説明

防眩フィルムおよびその製造方法、ならびに金型の製造方法

【課題】優れた防眩性能を示し、白ちゃけによる視認性の低下を防止することができるとともに、高精細の画像表示装置に適用した場合においても、ギラツキを発生せずに高いコントラストを発現することができる防眩フィルムおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】透明支持体上に積層された、凹凸表面を有する防眩層とを備え、空間周波数0.016μm-1における該防眩フィルムの複素透過関数のエネルギースペクトルT12と、空間周波数0.155μm-1におけるエネルギースペクトルT22との比T12/T22が6000以下であり、空間周波数0.108μm-1におけるエネルギースペクトルT32と、空間周波数0.155μm-1におけるエネルギースペクトルT22との比T32/T22が3以上20以下である防眩フィルム、その製造方法および当該防眩フィルムの製造方法に好適に用いられる金型の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防眩(アンチグレア)フィルムおよびその製造方法に関し、より詳しくは、透明支持体上に、微細な凹凸表面を有する防眩層が形成されてなる防眩フィルムおよびその製造方法に関する。また、本発明は、当該防眩フィルムの製造方法に好適に用いられる金型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイパネル、ブラウン管(陰極線管:CRT)ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイなどの画像表示装置は、その表示面に外光が映り込むと視認性が著しく損なわれてしまう。従来、このような外光の映り込みを防止するために、画質を重視するテレビやパーソナルコンピュータ、外光の強い屋外で使用されるビデオカメラやデジタルカメラ、および反射光を利用して表示を行なう携帯電話などにおいては、画像表示装置の表面に外光の映り込みを防止するためのフィルム層が設けられている。このフィルム層は、光学多層膜による干渉を利用した無反射処理が施されたフィルムからなるものと、表面に微細な凹凸を形成することにより入射光を散乱させて映り込み像をぼかす防眩処理が施されたフィルムからなるものとに大別される。前者の無反射フィルムは、均一な光学膜厚の多層膜を形成する必要があるため、コスト高になる。これに対して、後者の防眩フィルムは、比較的安価に製造することができるため、大型のパーソナルコンピュータやモニタなどの用途に広く用いられている。
【0003】
このような防眩フィルムは従来、たとえば、微粒子を分散させた樹脂溶液を基材シート上に膜厚を調整して塗布し、該微粒子を塗布膜表面に露出させることでランダムな表面凹凸を基材シート上に形成する方法などにより製造されている。しかしながら、このような微粒子を分散させた樹脂溶液を用いて製造された防眩フィルムは、樹脂溶液中の微粒子の分散状態や塗布状態などによって表面凹凸の配置や形状が左右されてしまうため、意図したとおりの表面凹凸を得ることが困難であり、防眩フィルムのヘイズを低く設定する場合、十分な防眩効果が得られないという問題があった。さらに、このような従来の防眩フィルムを画像表示装置の表面に配置した場合、散乱光によって表示面全体が白っぽくなり、表示が濁った色になる、いわゆる「白ちゃけ」が発生しやすいという問題があった。また、最近の画像表示装置の高精細化に伴って、画像表示装置の画素と防眩フィルムの表面凹凸形状とが干渉し、その結果、輝度分布が発生して表示面が見えにくくなる、いわゆる「ギラツキ」現象が発生しやすいという問題もあった。ギラツキを解消するために、バインダ樹脂とこれに分散される微粒子との間に屈折率差を設けて光を散乱させる試みもあるが、そのような防眩フィルムを画像表示装置の表面に配置した際には、微粒子とバインダ樹脂との界面における光の散乱によって、コントラストが低下しやすいという問題もあった。
【0004】
一方、微粒子を含有させずに、透明樹脂層の表面に形成された微細な凹凸だけで防眩性を発現させる試みもある。たとえば、特開2002−189106号公報(特許文献1)には、透明樹脂フィルム上に、三次元10点平均粗さ、および、三次元粗さ基準面上における隣接する凸部同士の平均距離が、それぞれ所定値を満足する微細な表面凹凸を有する電離放射線硬化性樹脂層の硬化物層が積層された防眩フィルムが開示されている。この防眩フィルムは、エンボス鋳型と透明樹脂フィルムとの間に電離放射線硬化性樹脂を挟んだ状態で、当該電離放射線硬化性樹脂を硬化させることにより製造される。しかしながら、特許文献1に開示される防眩フィルムによっても、十分な防眩効果、白ちゃけの抑制、高コントラスト、およびギラツキの抑制を達成することは難しかった。
【0005】
また、表示装置の表示面に配置される防眩フィルムではなく、液晶表示装置の背面側に配置される光拡散層として、表面に微細な凹凸が形成されたフィルムを用いることも、たとえば特開平6−34961号公報(特許文献2)、特開2004−45471号公報(特許文献3)、特開2004−45472号公報(特許文献4)などに開示されている。このうち特許文献3および4には、フィルムの表面に凹凸を形成する手法として、凹凸を反転させた形状を有するエンボスロールに電離放射線硬化性樹脂液を充填し、充填された樹脂にロール凹版の回転方向に同期して走行する透明基材を接触させ、透明基材がロール凹版に接触しているときに、ロール凹版と透明基材との間にある樹脂を硬化させ、硬化と同時に硬化樹脂と透明基材とを密着させた後、硬化後の樹脂と透明基材との積層体をロール凹版から剥離する方法が開示されている。
【0006】
しかしながらこのような特許文献3および4に開示された方法では、用いることのできる電離放射線硬化性樹脂液の組成が限られ、また溶媒で希釈して塗布したときのようなレベリングが期待できないことから、膜厚の均一性に課題があることが予想される。さらに、特許文献3および4に開示された方法では、エンボスロール凹版に直接樹脂液を充填する必要があることから、凹凸面の均一性を確保するためには、エンボスロール凹版に高い機械精度が要求され、エンボスロールの作製が難しいという課題があった。
【0007】
次に、表面に凹凸を有するフィルムの作製に用いられるロールの作製方法として、たとえば、上述した特許文献2には、金属などを用いて円筒体を作り、その表面に電子彫刻、エッチング、サンドブラストなどの手法により凹凸を形成する方法が開示されている。また、特開2004−29240号公報(特許文献5)には、ビーズショット法によってエンボスロールを作製する方法が開示されており、特開2004−90187号公報(特許文献6)には、ロールの表面に金属めっき層を形成する工程、金属めっき層の表面を鏡面研磨する工程、さらに必要に応じてピーニング処理をする工程を経て、エンボスロールを作製する方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、このようにエンボスロールの表面にブラスト処理を施したままの状態では、ブラスト粒子の粒径分布に起因する凹凸径の分布が生じるとともに、ブラストにより得られるくぼみの深さを制御することが困難であり、防眩機能に優れた凹凸の形状を再現性よく得ることに課題があった。
【0009】
また、上述した特許文献1には、好ましくは鉄の表面にクロムめっきしたローラを用い、サンドブラスト法やビーズショット法により凹凸型面を形成することが記載されている。さらに、このように凹凸が形成された型面には、使用時の耐久性を向上させる目的で、クロムめっきなどを施してから使用することが好ましく、それにより硬膜化および腐食防止を図ることができる旨の記載もある。一方、上述した特許文献3、4のそれぞれの実施例には、鉄芯表面にクロムめっきし、#250の液体サンドブラスト処理をした後に、再度クロムめっき処理して、表面に微細な凹凸形状を形成することが記載されている。
【0010】
しかしながら、このようなエンボスロールの作製法では、硬度の高いクロムめっきの上にブラストやショットを行なうため、凹凸が形成されにくく、しかも形成された凹凸の形状を精密に制御することが困難であった。また、特開2004−29672号公報(特許文献7)にも記載されるとおり、クロムめっきは、下地となる材質およびその形状に依存して表面が荒れることが多く、ブラストにより形成された凹凸上にクロムめっきで生じた細かいクラックが形成されるため、どのような凹凸ができるかの設計が難しいという課題があった。さらに、クロムめっきで生じる細かいクラックがあるため、最終的に得られる防眩フィルムの散乱特性が好ましくない方向に変化するという課題もあった。さらには、エンボスロール母材表面の材質とめっき種の組み合わせにより、仕上がりのロール表面が多種多様に変化するため、必要とする表面凹凸形状を精度よく得るためには、適切なロール表面の材質と適切なめっき種を選択しなければならないという課題もあった。さらにまた、望む表面凹凸形状が得られたとしても、めっき種によっては使用時の耐久性が不十分となることもあった。
【0011】
特開2000−284106号公報(特許文献8)には、基材にサンドブラスト加工を施した後、エッチング工程および/または薄膜の積層工程を施すことが記載されている。また、特開2006−53371号公報(特許文献9)には、基材を研磨し、サンドブラスト加工を施した後、無電解ニッケルめっきを施すことが記載されている。また、特開2007−187952号公報(特許文献10)には、基材に銅めっきまたはニッケルめっきを施した後、研磨し、サンドブラスト加工を施した後、クロムめっきを施してエンボス版を作製することが記載されている。さらに、特開2007−237541号公報(特許文献11)には、銅めっきまたはニッケルめっきを施した後、研磨し、サンドブラスト加工を施した後、エッチング工程または銅めっき工程を施した後にクロムめっきを施してエンボス版を作製することが記載されている。これらのサンドブラスト加工を用いる製法では、表面凹凸形状を精密に制御された状態で形成することが難しいため、表面凹凸形状に50μm以上の周期を持つ比較的大きい凹凸形状も作製されてしまう。その結果、それらの大きい凹凸形状と画像表示装置の画素とが干渉し、輝度分布が発生して表示面が見にくくなる「ギラツキ」が発生しやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−189106号公報
【特許文献2】特開平6−34961号公報
【特許文献3】特開2004−45471号公報
【特許文献4】特開2004−45472号公報
【特許文献5】特開2004−29240号公報
【特許文献6】特開2004−90187号公報
【特許文献7】特開2004−29672号公報
【特許文献8】特開2000−284106号公報
【特許文献9】特開2006−53371号公報
【特許文献10】特開2007−187952号公報
【特許文献11】特開2007−237541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、低ヘイズでありながら、画像表示装置に適用したときに、優れた防眩性能を示し、かつ、白ちゃけによる視認性の低下を防止することができるとともに、高精細の画像表示装置に適用した場合においても、ギラツキを発生せずに高いコントラストを発現することができる防眩フィルムおよびその製造方法、ならびに、当該防眩フィルムの製造方法に好適に用いられる金型の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、透明支持体と、該透明支持体上に積層された、凹凸表面を有する防眩層とを備える防眩フィルムであって、空間周波数0.016μm-1における該防眩フィルムの複素透過関数のエネルギースペクトルT12と、空間周波数0.155μm-1における該防眩フィルムの複素透過関数のエネルギースペクトルT22との比T12/T22が6000以下であり、空間周波数0.108μm-1における該防眩フィルムの複素透過関数のエネルギースペクトルT32と、空間周波数0.155μm-1における該防眩フィルムの複素透過関数のエネルギースペクトルT22との比T32/T22が3以上20以下である防眩フィルムを提供する。
【0015】
本発明の防眩フィルムが備える上記凹凸表面は、傾斜角度が5°以下である面を95%以上含むことが好ましい。また、上記防眩層は、平均粒径が0.4μm以上の微粒子を含まない層とすることができる。
【0016】
また本発明は、上記いずれかに記載の防眩フィルムを製造する方法を提供する。本発明の防眩フィルムの製造方法は、0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内に極大値を持たないエネルギースペクトルを示すパターンを用いて、防眩フィルムの凹凸表面が形成されることを特徴とする。本発明の防眩フィルムの製造方法は、上記パターンを用いて、凹凸面を有する金型を作製する工程と、透明支持体上に形成された樹脂層の表面に、該金型の凹凸面を転写する工程を含むことが好ましい。
【0017】
さらに本発明は、上記本発明の防眩フィルムの製造方法に好適に用いられる金型の製造方法を提供する。本発明の金型の製造方法は、金型用基材の表面に銅めっきまたはニッケルめっきを施す第1めっき工程と、第1めっき工程によってめっきが施された表面を研磨する研磨工程と、研磨された面に感光性樹脂膜を形成する感光性樹脂膜形成工程と、感光性樹脂膜上に上記パターンを露光する露光工程と、上記パターンが露光された感光性樹脂膜を現像する現像工程と、現像された感光性樹脂膜をマスクとして用いてエッチング処理を行ない、研磨されためっき面に凹凸を形成する第1エッチング工程と、感光性樹脂膜を剥離する感光性樹脂膜剥離工程と、形成された凹凸面にクロムめっきを施す第2めっき工程とを含む。
【0018】
本発明の金型の製造方法は、感光性樹脂膜剥離工程と第2めっき工程との間に、第1エッチング工程によって形成された凹凸面の凹凸形状をエッチング処理によって鈍らせる第2エッチング工程を含むことが好ましい。
【0019】
第2めっき工程において形成されるクロムめっきが施された凹凸面が、上記樹脂層の表面に転写される金型の凹凸面であることが好ましい。すなわち、本発明の金型の製造方法においては、第2めっき工程後に表面を研磨する工程を設けることなく、クロムめっきが施された凹凸面を、そのまま上記樹脂層の表面に転写される金型の凹凸面として用いることが好ましい。
【0020】
第2めっき工程におけるクロムめっきにより形成されるクロムめっき層は、1〜10μmの厚みを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、低ヘイズでありながら、画像表示装置に適用したときに、優れた防眩性能を示し、かつ、白ちゃけによる視認性の低下を防止することができるとともに、高精細の画像表示装置に適用した場合においても、ギラツキを発生せずに高いコントラストを発現する防眩フィルムを提供することができる。また、本発明の防眩フィルムの製造方法および金型の製造方法によれば、上記のような優れた光学特性を示す防眩フィルムを再現性よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の防眩フィルムの一例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の防眩フィルムの表面を模式的に示す斜視図である。
【図3】本発明の防眩フィルムの断面を模式的に示す図である。
【図4】標高を表す関数h(x,y)が離散的に得られる状態を示す模式図である。
【図5】本発明の防眩フィルムの複素透過関数を二次元の離散関数t(x,y)で表したものである。
【図6】図5に示した二次元関数t(x,y)を離散フーリエ変換して得られた複素透過関数のエネルギースペクトルT2(fx,fy)を白と黒のグラデーションで示したものである。
【図7】図6に示した複素透過関数のエネルギースペクトルT2(fx,fy)のfx=0における断面を示す図である。
【図8】微細凹凸表面の傾斜角度の測定方法を説明するための模式図である。
【図9】防眩フィルムの微細凹凸表面の傾斜角度分布のヒストグラムの一例を示すグラフである。
【図10】本発明の防眩フィルムを作製するために用いたパターンである画像データの一部を、階調の二次元離散関数g(x,y)で表した図である。
【図11】図10に示した階調の二次元離散関数g(x,y)を離散フーリエ変換して得られたエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を示す図である。
【図12】本発明の金型の製造方法の前半部分の好ましい一例を模式的に示す図である。
【図13】本発明の金型の製造方法の後半部分の好ましい一例を模式的に示す図である。
【図14】第1エッチング工程においてサイドエッチングが進行する状態を模式的に示す図である。
【図15】第1エッチング工程によって形成された凹凸面が第2エッチング工程によって鈍る状態を模式的に示す図である。
【図16】実施例2の金型作製の際に使用したパターンより得られた画像データの階調を二次元関数g(x,y)で表した図である。
【図17】実施例3の金型作製の際に使用したパターンより得られた画像データの階調を二次元関数g(x,y)で表した図である。
【図18】実施例4の金型作製の際に使用したパターンより得られた画像データの階調を二次元関数g(x,y)で表した図である。
【図19】実施例5の金型作製の際に使用したパターンより得られた画像データの階調を二次元関数g(x,y)で表した図である。
【図20】比較例1の金型作製の際に使用したパターンより得られた画像データの階調を二次元関数g(x,y)で表した図である。
【図21】実施例2〜5および比較例1〜2の防眩フィルムの複素透過関数より得られたエネルギースペクトルT2(fx,fy)のfx=0における断面を表した図である。
【図22】実施例2〜5および比較例1の金型作製の際に使用したパターンのエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<防眩フィルム>
本発明の防眩フィルムは、図1にその一例を示すように、透明支持体101と、透明支持体101上に積層された防眩層102とを備える。防眩層102における透明支持体101とは反対側の表面は、微細な凹凸表面(微細凹凸表面103)からなる。また、本発明の防眩フィルムは、その複素透過関数のエネルギースペクトルを用いて規定される、下記〔1〕および〔2〕に示される空間周波数分布を示すことを特徴とする。
〔1〕空間周波数0.016μm-1における防眩フィルムの複素透過関数のエネルギースペクトルT12と、空間周波数0.155μm-1におけるエネルギースペクトルT22との比T12/T22が6000以下である。
〔2〕空間周波数0.108μm-1におけるエネルギースペクトルT32と、空間周波数0.155μm-1におけるエネルギースペクトルT22との比T32/T22が3以上20以下である。
【0024】
従来、防眩フィルムの微細凹凸表面の周期については、JIS B 0601に記載される粗さ曲線要素の平均長さRSm、断面曲線要素の平均長さPSm、およびうねり曲線要素の平均長さWSmなどで評価されていた。しかしながら、このような従来の評価方法では、微細凹凸表面に含まれる複数の周期を正確に評価することができなかった。また、微細凹凸表面の周期だけでは、凹凸形状の高さ方向の情報が考慮されておらず、ギラツキと微細凹凸表面との相関および防眩性と微細凹凸表面との相関についても正確に評価することができず、ギラツキの抑制と十分な防眩性能を兼備する防眩フィルムを作製することが困難であった。
【0025】
本発明者らは、微細凹凸表面を有する防眩層を透明支持体上に積層した防眩フィルムにおいて、防眩フィルムの複素透過関数が特定の空間周波数分布を示す、すなわち、上記〔1〕および〔2〕で表される空間周波数分布を示す防眩フィルムは、優れた防眩性能を示しつつ、ギラツキを十分に抑制できることを見出し、これにより、優れた防眩性能を示し、かつ、白ちゃけによる視認性の低下を防止することができるとともに、高精細の画像表示装置に適用した場合においても、ギラツキを発生せずに高いコントラストを発現し得る防眩フィルムが提供され得ることを見出した。
【0026】
まず、防眩フィルムの複素透過関数のエネルギースペクトルについて、図2および図3を参照して説明する。図2は、本発明の防眩フィルムの表面を模式的に示す斜視図であり、図3は、本発明の防眩フィルムの断面を模式的に示す図である。図2および図3に示すように、本発明の防眩フィルム1は、透明支持体101と透明支持体101上に積層された微細な凹凸2から構成される微細凹凸表面を有する防眩層102とを備える。この防眩層102において、微細凹凸表面の最低点Rの高さにおいて当該高さを有する仮想的な平面24と、微細凹凸表面の最高点Qの高さにおいて当該高さを有する仮想的な平面25とに挟まれる層(以下では防眩層の表層と呼ぶ)に着目する。当該表層の厚みは、平面24から平面25までの直線距離hmaxである(図3参照)。
【0027】
「複素透過関数」とは、防眩層102の表層に透明支持体101側から垂直に波長λの光22が入射され、その光22が防眩層102の表層の視認側(微細凹凸表面側)から出射する際の、光の位相も含む透過率を意味する。すなわち、防眩層102の表層に透明支持体側から垂直に入射される光22を下記式(1)で表した場合、防眩層102の表層の視認側から出射する光23は下記式(2)で表すことができ、これより、複素透過関数tは下記式(3)で表される。
【0028】
【数1】

【0029】
ここで、上記式(1)中のu0は入射光22の振幅であり、kはk≡2π/λ(πは円周率であり、λは入射光22の波長である)で定義される波数ベクトルであり、r0は光22の入射する点の位置ベクトルであり、iは虚数単位である。また、上記式(2)中のTは振幅透過率であり、nは防眩層の構成材料の屈折率であり、hは光22の入射した点における微細凹凸表面の最低点Rの高さを有する仮想的な平面24から防眩層102表面までの高さである。
【0030】
入射光22が防眩層102の表層を通過することによっても減衰しないと仮定する場合、T=1となるから、複素透過関数tは下記式(4):
【0031】
【数2】

【0032】
で表される。このように、複素透過関数tは、防眩層の各点の微細凹凸表面の標高、具体的には、微細凹凸表面の最低点Rの高さにおいて当該高さを有する仮想的な平面24から微細凹凸表面の最高点Qの高さにおいて当該高さを有する仮想的な平面25までの直線距離(最高点Qにおける微細凹凸表面の標高)hmaxおよび光22の入射した点における平面24から防眩層102表面までの高さ(当該点における微細凹凸表面の標高)hから計算することができる。「微細凹凸表面の標高」とは、防眩層表面の任意の点Pにおける、微細凹凸表面の最低点Rの高さにおいて当該高さを有する仮想的な平面24からの防眩フィルムの主法線方向4(上記仮想的な平面24における法線方向)における直線距離を意味する。なお、図2には、防眩フィルム全体の面を投影面3で表示している。
【0033】
図2に示すように、防眩フィルム面内の直交座標を(x,y)で表示した際には、微細凹凸表面の標高は、座標(x,y)の二次元関数h(x,y)と表すことができ、それより計算される複素透過関数も二次元関数t(x,y)で表すことができる。複素透過関数t(x,y)は、微細凹凸表面の凹凸形状の周期に加えて、凹凸形状の高さ方向の情報も考慮した、微細凹凸表面の光学的な空間周波数分布を示すものであり、ギラツキと微細凹凸表面との相関および防眩性と微細凹凸表面との相関について正確に評価することができるものである。
【0034】
複素透過関数を計算するための微細凹凸表面の標高は、共焦点顕微鏡、干渉顕微鏡、原子間力顕微鏡(AFM)などの装置により測定される表面形状の三次元情報から求めることができる。測定機に要求される水平分解能は、少なくとも5μm以下、好ましくは2μm以下であり、また垂直分解能は、少なくとも0.1μm以下、好ましくは0.01μm以下である。この測定に好適な非接触三次元表面形状・粗さ測定機としては、New View 5000シリーズ(Zygo Corporation社製、日本ではザイゴ(株)から入手可能)、三次元顕微鏡PLμ2300(Sensofar社製)などを挙げることができる。測定面積は、標高のエネルギースペクトルの分解能が0.01μm-1以下であることが好ましいため、少なくとも200μm×200μm以上とするのが好ましく、より好ましくは、500μm×500μm以上である。
【0035】
次に、二次元関数t(x,y)より、複素透過関数のエネルギースペクトルを求める方法について説明する。まず、二次元関数t(x,y)より、下記式(5)で定義される二次元フーリエ変換によって二次元関数T(fx,fy)を求める。
【0036】
【数3】

【0037】
ここで、fxおよびfyは、それぞれx方向およびy方向の空間周波数であり、長さの逆数の次元を持つ。また、式(5)中のπは円周率、iは虚数単位である。得られた二次元関数T(fx,fy)を二乗することによって、複素透過関数のエネルギースペクトルT2(fx,fy)を求めることができる。このエネルギースペクトルT2(fx,fy)は、防眩フィルムの複素透過関数に基づく、防眩層の微細凹凸表面の空間周波数分布を表している。
【0038】
以下、防眩フィルムの複素透過関数のエネルギースペクトルを求める方法をさらに具体的に説明する。上記の共焦点顕微鏡、干渉顕微鏡、原子間力顕微鏡などによって実際に測定される表面形状の三次元情報は、一般的に離散的な値、すなわち、多数の測定点に対応する標高として得られる。図4は、標高を表す関数h(x,y)が離散的に得られる状態を示す模式図である。図4に示すように、防眩フィルム面内の直交座標を(x,y)で表示し、防眩フィルムの投影面3上にx軸方向にΔx毎に分割した線およびy軸方向にΔy毎に分割した線を破線で示すと、実際の測定では微細凹凸表面の標高は、防眩フィルムの投影面3上の各破線の交点毎の離散的な標高値として得られる。
【0039】
得られる標高値の数は、測定範囲とΔxおよびΔyによって決まり、図4に示すようにx軸方向の測定範囲をX=MΔxとし、y軸方向の測定範囲をY=NΔyとすると、得られる標高値の数は(M+1)×(N+1)個である。
【0040】
図4に示すように、防眩フィルムの投影面3上の着目点Aの座標を(jΔx,kΔy)(ここでjは0以上M以下であり、kは0以上N以下である。)とすると、着目点Aに対応する防眩フィルム表面上の点Pの標高は、h(jΔx,kΔy)と表すことができる。
【0041】
ここで、測定間隔ΔxおよびΔyは、測定機器の水平分解能に依存し、精度良く微細凹凸表面を評価するためには、上述したとおりΔxおよびΔyともに5μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。また、測定範囲XおよびYは上述したとおり、ともに200μm以上が好ましく、ともに500μm以上がより好ましい。
【0042】
このように、実際の測定では微細凹凸表面の標高を表す関数は(M+1)×(N+1)個の値を持つ離散関数h(x,y)として得られる。測定によって得られた離散関数h(x,y)より、離散関数t(x,y)が求まる。また、離散関数t(x,y)と下記式(6)で定義される離散フーリエ変換によって離散関数T(fx,fy)が求まり、離散関数T(fx,fy)を二乗することによってエネルギースペクトルの離散関数T2(fx,fy)が求められる。式(6)中のlは−(M+1)/2以上(M+1)/2以下の整数であり、mは−(N+1)/2以上(N+1)/2以下の整数である。また、ΔfxおよびΔfyは、それぞれx方向およびy方向の空間周波数間隔であり、式(7)および式(8)で定義される。ΔfxおよびΔfyは、複素透過関数のエネルギースペクトルの水平分解能に相当する。
【0043】
【数4】

【0044】
図5は、本発明の防眩フィルム(具体的には、後述する実施例1の防眩フィルム)の複素透過関数を二次元の離散関数t(x,y)で表した図である。図5において複素透過関数の大きさは白と黒のグラデーションで表現されている。図5に示した離散関数t(x,y)は、512×512個の値を持ち、水平分解能ΔxおよびΔyは0.83μmである。
【0045】
また、図6は、図5に示した二次元関数t(x,y)を離散フーリエ変換して得られた複素透過関数のエネルギースペクトルT2(fx,fy)を白と黒のグラデーションで示したものである。図6に示した複素透過関数のエネルギースペクトルT2(fx,fy)も512×512個の値を持つ離散関数であり、複素透過関数のエネルギースペクトルの水平分解能ΔfxおよびΔfyは0.0024μm-1である。
【0046】
図5に示される例のように、本発明の防眩フィルムの複素透過関数はランダムであるため、複素透過関数のエネルギースペクトルは、図6に示されるように、原点を中心に対称となる。よって、空間周波数0.016μm-1における複素透過関数のエネルギースペクトルT12、空間周波数0.155μm-1におけるエネルギースペクトルT22、および空間周波数0.108μm-1におけるエネルギースペクトルT32は、二次元関数であるエネルギースペクトルT2(fx,fy)の原点を通る断面より求めることができる。図7に、図6に示した複素透過関数のエネルギースペクトルT2(fx,fy)のfx=0における断面を示した。これより、空間周波数0.016μm-1におけるエネルギースペクトルT12は277、空間周波数0.155μm-1におけるエネルギースペクトルT22は0.054であり、比T12/T22は5161であることが分かる。また、空間周波数0.108μm-1におけるエネルギースペクトルT32は0.49であり、比T32/T32は9.2であることが分かる。
【0047】
上述したように、本発明の防眩フィルムは、複素透過関数のエネルギースペクトルに関し、上記〔1〕および〔2〕を満たす。エネルギースペクトルの比T12/T22が6000を上回ることは、防眩フィルムの複素透過関数に含まれる62.5μm以上の長周期成分が多く、6.5μm未満の短周期成分が少ないことを表している。ここで、複素透過関数は、前述したように微細凹凸表面の凹凸形状の周期に加えて、凹凸形状の高さ方向の情報も含んでいるため、ここでいう周期とは、凹凸表面の凹部間の周期もしくは凸部間の周期ではなく、高低差も含んだ光学的な周期を意味している。よって、エネルギースペクトルの比T12/T22が6000を上回ることは、光学的な長周期成分が微細凹凸形状に多く含まれていることを示し、そのような場合には、防眩フィルムを高精細の画像表示装置に配置した際に輝度のバラツキが大きくなり、ギラツキを発生させる傾向にある。また、エネルギースペクトルの比T32/T22が3を下回ることは、光学的に9.3μm未満の短周期成分が多いことを示しており、このような場合には散乱が弱く、外光の映り込みを効果的に防止することができず、十分な防眩性能が得られない。これに対して、エネルギースペクトルの比T32/T22が20を上回ることは、光学的に10μm以上の長周期成分が多いことを示しており、ヘイズが大きくなることで画像表示装置に適用したときに画像が暗くなり、その結果正面コントラストが低下する傾向にある。より優れた防眩性能を示しつつ、ギラツキをより効果的に抑制するためには、複素透過関数のエネルギースペクトルの比T12/T22は、好ましくは0〜3000の範囲内、より好ましくは0〜2000の範囲内であり、比T32/T22は、好ましくは3〜15の範囲内、より好ましくは3〜11の範囲内である。
【0048】
本発明者らはまた、防眩層の微細凹凸表面が特定の傾斜角度分布を示すようにすれば、優れた防眩性能を示しつつ、白ちゃけを効果的に防止するうえで一層有効であることを見出した。すなわち、本発明の防眩フィルムにおいて、防眩層の微細凹凸表面は、傾斜角度が5°以下である面を95%以上含むことが好ましい。傾斜角度が5°以下である面の割合が95%を下回ると、凹凸表面の傾斜角度が急峻になって、周囲からの光を集光し、表示面が全体的に白くなる白ちゃけが発生しやすくなる。このような集光効果を抑制し、白ちゃけを防止するためには、微細凹凸表面の傾斜角度が5°以下である面の割合が高ければ高いほどよく、97%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましい。
【0049】
ここで、本発明でいう「微細凹凸表面の傾斜角度」とは、図2を参照して、防眩フィルム1表面の任意の点Pにおいて、防眩フィルムの主法線方向4に対する、そこでの凹凸を加味した局所的な法線6のなす角度(表面傾斜角度)ψを意味する。微細凹凸表面の傾斜角度についても標高と同様に、共焦点顕微鏡、干渉顕微鏡、原子間力顕微鏡(AFM)などの装置により測定される表面形状の三次元情報から求めることができる。
【0050】
ここで、図8は、微細凹凸表面の傾斜角度の測定方法を説明するための模式図である。具体的な傾斜角度の決定方法を説明すると、図8に示すように、点線で示される仮想的な平面FGHI上の着目点Aを決定し、そこを通るx軸上の着目点Aの近傍に、点Aに対してほぼ対称に点BおよびDを、また点Aを通るy軸上の着目点Aの近傍に、点Aに対してほぼ対称に点CおよびEをとり、これらの点B,C,D,Eに対応する防眩フィルム面上の点Q,R,S,Tを決定する。なお図8では、防眩フィルム面内の直交座標を(x,y)で表示し、防眩フィルム厚み方向の座標をzで表示している。平面FGHIは、y軸上の点Cを通るx軸に平行な直線、および同じくy軸上の点Eを通るx軸に平行な直線と、x軸上の点Bを通るy軸に平行な直線、および同じくx軸上の点Dを通るy軸に平行な直線とのそれぞれの交点F,G,H,Iによって形成される面である。また図8では、平面FGHIに対して、実際の防眩フィルム面の位置が上方にくるように描かれているが、着目点Aのとる位置によって当然ながら、実際の防眩フィルム面の位置が平面FGHIの上方にくることもあるし、下方にくることもある。
【0051】
傾斜角度は、着目点Aに対応する実際の防眩フィルム面上の点Pと、その近傍にとられた4点B,C,D,Eに対応する実際の防眩フィルム面上の点Q,R,S,Tの合計5点により張られるポリゴン4平面、すなわち、四つの三角形PQR,PRS,PST,PTQの各法線ベクトル6a,6b,6c,6dを平均して得られる平均法線ベクトル(平均法線ベクトルは、図2に示される凹凸を加味した局所的な法線6と同義である)の極角を、測定された表面形状の三次元情報から求めることにより得ることができる。各測定点について傾斜角度を求めた後、ヒストグラムが計算される。
【0052】
図9は、防眩フィルム(具体的には、後述する実施例1の防眩フィルム)の微細凹凸表面の傾斜角度分布のヒストグラムの一例を示すグラフである。図9に示すグラフにおいて、横軸は傾斜角度であって、0.5°刻みで分割してある。たとえば、一番左の縦棒は、傾斜角度が0〜0.5°の範囲にある集合の分布を示し、以下、右へ行くにつれて角度が0.5°ずつ大きくなっている。図では、横軸の2目盛毎に値の下限値を表示しており、たとえば、横軸で「1」とある部分は、傾斜角度が1〜1.5°の範囲にある集合の分布を示す。また、縦軸は傾斜角度の分布を表し、合計すれば1(100%)になる値である。この例では、傾斜角度が5°以下である面の割合は略100%である。
【0053】
本発明の防眩フィルムにおいて防眩層は、微粒子が分散されたものであってもよいし、微粒子を含有しないものであってもよい。防眩層を構成するバインダ樹脂と異なる屈折率を有し、特に平均粒径が0.4μm以上の微粒子を防眩層に分散させることにより、ギラツキをより効果的に解消することができる。ただし、このような微粒子を防眩層に分散させた防眩フィルムを画像表示装置の表面に配置した際には、微粒子とバインダ樹脂界面における光の散乱によって、コントラストが低下する傾向があり、かかる観点から、本発明の防眩フィルムは、防眩層中に0.4μm以上の微粒子を含まないことが好ましい。本発明の防眩フィルムは、上記した特定の空間周波数分布を示すものであることから、微粒子を含有しない場合であっても、十分なギラツキ抑制能を示す。
【0054】
防眩層が微粒子を含有する場合において、微粒子の平均粒径は、たとえば3〜10μm程度、好ましくは5〜10μm程度とすることができ、微粒子の含有量は、防眩層を構成するバインダ樹脂100重量部に対して、たとえば5〜50重量部程度、好ましくは10〜50重量部程度とすることができる。微粒子としては、樹脂ビーズ、それもほぼ球形のものが好ましく用いられる。かかる好適な樹脂ビーズの例は、メラミンビーズ(屈折率1.57)、ポリメタクリル酸メチルビーズ(屈折率1.49)、メタクリル酸メチル/スチレン共重合体樹脂ビーズ(屈折率1.50〜1.59)、ポリカーボネートビーズ(屈折率1.55)、ポリエチレンビーズ(屈折率1.53)、ポリスチレンビーズ(屈折率1.6)、ポリ塩化ビニルビーズ(屈折率1.46)、シリコーン樹脂ビーズ(屈折率1.46)などを含む。
【0055】
本発明の防眩フィルムにおいて防眩層は、実質的に光学的に透明であれば特に限定されないが、たとえば紫外線硬化型樹脂等の光硬化型樹脂、熱硬化型樹脂または熱可塑性樹脂から構成することができる。防眩層の厚みは特に限定されず、たとえば1〜50μm程度とすることができ、好ましくは3〜10μmである。また、透明支持体は、実質的に光学的に透明なフィルムである限り特に制限されず、たとえばトリアセチルセルロースフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ノルボルネン系化合物をモノマーとする非晶性環状ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂の溶剤キャストフィルムや押出フィルムなどの樹脂フィルムが挙げられる。透明支持体の厚みは特に制限されないが、通常、25〜1000μmであり、好ましくは25〜100μmである。
【0056】
<防眩フィルムの製造方法>
上記本発明の防眩フィルムは、上記した特定の空間周波数分布を持つ微細凹凸表面を精度よく形成するために、0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内に極大値を持たないエネルギースペクトルを示すパターンを用いて、その微細凹凸表面が形成されることが好ましい。ここで、「パターン」とは、典型的には、防眩フィルムの微細凹凸表面を形成するために用いられる、計算機によって作成された2階調(たとえば、白と黒とに二値化された画像データ)または3階調以上のグラデーションからなる画像データを意味するが、当該画像データへ一義的に変換可能なデータ(行列データなど)も含み得る。画像データへ一義的に変換可能なデータとしては、各画素の座標および階調のみが保存されたデータなどが挙げられる。
【0057】
上記パターンのエネルギースペクトルは、たとえば画像データであれば、画像データを256階調のグレースケールに変換した後、画像データの階調を二次元関数g(x,y)で表し、得られた二次元関数g(x,y)をフーリエ変換して二次元関数G(fx,fy)を計算し、得られた二次元関数G(fx,fy)を二乗することによって求められる。ここで、xおよびyは、画像データ面内の直交座標を表し、fxおよびfyはそれぞれ、x方向の空間周波数およびy方向の空間周波数を表している。
【0058】
微細凹凸表面の標高のエネルギースペクトルを求める場合と同様に、パターンのエネルギースペクトルを求める場合についても、階調の二次元関数g(x,y)は離散関数として得られる場合が一般的である。その場合は、微細凹凸表面の標高のエネルギースペクトルを求める場合と同様に、離散フーリエ変換によって、パターンのエネルギースペクトルが計算される。具体的には、式(9)で定義される離散フーリエ変換によって離散関数G(fx,fy)を計算し、離散関数G(fx,fy)を二乗することによってエネルギースペクトルが求められる。ここで、式(9)中のπは円周率、iは虚数単位である。また、Mはx方向の画素数であり、Nはy方向の画素数であり、lは−M/2以上M/2以下の整数であり、mは−N/2以上N/2以下の整数である。さらに、ΔfxおよびΔfyはそれぞれx方向およびy方向の空間周波数間隔であり、式(10)および式(11)で定義される。式(10)および式(11)中のΔxおよびΔyはそれぞれ、x軸方向、y軸方向における水平分解能である。なお、パターンが画像データである場合には、ΔxおよびΔyは、それぞれ1画素のx軸方向の長さおよびy軸方向の長さと等しい。すなわち、6400dpiの画像データとしてパターンを作成した場合には、Δx=Δy=4μmであり、12800dpiの画像データとしてパターンを作成した場合には、Δx=Δy=2μmである。
【0059】
【数5】

【0060】
図10は、本発明の防眩フィルムを作製するために用いたパターン(後述する実施例1の金型作製の際に使用したパターン)である画像データの一部を、階調の二次元離散関数g(x,y)で表した図である。図10に示した二次元離散関数g(x,y)は512×512個の値を持ち、水平分解能ΔxおよびΔyは4μmである。また、図10に示したパターンである画像データは1.64mm×1.64mmの大きさで、6400dpiで作成した。
【0061】
図11は、図10に示した階調の二次元離散関数g(x,y)を離散フーリエ変換して得られたエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を示す図である。得られた離散関数G2(fx,fy)も512×512個の値を持ち、水平分解能ΔfxおよびΔfyは0.00049μm-1である。図10に示したように、本発明の防眩フィルムを製造するために作成するパターンはランダムであるため、得られるエネルギースペクトルは、原点を中心に対称となる。よって、パターンのエネルギースペクトルの極大値を示す空間周波数はエネルギースペクトルの原点を通る断面より求めることができる。図11より、図10に示したパターンは、空間周波数0.061μm-1に極大値を持つが、0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内には極大値を持たないことが分かる。
【0062】
防眩フィルムを作製するためのパターンのエネルギースペクトルが0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内に極大値を持つ場合には、得られる防眩フィルムが上記〔1〕および〔2〕で表される特定の空間周波数分布を示さなくなるため、ギラツキの解消と十分な防眩性を兼備することができない。
【0063】
エネルギースペクトルが0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内に極大値を持たないパターンは、たとえば、20μm未満のドット径(ドットの直径)を有する多数のドットをランダムかつ均一に配置することにより作成することができる。ランダムに配置するドットのドット径は1種類でもよいし、複数種類でもよい。また、このような多数のドットをランダムに配置して作成したパターンから、より効果的に空間周波数0.04μm-1以下の空間周波数成分を除去するために、0.04μm-1以下の空間周波数成分を除去するハイパスフィルターを通過させて得られたパターンを、防眩フィルム作製用のパターンとしてもよい。さらに、多数のドットをランダムに配置して作成したパターンから、より効果的に空間周波数0.04μm-1以下の空間周波数成分を除去するために、0.04μm-1以下の低空間周波数成分と特定の空間周波数以上の高空間周波数成分を除去するバンドパスフィルターを通過させて得られたパターンを、防眩フィルム作製用のパターンとしてもよい。
【0064】
上記のなかでも、エネルギースペクトルが0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内に極大値を持たず、空間周波数0.02μm-1におけるパターンのエネルギースペクトルG12と、空間周波数0.04μm-1におけるパターンのエネルギースペクトルG22との比G12/G22が1以下、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下であるパターンは、上記〔1〕および〔2〕に示される特定の空間周波数分布を示す防眩フィルムをより精度よく作製できることからより好ましく用いられる。
【0065】
上述したパターンを用いた微細凹凸表面を有する防眩フィルムは、印刷法、パターン露光法、エンボス法などによって製造することができる。たとえば、印刷法では、光硬化型樹脂もしくは熱硬化型樹脂を用いたフレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷などによって、上述したパターンを透明支持体上に形成された樹脂層表面に印刷して作製した後、乾燥、または、活性光線もしくは加熱により硬化させることによって、本発明の防眩フィルムを製造することができる。また、パターン露光法では、光硬化型樹脂もしくは熱硬化型樹脂を透明支持体上に塗布した後、上述したパターンを用いたレーザによる直描露光や、上述したパターンを有するマスクを介しての全面露光により、パターン露光を行ない、必要に応じて現像した後、活性光線もしくは加熱により硬化させることによって、本発明の防眩フィルムを製造することができる。さらにエンボス法では、上述したパターンを用いて微細凹凸表面を有する金型を作製し、作製された金型の凹凸面を、透明支持体上に形成された樹脂層表面に転写し、次いで凹凸面が転写された透明支持体を金型から剥がすことによって、本発明の防眩フィルムを製造することができる。なかでも、本発明の防眩フィルムは、微細凹凸表面を精度よく、かつ、再現性よく製造する観点から、エンボス法によって製造されることが好ましい。
【0066】
エンボス法としては、光硬化型樹脂を用いるUVエンボス法、熱可塑性樹脂を用いるホットエンボス法が例示され、中でも、生産性の観点から、UVエンボス法が好ましい。UVエンボス法においては、透明支持体の表面に、光硬化型樹脂層を形成し、その光硬化型樹脂層を金型の凹凸面に押し付けながら硬化させることで、金型の凹凸面が光硬化型樹脂層表面に転写される。より具体的には、透明支持体上に光硬化型樹脂を含む塗工液を塗工し、塗工した光硬化型樹脂を金型の凹凸面に密着させた状態で、透明支持体側から紫外線等の光を照射して光硬化型樹脂を硬化させ、その後金型から、硬化後の光硬化型樹脂層が形成された透明支持体を剥離することにより、金型の凹凸形状が硬化後の光硬化型樹脂層(防眩層)に転写された防眩フィルムが得られる。
【0067】
UVエンボス法において、透明支持体としては、上述したものを好適に用いることができる。光硬化型樹脂としては、紫外線により硬化する紫外線硬化型樹脂が好ましく用いられるが、紫外線硬化型樹脂に適宜選択された光開始剤を組み合わせて、紫外線より波長の長い可視光でも硬化が可能な樹脂を用いることも可能である。紫外線硬化型樹脂の種類は特に限定されず、市販の適宜のものを用いることができる。紫外線硬化型樹脂の好適な例は、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどの多官能アクリレートをそれぞれ単独で、あるいはそれら2種以上を混合して用い、それと、イルガキュアー907(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)、イルガキュアー184(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)、ルシリンTPO(BASF社製)などの光重合開始剤とを混合した樹脂組成物である。ホットエンボス法においても、透明支持体としては、UVエンボス法において記述したものと同様のものを用いることができる。
【0068】
<防眩フィルム作製用の金型の製造方法>
以下では、本発明の防眩フィルムの製造に用いる金型を製造する方法について説明する。本発明の防眩フィルムの製造に用いる金型の製造方法については、上述したパターンを用いた所定の表面形状が得られる方法であれば、特に制限されないが、微細凹凸表面を精度よく、かつ、再現性よく製造するために、〔1〕第1めっき工程と、〔2〕研磨工程と、〔3〕感光性樹脂膜形成工程と、〔4〕露光工程と、〔5〕現像工程と、〔6〕第1エッチング工程と、〔7〕感光性樹脂膜剥離工程と、〔8〕第2めっき工程とを基本的に含むことが好ましい。図12は、本発明の金型の製造方法の前半部分の好ましい一例を模式的に示す図である。図12には、各工程での金型の断面を模式的に示している。以下、図12を参照しながら、本発明の金型の製造方法の各工程について詳細に説明する。
【0069】
〔1〕第1めっき工程
本工程では、金型に用いる基材の表面に、銅めっきまたはニッケルめっきを施す。このように、金型用基材の表面に銅めっきまたはニッケルめっきを施すことにより、後の第2めっき工程におけるクロムめっきの密着性や光沢性を向上させることができる。すなわち、鉄などの表面にクロムめっきを施した場合、あるいはクロムめっき表面にサンドブラスト法やビーズショット法などで凹凸を形成してから再度クロムめっきを施した場合には、表面が荒れやすく、細かいクラックが生じて、金型の表面の凹凸形状が制御しにくくなる。これに対して、まず、基材表面に銅めっきまたはニッケルめっきを施しておくことにより、このような不都合をなくすことができる。これは、銅めっきまたはニッケルめっきは、被覆性が高く、また平滑化作用が強いことから、金型用基材の微小な凹凸や鬆などを埋めて平坦で光沢のある表面を形成するためである。これらの銅めっきまたはニッケルめっきの特性によって、後述する第2めっき工程においてクロムめっきを施したとしても、基材に存在していた微小な凹凸や鬆に起因すると思われるクロムめっき表面の荒れが解消され、また、銅めっきまたはニッケルめっきの被覆性の高さから、細かいクラックの発生が低減される。
【0070】
第1めっき工程において用いられる銅またはニッケルとしては、それぞれの純金属であることができるほか、銅を主体とする合金、またはニッケルを主体とする合金であってもよく、したがって、本明細書でいう「銅」は、銅および銅合金を含む意味であり、また「ニッケル」は、ニッケルおよびニッケル合金を含む意味である。銅めっきおよびニッケルめっきは、それぞれ電解めっきで行なっても無電解めっきで行なってもよいが、通常は電解めっきが採用される。
【0071】
銅めっきまたはニッケルめっきを施す際には、めっき層が余り薄いと、下地表面の影響が排除しきれないことから、その厚みは50μm以上であるのが好ましい。めっき層厚みの上限は臨界的でないが、コストなどに鑑み、めっき層厚みの上限は500μm程度までとすることが好ましい。
【0072】
金型用基材の形成に好適に用いられる金属材料としては、コストの観点からアルミニウム、鉄などが挙げられる。取扱いの利便性から、軽量なアルミニウムを用いることがより好ましい。ここでいうアルミニウムや鉄も、それぞれ純金属であることができるほか、アルミニウムまたは鉄を主体とする合金であってもよい。
【0073】
また、金型用基材の形状は、当該分野において従来採用されている適宜の形状であってよく、たとえば、平板状のほか、円柱状または円筒状のロールであってもよい。ロール状の基材を用いて金型を作製すれば、防眩フィルムを連続的なロール状で製造することができるという利点がある。
【0074】
〔2〕研磨工程
続く研磨工程では、上述した第1めっき工程にて銅めっきまたはニッケルめっきが施された基材表面を研磨する。当該工程を経て、基材表面は、鏡面に近い状態に研磨されることが好ましい。これは、基材となる金属板や金属ロールは、所望の精度にするために、切削や研削などの機械加工が施されていることが多く、それにより基材表面に加工目が残っており、銅めっきまたはニッケルめっきが施された状態でも、それらの加工目が残ることがあるし、また、めっきした状態で、表面が完全に平滑になるとは限らないためである。すなわち、このような深い加工目などが残った表面に後述する工程を施したとしても、各工程を施した後に形成される凹凸よりも加工目などの凹凸の方が深いことがあり、加工目などの影響が残る可能性があり、そのような金型を用いて防眩フィルムを製造した場合には、光学特性に予期できない影響を及ぼすことがある。図12(a)には、平板状の金型用基材7が、第1めっき工程において銅めっきまたはニッケルめっきをその表面に施され(当該工程で形成した銅めっきまたはニッケルめっきの層については図示せず)、さらに研磨工程によって鏡面研磨された表面8を有するようにされた状態を模式的に示している。
【0075】
銅めっきまたはニッケルめっきが施された基材表面を研磨する方法については特に制限されるものではなく、機械研磨法、電解研磨法、化学研磨法のいずれも使用できる。機械研磨法としては、超仕上げ法、ラッピング、流体研磨法、バフ研磨法などが例示される。研磨後の表面粗度は、JIS B 0601の規定に準拠した中心線平均粗さRaが0.1μm以下であることが好ましく、0.05μm以下であることがより好ましい。研磨後の中心線平均粗さRaが0.1μmより大きいと、最終的な金型表面の凹凸形状に研磨後の表面粗度の影響が残る可能性がある。また、中心線平均粗さRaの下限については特に制限されず、加工時間や加工コストの観点から、おのずと限界があるので、特に指定する必要性はない。
【0076】
〔3〕感光性樹脂膜形成工程
続く感光性樹脂膜形成工程では、上述した研磨工程によって鏡面研磨を施した金型用基材7の研磨された表面8に、感光性樹脂を溶媒に溶解した溶液として塗布し、加熱・乾燥することにより、感光性樹脂膜を形成する。図12(b)には、金型用基材7の研磨された表面8に感光性樹脂膜9が形成された状態を模式的に示している。
【0077】
感光性樹脂としては従来公知の感光性樹脂を用いることができる。感光部分が硬化する性質をもったネガ型の感光性樹脂としては、たとえば、分子中にアクリル基またはメタアクリル基を有するアクリル酸エステルの単量体やプレポリマー、ビスアジドとジエンゴムとの混合物、ポリビニルシンナマート系化合物等を用いることができる。また、現像により感光部分が溶出し、未感光部分だけが残る性質をもったポジ型の感光性樹脂としては、たとえば、フェノール樹脂系やノボラック樹脂系等を用いることができる。また、感光性樹脂には、必要に応じて、増感剤、現像促進剤、密着性改質剤、塗布性改良剤等の各種添加剤を配合してもよい。
【0078】
これらの感光性樹脂を金型用基材7の研磨された表面8に塗布する際には、良好な塗膜を形成するために、適当な溶媒に希釈して塗布することが好ましい。溶媒としては、セロソルブ系溶媒、プロピレングリコール系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、高極性溶媒等を使用することができる。
【0079】
感光性樹脂溶液を塗布する方法としては、メニスカスコート、ファウンティンコート、ディップコート、回転塗布、ロール塗布、ワイヤーバー塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、およびカーテン塗布等の公知の方法を用いることができる。塗布膜の厚さは乾燥後で1〜6μmの範囲とすることが好ましい。
【0080】
〔4〕露光工程
続く露光工程では、上記エネルギースペクトルが0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内に極大値を持たないパターンを、上述した感光性樹脂膜形成工程で形成された感光性樹脂膜9上に露光する。露光工程に用いる光源は、塗布された感光性樹脂の感光波長や感度等に合わせて適宜選択すればよく、たとえば、高圧水銀灯のg線(波長:436nm)、高圧水銀灯のh線(波長:405nm)、高圧水銀灯のi線(波長:365nm)、半導体レーザー(波長:830nm、532nm、488nm、405nm等)、YAGレーザー(波長:1064nm)、KrFエキシマーレーザー(波長:248nm)、ArFエキシマーレーザー(波長:193nm)、F2エキシマーレーザー(波長:157nm)等を用いることができる。
【0081】
金型の表面凹凸形状、ひいては防眩層の表面凹凸形状を精度良く形成するためには、露光工程において、上記パターンを感光性樹脂膜上に精密に制御された状態で露光することが好ましく、具体的には、コンピュータ上でパターンを画像データとして作成し、その画像データに基づいたパターンを、コンピュータ制御されたレーザヘッドから発するレーザー光によって描画することが好ましい。レーザー描画を行なうに際しては印刷版作成用のレーザー描画装置を使用することができる。このようなレーザー描画装置としては、たとえばLaser Stream FX((株)シンク・ラボラトリー製)等が挙げられる。
【0082】
図12(c)には、感光性樹脂膜9にパターンが露光された状態を模式的に示している。感光性樹脂膜をネガ型の感光性樹脂で形成した場合には、露光された領域10は露光によって樹脂の架橋反応が進行し、後述する現像液に対する溶解性が低下する。よって、現像工程において露光されていない領域11が現像液によって溶解され、露光された領域10のみ基材表面上に残りマスクとなる。一方、感光性樹脂膜をポジ型の感光性樹脂で形成した場合には、露光された領域10は露光によって樹脂の結合が切断され、後述する現像液に対する溶解性が増加する。よって、現像工程において露光された領域10が現像液によって溶解され、露光されていない領域11のみ基材表面上に残りマスクとなる。
【0083】
〔5〕現像工程
続く現像工程においては、感光性樹脂膜9にネガ型の感光性樹脂を用いた場合には、露光されていない領域11は現像液によって溶解され、露光された領域10のみ金型用基材上に残存し、続く第1エッチング工程においてマスクとして作用する。一方、感光性樹脂膜9にポジ型の感光性樹脂を用いた場合には、露光された領域10のみ現像液によって溶解され、露光されていない領域11が金型用基材上に残存して、続く第1エッチング工程におけるマスクとして作用する。
【0084】
現像工程に用いる現像液については従来公知のものを使用することができる。たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、アンモニア水等の無機アルカリ類、エチルアミン、n−プロピルアミン等の第一アミン類、ジエチルアミン、ジ−n−ブチルアミン等の第二アミン類、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン等の第三アミン類、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルコールアミン類、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシド等の第四級アンモニウム塩、ピロール、ピペリジン等の環状アミン類等のアルカリ性水溶液;および、キシレン、トルエン等の有機溶剤等を挙げることができる。
【0085】
現像工程における現像方法については特に制限されず、浸漬現像、スプレー現像、ブラシ現像、超音波現像等の方法を用いることができる。
【0086】
図12(d)には、感光性樹脂膜9にネガ型の感光性樹脂を用いて、現像処理を行なった状態を模式的に示している。図12(c)において露光されていない領域11が現像液によって溶解され、露光された領域10のみ基材表面上に残りマスク12となる。図12(e)には、感光性樹脂膜9にポジ型の感光性樹脂を用いて、現像処理を行なった状態を模式的に示している。図12(c)において露光された領域10が現像液によって溶解され、露光されていない領域11のみ基材表面上に残りマスク12となる。
【0087】
〔6〕第1エッチング工程
続く第1エッチング工程では、上述した現像工程後に金型用基材表面上に残存した感光性樹脂膜をマスクとして用いて、主にマスクの無い箇所の金型用基材をエッチングし、研磨されためっき面に凹凸を形成する。図13は、本発明の金型の製造方法の後半部分の好ましい一例を模式的に示す図である。図13(a)には第1エッチング工程によって、主にマスクの無い箇所13の金型用基材7がエッチングされる状態を模式的に示している。マスク12の下部の金型用基材7は金型用基材表面からはエッチングされないが、エッチングの進行とともにマスクの無い箇所13からのエッチングが進行する。よって、マスク12とマスクの無い箇所13との境界付近では、マスク12の下部の金型用基材7もエッチングされる。このようなマスク12とマスクの無い箇所13との境界付近において、マスク12の下部の金型用基材7もエッチングされることを、以下ではサイドエッチングと呼ぶ。図14に、サイドエッチングの進行を模式的に示した。図14の点線14は、エッチングの進行とともに変化する金型用基材の表面を段階に示している。
【0088】
第1エッチング工程におけるエッチング処理は、通常、塩化第二鉄(FeCl3)液、塩化第二銅(CuCl2)液、アルカリエッチング液(Cu(NH34Cl2)等を用いて、金属表面を腐食させることによって行なわれるが、塩酸や硫酸などの強酸を用いることもできるし、電解めっき時と逆の電位をかけることによる逆電解エッチングを用いることもできる。エッチング処理を施した際の金型用基材に形成される凹形状は、下地金属の種類、感光性樹脂膜の種類およびエッチング手法等によって異なるため、一概にはいえないが、エッチング量が10μm以下である場合には、エッチング液に触れている金属表面から略等方的にエッチングされる。ここでいうエッチング量とは、エッチングにより削られる基材の厚みである。
【0089】
第1エッチング工程におけるエッチング量は好ましくは1〜50μmである。エッチング量が1μm未満である場合には、金属表面に凹凸形状がほとんど形成されずに、ほぼ平坦な金型となってしまうので、防眩性を示さなくなってしまう。また、エッチング量が50μmを超える場合には、金属表面に形成される凹凸形状の高低差が大きくなり、得られた金型を使用して作製した防眩フィルムを適用した画像表示装置において白ちゃけが生じる虞がある。上記〔1〕および〔2〕で表される特定の空間周波数分布を示し、かつ傾斜角度が5°以下である面を95%以上含む微細凹凸表面を有する防眩フィルムを得るために、第1エッチング工程におけるエッチング量は、好ましくは2〜10μmの範囲内、より好ましくは2〜5μmの範囲内である。第1エッチング工程におけるエッチング処理は1回のエッチング処理によって行なってもよいし、エッチング処理を2回以上に分けて行なってもよい。エッチング処理を2回以上に分けて行なう場合には、2回以上のエッチング処理におけるエッチング量の合計が上記範囲内とされることが好ましい。
【0090】
〔7〕感光性樹脂膜剥離工程
続く感光性樹脂膜剥離工程では、第1エッチング工程でマスクとして使用した残存する感光性樹脂膜を完全に溶解し除去する。感光性樹脂膜剥離工程では剥離液を用いて感光性樹脂膜を溶解する。剥離液としては、上述した現像液と同様のものを用いることができる。剥離液のpH、温度、濃度および浸漬時間等を変化させることによって、ネガ型の感光性樹脂膜を用いた場合には露光部の、ポジ型の感光性樹脂膜を用いた場合には非露光部の感光性樹脂膜を完全に溶解して除去する。感光性樹脂膜剥離工程における剥離方法についても特に制限されず、浸漬現像、スプレー現像、ブラシ現像、超音波現像等の方法を用いることができる。
【0091】
図13(b)は、感光性樹脂膜剥離工程によって、第1エッチング工程でマスク12として使用した感光性樹脂膜を完全に溶解し除去した状態を模式的に示している。感光性樹脂膜からなるマスク12を利用したエッチングによって、第1の表面凹凸形状15が金型用基材表面に形成されている。
【0092】
〔8〕第2めっき工程
続いて、形成された凹凸面(第1の表面凹凸形状15)にクロムめっきを施すことによって、表面の凹凸形状を鈍らせる。図13(c)には、第1エッチング工程のエッチング処理によって形成された第1の表面凹凸形状15にクロムめっき層16を形成することにより、第1の表面凹凸形状15よりも凹凸が鈍った表面(クロムめっきの表面17)が形成されている状態が示されている。
【0093】
クロムめっきとしては、平板やロールなどの表面に、光沢があって、硬度が高く、摩擦係数が小さく、良好な離型性を与え得るクロムめっきを採用することが好ましい。このようなクロムめっきとしては特に制限されないが、いわゆる光沢クロムめっきや装飾用クロムめっきなどと呼ばれる、良好な光沢を発現するクロムめっきを用いることが好ましい。クロムめっきは通常、電解によって行なわれ、そのめっき浴としては、無水クロム酸(CrO3)と少量の硫酸を含む水溶液が用いられる。電流密度と電解時間を調節することにより、クロムめっきの厚みを制御することができる。
【0094】
上述した特開2002−189106号公報、特開2004−45472号公報、特開2004−90187号公報などには、クロムめっきを採用することが開示されているが、金型のめっき前の下地とクロムめっきの種類によっては、めっき後に表面が荒れたり、クロムめっきによる微小なクラックが多数発生したりすることが多く、その結果、作製される防眩フィルムの光学特性が好ましくない方向へと進む。めっき表面が荒れた状態の金型は、防眩フィルムの製造用に適していない。何故ならば、一般的にざらつきを消すためにクロムめっき後にめっき表面を研磨することが行なわれているが、後述するように、本発明ではめっき後の表面の研磨が好ましくないからである。本発明では、下地金属に銅めっきまたはニッケルめっきを施すことにより、クロムめっきで生じ易いこのような不都合を解消している。
【0095】
なお、第2めっき工程において、クロムめっき以外のめっきを施すことは好ましくない。何故なら、クロム以外のめっきでは、硬度や耐摩耗性が低くなるため、金型としての耐久性が低下し、使用中に凹凸が磨り減ったり、金型が損傷したりする。そのような金型から得られた防眩フィルムでは、十分な防眩機能が得られにくい可能性が高く、また、防眩フィルム上に欠陥が発生する可能性も高くなる。
【0096】
また、上述した特開2004−90187号公報などに開示されているようなめっき後の表面研磨も、やはり好ましくない。すなわち、第2のめっき工程後に表面を研磨する工程を設けることなく、クロムめっきが施された凹凸面を、そのまま透明支持体上の樹脂層表面に転写される金型の凹凸面として用いることが好ましい。研磨することにより、最表面に平坦な部分が生じるため、光学特性の悪化を招く可能性があること、また、形状の制御因子が増えるため、再現性のよい形状制御が困難になることなどの理由による。
【0097】
このように、微細表面凹凸形状が形成された表面にクロムめっきを施すことにより、凹凸形状が鈍らせられるとともに、その表面硬度が高められた金型が得られる。この際の凹凸の鈍り具合は、下地金属の種類、第1エッチング工程より得られた凹凸のサイズと深さ、まためっきの種類や厚みなどによって異なるため、一概にはいえないが、鈍り具合を制御する上で最も大きな因子は、やはりめっき厚みである。クロムめっきの厚みが薄いと、クロムめっき加工前に得られた凹凸の表面形状を鈍らせる効果が不十分であり、その凹凸形状を転写して得られる防眩フィルムの光学特性があまり良くならない。一方で、めっき厚みが厚すぎると、生産性が悪くなるうえに、ノジュールと呼ばれる突起状のめっき欠陥が発生してしまうため好ましくない。そこで、クロムめっきの厚みは1〜10μmの範囲内であるのが好ましく、3〜6μmの範囲内であるのがより好ましい。
【0098】
当該第2めっき工程で形成されるクロムめっき層は、ビッカース硬度が800以上となるように形成されていることが好ましく、1000以上となるように形成されていることがより好ましい。クロムめっき層のビッカース硬度が800未満である場合には、金型使用時の耐久性が低下するうえに、クロムめっきで硬度が低下することはめっき処理時にめっき浴組成、電解条件などに異常が発生している可能性が高く、欠陥の発生状況についても好ましくない影響を与える可能性が高いためである。
【0099】
また、本発明の防眩フィルムを作製するための金型の製造方法においては、上述した〔7〕感光性樹脂膜剥離工程と〔8〕第2めっき工程との間に、第1エッチング工程によって形成された凹凸面をエッチング処理によって鈍らせる第2エッチング工程を含むことが好ましい。第2エッチング工程では、感光性樹脂膜をマスクとして用いた第1エッチング工程によって形成された第1の表面凹凸形状15を、エッチング処理によって鈍らせる。この第2エッチング処理によって、第1エッチング処理によって形成された第1の表面凹凸形状15における表面傾斜が急峻な部分がなくなり、得られた金型を用いて製造された防眩フィルムの光学特性が好ましい方向へと変化する。図15には、第2エッチング処理によって、金型用基材7の第1の表面凹凸形状15が鈍化し、表面傾斜が急峻な部分が鈍らされ、緩やかな表面傾斜を有する第2の表面凹凸形状18が形成された状態が示されている。
【0100】
第2エッチング工程のエッチング処理も、第1エッチング工程と同様に、通常、塩化第二鉄(FeCl3)液、塩化第二銅(CuCl2)液、アルカリエッチング液(Cu(NH34Cl2)などを用い、表面を腐食させることによって行なわれるが、塩酸や硫酸などの強酸を用いることもできるし、電解めっき時と逆の電位をかけることによる逆電解エッチングを用いることもできる。エッチング処理を施した後の凹凸の鈍り具合は、下地金属の種類、エッチング手法、および第1エッチング工程により得られた凹凸のサイズと深さなどによって異なるため、一概にはいえないが、鈍り具合を制御する上で最も大きな因子は、エッチング量である。ここでいうエッチング量も、第1エッチング工程と同様に、エッチングにより削られる基材の厚みである。エッチング量が小さいと、第1エッチング工程により得られた凹凸の表面形状を鈍らせる効果が不十分であり、その凹凸形状を転写して得られる防眩フィルムの光学特性があまり良くならない。一方で、エッチング量が大きすぎると、凹凸形状がほとんどなくなってしまい、ほぼ平坦な金型となってしまうので、防眩性を示さなくなってしまう。そこで、エッチング量は1〜50μmの範囲内とすることが好ましく、また、上記〔1〕および〔2〕で表される特定の空間周波数分布を示し、かつ傾斜角度が5°以下である面を95%以上含む微細凹凸表面を有する防眩フィルムを得るために、第2エッチング工程におけるエッチング量は、好ましくは4〜20μmの範囲内、より好ましくは8〜10μmの範囲内である。第2エッチング工程におけるエッチング処理についても、第1エッチング工程と同様に、1回のエッチング処理によって行なってもよいし、エッチング処理を2回以上に分けて行なってもよい。エッチング処理を2回以上に分けて行なう場合には、2回以上のエッチング処理におけるエッチング量の合計が上記範囲内とされることが好ましい。
【実施例】
【0101】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下の例における防眩フィルムおよび防眩フィルム製造用のパターンの評価方法は、次のとおりである。
【0102】
〔1〕防眩フィルムの表面形状の測定
三次元顕微鏡「PLμ2300」(Sensofar社製)を用いて、防眩フィルムの表面形状を測定した。サンプルの反りを防止するため、光学的に透明な粘着剤を用いて凹凸面が表面となるようにガラス基板に貼合してから、測定に供した。測定の際、対物レンズの倍率は20倍として測定を行なった。水平分解能ΔxおよびΔyはともに0.83μmであり、測定面積は425μm×425μmであった。
【0103】
(複素透過関数のエネルギースペクトルの比T12/T22およびT32/T22
上で得られた測定データから、防眩フィルムの複素透過関数を二次元関数t(x,y)として求め、得られた二次元関数t(x,y)を離散フーリエ変換して二次元関数T(fx,fy)を求めた。二次元関数T(fx,fy)を二乗してエネルギースペクトルの二次元関数T2(fx,fy)を計算し、fx=0の断面曲線であるT2(0,fy)より、空間周波数0.016μm-1におけるエネルギースペクトルT12および空間周波数0.155μm-1におけるエネルギースペクトルT22を求め、エネルギースペクトルの比T12/T22を計算した。また、空間周波数0.108μm-1におけるエネルギースペクトルT32を求め、エネルギースペクトルの比T32/T22についても計算した。
【0104】
(微細凹凸表面の傾斜角度)
上で得られた測定データをもとに、前述のアルゴリズムに基づいて計算し、凹凸面の傾斜角度のヒストグラムを作成し、そこから傾斜角度毎の分布を求め、傾斜角度が5°以下である面の割合を計算した。
【0105】
〔2〕防眩フィルムの光学特性の測定
(ヘイズ)
防眩フィルムのヘイズは、JIS K 7136に規定される方法で測定した。具体的には、この規格に準拠したヘイズメータ「HM−150型」(村上色彩技術研究所製)を用いてヘイズを測定した。防眩フィルムの反りを防止するため、光学的に透明な粘着剤を用いて凹凸面が表面となるようにガラス基板に貼合してから、測定に供した。一般的にヘイズが大きくなると、画像表示装置に適用したときに画像が暗くなり、その結果、正面コントラストが低下しやすくなる。それ故に、ヘイズは低い方が好ましい。
【0106】
〔3〕防眩フィルムの防眩性能の評価
(映り込み、白ちゃけの目視評価)
防眩フィルムの裏面からの反射を防止するために、凹凸面が表面となるように黒色アクリル樹脂板に防眩フィルムを貼合し、蛍光灯のついた明るい室内で凹凸面側から目視で観察し、蛍光灯の映り込みの有無、白ちゃけの程度を目視で評価した。映り込み、白ちゃけおよび質感は、それぞれ1から3の3段階で次の基準により評価した。
【0107】
映り込み 1:映り込みが観察されない、
2:映り込みが少し観察される、
3:映り込みが明瞭に観察される。
【0108】
白ちゃけ 1:白ちゃけが観察されない、
2:白ちゃけが少し観察される、
3:白ちゃけが明瞭に観察される。
【0109】
(ギラツキの評価)
ギラツキは、以下の方法で評価した。すなわち、市販の液晶テレビ(LC−32GH3(シャープ(株)製)から表裏両面の偏光板を剥離した。それらオリジナル偏光板の代わりに、背面側および表示面側とも、偏光板「スミカラン SRDB31E」(住友化学(株)製)を、それぞれの吸収軸がオリジナルの偏光板の吸収軸と一致するように粘着剤を介して貼合し、さらに表示面側偏光板の上には、以下の各例に示す防眩フィルムを凹凸面が表面となるように粘着剤を介して貼合した。この状態で、サンプルから約30cm離れた位置から、目視観察することにより、ギラツキの程度を7段階で官能評価した。レベル1はギラツキが全く認められない状態、レベル7はひどくギラツキが観察される状態に該当し、レベル4はごくわずかにギラツキが観察される状態である。
【0110】
(コントラストの評価)
コントラストは、以下の方法で評価した。すなわち、市販の液晶テレビ(LC−42GX1W(シャープ(株)製))から表裏両面の偏光板を剥離した。それらオリジナル偏光板の代わりに、背面側および表示面側とも、偏光板「スミカラン SRDB31E」(住友化学(株)製)を、それぞれの吸収軸がオリジナルの偏光板の吸収軸と一致するように粘着剤を介して貼合し、さらに表示面側偏光板の上には、以下の各例に示す防眩フィルムを凹凸面が表面となるように粘着剤を介して貼合した。この状態で、暗室において、サンプルから約1m離れた位置から輝度計(「BM−5A」、(株)トプコンテクノハウス製)により白表示時および黒表示時の輝度を測定することでコントラストを求めた。防眩フィルムを貼合していない、偏光板のみの状態でのコントラスト値を基準とし、これに対する防眩フィルム貼合状態時でのコントラスト値の比率で評価した。
【0111】
〔4〕防眩フィルム製造用のパターンの評価
作成したパターンデータを256階調のグレースケールの画像データとし、階調を二次元の離散関数g(x,y)で表した。離散関数g(x,y)の水平分解能ΔxおよびΔyはともに4μmとした。得られた二次元関数g(x,y)を離散フーリエ変換して、二次元関数G(fx,fy)を求めた。二次元関数G(fx,fy)を二乗してエネルギースペクトルの二次元関数G2(fx,fy)を計算し、fx=0の断面曲線であるG2(0,fy)より、空間周波数が0μm-1より大きく、かつ、絶対値が最も小さい空間周波数での極大値を求めた。
【0112】
<実施例1>
直径200mmのアルミロール(JISによるA5056)の表面に銅バラードめっきが施されたものを用意した。銅バラードめっきは、銅めっき層/薄い銀めっき層/表面銅めっき層からなるものであり、めっき層全体の厚みは、約200μmとなるように設定した。その銅めっき表面を鏡面研磨し、研磨された銅めっき表面に感光性樹脂を塗布、乾燥して感光性樹脂膜を形成した。ついで、図10に示される画像データからなるパターンの複数を連続して繰り返し並べたパターンを感光性樹脂膜上にレーザー光によって露光し、現像した。レーザー光による露光、および現像は「Laser Stream FX」((株)シンク・ラボラトリー製)を用いて行なった。感光性樹脂膜にはポジ型の感光性樹脂を使用した。
【0113】
なお、図10に示されるパターンデータは、ドット径16μmの1種類のドットを多数ランダムに配置した第1のパターンに、0.0415〜0.0765μm-1の特定の周波数領域以外を除去するバンドパスフィルターを適用して作製した。図10に示されるパターンから計算されるエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面は、図11に示されるとおりである。図10に示されるパターンは、空間周波数0.061μm-1にエネルギースペクトルの極大値を示すが、0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内には極大値を持たない。
【0114】
その後、塩化第二銅液で第1のエッチング処理を行なった。その際のエッチング量は5μmとなるように設定した。第1のエッチング処理後のロールから感光性樹脂膜を除去し、再度、塩化第二銅液で第2のエッチング処理を行なった。その際のエッチング量は8μmとなるように設定した。その後、クロムめっき加工を行ない、金型Aを作製した。このとき、クロムめっき厚みが4μmとなるように設定した。
【0115】
光硬化型樹脂組成物「GRANDIC 806T」(大日本インキ化学工業(株)製)を酢酸エチルにて溶解して、50重量%濃度の溶液とし、さらに、光重合開始剤であるルシリンTPO(BASF社製、化学名:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)を、硬化性樹脂成分100重量部あたり5重量部添加して塗布液を調製した。透明支持体である厚み80μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム上に、この塗布液を乾燥後の塗布厚みが10μmとなるように塗布し、60℃に設定した乾燥機中で3分間乾燥させた。乾燥後のフィルムを、先に得られた金型Aの凹凸面に、光硬化型樹脂組成物層が金型側となるようにゴムロールで押し付けて密着させた。この状態でTACフィルム側より、強度20mW/cm2の高圧水銀灯からの光をh線換算光量で200mJ/cm2となるように照射して、光硬化型樹脂組成物層を硬化させた。この後、TACフィルムを硬化樹脂ごと金型から剥離して、表面に凹凸を有する硬化樹脂(防眩層)とTACフィルムとの積層体からなる、透明な防眩フィルムAを作製した。防眩フィルムAの複素透過関数のエネルギースペクトルT2(fx,fy)のfx=0における断面は、図7に示されるとおりである。
【0116】
<実施例2>
レーザー光によって露光するパターンとして図16に示すパターンを用い、第1のエッチング処理のエッチング量を4μm、第2のエッチング処理のエッチング量を10μmとなるように設定したこと以外は実施例1と同様にして金型Bを得た。得られた金型Bを用いたこと以外は、実施例1と同様にして防眩フィルムBを作製した。防眩フィルムBの複素透過関数のエネルギースペクトルT2(fx,fy)のfx=0における断面を図21に示す。
【0117】
図16に示されるパターンデータは、ドット径12μmの1種類のドットを多数ランダムに配置して作製した。図16に示したパターンである画像データは9.9mm×9.9mmの大きさで、12800dpiで作成した。図16に示したパターンより得られたエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を図22に示す。図22より、図16に示したパターンのエネルギースペクトルは、空間周波数0.062μm-1にエネルギースペクトルの極大値を示すが、0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内には極大値を持たないことがわかる。
【0118】
<実施例3>
レーザー光によって露光するパターンとして図17に示すパターンを用い、第1のエッチング処理のエッチング量を4μm、第2のエッチング処理のエッチング量を10μmとなるように設定したこと以外は実施例1と同様にして金型Cを得た。得られた金型Cを用いたこと以外は、実施例1と同様にして防眩フィルムCを作製した。防眩フィルムCの複素透過関数のエネルギースペクトルT2(fx,fy)のfx=0における断面を図21に示す。
【0119】
図17に示されるパターンデータは、ドット径20μmの1種類のドットを多数ランダムに配置して作製した。図17に示したパターンである画像データは9.9mm×9.9mmの大きさで、12800dpiで作成した。図17に示したパターンより得られたエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を図22に示す。図22より、図17に示したパターンのエネルギースペクトルは、空間周波数0.041μm-1にエネルギースペクトルの極大値を示すが、0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内には極大値を持たないことがわかる。
【0120】
<実施例4>
レーザー光によって露光するパターンとして図18に示すパターンを用い、第1のエッチング処理のエッチング量を3μm、第2のエッチング処理のエッチング量を6μmとなるように設定したこと以外は実施例1と同様にして金型Dを得た。得られた金型Dを用いたこと以外は、実施例1と同様にして防眩フィルムDを作製した。防眩フィルムDの複素透過関数のエネルギースペクトルT2(fx,fy)のfx=0における断面を図21に示す。
【0121】
図18に示されるパターンデータは、ドット径12μmの1種類のドットを多数ランダムに配置して作製した。図18に示したパターンである画像データは99.2mm×99.2mmの大きさで、12800dpiで作成した。図18に示したパターンより得られたエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を図22に示す。図22より、図18に示したパターンのエネルギースペクトルは、空間周波数0.058μm-1にエネルギースペクトルの極大値を示すが、0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内には極大値を持たないことがわかる。
【0122】
<実施例5>
レーザー光によって露光するパターンとして図19に示すパターンを用い、第1のエッチング処理のエッチング量を5μm、第2のエッチング処理のエッチング量を12μmとなるように設定したこと以外は実施例1と同様にして金型Eを得た。得られた金型Eを用いたこと以外は、実施例1と同様にして防眩フィルムEを作製した。防眩フィルムEの複素透過関数のエネルギースペクトルT2(fx,fy)のfx=0における断面を図21に示す。
【0123】
図19に示されるパターンデータは、FMスクリーンによって作製した。図19に示したパターンである画像データは1mm×1mmの大きさで、6400dpiで作成した。図19に示したパターンより得られたエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を図22に示す。図22より、図19に示したパターンのエネルギースペクトルは、空間周波数0.05μm-1にエネルギースペクトルの極大値を示すが、0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内には極大値を持たないことがわかる。
【0124】
<比較例1>
レーザー光によって露光するパターンとして図20に示すパターンを用い、第1のエッチング処理のエッチング量を10μm、第2のエッチング処理のエッチング量を30μmとなるように設定したこと以外は実施例1と同様にして金型Fを得た。得られた金型Fを用いたこと以外は、実施例1と同様にして防眩フィルムFを作製した。防眩フィルムFの複素透過関数のエネルギースペクトルT2(fx,fy)のfx=0における断面を図21に示す。
【0125】
図20に示されるパターンデータは、ドット径36μmの1種類のドットを多数ランダムに配置して作製した。図20に示したパターンである画像データは20mm×20mmの大きさで、2400dpiで作成した。図20に示したパターンより得られたエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を図22に示す。図22より、図20に示したパターンのエネルギースペクトルは、空間周波数が0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内、すなわち、0.016μm-1に極大値を持つことがわかる。
【0126】
<比較例2>
直径200mmの鉄ロール(JISによるSTKM13A)の表面に銅バラードめっきが施されたものを用意した。銅バラードめっきは、銅めっき層/薄い銀めっき層/表面銅めっき層からなるものであり、めっき層全体の厚みは、約200μmとなるように設定した。その銅めっき表面を鏡面研磨し、研磨された銅めっき面に、ブラスト装置((株)不二製作所製)を用いて、ジルコニアビーズTZ−SX−17(東ソー(株)製、平均粒径:20μm)を、ブラスト圧力0.3MPa(ゲージ圧)、ビーズ使用量8g/cm2(ロールの表面積1cm2あたりの使用量)でブラストし、表面に凹凸をつけた後、塩化第二銅液でエッチング処理を行ない、得られた凹凸つき銅めっき鉄ロールにクロムめっき加工を行ない、金属金型Gを作製した。このとき、エッチング量は10μmとなるように設定し、クロムめっき厚みが6μmとなるように設定した。得られた金型Gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして防眩フィルムGを作製した。防眩フィルムGの複素透過関数のエネルギースペクトルT2(fx,fy)のfx=0における断面を図21に示す。
【0127】
得られた防眩フィルムの表面形状および光学特性の評価結果を表1に示す。
【0128】
【表1】

【0129】
表1に示されるように、本発明に係る実施例1〜3および5の防眩フィルムA〜CおよびEは、十分なギラツキ抑制能および十分な防眩性(映り込み防止能)を示し、白ちゃけも発生せず、また正面コントラストの低下を引き起こすこともなかった。実施例4の防眩フィルムDは、本発明の要件を満たしており、十分なギラツキ抑制能および防眩性を示したが、第1のエッチング処理で形成された凹凸形状に対して、第2のエッチング処理のエッチング量が少なかったために十分に傾斜角度を低減できず、傾斜角度が5°以下である面の割合が95%を下回っているため、白ちゃけがわずかに観察された。エネルギースペクトルが0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内に極大値を持つパターンを用いて作成された比較例1の防眩フィルムFは、エネルギースペクトルの比T12/T22が6000を超えているため、ギラツキが発生していた。また、所定のパターンを用いずに作成した比較例2の防眩フィルムGは、エネルギースペクトルの比T32/T22が3未満であるため、十分な防眩性(映り込み防止能)を示さなかった。
【0130】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0131】
1 防眩フィルム、2 微細凹凸表面を構成する凹凸、3 防眩フィルムの投影面、4 防眩フィルムの主法線方向、6 凹凸を加味した局所的な法線、6a〜6d ポリゴン面の法線ベクトル、ψ 表面傾斜角度、7 金型用基材、8 研磨工程によって研磨された基材の表面、9 感光性樹脂膜、10 露光工程において露光された感光性樹脂膜、11 露光工程において露光されない感光性樹脂膜、12 マスク、13 マスクの無い箇所、14 エッチングによって段階的に形成される表面、15 第1エッチング工程後の基材表面(第1の表面凹凸形状)、16 クロムめっき層、17 クロムめっきの表面、18 第2エッチング工程後の基材表面(第2の表面凹凸形状)、22 防眩層の表層に透明支持体側から垂直に入射する光、23 防眩層の表層の視認側(微細凹凸表面側)から出射する光、24 微細凹凸表面の最低点の高さを有する仮想的な平面、25 微細凹凸表面の最高点の高さを有する仮想的な平面、101 透明支持体、102 防眩層、103 微細凹凸表面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明支持体と、前記透明支持体上に積層された、凹凸表面を有する防眩層とを備える防眩フィルムであって、
空間周波数0.016μm-1における前記防眩フィルムの複素透過関数のエネルギースペクトルT12と、空間周波数0.155μm-1における前記防眩フィルムの複素透過関数のエネルギースペクトルT22との比T12/T22が6000以下であり、
空間周波数0.108μm-1における前記防眩フィルムの複素透過関数のエネルギースペクトルT32と、空間周波数0.155μm-1における前記防眩フィルムの複素透過関数のエネルギースペクトルT22との比T32/T22が3以上20以下である防眩フィルム。
【請求項2】
前記凹凸表面は、傾斜角度が5°以下である面を95%以上含む請求項1に記載の防眩フィルム。
【請求項3】
前記防眩層は、平均粒径が0.4μm以上の微粒子を含まない請求項1または2に記載の防眩フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の防眩フィルムを製造する方法であって、
0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内に極大値を持たないエネルギースペクトルを示すパターンを用いて前記凹凸表面が形成される防眩フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記パターンを用いて、凹凸面を有する金型を作製する工程と、
前記透明支持体上に形成された樹脂層の表面に、前記金型の凹凸面を転写する工程を含む請求項4に記載の防眩フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の金型を製造する方法であって、
金型用基材の表面に銅めっきまたはニッケルめっきを施す第1めっき工程と、
第1めっき工程によってめっきが施された表面を研磨する研磨工程と、
研磨された面に感光性樹脂膜を形成する感光性樹脂膜形成工程と、
感光性樹脂膜上に前記パターンを露光する露光工程と、
前記パターンが露光された感光性樹脂膜を現像する現像工程と、
現像された感光性樹脂膜をマスクとして用いてエッチング処理を行ない、研磨されためっき面に凹凸を形成する第1エッチング工程と、
感光性樹脂膜を剥離する感光性樹脂膜剥離工程と、
形成された凹凸面にクロムめっきを施す第2めっき工程と、
を含む、金型の製造方法。
【請求項7】
前記感光性樹脂膜剥離工程と前記第2めっき工程との間に、形成された凹凸面の凹凸形状をエッチング処理によって鈍らせる第2エッチング工程を含む、請求項6に記載の金型の製造方法。
【請求項8】
前記第2めっき工程において形成されるクロムめっきが施された凹凸面が、前記樹脂層の表面に転写される金型の凹凸面である、請求項6または7に記載の金型の製造方法。
【請求項9】
前記第2めっき工程におけるクロムめっきにより形成されるクロムめっき層が1〜10μmの厚みを有する、請求項6〜8のいずれかに記載の金型の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図21】
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【図22】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−47982(P2011−47982A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194001(P2009−194001)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】