて設けられる。そして、弾性部材220の内側空間に侵入した異物は、上側溝41、前記軸線方向溝または径方向溝242を通じて排出される。
この第4実施形態によれば、弾性部材20の防振性能の等方性に関して第1実施形態と同様の作用効果が奏される。
【0049】
以下、前述した実施形態の一部の構成を変更した実施形態について、変更した構成に関して説明する。
支持部15は、燃料タンク10の代わりにフロアパネル3に設けられてもよく、または、燃料タンク10およびフロアパネル3に設けられてもよい。
保持部材は、保持バンド50以外の部材、例えばボルトであってもよい。
防振支持装置1は、保持部材を備えることなく、弾性部材20のみを介することにより、支持部材に被支持部材を支持するものであってもよい。
第1所定数および第2所定数は異なっていてもよい。この場合、第1球状部および第2球状部の形状は、異なっていてもよく、また同一であってもよい。そして、形状が同一である場合、第1,第2接触部の径(すなわち、外径および内径)が異なっていてもよい。
弾性体要素の中間部が、球面の一部である表面を有することなく、ほぼ円柱状またはほぼ角柱状など柱状に形成されてもよい。例えば、弾性部材20を構成する各弾性体要素は、その縦断面形状がほぼ楕円形になる形状であってもよい。
弾性体を構成する弾性体要素の基本形は、軸線方向での大きさが周方向での大きさよりも大きい回転体であってもよい。
対向方向は、上下方向以外の方向であってもよい。
防振支持装置1は、自動車以外の車両、車両以外の機械に備えられてもよい。そして、支持部材は車体2以外の部材であってもよく、被支持部材は燃料タンク10以外の部材であってもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 防振支持装置
2 車体
10 燃料タンク
20,120,220 弾性部材
21,22 接触部
30 球状体
130,230 弾性体要素
31,32 球状部
31a,32a 球状面
40 環状溝
41 上側溝
42 下側溝
50 保持バンド
L 軸線
Si 内側空間
So 外側空間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部材と前記支持部材に支持される被支持部材とが互いに対向する対向方向で、前記支持部材および前記被支持部材の間に配置された弾性部材を備え、前記弾性部材の弾性変形により前記支持部材と前記被支持部材との間の振動の伝達が抑制される防振支持装置において、
前記弾性部材は、前記対向方向に平行な軸線を中心に円環状に配置された複数のほぼ同一形状の球状部を有し、
前記各球状部は、前記対向方向で前記支持部材または前記被支持部材に接触することを特徴とする防振支持装置。
【請求項2】
請求項1記載の防振支持装置であって、
前記弾性部材は、前記球状部の径方向内方が内側空間となり、前記球状部の径方向外方が外側空間となる環状体であり、
前記球状部同士の周方向での間には、環状溝が形成されることを特徴とする防振支持装置。
【請求項3】
前記支持部材に対して前記被支持部材を保持するための保持バンドを備える請求項1または2記載の防振支持装置であって、
前記保持バンドは、前記球状部が前記支持部材または前記被支持部材に接触した状態で前記被支持部材を支持し、
前記球状部は、前記対向方向から見て前記保持バンドと重なる位置に配置されることを特徴とする防振支持装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項記載の防振支持装置であって、
前記支持部材は、車両の車体であり、
前記被支持部材は、前記車体の下方に配置された燃料タンクであり、
前記対向方向は、前記車両の上下方向であることを特徴とする防振支持装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−214701(P2011−214701A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85611(P2010−85611)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】