説明

防水シート及び防水シートの補修方法

【解決手段】少なくとも不透水性シートを有する防水シートであって、該不透水性シートが、熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂層を表裏層とし、セメントの水和反応熱によって軟化又は溶融する低融点物質を含む低融点物質層を中間層とした少なくとも3層構成からなることを特徴とする防水シート。
【効果】本発明によれば、トンネル等の施工に用いる防水シートに関し、特にトンネル施工時に、防水シートの不透水性シート面に生じた損傷を自動的に、かつ安定的に補修する自己修復型の防水シート及び防水シートの補修方法を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル等の施工に用いる防水シートに関し、特にトンネル施工時に、防水シートに生じた損傷を自動的に、かつ安定的に補修する自己修復型の防水シート及び防水シートの補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、NATM工法に見られるように、トンネルの一次覆工コンクリートと二次覆工コンクリートとの間に防水シートを介装し、一次覆工コンクリート側からの湧水が二次覆工コンクリート側に漏水するのを防止することが行われている。
一般に、この防水シートは、透水性シートと不透水性シートとからなり、該透水性シート側を一次覆工コンクリート側に、該不透水性シート側を二次覆工コンクリート側になるよう介装することにより、地山からの湧水を該透水性シートによってトンネル外に導出すると共に、該不透水性シートによって二次覆工コンクリート側への漏水を防止している。
従って、当該施工にあたっては、防水シートによる二次覆工コンクリートに対する一次覆工コンクリートの液密な展張が必須となる。しかし、一次覆工コンクリート打設・防水シート展張後、二次覆工コンクリート打設までの間に、やむを得ず鉄筋の突き刺しや砕石の飛散等により防水シートの不透水性シート面を損傷させてしまうことがあり、この場合、二次覆工コンクリート打設までに、該損傷部位の補修を行わなければならないが、損傷部位の発見は目視により行われることが多く、特に小さな損傷部位を見落としなく発見するための労力や、補修作業においても損傷部へ手作業で補修布を貼り付けるなどの労力はいずれも負担が大きかった。
【0003】
特開平10−296921号公報(特許文献1)には、シートに損傷が生じた場合、吸水によって発熱する酸化カルシウム、酸化マグネシウム等の発熱物質を含む吸水発熱性層と、その発熱物質の発熱によって軟化又は溶融して損傷部位を閉塞するゴムや変性ポリオレフィン等の熱可塑性物質層を含む自己修復型の遮水シートについて記載されている。
しかし、酸化カルシウムや酸化マグネシウムの水和反応熱は下記の通り、通常使用される上記熱可塑性樹脂の融点(80〜120℃)に対して、非常に大きく、しかも吸水による発熱が瞬間的であるため、修復溶融の温度バランスが悪く、損傷部位をかえって拡大してしまうおそれがあった。
CaO + H2O = Ca(OH)2 + 65.2 kJ/mol(278cal/g)
MgO + H2O = Mg(OH)2 + 37.0 kJ/mol(219cal/g)
【0004】
また、これら発熱物質は、機能上、水と反応するため、これらの粉体と混合して吸水発熱性層を形成する適当なバインダーが限られ(吸水性バイダーは使用できない)、事実上、これらの粉体を単に圧縮して固めて充填層とし、吸水発熱性層を形成するしかなかった。従って、吸水発熱性層の成形性が不十分で、当該遮水シート展張の際、その損傷度合いによっては、形成された穴、傷などの損傷部位から発熱物質が外部に流れ出てしまうことがあり、該損傷部位への必要十分で均一な熱印加が起こらず、期待した程の自己修復がなされない場合もあった。
即ち、当該遮水シートに生じた損傷を自動的に、かつ安定的に補修する自己修復型の遮水シートであるとは言い難かった。
【0005】
【特許文献1】特開平10−296921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、トンネル等の施工に用いる防水シートに関し、特にトンネル施工時に、防水シートの不透水性シート面に生じた損傷を自動的に、かつ安定的に補修する自己修復型の防水シート及び防水シートの補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成するため、鋭意検討を行なった結果、少なくとも不透水性シートを有する防水シートであって、該不透水性シートを、熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂層を表裏層とし、セメントの水和反応熱によって軟化又は溶融する低融点物質を含む低融点物質層を中間層とした少なくとも3層構成とすることにより、一次覆工コンクリート打設・防水シート展張以降、該防水シートの不透水性シートの熱可塑性樹脂層面にやむを得ず損傷が生じても、該熱可塑性樹脂層面への二次覆工コンクリート打設の際、セメントの水和反応熱によって該損傷部位から該低融点物質層への均一で緩やかな熱印加が起こり、かつセメントの水和反応熱によって得られる温度と該防水シートの低融点物質の修復溶融の温度バランスが適切であることから、該低融点物質のスムーズな軟化、溶解、流動が起こり、該損傷部位を自動的に、かつ安定的に補修することが可能になることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
即ち、本発明は下記自己修復型の防水シート及び防水シートの補修方法を提供する。
請求項1:
少なくとも不透水性シートを有する防水シートであって、該不透水性シートが、熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂層を表裏層とし、セメントの水和反応熱によって軟化又は溶融する低融点物質を含む低融点物質層を中間層とした少なくとも3層構成からなることを特徴とする防水シート。
請求項2:
上記熱可塑性樹脂が、エチレン−酢酸ビニル共重合体、上記低融点物質がパラフィンワックスであることを特徴とする請求項1記載の防水シート。
請求項3:
上記不透水性シートを構成する各層のうち、少なくとも1層に熱伝導材を含ませたことを特徴とする請求項1又は2記載の防水シート。
請求項4:
上記熱伝導材が銅、アルミニウムであることを特徴とする請求項3記載の防水シート。
請求項5:
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の防水シートを用い、前記不透水性シートの熱可塑性樹脂層面に損傷が生じた場合、該熱可塑性樹脂層面へのコンクリート打設によるセメントの水和反応熱により、前記低融点物質を軟化又は溶融させ、該損傷を塞ぐことを特徴とする防水シートの補修方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、トンネル等の施工に用いる防水シートに関し、特にトンネル施工時に、防水シートの不透水性シート面に生じた損傷を自動的に、かつ安定的に補修する自己修復型の防水シート及び防水シートの補修方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態及び実施例】
【0010】
以下、本発明について図面を参照してより詳細に説明する。
図1は、本発明の一構成例に係る防水シートを説明するために、防水シート1の一部を拡大して示す概略断面図である。
防水シート1は、透水性シート2の一面に不透水性シート3が、積層されてなり、さらに不透水性シート3は、セメントの水和反応熱によって軟化又は溶融する低融点物質を含む低融点物質層32を、熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂層31で挟み込む形で3層に積層されてなる。
ここで一般に低融点物質層32は、熱可塑性樹脂層31よりも融点が低く、強度的にも弱いため、熱可塑性樹脂層31で低融点物質層32を上下両面から保護する役割がある。また、上方の熱可塑性樹脂層31は、不透水性シート3と透水性シート2とを接合させる役割がある。従って、この意味を逸脱しない限り、不透水性シート3の構成を上記3層以上とすることができる。
【0011】
図2(A)は、本発明の一構成例なる防水シートを用いたトンネル施工の様子を示した概略縦断面図である。図2(B)は、図2(A)中の点線で囲まれた円の部分を拡大した概略縦断面図である。
図2(A),(B)に示すように、この防水シート1はトンネル地山、一次覆工コンクリート4の面に透水性シート2の面が対向するように展張された後、不透水性シート3(熱可塑性樹脂層31)の面に二次覆工コンクリート5が打設される。
【0012】
このようなコンクリート施工に用いられるセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント(以上、JIS R 5210に規定)及び混合セメント(JIS R 5211〜5213に規定)などのいわゆるポルトランド系セメントで、これらは、通例コンクリート打設から1週間までに220〜270J/g(52〜64cal/g)程度、1ヶ月までに280〜380J/g(67〜90cal/g)程度の水和反応熱を比較的緩やかに発するもので、その際の最高到達温度は60〜80℃程度となる。
【0013】
そして、低融点物質層32を構成する低融点物質は、上記セメントの水和反応熱によって得られる60〜80℃程度の温度で軟化又は溶融する30〜70℃程度の融点を有する物質であれば、その材質が制限されるものではなく、具体的にはワックス類、特に融点が47〜65℃程度のパラフィンワックス(一般式 Cn2n+2,n≧20,n:整数のアルカンからなるもの)が好適である。
なお、低融点物質層32には、後述する熱伝導材のような低融点物質以外の物質も含ませることができる。
【0014】
低融点物質層32の厚さは、200〜1200μm、より好ましくは、300〜800μmとすることができる。低融点物質層32が200μmよりも薄いと防水シート1の不透水性シート3(特に外層となる熱可塑性樹脂層31)が損傷し、セメントの水和反応熱による熱印加がなされても損傷部位に流れ込む低融点物質の量が不足するため、自己修復機能が不足するおそれがあり、また1200μmよりも厚いと、防水シート1全体の厚さが厚くなるため、該防水シート1を一次覆工コンクリート4側に馴染ませることが困難となるため展張作業が悪化するおそれがある。
また、低融点物質層32の幅は、特に制限されるものではなく、トンネルの防水施工に従来より使用されている不透水性シートと同程度のものを使用することができ、例えば1600〜4500mm程度のものが好適である。
【0015】
また、熱可塑性樹脂層31を構成する熱可塑性樹脂は、通常防水シートに使用される樹脂であれば、特に制限されるものではなく、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン等)樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(以下‘EVA’と略記)樹脂、塩化ビニル系樹脂などから適宜選択することができるが、低融点物質層32とのラミネート加工や、低融点物質層32による熱可塑性樹脂層31自身の損傷補修の面から、上記低融点物質層32と融点が近く、相溶性の高いものが好ましく、具体的には、EVA樹脂、ポリオレフィン系樹脂(変性ポリオレフィン樹脂)が好適である。
なお、熱可塑性樹脂層32には、後述する熱伝導材のような熱可塑性樹脂以外の物質も含ませることができる。
【0016】
熱可塑性樹脂層31の一層の厚さは、200〜1500μm、より好ましくは、400〜1000μmとすることができる。熱可塑性樹脂層31の一層の厚さが200μmよりも薄いと防水機能が不足したり、防水シートの不透水性シート3の損傷頻度が高くなりすぎてしまい、1500μmよりも厚いと防水シート1全体の厚さが厚くなるため、該防水シート1を一次覆工コンクリート4側に馴染ませることが困難となるため展張作業が悪化するおそれがある。
また、熱可塑性樹脂層31の幅は、特に制限されるものではなく、トンネルの防水施工に従来より使用されている不透水性シートと同程度のものを使用することができ、例えば1600〜4500mm程度のものが好適である。
【0017】
このような低融点物質層32と熱可塑性樹脂層31とからなる3層構成の不透水性シート3を有する防水シート1は、一次覆工コンクリート4打設・防水シート1展張後、二次覆工コンクリート5打設までの間に、やむを得ず鉄筋の突き刺しや砕石の飛散等により、防水シート1の不透水性シート3の表面層となる熱可塑性樹脂層31面を損傷させてしまっても、二次覆工コンクリート5打設の際、セメントの水和反応熱の印加により、該低融点物質層32の低融点物質が、軟化、溶融、流動し、該不透水性シート3の表面層である熱可塑性樹脂層31の損傷部位を閉塞するため、自動的に自己修復し得るものである。
この場合、二次覆工コンクリート5の打設におけるセメントの水和反応熱を利用することによって、防水シート1の不透水性シート3の表面層である熱可塑性樹脂層31の該損傷部位から低融点物質層32への均一で比較的緩やかな熱印加が可能となり、かつセメントの水和反応熱によって得られる温度(60〜80℃程度)と低融点物質層32の低融点物質の溶融温度(30〜70℃程度)の温度バランスが適切であるため、上記引用文献1のように、該損傷部位をかえって拡大してしまうおそれも、該損傷部位の自己修復機能が不足するおそれもない。
【0018】
特に、上記低融点物質層32を構成する低融点物質と、熱可塑性樹脂層31を構成する熱可塑性樹脂との組み合わせの中でも、前者をパラフィンワックス、後者をEVA樹脂とする組み合わせは、相互に融点が近く、相溶性も高いため、後述するように不透水性シート3をラミネート作製する際や、不透水性シート3の熱可塑性樹脂層31の損傷の際の自己補修の面で非常に優れている。
この場合の各層の厚さも、上記の低融点樹脂層32、熱可塑性樹脂層31の厚さの範囲を好適に採用することができる。
【0019】
ここで、EVA樹脂からなる熱可塑性樹脂層31は、EVA樹脂への酢酸ビニル(以下、‘VA’と略記)含有量を適宜調整することにより該熱可塑性樹脂層31の融点、強度、伸びを調整することができる。
一般に、EVA樹脂へのVA含有量を増やせば、融点、強度は減少し、伸びは増大し、逆にEVA樹脂へのVA含有量を減らせば、融点や強度は増大し、伸びは減少することから、EVA樹脂へのVA含有量は10〜70質量%が好ましく、より好ましくは30〜50質量%とすることができる。EVA樹脂へのVA含有量が10質量%未満の場合、該樹脂の融点が90℃を超え、セメントの水和反応熱によって得られる温度:50〜80℃を大きく超えるため、セメントの水和反応熱による熱印加の際、該EVA樹脂を含む熱可塑性樹脂層31とパラフィンワックスを含む低融点物質層32との相溶性が乏しくなり、損傷部位の自己修復機能が不足するおそれがある。また、EVA樹脂へのVA含有量が70質量%を超える場合、該EVA樹脂からなる熱可塑性樹脂層31の強度が減少し、伸びが増大するため、これを用いた該防水シート1の展張作業が困難になるおそれがある。
【0020】
不透水性シート3の作製方法としては公知のプラスチックシート化技術やラミネート加工技術を採用することができる。
例えば、予め熱可塑性樹脂を加熱して得られる液状の熱可塑性樹脂溶融体から形成された400〜1000μmの厚さにレベリングした熱可塑性樹脂シート(熱可塑性樹脂層)32を2つ用意し、それぞれに低融点物質を加熱して得られる液状の低融点物質溶融体をコーティングし、低融点物質が凝固後100〜600μmの厚さとなるようにレベリングすることによって、低融点物質層が熱可塑性樹脂シート(熱可塑性樹脂層)の片面に形成されたものを2つ作製し、これらを低融点物質層同士が対向するように重ね合わせ、熱ロール間に通過させることにより、加熱および加圧してラミネート化し、所定の厚さにレベリングした上記不透水性シート3を形成しても良いし、また適度な目付けを有するマトリクス(例えばポリエチレンやポリプロピレンの不織布,紙など)に液状の低融点物質の熱溶融体を浸み込ませ、300〜800μmの厚さにレベリングした低融点物質シート(低融点物質層)32を作製し、これを上記と同様に公知技術を用いて得られる400〜1000μmの厚さにレベリングされた二つの熱可塑性樹脂シート32で挟み込んで、熱ロール間に通過させることにより、加熱および加圧してラミネート化し、所定の厚さにレベリングした上記不透水性シート3を形成しても良い。
【0021】
なお、このようにして積層および形成される不透水性シート3の大きさ、厚さなどは、上記低融点物質層32及び熱可塑性樹脂層31の厚さを考慮しつつも、特に制限されず、従来よりトンネルの防水施工に使用されている不透水性シート3の大きさ、厚さと同程度のものとすることができ、例えば、厚さ0.5〜4mm程度、幅1600〜4500mm程度のものが好適である。
【0022】
さらに、上記不透水性シート3を構成する各層のうち、少なくとも1層に熱伝導材を含ませることにより、二覆工コンクリート打設の際、セメントの水和反応熱を、速やかに、かつ均一に低融点物質層32の低融点物質に伝達することができる。
熱伝導材を含ませる層は、低融点物質層32及び/又は熱可塑性樹脂層31とすることができるが、このうち、不透水性シート3の曲げや引張りの際、該不透水性シート3の特に表面層となる熱可塑性樹脂層31の損傷を抑制するため、低融点物質層32のみに含ませることが好ましい。
【0023】
熱伝導材の材質としては、銅、アルミニウム(合金)、鋼材、ステンレスなどの金属類、セメント、砂などのモルタル類、フロートガラスなどのガラス類などが挙げられるが、特に、金属類が好適であり、中でも銅、アルミニウム(合金)が、熱伝導率が高く、かつ上記低融点物質層及び熱可塑性樹脂層との相溶性(熱融着可能)も良いため好適である。
【0024】
熱伝導材の形状や大きさとしては、不透水性シート3の曲げや引張りの際、該不透水性シート3に損傷を与えないことと、可及的に少ない含有量で熱伝導性を確保することが重要であり、具体的には、球状、鶏卵状、円板状、楕円板状、角に丸みを施した多角形板状などの粉粒体で、熱伝導材の最短軸が低融点物質層32又は熱可塑性樹脂層31の厚みに対して1〜10%程度であって、熱伝導材の最長軸に対する最短軸の比が1:1〜1:0.2程度のものを用いると効果的である。また、低融点物質層32又は熱可塑性樹脂層31に対する熱伝導材の含有量は、100〜300g/m2程度が適当である。
熱伝導材として上記粉粒体以外では、繊維からなるフィラメントやメッシュであってもよく、断面形状は円形又は略円形が好ましく、直径は20〜200μm程度のものが適当である。メッシュは、目が込んでいると低融点物質層32と熱可塑性樹脂層31の層間の剥離を引き起こすことがあるので、メッシュ間隔は3〜50mm程度のものが適当である。
メッシュを熱伝導材として採用すると、メッシュが補強層の役割も果たすので、不透水性シート3の貫通傷を減少させることもできる。
【0025】
粉粒体タイプの熱伝導材の低融点物質層32、熱可塑性樹脂層31への含ませ方は、上記の通り、低融点物質層32、熱可塑性樹脂層31の作製時に、低融点物質、熱可塑性樹脂の熱溶融体(液状)中に上記含有量となるように熱伝導材を入れ、攪拌、均一分散させながら、従来のプラスチックシート化技術によってシート化することによって得られる。
フィラメントやメッシュタイプの熱伝導材の低融点物質層32、熱可塑性樹脂層31への含ませ方は、例えば、熱可塑性樹脂シートの片面に低融点物質層を形成したシート同士を、低融点物質層同士が対向するように重ね合せる時や、熱可塑性樹脂シートと低融点物質シートを重ね合わせる時に、フィラメントやメッシュを挿入し、熱ロール間に通過させ、加熱および加圧してシート化することによって得られる。
【0026】
本発明における透水性シート2は、その材質が特に制限されるものではなく、トンネルの防水施工に、従来より使用されている通水機能と地山の凹凸を緩衝する機能とを有する透水性シートと同様のものを使用することができる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン等の合成樹脂製織布、不織布などによって形成することができ、不織布としては、目付量50〜500g/m2、好ましくは200〜450g/m2のものが用いられる。また、透水性シート3の大きさ、厚さなども特に制限されるものではなく、トンネルの防水施工に、従来より使用されている透水性シートと同程度のものを使用することができ、例えば厚さ3〜5mm程度、幅1600〜4500mm程度のものが好適である。
【0027】
本発明の防水シート1は、上記の通り、透水性シート2の片面に不透水性シート3を積層したものであり、その製造方法は、特に制限されるものではなく、公知の積層手段を用いることができる。なお、透水性シート2と不透水性シート3とは、全面的に接着しても良く、また、両者を接着剤等で部分的に接合して一体化しても良い。いずれにしても透水性シート2と不透水性シート3とが積層されていれば、その手法は特に限定されない。
なお、不透水性シート3を成す熱可塑性樹脂層31と低融点物質層32とは上記の通り、全面的な加熱・加圧によるラミネート化が好ましい。
【0028】
このようにして形成される防水シート1の大きさ、厚さなどは、特に制限されず、従来よりトンネルの防水施工に使用されている防水シートの大きさ、厚さと同程度のものとすることができ、例えば、厚さ3〜9mm程度、幅1600〜4500mm程度のものが好適である。
【0029】
このようにして形成される30〜70℃なる融点を有する低融点物質層32を含む不透水性シート3と、透水性シート2とからなる本発明の防水シート1は、一次覆工コンクリート打設・防水シート1展張以降、二次覆工コンクリート打設5までに防水シート1の不透水性シート3が損傷しても、二次覆工コンクリート5打設の際、セメントの水和反応熱により速やかに低融点物質層32を溶融・流動せしめ、該損傷部位を自動的に閉塞・修復することができるものである。
また、本発明の防水シート1は、必要に応じて二次覆工コンクリート5打設前に、熱風や熱コテなどの加熱加圧手段を用いて、上記損傷部位の補修を行なうことも勿論可能である。
【0030】
なお、本発明の防水シートは、特に不透水性シートが、熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂層を表裏層とし、少なくともセメントの水和反応熱によって軟化又は溶融する低融点物質を含む低融点物質層を中間層とした少なくとも3層構成からなることを特徴とするものであるから、図3のような本発明に係る不透水性シート3の上面に、補強層2b、シート状網状体2aとを全面的に接着、又はこれらを接着剤等で部分的に接合して透水性シート2’を形成し、防水シート1’とし、この防水シート1’のシート状網状体2aの面を一次覆工コンクリート4側に対向させ、不透水性シート3(熱可塑性樹脂層31)の面を二次覆工コンクリート5側に対向させるようにして、該透水性シート2’が地山の土砂の多い湧水によって目詰まりを生じ難くするような構成としてもその特徴が損なわれることはない。
また、その他の構成についても本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更して差支えない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の防水シートの一構成例を説明するために防水シートの一部を示した概略縦断面図である。
【図2】(A)は、本発明の一構成例なる防水シートを用いたトンネル施工の様子を示した概略縦断面図である。(B)は、(A)中の点線で囲まれた円の部分を拡大した概略縦断面図である。
【図3】本発明の防水シートの他の構成例を説明するために防水シートの一部を示した概略縦断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 防水シート
2 透水性シート
3 不透水性シート
31 熱可塑性樹脂層
32 低融点物質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも不透水性シートを有する防水シートであって、該不透水性シートが、熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂層を表裏層とし、セメントの水和反応熱によって軟化又は溶融する低融点物質を含む低融点物質層を中間層とした少なくとも3層構成からなることを特徴とする防水シート。
【請求項2】
上記熱可塑性樹脂が、エチレン−酢酸ビニル共重合体、上記低融点物質がパラフィンワックスであることを特徴とする請求項1記載の防水シート。
【請求項3】
上記不透水性シートを構成する各層のうち、少なくとも1層に熱伝導材を含ませたことを特徴とする請求項1又は2記載の防水シート。
【請求項4】
上記熱伝導材が銅、アルミニウムであることを特徴とする請求項3記載の防水シート。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の防水シートを用い、前記不透水性シートの熱可塑性樹脂層面に損傷が生じた場合、該熱可塑性樹脂層面へのコンクリート打設によるセメントの水和反応熱により、前記低融点物質を軟化又は溶融させ、該損傷を塞ぐことを特徴とする防水シートの補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−7937(P2008−7937A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−176035(P2006−176035)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(000224101)藤森工業株式会社 (292)
【出願人】(591029921)フジモリ産業株式会社 (65)
【Fターム(参考)】