説明

防錆鋼板およびその製造方法

【課題】スポット溶接性と耐食性に優れた防錆鋼板とその製造方法を提供する。
【解決手段】有機系及び/又は無機系の被覆層を少なくとも片面に有する。そして、スポット溶接を施す部分の前記被覆層の厚みを、スポット溶接を施さない部分の厚みより薄くする。好ましくは、スポット溶接を施す部分の前記被覆層の厚みは2.5μm以下である。このように、スポット溶接部の被覆層の厚みを薄くすることで、溶接部の電気抵抗が十分に低下し、健全な溶接部を形成することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接性に優れる有機系及び/又は無機系の被覆層を有する防錆鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の防錆能力は非常に重要な要求特性となってきている。古くは1970年台に道路の凍結防止を目的に融雪剤(塩類)の使用が始まり、自動車の腐食問題が大きくクローズアップされた。また、最近は自動車寿命が長くなり、錆びを抑制しなければならない期間も延びてきている。
このような事情から、さまざまな防錆鋼板が開発されてきており、現在、耐食性を向上させる方法は、鋼板に亜鉛系めっきを施す方法と、鋼板表面を有機系被膜で被覆する方法に大別される。
【0003】
自動車製造工程では、鋼板を複雑な形状に形成し組み立てた後に塗装工程に移るため、複雑形状部の内側には塗装が回りこみにくいという問題がある。上記の亜鉛系めっきを施す方法では塗装が回りこみにくい内側部分の耐食性確保が十分でないという問題がある。
鋼板表面に有機系被覆を施す方法としては、例えば、特許文献1が挙げられる。特許文献1には、亜鉛粉末含有塗料を10〜20μmの膜厚で鋼板表面に形成させた防錆鋼板が開示されている。その他にも、Zn-Ni合金めっき鋼板上にクロメート被覆を有しその上に1μm程度の有機系被覆層を有した鋼板、Znめっき上にクロメート被覆を有しその上に亜鉛粉末などの導電性金属粉を含有させた4〜7μm程度の有機被覆層を有した鋼板などが挙げられる。
しかしながら、特許文献1などの防錆鋼板では、スポット溶接性付与を目的として有機被覆層に亜鉛粉末を含有させているため、スポット溶接は可能となるものの、亜鉛粉末が有機被覆層に分散し有機被覆層の強度が低下し、プレス形成時に激しい被膜剥離が生じたり、これがプレス金型に蓄積してプレス欠陥となったりする。その剥離した部分では耐食性が低下してしまう。また、スポット溶接性は可能であっても十分良好なレベルまで達しておらず、溶接性を向上させるために金属粉末の含有率をさらに上げると被膜剥離がより一層激しくなってしまう。
【0004】
一方で、自動車製造コスト削減のニーズより、化成処理、電着塗装などの塗装下地処理コストの低減が重要な検討項目となってきている。自動車の製造プロセスは、概略、鋼板を必要なサイズにせん断後、ブランキング、プレス、組み立て(溶接)、化成処理(塗装下地処理)、電着塗装、中塗り塗装および上塗り塗装からなっている。この中で、自動車製造コストの削減を考えた場合、塗膜厚みの削減、製造工程省略が挙げられる。また、解決策の一つとして、部品などに加工する前の板の状態で塗装を行った防錆鋼板(最終の上塗りまでではなくても、途中の塗装工程、例えば、塗装鋼板に中塗り、上塗りを実施して使用するような材料)の使用が有用である。
【0005】
以上のように、有機系の塗装を行った鋼板にスポット溶接を実施しようとすると、有機塗膜が厚いと溶接ができない、塗膜が薄いと十分な耐食性が得られないという問題がある。塗膜が厚くても溶接が出来るように金属などの電気伝導物質を有機塗膜中に添加すると、加工により塗膜自体が脱離してしまい、プレス欠陥や耐食性低下が起きてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭47−6882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、耐食性を向上させるため鋼板に有機系被膜を被覆しようとすると、スポット溶接性が大きく低下してしまう。また、スポット溶接性を確保しようと、有機系被膜に導電性微粒子を添加すると、加工により被膜が脱離する。また、プレス欠陥や被膜脱離により耐食性が低下してしまう。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑み、スポット溶接性と耐食性に優れた防錆鋼板およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが、課題解決のため鋭意検討した結果、以下の知見を得た。
本発明者らは、スポット溶接性と耐食性を両立し、実用性を満足する防錆鋼板の検討を行った。その結果、スポット溶接が行われる部分の有機系被覆層の厚みを制御することにより所望の特性を付与できることを見出した。
【0010】
本発明は、以上の知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
[1]有機系及び/又は無機系の被覆層を少なくとも片面に有する防錆処理を施す鋼板であって、前記鋼板のスポット溶接を施す部分の前記被覆層の厚みは、スポット溶接を施さない部分の厚みより薄いことを特徴とする防錆鋼板。
[2]前記[1]において、スポット溶接を施す部分の前記被覆層の厚みが2.5μm以下であることを特徴とする防錆鋼板。
[3]前記[1]または[2]において、スポット溶接を施す部分は前記被覆層を有しないことを特徴とする防錆鋼板。
[4]前記「1」〜[3]のいずれかに記載のスポット溶接を施す部分の面積は、スポット溶接における電極表面積の25%以上であることを特徴とする防錆鋼板。
[5]鋼板のユーザーよりスポット溶接位置の情報を得、次いで、前記情報をもとにスポット溶接を施す部分の有機系及び/又は無機系の被覆層の厚みを制御することを特徴とする防錆鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、スポット溶接性と耐食性に優れた防錆鋼板が得られる。その結果、化成処理ならびに電着工程の省略、電着塗装の膜厚低減がはかれることになる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の防錆鋼板について詳細に説明する。
本発明の防錆鋼板の原板としては、例えば、冷延鋼板や冷延鋼板に亜鉛系めっきを施しためっき鋼板等を用いることができる。
本発明では、上記原板の少なくとも片面に、有機系及び/又は無機系の被覆層を有する。例えば、有機系被覆層は有機系樹脂を鋼板表面に塗布することで得られる。防錆鋼板の少なくとも片面に塗布される有機系樹脂としては、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、ポリヒドロキシポリエーテル樹脂、ポリアルキレングリコール変性エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、及びこれらをさらに変性させた樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、アクリル樹脂から1種または2種以上選ばれることが適当である。特に、耐食性の観点からエポキシ系樹脂をベースとして、これに加工性を向上させることを狙いとして分子量を適宜最適化したものや樹脂の一部にウレタンやポリエステル,アミンなどの変性を加えたものが好ましいが、これに限定されるものではない。また、このような有機系樹脂は通常、防錆性能を向上させる防錆添加剤など、種々の添加成分(潤滑剤、電導性付与物)が加えられて、塗料として使用されているが、これらの添加剤の成分に関しても特に制限されるものではない。
また、有機系及び/又は無機系の被覆層の下層として、原板上に金属めっきが施されていてもよい。このような金属めっきとしては、亜鉛めっき、亜鉛系合金めっき(Zn-Ni合金めっき、Zn-Fe合金めっき、Zn-Mn合金めっき、Zn-Mg合金めっき、Zn-Al−Mg系合金めっき、Zn-Al合金めっきなど)、Alめっき、Al系合金めっき等が挙げられるが、これに限られるものではない。さらに、本発明の防錆鋼板は、クロメート処理、クロメートフリー処理及び/又はリン酸塩処理が施されていてもよい。
なお、防錆鋼板の少なくとも片面に有する被覆層は有機系であっても無機系であってもよいが、以下では、有機系の樹脂を例にとって説明する。
【0013】
本発明では上記有機系の樹脂を鋼板表面に被覆するにあたって、その厚みを全面に均一ではなく、スポット溶接を施す部分の厚みを、スポット溶接を施さない部分の厚みより薄くする。これは本発明において最も重要な要件であり、下記の理由により、スポット溶接を施す部分の有機系樹脂層の厚みを薄くすることでスポット溶接性が向上する。なお、スポット溶接を施す部分とは、本発明の防錆鋼板が、鋼板ユーザーで自動車車体等の部材となるように切断、成型あるいは組み立てなどの加工を受ける工程において、溶接される部分を言う。最終成型品の溶接位置から、切断される時点の鋼板で溶接を施される位置が予め予見できるため、事前にコイル状態での切断位置情報を鋼板ユーザーから入手し、鋼板に有機樹脂被覆を行う際に、被覆厚さを薄くすることが可能となる。スポット溶接に用いられる電極は通常先端断面が円形の棒状であり、その先端径は代表的には6mm程度である。
【0014】
スポット溶接は電極より電流を流し、その時、発生する熱で鋼板を溶融させて溶接を行う技術である。ここで、有機系被覆層の厚み(有機樹脂の塗膜厚)がある厚みを超えると被膜による電気抵抗が大きくなりすぎ、通電が出来なくなる。通電するためにはスポット溶接時の溶接電流を大きくしていくことが必要になるが、発熱量が大きくなるため、電極の消耗が激しくなり、電極寿命が大きく低下する結果となってしまう。また、溶接時にチリと呼ばれる溶融金属が周辺に飛び、鋼板に再付着する現象が現れ、外板パネルに使用されると外観を損なうこととなる。そのため、通電のみの観点からは、スポット溶接を施す部分は有機系被覆を設けないこと、または溶接電流を大きくせず、適正な電流で溶接が可能なように膜厚を制御することが最も好ましい。そこで、スポット溶接部の有機系被覆層はできるだけ薄くし、好ましくは限界点以下とする。この限界点は溶接条件に依存し変化するが、通常行われる範囲内で溶接を行った場合、2.5μmを超えると溶接性が大きく低下するため、2.5μm以下であることが好ましい。より好ましくは1.5μm以下である。なお、この被覆層の厚みは片面あたりの膜厚である。
【0015】
なお、本発明の防錆鋼板は少なくとも片面のスポット溶接を施す部分の被覆層の厚みが、スポット溶接を施さない部分の厚みより薄ければよく、両面がこの条件を満たしていてもよい。また、両面が上記条件を満たす場合、スポット溶接を施す部分(溶接部)の被覆層の厚み、スポット溶接を施さない部分(一般部)の厚みはそれぞれ両面で同一であっても、異なっていてもよい。さらに、本発明の防錆鋼板がスポット溶接で接合される相手は、本発明の防錆鋼板、通常の防錆鋼板、各種めっき鋼板、冷延鋼板、熱延鋼板などを適用でき、特に限定するものではない。
【0016】
さらに、上述したように、スポット溶接を施す部分の有機系被覆層の厚みを、スポット溶接を施さない部分の厚みよりも薄くする目的は、スポット溶接時に発生する熱で鋼板を溶接するのに充分な通電性を確保するためである。この観点から有機系被覆層の厚みを制御する部分の面積について検討したところ、該面積は、スポット溶接における電極が鋼板と接触する部分の接触面積(以下、電極表面積と称す)の25%以上であれば、溶接時の通電が十分となり、溶接性が改善されることがわかった。該面積がスポット溶接の電極表面積の25%未満では塗膜による電気抵抗が十分に低下できず、健全な溶接部が形成できない場合がある。以上より、有機系被覆層の厚みを軽減するスポット溶接を施す部分、もしくは、有機系被覆層を有しないスポット溶接を施す部分の面積は、好ましくはスポット溶接の電極表面積の25%以上とする。また、耐食性の観点よりこのような有機系被覆層の厚みを軽減するスポット溶接を施す部分、もしくは、有機系被覆層を有しないスポット溶接を施す部分の面積は狭いほうがよく、電極表面積は400%以下が好ましい。
【0017】
防錆鋼板にスポット溶接を施す位置は、使途に応じて適宜決定される。ゆえに、スポット溶接部分の塗膜厚を制御するにあたっては、事前に、鋼板のユーザーよりスポット溶接に関する情報を得、その情報をもとにスポット溶接を施す部分の有機系被覆層の厚みを制御することが必要である。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施例について説明する。
防錆鋼板の原板としてめっき鋼板を用いた。めっき鋼板としては、片面あたりの付着量が40〜45g/m2の合金化溶融亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっきの3種を用いた。これら3種のめっき鋼板に対して、有機系塗料としエポキシ系塗料を用い3基のロールコーターを使用して塗装した。まず、ピックアップロールですくい上げた塗料をメターリングロールで必要量に調整し(塗装したい厚みに依存)、アプリケーションロールで鋼板に塗装する方法により、種々の塗膜厚の塗装を両面に施した。なお、スポット溶接部にあたる有機系被覆層の厚みの制御は、アプリケーションロールにおいて、塗装部に対応する箇所は凹に、塗装を薄くする部分に対応する箇所は凸に表面加工を施し、凹凸部の深さで膜厚差の調整することで行った。スポット溶接を行う部分を想定した塗装を薄くする部分はアプリケーションロールに、直径6mm高さ0.2〜1mmの凸部を形成して樹脂を被覆した。また、スポット溶接部に塗装を行わない場合は、アプリケーションロールに直径6mm、深さ5mmの凹部を形成して被覆を行った。
実施例1〜24および比較例は表裏面の塗膜厚を同一とした。実施例25〜27は表裏面で溶接部の塗膜厚を変化させた。
次いで、同種のめっき鋼板2枚を重ね合わせ、スポット溶接を行い、サンプルを作製した。スポット溶接はドーム型電極(先端径6mmφ−40mmR)、加圧力200kgf、通電時間12サイクル/60Hzにて行った。スポット溶接時に2枚重ねの外側となる電極と接する側を電極当接側、2枚重ねの内側となる側を電極非当接側と称する。
【0019】
得られたサンプルに対し、スポット溶接部およびスポット溶接部以外の部分(一般部)の塗膜厚、面積率を測定すると共に、以下の方法にて耐食性、溶接性を調査した。
なお、塗膜厚は電磁式膜厚計、ならびに塗膜断面のSEM観察により行った。また、面積率は塗膜断面のSEM観察により低膜厚(薄被覆)部長さを測定することにより求めた。
【0020】
耐食性
一方の面および端面部をシールした試験片をJIS Z 2371-2000中性塩水噴霧試験に準拠した塩水噴霧試験に供して720時間後の赤錆発生面積率で評価を行った。
○:赤錆発生面積率5%以下
○−:赤錆発生面積率5%超え25%以下
△:赤錆発生面積率25%超え75%以下
×:赤錆発生面積率75%超え〜全面
スポット溶接性
溶接ナゲット径で評価した。
○:溶接ナゲット径が4√t以上形成
△:溶接ナゲット径が4√t未満形成
×:形成できず
なお、tは板厚(mm)である。
得られた結果を条件と併せて表1および表2に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
以上より、本発明例では、溶接性と耐食性のいずれも優れていることがわかる。一方、比較例では、溶接性もしくは耐食性のいずれか一つ以上が劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の防錆鋼板は、耐食性に加え、溶接性に優れるため、自動車部品や自動車車体(交換用補修部品も含む)等に好適な素材である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機系及び/又は無機系の被覆層を少なくとも片面に有する防錆処理を施す鋼板であって、前記鋼板のスポット溶接を施す部分の前記被覆層の厚みは、スポット溶接を施さない部分の厚みより薄いことを特徴とする防錆鋼板。
【請求項2】
スポット溶接を施す部分の前記被覆層の厚みが2.5μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の防錆鋼板。
【請求項3】
スポット溶接を施す部分は前記被覆層を有しないことを特徴とする請求項1または2に記載の防錆鋼板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のスポット溶接を施す部分の面積は、スポット溶接における電極表面積の25%以上であることを特徴とする防錆鋼板。
【請求項5】
鋼板のユーザーよりスポット溶接位置の情報を得、次いで、前記情報をもとにスポット溶接を施す部分の有機系及び/又は無機系の被覆層の厚みを制御することを特徴とする防錆鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2010−100936(P2010−100936A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218776(P2009−218776)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】