説明

陽極酸化ポーラスアルミナとその応用物およびそれらの製造方法

【課題】特定の縦横比に制御されたセルおよび細孔形状を有する陽極酸化ポーラスアルミナおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム3の表面に細孔7の発生起点を予め定めた所定の形態に配列することにより、セルの表面形状および細孔7の開口形状を、縦横の寸法が互いに異なる縦横比に制御することを特徴とする陽極酸化ポーラスアルミナ8の製造方法、およびその方法により製造された陽極酸化ポーラスアルミナ8。得られた陽極酸化ポーラスアルミナ8は異方特性を有する機能性デバイスを作製するための出発材料として使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細孔およびセルの形状が1を超える縦横比に制御された陽極酸化ポーラスアルミナ、およその応用物、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陽極酸化ポーラスアルミナは、アルミニウムを酸性またはアルカリ性の電解浴中で陽極酸化することにより形成される多孔質性の酸化皮膜であり、細孔が膜面に対して垂直に直行したホールアレー構造を有する。このため、陽極酸化ポーラスアルミナは各種機能性デバイスを作製するための出発構造として関心を集めている。通常の陽極酸化ポーラスアルミナでは細孔は円柱状であるが、陽極酸化に先駆けて、アルミニウム表面に細孔発生点を規則的に配列することで、細孔発生点の配列格子に基づいて正三角形や正方形の細孔が配列した陽極酸化ポーラスアルミナの作製が可能である(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】H. Masuda, H. Asoh, M. Watanabe, K. Nishio, M. Nakao, and T. Tamamura, Adv. Mat. 13, 189 (2001).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、陽極酸化ポーラスアルミナに形成されるセルの表面形状および細孔の開口形状は円形もしくは正多角形など等方的な形状が一般的である。縦方向と横方向で長さの異なる縦横比のセルおよび細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナの製造、とくに特定の縦横比に制御されたセルおよび細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナの製造に関する検討はこれまでになされていない。セルおよび細孔の形状が特定の縦横比を有していると、その陽極酸化ポーラスアルミナ、該陽極酸化ポーラスアルミナを用いて作製した各種機能性デバイスに特定の異方性を持たせることが可能になり、これらを展開できる応用分野の範囲が飛躍的に拡大されると考えられる。
【0005】
そこで本発明の課題は、これまで検討のなされていない、簡便に作製可能な特定の縦横比に制御されたセルおよび細孔形状を有する陽極酸化ポーラスアルミナおよびその製造方法を提供することにある。
【0006】
また、本発明の他の課題は、上記陽極酸化ポーラスアルミナを用いて作製可能な機能性デバイス、とくに金属ナノロッドアレイおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る陽極酸化ポーラスアルミナは、細孔の開口形状が、縦横の寸法が互いに異なる縦横比に制御されていることを特徴とするものからなる。ここで言う制御された縦横比においては、縦横の寸法が互いに異なるため、縦横比の値としては1を超える値となる。つまり、従来の一般的な形状である円形や正多角形など等方的な形状とは異なり、目標とする制御された特定の縦横比を有している。個々の細孔、あるいはセル自体の形状としては、例えば長方形に形成されるが、これに限定されず、制御された縦横比を有する長円形や三角形、菱形、多角形等も可能である。このように特定の縦横比に制御されることにより、多数のこれら細孔を備えた陽極酸化ポーラスアルミナには特定の異方性を付与できる。したがって、この陽極酸化ポーラスアルミナを出発構造として作製される各種機能性デバイスにも、同様に特定の異方性を付与でき、そのような異方性が要求される分野にまで、適用範囲が拡大される。
【0008】
陽極酸化ポーラスアルミナにおいては、細孔の開口形状と、細孔を取り囲む領域としてのセルの表面形状との間には、密接な対応関係がある。すなわち、セルの表面形状を特定の縦横比に制御できれば、そのセルの領域内の中央部に形成される細孔の開口形状も、類似の縦横比に制御される。ただし、セルの表面形状の縦横比と細孔の開口形状の縦横比とは、完全には1対1に対応しないこともあり、略完全に1対1に対応することもある。したがって、本発明に係る陽極酸化ポーラスアルミナは、セルの表面形状および細孔の開口形状のそれぞれが、縦横の寸法が互いに異なる縦横比に制御されている形態(セルの表面形状の縦横比と細孔の開口形状の縦横比と完全に1対1に対応している形態と、完全には1対1に対応していない形態の両方を含む)を含む技術思想として捉えることができるものである。
【0009】
後述の実施例からも明らかなように、本発明に係る陽極酸化ポーラスアルミナにおける細孔の開口形状の縦横比としては、1を超え2.3以下の縦横比に制御された形態を実現できている。ただし、本発明における縦横比は、この範囲に限定されるものではなく、目標とする、あるいは要求される縦横比の範囲(1を超える範囲)の全てを含む。
【0010】
このような制御された縦横比の開口形状の細孔を有する本発明に係る陽極酸化ポーラスアルミナにおいては、細孔の配列形態は各種の形態を採り得る。例えば、同一の縦横比の開口形状を有する複数の細孔が、所定方向に列状に複数列配列されている形態を採ることができる。また、互いに異なる縦横比の開口形状を有する複数種の細孔が、所定方向に列状に複数列配列されている形態を採ることもできる。
【0011】
また、これらの細孔配列形態においては、複数の細孔が、一定の周期で所定方向に列状に配列されている形態を採ることもできるし、複数の細孔が、2種以上の周期の組み合わせにて所定方向に列状に配列されている形態を採ることもできる。
【0012】
また、これら複数の細孔列を有する形態においては、複数の細孔列の、各細孔配列の位相間に相関性が付与されている形態を採ることもできるし(つまり、所定の規則性等をもって複数の細孔列における細孔が配列されている形態)、複数の細孔列の、各細孔配列の位相間に相関性がない形態を採ることもできる(つまり、隣接する細孔列間に、細孔配列の位相の相関性がない形態)。
【0013】
さらに、複数の細孔列の配置形態についても、各種形態を採り得る。例えば、複数の細孔列の各列間距離が一定に制御されている形態を採ることもできるし、複数の細孔列の各列間距離が2種以上に制御されている形態を採ることもできる。後者の場合には、例えば、2種の列間距離が交互に繰り返される形態や、3種以上の列間距離をもった、より複雑な特定の形態、列間距離が徐々に変化している形態等を採り得る。
【0014】
本発明に係る陽極酸化ポーラスアルミナは、細孔が貫通孔化されたメンブレン形態に形成されていてもよい。このように構成すれば、貫通孔化された細孔を利用し、そこに所定の物質を充填することにより、充填物質側に構造転写されたロッド状の突起が林立した構造体を容易に形成できるようになる。
【0015】
例えば、上記陽極酸化ポーラスアルミナメンブレンを蒸着マスクとしてロッドアレイを備えた構造体に製造することができ、AuやAg、CuもしくはAlのいずれか、またはこれらの組み合わせからなる、本発明における応用物としての金属ナノ構造体を構成することができる。
【0016】
上記のような金属ナノ構造体は、該金属ナノ構造体のロッドアレイを表面増強ラマン分光分析用に使用することが可能であり、例えば、金属表面の極近傍に存在する化学種の検出または状態分析用デバイスとして構成可能である。
【0017】
本発明に係る陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法は、アルミニウムの表面に細孔の発生起点を予め定めた所定の形態に配列することにより、セルの表面形状および細孔の開口形状を、縦横の寸法が互いに異なる縦横比に制御することを特徴とする方法からなる。すなわち、細孔の発生起点を、所定の縦横比に配列することにより、その発生起点から成長した細孔および細孔を取り囲むセルの形状が、縦横の寸法が互いに異なる縦横比に制御される。
【0018】
細孔の開口形状の縦横比としては、後述の実施例では、1を超え2.3以下の縦横比に制御できることを検証したが、細孔の発生起点の配列形態の変更により、さらに大きな縦横比に制御することが可能である。すなわち、陽極酸化工程に先駆けて、アルミニウム表面に細孔発生起点を所定の形態に配列すればよく、その後、酸性電解液中で陽極酸化することで、所定の縦横比の制御された開口形状を有する陽極酸化ポーラスアルミナが製造される。
【0019】
細孔の発生起点の形成方法としては、例えば、アルミニウムの表面にくぼみを形成する方法を採用できる。この細孔の発生起点としてのくぼみは、例えば、ナノインプリント法、電子線描画法、集光イオンビームエッチング法のいずれかにより形成することができる。
【0020】
細孔の発生起点の配列形態としては各種形態を採り得る。例えば、細孔の発生起点を、縦方向と横方向で異なる周期の四角格子状に配列することもできるし、細孔の発生起点を、縦方向と横方向で異なる周期の菱形格子状に配列することもできるし、細孔の発生起点を、縦方向と横方向で異なる周期のハニカム格子状に配列することもできる。
【0021】
また、細孔の発生起点を列状に複数列配列する場合にも、各種形態を採り得る。例えば、同一の縦横比の開口形状を有する複数の細孔を、所定方向に列状に複数列形成することができる。あるいは、互いに異なる縦横比の開口形状を有する複数種の細孔を、所定方向に列状に複数列形成することができる。あるいは、細孔の発生起点を、同一の周期で所定方向に列状に複数列配列することができる。あるいは、細孔の発生起点を、2種以上の周期の組み合わせにて所定方向に列状に複数列配列することができる。
【0022】
また、複数の細孔列の、各細孔配列の位相間に相関性が付与されている形態を採ることもできるし、複数の細孔列の、各細孔配列の位相間に相関性がない形態を採ることもできる。
【0023】
さらに、複数の細孔列の各列間距離についても、各種形態を採り得る。例えば、複数の細孔列の各列間距離を一定に制御することもできるし、複数の細孔列の各列間距離を2種以上に制御することもできる。
【0024】
目標とする縦横比のセルの表面形状および細孔の開口形状を達成するためには、陽極酸化の条件として適切な条件を採用することが好ましい。例えば、アルミニウムを陽極酸化する際の電解液のリン酸の濃度を0.05M〜0.5Mとすることが好ましい。また、アルミニウムを陽極酸化する際の電解液の浴温を0℃〜16℃とすることが好ましい。また、アルミニウムを陽極酸化する際の化成電圧を、アルミニウム表面に形成した細孔の発生起点の縦方向および横方向の配列周期に対応したそれぞれの化成電圧値の平均値とすることが好ましい。
【0025】
上記アルミニウムを陽極酸化する際の化成電圧については、より具体的には、例えば、陽極酸化する際の化成電圧を、細孔の発生起点の配列周期が縦方向100nm、横方向150nmの場合に印加する基準化成電圧を45〜55Vとして、定めることができる。また、同様に、アルミニウムを陽極酸化する際の化成電圧を、例えば、細孔の発生起点の配列周期が縦方向100nm、横方向200nmの場合に印加する基準化成電圧を50〜70Vとして、定めることができる。
【0026】
前述したように、本発明に係る陽極酸化ポーラスアルミナは、細孔を貫通孔化してメンブレン形態に形成することが可能である。そして、このように製造された陽極酸化ポーラスアルミナメンブレンをマスクとして用いた蒸着により、Au、Ag、CuもしくはAlのいずれか、またはこれらの組み合わせからなるロッドアレイを形成することができる。また、この方法で製造された金属ナノ構造体のロッドアレイを、表面増強ラマン分光分析用に使用することができ、それによって、例えば、金属表面の極近傍に存在する化学種の検出または状態分析方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る陽極酸化ポーラスアルミナおよびその製造方法によれば、縦横比の制御されたセルおよび細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナを形成することが可能となり、そのポーラスアルミナを用いて種々の機能性デバイスの作製が可能になる。例えば、そのポーラスアルミナを蒸着マスクとして用いることで細孔形状を反映した形状を有する金属ナノロッドアレイを得ることができる。貴金属ナノロッドの表面および表面近傍には局在表面プラズモン(LSP)に基づく強い電場増強が形成されることから、表面増強ラマン散乱(SERS)基板等のLSPを利用した非線形光学デバイスへの応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施態様に係る縦横比の制御された四角細孔開口形状を有する陽極酸化ポーラスアルミナ形成の概略プロセス(A)〜(D)を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施態様に係る金属ナノロッドアレイ形成の概略プロセス(A)、(B)を示す説明図である。
【図3】図1のプロセスにより形成された陽極酸化ポーラスアルミナの走査型電子顕微鏡(SEM)観察結果を示す図である。
【図4】図2のプロセスにより形成された陽極酸化ポーラスアルミナのSEM観察結果を示す図である。
【図5】図4のAuロッドアレイを用いて、ロッドの長軸および短軸に沿った方向における電場偏光に対するそれぞれの吸収を測定した結果を示すスペクトル図である。
【図6】図4のAuロッドアレイを用いてピリジンの表面増強ラマン信号を測定した結果を示すスペクトル図である。
【図7】本発明に係る陽極酸化ポーラスアルミナにおける、各種細孔配列形態例を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の実施の形態について、縦横比が制御されるセルおよび細孔の形状として長方形の場合を例にとり、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、縦横比の制御された長方形の細孔開口形状を有する陽極酸化ポーラスアルミナ作製の概略プロセス(A)〜(D)を示している。縦横比の異なる格子定数で四角形に規則配列した突起1の配列を有するモールド2(図1(A))を、アルミニウム3の表面にプレスし(図1(B))、該プレスにより転写形成された細孔発生起点としてのくぼみ4を有し陽極酸化におけるセル5(6はセル5の境界)を有するアルミニウム3(図1(C))を陽極酸化することで長方形の開口形状の細孔7を有する陽極酸化ポーラスアルミナ8が基板9上に作製される(図1(D))。
【0030】
図2は、金属ナノロッドアレイ形成の概略プロセス(A)、(B)を示す説明図である。図1のプロセスを経て得られた陽極酸化ポーラスアルミナの細孔を貫通孔化した陽極酸化ポーラスアルミナメンブレン11を所望の基板12上に密着させて配置し(図2(A))、この陽極酸化ポーラスアルミナメンブレン11を蒸着マスクとして用いる。真空蒸着法によりマスク開口部に対する基板上へ金属(例えば、Au)を堆積させる。その後、マスクを除去することで、基板12上に金属(Au)ナノロッドアレイ13が作製される(図2(B))。
【0031】
図3は、図1のプロセスにより形成された陽極酸化ポーラスアルミナ8のSEM(走査型電子顕微鏡)による観察結果を示す図である。図3に示されるように、本発明に係る陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法を用いることにより、縦横比約1.5の長方形の開口形状の細孔を有するポーラスアルミナを形成することが可能である。
【0032】
図4は、図1のプロセスにより形成されたポーラスアルミナを用い、引き続き、図2のプロセスを経て形成された金属(Au)ナノロッドアレイ13のSEMによる観察結果を示す図である。図3に示すアルミナの開口形状を反映した形状を有するナノロッドの規則配列の形成が可能であることが分かる。
【0033】
図5は、図4のAuロッドアレイに対して、ロッドの長軸および短軸に沿った偏光におけるそれぞれの吸収スペクトルを測定した結果を示す図である。図5によれば、図4のナノロッドの縦横比の違いに応じた吸収スペクトルのピークシフトが観察され、ナノロッドアレイの透過スペクトルに偏光依存性が確認された。偏光がナノロッドの長軸と並行な場合は、短軸の場合に比べて長波長帯域に吸収ピークが現れることが分かる。
【0034】
図6は、図4のAuナノロッドアレーを用いてピリジンの表面増強ラマン信号を測定した結果を示す波数特性図(スペクトル図)である。図6によれば、図4のナノロッドの表面に吸着したピリジン由来のラマン信号が、波数1014cm-1および1040cm-1付近に検出されていることがわかる。このように、本発明に係る方法を用いて製造されたナノ構造体配列は、光応答信号の増強作用を示すことから、LSPにもとづく触媒、センサー、電子・光学デバイス等への幅広い適用が期待される。
【0035】
図7は、上述の各例以外に、本発明で採り得る細孔の形態例を、いくつか例示して示している。図7(A)は、縦横比の異なる2種類の細孔21a、21bが、同一周期aで横方向に配列され、その細孔列が同一の位相にて複数列配列された形態を示している。図7(B)は、縦横比の異なる2種類の細孔21a、21bが、2種類の周期a、bの組み合わせで横方向に配列され、その細孔列が同一の位相にて複数列配列された形態を示している。図7(C)は、縦横比の異なる3種類以上の細孔21a、21b、21cが、3種類以上の周期a、b、c、dの組み合わせで横方向に配列され、その細孔列が同一の位相にて複数列配列された形態を示している。図7(D)は、縦横比の異なる2種類以上の細孔21a、21bが、2種類以上の周期a、bの組み合わせで横方向に配列され、それら細孔列が相関性のない位相にて複数列配列された形態を示している。
【実施例】
【0036】
実施例1〔縦横比1.3のひし形の開口形状の細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナの作製〕
純度99.99%のAl板を、過塩素酸/エタノール浴を用い電解研磨を施した後、表面に縦100nm、横150nmの格子定数を有する三角格子パターンをプレス転写し、0.5Mリン酸水溶液を電解液として、浴温16℃、弱攪拌条件下、46Vの定電圧条件下にて陽極酸化を5分間行うことで、Al板表面に縦横比1.3のひし形の開口形状の細孔を有するポーラスアルミナを作製した。
【0037】
実施例2〔縦横比1.1のひし形の開口形状の細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナの作製〕
純度99.99%のAl板を、過塩素酸/エタノール浴を用い電解研磨を施した後、表面に縦100nm、横200nmの格子定数を有する三角格子パターンをプレス転写し、0.5Mリン酸水溶液を電解液として、浴温16℃、弱攪拌条件下、53Vの定電圧条件下にて陽極酸化を5分間行うことで、Al板表面に縦横比1.1のひし形の開口形状の細孔を有するポーラスアルミナを作製した。
【0038】
実施例3〔縦横比2の長方形の開口形状の細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナの作製〕
純度99.99%のAl板を、過塩素酸/エタノール浴を用い電解研磨を施した後、表面に縦100nm、横150nmの格子定数を有する四角格子パターンをプレス転写し、0.1Mリン酸水溶液を電解液として、浴温16℃、弱攪拌条件下、50Vの定電圧条件下にて陽極酸化を20分間行うことで、Al板表面に縦横比2の長方形の開口形状の細孔を有するポーラスアルミナを作製した。
【0039】
実施例4〔縦横比2.3の長方形の開口形状の細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナの作製〕
純度99.99%のAl板を、過塩素酸/エタノール浴を用い電解研磨を施した後、表面に縦100nm、横200nmの格子定数を有する四角格子パターンをプレス転写し、0.1Mリン酸水溶液を電解液として、浴温16℃、弱攪拌条件下、60Vの定電圧条件下にて陽極酸化を17分間行うことで、Al板表面に縦横比2.3の長方形の開口形状の細孔を有するポーラスアルミナを作製した。
【0040】
実施例5〔縦横比2のAuナノロッドアレイの規則配列構造の形成〕
実施例3で得られた縦横比2の長方形開口形状の細孔を有するポーラスアルミナの細孔径を、5wt%リン酸水溶液を用いたウエットエッチング処理により拡大した。陽極酸化されていないAl部分をヨウドメタノールにより溶解除去後、バリア層をウエットエッチングもしくはドライエッチングにより除去することで、ポーラスアルミナのスルーホールメンブレン(貫通孔化されたメンブレン)を得た。得られたスルーホールメンブレンをガラス基板の表面に密着させ、真空蒸着法によりAuをメンブレンの開口部分に対応した基板上へ堆積させAuナノロッドアレイを形成した。その後、メンブレンを機械的に除去して、縦約60nm、横約120nm、高さ約40nmのAuナノロッドアレイの規則配列構造を得た。
【0041】
実施例6〔縦横比2.3のAuナノロッドアレイの規則配列構造の形成〕
実施例4で得られた縦横比2.3の長方形開口形状の細孔を有するポーラスアルミナの細孔径を、5wt%リン酸水溶液を用いたウエットエッチング処理により拡大した。陽極酸化されていないAl部分をヨウドメタノールにより溶解除去後、バリア層をウエットエッチングもしくはドライエッチングにより除去することで、ポーラスアルミナのスルーホールメンブレンを得た。得られたスルーホールメンブレンをガラス基板の表面に密着させ、真空蒸着法によりAuをメンブレンの開口部分に対応した基板上へ堆積させAuナノドットアレイを形成した。その後、メンブレンを機械的に除去して、縦約60nm、横約140nm、高さ約40nmのAuナノロッドアレイの規則配列構造を得た。
【0042】
実施例7〔縦横比2のAuナノロッドアレイの規則配列構造体を用いたラマン信号の増強〕
実施例5で得られたAuナノロッドアレイを1.2Mのピリジン溶液に浸漬、乾燥窒素流で乾燥させた。その後、顕微ラマン分光装置により、Auナノロッドに吸着したピリジン分子由来のラマン信号を1014cm-1と1040cm-1付近に検出した。
【0043】
実施例8〔縦横比2.3のAuナノロッドアレイの規則配列構造体を用いたラマン信号の増強〕
実施例6で得られたAuナノロッドアレイを1.2Mのピリジン溶液に浸漬、乾燥窒素流で乾燥させた。その後、顕微ラマン分光装置により、Auナノロッドに吸着したピリジン分子由来のラマン信号を1014cm-1と1040cm-1付近に検出した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係る方法により製造されたセルおよび細孔形状の縦横比の制御された陽極酸化ポーラスアルミナ、また、得られた陽極酸化ポーラスアルミナに基づいて製造された金属ナノロッドアレイは、触媒、センサー、電子・光学デバイス等に応用可能なナノテク素材として、広範な用途への適用が期待される
【符号の説明】
【0045】
1 突起
2 モールド
3 アルミニウム
4 くぼみ
5 セル
6 セルの境界
7 細孔
8 陽極酸化ポーラスアルミナ
9 基板
11 陽極酸化ポーラスアルミナメンブレン
12 基板
13 金属ナノロッドアレイ
21a、21b、21c 細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔の開口形状が、縦横の寸法が互いに異なる縦横比に制御されていることを特徴とする陽極酸化ポーラスアルミナ。
【請求項2】
セルの表面形状および細孔の開口形状のそれぞれが、縦横の寸法が互いに異なる縦横比に制御されている、請求項1に記載の陽極酸化ポーラスアルミナ。
【請求項3】
細孔の開口形状の縦横比が、1を超え2.3以下の縦横比に制御されている、請求項1または2に記載の陽極酸化ポーラスアルミナ。
【請求項4】
同一の縦横比の開口形状を有する複数の細孔が、所定方向に列状に複数列配列されている、請求項1〜3のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナ。
【請求項5】
互いに異なる縦横比の開口形状を有する複数種の細孔が、所定方向に列状に複数列配列されている、請求項1〜3のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナ。
【請求項6】
複数の細孔が、一定の周期で所定方向に列状に配列されている、請求項4または5に記載の陽極酸化ポーラスアルミナ。
【請求項7】
複数の細孔が、2種以上の周期の組み合わせにて所定方向に列状に配列されている、請求項4または5に記載の陽極酸化ポーラスアルミナ。
【請求項8】
複数の細孔列の、各細孔配列の位相間に相関性が付与されている、請求項4〜7のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナ。
【請求項9】
複数の細孔列の、各細孔配列の位相間に相関性がない、請求項4〜7のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナ。
【請求項10】
複数の細孔列の各列間距離が一定に制御されている、請求項1〜9のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナ。
【請求項11】
複数の細孔列の各列間距離が2種以上に制御されている、請求項1〜9のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナ。
【請求項12】
細孔が貫通孔化されたメンブレン形態に形成されている、請求項1〜11のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナ。
【請求項13】
請求項12に記載の陽極酸化ポーラスアルミナメンブレンを蒸着マスクとしてロッドアレイを備えた構造体に製造されたAu、Ag、CuもしくはAlのいずれか、またはこれらの組み合わせからなる金属ナノ構造体。
【請求項14】
請求項13に記載の金属ナノ構造体のロッドアレイを表面増強ラマン分光分析用に使用する、金属表面の極近傍に存在する化学種の検出または状態分析用デバイス。
【請求項15】
アルミニウムの表面に細孔の発生起点を予め定めた所定の形態に配列することにより、セルの表面形状および細孔の開口形状を、縦横の寸法が互いに異なる縦横比に制御することを特徴とする陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項16】
細孔の開口形状の縦横比を、1を超え2.3以下の縦横比に制御する、請求項15に記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項17】
細孔の発生起点としてアルミニウムの表面にくぼみを形成する、請求項15または16に記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項18】
細孔の発生起点としてのくぼみをナノインプリント法、電子線描画法、集光イオンビームエッチング法のいずれかにより形成する、請求項17に記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項19】
細孔の発生起点を、縦方向と横方向で異なる周期の四角格子状に配列する、請求項15〜18のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項20】
細孔の発生起点を、縦方向と横方向で異なる周期の菱形格子状に配列する、請求項15〜18のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項21】
細孔の発生起点を、縦方向と横方向で異なる周期のハニカム格子状に配列する、請求項15〜18のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項22】
同一の縦横比の開口形状を有する複数の細孔を、所定方向に列状に複数列形成する、請求項15〜21のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項23】
互いに異なる縦横比の開口形状を有する複数種の細孔を、所定方向に列状に複数列形成する、請求項15〜21のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項24】
細孔の発生起点を、同一の周期で所定方向に列状に複数列配列する、請求項15〜21のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項25】
細孔の発生起点を、2種以上の周期の組み合わせにて所定方向に列状に複数列配列する、請求項15〜21のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項26】
複数の細孔列の、各細孔配列の位相間に相関性が付与されている、請求項22〜25のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項27】
複数の細孔列の、各細孔配列の位相間に相関性がない、請求項22〜25のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項28】
複数の細孔列の各列間距離を一定に制御する、請求項22〜27のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項29】
複数の細孔列の各列間距離を2種以上に制御する、請求項22〜27のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項30】
アルミニウムを陽極酸化する際の電解液のリン酸の濃度を0.05M〜0.5Mとする、請求項15〜29のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項31】
アルミニウムを陽極酸化する際の電解液の浴温を0℃〜16℃とする、請求項15〜30のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項32】
アルミニウムを陽極酸化する際の化成電圧を、アルミニウム表面に形成した細孔の発生起点の縦方向および横方向の配列周期に対応したそれぞれの化成電圧値の平均値とする、請求項15〜31のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項33】
アルミニウムを陽極酸化する際の化成電圧を、細孔の発生起点の配列周期が縦方向100nm、横方向150nmの場合に印加する基準化成電圧を45〜55Vとして、定める、請求項32に記載の陽極酸化ポーラスアルミの製造方法。
【請求項34】
アルミニウムを陽極酸化する際の化成電圧を、細孔の発生起点の配列周期が縦方向100nm、横方向200nmの場合に印加する基準化成電圧を50〜70Vとして、定める、請求項32に記載の陽極酸化ポーラスアルミの製造方法。
【請求項35】
細孔を貫通孔化してメンブレン形態に形成する、請求項15〜34のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項36】
請求項35に記載の方法で製造された陽極酸化ポーラスアルミナメンブレンをマスクとして用いた蒸着により、Au、Ag、CuもしくはAlのいずれか、またはこれらの組み合わせからなるロッドアレイを形成する、金属ナノ構造体の製造方法。
【請求項37】
請求項36に記載の方法で製造された金属ナノ構造体のロッドアレイを、表面増強ラマン分光分析用に使用する、金属表面の極近傍に存在する化学種の検出または状態分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−229506(P2010−229506A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79270(P2009−79270)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【Fターム(参考)】