説明

隔壁構造及び水力機械

【課題】圧力を受ける液体を仕切る隔壁構造において、容易に強度を高めることができる隔壁構造を提供する。
【解決手段】圧力を受ける液体を仕切る隔壁構造において、圧力を受ける液体中に第1隔壁11を固定し、この第1隔壁11と間隔を介して第2隔壁12を固定し、第1隔壁11と第2隔壁12の間に形成される隔室13の中に、第1隔壁11と第2隔壁12に作用する圧力のうち相対的に高い方と同程度の圧力を有する液体を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力を受ける液体を仕切る隔壁構造と、渦巻ケーシングを有する水力機械に関する。
【背景技術】
【0002】
液体で満たされた空間を仕切る隔壁には圧力の異なる空間を仕切っているものがある。このように圧力の異なる空間を仕切る隔壁には、隔壁の前後の差圧に基づいた応力が作用したり、差圧の変動によって変動応力が作用したりするので、応力による損傷を避けるだけの強度が求められる。
【0003】
この種の隔壁の具体例としては、水車やポンプ、ポンプ水車などの水力機械の渦巻ケーシングに用いられる隔壁(バッフルプレート)がある。このバッフルプレートは、渦巻状の流路である渦巻ケーシングの巻き終わり部に設けられた隔壁であり、ランナ(動翼)の回転等によって発生する水の圧力脈動を受けとめている。そのため、バッフルプレートには圧力脈動による変動応力に耐え得る充分な強度が求められている。
【0004】
【特許文献1】特開昭51−152174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、隔壁の設置条件によっても異なるが、隔壁が設置されている母材(例えば、水力機械で言うと渦巻ケーシング)の強度を向上させる簡易な方策としては複数の隔壁を間隔を介して設置する方法がある。しかし、例えば、2枚の隔壁を設ける場合には、先に母材に取り付ける隔壁は隅肉溶接等で隔壁の両側から固定することができるが、後に取り付ける隔壁は、先に取り付けたものが邪魔になるため片側からしか溶接することができない。そのため、このように複数の隔壁を設ける方法では、後に取り付ける隔壁の強度が問題となることがある。
【0006】
本発明の目的は、容易に強度を高めることができる隔壁構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、上記目的を達成するために、圧力を受ける液体を仕切る隔壁構造において、液体中に固定された第1隔壁と、この第1隔壁と間隔を介して固定された第2隔壁と、前記第1隔壁と前記第2隔壁の間に形成され、液体で満たされた隔室とを備える。
【0008】
このように第1隔壁及び第2隔壁によって隔室を設け、その中に液体を満たすと、2つの隔壁のうち一方の隔壁が圧力を受けて変形した場合、隔室内の液体はほとんど圧縮せず体積は変わらないので他方の隔壁も変形する。このように、隔室内の液体により2つの隔壁の変形量は同じとなり、言わば2つの隔壁は液体により接着されたかのような状態となるので、第1隔壁及び第2隔壁の剛性を高めることができる。これにより、第1隔壁及び第2隔壁の強度を容易に高めることができる。
【0009】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記第1隔壁及び前記第2隔壁のうち、液体から相対的に高い圧力を受ける傾向があるものには、前記隔室と連通する通液孔が1つ以上設ける。
【0010】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記第1隔壁と前記第2隔壁には、前記隔室と連通する通液孔がそれぞれ1つ以上設ける。
【0011】
(4)本発明は、上記目的を達成するために、渦巻ケーシングを有する水力機械において、前記渦巻ケーシングが形成する渦状流路を遮断するように前記渦巻ケーシングの巻き終わり部に固定された第1隔壁と、この第1隔壁から前記渦巻流路の上流側に位置するように間隔を介して固定された第2隔壁と、前記第1隔壁と前記第2隔壁の間に形成され、液体で満たされた隔室とを備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、隔壁構造の剛性を容易に高めることができるので、隔壁構造の強度を容易に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0014】
本実施の形態は、本発明を、例えば、水車やポンプ、ポンプ水車といった水力機械に適用した場合の一例である。
【0015】
図1は本発明の実施の形態に係る水車の概略図であり、図2は図1中の隔壁構造部分の拡大図である。
【0016】
これらの図に示す遠心水車は、ランナ1と、渦巻ケーシング2と、第1隔壁(バッフルプレート)11と、第2隔壁(バッフルプレート)12と、ステーベーン4と、ガイドベーン5を備えている。
【0017】
ランナ1は、水(作動流体)によって回転され主軸(図示せず)に軸駆動力を伝達するもので、周方向に複数配置されたランナベーン6を有している。ランナ1は、ガイドベーン5を介してランナベーン6に衝突する水流によって回転される。また、ランナベーン6と衝突してランナ1を回転させた水は、ドラフトパイプ(図示せず)を介して外部へ排出されている。
【0018】
渦巻ケーシング2は、ランナ1を回転させる水が流通する流路で、ランナ1の外周側に設けられている。渦巻ケーシング2が形成する流路(渦巻流路)は、ランナ1を渦巻状に取り囲んでおり、水が流入する入口部15から下流側の巻き終わり部16に向かって流路が徐々に狭まるように形成されている。渦巻ケーシング2内は、ランナ1の回転等によって発生する圧力脈動をもつ高圧の水で満たされている。
【0019】
渦巻ケーシング2の内周側には、複数のステーベーン4が環状に配列されている。ステーベーン4は、渦巻ケーシング2を流通してきた水をランナ1の方向へ導く翼である。環状に配列された複数のステーベーン4の内周側には、複数のガイドベーン5が環状に配列されている。ガイドベーン5は、回転軸(図示せず)を中心に回転し、ステーベーン4からランナ1へ流入する水量を調整するものである。
【0020】
図2において、第1隔壁11及び第2隔壁12(以下、適宜、隔壁11,12とする)は、渦巻ケーシング2の上流側と下流側の水流を遮断するためのものであり、渦巻ケーシング2の巻き終わり部16に設けられている。第1隔壁11と第2隔壁12の間には隔室13が形成されており、隔室13は液体で満たされている。
【0021】
第1隔壁11は、渦巻ケーシング2の入口部15と巻き終わり部16とを遮断するように、巻き終わり部16に配置されたステーベーン4aと渦巻ケーシング2の内壁に対して固定されている。以下において、第1隔壁11は、渦巻ケーシング2がランナ1の周囲に形成する渦巻流路の最下流に設けられているものとして説明する。本実施の形態における第1隔壁11は、ステーベーン4aと渦巻ケーシング2に対して溶接(隅肉溶接)によって固定されており、応力が集中する溶接部の強度を高めるために、入口部15側からと巻き終わり部16側からの両面から溶接されている。
【0022】
第2隔壁12は、第1隔壁11に対して渦巻流路の上流側に位置するように第1隔壁11と間隔を介して設けられており、ステーベーン4a及び渦巻ケーシング2の内壁に固定されている。このような配置が理由で、本実施の形態における第2隔壁12は、第1隔壁11と比較して相対的に変動の大きい圧力脈動をランナ1から受ける傾向がある。また、本実施の形態における第2隔壁12は、渦巻ケーシング2内に第1隔壁を固定した後に溶接されている。そのため、第1隔壁11と対向する面(隔室13側の面)は溶接することができず、片面(隔室13と反対側の面)のみによって溶接されている。
【0023】
なお、ステーベーン4aに隔壁11,12を溶接する際には、渦巻ケーシング2からの水流の圧力損失を低減するために、図1に示すように、ステーベーン4aの曲面に合わせて隔壁11,12を滑らかに連ねて形成することが好ましい。
【0024】
隔室13には、第2隔壁12が受ける圧力に対抗し得るだけの圧力に保持された液体が満たされている。
【0025】
第1隔壁11及び第2隔壁12に孔(後述する通液孔21,22)を設けず、隔室13を密閉空間とする場合には、隔室13内の圧力は、第2隔壁12が受ける圧力と同程度(即ち、第2隔壁12が受ける圧力と等しい圧力か、その圧力に近い圧力)に設定すれば良い。なお、本実施の形態の第2隔壁12は圧力脈動によって変動圧力を受けるので、その圧力変動を考慮する必要がある。そのため、例えば、隔室13内の圧力を、水車の稼働中に第2隔壁12が受ける圧力の最大値と最小値の平均程度に設定することが好ましい。このように隔室13を密閉する場合には、隔室13内に充填するものは、加圧してもほぼ圧縮しない液体であれば良い。
【0026】
また、渦巻ケーシング2内の圧力と隔室13内の圧力を容易に同程度に保持するためには、本実施の形態のように、水車の稼働中に第1隔壁11と比較して相対的に変動の大きい圧力を受ける第2隔壁12に通液孔22を設けることが好ましい。通液孔22は、渦巻ケーシング2の巻き終わり部16側と隔室13を連通するもので、第2隔壁12に1つ以上設けられている。なお、本実施の形態の隔壁12は、通液孔22を1つ有するのみであるが、必要であればそれ以上設けても良い。
【0027】
通液孔22の大きさは、最大でも、水車の稼働中に隔室13からの漏水があっても、圧力脈動によって第2隔壁12が損傷しない程度に隔室13内の液体の体積が保持される大きさに形成し、かつ、最小でも、渦巻ケーシング2に急激に水が流れ込んで第2隔室12に急激な圧力が作用するとき(例えば、水車の起動時)であっても、第2隔室12が損傷しない程度に隔室13内の圧力が上昇する大きさに形成することが好ましい。
【0028】
このように通液孔22を設けると、第2隔壁12が受ける圧力が変動しても、当該圧力を有する水が隔室13内に導入されるので、隔室13の内外に著しい圧力差が発生することなく容易に平衡状態に至らせることができる。これにより、隔室13内の圧力を常に外部の圧力と同程度に保持することができるので、通液孔22を設けない上記の場合のように隔室13内の圧力を考慮する必要がなくなり、構築が容易となる。
【0029】
さらに、水力機械の作動流体として、河川水等、設備の腐食の原因となるものを含有しているものを利用するときには、本実施の形態のように、第1隔壁11に通液孔21を設けることが好ましい。通液孔21は、隔室13と渦巻ケーシング2の入口部15側を連通するもので、第1隔壁11に1つ以上設けられている。なお、本実施の形態では通液孔21は1つ設けられている。また、通液孔21の大きさも、通液孔22と同様に、隔室13からの漏水量や流入量を考慮して、隔室13内の液体の体積がほとんど変わらず保持されるように形成することが好ましい。
【0030】
このように、通液孔21及び通液孔22によって隔室13と渦巻ケーシング2を連通させると、隔室13内に水の流れが形成されるので、隔室13内で腐食が発生することを抑制することができる。
【0031】
なお、上記のように通液孔21、又は通液孔22を設けると、その孔を介して隔室13内に小型カメラを導入することができる。これにより、隔室13内の腐食の有無等を観察することができるので、隔室13内の点検を容易に行うことができる。
【0032】
次に本実施の形態の効果を図3及び図4を用いて説明する。
【0033】
図3及び図4は本発明に係る隔壁構造の概念図である。即ち、図3は、上記のように構成した水力機械の隔壁構造を上位概念化したものであり、図4は、図中の矢印が示すように、図3の隔壁構造に第2隔壁32側から圧力が作用した状態を示す図である。
【0034】
図3に示す隔壁構造は、液体中に固定された第1隔壁31と、第1隔壁31と間隔を介して固定された第2隔壁32と、第1隔壁31と第2隔壁32の間に形成され、第1隔壁31と第2隔壁32が受ける圧力に対抗し得るだけの圧力の液体で満たされた隔室33を備えている。隔室33から第1隔壁31側に形成される空間を第1空間41とし、隔室33から第2隔壁32側に形成される空間を第2空間42とする。第1空間41と第2空間42には、圧力または圧力脈動を有する液体が満たされている。ところで、図3の第1隔壁31は、上記の水力機械における第1隔壁11に相当し、第2隔壁32は上記の第2隔壁12に相当し、隔室33は上記の隔室13に相当し、第1空間41は渦巻流路の入口部15側の空間に相当し、第2空間42は渦巻流路の巻き終わり部16側の空間に相当する。
【0035】
ここで、例えば、第2空間42の液体によって第2隔壁32に圧力が作用すると、第2隔壁32は図4に示すように変形しようとし、第2隔壁32には応力が発生する。しかし、このとき、隔室33内に満たされた液体はほとんど圧縮することなく体積はほとんど変わらないので、第1隔壁31は、隔室33内の液体に押されて、第2隔壁32と同じだけ変形しようとする。これにより、第2隔壁32に作用する圧力を第2隔壁32だけでなく第1隔壁31でも支えることとなるので、液体に満たされた隔室33を形成しなかった場合と比較して、第2隔壁32の変形量を低減することができる。すなわち、隔壁31,32は隔室33内に満たされた液体によって接着されてあたかも一体の隔壁のように振る舞うことになるので、液体に満たされた隔室33を形成しなかった場合と比較して、隔壁31,32の剛性を高めることができる。このように、本発明に係る隔壁構造によれば、隔室33によって実質的に2枚の隔壁で圧力を受けることができるので、2枚の隔壁を取り付ける場合に後から取り付ける隔壁に生じる強度上の問題を容易な手段で解消することができる。
【0036】
また、上記の実施の形態のように水力機械に適用した場合には、本発明は下記のような効果も奏する。すなわち、水力機械を製造する場合には、ランナ1が発生させる圧力脈動によってバッフルプレート(隔壁)が共振しないように設計するが、設置場所等の制約によりバッフルプレートの仕様(厚み、大きさ、材質等)に制限がかかり、共振を回避するために他の部分の大幅な設計変更の必要性に迫られる場合がある。このような場合、本実施の形態のように隔室13を形成して、その隔室13の容積(すなわち、隔室13内の液体の質量)を調節すると、隔壁11,12の強度を保持しながら隔壁11,12の固有振動数を変更することができる。すなわち、本実施の形態によれば、上記のような場合にも他の部分に大幅な変更を加えることなく隔壁11,12の固有振動数を変更することができるので、容易に共振を回避することができる。
【0037】
なお、上記では、第2空間42から圧力を受ける場合について説明したが、第1空間41から圧力を受ける場合についても本発明は同様の効果を奏する。
【0038】
また、水力機械の例でも説明したが、図5に示すように第2隔壁32に通液孔52を設ければ、隔室33内の圧力を第2空間42の圧力の変化に追従させることができるので、隔室33内の圧力を管理する手間を低減することができる。なお、第2空間42の液体に比して第1空間41の液体が高圧の場合には、上記と逆に、第1隔壁31に通液孔51を設ければ良いのは言うまでもない。
【0039】
また、図5に示すように隔壁31,32の両方に通液孔51,52を設ければ、隔室33内に液体の流れを形成できるので、隔室33内の腐食を抑制することができる。
【0040】
以上では、水車やポンプ、ポンプ水車といった水力機械に適用した場合を例に挙げて説明したが、この他にも、圧力を受ける液体を仕切る隔壁構造を有するものであれば、本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態に係る水車の概略図。
【図2】図1中の隔壁構造部分の拡大図。
【図3】本発明の実施の形態に係る水車の隔壁構造の概念図。
【図4】図3に示した隔壁構造に圧力が作用した状態を示す図。
【図5】図3に示した隔壁構造の変形図。
【符号の説明】
【0042】
2 渦巻ケーシング
4 ステーベーン
11 第1隔壁
12 第2隔壁
13 隔室
15 入口部
16 巻き終わり部
21 通液孔
22 通液孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力を受ける液体を仕切る隔壁構造において、
液体中に固定された第1隔壁と、
この第1隔壁と間隔を介して固定された第2隔壁と、
前記第1隔壁と前記第2隔壁の間に形成され、液体で満たされた隔室とを備えることを特徴とする隔壁構造。
【請求項2】
請求項1記載の隔壁構造において、
前記第1隔壁及び前記第2隔壁のうち、液体から相対的に高い圧力を受ける傾向があるものには、前記隔室と連通する通液孔が1つ以上設けられていることを特徴とする隔壁構造。
【請求項3】
請求項1記載の隔壁構造において、
前記第1隔壁と前記第2隔壁には、前記隔室と連通する通液孔がそれぞれ1つ以上設けられていることを特徴とする隔壁構造。
【請求項4】
渦巻ケーシングを有する水力機械において、
前記渦巻ケーシングが形成する渦状流路を遮断するように前記渦巻ケーシングの巻き終わり部に固定された第1隔壁と、
この第1隔壁から前記渦巻流路の上流側に位置するように間隔を介して固定された第2隔壁と、
前記第1隔壁と前記第2隔壁の間に形成され、液体で満たされた隔室とを備えることを特徴とする水力機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−209716(P2009−209716A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−51806(P2008−51806)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】