説明

隔膜気圧計

【課題】隔膜気圧計における標準圧室の真空を含む標準気圧の経時変化の問題を根本的に解決するために、隔膜気圧計の標準圧室の気圧が経時変化などで変動しても、標準圧室の標準気圧を計測し、この標準気圧が校正できる隔膜気圧計を提供する。
【解決手段】標準圧室を有する隔膜気圧計において、標準圧室内に熱型気圧センサを備え、その標準圧室内の気圧を常時または必要に応じて計測して、この計測した気圧を標準気圧として利用するようにした。熱伝導型センサとしてシリコン基板を利用し、絶対温度センサを備える。標準圧室の気圧を所望の気圧付近に調整することもできるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空度などの気圧を計測する隔膜気圧計の標準圧室に、この標準圧室の標準気圧(基準圧)を計測する気圧センサを備えることで、この標準気圧の経時変化などを計測できるようにして、その計測した気圧を標準気圧として利用できるようにした隔膜気圧計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空域や1気圧以上の絶対圧を計測するのに、隔膜気圧計が使用されている。この隔膜気圧計は、被測定気圧を計測する計測気圧室(測定室)の他に、この測定室とは隔膜を介して設けている標準圧室を有している。そして、隔膜気圧計を製作したときの標準圧室の真空を含む気圧を基準(標準気圧)として、その標準気圧の絶対気圧と、測定室の絶対気圧との差圧により変形する隔膜の変位を、静電容量変化や歪ゲージの出力変化から気圧を被測定気圧を計測するものであり、すなわち、標準圧室の絶対気圧を基準として利用し、校正している。
【0003】
隔膜気圧計は、絶対圧がガス種に依らず計測できること、プラズマCVD装置の反応室などでは、各種のエッチングガスや不安定なガスの発生もあり、特に塩化水素、アンモニアなど腐食性ガスに対しても腐食に強いステンレス、タンタルやテフロン(登録商標)製で形成できること、内部を高温にして、ガスの吸着を防ぎやすいことなどから、上記反応室などでは隔膜気圧計、特に隔膜式真空計が使用されることが多い。また、1気圧以上では、大気圧に標準圧室を開放して、この大気圧になっている標準圧室の気圧を基準にして測定室の絶対気圧との差圧による隔膜の変形から測定室の気圧(被測定気圧)を計測する相対圧の計測法もある。
【0004】
隔膜気圧計には、従来、隔膜の変形を計測するのに大きく分けて静電容量型と歪ゲージ型がある。静電容量型は、隔膜の一方側もしくは隔膜を挟んで両側に静電容量計測用電極を設けて、隔膜も一方の電極として静電容量を形成し、その静電容量の変化から隔膜の変位を計測する方法であり、歪ゲージ型は、隔膜に歪ゲージを形成しておき、歪ゲージの抵抗値の変化から隔膜の変位を計測するもので、その隔膜の変位量を利用して測定室の絶対気圧を計測するものである。温度依存性が小さいことから静電容量型が多用されているが、高感度化するには、隔膜の変位を計測するための静電容量を大きくするために電極として作用する隔膜を大口径にする必要があり大型化せざるを得ない。
【0005】
しかしながら、隔膜気圧計を製作したときの標準圧室の真空を含む気圧は、標準圧室からのアウトガスの存在、熱膨張等による変形による標準圧室の真空を含む気圧の計測誤差、標準圧室での微小リークなどで、経時変化を生じるという問題があった。
【0006】
また、隔膜材としてインコネルが多く用いられているが、構造上、大気と真空の繰り返しにより組成変形し、ゼロ点がドリフトすることが多く問題になっている。
【0007】
また、測定精度をよくするためには、隔膜の温度を一定に保たなければならず、温度が上がると金属の体積が僅かに膨張し、膜が変形するので、測定子全体を恒温槽に入れる必要があり、温度が安定するまでに時間がかかり、測定部がかなり大きくなると共に、高価になるなどの問題があった。
【0008】
また、大気圧を基準した相対圧用隔膜気圧計でも、大気圧の変動があり、高精度の絶対気圧の計測ができないため、大気圧を基準にしても絶対気圧を計測したいという要望があった。
【0009】
標準圧室の気圧を計測するには、標準圧室に絶対気圧を計測する気圧センサを備えることが必要であるが、標準圧室に比べて十分小さな寸法の気圧センサが必要であり、良く使われる超小型になりうる歪ゲージの半導体圧力センサは、やはり基準圧(標準気圧)が必要になり、使用することができない。そのために何か他の検出原理に基づく超小型の絶対圧センサが求められていた。
【0010】
本発明者の一人は、シリコンのSOI基板を用いて、そのSOI層をセンシングカンチレバとして用い、センシングカンチレバ上に、1個のマイクロヒータ(ヒータ)と、熱抵抗を有する領域を挟んで2個の熱電対の温接点を配置するように構成した熱伝導型センサとしての気圧センサを発明した(特許文献1)。この気圧センサは、1ミリメートルから数ミリメートルのセンサチップとなり、センシングカンチレバに形成したヒータが、2個の熱電対の温接点よりもセンシングカンチレバの支持基板側に配置しており、ヒータからの熱がセンシングカンチレバの先端側に向かって流れ、周囲気体に放熱するように配置されているので、熱抵抗領域を挟んで形成してある2個の熱電対の温接点間の温度差計測により、ゼロ位法を適用して10−3Pa程度の高真空まで真空気圧を計測することができる。さらに、1気圧近くの低真空域や1気圧以上では、センシングカンチレバの熱膨張を利用してバイメタルのように変形させて、このときの変形振動による強制冷却を利用し、2個の熱電対の温接点間の温度差計測により、1個の気圧センサで8桁以上の広帯域の気圧を計測できるものである。従って、この気圧センサは超小型であり、絶対温度センサも搭載している熱伝導型センサであるので、計測すべき気体の種類が判明しており、周囲温度も計測できるので、広範囲の真空から大気圧以上の気圧まで安定して計測できるセンサで、1立方センチメートル程度の小さな真空チャンバ内や高圧のチャンバ内の真空度を含む気圧を高速に計測することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2011−69733公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
隔膜気圧計における上述の標準圧室の真空を含む標準気圧の経時変化の問題を根本的に解決するために、隔膜気圧計の標準圧室の気圧が経時変化などで変動しても、標準圧室の気圧(標準気圧)を計測し、この標準気圧が校正できる隔膜気圧計を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係わる隔膜気圧計は、標準圧室を有する隔膜気圧計において、該標準圧室内に熱型気圧センサを備え、その標準圧室内の気圧を計測して、標準気圧として利用するようにしたことを特徴とするものである。
【0014】
隔膜気圧計のうち、特に隔膜真空計において、高真空側の計測になるほど標準圧室内の微量のアウトガスや隔膜の熱などによる変形、さらにこれらの製造時からの経時変化が精度に大きく寄与し、標準圧室のその計測時点での真の絶対気圧(真空度)を知りたい、もしくは、標準気圧(基準圧)を計測したいという要望があった。また、高真空ほど、隔膜の厚みを薄くする必要があり、標準気圧室と測定室との差圧も極めて小さいので、その変形量を大きくするために、大口径の隔膜にする必要があった。
【0015】
標準気圧室の絶対気圧を計測するには、隔膜気圧計の計測原理とは異なり、しかも、超小型の気圧センサが望ましい。本発明の隔膜気圧計は、標準気圧室にセンサチップで1mm各程度の超小型になりうる熱伝導型センサを備えて、標準気圧室内の絶対気圧を計測して、計測された気圧を標準気圧として実際の計測すべき気圧のチャンバに連通している測定室の気圧の校正に用いるようにしたものである。
【0016】
従って、従来の隔膜気圧計のように、隔膜気圧計の製作時における標準気圧室の真空を含む絶対気圧を信用するのではなく、たとえ標準気圧室の絶対気圧に経時変化があっても、本発明によれば、標準気圧室内の絶対気圧を常時計測しているので、その時点での標準気圧室の絶対気圧が測定されているので、これを標準気圧と見做して、測定室の気圧を高精度で計測することができる。なお、標準気圧室と測定室との差圧による隔膜の変形量を静電容量や歪みゲージなどにより計測することには変わりがなく、標準気圧室の絶対気圧は、所定の気圧計測範囲の中央付近の気圧にする必要がある。一般に、標準気圧室の絶対気圧を中心に3桁の気圧計測範囲が計測できると言われている。
【0017】
本発明の請求項2に係わる隔膜気圧計は、標準気圧室は、密閉された気圧室である場合である。
【0018】
一般に、隔膜気圧計の標準気圧室は、特に隔膜気圧計を隔膜真空計として用いた場合には、この標準気圧室からのアウトガスが少しずつ放出されることを抑制するために何日間も隔膜真空計の標準気圧室部の真空チャンバに接続している配管(接続配管)を通して加熱しながら高真空に真空引きし、その後、所定の気圧になるようにガスを導入して、接続配管を溶接して封止するようにしている。このように配管部を溶接して封止したり、更には、高精密なバルブを通して標準気圧室を所定の気圧にして、更にこのバルブを閉じて密閉することができる。
【0019】
本発明の請求項3に係わる隔膜気圧計は、標準気圧室の気圧を所望の気圧付近に調整できるようにした場合で、標準気圧室は、密閉された気圧室としている場合である。
【0020】
隔膜気圧計は、上述のように、3桁程度の気圧計測範囲しか有しないので、標準気圧室の絶対気圧は、所定の気圧計測範囲の中央付近の気圧にする必要があり、標準気圧室の気圧(真空を含む)が、経時変化等で所望の気圧から1桁もずれてしまうことがある。このようなときには、例えば、溶接などで完全密封封止させている場合には、標準気圧室内にゲッタ材を封入しておき、加熱するなどしてゲッタ材を活性化させて、所定の気圧範囲に戻すようにするなど、標準気圧室の気圧を所望の気圧付近に調整することができる。
【0021】
また、超精密なニードルバルブを用いたり、更にこのニードルバルブと封止材料と組み合わせたりして、外部から真空引きをして、隔膜気圧計の標準気圧室内を、所定の気圧範囲に戻すようにするなど、標準圧室の気圧を所望の気圧付近に調整することもできる。もちろん、更に標準気圧室の気圧が変動した時には、再度、所望の気圧付近に調整することもできる。
【0022】
本発明の請求項4に係わる隔膜気圧計は、標準圧室を、大気に解放された気圧室とした場合である。
【0023】
標準圧室を大気に解放することにより、大気圧を標準気圧として利用する場合であるが、大気圧との差をゼロにしたいというような目的では、大気圧を計測する必要がないが、高精度の圧力計測が必要で、大気圧の変動が問題になる場合がある。このようなときには、大気に解放している標準圧室の気圧を熱伝導型センサにより計測して、この計測された気圧を標準気圧として用いると良い。
【0024】
本発明の請求項5に係わる隔膜気圧計は、熱伝導型センサとしてシリコン基板を用いた場合である。
【0025】
MEMSとしての熱伝導型センサは、半導体のシリコン基板、特に単結晶基板やSOI基板を用いると、超小型で高精度の広帯域気圧センサとなり得るので、好適である。
【0026】
本発明の請求項6に係わる隔膜気圧計は、熱伝導型センサとして、センシングカンチレバに、少なくとも1個のヒータと2個の熱電対を形成してあり、該2個の熱電対の出力差の計測により前記標準圧室内の気圧が計測できるようにした場合である。
【0027】
前記特許文献1に記載の気圧センサは、正に、熱伝導型センサとして、センシングカンチレバに、少なくとも1個のヒータと2個の熱電対を形成してあり、これら2個の熱電対の出力差の計測により前記標準圧室内の気圧が計測できるようにしてあり、現在、1個の気圧センサで、1x10−3Paから3x10Paまでの8桁の計測気圧範囲を有しているので、所望の標準圧室の気圧域において使用できるので好都合である。
【0028】
本発明の請求項7に係わる隔膜気圧計は、熱伝導型センサに絶対温度センサを備えた場合である。
【0029】
絶対温度センサとして、pn接合ダイオード、ショットキ接合ダイオード、白金薄膜などの感温抵抗体、サーミスタ等が利用できる。
【0030】
熱伝導型センサは、気体の熱伝導率による放熱効果を利用するので、一般に気体の種類や気体の温度により気体の熱伝導率が変化する。隔膜気圧計の標準圧室に導入するガスの種類は判明しているので、気体の温度、すなわち、ほぼ隔膜気圧計の標準圧室の絶対温度が判明すると、一義的に熱伝導型センサにより標準圧室の絶対気圧が温度校正により計測できる。標準圧室の壁に良好な熱コンタクトされている熱伝導型センサの基板(例えば、シリコン基板)に設けた絶対温度センサにより絶対温度計測すれば、標準圧室の絶対気圧が算定されることになる。
【0031】
本発明の請求項8に係わる隔膜気圧計は、熱伝導型センサのセンサチップに増幅回路を含む集積回路を組み込んだ場合である。
【0032】
熱伝導型センサのセンサチップは、シリコン基板、特にSOI基板を用いた方がセンシングカンチレバに薄膜の熱電対を形成するにも好適である。シリコン基板を用いると同一基板に、増幅器やメモリ回路を含む演算回路、さらにはヒータ駆動回路をも搭載することが容易にできる。また、熱伝導型センサのセンサチップに温度センサや気体の熱伝導率を計測するセンサも搭載して、気体の種類をも検出して気圧に換算するようにするなど気圧センシングの1つのシステムとして組み込むこともできる。
【0033】
本発明の請求項9に係わる隔膜気圧計は、熱伝導型センサを用いた気圧センシング機能の他に、少なくとも、増幅回路、演算回路、ヒータ駆動回路をも備えてモジュール化した場合である。
【0034】
本発明の隔膜気圧計では、その標準圧室に熱伝導型センサのセンサチップを備えているが、センサチップ内に熱伝導型センサの増幅回路、演算回路、ヒータ駆動回路などの計測回路部分を集積回路として組み込んでもよいし、これらを標準圧室外に設けて、標準圧室の壁に設けた密閉して取り付けてある外部端子を通して熱伝導型センサのセンサチップとの電気的信号のやり取りを行うようにしてもよいが、さらに、所定の温度に昇温させて一定温度に維持させる機能、各種制御用回路、所定の出力端子や表示部などを備えるなど、モジュール化した場合である。
【発明の効果】
【0035】
本発明の隔膜気圧計では、標準圧室の真空を含む気圧が変動しても、標準圧室内に熱伝導型センサからなる気圧センサを備えているので、基準圧の変動が計測できる。したがって、計測時点での標準圧室の計測した気圧をその時の標準気圧として採用して、高精度で測定室の気圧を計測することができるという利点がある。
【0036】
本発明の隔膜気圧計では、標準圧室の真空を含む気圧を高精度のニードルバルブやそれと共に封止材との組み合わせなどで、所望の気圧に調整できるという利点がある。
【0037】
本発明の隔膜気圧計では、標準圧室の真空を含む気圧を所望の気圧に調整できるので、従来のように何日も標準圧室のアウトガスが枯れるまで加熱しながら真空引きをする必要がないという利点がある。
【0038】
本発明の隔膜気圧計では、標準圧室を大気圧に開放できるが、その大気圧の絶対気圧も計測できるので、従来の相対圧センサを絶対圧センサとしても利用できるという利点がある。
【0039】
本発明の隔膜気圧計では、気圧センサチップにシリコン基板を用いることにより、同一基板にセンサ出力の増幅、演算、制御回路などの集積回路も搭載して、コンパクト化させることもできるという利点がある。
【0040】
本発明の隔膜気圧計では、熱伝導型センサに絶対温度センサを備えることにより、標準圧室に気圧調整に導入したガス種が判明しているので、絶対温度が分かれば、熱伝導型センサの出力から絶対気圧が計測できるので、標準圧室の標準気圧として利用することができるという利点がある。
【0041】
本発明の隔膜気圧計では、熱伝導型センサのセンサチップに集積回路を容易に形成できるので、コンパクトで安価な隔膜気圧計が達成できるという利点がある。
【0042】
本発明の隔膜気圧計では、標準圧室内の気圧が常時もしくは必要に応じて計測できるので、駆動回路や制御回路など各種の機能を備えたモジュール化して高信頼性でコンパクトな隔膜気圧計が提供できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の隔膜気圧計における隔膜気圧計測定子部の一実施例を示す概念概略図である。(実施例1)
【図2】本発明の隔膜気圧計の標準圧室に取り付ける熱伝導型センサのセンサチップ(熱伝導型センサチップ)の一実施例を示す平面概略図である。(実施例1)
【図3】本発明の隔膜気圧計の標準圧室が大気に連通している場合の隔膜気圧計測定子部の一実施例を示す概念概略図である。(実施例2)
【図4】本発明の隔膜気圧計の標準圧室に取り付ける熱伝導型センサの熱伝導型センサチップに集積回路を組み込んだ一実施例を示すセンサチップの平面概略図である。(実施例3)
【図5】本発明の隔膜気圧計において、モジュール化した隔膜気圧計の一実施例を示す概念概略図である。(実施例4)
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の隔膜気圧計は、その標準圧室内に備える熱伝導型センサは、成熟した半導体集積化技術とMEMS技術を用いて、ICも形成できるシリコン(Si)基板、特にSOI基板で形成しやすい。この熱伝導型センサを搭載して標準圧室内の気圧を計測して、この計測気圧を標準気圧として利用するようにした隔膜気圧計について、図面を参照しながら実施例に基づき、以下に詳細に説明する。
【実施例1】
【0045】
図1は、本発明の隔膜気圧計における隔膜気圧計測定子100の一実施例を示す概念概略図である。本実施例では、被測定気圧(真空を含む)に晒されている測定室17の気圧により変形する隔膜気圧計の隔膜の変位を計測するのに、静電容量の変化を利用する静電容量型隔膜気圧計について述べる。
【0046】
静電容量型隔膜気圧計は、一般に図1に示すように隔膜気圧計測定子100内には隔膜15を設けてあり、被測定気圧(真空を含む)に晒されている測定室17と所定の基準となる気圧に設定してある標準圧室16に分割されている。被測定気圧である測定室17の気圧が標準圧室16の気圧よりも差圧ΔPだけ、例えば、大きくなると、隔膜15が標準圧室16側にこの差圧ΔPにより曲がり変形する。一般の隔膜気圧計では、差圧ΔPがゼロのときには、隔膜15が変形せず、静電容量型隔膜気圧計の静電容量Cは、所定の静電容量C0になる。静電容量型隔膜気圧計の静電容量C(静電容量部20の容量)は、隔膜気圧計測定子100内の導体からなる隔膜15を一方の電極とし、他方を静電容量計測用電極19とする静電容量である。上記のように差圧ΔPが正のときは、隔膜15と静電容量計測用電極19との間隔が小さくなるから、静電容量Cが大きい方に変化する。このようにして、静電容量Cの変化分ΔCが差圧ΔPに対応し、ΔCを利用して標準圧室16の本来の標準気圧からのずれを求めて測定室17の気圧、すなわち、被計測気圧を計測するものである。このようにして被計測気圧を計測するものであるから、従来から標準圧室16の標準気圧の経時変化は、隔膜気圧計の最も不安な要素であった。
【0047】
図1に示す静電容量型隔膜気圧計の隔膜気圧計測定子100の標準圧室16内の金属からなる隔膜気圧計測定子筺体11に、十分な熱的コンタクトをさせて熱伝導型センサ10を取り付けている。その熱伝導型センサ10の電力の供給や信号のやり取りは、配線を介して真空部と大気圧とを電気的に導通させる端子を持つ、たとえば、ハーメチックシール12を通して行い、熱伝導型センサ用端子115を隔膜気圧計測定子100の外部端子としている。また、静電容量計測用電極19と隔膜15との電極間で構成される静電容量部20の信号は、本実施例では、隔膜気圧計測定子筺体11と隔膜15とを導通してあり、隔膜気圧計測定子筺体11と静電容量計測用電極19との間の静電容量を計測する形にしている。なお、静電容量計測用電極19の電位は、ハーメチックシール12を通して静電容量電極用端子110を通して計測できるようにしている。
【0048】
図1に示す静電容量型隔膜気圧計の隔膜気圧計測定子100の標準圧室16の気圧は、真空排気封止管31を通して真空引き後、所定の標準気圧になるまで窒素ガスなどの既知の不活性ガスを導入して安定な標準気圧にさせる。その時点で、真空排気封止管31の封止部32で封止するものである。
【0049】
図2には、図1に示す隔膜気圧計測定子100の標準圧室16内の隔膜気圧計測定子筺体11に取り付けた熱伝導型センサ10の熱伝導型センサチップ1の平面図概略図を示している。本実施例では、基板2としてシリコン単結晶を用い、特に、SOI(Silicon on Insulator)基板を用い、センシングカンチレバ45は、このSOI層を利用して形成している場合である。基板2から熱的に分離したセンシングカンチレバ45には、SOI層の表面に形成したシリコン酸化膜50の上に、たとえば、ニクロム薄膜からなるヒータ25を形成してあり、その先端方向に、2個の熱電対120a、120bの熱電対温接点81a, 81bが熱抵抗部41を挟んで形成されている。2個の熱電対120a、120bは、たとえば、SOI層の表面に形成したシリコン酸化膜50上に形成されたそれぞれの金属薄膜(たとえば、ニクロム薄膜)を一方の熱電材料とし、他方の熱電材料を共通するn型半導体のSOI層を利用して、その熱電対冷接点82として、基板2に形成した絶対温度センサ21の一方の端子と共有して、絶対温度センサ用電極パッド73bから必要に応じて、2個の熱電対120a、120bの一方の熱電対の熱起電力を、熱電対用電極パッド71a、71bとの間で取り出すことができるようにしている。もちろん、2個の熱電対120a、120bの熱起電力の差、すなわち、熱電対温接点81aと熱電対温接点81bとの差の温度を、熱電対用電極パッド71aと熱電対用電極パッド71bとの間で取り出すことができる。なお、本実施例では、絶対温度センサ21として容易に形成できるpn接合ダイオードを利用するようにしている。本熱伝導型センサチップ1は、公知のEMS用の半導体デバイス製造技術で製作できるので、その製作工程などはここでは省略する。
【0050】
熱電対温接点81aと熱電対温接点81bとの差の温度は、ヒータ25からの熱はセンシングカンチレバ45を通って、熱電対温接点81aと熱電対温接点81bの方に流れる。周囲が極めて高真空になると、ヒータ25からの熱は周囲には熱伝導しないので、輻射を無視できると、熱抵抗部41を挟む熱電対温接点81aと熱電対温接点81bとの温度差が本質的にゼロになる。このことは、極めて高真空で熱電対用電極パッド71aと熱電対用電極パッド71bとの間の出力電圧は本質的にゼロでるからゼロを基準として計測できる、ゼロ位法が適用できるから、極めて高精度の真空度などの気圧の計測が可能となる。
【実施例2】
【0051】
図3は、本発明の隔膜気圧計の標準圧室が大気に連通している場合の隔膜気圧計測定子部の一実施例を示す概念概略図である。前記実施例1の図1では、測定室17の気圧と標準圧室16の気圧との差圧ΔPに基づく隔膜15の変位を、静電容量の変化で計測する場合であったが、本実施例における図3では、これを隔膜15に形成した歪ゲージ28の抵抗変化から隔膜15の変位を計測するようにした場合である。歪ゲージ28は、複数個取り付けて、ホイートストンブリッジの辺として用いると、高精度に歪ゲージ28の抵抗変化を計測できるから、結局、高精度な差圧ΔPが計測できる。このようにして標準圧室の大気圧を基準にして高精度に計測した差圧ΔPを加えて(正負の符号あり)、測定室17の気圧を計測するものである。本実施例では、標準圧室の大気圧を標準圧室に備えてある熱伝導型センサ10で高精度に計測するので、測定室17の気圧も高精度に計測できることになる。なお、歪ゲージ28と外部との信号のやり取りや電流の供給などは、ハーメチックシール12に備えた歪みゲージ用端子111を介して行われる。そのほかの本発明の隔膜気圧計の動作は、実施例1の場合と同様なので、その説明を省略する。
【実施例3】
【0052】
図4は、本発明の隔膜気圧計の標準圧室16に取り付ける熱伝導型センサ10の熱伝導型センサチップ1に集積回路300を組み込んだ場合の一実施例を示す熱伝導型センサチップ1の平面概略図である。図4では、図2に示した熱伝導型センサチップに集積回路を組み込んだ場合を示している。集積回路として、例えば、熱伝導型センサを駆動するためのヒータ駆動回路、熱伝導型センサの熱電対からの信号を増幅する回路、必要に応じて、タイミング用矩形波形の発振器やメモリ回路などを搭載してものであっても良い。また、必要に応じて、実施例1での静電容量部20の静電容量を計測する回路や実施例2での歪ゲージ28の抵抗値を計測する回路なども搭載することができる。この場合、計測する静電容量部20の静電容量や歪ゲージ28の抵抗値などの情報を、熱伝導型センサチップ1に組み込んだ集積回路300との間でやり取りさせるのに、ハーメチックシール12の端子を介した配線を利用することができる。
【実施例4】
【0053】
図5は、本発明の隔膜気圧計において、モジュール化した隔膜気圧計500の一実施例を示す概念概略図である。標準圧室16に取り付ける熱伝導型センサ10の熱伝導型センサチップ1からの信号の増幅回路301、その増幅された信号のデータを利用して、各種の処理をする演算回路302、更には、フィードバック系も含めたヒータ駆動回路303を少なくとも備えてモジュール化してある場合である。また、本実施例では、測定室17の気圧や標準圧室16の気圧、更には、標準圧室16の温度などの出力を表示するための表示回路やその表示部450も取り付けている。また、上記の各回路への直流電源などの電源回路もモジュール化した隔膜気圧計500内に搭載することもできる。
【0054】
本発明の隔膜気圧計は、本実施例に限定されることはなく、本発明の主旨、作用および効果が同一でありながら、当然、種々の変形がありうる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の隔膜気圧計は、従来の隔膜気圧計の標準圧室16内に、MEMS技術で形成できる超小型のセンシング部を有し、画一的な形状で大量生産性があり、高感度の熱伝導型センサチップ1を持つ熱伝導型センサ10を備えているので、常時、標準圧室16の標準気圧を計測して変動してもこれを新たな標準気圧として採用したり、校正したりすることができるようになった。このため、従来、標準圧室16の標準気圧の変動が計測できないために製造時点での標準気圧を用いて測定室17の気圧を決定せざるを得ず、場合によっては大きな誤差となっていた問題が解消され、高精度に測定室17の真空を含む気圧を測定することができる隔膜気圧計が提供できる。
【符号の説明】
【0056】
1 熱伝導型センサチップ
2 基板
10 熱伝導型センサ
11 隔膜気圧計測定子筺体
12 ハーメチックシール
15 隔膜
16 標準圧室
17 測定室
18 被気圧測定チャンバ連通部
19 静電容量計測用電極
20 静電容量部
21 絶対温度センサ
22 オーム性コンタクト
25 ヒータ
28 歪ゲージ
30 測定子接続管
31 真空排気封止管
32 封止部
40 空洞
41 熱抵抗部
45 センシングカンチレバ
46 カンチレバ先端領域
50 シリコン酸化膜
71a、71b 熱電対用電極パッド
72a、72b ヒータ用電極パッド
73a、73b 絶対温度センサ用電極パッド
81a,
81b 熱電対温接点
82 熱電対冷接点
100 隔膜気圧計測定子
110 静電容量電極用端子
111 歪みゲージ用端子
115 熱伝導型センサ用端子
120a、120b 熱電対
130 大気圧連通管
210 配線
250 隔膜支持リング
300 集積回路
301 増幅回路
302 演算回路
303 ヒータ駆動回路
304 表示用回路
305 分配器
310 集積回路用電極パッド
400 回路モジュール
410 プリント基板
420 ソケット用端子板
430 端子
450 表示部
500 モジュール化した隔膜気圧計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標準圧室を有する隔膜気圧計において、該標準圧室内に熱伝導型センサを備え、その標準圧室内の気圧を計測して、標準気圧として利用するようにしたことを特徴とする隔膜気圧計。
【請求項2】
標準圧室は、密閉された気圧室である請求項1記載の隔膜気圧計。
【請求項3】
標準圧室の気圧を所望の気圧付近に調整できるようにした請求項2記載の隔膜気圧計。
【請求項4】
標準圧室は、大気に解放された気圧室である請求項1記載の隔膜気圧計。
【請求項5】
熱伝導型センサとしてシリコン基板を用いた請求項1から4のいずれかに記載の隔膜気圧計。
【請求項6】
熱伝導型センサとして、センシングカンチレバに、少なくとも1個のヒータと2個の熱電対を形成してあり、該2個の熱電対の出力差の計測により前記標準圧室内の気圧が計測できるようにした請求項1から5のいずれかに記載の隔膜気圧計。
【請求項7】
熱伝導型センサに絶対温度センサを備えた請求項1から6のいずれかに記載の隔膜気圧計。
【請求項8】
熱伝導型センサのセンサチップに増幅回路を含む集積回路を組み込んだ請求項1から7のいずれかに記載の隔膜気圧計。
【請求項9】
熱伝導型センサを用いた気圧センシング機能の他に、少なくとも、増幅回路、演算回路、ヒータ駆動回路をも備えてモジュール化した請求項1から8のいずれかに記載の隔膜気圧計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−11556(P2013−11556A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145495(P2011−145495)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(511159819)株式会社MDイノベーションズ (1)
【出願人】(505390211)株式会社ピュアロンジャパン (2)
【Fターム(参考)】