説明

難燃性ポリエステル重合物の製造方法、これにより製造される重合物、およびこれから製造される繊維

【課題】永久的難燃性を有し、特にUV(紫外線)に対して安定性に優れたポリエステル重合物の製造方法、これから製造される重合物および繊維の提供。
【解決手段】β位をリン含有基で置換されたプロピオン酸またはその誘導体であるリン系の難燃剤を、リン原子換算でポリエステル重合物に対して500〜50,000ppmとなるように第2エステル化反応段階に投入し、UV安定剤としてのマンガン塩とリン化合物とをそれぞれマンガン原子換算とリン原子換算とで0.1〜500ppm投入してなる難燃性ポリエステル重合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル重合物の製造方法、この方法により製造される重合物、およびこの重合物から製造される繊維に係り、より具体的には、リン系の難燃剤を、リン原子換算でポリエステル重合物に対して第2エステル化反応段階に投入すると共に、UV安定剤としてのマンガン塩とリン化合物とをそれぞれマンガン原子とリン原子換算で0.1〜500ppm投入してなる難燃性ポリエステル重合物の製造方法、これにより製造される重合物、およびこれから製造される繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(以下「PET」という)は、機械的性質が優秀で、耐薬品性などの化学的性質が良好であって繊維、フィルムおよびエンジニアリングプラスチックなどに広く用いられている。ところが、このような従来のポリエステルは、燃焼し易いという欠点がある。特に、最近、幼児用衣服などの衣類分野および自動車のカーシート、カーテン、カーペットなどの産資用分野において法的な規制が厳しくなっており、火災予防の目的で難燃繊維に対する要求が高まっている。
【0003】
ポリエステル繊維に難燃性を与える方法としては、繊維の表面に難燃剤を処理する第1の方法、紡糸の際に難燃性物質を添加して紡糸する第2の方法、重合の際に難燃性物質を添加して共重合する第3の方法などがある。第1の方法は、製造コストの面では有利であるが、耐久性に問題がある。第2の方法は、難燃性を発揮する物質(難燃剤)を混合紡糸する方法と、難燃剤を過量含有する難燃マスターバッチ(master batch)をブレンドして紡糸する方法とがあるが、前者は、紡糸性および原糸の物性が低下するという問題点があり、後者は、難燃マスターバッチを用いて、所望の粘度、色相などの物性を持つ重合物を製造することに困難さがある。第3の方法は、難燃性の耐久性の面で有利であり、通常のポリエステル製造過程と類似であるという利点がある。第3の方法である、共重合による難燃性ポリエステルの製造にはハロゲン系難燃剤(特に臭素(Br)系難燃剤)、およびリン(P)系難燃剤が主に用いられる。
【0004】
臭素系難燃剤を使用した特許としては、特許文献1、特許文献2、特許文献3などがあるが、臭素系化合物が高温で熱分解し易いため、効果的な難燃性を得るためには難燃剤を多量添加しなければならない。その結果、臭素系難燃剤を使用すると、高分子物の色相および耐光性が低下し、燃焼の際に有毒ガスが発生するという問題点などがある。
【0005】
また、リン系難燃剤を用いる特許としては、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8などがあるが、本発明者らがこれら特許の記載通りに試験を行ったところ、難燃性ポリエステルはUVによる物性の低下が大きいことが確認された。また、大部分の場合に使用されたPET重合の際に、ジメチルテレフタレート(以下「DMT」という)を原料とすれば、テレフタル酸(以下「TPA」という)による重合法に比べてコストの上昇幅が大きいという欠点がある。
【特許文献1】特開昭62−6912号公報
【特許文献2】特開昭53−46398号公報
【特許文献3】特開昭51−28894号公報
【特許文献4】米国特許第3,941,752号明細書
【特許文献5】米国特許第5,399,428号明細書
【特許文献6】米国特許第5,180,793号明細書
【特許文献7】特開昭50−56488号公報
【特許文献8】特開昭52−47891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上述した従来の技術の問題点を解決するためのもので、その目的とするところは、永久的難燃性を有し、特にUV(紫外線)に対して安定性に優れたポリエステル重合物の製造方法および繊維を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、前記難燃性ポリエステル重合物の製造方法によって生産されたポリエステル重合物、およびこれから製造される繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のある観点によれば、テレフタル酸工法を用いる難燃性ポリエステル重合物の製造方法において、反応原料であるテレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)のスラリーを調製する段階と、前記スラリーを第1エステル化反応槽に投入してオリゴマーを生成する第1エステル化反応段階と、前記第1エステル化反応段階で生成されたオリゴマーを第2エステル化反応槽へ移送し、下記化学式1で表されるリン系の難燃剤をポリエステル重合物に対するリン原子換算で500〜50,000ppm投入するとともに、UV安定剤としてのマンガン塩とリン化合物とをそれぞれマンガン原子とリン原子換算で0.1〜500ppm投入して難燃性オリゴマーを製造する第2エステル化反応段階と、前記第2エステル化反応段階で生成されたオリゴマーを移送して重縮合する段階とを含む難燃性ポリエステル重合物の製造方法を提供する。
【0009】
[化学式1]
【0010】
【化1】

(式中、Rは水素または炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基であり、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基、または炭素数6〜24のアリール基であり、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基またはヒドロキシアルキル基、またはこれらのエステル形成性官能基である。)
【発明の効果】
【0011】
上述した本発明に係る難燃性ポリエステル重合物およびこれにより製造される難燃性ポリエステルは、色相および難燃性に優れるうえ、紡糸作業を介して最終製品に成形されたときのUVに対する安定性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明について詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明の一具現例の工程流れ図である。図1を参照すると、スラリー調製段階は、反応原料であるテレフタル酸とエチレングリコールとから反応槽1でスラリーを調製する段階である。この段階で、調製されたスラリーを保管するスラリー保管槽2がさらに設けられてもよい。
【0014】
第1エステル反応段階は、前記スラリーを第1エステル化反応槽3に投入してオリゴマーを生成する段階である。反応槽3には生成物としてのベースオリゴマー(Base Oligomer)が常時滞留する。反応槽3と反応槽5との間には、反応槽3で調製されたオリゴマーを移送する移送ラインのフィルター4が設けられてもよい。前記フィルター4はバスケットフィルターを使用することができる。
【0015】
第2エステル化反応段階は、前記第1エステル化反応段階で生成されたオリゴマーを第2エステル化反応槽5へ移送して難燃性オリゴマーを生成する段階である。ここで、下記化学式1で表されるリン系の難燃剤をポリエステル重合物に対するリン原子換算で500〜50,000ppm投入するとともに、UV安定剤としてのマンガン塩とリン化合物をそれぞれマンガン原子換算とリン原子換算とで0.1〜500ppm投入する。
【0016】
反応槽5との重縮合反応槽7との間には、反応槽5で調製されたオリゴマーを移送する移送ラインのフィルター6が設けられてもよい。前記フィルター6はバスケットフィルターを使用することができる。
【0017】
重縮合段階は、前記第2エステル化反応段階で生成されたオリゴマーを移送して高真空の下で重縮合する段階である。
【0018】
ここで、製造されたポリマーを排出してチップ(chip)化するペレタイザー8が設けられてもよい。
【0019】
反応原料であるテレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)とを直接反応させてビスヒドロキシエチルテレフタレートとこれらの低重合度オリゴマーを製造した後、高真空の下で重縮合する方法については既に公知になっているが、本発明は、永久的難燃性を持つポリエステル重合物を製造するために、前記化学式1で表されるリン系難燃剤を第2エステル化反応段階に投入し、UV安定剤としてのマンガン塩とリン化合物とをそれぞれマンガン原子換算とリン原子換算とで0.1〜500ppm投入する難燃性ポリエステル重合物の製造方法である。以下、本発明の各特徴的構成についてより詳細に説明する。
【0020】
1.リン系難燃剤の選定
環境無害性、優れた難燃性、重合工程性、製造コスト、難燃糸の燃焼挙動などをまとめて考慮した結果、化学式1で表されるリン系難燃剤が好適であった。
【0021】
このリン系難燃剤は、難燃剤の分子量対比リン含量が大きいので、少なく投入しても十分な難燃効果を得ることができ、工程安定性の面でも有利である。また、従来のホスファフェナントレン(phosphophenanthrene)基を含む難燃剤と比較するとき、芳香族基が少ないため燃焼の際に煤煙、有毒ガスの発生が少ない。
【0022】
2.重合物内のリン系難燃剤の含量選定
重合物内に投入されるリン系難燃剤の含量を選定するために、本発明者らが様々な試験を行った結果、投入されるリン系難燃剤の含量は、化学式1で表されるリン系難燃剤の構造にあまり関係なく、重合物に対するリン原子換算で500〜50,000ppmが適することが分かった。特に、重合工程性と原糸製造との観点からみれば、重量物に対するリン原子換算で1,000〜20,000ppmがさらに適することが分かった。リン系難燃剤の含量が重合物に対するリン原子換算で500ppm未満であると、目的する難燃効果を期待することができず、50,000ppm超えると、製造されたポリエステルの重合度を高めることが難しいため、結晶性があまり低下して繊維として生産することが難しいという問題が生じて好ましくない。
【0023】
3.リン系難燃剤の反応槽への投入方法
化学式1で表される難燃剤の投入方法は、難燃剤の性状によって異なる。化学式1で表される難燃剤が固相の場合にはエチレングリコール(EG)溶液または分散相として投入可能であり、液相の場合には難燃剤単独で或いはEGとの溶液状態で投入可能である。溶液または分散相として投入する場合のEGの量は、下記数式1を満足する範囲で投入することが有利である。
【0024】
[数式1]
0.2*難燃剤(g)*(FN難燃剤*62)/(MW難燃剤)*(1+α)≦EG(g)≦3*難燃剤(g)*(FN難燃剤*62)/(MW-難燃剤)*(1+α)
(式中、FN難燃剤は難燃剤1モル当りカルボン酸基の数であり、MW難燃剤は難燃剤の分子量(g/モル)であり、αは難燃剤が固相であれば1、液相であれば0の定数である。)
第2エステル化反応槽へ移送されるオリゴマーの反応率が95%以上になると、オリゴマーの酸価(Acid Value)が小さいため無視することができるが、95%未満になると、ここに対応してEGをさらに添加しなければならない。この際、EGの量はオリゴマーの酸価に応じて下記数式2を満足する量とすることが良い。
【0025】
[数式2]
AVoligomer*31/1000≦EG(g)≦AVoligomer*62/1000
(式中、AV-oligomerはオリゴマーの酸価であり、単位は(KOH当量)/(1kg重合物)である。)
難燃剤投入の際に添加されるEGの量(g)が0.2*難燃剤(g)*(FN難燃剤*62)/(MW難燃剤)*(1+α)より少なければ、投入される難燃剤の粘性が高くて反応槽への投入が難しいうえ、難燃剤のエステル化反応が難しくなるという問題が発生し、投入されるEGの量(g)が3*難燃剤(g)*(FN難燃剤*62)/(2*MW難燃剤)*(1+α)より多ければ、難燃剤の添加は有利であるが、DEGの生成量が多くなって耐熱性の低下が発生する。
【0026】
4.ジエチレングリコール(以下「DEG」という)の含量調整
TPA工法によるポリエステル生産の際にDEGの含量が多くなると、ポリマーの耐熱性が低下するという問題点がある。DEGの生成量は反応物の酸度(acidity)が高いほど多くなるので、酸度を下げるための方法が必要である。
【0027】
本発明者らが酸度を下げるための方法として試験したことは、アルカリ物質を投入することと、化学式1で表されるリン系化合物を図1における反応槽5に投入することであったが、品質の安定性の面で後者がさらに有利であることが分かった。勿論、反応槽3または5にアルカリ性物質を投入し、或いは化学式1で表されるリン系化合物にアルカリ性物質を投入することは本発明から排除されない。
【0028】
化学式1で表されるリン系化合物を図1における反応槽5に投入することにおいて、DEGの含量を重合物対比3.0重量%以下にしてこれを均一に保つことが、物性の低下を防止し且つ紡糸や仮撚、染色などにおける問題がなくて好ましい。
【0029】
化学式1のリン系化合物をスラリー保管槽2または反応槽3に投入すると、反応物の酸度が高くなってDEGが持続的に増加するという問題が生ずる。
【0030】
5.UV安定剤の選定
難燃性ポリエステル繊維は、用途が主にカーテンなどの室内装飾物なので、UV安定性が必要である。したがって、本発明者らはUV安定性に関する研究を行った。UV安定剤としては有機系、無機系の安定剤が多く開発されているが、機能性とコストの観点から、リン酸マンガンが最も適することが分かった。
【0031】
ところが、リン酸マンガンはEGに溶解しないため、リン酸マンガンを反応系に直接投入すると、凝集が生じてポリマー内への異物形成が多く、その結果、紡糸時のパック圧上昇などの問題が発生することを発見した。したがって、本発明者らは、マンガン化合物を重合系内で生成させる方法を種々試験した結果、マンガン塩とリン系化合物とを別途投入することにより、解決が可能であることが分かった。
【0032】
また、UV安定剤として使用されたマンガン塩の含量は、重合物に対するマンガン原子換算で0.1〜500ppmが好ましく、さらに好ましくは0.2〜200ppmの範囲である。マンガン塩の含量が0.1ppm未満であると、目的するUV安定性を得ることが難しく、マンガン塩の含量が500ppmを超えると、分散性に問題が生じ、これにより紡糸時のパック圧上昇などの問題が生ずる。
【0033】
また、マンガン塩と共に投入されるリン系化合物の含量は、ポリマーに対するリン原子換算で0.1〜500ppmの範囲がよい。さらに好ましくは0.2〜200ppmの範囲がよい。リン系物質はマンガン塩との反応が問題にならない限りは添加してもよいが、リン系物質の含量が500ppmを超えると、触媒の活性が低下して重合工程性が低下する。
【0034】
6.共重合単量体の追加投入
ポリエステル重合物は、多様な機能性を与えるために第3の共重合単量体が多く用いられている。本発明で目標とする難燃性ポリエステルも、機能性付与のために第3の共重合単量体の投入が可能である。本発明で使用可能な共重合単量体としては次のようなものがある。
【0035】
ジカルボン酸またはそのエステル形成誘導体としては、例えばイソフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、またはこれらのエステル形成誘導体、例えば1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸および炭素数2〜6のアルキルジカルボン酸、またはこれらのエステル形成誘導体もしくはこれらのアシルクロライドなどを使用することができる。
【0036】
経済性と難燃性ポリエステルの物性を大幅低下させないためには、全体ジカルボン酸に対するテレフタル酸のモル比は70%以上であることが好ましい。70モル%未満であると、溶融点やガラス転移温度などが低くなって成形性の問題が生じ、一部の高価共重合モノマーを使用する場合、その製造コストが高くなる。
【0037】
また、グリコール成分としては、例えば1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどのアルカンジオール、例えば1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族グリコール、例えばビスフェノールA、ビスフェノールSなどの芳香族グリコール、および芳香族ジオールのエチレンオキシドまたはプロピレンオキシド付加物などである。特に適正なポリマーの物性を発現させるためには、全体ポリマーグリコール成分中のエチレングリコールのモル比は70%以上であることが良い。
【0038】
7.反応槽内の反応性のためのTPAを含むジカルボン酸とEGを含むグリコールとのモル比
ジカルボン酸とグリコールとのモル比(グリコール/ジカルボン酸のモル比)は1.01〜2.0が良い。モル比が1.01より低い場合には、エステル化反応が行われ難くて反応率が低く、反応されずに残存するジカルボン酸の量が多くて重合工程中のフィルター取替周期などが短くなるうえ、重合物内に異物として残存して製品の透明性、ヘイズなどの光学特性が低下し、紡糸工程中のパック圧が急上昇するという問題点などを示し易い。一方、モル比が2.0より高いと、重合工程中の還流塔の容量を超過する場合が発生して工程が不安定であり、重合物および製品の耐熱性低下の要因となるDEGの生成が多くなって重合物の後工程に不利になる。
【0039】
8.重縮合触媒
重合触媒としては、一般的なポリエステル重合に用いられる触媒を使用することができ、例えば三酸化アンチモン(antimony trioxide)、三酢酸アンチモンなどのアンチモン化合物、および例えばテトラブチルチタン、テトライソプロピルチタンなどのチタン化合物などを用いることができる。
【0040】
これら触媒の含量は、ポリマー重量に対する金属含量換算で10〜1,000ppmが適する。触媒の含量が10ppm未満であると、触媒の活性があまり低く、触媒の含量が1,000ppm超過であると、これらの触媒が異物を形成するうえ、製造コストが上昇するという問題点などが生ずる。
【0041】
9.添加剤
製造される難燃性ポリエステル重合物としては、用途に合わせて様々な添加剤を投入することも可能である。重合物の色相を改善するために、コバルトアセテートなどの無機金属塩または有機顔料を調色剤として使用することができる。繊維として使用するために、二酸化チタンを100〜30,000ppm投入することも可能であり、シリカまたは硫酸バリウムを100〜30,000ppm投入することも可能である。これら無機添加剤の投入量および投入方法は、一般ポリエステルを繊維用に利用するときの通常の投入量と投入方法に従って適用可能である。
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
実施例の説明に先立ち、繊維の性能評価方法などについて述べる。
【0044】
極限粘度(IV):フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンの6:4重量比の溶液に溶解させて20℃でウベローデ管を用いて測定する。
【0045】
融点(T):示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimetry、Perkin Elmer DSC7)で測定する。
【0046】
DEG:トリエタノールアミンによって重合物を分解してガスクロマトグラフィーで分析する。
【0047】
UV安定性:製造された重合物をガラス板に延ばしておき、Q−Panel社のQUVで48時間UVに曝露して極限粘度を測定し、極限粘度維持率で評価する。
【0048】
(初期の極限粘度−処理後の極限粘度)/初期の極限粘度*100
難燃性:繊維を編織して限界酸素指数(Limited Oxygen Index、LOI)で評価する。
【0049】
実施例1
TPA1300kg、EG560kgからスラリーを調製した。調製されたスラリーを、ビスヒドロキシエチルテレフタレート(Bishydroxyethyl terephthalate)およびその低分子量オリゴマー1.5トンが260℃で攪拌されているDE−1反応槽3に260℃を保ちながら3時間投入した。30分間還流しながら攪拌を行い続けたところ、エステル化反応率が97%に到達した。製造されたオリゴマー中の1.5トンをDE−1反応槽に残留させ、残りをDE−2反応槽へ移送した。DE−2反応槽5に、化学式1で表される物質のうちRがH、Rがフェニル基、Rが水素の難燃剤68kg(ポリエステル重合物に対するリン原子換算で6500ppm、実施例2〜4でも同じく)をEG68kgと常温で混合して投入し、UV安定剤調製用のマンガン塩とリン系化合物として、酢酸マンガンとリン酸とをそれぞれマンガン原子換算とリン原子換算とで22ppm、100ppm投入し、消光剤としてのチタニウムジオキシドをポリマーに対して0.3重量%添加して260℃で攪拌した後、DE−2反応槽5にあるオリゴマー全体を重縮合反応槽へ移送し、しかる後、EGに2重量%で溶けている三酸化アンチモン溶液を200g投入して通常のPET重縮合と同様に重縮合することにより、重合物を製造した。5回を同一に行って分子重合物分析結果の平均と範囲を表1に示した。
【0050】
実施例1では、下記数式1において、FN難燃剤は1であり、MW難燃剤は214であり、αは1である。また、EGの量は約7.88〜188kgであるので、下記数式1を満たす。
【0051】
[数式1]
0.2*難燃剤(g)*(FN難燃剤*62)/(MW難燃剤)*(1+α)≦EG(g)≦3*難燃剤(g)*(FN難燃剤*62)/(MW-難燃剤)*(1+α)
(式中、FN難燃剤は難燃剤1モル当りカルボン酸基の数であり、MW難燃剤は難燃剤の分子量(g/モル)であり、αは難燃剤が固相であれば1、液相であれば0の定数である。)
また、実施例1では、ジカルボン酸とEGとのモル比は約1.15である。
【0052】
比較例1
化学式1で表される物質のうちRがH、Rがフェニル基、Rが水素の難燃剤68kg、TPA1300kgおよびEG560kgからスラリーを調製した。調製されたスラリーを、重合物と同一の組成で製造されたオリゴマーが260℃で攪拌されているDE−1反応槽3に260℃に保ちながら3時間投入した。30分間還流しながら攪拌を行い続けたところ、エステル化反応率が96.7%に到達した。製造されたオリゴマー中の1.5トンをDE−1反応槽3に残留させ、残りをDE−2反応槽へ移送した。DE−2槽に、UV安定剤調製用のマンガン塩とリン系化合物として酢酸マンガンとリン酸とをそれぞれ理論的な重合物に対するマンガン原子換算とリン原子換算とで22ppm、30ppm投入し、消光剤としてのチタニウムジオキシドをポリマーに対して0.3重量%添加して260℃で攪拌した後、DE−2反応槽5にあるオリゴマー全体を重縮合反応槽へ移送し、しかる後、EGに2重量%で溶けている三酸化アンチモン溶液を200g投入して通常のPET重縮合と同様に重縮合することにより、重合物を製造した。5回を同一に行って重合物分析結果の平均と範囲を表1に示した。
【0053】
表1に記載の通り、DEG含量の変化が大きく、これにより融点の変化も大きい。
【0054】
なお、比較例1では、ジカルボン酸とEGとのモル比は約1.07である。
【0055】
実施例2
リン系難燃剤とEGとを190℃で4時間反応させた後、DE−2反応槽に投入した以外は、実施例1と同様にして重合物を製造した。
【0056】
実施例3
リン系難燃剤とEGとを190℃で4時間反応させた後、重縮合反応槽に投入した以外は、実施例1と同様にして重合物を製造した。
【0057】
比較例2
第2エステル化反応槽に、化学式1で表される物質のうちRがH、Rがフェニル基、Rが水素の難燃剤68kgをEGと混合せず、単独で投入した以外は、実施例1と同様にして重合物を製造した。
【0058】
実施例4
化学式1で表される物質をRがH、Rがフェニル基、Rがヒドロキシエチル基(−CHCHOH)の難燃剤として82kg投入した以外は、実施例1と同様にして重合物を製造した。
【0059】
比較例3
マンガン塩とリン化合物とを使用しない以外は、実施例1と同様にして重合物を製造した。
【0060】
実施例5
実施例2によって製造された重合物を真空乾燥機で24時間乾燥させた。乾燥した重合物を用いて内径95mmの押出機を用いて紡糸温度280℃で押し出し、80℃で加熱された第1ゴデットローラ(Godet roller)速度を1350m/分とし、120℃で加熱された第2ゴデットローラの速度を4100m/分として75デニール/72フィラメントの繊維を直接紡糸延伸法で製造した。製造された原糸を用いてホース編み(Hose Knitting)して編織した後、限界酸素指数(LOI)を評価した。LOI指数は32であって、優れた難燃性を発揮した。
【0061】
【表1】

(平均/範囲で表記、範囲=最大値−最小値)
*1.時間:重縮合反応時間であって、触媒投入後から反応終了時までの時間(分)である。
【0062】
*2.IV:極限粘度であって、単位はdl/gである。
【0063】
*3.DEG:単位はwt%である。
【0064】
表1から分かるように、実施例らはいずれもDEGが3.0wt%以下であり、比較例3は、DEGが3.0wt%以下である。ところが、UV安定剤としてのマンガン塩およびリン系化合物を投入しないため、IV維持率が著しく低下した。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一例を示す工程流れ図である。
【符号の説明】
【0066】
1 調製槽
2 スラリー保管槽
3 第1エステル化反応槽(DE−1)
4 移送ラインフィルター
5 第2エステル化反応槽(DE−2)
6 移送ラインフィルター
7 重縮合反応槽
8 ペレタイザー(pelletizer)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸工法を用いる難燃性ポリエステル重合物の製造方法において、
反応原料であるテレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)のスラリーを調製する段階と、
前記スラリーを第1エステル化反応槽に投入してオリゴマーを生成する第1エステル化反応段階と、
前記第1エステル化反応段階で生成されたオリゴマーを第2エステル化反応槽へ移送し、下記化学式1で表されるリン系の難燃剤をポリエステル重合物に対するリン原子換算で500〜50,000ppm投入するとともに、UV安定剤としてのマンガン塩とリン化合物とをそれぞれマンガン原子換算とリン原子換算とで0.1〜500ppm投入して難燃性オリゴマーを製造する第2エステル化反応段階と、
前記第2エステル化反応段階で生成されたオリゴマーを移送して重縮合する段階とを含むことを特徴とする難燃性ポリエステル重合物の製造方法。
[化学式1]
【化1】

(式中、Rは水素または炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基であり、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基、または炭素数6〜24のアリール基であり、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基またはヒドロキシアルキル基、またはこれらのエステル形成性官能基である。)
【請求項2】
請求項1記載の難燃性ポリエステル重合物の製造方法において、
DEG(ジエチレングリコール)の含量を前記ポリエステル重合物に対して3.0重量%以下とすることを特徴とする難燃性ポリエステル重合物の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の難燃性ポリエステル重合物の製造方法において、
前記化学式1で表される前記難燃剤が溶液または分散相として投入されるとき、前記エチレングリコール(EG)の量は下記数式1を満足することを特徴とする難燃性ポリエステル重合物の製造方法。
[数式1]
0.2*難燃剤(g)*(FN難燃剤*62)/(MW難燃剤)*(1+α)≦EG(g)≦3*難燃剤(g)*(FN難燃剤*62)/(MW-難燃剤)*(1+α)
(式中、FN難燃剤は難燃剤1モル当りカルボン酸基の数であり、MW難燃剤は難燃剤の分子量(g/モル)であり、αは難燃剤が固相であれば1、液相であれば0の定数である。)
【請求項4】
請求項1記載の難燃性ポリエステル重合物の製造方法において、
イソフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、またはこれらのエステル形成誘導体、および脂環族ジカルボン酸、炭素数2〜6のアルキルジカルボン酸、またはこれらのエステル形成誘導体もしくはこれらのアシルクロライドの中から選択される少なくとも一つのジカルボン酸またはそのエステル形成誘導体を共重合単量体としてさらに投入することを特徴とする難燃性ポリエステル重合物の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の難燃性ポリエステル重合物の製造方法において、
アルカンジオール、脂環族グリコール、芳香族グリコール、芳香族ジオール、およびプロピレンオキシド付加物の中から選択される少なくとも一つのグリコール成分を共重合単量体としてさらに投入することを特徴とする難燃性ポリエステル重合物の製造方法。
【請求項6】
請求項1記載の難燃性ポリエステル重合物の製造方法において、
前記TPAを含むジカルボン酸とエチレングリコール(EG)とのモル比(グリコール/ジカルボン酸のモル比)が1.01〜2.0を満足することを特徴とする難燃性ポリエステル重合物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の難燃性ポリエステル重合物の製造方法によって製造されたことを特徴とする難燃性ポリエステル重合物。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された難燃性ポリエステル重合物を用いて製造されることを特徴とする繊維。

【図1】
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【公開番号】特開2008−127570(P2008−127570A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297651(P2007−297651)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(501434948)ヒョスン・コーポレーション (18)
【氏名又は名称原語表記】HYOSUNG CORPORATION
【Fターム(参考)】