説明

除菌シート

【課題】除菌シートについて、感染性の病原体を確実に捕捉して不活化することができ、且つ、実用的なものとする。
【解決手段】高吸水性樹脂を有する除菌シートにおいて、高吸水性樹脂のドット21を不織布20に所定パターンで表面コートした樹脂コーティングシート2Aが、強酸性電解水に浸漬されて高吸水性樹脂が強酸性電解水で膨潤してゲル化したドット21’とされてなる除菌シート1Aとした、ことを特徴とするものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌やウイルス等の病原体を除去するための除菌シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、交通手段の発達や都市部の人口密集等、種々の原因によりインフルエンザに代表される伝染性ウイルス疾患が周期的に大流行する傾向にある。これら従来から知られている疾患に加え、鳥インフルエンザやSURS(重症急性呼吸器症候群)等、感染性が強く致死率の高い新たなウイルス疾患も複数出現しており、国内における防疫体制の整備が望まれている。また、多剤抵抗性を示すMRSAやO−157等の細菌も施設内感染の原因菌として問題となっており、抵抗力の弱い老人や病人への感染を防止するための有効な手段が求められている。
【0003】
例えば、空気感染しやすい病原性疾患の予防には、外出時や医療施設内等においてマスクを着用することが有効とされている。しかし、通常のマスクでは極めてサイズの小さなウイルス等の病原体を捕捉して完全に吸引を阻止することが困難であり、また、捕捉性能を高めるために濾材の目を細かくしたり濾材を多数枚重ねたりすると通気性を損なって息苦しいものとなる。さらに、マスクで病原体を捕捉してもマスク内で病原体が不活化されなければ、これが新たな感染源となる可能性もある。
【0004】
この問題に対し、実開平6−58955号公報には、マスク地の布帛を構成する繊維に高吸水性樹脂を使用し、呼気の水分を利用してマスク内を高い湿潤状態に保つことにより、微粒子に対する吸着力を高めて捕捉能を強化したものが提案されている。また、特開平11−332962号公報には光触媒からなるフィルタをマスクに設けて、捕捉した微生物を触媒作用で分解するものが提案されている。
【0005】
しかし、前者のマスクは、呼気による水分のみでは高吸水性樹脂を充分に膨潤させることが困難であるため吸着力の向上は僅かなものであり、且つ、吸着した微生物がマスク内で増殖してしまう畏れもある。後者のマスクでは光触媒作用により微生物を分解・消毒できるものの、触媒作用を発揮させるために光源を必要として装置が大掛かりとなって実用的ではなく、また微生物の捕捉能も充分なものではない。
【0006】
一方、特開平1−180293号公報等に記載されているように、水道水やこれに食塩や塩化カリウムを添加したものを電気分解して得た強酸性電解水の殺菌・ウイルス不活化作用を利用する技術が知られている。強酸性電解水は、次亜塩素酸を含んでpH1.2〜3.2程度の酸性を示すものであり、比較的簡単に作成されて強力な殺菌能を発揮することに加え、比較的短時間で通常の水に戻るため、人体への害を殆ど伴うことがなく、しかも耐性菌の発生がない点で有用とされている。
【0007】
そこで、特開2000−239993号公報や特開2000−342665号公報等に見られるように、強酸性電解水を不織布等のシートに含ませて殺菌・除菌効果を付与した払拭体が提案され、病人の清拭や施設内の除菌に利用されるようになっている。殊に、前者のものは空気に触れたり光線に曝されたりすることで容易に劣化する強酸性電解水を、払拭体に含ませてから遮光性密閉袋内に収納することで、その乾燥と劣化を防止するものとしている。しかしながら、払拭体として使用する場合は比較的短時間で乾燥しやすく、乾燥するにつれて殺菌・除菌能が著しく低下するため、比較的短時間の使用にしか適用性がなく実用性の低いところが難点である。
【特許文献1】実開平6−58955号公報
【特許文献2】特開平11−332962号公報
【特許文献3】特開平1−180293号公報
【特許文献4】特開2000−239993号公報
【特許文献5】特開2000−342665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであり、除菌シートについて、感染性の病原体を確実に捕捉して不活化することができ、且つ実用的なものとすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明は、高吸水性樹脂を有する除菌シートにおいて、高吸水性樹脂を所定パターンで表面コートした不織布が、強酸性電解水に浸漬されて高吸水性樹脂が強酸性電解水で膨潤してゲル化したことを特徴とするものとした。
【0010】
除菌シートをこのような構成とすることにより、高吸水性樹脂が強酸性電解水でゲル化して微生物の吸着・捕捉能に優れるようになるとともに、吸着した微生物を強酸性電解水で瞬時に殺菌又は不活化して、優れた除菌能を発揮するものとなり、且つ、強酸性電解水を高吸水性樹脂で保持して長時間に亘ってその機能を発揮できるものとなる。
【0011】
また、その強酸性電解水は次亜塩素酸を含有してpH2.9以下であるものとすれば、不織布及び高吸水性樹脂の耐久性を確保しながら細菌やウイルス等の除菌・消毒能に優れた除菌シートとなる。さらに、上述した除菌シートにおいて、その高吸水性樹脂によるコーティングは高吸水性樹脂で膨潤した状態で不織布の表面を総て覆わないパターンでコートされたものとすれば、通気性を備えるとともに払拭性に優れたものとなり、そのコーティングパターンはドットコーティングであるものとすれば、高吸水性樹脂が強酸性電解水で膨潤しても不織布が表面に露出する部分を均一に確保しやすいものとなる。
【0012】
さらにまた、このドットコーティングした除菌シートにおいて、高吸水性樹脂のドット間の距離がドットの直径以上を有するように設けられたものとすれば、通気性や払拭性に一層優れたものとなる。
【0013】
加えて、上述した除菌シートにおいて、高吸水性樹脂をコートした側に、さらに1枚の不織布が密着して設けられ、2枚の不織布間に高吸水性樹脂を挟み込んだ状態で1枚とされて、強酸性電解水に浸漬してなることを特徴とするものとすれば、強酸性電解水を含んだ高吸水性樹脂が一層乾燥しにくいものとなる。
【0014】
さらに加えて、上述した除菌シートは表面の汚れた対象物を払拭して清浄にするための払拭材であるものとすれば、水分を含んで払拭しやすく除菌・消毒能力に優れることに加え比較的長時間の使用に耐えるものとなり、或いは、上述した除菌シートはマスクに付設して病原体を捕捉するためのフィルタ材であるものとすれば、膨潤してゲル化した高吸水性樹脂による粘着力で空気中微生物の捕捉能・不活化能に優れたものとなって高い防疫性を発揮するものとなり、且つ、強酸性電解水は他の消毒剤と比べて人体への悪影響が少ないことから極めて安全性に優れたものとなる。
【発明の効果】
【0015】
不織布シート表面に強酸性電解水を含んだ高吸水性樹脂を所定パターンで設けた本発明によると、払拭材やフィルタ材として用いた場合に感染性を有する病原体を確実に除去できるとともに、捕捉した病原体を確実に不活化することができ、しかも高吸水性樹脂により強酸性電解水が乾燥しにくく長時間の使用に耐える実用的な除菌シートを提供できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態を説明する。尚、本発明において、高吸水性樹脂とは水と接触することにより吸水・膨張してゲル化する高分子化合物を指し、ドットコーティングとは対象物表面に略均一の大きさのドットを播種状または整列状態で略均一に印刷または塗装して設けることを指し、そのドットには輪郭が完全な円形のドット形状以外にも、高吸水性樹脂が膨潤することにより略円形となるような多角形等の形状も含むものとする。また、強酸性電解水とは塩素イオンを含む水を電気分解することにより電解電極のプラス側にできるpH3.2以下の強酸性を示す陽極水を指す。さらに、除菌には細菌を除くことの他にウイルス等の細菌以外の微生物を除くことも含むものとする。さらにまた、本発明におけるpHは、少なくともpH標準液で2点校正され少数第2位まで表示可能なpH測定器による測定結果によるものとし、実際には、PH72パーソナルpH/ORPメータ(横川社製)で測定したものである。
【0017】
本発明における第1の実施の形態である除菌シート1Aは、図1(A)に示す不織布20の表面に高吸水性樹脂のドット21,21,21,・・・が互いにほぼ等距離となるように整列した略均一の配置パターンでコートしてなる樹脂コーティングシート2Aを、強酸性電解水に所定時間浸漬し高吸水性樹脂の各ドット21に吸水・膨潤させてなるものであり、図1(B)の拡大部分図に示すように各ドット21が最大限に吸水して膨潤した状態において、不織布20の表面の総てを覆わないものとしている。
【0018】
不織布20表面に高吸水性樹脂をドットコーティングする手段としては、加熱溶融または溶剤に溶かして液状とした高吸水性樹脂を所定のコーティング装置・器具を用いて所定パターンでコーティングする等、種々の手段が利用可能である。そして、樹脂コーティングシート2Aの拡大した部分縦断面図である図2(A)を参照して、高吸水性樹脂のドット21を、例えば直径0.5mm、厚さ0.2mm程度とした場合に、各ドット21のピッチ(ドットの中心同士の距離)を1mm以上とし、ドット21,21間の距離を0.5mm以上、即ちドット21の直径以上確保することにより、図2(B)に示す強酸性電解水でゲル化した除菌シート1Aとした状態でも、不織布20表面において高吸水性樹脂に覆われない露出部分を確保できるものとなる。
【0019】
除菌シート1Aをこのような構成とすることにより、払拭材として使用する場合にドット21,21で形成される隙間部分で汚れを捕捉してスムースな払拭を実現しやすいものとなる。また、除菌シート1Aをマスク付設のフィルタ材として使用する場合は、ドットの直径を例えば0.5mmとした場合には、そのドット間の距離をドット径の3倍程度、ピッチ2.0〜3.0mm程度を確保すればドット同士が接合することがなくなり、充分な通気性を確保することができる。
【0020】
高吸水性樹脂をコートした樹脂コーティングシート2Aを浸漬するための強酸性電解水は、次亜塩素酸を含有してpH2.9以下の強酸性を示すものが、不織布及び高吸水性樹脂の耐久性を確保及び殺菌力・ウイルスの不活化力の観点から好ましい。これは、強酸性電解水のpHを段階的に変化させながら殺菌能を試験した結果、pH2.9以下で顕著に殺菌能が高まったことによるものである。この強酸性電解水は、塩素イオンを含有する水道水、または水道水や水に所定の塩素イオンを添加したものを電気分解することでその陽極側で得られ、これに樹脂コーティングシート2Aを20秒程度浸漬することで高吸水性樹脂のドット21部分が充分に膨潤・ゲル化した除菌シート1Aが得られる。
【0021】
また、高吸水性樹脂の不織布20へのコーティングパターンとしては、図3に示すように高吸水性樹脂を網目模様としてコートする等、ドット以外のパターンであっても膨潤時に不織布シート20表面を総て覆わず適度な水分保持時間を確保できるものであれば、上記とほぼ同様の作用・効果が期待できる。
【0022】
図4(B)は、本発明における第2の実施の形態の除菌シート1Bの拡大した部分断面図を示している。除菌シート1Bは、前述した樹脂コーティングシート2Aの高吸水性樹脂をコーティングした側に、さらに不織布20を貼り付けてなる樹脂コーティングシート2Bを強酸性電解水に浸漬してなるものである。
【0023】
この場合、高吸水性樹脂が接着剤を兼ねて2枚の不織布20,20間で高吸水性樹脂のドット23,23,・・・を挟み込んで1枚のシートとされ、ドット23,23,・・・が強酸性電解水で膨潤してドット23’,23’,・・・となっている。このような構成とすることで、除菌シート1Bは、より乾燥に強いものとなって、使用できる時間が一層長いものとなる。尚、この場合も上記同様に高吸水性樹脂のパターンは略円形のドットを均一に配置したものに限定されるものではなく、網目模様など適宜なパターンを選択することができる。
【0024】
尚、第1の実施の形態の除菌シート1A及び第2の実施の形態の除菌シート1Bに共通して、図5に示すように、その保存性を確保するために入口41側にシールチャック42等の閉鎖手段を設けて内部をほぼ気・液密状態で保存できるものとした気密袋40に、強酸性電解水で濡れた除菌シート1A等を入れて入口41を閉鎖した状態で保存することが、乾燥を防ぐ観点で好ましい。さらに、強酸性電解水は光で分解して機能を失いやすいため、気密袋40にアルミ蒸着等の遮光処理を施すことにより、一層保存性を高めることが可能となる。
【0025】
また、払拭材として使用する場合等において、ウエットティッシュの保存ケースと同様の保湿性・遮光性に優れたケースに入れて、取出し口を閉鎖するか開口部を最小限に絞るようにしても、乾燥を遅らせることが可能となって除菌力等の機能を比較的長く維持することができるものとなる。
【0026】
そして、上述した除菌シート1A,1Bを、除菌用の払拭材や身体清拭用の払拭材として使用する場合は、細菌やウイルスで汚れた対象を払拭して清浄化する目的に適するものとして、強酸性電解水の水分と高吸水性樹脂の粘着性とで払拭能に優れることに加え、捕捉した細菌やウイルス等の病原性微生物を強酸性電解水で瞬時に殺菌又は不活化させることができることから、除菌能に優れたものとなる。
【0027】
一方、上述した除菌シート1Aまたは1Bを、マスク付設のフィルタ材として使用する場合は、図6に示すようにマスクを構成するガーゼ51,51の間に挟み込むことにより抗菌マスク50となる。この場合、除菌シートは高吸水性樹脂のコーティングにより不織布の樹脂コート面が高吸水性樹脂で総て覆われずに露出部分を適度に有していることでフィルタ材としての通気性を確保しており、また、ゲル状となった高吸水性樹脂の粘着性で微粒子、殊に、空気中に浮遊する細菌やウイルス等の病原性微生物の捕捉能に優れたものとなる。
【0028】
さらに、この場合も捕捉した病原性微生物を強酸性電解水で瞬時に殺菌または不活化することができるため、抗菌マスク50が感染源となる畏れが殆どなく、極めて防疫性能に優れたものとなっている。尚、抗菌マスク50中に除菌シートを挟んで使用することで、呼気に含まれる水分が常に供給されて除菌シートが乾燥しにくいものとなり、比較的長時間の使用に耐えるものとなる。
【0029】
以下に、実施例により本発明の除菌シートの機能についてさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0030】
前述した第2の実施の形態の除菌シート1Bと同様の除菌シートを作成して、試験1:除菌能(抗菌性)、試験2:微粒子捕捉能(吸着性)、試験3:水分保持能(耐乾燥性)について試験することにより、本発明の除菌シートの実用性の有無について検証した。尚、以下の試験において重量測定は、電子天秤(製品名:パーソナル電子天秤、型式:EW−60G、エー・アンド・ディ社製:グラム単位で小数第2位まで表示)を用いた。
【0031】
(試料の準備)
試料1:不織布
不織布(PET繊維をスパンボンド法により30g/mの不織布としたもの、製品名;ELTUS、品番:E1025、旭化成社製)を9.0cm×6.5cmにカットしたものを2枚重ねにして1枚の不織布とした(重量0.34g)。
試料2:樹脂コーティングシート
試料1において9.0cm×6.5cmにカットした不織布の片面に、高吸水性樹脂(熱可塑性ノニオン型吸水性樹脂、製品名;アクアコーク、登録商標、住友精化社製)/共重合ナイロン(熱可塑性)=95/5(重量部)の割合として加熱・溶融させたものをT―ダイ(口金)を用いた押し出しラミネートでドットコーティング(図1(A)と同様のパターンで、ドット径約0.5mm、17ドット/インチ=ピッチ約1.5mm、塗布量30g/m)し、樹脂が固化する前に同じ不織布で挟み込んで1枚のシート(図4(A)と同様)とした(重量0.52g)。
試料3:除菌シート
A.強酸性電解水の作成:水道水に塩化カリウムを適量混入・撹拌後、強酸電解水生成機(製品名:バイオマイザー、JWSテクニカ社製)で電気分解して陽極側でpH1.6の強酸性電解水(有効塩素濃度10〜40mg/kg、酸化還元電位+1100mV)を得た。
B.除菌シートの作成:試料2の樹脂コーティングシートを、Aの強酸性電解水300mlに20秒浸漬後、遠心分離(3回)で余分な水分を除いて作成した(重量3.02g)。
試料4: 綿標準白布
【0032】
[試験1]除菌能
JISL1902における菌液吸収法により抗菌性を試験した。試料3(除菌シート)の表面、及び対象例の試料4(綿標準白布)の表面に、それぞれa:大腸菌(Escherichia coli NBRC 3301)、b:大腸菌(Escherichia coli O-157:H7 ATCC43888)、c:黄色ぶどう球菌(Staphylococcus aureus RTCC6538P)を接種して、接種18時間後における生菌数をカウントした。
【0033】
【表1】

【0034】
(結果)表1に示すように、本発明の除菌シートでは生菌数がいずれも<600となり、生菌数7.7×10〜3.1×10の対照例と比較して顕著な抗菌性が確認された。また、接種時の生菌数1.7×10〜2.1×10と比べて生菌数が顕著に減少しており、強酸性電解水が殺菌的に作用したものと考えられる。
【0035】
[試験2]微粒子捕捉能
試料3(除菌シート)、試料1(不織布シート)について、図7の写真に示す吸引装置(製品面:Millipore、品番5KH33GG870T、GENERAL ELECTRIC社製)を用い、一次側に試料のフィルタ、二次側にアブソリュウドフィルタを配置して、試験ダスト(JIS試験用粉体1−8種)4gを矢印方向に投入して2分間吸引後、各試料の下流側に配置したアブソリュウドフィルタの状態を比較した。
【0036】
(結果)図8(A)の写真に示す試料1(不織布)では捕捉された粉体が少なく、多くの粉体が通過して図8(B)の写真に示す下流側のアブソリュウドフィルタ上に多量の粉体が堆積していたのに対し、図9(A)の写真に示す試料3(除菌シート)では多くの粉体が捕捉されてカステラ状に堆積しており、図9(B)の写真に示す下流側のアブソリュウドフィルタ上には粉体が僅かしか堆積していなかった。これにより、本実施の形態の除菌シートは不織布シートと比較して微粒子捕捉能が顕著に優れていることが分かった。
【0037】
[試験3]水分保持能
試料2(樹脂コーティングシート)と試料1(不織布シート)を、上記の強酸性電解水に20秒浸漬した後に遠心分離(3回)により余分な水分を除いた試料(試料2は除菌シートになる)について、各々室温(26℃、湿度55%)で保管して重量の変化を時系列的に記録して表2にこれをまとめ、各水分保持能を比較した。
【0038】
【表2】

【0039】
(結果)表2から分かるように、不織布シートでは30分で完全に乾燥して浸漬前の重量になっていたのに対し、高吸水性樹脂をコートした試料2では浸漬前の重量になるのに約3時間を要していた。これにより、高吸水性樹脂の存在により強酸性電解水の保持時間を顕著に延長させていたことが分かった。
【0040】
上述の試験結果から、本実施の形態の除菌シートは強酸性電解水を保持することで強力な殺菌能を発揮し、また、強酸性電解水でゲル化した高吸水性樹脂の作用で優れた微粒子吸着能を発揮するものであり、且つ、強酸性電解水をより長時間保持することが確認された。従って、本実施の形態の除菌シートは優れた除菌能を有しているとともに、その除菌能が従来例と比較して長時間に亘って発揮されるものであり、極めて実用性の高い除菌シートであるということが言える。
【0041】
以上、述べたように、除菌シートについて、本発明により感染性のある病原体を確実に除去できるとともに捕捉した病原体を確実に殺菌または不活化できるものとなり、実用的なものとすることができた。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】(A)は本発明における第1の実施の形態の樹脂コーティングシートの平面図(一部拡大部分図)、(B)は(A)の樹脂コーティングシートを強酸性電解水に浸漬させて得た除菌シートの拡大部分図。
【図2】(A)は図1(A)の樹脂コーティングシートの拡大した部分縦断面図、(B)は図1(B)の除菌シートの拡大した部分縦断面図。
【図3】図1(A)の樹脂コーティングシートのコーティングパターンを網目状にした場合を示す平面図、一部拡大部分図。
【図4】(A)は本発明における第2の実施の形態における樹脂コーティングシートの拡大した部分縦断面図、(B)は(A)の樹脂コーティングシートを強酸性電解水に浸漬して除菌シートとした状態の拡大した部分縦断面図。
【図5】本発明の除菌シートを収納して保存するための気密袋の平面図。
【図6】図2(B)または図4(B)の除菌シートをガーゼ間に挟み込んだ状態の抗菌マスク。
【図7】試験2で用いたミリポアー試験装置の外観写真。
【図8】(A)は試験2による試料1の外観写真、(B)は試料1下流側のアブソリュウドフィルタの外観写真。
【図9】(A)は試験2による試料3の外観写真、(B)は試料3下流側のアブソリュウドフィルタの外観写真。
【符号の説明】
【0043】
1A,1B 除菌シート、2A,2B 樹脂コーティングシート、20 不織布、21,21’,23,23’ ドット、40 気密袋、41 入り口、42 シール、50 抗菌マスク、51 ガーゼ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高吸水性樹脂を有する除菌シートにおいて、前記高吸水性樹脂を所定パターンで表面コートした不織布が、強酸性電解水に浸漬されて前記高吸水性樹脂が前記強酸性電解水で膨潤してゲル化している、ことを特徴とする除菌シート。
【請求項2】
前記強酸性電解水は、次亜塩素酸を含有してpH2.9以下であることを特徴とする請求項1に記載した除菌シート。
【請求項3】
前記高吸水性樹脂によるコーティングは、前記強酸性電解水で膨潤した状態で前記不織布の表面を総て覆わないパターンでコートされたものである、ことを特徴とする請求項1または2に記載した除菌シート。
【請求項4】
前記高吸水性樹脂のコーティングパターンは、ドットコーティングであることを特徴とする請求項3に記載した除菌シート。
【請求項5】
前記高吸水性樹脂のドット間の距離は、前記ドットの直径以上を有するように設けられている、ことを特徴とする請求項4に記載した除菌シート。
【請求項6】
前記不織布の高吸水性樹脂をコートした側に、さらに1枚の不織布が密着して設けられ、2枚の不織布間に前記高吸水性樹脂を挟み込んだ状態で1枚とされて、前記強酸性電解水に浸漬されてなる、ことを特徴とする請求項1,2,3,4または5に記載した除菌シート。
【請求項7】
前記除菌シートは表面の汚れた対象物を払拭して清浄にするための払拭材である、ことを特徴とする請求項1,2,3,4,5または6に記載した除菌シート。
【請求項8】
前記除菌シートはマスクに付設して病原体を捕捉するためのフィルタ材である、ことを特徴とする請求項1,2,3,4,5または6に記載した除菌シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−106398(P2008−106398A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−290586(P2006−290586)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(595060018)アルプス工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】