説明

難燃性に優れた樹脂組成物

【課題】難燃性、耐衝撃性、薄肉成形性に優れ、成形加工時に発生するガスが大幅に少なく、射出成形時に金型へ付着物が生じるのを大幅に抑制可能な樹脂組成物の提供。
【解決手段】特定粘度数のポリアミド、ポリフェニレンエーテル、特定式で表されるホスフィン酸塩類を含んでなる事を特徴とする樹脂組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の樹脂組成物は、優れた難燃性、耐衝撃性、電気・電子分野のコネクター等の薄肉部品での優れた成形性、加工時のガス発生の大幅な抑制、射出成形時の金型への付着物(モールドデポジット)生成の大幅な抑制を可能にする優れた特性を有し、コネクター、ブレーカー、マグネットスイッチ等の電気・電子部品、リレーブロックに代表される自動車分野の電装部品、鉛フリー半田耐性を要求されるような表面実装技術(以下SMTと称する事がある)対応部品等に好適に用いられる樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリアミドは、機械的強度、耐熱性、耐薬品性などに優れる事から、自動車部品、機械部品、電気・電子部品など数多くの分野で使用されている。
中でも特に、自動車のエンジンルーム内に設置されるリレーブロックには、従来、ポリアミド6,6が使用されていたが、吸水時の寸法変化が大きくなるという問題点があった。このため、最近では次第にポリアミド/ポリフェニレンエーテルアロイへ置き換わってきている。自動車部品、機械部品、電気・電子部品は、その形状が複雑化する傾向にあり、さらには小型、薄肉化していく流れに有るのが現状である。
また、最近の傾向として車両火災を未然に防止するという観点から、リレーブロック等の車両部品に対し、難燃化という新たな要求特性が挙げられている。
【0003】
従来、ポリアミドを難燃化させるための技術としては、例えば、ポリアミド樹脂への塩素置換多環式化合物や臭素系難燃剤を添加する方法が知られている。臭素系難燃剤としては、例えば、デカブロモジフェニルエーテル、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化架橋芳香族重合体、臭素化スチレン−無水マレイン酸重合体等が知られている。
【0004】
また、近年では、環境問題への関心の高まりなどの背景から、ハロゲンフリーのトリアジン系難燃剤が注目され数多く検討がなされている。例えば難燃剤としてメラミンを使用する技術、シアヌル酸を使用する技術、シアヌル酸メラミンを使用する技術が良く知られている。一方、イントメッセント型難燃剤であるリン酸メラミン、ピロリン酸メラミンあるいはポリリン酸メラミンをガラス繊維強化ポリアミド樹脂に使用するハロゲンフリーの難燃技術、無機質強化ポリアミド樹脂にポリリン酸メラミンに加えチャー化触媒及び/又はチャー形成剤を併用する難燃技術、ホスフィン酸塩と(メラミンとリン酸の反応物)を組み合わせた難燃剤コンビネーション技術が検討されている。
【0005】
さらに最近では、ポリアミド/ポリフェニレンエーテル樹脂組成物を、ホスフィン酸塩類を用いて難燃化する技術の提案(特許文献1)およびスチレン系樹脂および/またはポリエステル系樹脂にポリアミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂を含む樹脂組成物を、ホスフィン酸塩類を用いて難燃化する技術の提案(特許文献2)がされている。しかしながら、近年のリレーブロックや、コネクター等に代表されるSMT対応部品では、形状が複雑化、小型化、薄肉化されており、射出成形時にモールドデポジットと呼ばれる析出物が金型へ付着したり、成形時に発生するガスによって成形片の外観不良(以下シルバーストリークスと称する事がある)が生じたり、さらには、流動性が不足する事によって薄肉部品をうまく成形できないといった課題があった。上記で提案されている技術では、これらの課題は解決する事はできず、その解決が必須であった。従って、上記問題を解決し、近年のリレーブロックや、コネクターに代表されるSMT対応部品での要求を満足できる新たな技術の開発が待望されていた。
【特許文献1】国際特許公開2005/118698号パンフレット
【特許文献2】特開2001−335699号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、難燃性、耐衝撃性に優れ、薄肉部品での優れた成形性と、表面外観に優れた成形品を得る事のできる樹脂組成物を提供する事にある。詳しくは、優れた流動性を有し、更には加工時のガスの発生を大幅に抑制する事ができ、射出成形時の金型への付着物(以下モールドデポジットと称する事がある)の生成を大幅に抑制する事ができる樹脂組成物を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記した課題を解決するために検討を重ねた結果、ホスフィン酸塩類を難燃剤とし、ポリアミド/ポリフェニレンエーテル組成物を難燃化するにあたって、ポリアミドの粘度を特定範囲内にする事により上記した課題を解決できる事を見いだし本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、特定粘度のポリアミド、ポリフェニレンエーテルとホスフィン酸塩類からなる組成物に関するものであり、さらに詳細には、
1.(A)ポリアミド、(B)ポリフェニレンエーテル、(C)下式(I)で表されるホスフィン酸塩、下式(II)で表されるジホスフィン酸塩及びこれらの縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のホスフィン酸塩類を含んでなる樹脂組成物であって、ここで(A)ポリアミドの粘度数(ISO307:1997で規定される96%硫酸中で測定)が50ml/g〜250ml/gである事を特徴とする樹脂組成物。
【0009】
【化1】

【0010】
[式中、R及びRは、同一か又は異なり、直鎖状もしくは分岐状のC〜C−アルキル及び/又はアリールもしくはフェニルであり、Rは、直鎖状もしくは分岐状のC〜C10−アルキレン、C〜C10−アリーレン、C〜C10−アルキルアリーレン又はC〜C10−アリールアルキレンであり、Mはカルシウム(イオン)、マグネシウム(イオン)、アルミニウム(イオン)、亜鉛(イオン)、ビスマス(イオン)、マンガン(イオン)、ナトリウム(イオン)、カリウム(イオン)及びプロトン化された窒素塩基から選ばれる1種以上であり、mは2又は3であり、nは1〜3であり、xは1又は2である。]
【0011】
2.(A)ポリアミドの粘度数(ISO307:1997で規定される96%硫酸中で測定)が70ml/g以上、150ml/g以下である上記1に記載の樹脂組成物。
3.(A)ポリアミドの粘度数(ISO307:1997で規定される96%硫酸中で測定)が100ml/g以上150ml/g以下である上記1、2に記載の樹脂組成物。
4.(A)ポリアミドが、半芳香族ポリアミドである、上記1〜3に記載の樹脂組成物。
5.半芳香族ポリアミドが、テレフタル酸を60〜100モル%含有するジカルボン酸単位(a)と、1,9−ノナンジアミン単位(b−1)および2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位(b−2)を60〜100モル%含有するジアミン単位(b)とからなるポリアミド9,Tである上記4に記載の樹脂組成物。
6.半芳香族ポリアミドの、ジアミン単位中の1,9−ノナンジアミン単位(b−1)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位(b−2)のモル比が、60/40〜95/5の範囲内である上記4に記載の樹脂組成物。
【0012】
7.(A)ポリアミドの末端アミノ基濃度が、5μmol/g以上、60μmol/g以下である事を特徴とする上記1〜6に記載の樹脂組成物。
8.(C)成分の平均粒子径が0.5μm以上、40μm以下である事を特徴とする上記1に記載の樹脂組成物。
9.(A)ポリアミド及び(B)ポリフェニレンエーテルの量比が、両者の合計を100質量部としたときに(A)ポリアミドが40〜70質量部、(B)ポリフェニレンエーテルが60〜30質量部である上記1に記載の樹脂組成物。
10.(C)ホスフィン酸塩類の量が、(A)ポリアミド及び(B)ポリフェニレンエーテルの合計100質量部に対し1〜50質量部である上記1に記載の樹脂組成物。
11.(D)成分として鉱物油、ワックスから選ばれる1種以上の外観改良剤を更に含む上記1に記載の樹脂組成物
12.(D)成分の外観改良剤の量が、(A)ポリアミド及び(B)ポリフェニレンエーテルの合計100質量部に対し、0.1〜10質量部である上記11に記載の樹脂組成物。
13.(C)成分のホスフィン酸塩類が、下式(I)で表されるホスフィン酸塩を90質量%以上含む事を特徴とする上記1に記載の樹脂組成物。
【0013】
【化2】

【0014】
[式中、R及びRは、同一か又は異なり、直鎖状もしくは分岐状のC〜C−アルキル及び/又はアリールもしくはフェニルであり、Mはカルシウム(イオン)、マグネシウム(イオン)、アルミニウム(イオン)、亜鉛(イオン)、ビスマス(イオン)、マンガン(イオン)、ナトリウム(イオン)、カリウム(イオン)及びプロトン化された窒素塩基から選ばれる1種以上であり、mは2又は3である。]
【0015】
14.(E)成分として、芳香族ビニル化合物を主体とするブロックを少なくとも1個と、共役ジエン化合物を主体とするブロックを少なくとも1個含むブロック共重合体および/または該ブロック共重合体の水素添加物を含む衝撃改良材を、更に含む1に記載の樹脂組成物。
15.(F)成分として無機充填材を、無機充填材を含む樹脂組成物すべての質量を100質量%とした際に、1〜70質量%の量で含む上記1に記載の樹脂組成物。
16.(A)ポリアミド、(B)ポリフェニレンエーテル及び(C)下式(I)で表されるホスフィン酸塩、下式(II)で表されるジホスフィン酸塩及びこれらの縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のホスフィン酸塩類を含んでなる事を特徴とする樹脂組成物の製造方法であって、(C)成分が、(A)成分と(B)成分の溶融混合物中へ添加される事を特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【0016】
【化3】

【0017】
[式中、R及びRは、同一か又は異なり、直鎖状もしくは分岐状のC〜C−アルキル及び/又はアリールもしくはフェニルであり、Rは、直鎖状もしくは分岐状のC〜C10−アルキレン、C〜C10−アリーレン、C〜C10−アルキルアリーレン又はC〜C10−アリールアルキレンであり、Mはカルシウム(イオン)、マグネシウム(イオン)、アルミニウム(イオン)、亜鉛(イオン)、ビスマス(イオン)、マンガン(イオン)、ナトリウム(イオン)、カリウム(イオン)及び/又はプロトン化された窒素塩基から選ばれる1種以上であり、mは、2又は3であり、nは、1〜3であり、xは、1又は2である。]
【0018】
17.(A)ポリアミド、(B)ポリフェニレンエーテル、(C)下式(I)で表されるホスフィン酸塩、下式(II)で表されるジホスフィン酸塩及びこれらの縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のホスフィン酸塩類、及び(D)外観改良剤、(E)衝撃改良材からなる樹脂組成物の製造方法であって、
(1)(D)外観改良剤を(A)ポリアミド、(B)ポリフェニレンエーテル及び(E)衝撃改良材から選ばれる1種以上と混合してマスターバッチを製造する工程、及び
(2)該マスターバッチを残余の成分と溶融混練する工程の少なくとも2つの工程
の少なくとも2つの工程を含む事を特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【0019】
【化4】

【0020】
[式中、R及びRは、同一か又は異なり、直鎖状もしくは分岐状のC〜C−アルキル及び/又はアリールもしくはフェニルであり、Rは、直鎖状もしくは分岐状のC〜C10−アルキレン、C〜C10−アリーレン、C〜C10−アルキルアリーレン又はC〜C10−アリールアルキレンであり、Mはカルシウム(イオン)、マグネシウム(イオン)、アルミニウム(イオン)、亜鉛(イオン)、ビスマス(イオン)、マンガン(イオン)、ナトリウム(イオン)、カリウム(イオン)及びプロトン化された窒素塩基から選ばれる1種以上であり、mは2又は3であり、nは1〜3であり、xは1又は2である。]
【0021】
18.上記16または17のいずれかに記載の製造方法より得られるペレット。
19.上記1〜18のいずれかに記載の樹脂組成物から得られる成形品。
20.上記1〜18のいずれかに記載の樹脂組成物から得られる表面実装技術対応部品。
【発明の効果】
【0022】
本発明の樹脂組成物を使用する事によって、難燃性、耐衝撃性に優れ、薄肉部品での優れた成形性を有し、成形加工時のガスの発生を大幅に抑制する事ができ、また、射出成形時の金型への付着物(モールドデポジット)の生成を大幅に抑制する事のできる樹脂組成物が得られる。その結果、表面外観に優れる成形品を提供する事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の内容を詳細に説明する。
本発明で使用する事のできるポリアミドとしては、ポリマー主鎖の繰り返し単位中にアミド結合{−NH−C(=O)−}を有するものであれば、いずれも使用する事ができる。
一般にポリアミドは、ラクタム類の開環重合、ジアミンとジカルボン酸の重縮合、ωアミノカルボン酸の重縮合などによって得られるが、これらの方法によって得られた樹脂に限定されるものではない。
【0024】
上記ジアミンとしては、大別して脂肪族、脂環式および芳香族ジアミンが挙げられる。ジアミンの具体例としては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、1,9−ノナンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミン等の脂肪族ジアミン1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、1,4−ビスアミノメチルシクロヘキサン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミンなどが挙げられる。
【0025】
ジカルボン酸としては、大別して脂肪族、脂環式および芳香族ジカルボン酸が挙げられる。ジカルボン酸の具体例としては、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,1,3−トリデカン二酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ダイマー酸などが挙げられる。
ラクタム類としては、具体的にはεカプロラクタム、エナントラクタム、ωラウロラクタムなどが挙げられる。
また、アミノカルボン酸としては、具体的にはεアミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、8−アミノオクタン酸、9−アミノナノン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、13−アミノトリデカン酸などが挙げられる。
本発明においては、これらラクタム類、ジアミン、ジカルボン酸、ωアミノカルボン酸は、単独あるいは二種以上の混合物にして重縮合を行って得られる共重合ポリアミド類はいずれも使用する事ができる。
また、これらラクタム類、ジアミン、ジカルボン酸、ωアミノカルボン酸を重合反応機内で低分子量のオリゴマーの段階まで重合し、押出機等で高分子量化したものも好適に使用する事ができる。
【0026】
特に本発明で好適に用いる事のできるポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド4,6、ポリアミド11,ポリアミド12,ポリアミド6,10、ポリアミド6,12、ポリアミド6/6,6、ポリアミド6/6,12、ポリアミドMXD(m−キシリレンジアミン),6、ポリアミド6,T、ポリアミド9,T、ポリアミド6,I、ポリアミド6/6,T、ポリアミド6/6,I、ポリアミド6,6/6,T、ポリアミド6,6/6,I、ポリアミド6/6,T/6,I、ポリアミド6,6/6,T/6,I、ポリアミド6/12/6,T、ポリアミド6,6/12/6,T、ポリアミド6/12/6,I、ポリアミド6,6/12/6,Iなどが挙げられる。これらのうち、複数のポリアミドを押出機等で共重合化したポリアミド類も使用する事ができる。中でも好ましいポリアミドは、脂肪族ポリアミドのポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド4,6、ポリアミド11、ポリアミド12;および半芳香族ポリアミドのポリアミド9,T、ポリアミド6/6,T、ポリアミド6,6/6,T、ポリアミド6,6/6,I、ポリアミドMXD,6;から選ばれる1種以上であり、最も好ましくは、ポリアミド6,6、ポリアミド6、ポリアミド9,Tから選ばれる1種以上のポリアミドである。
【0027】
本発明で使用されるポリアミドはISO307:1994に準拠し96%硫酸で測定した粘度数が50ml/g〜250ml/gである必要がある。ポリアミドの粘度数を50ml/g以上とする事により、押出し等の加工性が向上するとともに、難燃性が向上し、成形時のガスの発生が大幅に抑制される。また、モールドデポジットの発生が少ないので、射出成形時の正常な成形が可能なショット数を飛躍的に増やす事ができ、成形性の大幅な改善につながる。また、粘度数を250ml/g以下とする事により、上述した効果に加え、薄肉成形品の成形性の向上といった新たな効果が発現できるようになる。
好ましい下限値は70ml/gであり、更に好ましい下限値は100ml/gである。また、好ましい上限値は、200ml/gであり、最も好ましい上限値は150ml/gである。
【0028】
また、本発明で使用されるポリアミドがポリアミド9,T等の半芳香族ポリアミドである場合は、好適な粘度範囲が若干異なる。好適な粘度数の下限値は、70ml/gであり、更に好ましい下限値は100ml/gである。また、より好ましい上限値は150ml/gであり、最も好ましい上限値は120ml/gである。
本発明の効果である種々の特性は、ポリアミドの粘度数により大きく変動し、特定範囲内の粘度数を有するポリアミドを使用した場合において特異的に特性の改善が見られる。
【0029】
本発明の樹脂組成物に使用可能なポリアミドは、粘度数の異なる複数のポリアミドの混合物であっても良い。複数のポリアミドを使用した場合、ポリアミドの粘度数は、上述した範囲内のもの50質量%以上(すべてのポリアミドを100質量%としたとき)含まれている事が望ましい。更に望ましくは、そのポリアミド混合物自体の粘度数が本発明の特許請求の範囲内にある事である。ポリアミド混合物が上述の粘度数の範囲内にある事を確認するためには、所望の混合比で混合したポリアミド混合物の粘度数を実測する事で容易に確かめる事ができる。
【0030】
また、本発明において、ポリアミドとして半芳香族ポリアミドを使用する際においては、以下に詳述する半芳香族ポリアミドを用いる事が望ましい。
好ましく使用可能な半芳香族ポリアミドは、構成するジカルボン酸単位(a)として、テレフタル酸単位を60〜100モル%含有する事が望ましい。ジカルボン酸単位(a)中におけるテレフタル酸単位の含有率は、75〜100モル%の範囲内である事がより好ましく、90〜100モル%の範囲内である事がさらに好ましく、実質的にすべてのジカルボン酸単位がテレフタル酸単位である事が最も好ましい。
【0031】
上述したように、ジカルボン酸単位(a)は、40モル%以下であれば、テレフタル酸単位以外の他のジカルボン酸単位を含んでいてもよい。他のジカルボン酸単位としては、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸から誘導される単位を挙げる事ができ、これらのうちの1種または2種以上を使用する事ができる。これらのなかでも芳香族ジカルボン酸から誘導される単位が好ましい。さらに、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸から誘導される単位を、溶融成形が可能な範囲内で含んでいてもよい。
ジカルボン酸単位(a)における他のジカルボン酸単位の含有率は、25モル%以下である事がより好ましく、10モル%以下である事が更に好ましく、実質的に含まない事が最も好ましい。
【0032】
本発明で使用可能な半芳香族ポリアミドを構成するジアミン単位(b)は、1,9−ノナメチレンジアミン単位(b−1)および2−メチル−1,8−オクタメチレンジアミン単位(bー2)を合計量として60〜100モル%含有している事が望ましい。
ジアミン単位(b)中における、1,9−ノナメチレンジアミン単位(bー1)および2−メチル−1,8−オクタメチレンジアミン単位(b−2)の含有率は、75〜100モル%である事がより好ましく、90〜100モル%である事が更に好ましく、実質的にすべてのジアミン単位が、1,9−ノナメチレンジアミン単位(b−1)および2−メチル−1,8−オクタメチレンジアミン単位(bー2)から構成されている事が、最も好ましい。
【0033】
本発明においては、半芳香族ポリアミド中のジアミン単位(b)中には、40モル%以下であれば、1,9−ノナメチレンジアミン単位および2−メチル−1,8−オクタメチレンジアミン単位以外の他のジアミン単位を含んでいてもよい。この場合の他のジアミン単位としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、5−メチル−1,9−ノナメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン等の脂環式ジアミン;p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエ−テル等の芳香族ジアミンから誘導される単位を挙げる事ができ、これらのうち1種または2種以上を含む事ができる。ジアミン単位(b)における、これら他のジアミン単位の含有率は25モル%以下である事がより好ましく、10モル%以下である事が更に好ましく、実質的に含まない事が最も好ましい。
【0034】
また、ジアミン単位中の、1,9−ノナメチレンンジアミン単位(b−1)と2−メチル−1,8−オクタメチレンジアミン単位(b−2)の合計量を100モル%としたときの、1,9−ノナメチレンジアミン単位(b−1)の好ましい比率としては、下限値として、60モル%が好ましい。より好ましい下限値は、75モル%、更に好ましくは80モル%である。下限値をより高くする事により、耐熱性を高めるとともに、吸水性を抑制する事ができる。上限値としては、95モル%が好ましい。より好ましくは90モル%、更に好ましくは85モル%である。上限値をより低くする事により、耐衝撃性や、引っ張り伸びといった機械的特性を向上させるとともに、成形品の表面外観向上といった効果が得られる。
【0035】
ポリアミドの末端基は、ポリフェニレンエーテルとの反応に関与する。
ポリアミドは末端基として一般にアミノ基、又はカルボキシル基を有しているが、一般的に末端カルボキシル基濃度が高くなると、耐衝撃性が低下し、流動性が向上し、逆に末端アミノ基濃度が高くなると耐衝撃性が向上し、流動性が低下する。
本発明における、ポリアミドの末端アミノ基/末端カルボキシル基濃度比は1.0以下である事が好ましい。より好ましくは0.05〜0.8の範囲内である。この範囲とする事により、組成物の流動性と耐衝撃性のバランスを維持する事ができる。
【0036】
また、末端アミノ基濃度は1〜80μmol/gである事が好ましい。より好ましくは5〜60μmol/gであり、更に好ましくは、10μmol/g以上45μmol/g未満、最も好ましくは、20μmol/g以上40μmol/g以下である。末端アミノ基濃度を上述した範囲内とする事により、組成物の流動性と耐衝撃性のバランスを維持する事ができる。
また、末端カルボキシル基濃度は、20μmol/g〜150μmol/gである事が好ましい。より好ましくは、30μmol/g〜130μmol/gである。末端カルボキシル基濃度を上述した範囲にする事により、組成物の流動性と耐衝撃性のバランスを維持する事ができる。
【0037】
これらポリアミド樹脂の末端基の調整方法は、公知の方法を用いる事ができる。例えばポリアミド樹脂の重合時に所定の末端濃度となるようにジアミン化合物、モノアミン化合物、ジカルボン酸化合物、モノカルボン酸化合物などから選ばれる1種以上を添加する方法が挙げられる。
本発明でいう末端アミノ基と末端カルボキシル基の濃度は、種々の方法により測定可能であるが、H−NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値より求めるのが精度、簡便さの点で好ましい。例えば、半芳香族ポリアミドの末端基濃度定量の具体的方法としては、特開平7−228689号公報の実施例に記載された方法に従う事が推奨される。
【0038】
本発明のポリアミドとして半芳香族ポリアミドを使用する場合は、その分子鎖の末端基の10〜95%が末端封止剤により封止されている事が好ましい。分子鎖の末端基が末端封止剤により封止されている割合(末端封止率)の下限値は、40%である事がより好ましく、60%である事がさらに好ましい。末端封止率が10%以上とする事により、本発明の樹脂組成物の溶融成形時の粘度変化を小さくする事ができ、得られる成形品の外観、加工時の耐熱安定性等の物性に優れるといった効果が得られるので望ましい。また末端封止率の上限値は、95%である事が好ましく、90%である事がさらに好ましい。上限値を95%以下とする事により組成物の耐衝撃性と成形品の表面外観に優れるといった効果が得られるので好ましい。
【0039】
本発明の半芳香族ポリアミドの末端封止率は、ポリアミド系樹脂に存在する末端カルボキシル基、末端アミノ基および末端封止剤によって封止された末端基の数をそれぞれ測定し、下記の式(1)に従って求める事ができる。
末端封止率(%)=[(α−β)/α]×100 (1)
〔式中、αは分子鎖の末端基の総数(これは通常、ポリアミド分子の数の2倍に等しい)を表し、βは封止されずに残ったカルボキシル基末端およびアミノ基末端の合計数を表す。〕
末端封止剤としては、ポリアミド樹脂末端のアミノ基またはカルボキシル基との反応性を有する単官能性の化合物であれば特に制限はないが、反応性および封止末端の安定性などの点から、モノカルボン酸またはモノアミンが好ましく、取扱いの容易さなどの点から、モノカルボン酸がより好ましい。その他、酸無水物、モノイソシアネ−ト、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコ−ル類などを末端封止剤として使用する事ができる。
【0040】
末端封止剤として使用されるモノカルボン酸としては、アミノ基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α−ナフタレンカルボン酸、β−ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;これらの任意の混合物などを挙げる事ができる。これらのなかでも、反応性、封止末端の安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸が好ましく、酢酸、安息香酸が特に好ましい。
【0041】
末端封止剤として使用されるモノアミンとしては、カルボキシル基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン;これらの任意の混合物などを挙げる事ができる。これらの中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性、価格などの点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリンが好ましく、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミンが特に好ましい。
【0042】
また、本発明においては、ポリアミド樹脂によって樹脂組成物に付与される耐熱安定性をさらに向上させる目的で、樹脂組成物中に遷移金属及び/又はハロゲンを存在させても構わない。
遷移金属の種類に関しては特に制限はないが、銅、セリウム、ニッケル、コバルトが好ましく、特に銅が好ましい。また、ハロゲンの中でも、臭素又はヨウ素が好ましく使用できる。
遷移金属の好ましい量は、樹脂組成物すべてを100質量%としたとき、1ppm以上200ppm未満である。さらに好ましくは5ppm以上100ppm未満である。また、ハロゲンの好ましい量は同様に、500ppm以上1500ppm未満であり、より好ましくは、700ppm以上1200ppm未満である。
【0043】
これら遷移金属及び/又はハロゲンの樹脂組成物への添加方法としては、例えば、ポリアミド/ポリフェニレンエーテルの組成物を溶融混練する時に粉体として添加する方法、ポリアミドの重合時に添加する方法、ポリアミドに高濃度で添加したマスターペレットを作成した後、このマスターペレットを樹脂組成物へ添加する方法等が挙げられるが、いずれの方法をとっても構わない。これらの方法の中で好ましい方法は、ポリアミドの重合時に添加する方法、又はポリアミドに高濃度で添加したマスターペレットを作成したのち添加する方法である。
【0044】
また、本発明においては、上述した遷移金属及び/又はハロゲンの他に、公知の有機安定剤も問題なく使用する事ができる。有機安定剤の例としては、イルガノックス1098(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製)等に代表されるヒンダードフェノール系酸化防止剤、イルガフォス168(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製)等に代表されるリン系加工熱安定剤、HP−136(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製)に代表されるラクトン系加工熱安定剤、イオウ系耐熱安定剤、ヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられる。これら有機安定剤の中でもヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系加工熱安定剤、もしくはその併用がより好ましい。これら有機安定剤の好ましい配合量は、ポリアミド樹脂の100質量部に対して、0.001〜1質量部である。
さらに、上記の他にポリアミドに添加する事が可能な公知の添加剤等もポリアミド100質量部に対して10質量部未満の量で添加してもかまわない。
【0045】
本発明で使用できるポリフェニレンエーテルとは、下記式(1)の構造単位からなる、ホモ重合体及び/または共重合体である。
【0046】
【化5】

【0047】
〔式中、Oは酸素原子、Rは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、第一級もしくは第二級の低級アルキル、フェニル、ハロアルキル、アミノアルキル、炭化水素オキシ、又はハロ炭化水素オキシ(但し、少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子を隔てている)を表わす。〕
【0048】
本発明のポリフェニレンエーテルの具体的な例としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)等が挙げられ、さらに2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類との共重合体(例えば、特公昭52−17880号公報に記載されてあるような2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体や2−メチル−6−ブチルフェノールとの共重合体)のごときポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。
これらの中でも特に好ましいポリフェニレンエーテルとしては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体、またはこれらの混合物である。
【0049】
本発明で用いるポリフェニレンエーテルの製造方法は公知の方法で得られるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、米国特許第3306874号明細書、同第3306875号明細書、同第3257357号明細書及び同第3257358号明細書、特開昭50−51197号公報、特公昭52−17880号公報及び同63−152628号公報等に記載された製造方法等が挙げられる。
本発明のポリフェニレンエーテルの還元粘度(0.5g/dlクロロホルム溶液、30℃、ウベローデ型粘度管で測定)の好ましい範囲は、0.30dl/g〜0.80dl/gの範囲内である。より好ましくは、0.35dl/g〜0.75dl/gの範囲であり、最も好ましくは0.38dl/g〜0.55dl/gである。ポリフェニレンエーテルの還元粘度がこの範囲にあると、耐衝撃性、耐熱性などの特性に優れ好ましい。
本発明においては、2種以上の還元粘度の異なるポリフェニレンエーテルをブレンドしたものであっても、好ましく使用する事ができる。
【0050】
また、本発明で使用できるポリフェニレンエーテルは、全部又は一部が変性されたポリフェニレンエーテルであっても構わない。ここでいう変性されたポリフェニレンエーテルとは、分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合又は三重結合、及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基又はグリシジル基を有する、少なくとも1種の変性化合物で変性されたポリフェニレンエーテルを指す。変性されたポリフェニレンエーテルを用いる事により、耐衝撃性、引張強度などの特性を向上させる事が可能となり好ましい。
【0051】
該変性されたポリフェニレンエーテルの製法としては、ラジカル開始剤の存在下又は不存在下で、(1)100℃以上、ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度未満の温度範囲でポリフェニレンエーテルを溶融させる事なく変性化合物と反応させる方法、(2)ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度以上、360℃以下の温度範囲で変性化合物と溶融混練して反応させる方法、(3)ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度未満の温度で、ポリフェニレンエーテルと変性化合物を溶液中で反応させる方法等が挙げられ、これらいずれの方法でも構わないが、(1)又は(2)の方法が好ましい。
【0052】
次に分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合又は三重結合、及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基又はグリシジル基を有する少なくとも1種の変性化合物について具体的に説明する。
分子内に炭素−炭素二重結合、及びカルボン酸基又は酸無水物基を同時に有する変性化合物としては、マレイン酸、フマル酸、クロロマレイン酸、シス−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸及びこれらの酸無水物などが挙げられる。特にフマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が良好で、フマル酸、無水マレイン酸が特に好ましい。また、これら不飽和ジカルボン酸の2個のカルボキシル基の内、1個または2個がエステルになっているものも使用可能である。
【0053】
分子内に炭素−炭素二重結合及びグリシジル基を同時に有する変性化合物としては、アリルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、エポキシ化天然油脂等が挙げられる。これらの中でグリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレートが特に好ましい。
分子内に炭素−炭素二重結合及び水酸基を同時に有する変性化合物としては、アリルアルコール、4−ペンテン−1−オール、1,4−ペンタジエン−3−オールなどの一般式C2n−3OH(nは正の整数)の不飽和アルコール、一般式C2n−5OH、C2n−7OH(nは正の整数)等の不飽和アルコール等が挙げられる。
上述した変性化合物は、それぞれ単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0054】
変性されたポリフェニレンエーテルを製造する際の変性化合物の添加量は、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、更に好ましくは0.3〜5質量部である。
ラジカル開始剤を用いて変性されたポリフェニレンエーテルを製造する際の好ましいラジカル開始剤の量は、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して0.001〜1質量部である。
また、変性されたポリフェニレンエーテルへの変性化合物の付加率は、0.01〜5質量%が好ましい。より好ましくは0.1〜3質量%である。
該変性されたポリフェニレンエーテル中には、未反応の変性化合物及び/または、変性化合物の重合体が1質量%未満の量であれば残存していても構わない。
【0055】
また、本発明では、スチレン系熱可塑性樹脂をポリアミドとポリフェニレンエーテルの合計100質量部に対し、50質量部未満の量であれば配合しても構わない。
本発明でいうスチレン系熱可塑性樹脂の例としては、ホモポリスチレン、ゴム変性ポリスチレン(HIPS)、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレン−ゴム質重合体−アクリロニトリル共重合体(ABS樹脂)等が挙げられる。
また、ポリフェニレンエーテルの安定化の為に公知となっている各種安定剤も好適に使用する事ができる。安定剤の例としては、酸化亜鉛、硫化亜鉛等の金属系安定剤、ヒンダードフェノール系安定剤、リン系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤等の有機安定剤であり、これらの好ましい配合量は、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して5質量部未満である。
更に、ポリフェニレンエーテルに添加する事が可能な公知の添加剤等もポリフェニレンエーテル100質量部に対して10質量部未満の量で添加しても構わない。
【0056】
本発明において、(A)ポリアミドと(B)ポリフェニレンエーテルを用いる際の好ましい量比は、両者の合計を100質量部としたときに(A)ポリアミド40〜70質量部、(B)ポリフェニレンエーテル60〜30質量部の範囲内である。より好ましくは、(A)ポリアミド50〜70質量部、(B)ポリフェニレンエーテル50〜30質量部の範囲内、最も好ましくは(A)ポリアミド50〜60質量部、(B)ポリフェニレンエーテル50〜40質量部の範囲内である。(A)と(B)の比率がこの範囲であると、芳香族系炭化水素などへの耐薬品性や耐熱性に優れ好ましい。
【0057】
また、本発明においてポリフェニレンエーテルの好ましい分散形態としては、ポリアミドが連続相を形成し、ポリフェニレンエーテルが分散相を形成する事が好ましい。特に透過型電子顕微鏡で観察した際に、ポリフェニレンエーテル粒子が平均粒子径0.1〜5μmの分散相として存在する事が好ましい。より好ましくは、0.05〜3μmの範囲内であり、最も好ましくは、0.1〜2μmである。
【0058】
本発明の(C)成分の下式(I)で表されるホスフィン酸塩及び/又は下式(II)で表されるジホスフィン酸塩、またはこれらの縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のホスフィン酸塩類としては、特開2005−179362号公報、ヨーロッパ特許出願公開第699708号公報や特開平08−73720号公報に記載されているように、ホスフィン酸と金属炭酸塩、金属水酸化物又は金属酸化物を用いて水溶液中で製造される。これらは、本質的にモノマー性化合物であるが、反応条件に依存して、環境によっては縮合度が1〜3の縮合物であるポリマー性ホスフィン酸塩も含まれる。
【0059】
【化6】

【0060】
[式中、R及びRは、同一か又は異なり、直鎖状もしくは分岐状のC〜C−アルキル及び/又はアリールもしくはフェニルであり、Rは、直鎖状もしくは分岐状のC〜C10−アルキレン、C〜C10−アリーレン、C〜C10−アルキルアリーレン又はC〜C10−アリールアルキレンであり、Mはカルシウム(イオン)、マグネシウム(イオン)、アルミニウム(イオン)、亜鉛(イオン)、ビスマス(イオン)、マンガン(イオン)、ナトリウム(イオン)、カリウム(イオン)及びプロトン化された窒素塩基から選ばれる1種以上であり、mは2又は3であり、nは1〜3であり、xは1又は2である。]
【0061】
本発明のホスフィン酸塩類は、本発明の効果を損ねない範囲であれば、如何なる組成で混合されていても構わないが、難燃性、モールドデポジットの抑制の観点から、上記(I)で表されるホスフィン酸塩を90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、最も好ましくは98質量%以上含んでいる事が好ましい。
本発明において、好ましく使用可能なホスフィン酸の具体例としては、ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、メチル−n−プロピルホスフィン酸、メタンジ(メチルホスフィン酸)、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)、メチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸およびこれらの混合物等が挙げられる。
【0062】
また好ましく使用可能な金属成分としてはカルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、ビスマスイオン、マンガンイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン)及び/又はプロトン化された窒素塩基から選ばれる1種以上であり、より好ましくは、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオンから選ばれる1種以上である。
【0063】
ホスフィン酸塩類の好ましく使用可能な具体例としては、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル−n−プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸亜鉛、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸亜鉛が挙げられる。
【0064】
特に難燃性や、モールドデポジットの抑制の観点からジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛が好ましい。中でもジエチルホスフィン酸アルミニウムが特に好ましい。
【0065】
本発明において、好ましいホスフィン酸塩類の量は、(A)ポリアミド及び(B)ポリフェニレンエーテルの合計100質量部に対し、1〜50質量部である。さらに好ましくは、2〜25質量部、特に好ましくは2〜15質量部、最も好ましくは2〜10質量部である。ホスフィン酸塩類の量を1質量部以上とする事により、充分な難燃性を発現させる事が可能となる。また、ホスフィン酸塩類の量を50質量部以下とする事により、押出加工に適した溶融粘度とする事ができ好ましい。
【0066】
また、本発明の樹脂組成物を成形して得られる成形品の機械的強度、成形品外観を考慮し、好ましいホスフィン酸塩類の平均粒子径の下限値は0.5μmである。より好ましい下限値は1.0μmであり、最も好ましい下限値は2μmである。また、好ましいホスフィン酸塩類の平均粒子径の上限値は40μmであり、より、好ましい上限値は20μmであり、更に好ましくは15μmであり、最も好ましくは10μmである。
ホスフィン酸塩類の数平均粒子径を0.5μm以上とする事により、溶融混練等の加工時において、取扱い性や押出し機等への噛み込み性が向上し好ましい。また、平均粒子径を40μm以下とする事により、樹脂組成物の機械的強度が発現し易くなり、かつ成形品の表面良外観が向上するといった効果が得られ好ましい。
【0067】
ホスフィン酸塩類の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布計(例えば、島津製作所社製、商品名:SALD−2000)を用い、水中にホスフィン酸塩類を分散させ測定解析する事が出来る。水のホスフィン酸塩類への分散方法は、超音波拡散機およびまたは、攪拌機を備えた攪拌槽へ水及びホスフィン酸塩類を加える事で可能である。この分散液をポンプを介してレーザー回折粒度分布計の測定セルへ送液し、レーザー回折により粒子径を測定する。測定によって得られる、粒子径と粒子数の頻度分布より数平均粒子径として計算する事が出来る。
また、本発明におけるホスフィン酸塩類には、本発明の効果を損なわなければ、未反応物あるいは副生成物が残存していても構わない。
【0068】
また、本発明の樹脂組成物中において、ホスフィン酸塩類は、ポリアミド及び/またはポリフェニレンエーテル中に分散した分散状態を呈する。さらには、該樹脂組成物を光学顕微鏡を用いて樹脂組成物断面の連続した3mmの面を観察した際に、ホスフィン酸塩類粒子の長径30μm以上の粒子数が50個以下である事が好ましい。さらに好ましくは、30個以下である。下限は特にないが、1個程度は存在していても問題ない事から1個である。
ホスフィン酸塩類が上述した条件下において50個以下であると、樹脂組成物の機械的強度(特に引張伸度・面衝撃強度)や、成形片の外観が向上する。
【0069】
本発明の樹脂組成物中のホスフィン酸塩類の分散状態の具体的な確認方法としては、次の方法を用いる。まず該樹脂組成物をガラスナイフ装着のミクロトームを用いて、鏡面状に切削する。その切削面を光学顕微鏡(PME3:オリンパス社製)を用いて100倍の倍率で反射光によって観察し、少なくとも3mmの面積について写真撮影を行う。そして、3mmの面積の中に存在する長径が30μm以上のホスフィン酸塩類の分散粒子の数を目視で数える事で可能である。観察方向に関しては、観察対象が円柱状ペレット形状の場合は、ペレット長辺に対してほぼ垂直な断面に切削して観察を行う事が望ましい。また成形片である場合、少なくとも3ヶ所の異なる部位でそれぞれ3mmの面積について観察し、その平均値をもって表す事が望ましい。
【0070】
樹脂組成物中におけるホスフィン酸塩類粒子の長径30μm以上の粒子数を50個以下に制御する為には、種々の方法があるが、例えば、ホスフィン酸塩類をあらかじめフルイ等により分級し、大粒子の塊を除去しておく方法、(A)成分とともに溶融混練してマスターバッチとする工程を用いて、機械的なせん断で粉砕する方法等が挙げられるが、マスターバッチ工程で粉砕する方法が経済的観点より好ましい。
(A)成分及び(C)成分を含む該マスターバッチ中における(C)成分の好ましい量は、該マスターバッチを100質量%とした際に、30〜70質量%の範囲内である。より好ましくは35〜65質量%であり、最も好ましくは40〜60質量%範囲内である。
【0071】
本発明において、(C)成分のホスフィン酸塩類を単独で使用する事が、射出成形時のモールドデポジットを抑制するため特に好ましいが、本発明の目的を損なわない程度であれば、例えば国際特許公開2005/118698号パンフレットに記載されているような難燃剤コンビネーションとして使用することも制限するものではない。難燃剤コンビネーションを構成することが可能な成分としては、メラミンとリン酸とから形成される付加物、含亜鉛化合物を挙げることができる。
【0072】
メラミンとリン酸とから形成される付加物の具体例としては、メラミンとポリリン酸との反応生成物及び/またはメラミンの縮合物とポリリン酸との反応生成物、式(NH3−yPOもしくは(NHPO[式中、yは1〜3であり、そしてzは1〜10000である]で表される窒素含有リン酸塩、リン酸水素アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、及び/またはポリリン酸アンモニウムから選ばれる1種以上が挙げられる。特に、次の化学式(C・HPO、(ここでnは縮合度を表す)で示されるもので、メラミンとリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸との実質的に等モルの反応生成物から得られる物が使用可能である。より具体的には、ピロリン酸ジメラミン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メレム、ポリリン酸メラム、ポリリン酸メロン、これらの混合ポリ塩から選ばれる1種以上が挙げられ、これらの中でも、ポリリン酸メラミンが最も多用されている。
【0073】
これらの製法には特に制約はないが、ポリリン酸メラミンに関しての、一例を挙げると、リン酸メラミンを窒素雰囲気下、加熱縮合する方法等が挙げられる。
ここでリン酸メラミンを構成するリン酸としては、具体的にはオルトリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸等が挙げられ、特にオルトリン酸、ピロリン酸を用いたメラミンとの付加物を縮合したポリリン酸メラミンが多用されている。
【0074】
ポリリン酸メラミンとしては、いわゆる縮合リン酸と呼ばれる鎖状ポリリン酸、環状ポリメタリン酸とメラミンの等モルの付加塩が挙げられる。これらポリリン酸の縮合度nには特に制約はなく通常3〜50であるが、縮合度nが5以上のものが、一般的である。
ポリリン酸メラミン付加塩の製造方法は、例えば水中にメラミンとポリリン酸を混合したものが分散したスラリーとし、それをよく混合して両者の反応生成物を微粒子状に形成させた後、このスラリーを濾過、洗浄、乾燥し、さらに必要であれば焼成し、得られた固形物を粉砕して粉末として得る方法が挙げられる。これらは、樹脂に配合する際にプリブレンドしておく事が好ましい。例えば高速ミキサー等を用いてプリブレンドしたものを用いる事が挙げられる。
【0075】
(C)成分100質量部に対するメラミンとリン酸とから形成される付加物の添加量はとしては20質量部以下である事が好ましい。より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下、最も好ましくは実質的に含まないことである。メラミンとリン酸とから形成される付加物をこの範囲で添加する事により、流動性を、若干向上させるという効果を期待できるが、モールドデポジット抑制のためにはメラミンとリン酸とから形成される付加物を実質的に含まない事が望ましい。
本発明において使用可能なメラミンとリン酸とから形成される付加物の平均粒子径としては、0.5μm以上、40μm以下である。本発明に用いる場合は、平均粒子径が0.5μm以上20μm以下の微粉末を選択可能である。
また、メラミンとリン酸とから形成される付加物は、本発明の効果を損なわなければ、未反応物あるいは副生成物が残存していても構わない。
【0076】
更に、難燃剤コンビネーションを構成することが可能な他方の成分である含亜鉛化合物とは、具体的には無機含亜鉛化合物を指し、更に具体的には、酸化亜鉛、硫化亜鉛、ホウ酸亜鉛、スズ酸亜鉛から選ばれる1種以上を指す。xZnO・yB・zHO(x>0、y>0、z>0)で表されるホウ酸亜鉛類が最もよく用いられており、2ZnO・3B・3.5HO、4ZnO・B・HO、2ZnO・3Bで表されるホウ酸亜鉛が一般的である。
これら含亜鉛化合物は、難燃助剤として燃焼時に熱源である炎から樹脂への熱を遮断する事(断熱能力)によって、樹脂の分解で燃料となるガスの発生を抑制し、難燃性を高めるのに必要な不燃層(又は炭化層)の形成する役割を果たすものであると考えられている。
さらには、これらの含亜鉛化合物はシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等の表面処理剤で処理されたものも使用可能である。
この含亜鉛化合物の平均粒子径は、20μm以下のものが一般的であり、機械的特性から、7μm以下が好ましいといわれている。。
【0077】
(C)成分100質量部に対する含亜鉛化合物の添加量はとしては10質量部以下である事が好ましい。より好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下、最も好ましくは実質的に含まないことである。含亜鉛化合物をこの範囲で添加する事により、(C)成分の高温時の安定性を、向上させるという効果が得られる場合がある。難燃性を維持しつつ、機械的特性を向上させるためには含亜鉛化合物を実質的に含まない事が望ましい。 上述した(C)ホスフィン酸塩類と、メラミンとリン酸とから形成される付加物の混合物、および含亜鉛化合物の本組成物への添加方法に特に制限はなく、単独でそれぞれ組成物中に添加する方法、これら3種のうち2種または3種を高速ミキサー(ヘンシェルミキサー)等により予備混合した後、組成物中に添加する方法等が挙げられる。
【0078】
次に本発明の(D)成分の外観改良剤について説明する。
(D)成分の外観改良剤とは、鉱物油、ワックスから選ばれる1種以上である。
本発明において、鉱物油とは、芳香族化合物、ナフテン環化合物およびパラフィン系化合物から選ばれる1種以上を指し、3種を組み合わせた混合物であっても構わない。鉱物油が混合物である場合、芳香族化合物が30%未満である、パラフィン系鉱物油及び/又はナフテン系鉱物油が、(E)衝撃改良材への分散性、溶解性の観点から好ましく使用可能である。
これら鉱物油の性状としては、37.8℃における動粘度が20〜500cst、流動点が−10〜−15℃および引火点が170〜300℃を示すものが好ましい。
【0079】
本発明で使用可能なワックスとしては、パラフィン系ワックス、ポリエチレン系ワックス、ポリオレフィン系ワックス、脂肪酸エステル、脂肪族二塩基酸エステル、フタル酸エステル、芳香族カルボン酸エステル等が挙げられる。このうち特にパラフィン系ワックス、ポリエチレン系ワックス が好ましく用いる事ができる。
これら(D)成分は、一種のみを用いてもよく二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
これら(D)成分の使用量は、表面外観の改良効果および成形体表面へのブリードアウト防止の観点から、(A)ポリアミド及び(B)ポリフェニレンエーテルの合計100質量部に対し、使用量の下限値は0.1質量部である事が好ましい。より好ましい下限値は、0.2質量部である。使用量の上限値は、10質量部である事が好ましく、5質量部がさらに好ましい。
【0081】
本発明の(D)成分は、予め(A)ポリアミド、(B)ポリフェニレンエーテル(E)衝撃改良材から選ばれる1種以上とのマスターバッチとして用いても構わない。
その方法の一例としては、プリブレンドによる方法、プリブレンドを二軸押出機等を用いて溶融混練して製造する方法、プリブレンド物を、オーブン等により加熱平衡化処理する方法等が上げられる。より好ましい方法は、プリブレンド物を、オーブン等により加熱平衡化処理する方法である。このときの、外観改良剤を含むマスターバッチ中の外観改良剤の好ましい含有量は、1〜50質量部である。
【0082】
本発明の(E)衝撃改良材とは、少なくとも1個の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックとからなるブロック共重合体、又はその水素添加物である。
該ブロック共重合体を構成する芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、αメチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられ、スチレンが特に好ましいが、これらに限定されるものではない。これらの芳香族ビニル化合物は2種以上組み合わせて用いてもよい。
また、該ブロック共重合体を構成する共役ジエン化合物の具体例としては、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、1,3−ペンタジエン等が挙げられるが、ブタジエン、イソプレン又はこれらの組み合わせが好ましい。これらに限定されるものではない。これらの共役ジエン化合物は2種以上組み合わせて用いてもよい。
本明細書及び添付の特許請求の範囲で言うところの「主体とする」とは、少なくとも50%以上の量を含むという事を意味し、より好ましくは70%以上の量を含むという事を意味する。
【0083】
ブロック共重合体の共役ジエン化合物としてブタジエンを使用する場合、ポリブタジエンブロック部分のミクロ構造には、1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量の合計量が5〜80%含まれている事が好ましく、さらには10〜50%含まれている事が好ましく、15〜40%含まれている事が最も好ましい。通常、共役ジエン化合物の結合形態として、1,2−ビニル結合、3,4−ビニル結合、1,4−ビニル結合があるが、ここで言うビニル結合量とは、重合時の共役ジエン化合物の結合形態の割合を示すものである。例えば、1,2−ビニル結合量とは、上記3種の結合形態中の1,2−ビニル結合の割合を意味するものであり、赤外分光光度計、核磁気共鳴装置等によって容易に知る事ができる。
【0084】
本発明における少なくとも1個の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックとからなるブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック[S]と共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック[B]が、S−B型、S−B−S型、S−B−S−B型の中から選ばれる結合形式を有するブロック共重合体である事が好ましい。これらの中でもS−B−S型、S−B−S−B型がより好ましく、S−B−S型が最も好ましい。これらはもちろん混合物であっても構わない。
【0085】
本発明においては、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物の水素添加されたブロック共重合体を使用する事もできる。水素添加されたブロック共重合体とは、上述の芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物のブロック共重合体中の脂肪族不飽和二重結合を水素添加反応したものをいう。水素添加反応の前後において、脂肪族不飽和二重結合の単結合化された割合を水素添加率として表す。水素添加率は、核磁気共鳴装置等によって知る事が出来る。該水素添加されたブロック共重合体の好ましい水素添加率は50%以上であり、より好ましくは80%以上、最も好ましくは95%以上である。
本発明において、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物の(場合により水素添加された)ブロック共重合体は数平均分子量100,000以上のブロック共重合体である事が望ましい。より好ましくは150,000以上のブロック共重合体である。
【0086】
本発明でいう数平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定装置を用いて、紫外分光検出器で測定し、標準ポリスチレンで換算した数平均分子量の事を指す。この時、重合時の触媒失活に起因した低分子量成分が検出される事があるが、その場合は分子量の計算に低分子量成分は含めない。通常、このようにして計算された分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は1.0〜1.1の範囲内である。
本発明においては、芳香族ビニル化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量は、15,000以上である事が望ましい。より好ましくは、30,000以上である。芳香族ビニル化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量を15,000以上とする事により、樹脂組成物の耐衝撃性(面衝撃強度)のばらつきを抑える事ができる。
【0087】
なお、芳香族ビニル化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量は、上述したブロック共重合体の数平均分子量を用いて、下式により求める事ができる。
Mn(a)={Mn×a/(a+b)}/N
[上式中において、Mn(a)は芳香族ビニル化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量、Mnは少なくとも1個の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックとからなるブロック共重合体の数平均分子量、aはブロック共重合体中のすべての芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックの質量%、bはブロック共重合体中のすべての共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの質量%、そしてNはブロック共重合体中の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックの数を表す。]
【0088】
これら本発明中で用いる事のできる、これらブロック共重合体は、本発明の趣旨に反しない限り、結合形式の異なるもの、芳香族ビニル化合物種の異なるもの、共役ジエン化合物種の異なるもの、1,2−結合ビニル含有量もしくは1,2−結合ビニル含有量と3,4−結合ビニル含有量の異なるもの、芳香族ビニル化合物成分含有量の異なるもの、水素添加率の異なるもの等の各々について2種以上を混合して用いても構わない。
また、本発明で使用するこれらブロック共重合体は、全部又は一部が変性されたブロック共重合体であっても構わない。
ここでいう変性されたブロック共重合体とは、分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合又は三重結合、及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基又はグリシジル基を有する、少なくとも1種の変性化合物で変性されたブロック共重合体を指す。
【0089】
該変性されたブロック共重合体の製法としては、ラジカル開始剤の存在下又は不存在下で、(1)ブロック共重合体の軟化点温度以上、250℃以下の温度範囲で変性化合物と溶融混練し反応させる方法、(2)ブロック共重合体の軟化点以下の温度で、ブロック共重合体と変性化合物を溶液中で反応させる方法、(3)ブロック共重合体の軟化点以下の温度で、ブロック共重合体と変性化合物を溶融させることなく反応させる方法等が挙げられ、これらいずれの方法でも構わないが、(1)の方法が好ましく、更には(1)の中でもラジカル開始剤存在下で行う方法が最も好ましい。
【0090】
ここでいう分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合又は三重結合、及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基又はグリシジル基を有する少なくとも1種の変性化合物とは、変性されたポリフェニレンエーテルで述べた変性化合物と同じものが使用できる。
【0091】
本発明における(E)衝撃改良材の好ましい量は、ポリアミドとポリフェニレンエーテルの合計量を100質量部としたときに、5〜25質量部である。より好ましくは7〜15質量部である。
【0092】
本発明の(F)成分の無機充填材とは、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、石膏繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維、セラミックス繊維、ボロンウィスカ繊維、マイカ、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、カオリン、焼成カオリン、ウォラストナイト、ゾノトライト、アパタイト、ガラスビーズ、ガラスフレーク、酸化チタン、着色用カーボンブラック等の繊維状、粒状、板状、あるいは針状の無機質強化材が挙げられる。これら無機充填材は2種以上組み合わせて用いても構わない。これらの中でもより好ましい無機充填材としては、タルク、ウォラストナイト、ガラス繊維が挙げられる。また、無機充填材はシランカップリング剤等の表面処理剤を用いて公知の方法で表面処理した物を用いても構わない。
本発明における無機充填材の好ましい量は、無機充填材を含む樹脂組成物すべての質量を100質量%とした際に1〜70質量%である。より好ましい量としては5〜50質量%であり、最も好ましくは10〜45質量%である。
【0093】
本発明においては、ポリアミドとポリフェニレンエーテルの相溶性を向上させるため、相溶化剤を添加することがより好ましい。相溶化剤を使用する主な目的は、ポリアミド−ポリフェニレンエーテル混合物の物理的性質を改良することである。
本発明で使用できる相溶化剤とは、ポリフェニレンエーテル、ポリアミドまたはこれら両者と相互作用する多官能性の化合物を指すものである。この相互作用は化学的(たとえばグラフト化)であっても、または物理的(たとえば分散相の表面特性の変化)であってもよい。いずれにしても得られるポリアミド−ポリフェニレンエーテル混合物は改良された相溶性を示す。
【0094】
本発明で使用することのできる相溶化剤の例としては、特開平8−48869号公報及び特開平9−124926号公報等に詳細に記載されており、これら公知の相溶化剤はすべて使用可能であり、併用使用も可能である。
これら、種々の相溶化剤の中でも、特に好適な相溶化剤の例としては、クエン酸、マレイン酸、イタコン酸およびそれらの無水物から選ばれる1種以上が挙げられる。なかでも、無水マレイン酸及びクエン酸が最も好ましい。
本発明における相溶化剤の好ましい量は、ポリアミドとポリフェニレンエーテルの混合物100質量部に対して0.01〜20質量部であり、より好ましくは0.1〜10質量部、更に好ましくは0.1〜5質量部である。
【0095】
更に、本発明の樹脂組成物には、種々の導電用フィラーを用いる事ができる。その一例としては、導電用カーボンブラック、カーボンナノチューブ(カーボンフィブリル)、グラファイト、炭素繊維等が挙げられる。これらは、2種以上の混合物で用いても構わない。中でも特に導電用カーボンブラック、カーボンナノチューブ(カーボンフィブリル)が好適に用いる事ができる。
【0096】
導電用フィラーを使用する際の量としては、(A)ポリアミドと(B)ポリフェニレンエーテルの合計を100質量部としたとき、0.5〜40質量部の範囲である。好ましくは1〜20質量部、さらに好ましくは1〜10質量部である。最も好ましくは1〜6質量部である。
【0097】
本発明において、導電性フィラーの添加方法に特に制限はないが、好ましい方法としては導電用フィラーをポリアミド中にあらかじめ溶融混練した導電用マスターバッチの形態で添加する方法が挙げられる。この際、マスターバッチ中の導電用フィラーの好ましい量としては、概ね、5〜30質量%(導電用マスターバッチを100質量%としたとき)である。導電用フィラーとして導電用カーボンブラックを用いた際は、5〜15質量%がより好ましく、8〜12質量%が最も好ましい。導電用フィラーとして、カーボンナノチューブ(カーボンフィブリル)、グラファイト、炭素繊維を含む導電用カーボンブラック以外の導電用フィラーを用いた場合は、10〜30質量%が好ましく、15〜25質量%が最も好ましい。
【0098】
導電用マスターバッチの製造方法としては、二軸押出機を用いて製造する方法が好ましい。特に導電用フィラーを溶融したポリアミド中に添加して更に溶融混練する方法が好ましい。
導電用マスターバッチの製造方法の例としては、特に制限はないが、(1)ポリアミドと導電用フィラーを溶融することなく混合したのち、樹脂温度がポリアミドの融点以上となる温度で溶融混練する方法、(2)溶融したポリアミド中に導電用フィラーを添加して溶融混練する方法、(3)ポリアミドと導電用フィラーを溶融することなく混合物を作成し、該混合物を溶融したポリアミド中に供給し、溶融混練する方法、(4)溶融したポリアミド中に導電用フィラーを供給し溶融混練した後、更にポリアミドを供給し溶融混練する方法等が挙げられる。
【0099】
これらの中で最も好ましい態様は、(3)予めポリアミドと導電用フィラーを溶融することなく混合物を作成し、該混合物を溶融したポリアミド中に供給し、溶融混練する方法である。この好ましい製造方法をとることにより、導電用マスターバッチ製造時の樹脂温度を大幅に低下させることが可能となり、導電性樹脂組成物とした後の、モールドデポジットの抑制に非常に効果的である。
【0100】
上述した製法を具体的例を挙げて説明する。
(1) 上流部に1箇所の供給口を有する二軸押出機を使用して、上流部供給口よりポリアミドと導電用フィラーを混合した混合物を供給し、ポリアミドの融点以上の温度で溶融混練する方法。
(2) 上流部に1箇所と下流部に1箇所の供給口を有する二軸押出機を使用して、上流部供給口よりポリアミドを供給し、ポリアミドの融点以上の温度で溶融混練した後、下流部供給口より導電用フィラーを添加して更に溶融混練する製造方法
(3) 上流部に1箇所と下流部に1箇所の供給口を有する二軸押出機を使用して、上流部供給口よりポリアミドの一部を供給し、ポリアミドの融点以上の温度で溶融混練した後、下流部供給口より残りのポリアミドと導電用フィラーを溶融することなく混合した混合物を添加して更に溶融混練する製造方法
(4) 上流部に1箇所、中流部に1箇所、下流部に1箇所の供給口を有する二軸押出機を使用して、上流部供給口よりポリアミドを供給し、ポリアミドの融点以上の温度で溶融混練した後、中流部供給口より導電用フィラーを添加して更に溶融混練し、下流部供給口よりポリアミドを添加して更に溶融混練する方法
これらの中で特に好ましい態様は、(3)の製造方法である。
【0101】
また、これらマスターバッチを製造する際の加工機械のシリンダー設定温度として特に制限はなく、上述のように半芳香族ポリアミドの融点以上の温度であれば問題ないが、好ましい範囲としては、290〜350℃の範囲である事が好ましい。より好ましくは300〜330℃の範囲である。
また、本発明の樹脂組成物には、(C)成分以外の難燃剤を更に含んでもよい。この場合の難燃剤としても、実質的にハロゲンを含まない無機または有機の難燃剤がより好ましい。
本発明における実質的にハロゲンを含まないとは、難燃剤中の塩素・ヨウ素の濃度が2質量%未満の量である。より好ましくは、1質量%未満であり、より好ましくは0.5質量%未満である。
【0102】
使用可能な難燃剤の例としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等に代表される公知の無機難燃剤、トリフェニルフォスフェートや水酸化トリフェニルフォスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)等に代表される有機リン酸エステル類、ポリリン酸アンモニウム等に代表されるリン酸系含窒素化合物、特開平11−181429号公報に記載されてあるようなホスファゼン系化合物、シリコーンオイル類、赤燐やその他公知の難燃剤が挙げられる。
また、本発明においては、滴下防止剤として知られるテトラフルオロエチレン等に代表されるフッ素系ポリマーも、樹脂組成物中に2質量%未満の量であれば使用可能である。
【0103】
本発明では、上記した成分のほかに、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じてその他の添加剤成分を任意の段階で添加しても構わない。
添加剤成分の例としては、ポリエステル、ポリオレフィン等の他の熱可塑性樹脂、可塑剤(低分子量ポリオレフィン、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)及び、帯電防止剤、核剤、流動性改良剤、充填剤、補強剤、各種過酸化物、展着剤、銅系熱安定剤、ヒンダードフェノール系酸化劣化防止剤に代表される有機系熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等である。
これらの成分の具体的な好ましい添加量は、樹脂組成物中にそれぞれ10質量%以下である。より好ましい量は5質量%未満であり、最も好ましくは3質量%以下である。
【0104】
本発明の組成物を得るための具体的な加工機械としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等が挙げられるが、中でも二軸押出機が好ましく、特に、上流側供給口と1カ所以上の下流側供給口を備えた二軸押出機が最も好ましい。
【0105】
少なくとも(A)ポリアミドと、(B)ポリフェニレンエーテル、(C)ホスフィン酸塩類を用いる製造方法の例を挙げると、以下のとおりである。
(1)上流側及び下流側に1ヶ所ずつの供給口を有する二軸押出機を用い、上流側供給口よりポリフェニレンエーテル及び必要に応じ、外観改良材、衝撃改良材、相溶化剤を供給し溶融混練し、下流側供給口よりポリアミド、ホスフィン酸塩類及び必要に応じ、無機充填材、導電性フィラー、その他添加剤を添加して、更に溶融混練する方法。
(2)上流側及び下流側に1ヶ所ずつの供給口を有する二軸押出機を用い、上流側供給口よりポリフェニレンエーテルとホスフィン酸塩類及び必要に応じ、外観改良材、衝撃改良材、相溶化剤を供給し溶融混練し、下流側供給口よりポリアミド及び必要に応じ無機充填材、導電性フィラーを供給し、更に溶融混練する方法。
【0106】
(3)上流側に1ヶ所及び下流側に2ヶ所の供給口を有する二軸押出機を用い、上流側供給口よりポリフェニレンエーテル及び必要に応じ、外観改良剤、衝撃改良材、相溶化剤を供給し溶融混練し、下流側第一供給口(より上流に位置する下流側供給口)よりポリアミドを供給し溶融混練し、下流側第二供給口よりホスフィン酸塩類、必要に応じ無機充填材、導電性フィラーを供給し、更に溶融混練する方法等が挙げられる。
(4)上流側及び下流側に1ヶ所ずつの供給口を有する二軸押出機を用い、上流側供給口より少なくともポリフェニレンエーテル、外観改良剤を含有するマスターバッチ(ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、衝撃改良材から選ばれる1種以上と外観改良剤よりなるマスターバッチ)必要に応じ、衝撃改良材、相溶化剤等を供給し溶融混練し、下流側供給口よりポリアミド、ホスフィン酸塩類及び必要に応じ無機充填材、導電性フィラーを供給し、更に溶融混練する方法。
【0107】
(5)上流側に1ヶ所及び下流側に2ヶ所の供給口を有する二軸押出機を用い、上流側供給口より少なくともポリフェニレンエーテル、外観改良剤を含有するマスターバッチ(ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、衝撃改良材から選ばれる1種以上と外観改良剤よりなるマスターバッチ)、必要に応じ、衝撃改良材、相溶化剤を供給し溶融混練し、下流側第一供給口(より上流に位置する下流側供給口)よりポリアミドを供給し溶融混練し、下流側第二供給口よりホスフィン酸塩類及び必要に応じ無機充填材、導電性フィラーを供給し、更に溶融混練する方法
上述した中では、(3)、(4)、(5)の方法が好ましい。
【0108】
本発明の樹脂組成物を得るための溶融混練温度は特に限定されるものではないが、混練状態等を考慮して通常240〜360℃の中から好適な組成物が得られる条件を任意に選ぶ事ができる。
加工時の押出機の回転数は、150〜800rpmが好ましく、250〜700rpmがより好ましい。ホスフィン酸塩類の分散性を高める為には回転数は150rpm以上とし、樹脂の分解を抑制する為には800rpm以下とする事が望ましい。
このようにして得られる本発明の組成物は、従来より公知の種々の方法、例えば、射出成形により各種部品の成形体として利用できる。
【0109】
本発明の樹脂組成物は、1.6mm厚み試験片におけるUL94に準拠して垂直接炎で測定した平均燃焼時間が25秒以下である組成物が、各種用途に好適に用いることができ好ましい。より好ましくは、同じ測定方法に則り、滴下による綿着火がない難燃性を持つ事であり、最も好ましくは平均燃焼時間が5秒以下である事である。
本発明の樹脂組成物は、特に電気電子部品及び自動車用電気電子部品に好適に使用可能である。中でも特に自動車用電気電子部品の一つである、リレーブロック材や電気・電子分野のSMT対応部品に好適に使用可能である。
【実施例】
【0110】
次に、実施例及び比較例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例に用いた原材料及び測定方法を以下に示す
【0111】
[原材料]
(A)ポリアミド
(A−1)ポリアミド9T(以下、PA9T−aと略記)
特開2000−204239号公報の実施例に記載の方法を参考に、テレフタル酸3256.2g(19.6モル)、1,9−ノナンジアミン2690.9g(17.0モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン474.9g(3.0モル)、安息香酸97.7g(0.8モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物6.5g(前記のポリアミドの原料4者の合計に対して0.1質量%)および蒸留水6リットルを、内容積20リットルのオートクレーブに入れ、内部を窒素で置換した。100℃で30分間攪拌した後、2時間かけて内部温度を310℃に昇温した。この時、オートクレーブは22kg/cmまで昇圧した。そのまま1時間この状態を保持した後、330℃に昇温し、その後2時間、330℃に温度を保ち、水蒸気を徐々に抜いて、圧力を22kg/cmに保ちながら反応させた。次に、30分かけて圧力を10kg/cmまで下げ、さらに1時間反応させて、極限粘度[η]が0.30dl/gのプレポリマーを得た。このプレポリマーを、100℃の温度で減圧下に12時間乾燥し、2mm以下の大きさまで粉砕した。これを温度230℃、圧力0.1mmHgの条件下に10時間固相重合し、ポリアミドの粒状ポリマーを得た。得られた粒状ポリマーを、シリンダー温度330℃に設定した二軸押出機を用いてペレット状とし、これをPA9T−aとした。得られたPA9T−aを分析したところ、融点308℃、粘度数(ISO307:1997で規定される96%硫酸中で測定)100ml/g、末端アミノ基濃度:40μmol/gであった。
なお、融点は示差走査熱量測定装置(Piris−1:パーキンエルマー社製)で測定し、末端封止率と末端基濃度は、特開平7−228689号公報の実施例に記載されている末端封止率の測定方法に従い測定した。
【0112】
(A−2)ポリアミド9T(以下、PA9T−bと略記)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を3272.8g(19.7モル)、末端封止剤として安息香酸73.26g(0.6モル)に変えた以外は、(1−1)と同様な方法により重合を行い、ポリアミドの粒状ポリマーを得た。得られた粒状ポリマーを、シリンダー温度330℃に設定した二軸押出機を用いて加工してペレット状とし、これをPA9T−bとした。得られたPA9T−bを(1−1)と同様に分析したところ、融点:308℃、粘度数(ISO307:1997で規定される96%硫酸中で測定)140ml/g、末端アミノ基濃度:10μmol/gであった。
【0113】
(A−3)ポリアミド9T(以下、PA9T−cと略記)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を3222.9g(19.4モル)、末端封止剤として安息香酸146.55g(1.2モル)に変えた以外は、(1−1)と同様な方法により重合を行い、ポリアミドの粒状ポリマーを得た。得られた粒状ポリマーをシリンダー温度330℃に設定した二軸押出機を用いて加工してペレット状とし、これをPA9T−cとした。得られたPA9T−bを(1ー1)と同様に分析したところ、融点:308℃、粘度数(ISO307:1997で規定される96%硫酸中で測定)60ml/g、末端アミノ基濃度:50μmol/gであった。
【0114】
(A−4)ポリアミド9T(以下、PA9T−dと略記)
末端封止剤として安息香酸109.9g(0.9モル)に変えた以外は、(1−1)と同様な方法により重合を行い、ポリアミドの粒状ポリマーを得た。得られた粒状ポリマー部をシリンダー温度330℃に設定した二軸押出機を用いて加工してペレット状とし、これをPA9T−cとした。得られたPA9T−bを(1ー1)と同様に分析したところ、融点:308℃、粘度数(ISO307:1997で規定される96%硫酸中で測定)70ml/g、末端アミノ基濃度:40μmol/gであった。
【0115】
(A−5)ポリアミド9T(以下、PA9T−eと略記)
末端封止剤として安息香酸42.7g(0.35モル)に変えた以外は、(1−1)と同様な方法により重合を行い、ポリアミドの粒状ポリマーを得た。得られた粒状ポリマーをシリンダー温度330℃に設定した二軸押出機を用いて加工してペレット状とし、これをPA9T−cとした。得られたPA9T−bを(1−1)と同様に分析したところ、融点:309℃、粘度数(ISO307:1997で規定される96%硫酸中で測定)160ml/g、末端アミノ基濃度:25μmol/gであった。
【0116】
(A−6)ポリアミド66(以下、PA66−aと略記)
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩2400gとアジピン酸100g、および純水2.5リットルを5リットルのオートクレーブの中に仕込み、良く撹拌した。オートクレーブ内の雰囲気を充分窒素で置換した後、撹拌しながら室温から220℃まで約1時間かけて昇温した。この際、オートクレーブ内のゲージ圧は、水蒸気による自然圧で1.76MPaとなった。続いて、加熱とバルブ開閉によりおよそ30分かけて、内温260℃、内圧が0.2MPaになるまで降圧した。その後、約1時間かけて室温まで急冷却した。冷却後オートクレーブを開け、約2kgのポリマーを取りだし、粉砕した。得られたポリアミドの粘度数(ISO307:1997で規定される96%硫酸中で測定)は40ml/gであった。
【0117】
(A−7)ポリアミド66(以下、PA66−bと略記)
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩2400gとアジピン酸100g、および純水2.5リットルを5リットルのオートクレーブの中に仕込み、良く撹拌した。オートクレーブ内の雰囲気を充分窒素で置換した後、撹拌しながら室温から220℃まで約1時間かけて昇温した。この際、オートクレーブ内のゲージ圧は、水蒸気による自然圧で1.76MPaとなった。続いて、1.76MPa以上の圧にならないよう水を反応系外に除去しながら加熱を続けた。更に2時間後内温が260℃に到達したら、加熱は続けながら、オートクレーブのバルブの開閉により約40分かけて、内圧が0.2MPaになるまで降圧した。その後、約8時間かけて室温まで冷却した。冷却後オートクレーブを開け、約2kgのポリマーを取りだし、粉砕した。得られたポリアミドの粘度数(ISO307:1997で規定される96%硫酸中で測定)は110ml/gであった。
【0118】
(A−8)ポリアミド66(以下、PA66−cと略記)
PA66−aで得られた粉砕ポリマーを、温度200℃、圧力0.1mmHgの条件下で、2時間固相重合し、得られた粘度数(ISO307:1997で規定される96%硫酸中で測定)140ml/gのポリアミド6,6を製造した。
【0119】
(A−9)ポリアミド66(以下、PA66−dと略記)
PA66−aで得られた粉砕ポリマーを、温度200℃、圧力0.1mmHgの条件下で、10時間固相重合し、得られた粘度数(ISO307:1997で規定される96%硫酸中で測定)260ml/gのポリアミド6,6を製造した。
【0120】
(B)ポリフェニレンエーテル(以下、PPE)
還元粘度:0.52dl/g(0.5g/dl、クロロホルム溶液、30℃測定)のポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)を用いた。
【0121】
(C)ホスフィン酸塩類
特開2005−179362号公報の実施例に記載されている製法を参考にして、ジエチルホスフィン酸アルミニウム(以下DEPと略す)を製造した。
DEPの塊を水中で湿式粉砕後、分級して以下の平均粒子径を有するDEPを得た。
(DEP−a)ジエチルホスフィン酸アルミニウム
平均粒子径=3.1μm
(DEP−b)ジエチルホスフィン酸アルミニウム
平均粒子径=38μm
(DEP−c)ジエチルホスフィン酸アルミニウム
平均粒子径=45μm
【0122】
(D)外観改良剤(以下、PW)
パラフィン系オイル[商品名:ダイアナプロセスオイルPW380 出光興産(株)製]を用いた。
【0123】
(E)衝撃改良材(以下、SEBS)
下記の物性を有するポリスチレン−水素添加ポリブタジエン−ポリスチレンの各ブロックからなる共重合体を用いた。
数平均分子量=246,000
ポリスチレンブロック1個あたりの数平均分子量=40,600
スチレン成分合計含有量=33質量%
1,2−ビニル結合量=33質量%
ポリブタジエン部の水素添加率=98%以上
ブロック共重合体の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定装置(以下、単にGPCと略す)[GPC SYSTEM21:昭和電工(株)製]を用いて、紫外分光検出器[UV−41:昭和電工(株)製]で測定し標準ポリスチレンで換算し算出した。
[溶媒:クロロホルム、温度:40℃、カラム:サンプル側(K−G,K−800RL,K−800R)、リファレンス側(K−805L×2本)、流量10ml/分、測定波長:254nm,圧力15〜17kg/cm
【0124】
(F)無機フィラー(以下、GF)
チョップドストランドガラス繊維[商品名:CS03MA FT2A 旭ファイバーグラス(株)製]を用いた。
[相溶化剤](以下、MAH)
無水マレイン酸(商品名:クリスタルMAN 日本油脂(株)製))を用いた。
[メラミンとリン酸とから形成される付加物を含む窒素含有難燃剤]
ポリリン酸メラミン(以下、MPP)(商品名:Melapur200/70 チバ・スペシャリティー・ケミカルズ(株)製)を用いた。
[含亜鉛化合物](以下、ZNB)
ホウ酸亜鉛:2ZnO・3B・3.5HO(商品名:Firebrake ZB U.S. Borax社製)を用いた。
【0125】
[ホスフィン酸塩類マスターバッチの調整]
上流側に1ヶ所と、下流側に1ヶ所の供給口(押出機シリンダーの全長を1.0とした時、0.4の位置に1ヶ所:以下、中央供給口と略す)を有する二軸押出機[ZSK−26MC:コペリオン社製(ドイツ)]のシリンダー温度を280℃に設定した。上流側供給口よりPA66−cを12kg/hの量で供給し、中央供給口よりDEP−aを12kg/hの量で供給し、溶融混練を行い、ペレットとして得た。この時のスクリュー回転数は400rpmであった。また、溶融樹脂温度を測定したところ298℃であった。得られたペレットの水分率を調整するため、押出後、80℃に設定した除湿乾燥機中で乾燥した後、アルミニウムコートされた防湿袋に入れた。この時のペレットの水分率は、概ね800ppmであった。このとき得られたマスターバッチをDEP−MBと略す。
【0126】
[外観改良剤マスターバッチの調製]
上記PWとSEBSを55質量部と100質量部の割合で混合し、PWをSEBSに含浸させた。ついで50℃で30分間、オーブンに入れSEBSへのPWの含浸を促進させ平衡化させ外観改良剤マスターバッチを得た。以下、PW−SEBSと略す。
【0127】
[測定方法]
(1)難燃性(UL−94VB)
UL94(米国Under Writers Laboratories Incで定められた規格)の方法を用いて、1サンプル当たりそれぞれ5本ずつ測定を行った。なお試験片(長さ127mm、幅12.7mm、厚み1.6mm)は、射出成形機(東芝機械(株)製:IS−80EPN)を用いて成形した。成形条件はポリアミド9Tを用いた場合は、シリンダー温度320℃、金型温度130℃にて、ポリアミド66を用いた場合は、シリンダー温度290℃、金型温度80℃とした。
難燃等級には、UL94垂直燃焼試験によって分類される難燃性のクラスを示した。ただし、全てのサンプルで試験は5本行い判定した。
【0128】
分類方法の概要は以下の通りである。その他詳細はUL94規格に準じる。
V−0:平均燃焼時間5秒以下 最大燃焼時間10秒以下 綿着火なし
V−1:平均燃焼時間25秒以下 最大燃焼時間30秒以下 綿着火なし
V−2:平均燃焼時間25秒以下 最大燃焼時間30秒以下 綿着火あり
規格外:上記3項目に該当しないもの及び、試験片を保持するクランプまで燃え上がってしまったサンプル
平均燃焼時間(秒)は、各サンプル10秒間を2回、即ち計10回接炎後の消炎時間の平均燃焼時間であり、最大燃焼時間(秒)は、同じく計10回接炎後の消炎時間のなかで最も長く燃焼が継続したサンプルの燃焼時間を表している。
表中には、10回接炎のそれぞれの燃焼時間と滴下の有無も記載した。
【0129】
(2)加工時のガス発生量
成形機中に樹脂を滞留させた後、成形を実施して発生するシルバーストリークスの量で評価した。具体的には、UL94VB用試験片成形時に、樹脂を計量した状態で成形機モーターを停止(シリンダーヒーターはONの状態を維持)し、約10分間樹脂をシリンダー内で滞留させ、その後、平板試験片(長さ150mm、幅150mm、厚み2.5mm)を成形した。成形再開後、2ショット目の試験片を採取し、成形片に現れたガスが走った痕であるシルバーストリークスの発生状況を以下の指標とした。
4ポイント:ランナー部分のみに、若干のシルバーストリークスが発生した。
3ポイント:成形片の約1/4程度にシルバーストリークスが発生した。
2ポイント:成形片の約半分に、シルバーストリークスが発生した。
1ポイント:成形片の全面にわたり、シルバーストリークスが発生した。
【0130】
(3)表面外観およびモールドデポジット
樹脂組成物ペレットを、射出成形機(東芝機械(株)製:IS−80EPN)にて成形した。成形条件は、ポリアミド9Tを用いた場合は、シリンダー温度320℃、金型温度130℃、ポリアミド66を用いた場合は、シリンダー温度290℃、金型温度80℃に設定して、射出時間20秒、冷却時間30秒にて50×90×2.5mmの平板試験片を成形した。成形10ショット目から20ショット目までの試験片について目視にて表面外観を観察し、以下の基準により表面外観を評価した。
【0131】
また、上述の成形を継続し、金型へモールドデポジットが付着生成するまでのショット数を評価した。モールドデポジット発生ショット数は、数が多いほど性能が良い。
表面外観評価
○: 試験片表にザラツキやフローマークが無い
△: 試験片表面の30%以下の面積に、ザラツキやフローマークが発生した。
×: 試験片表面の30%以上の面積に、ザラツキやフローマークが発生した。
【0132】
(4)薄肉成形性
試験片の厚みを0.4mmとした試験片金型(長さ127mm、幅12.7mm)を用いて、樹脂組成物ペレットを成形した。成形条件は、ポリアミド9,Tを用いた場合は、シリンダー温度320℃、金型温度130℃、ポリアミド6,6を用いた場合は、シリンダー温度290℃、金型温度80℃に設定し、型内充填に必要な最低射出圧力(以下SSPと略記する)を測定した。(単位は、MPa(ゲージ圧))
必要な最低射出圧力が小さいほど、薄肉成形性が良い。
【0133】
(5)荷重たわみ温度およびIzod衝撃強度
得られた樹脂組成物ペレットを、射出成形機(東芝機械(株)製:IS−80EPN)を用い、シリンダー温度を320℃、金型温度を140℃に設定して、荷重たわみ温度用試験片は厚み6.4mm、Izod衝撃強度の試験片は厚さ3.2mmの短冊成形片(長さ128mm、幅12.8mm)に成形した。0.45MPaの荷重下における荷重たわみ温度(低荷重HDT)は、ASTM D648に準拠し測定した。また、ノッチ付きIzod衝撃試験は、ASTM D256に準拠し23℃の温度条件下で測定した。
【0134】
(6)ホスフィン酸塩類の分散状態確認方法
樹脂組成物ペレットを、ガラスナイフ装着のミクロトームを用い、ペレット長辺に対してほぼ垂直な断面を鏡面状に切削した。その切削面を光学顕微鏡(PME3:オリンパス社製)を用いて100倍の倍率で反射光によって観察し、3mmの面積について写真撮影を行った。目視により長径が30μm以上のホスフィン酸塩類の分散粒子の数を数えた。
【0135】
[実施例1〜13、16〜18及び比較例2〜4]
上流側に1ヶ所と、下流側に2ヶ所の供給口(押出機シリンダーの全長を1.0とした時、0.4の位置に1ヶ所、0.8の位置に1ヶ所)を有する二軸押出機[ZSK−26MC:コペリオン社製(ドイツ)]を用意し、シリンダー温度を、上流側供給口(以下、上流供給口)よりL=0.4の位置の供給口(以下、中央供給口)までを320℃、中央供給口より下流側をポリアミド9Tを用いる際は、310℃、ポリアミド66を用いる際は280℃に設定した。
表1〜4に記載の組成に従い、それぞれの原材料を供給し、溶融混練してペレットを得た。得られたペレットの水分率を調整するため、押出後、80℃に設定した除湿乾燥機中で乾燥した後、アルミニウムコートされた防湿袋に入れた。この時のペレットの水分率は概ね300〜400ppmであった。
【0136】
なお、このときの押出機のスクリュー回転数は350回転/分とし、吐出量は12kg/hとした。また、中央供給口のあるシリンダーブロックの直前のブロックと、ダイ直前のシリンダーブロックにそれぞれ開口部を設け、真空吸引することにより残存揮発分及オリゴマーの除去を行った。この時の真空度(絶対圧力)は60Torrであった。
得られたペレットを用いて、上述の各評価を行った。結果は表1に記した。
なお、実施例1と実施例3について、樹脂組成物のペレットを用い、3mm中の観察範囲内に存在する長径30μm以上のホスフィン酸塩類の粒子数を確認すると、実施例1では、5個、実施例3では2個存在していた。
【0137】
[比較例1]
実施例1と同様の条件にて、表1記載の組成に従い、それぞれの原材料を供給した。ダイから排出される樹脂の溶融粘度が低すぎるため、ストランドをペレットカッターへ導くことができず、押出し造粒が出来なかった。
【0138】
[比較例2]
実施例1と同様の条件にて、表1記載の組成に従い、溶融混練をしてペレットを得た。得られたペレットで成形を行ったが、成形型へ樹脂の充填が完了出来なかった。
【0139】
[実施例14]
実施例1と同様の条件にて、表3記載の組成に従い、溶融混練をしてペレットを得た。得られたペレットで成形を行ったが、シリンダー温度320℃の条件では成形型へ樹脂の充填が完了出来なかった。そこで、シリンダー温度を330℃に上げて再度成形したところ、充填する事ができた。この試験片について上述の評価を行った。
【0140】
[実施例15]
実施例1と同様の条件にて、表3記載の組成に従い、溶融混練をしてペレットを得た。得られたペレットで成形を行ったが、シリンダー温度320℃の条件では樹脂の充填が完了出来なかった。そこで、シリンダー温度を330℃に上げて再度成形したところ、充填する事ができた。この試験片について上述の評価を行った。
【0141】
[実施例19]
実施例1と同様の条件にて、表4記載の組成に従い、溶融混練をしてペレットを得た。得られたペレットで成形を試みたが、シリンダー温度320℃の条件では樹脂の充填が完了出来なかった。そこで、シリンダー温度を330℃に上げて再度成形したところ、充填する事ができた。この試験片について上述の評価を行った。
【0142】
【表1】

【0143】
【表2】

【0144】
【表3】

【0145】
【表4】

【0146】
比較例1及び比較例2の如く、ポリアミドの粘度数が規定範囲外であると、押出し造粒や成型加工、特に薄肉成形加工が困難であることが判る。
実施例1〜7と比較例2,3を比較すると、本発明の樹脂組成物は、難燃性、ガス発生量、表面外観、モールドデポジット、薄肉成形性のいずれの特性も優れていることが判る。
また、実施例1と実施例4を比較すると、難燃性およびモールドデポジットがより優れていることが判る。
【0147】
実施例8〜15および実施例16〜19のPA9,Tを用いた本発明の樹脂組成物は、難燃性、ガス発生量、表面外観、モールドデポジット、薄肉成形性および耐衝撃性のいずれの特性も優れていることが判る。
また、実施例16〜19について、荷重たわみ温度(低荷重HDT)を測定したところ、全ての実施例において、280℃以上の耐熱性を有しており、鉛フリー半田を用いるSMT対応部品へ適用できることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明は、難燃性、耐衝撃性に優れ、薄肉部品での優れた成形性、更に加工時のガスの発生を大幅に抑制し、射出成形時の金型への付着物(モールドデポジット)の生成を大幅に抑制できるといった優れた特徴を有する樹脂組成物を提供できる。従って、特に電気・電子部品及び自動車用部品に好適に使用可能である。中でも特に電気・電子分野のSMT対応部品や自動車用電装部品のリレーブロック材に好適に使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアミド、(B)ポリフェニレンエーテル、(C)下式(I)で表されるホスフィン酸塩、下式(II)で表されるジホスフィン酸塩及びこれらの縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のホスフィン酸塩類を含んでなる樹脂組成物であって、ここで(A)ポリアミドの粘度数(ISO307:1997で規定される96%硫酸中で測定)が50ml/g〜250ml/gである事を特徴とする樹脂組成物。
【化1】

[式中、R及びRは、同一か又は異なり、直鎖状もしくは分岐状のC〜C−アルキル及び/又はアリールもしくはフェニルであり、Rは、直鎖状もしくは分岐状のC〜C10−アルキレン、C〜C10−アリーレン、C〜C10−アルキルアリーレン又はC〜C10−アリールアルキレンであり、Mはカルシウム(イオン)、マグネシウム(イオン)、アルミニウム(イオン)、亜鉛(イオン)、ビスマス(イオン)、マンガン(イオン)、ナトリウム(イオン)、カリウム(イオン)及びプロトン化された窒素塩基から選ばれる1種以上であり、mは2又は3であり、nは1〜3であり、xは1又は2である。]
【請求項2】
(A)ポリアミドの粘度数(ISO307:1997で規定される96%硫酸中で測定)が70ml/g以上、150ml/g以下である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
(A)ポリアミドの粘度数(ISO307:1997で規定される96%硫酸中で測定)が100ml/g以上、150ml/g以下である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
(A)ポリアミドが、半芳香族ポリアミドである、請求項1〜3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
半芳香族ポリアミドが、テレフタル酸を60〜100モル%含有するジカルボン酸単位(a)と、1,9−ノナンジアミン単位(b−1)および2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位(b−2)を60〜100モル%含有するジアミン単位(b)とからなる、請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
半芳香族ポリアミドの、ジアミン単位中の1,9−ノナンジアミン単位(b−1)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位(b−2)のモル比が、60/40〜95/5の範囲内である請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
(A)ポリアミドの末端アミノ基濃度が、5μmol/g以上、60μmol/g以下である事を特徴とする請求項1〜6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
(C)成分の平均粒子径が0.5μm以上、40μm以下である事を特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
(A)ポリアミド及び(B)ポリフェニレンエーテルの量比が、両者の合計を100質量部としたときに(A)ポリアミドが40〜70質量部、(B)ポリフェニレンエーテルが60〜30質量部である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
(C)ホスフィン酸塩類の量が、(A)ポリアミド及び(B)ポリフェニレンエーテルの合計100質量部に対し1〜50質量部である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
(D)成分として鉱物油、ワックスから選ばれる1種以上の外観改良剤を更に含む、請求項1に記載の樹脂組成物
【請求項12】
(D)成分の外観改良剤の量が、(A)ポリアミド及び(B)ポリフェニレンエーテルの合計100質量部に対し、0.1〜10質量部である請求項11に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
(C)成分のホスフィン酸塩類が、下式(I)で表されるホスフィン酸塩を90質量%以上含む事を特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【化2】

[式中、R及びRは、同一か又は異なり、直鎖状もしくは分岐状のC〜C−アルキル及び/又はアリールもしくはフェニルであり、Mはカルシウム(イオン)、マグネシウム(イオン)、アルミニウム(イオン)、亜鉛(イオン)、ビスマス(イオン)、マンガン(イオン)、ナトリウム(イオン)、カリウム(イオン)及びプロトン化された窒素塩基から選ばれる1種以上であり、mは2又は3である。]
【請求項14】
(E)成分として、芳香族ビニル化合物を主体とするブロックを少なくとも1個と、共役ジエン化合物を主体とするブロックを少なくとも1個含むブロック共重合体および/または該ブロック共重合体の水素添加物を含む衝撃改良材を更に含む請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
(F)成分として無機充填材を、無機充填材を含む樹脂組成物すべての質量を100質量%とした際に、1〜70質量%の量で含む請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項16】
(A)ポリアミド、(B)ポリフェニレンエーテル及び(C)下式(I)で表されるホスフィン酸塩、下式(II)で表されるジホスフィン酸塩及びこれらの縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のホスフィン酸塩類を含んでなる事を特徴とする樹脂組成物の製造方法であって、(C)成分が、(A)成分と(B)成分の溶融混合物中へ添加される事を特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【化3】

[式中、R及びRは、同一か又は異なり、直鎖状もしくは分岐状のC〜C−アルキル及び/又はアリールもしくはフェニルであり、Rは、直鎖状もしくは分岐状のC〜C10−アルキレン、C〜C10−アリーレン、C〜C10−アルキルアリーレン又はC〜C10−アリールアルキレンであり、Mはカルシウム(イオン)、マグネシウム(イオン)、アルミニウム(イオン)、亜鉛(イオン)、ビスマス(イオン)、マンガン(イオン)、ナトリウム(イオン)、カリウム(イオン)及び/又はプロトン化された窒素塩基から選ばれる1種以上であり、mは、2又は3であり、nは、1〜3であり、xは、1又は2である。]
【請求項17】
(A)ポリアミド、(B)ポリフェニレンエーテル、(C)下式(I)で表されるホスフィン酸塩、下式(II)で表されるジホスフィン酸塩及びこれらの縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のホスフィン酸塩類、及び(D)外観改良剤、(E)衝撃改良材からなる樹脂組成物の製造方法であって、
(1)(D)外観改良剤を(A)ポリアミド、(B)ポリフェニレンエーテル及び(E)衝撃改良材から選ばれる1種以上と混合してマスターバッチを製造する工程、及び
(2)該マスターバッチを残余の成分と溶融混練する工程
の少なくとも2つの工程を含む事を特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【化4】

[式中、R及びRは、同一か又は異なり、直鎖状もしくは分岐状のC〜C−アルキル及び/又はアリールもしくはフェニルであり、Rは、直鎖状もしくは分岐状のC〜C10−アルキレン、C〜C10−アリーレン、C〜C10−アルキルアリーレン又はC〜C10−アリールアルキレンであり、Mはカルシウム(イオン)、マグネシウム(イオン)、アルミニウム(イオン)、亜鉛(イオン)、ビスマス(イオン)、マンガン(イオン)、ナトリウム(イオン)、カリウム(イオン)及びプロトン化された窒素塩基から選ばれる1種以上であり、mは2又は3であり、nは1〜3であり、xは1又は2である。]
【請求項18】
請求項16又は17のいずれかに製造方法より得られるペレット。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかに記載の樹脂組成物から得られる成形品。
【請求項20】
請求項1〜18のいずれかに記載の樹脂組成物から得られる表面実装技術対応部品。

【公開番号】特開2008−38125(P2008−38125A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304331(P2006−304331)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】