説明

防火区画貫通部の断熱被覆金属管の施工方法及び防火区画貫通部構造

【目的】 防火区画貫通部の片側で防火措置の施工が容易にできると共に、火災発生時には貫通孔を貫通する断熱被覆金属管を伝わってくる火炎を確実に止めて延焼を防止し、また、煙も完全に遮断することができる防火区画貫通部の施工方法及び防火区画貫通部構造を提供することにある。
【構成】 建築物の防火区画となる仕切り部の貫通孔に挿通する断熱被覆金属管の断熱材を該仕切り部片側の貫通孔面から外側に向かって切除する工程と、その切除部分に耐熱保温材を装着する工程と、前記断熱被覆金属管と貫通孔との間隙に熱膨張性耐火パテを充填する工程とからなり、各工程を仕切り部の片側のみで行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建築物の防火区画となる仕切り部、すなわち、壁や床に設けられた貫通孔を貫通して施工される断熱被覆金属管に防火措置を施すための施工方法及び、防火区画貫通部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種、防火区画貫通部の床や壁を貫通する可燃性の材料の配管、すなわち、ポリエチレン管や塩化ビニール管等の樹脂管や可燃性材料を被覆した断熱被覆金属管、また、電気あるいは通信用ケーブルなどの配線に防火措置を施すための施工方法及び、防火区画貫通部構造について種々開示されている。
断熱被覆金属管とは、鋼管や銅管、ステンレス管等の金属管に発泡性ポリエチレン等の断熱材を被覆したものである。
【0003】
従来、断熱被覆金属管の貫通部の防火措置については、「平成13年国土交通省大臣官房官庁営繕部監修 機械設備工事共通仕様書 第2章 配管工事 第8節 貫通部の処理」や、「平成13年国土交通省大臣官房官庁営繕部設備課監修 機械設備工事標準図 施工1 配管の防火区画貫通部施工要領 (a)貫通部において保温が必要な配管」に記載されている施工が該当し、それが一般的施工とされていた。
その施工状態は、図9に示すように、貫通孔Bとその貫通孔Bの両側それぞれ約50ミリメートルに当る範囲の配管の断熱材11を切除して、内側の金属管を露出させ、その部分にロックウール保温材Eを装着し、貫通孔との間隙をロックウール保温材又はモルタルCを充填したものである。
特開平7年−243423号には配管と貫通孔の間隙にパテを充填し、更に金属枠を用いてパテを充填する技術が開示され、特開平06−241352号の図3には空調配管の断熱部材を除去し、その周囲にグラスウール等の耐火性断熱材を詰めた方法が開示されている。
【特許文献1】特開平07年−243423号
【特許文献2】特開平06−241352号
【非特許文献1】平成13年国土交通省大臣官房官庁営繕部監修 機械設備工事共通仕様書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の方法では、以下のような問題があった。
従来の一般的施工であるロックウール保温材を用いた施工方法では、貫通孔の両側それぞれ約50ミリメートルの範囲まで断熱材を切除する必要があるために、作業者は仕切り部の片側からのみの施工ができず、仕切り部の両側にそれぞれ移動して作業するか、又は、仕切り部の両側にそれぞれ作業者が必要になるため作業効率が非常に悪かった。
さらに、その切除部分に取り付けるロックウール保温材の装着作業も仕切り部の両側からの作業となるために上記と同様に作業効率が悪かった。
また、特開平06−524352号の図3の施工方法についても同様である。
【0005】
特開平7−243423号のように断熱材の一部を切除することなく配管と貫通孔の間隙にパテを充填し、更に金属枠を用いてその空間にもパテを充填する方法があるが、近年の建築物の防火性能を強化する上で、延焼防止は勿論のこと、煙を完全に遮断する性能を有することが強く求められており、それら性能の更なる向上が望まれている。
【0006】
すなわち、樹脂管やケーブルなどの場合、特開平7−243423号のような熱膨張性耐火パテを貫通孔と配管の間隙に充填することで、火災の発生時、火災元の加熱側からの加熱により熱膨張性耐火パテが膨張し、加熱により焼失する材質部分の空洞、例えば、樹脂管であれば樹脂管自体を押し潰すことで、その空洞を完全に閉塞してしまい、非加熱側への延焼、煙を完全に遮断してしまうことができた。
しかし、断熱被覆金属管の場合、火災元の加熱側からの加熱により貫通部内の熱膨張性耐火パテが膨張して、加熱により焼失する材質部分の断熱材を押し潰してその空洞を完全に閉塞しても、加熱側に残る金属管(断熱材は焼失してしまっている)は継続して加熱され、その熱が金属管を伝わり、熱膨張性耐火パテを通り越して、非加熱側の断熱材の内側を加熱し、その加熱により断熱材は内側が溶解して肉減りすると共に膨張させられ、膨張に耐え切らない部分に亀裂が生じ、その亀裂から煙が出る可能性があるという問題があった。
【0007】
この発明は上記従来の課題に鑑みなされたもので、その目的は、防火区画貫通部となる仕切り部の片側からだけで施工が容易にできると共に、火災発生時に貫通孔を伝わって加熱側から非加熱側への延焼を確実に止め、また、煙も完全に遮断する施工方法及び防火区画貫通部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
その手段として、請求項1の発明の防火区画貫通部の断熱被覆金属管の施工方法は、建築物の防火区画となる仕切り部の貫通孔に挿通する断熱被覆金属管の断熱材を該仕切り部片側の貫通孔面から外側に向かって切除する工程と、その切除部分に耐熱保温材を装着する工程と、前記断熱被覆金属管と貫通孔との間隙に熱膨張性耐火パテを充填する工程とからなり、各工程を仕切り部の片側のみで行うことを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明の防火区画貫通部の断熱被覆金属管の施工方法は、上記熱膨張性耐火パテを貫通孔との間隙に充填する工程の後に耐熱保温材を装着した側の断熱被覆金属管を囲むように金属枠を取り付けて、その空間に熱膨張性耐火パテを充填する工程を実施することを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明の防火区画貫通部構造は、請求項1乃至請求項2のいずれか1項の記載の施工方法により施工されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の防火区画貫通部の断熱被覆金属管の施工方法及び防火区画貫通部構造によれば、仕切り部の片側ですべての工程が施工できるので作業性がよく、作業効率の向上を図れる。
火災の発生時、火元側からの加熱により貫通部内の熱膨張性耐火シートが膨張して、焼失する断熱材の空洞を完全に閉塞することができると共に、施工側の断熱材の一部を切除し、耐熱保温材を装着してあることで、施工側に火災が発生した場合は、金属管が加熱される位置を仕切り部から離すことができるので、金属管を伝わる熱を仕切り部内に止めることができる。
施工側の裏面に火災が発生した場合は、金属管を伝わる熱により溶解や亀裂が発生する可能性がある断熱材の位置に装着されているので、それらを防止することができる。
したがって、火災の延焼を確実な防止すると共に、優れた遮煙効果を得ることができる。
また、本発明の防火区画貫通部構造は上記施工方法により形成されたものであって、優れた延焼防止、遮煙効果がある防火構造を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の防火区画貫通部の断熱被覆金属管の施工方法及び防火区画貫通部構造につき詳細に説明する。
図1のa〜fは壁部の施工方法を示す斜視図であり、図2は施工後の要部断面図である。
10は断熱被覆金属管、20は耐熱保温材、30は熱膨張性耐火パテ、40は金属枠、Aは壁部、Bは貫通孔をそれぞれ示す。
【0013】
壁部Aの貫通孔Bに断熱被覆金属管10を挿通した後(a)、断熱被覆金属管10の断熱材11を貫通孔Bの施工側の孔面から略100ミリメートル外側までカッターなどの工具で切除する。(b)
その切除部分には耐熱保温材20を装着する(c)が、耐熱保温材20は,図3に示すように、ロックウール21を断熱材11の厚みと同等の厚さを有し、一部に分割スリット22を設けた円筒状であり、その外周にはアルミ箔に粘着材を積層した固定用カバー23を接着すると共に、その固定用カバー23は耐熱保温材20の長さ及び外径の周長より大きく形成し、その突出する部分には離型紙24、25を接着したもので、断熱材11を切除して露出した金属管12に分割スリット22を開いて嵌め込み、耐熱保温材20の長手方向の離型紙24を剥がし分割スリット22を閉塞して接着し固定すると共に、耐熱保温材20の周長方向両側の離型紙25、25を剥がし、切除部分の両側の断熱材11、11に接着して一体化固定する。
次に、断熱被覆金属管10と貫通孔Bの間隙に、熱膨張性耐火パテ30(d)を充填する。
更に、耐熱保温材を装着した側の断熱被覆金属管10を囲むように金属枠40を取り付けて、壁面にビスD等で固定し(e)、金属枠40内の空間に熱膨張性耐火パテ30を再度、充填して施工を完了する。
【0014】
上記熱膨張性耐火パテ30の材質は、ポリブタジエンと水酸化マグネシウムを主材料とし、グラファイト系の無機系膨張材、補強材としてのグラスファイバー等を添加したものである。
【0015】
上記断熱材11の切除の幅について、略100ミリメートルとしたが、その長さは特に限定することなく、壁の厚みや金属管の熱伝導率により適宜長さに変更することができる。
すなわち、加熱側における金属管の加熱時間を一定とした場合、その熱が加熱側から金属管を伝わって非加熱側に到達する位置は金属管の熱伝導率により異なること、また、壁の厚さが異なることにより非加熱側の壁際からその到達点までの距離が異なるためである。
【0016】
上記耐熱保温材20について、材料としてはロックウール以外に、セラミックウール、ガラスウール、シリカ・アルミナファイバー、シリカファイバー、アルミナファイバー等などが挙げられる。
形態は図5に示すように円筒状を長さ方向に2分割したものでも、あるいは、平坦なシート(図示省略)を作業時に金属管の外形に沿って巻き付けるものでもよい。
また、その厚みは断熱被覆金属管の断熱材と同じ厚みに形成するが、一例として、空調用冷媒管として使用する被覆銅管であれば、一般的にはその厚さは10ミリメートルであるので、耐熱保温材20の厚みも10ミリメートルとすることができる。
【0017】
上記固定用カバーについて、実施形態においてアルミ箔に粘着材を積層した材料を用いているが、そのほかに、耐熱性を有する金属箔、例えば、鉄、ステンレス、ブリキ等が好ましいが、樹脂製、例えば、塩ビ、ポリエチレン、ポリプロピレン等でもよい。
また、耐熱保温材20と別体でもよく、ビニールテープのような巻物状として、断熱材との接合部分、分割スリットの閉塞部分などの必要個所にそれぞれ巻き止めてもよい。
【0018】
上記熱膨張性耐火パテ30の材料について、構成材として無機系の水酸化マグネシウムのほかには水酸化アルミニウム、水和マグネシウム、ベントナイト、水和ケイ酸等が挙げられる。
また、有機系のポリブタジエンのほかに、例えば、天然ゴム、EPDM、クロロプレンゴム、イソブレンゴム、ブタジエンゴム、アクリルゴム、エチレン−プロビレンゴム、フッソゴム等のゴム材、或いは、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフイン系熱可塑性エラストマー、塩ビ系熱可塑性エラストマー等からなる熱可塑性エラストマーが挙げられる。
膨張材としては、ホウ砂、膨張黒鉛、ひる石、パーライトの群の1種又はそれらの混合物等が挙げられる。
要は、加熱により膨張して、断熱被覆金属管の断熱材を押し潰し、又は、焼失部分を完全に閉塞できるものであればよい。
【0019】
上記金属枠40は図5に示すように、適所にビス孔43を設けた、壁面に接地できる平面円弧状の台座部41と台座部から上方やや内方に向かって立ち上がる傾斜面からなる枠体42と、同形の枠体42の一対から形成する。
また、実施形態のように2分割のものでも、図6に示すように、一部をヒンジ部44で接続して一体化してもよい。
【0020】
上記施工方法は、壁の場合において説明したが、図7に示すように、床でも同様の手順で施工することができる。
その際、熱膨張性パテの充填に熱膨張性パテを受ける受け金具50を用いることも容易に推考することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明における壁部の施工方法を示す斜視図
【図2】本発明における壁部の施工方法の施工状態を示す要部断面図
【図3】本発明における断熱保温材を示す斜視図
【図4】本発明における別の断熱保温材を示す斜視図
【図5】本発明における金属枠を示す斜視図
【図6】本発明における別の金属枠を示す斜視図
【図7】本発明における床の施工状態を示す要部断面図
【図8】本発明における受け金具の斜視図
【図9】従来例を示す要部断面図
【符号の説明】
【0022】
10 断熱被覆金属管
20 断熱保温材
21 ロックウール
23 固定用カバー
30 熱膨張性耐火パテ
40 金属枠
43 ビス孔
50 受け金具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の防火区画となる仕切り部の貫通孔に挿通する断熱被覆金属管の断熱材を該仕切り部片側の貫通孔面から外側に向かって切除する工程と、その切除部分に耐熱保温材を装着する工程と、前記断熱被覆金属管と貫通孔との間隙に熱膨張性耐火パテを充填する工程とからなり、各工程を仕切り部の片側のみで行うことを特徴とする防火区画貫通部の断熱被覆金属管の施工方法。
【請求項2】
上記熱膨張性耐火パテを貫通孔との間隙に充填する工程の後に耐熱保温材を装着した側の断熱被覆金属管を囲むように金属枠を取り付けて、その空間に熱膨張性耐火パテを充填する工程を実施することを特徴とする請求項2に記載の防火区画貫通部の断熱被覆金属管の施工方法。
【請求項3】
請求項1乃至請求項2のいずれか1項の記載の施工方法により施工されてなることを特徴とする防火区画貫通部構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−256216(P2008−256216A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166609(P2008−166609)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【分割の表示】特願2003−153213(P2003−153213)の分割
【原出願日】平成15年5月29日(2003.5.29)
【出願人】(000157197)丸井産業株式会社 (17)
【Fターム(参考)】