説明

難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体及びその製造方法

【課題】 本発明は、難燃性及び環境衛生に優れており変色のない難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体を提供する。
【解決手段】 本発明の難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体は、ポリスチレン系樹脂を、炭素数が3〜5である飽和炭化水素から選ばれた一種以上の化合物を含有する発泡剤を用いて押出発泡してなるポリスチレン系樹脂発泡体であって、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して、ハロゲン化脂肪族化合物1〜10重量部及び六配位金属錯体0.05〜2重量部からなる難燃剤を含有することを特徴とするので、優れた難燃性を有すると共に、ポリスチレン系樹脂の熱安定化を向上させて高発泡倍率化及び変色防止を図ることができ、更に、環境衛生にも優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性及び環境衛生に優れており変色のない難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からポリスチレン系樹脂押出発泡体は、ポリスチレン系樹脂を押出機に供給して溶融、混練し、この溶融状態のポリスチレン系樹脂に発泡剤を圧入した上で押出機から押出発泡させて製造されている。
【0003】
ポリスチレン系樹脂押出発泡体は、建材分野に多く用いられ、難燃性が求められており、ポリスチレン系樹脂発泡体の難燃剤としては、耐熱性に優れ且つ少ない添加量で難燃性を発揮することから、ヘキサブロモシクロドデカンが用いられてきた。
【0004】
ところが、ヘキサブロモシクロドデカンは、比較的難分解性で高蓄積性のある化合物であることから、環境衛生上、好ましいものではなく、これに代わる難燃剤が所望されている。
【0005】
そこで、特許文献1には、難燃剤として、ハロゲン化芳香族アリルエーテル類と、ハロゲン化環状脂肪族化合物を除くハロゲン化脂肪族化合物あるいはその誘導体とを含有するものが提案されている。
【0006】
しかしながら、ハロゲン化芳香族アリルエーテル類は、分解温度が200℃以下と低いために、押出発泡条件下では分解してしまい、この分解生成物がポリスチレン系樹脂の分解を誘発しポリスチレン系樹脂を低分子量化するため、発泡性が低下して発泡体の製造が困難となったり、たとえ発泡体が製造できたとしても、得られる発泡体は、割れ易いのに加えて黄色に変色しており、品質的に満足のいくものではなかった。
【0007】
又、ハロゲン化環状脂肪族化合物を除くハロゲン化脂肪族化合物あるいはその誘導体だけでは難燃性が不充分であることから、発泡体に充分な難燃性を付与するためには、ハロゲン化脂肪族化合物或いはその誘導体を多量に添加する必要があり、このように多量に使用するとポリスチレン系樹脂の可塑化を生じてしまい、高発泡倍率を有する発泡体を得ることができないという問題を生じた。
【0008】
【特許文献1】特開2003−301064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、難燃性及び環境衛生に優れており、例えば、住宅の壁、床、屋根などに用いられる断熱材や畳の芯材などの建築材料に好適に用いることができると共に変色のない難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体は、ポリスチレン系樹脂を、炭素数が3〜5である飽和炭化水素から選ばれた一種以上の化合物を含有する発泡剤を用いて押出発泡してなるポリスチレン系樹脂発泡体であって、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して、ハロゲン化脂肪族化合物又はその誘導体1〜10重量部及び六配位金属錯体0.05〜2重量部からなる難燃剤を含有することを特徴とする。
【0011】
上記ポリスチレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ジメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等のスチレン系単量体の単独重合体又はこれらスチレン系単量体を2種以上組み合わせた共重合体;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、無水マレイン酸、ブタジエンなどの単量体と上記スチレン系単量体との共重合体などが挙げられる。なお、共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体の何れであってもよい。又、ポリスチレン系樹脂が50重量%以上含有しておれば、ポリスチレン系樹脂以外の熱可塑性樹脂を添加してもよい。
【0012】
そして、本発明で用いられる難燃剤は、ハロゲン化脂肪族化合物又はその誘導体(ハロゲン化脂肪族化合物の誘導体)と、六配位金属錯体とからなる。上記ハロゲン化脂肪族化合物又はその誘導体としては、2,2−ビス〔4' −(2,3−ジブロモプロポキシ)−3',5' −ジブロモフェニル〕プロパン、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、トリブロモネオペンチルアルコール、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェートなどが挙げられ、2,2−ビス〔4' −(2,3−ジブロモプロポキシ)−3',5' −ジブロモフェニル〕プロパン、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートが好ましく、2,2−ビス〔4' −(2,3−ジブロモプロポキシ)−3',5' −ジブロモフェニル〕プロパンとトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートとを併用してもよい。なお、ハロゲン化脂肪族化合物又はその誘導体は、単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0013】
このハロゲン化脂肪族化合物又はその誘導体の難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体中における含有量は、少ないと、JIS A9511に規定する難燃性を満足しない一方、多いと、ポリスチレン系樹脂の可塑化が大きくなり、難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体の高発泡倍率化を図ることができないので、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して1〜10重量部に限定され、2〜7重量部が好ましい。
【0014】
又、難燃剤には六配位金属錯体が含まれており、この六配位金属錯体の存在によって、得られる難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体は、優れた難燃性を発揮すると共に、黄変などの変色が防止される。
【0015】
上記六配位金属錯体とは、中心金属に単座配位子又は多座配位子が配位したものであって配位数が6であるものをいい、例えば、ヘキサシアノ金属錯体、トリスアセチルアセトナート金属錯体、トリスエチレンジアミン金属錯体、トリスフェニレンジアミン金属錯体、トリスフェナントロリン金属錯体、トリスエチレンテトラミン金属錯体、トリスビピリジン金属錯体、トリスベンゾイルメタナト金属錯体、ヘキサアミノ金属錯体、ヘキサカルボナート金属錯体、ヘキサピリジン金属錯体などが挙げられ、ヘキサシアノ金属錯体、トリスアセチルアセトナート金属錯体が好ましく、ヘキサシアノ金属錯体がより好ましい。なお、六配位金属錯体は塩を形成していてもよい。
【0016】
そして、六配位金属錯体を形成する中心金属は遷移金属であることが好ましく、遷移金属としては、周期律表のIIIA族〜IIB 族に属する金属をいい、具体的には、原子番号が21のScから30のZnまで、原子番号が39のYから48のCdまで、原子番号が57のLaから80のHgまで、原子番号が89のAc以上の元素をいう。上記六配位金属錯体を形成する遷移金属のうち、Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Znが好ましく、Fe,Co,Niがより好ましく、Feが特に好ましい。
【0017】
上記六配位金属錯体の難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体中における含有量は、少ないと、難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体の難燃性が低下する一方、多いと、難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体に変色を生じるので、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して0.05〜2重量部が好ましく、0.1〜1重量部がより好ましい。
【0018】
上記難燃剤に加えて難燃助剤を添加してもよい。このような難燃助剤としては、リン酸エステル系化合物や含窒素化合物などが挙げられる。上記リン酸エステル系化合物としては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(クロロピル)ホスフェートなどのリン酸エステルなどが挙げられ、トリフェニルホスフェートが好ましい。又、上記含窒素化合物としては、例えば、シアヌル酸、イソシアヌル酸又はこれらの誘導体などが挙げられる。
【0019】
更に、難燃剤の分解温度調整剤を添加してもよく、このような分解温度調整剤として、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンなどのジフェニルアルカン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンなどのジフェニルアルケンなどが挙げられる。
【0020】
又、本発明の難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体には、その物性を損なわない範囲内において、タルク、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、酸化チタンなどの無機化合物;フェノール系抗酸化剤;リン系安定剤;ベンゾトリアゾール類、ヒンダードアミン類などの耐光性安定剤;帯電防止剤;顔料などの着色剤などの添加剤を含有させてもよい。
【0021】
一方、ポリスチレン系樹脂を押出発泡させるのに用いられる発泡剤としては、炭素数が3〜5である飽和炭化水素から選ばれた一種以上の化合物を含有するものが用いられる。上記炭素数が3〜5である飽和炭化水素としては、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタンなどが挙げられ、ポリスチレン系樹脂の発泡性及び難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体の断熱性の観点から、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタンが好ましく、ノルマルブタン、イソブタンがより好ましい。
【0022】
そして、ポリスチレン系樹脂を押出発泡させる際に用いられる、炭素数が3〜5である飽和炭化水素から選ばれた一種以上の化合物の量としては、少ないと、難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体中に残存する飽和炭化水素の量が少なくなって、難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体の断熱性が低下する一方、多いと、難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体中に残存する飽和炭化水素の量が多くなり過ぎて、難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体の難燃性が低下するので、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して2〜6重量部が好ましく、2〜4重量部がより好ましい。
【0023】
更に、ポリスチレン系樹脂を押出発泡させる際に用いられる発泡剤には、炭素数が3〜5である飽和炭化水素から選ばれた一種以上の化合物の他に、これらの飽和炭化水素以外の非フロン系発泡剤が含有されていてもよい。このような非フロン系発泡剤としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、塩化メチル、塩化エチル、水、二酸化炭素などが挙げられ、ジメチルエーテル、塩化メチル及び二酸化炭素からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物が好ましく、二酸化炭素とジメチルエーテルとを併用すること、二酸化炭素と塩化メチルとを併用すること、ジメチルエーテル、塩化メチル及び二酸化炭素を併用することが好ましく、二酸化炭素とジメチルエーテルとを併用すること、二酸化炭素と塩化メチルとを併用することがより好ましい。なお、非フロン系発泡剤は、単独で用いられても併用されてもよい。
【0024】
上記非フロン系発泡剤の使用量としては、少ないと、所定の断熱性及び高発泡倍率を有する難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造が困難となることがある一方、多いと、難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体の気泡が破れたり或いはボイド(空隙)が発生するなどの不具合が生じる虞れがあるので、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して1〜10重量部が好ましく、3〜7重量部がより好ましい。
【0025】
そして、押出発泡後30日を経過した時点における難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体中に含まれる、炭素数が3〜5である飽和炭化水素の全量は、多いと、難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体がJIS A9511で規定された難燃性を満たすことができない虞れがあるので、3.5重量%以下が好ましく、少な過ぎると、難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体の断熱性が低下する虞れがあるので、1〜3.5重量%がより好ましい。
【0026】
なお、押出発泡後30日経過した時点における難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体中に含まれる飽和炭化水素量は下記の要領で測定されたものをいう。先ず、押出発泡後30日経過した時点の難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体から、該難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体の表面と、この表面から厚み方向に内側に2mmだけ入った部分との間にある表層部分を除外し、この表層部分が除外された難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体から、押出方向に35mm、難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体の表面に沿い且つ押出方向に直交する方向に5mm、厚み方向に5mmの大きさを有する直方体形状の試験片を切り出し、この試験片の重量を測定する。なお、難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体の厚み方向とは、難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体の表面に対して直交する方向をいう。
【0027】
そして、上記試験片を150℃の熱分解炉に供給してガスクロマトグラフィーからチャートを得、予め測定しておいた飽和炭化水素の各成分毎の検量線に基づいて上記チャートから試験片中の飽和炭化水素の各成分量を算出し、各成分量の合計を総飽和炭化水素量とし、以下の式に基づいて求める。なお、上記ガスクロマトグラフィーとしては、例えば、島津製作所社から商品名「GC−14B」で市販されている。
【0028】
(押出発泡後30日経過した時点の難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体中に含まれる飽和炭化水素量〔重量%〕)=100×試験片中の総飽和炭化水素量/試験片の重量
【0029】
そして、本発明の難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体は、汎用の押出発泡方法を用いて製造され、例えば、ポリスチレン系樹脂、並びに、ハロゲン化脂肪族化合物又はその誘導体と六配位金属錯体とからなる難燃剤、必要に応じて添加剤を押出機に供給して溶融混練し、この溶融状態のポリスチレン系樹脂に、炭素数が3〜5である飽和炭化水素から選ばれた一種以上の化合物を含有する発泡剤を圧入した後に押出発泡させて難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体を製造することができる。なお、難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造時に、難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体の気泡径を調整するために、マイカ、重炭酸ナトリウム、アゾジカルボンアミドなどの発泡核剤をポリスチレン系樹脂に添加してもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明の難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体は、ポリスチレン系樹脂を、炭素数が3〜5である飽和炭化水素から選ばれた一種以上の化合物を含有する発泡剤を用いて押出発泡してなるポリスチレン系樹脂発泡体であって、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して、ハロゲン化脂肪族化合物又はその誘導体1〜10重量部及び六配位金属錯体0.05〜2重量部からなる難燃剤を含有することを特徴とするので、優れた難燃性を有すると共に、ポリスチレン系樹脂の熱安定化を向上させて高発泡倍率化及び変色防止を図ることができ、更に、環境衛生にも優れている。
【0031】
更に、上記難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体において、ハロゲン化脂肪族化合物又はその誘導体が、2,2−ビス〔4' −(2,3−ジブロモプロポキシ)−3',5' −ジブロモフェニル〕プロパン及び/又はトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートである場合には、より優れた難燃性を有する。
【0032】
又、上記難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体において、六配位金属錯体がヘキサシアノ金属錯体である場合には、難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体は、より優れた難燃性を有すると共に変色の生じていない美麗なものとなっている。
【0033】
そして、上記難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体において、六配位金属錯体を形成する中心金属が、遷移金属である場合には、より優れた難燃性を有する。
【実施例】
【0034】
(実施例1〜10、比較例1〜6)
押出機として、口径が50mmの第一押出機の先端に口径が65mmの第二押出機が接続されてなるタンデム型押出機を用い、上記第一押出機に、ポリスチレン(東洋スチレン社製 商品名「HRM−18」)100重量部に対して、2,2−ビス〔4' −(2,3−ジブロモプロポキシ)−3',5' −ジブロモフェニル〕プロパン、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、テトラブロモビスフェノールA−ビス(アリルエーテル)、ヘキサシアノ鉄(III) 酸カリウム、ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム三水和物、シクロペンタジエン鉄、トリフェニルホスフェート、イソシアヌル酸及び2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンを表1,2に示した所定量(重量部)づつ供給して溶融混練し、この溶融状態のポリスチレンに、イソブタン、ジメチルエーテル、塩化メチル及び二酸化炭素を表1,2に示した所定量(重量部)づつ圧入した後、この溶融状態のポリスチレンを第二押出機に連続的に供給して溶融混練しつつ発泡に適した樹脂温度130℃に冷却した上で、第二押出機の先端部に取り付けたTダイ(幅:70mm、厚み:1.2mm)から35kg/時間の吐出量で押出発泡し、Tダイに密接させて配設された、上下方向に30mmの間隔を存して平行に配設された上下一対のサイジングプレートの対向面間に連続的に供給して、断面が横長長方形状の厚み28mm、幅170mmの難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡板を連続的に製造した。なお、表1に示した各化合物の単位は、「重量部」である。又、比較例2では、2,2−ビス〔4' −(2,3−ジブロモプロポキシ)−3',5' −ジブロモフェニル〕プロパンを多量に添加したために、ポリスチレンが大きく可塑化して押出発泡性が低下し、難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡板を得ることができなかった。
【0035】
得られた難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡板の密度、断熱性、燃焼性、平均気泡径、押出発泡後30日経過した時点のイソブタンの残存量及び変色の有無について、下記に示した要領にて測定し、その結果を表1,2に示した。
【0036】
(密度)
難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡板の密度をJIS K7222に準拠して測定した。
【0037】
(断熱性)
押出発泡後30日が経過した時点の難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡板から、該難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡板の両面と、この両面のそれぞれから厚み方向に内側に1.5mmだけ入った部分との間にある表層部分、及び、幅方向の両端部10mmづつを除去し、この表層部分及び両端部が除去されたスチレン系樹脂発泡板から、押出方向に200mm、スチレン系樹脂発泡板の表面に沿い且つ押出方向に直交する方向に150mm、厚み方向に25mmの大きさを有する試験片を切り出した。
【0038】
そして、上記試験片の熱伝導率を、JIS A1412-1994 の「熱絶縁材の熱伝導率及び熱抵抗の測定方法」において規定された平板熱流計法に準拠して測定し、得られた熱伝導率を断熱性の指標とした。
【0039】
(燃焼性)
押出発泡後一週間が経過した時点の難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡板から、縦25mm×横20mm×厚さ10mmの試験片を5枚、切り出した。そして、この5個の試験片について、切り出してから3日経過後に、JIS A9511-1995 に規定された測定方法Aの燃焼性試験に準拠して燃焼性を測定し、下記の基準にて判断した。
○・・・上記測定方法Aの燃焼性を満足する。即ち、5個の試験片の全てについて炎が 3秒以内に消えると共に残じんがなく、燃焼限界支持線を越えて燃焼しなかっ た。
△・・・自消性は有するものの、○の基準を満足しなかった。
×・・・自消性は認められなかった。
【0040】
(イソブタンの残存量)
押出発泡後30日経過した時点の難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡板から、該難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体の両面と、この両面のそれぞれから厚み方向に内側に2mmだけ入った部分との間にある表層部分を除外し、この表層部分が除外された難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡板から、押出方向に35mm、難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体の表面に沿い且つ押出方向に直交する方向に5mm、厚み方向に5mmの大きさを有する直方体形状の試験片を切り出し、この試験片の重量を測定する。なお、難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡板の厚み方向とは、難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡板の表面に対して直交する方向をいう。
【0041】
そして、上記試験片を150℃の熱分解炉に供給してガスクロマトグラフィー(島津製作所社製 商品名「GC−14B」)からチャートを得、予め測定しておいたイソブタンの検量線に基づいて上記チャートから試験片中のイソブタン量を算出し、以下の式に基づいて求めた。
(押出発泡後30日経過した時点の難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡板中に含まれるイソブタン量〔重量%〕)=100×試験片中のイソブタン量/試験片の重量
【0042】
(平均気泡径)
難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡板の平均気泡径は、ASTM D2842−69の試験方法に準拠して測定された平均弦長に基づいて算出されたものをいう。具体的には、難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡板から、該難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡板の両面と、この両面のそれぞれから厚み方向に内側に1.5mmだけ入った部分との間にある表層部分を除去した上で、難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡板をその押出方向に沿って厚み方向に切断し、その切断面を走査型電子顕微鏡(日本電子社製 商品名「JSM T−300」)を用いて20倍に拡大して撮影した。
【0043】
次に、撮影した写真における写真上長さ60mmの一直線上にある気泡数から、各気泡の平均弦長(t)を下記式1に基づいて算出した。
平均弦長(t)=60/(気泡数×写真の倍率)・・・式1
【0044】
そして、下記式2により、難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体の平均気泡径を算出した。
平均気泡径D=t/0.616・・・式2
【0045】
(変色の有無)
難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡板の表面を目視観察して下記基準に基づいて判断した。比較例6では、シクロペンタジエン鉄が四配位金属錯体であり、押出発泡時にシクロペンタジエン鉄が分解して難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡板が黄変し、更に、押出機内における滞留時間が長くなると黒変した。
○・・・難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体の表面が白色であった。
×・・・難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体の表面が添加剤やポリスチレンの劣化に より変色していた。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂を、炭素数が3〜5である飽和炭化水素から選ばれた一種以上の化合物を含有する発泡剤を用いて押出発泡してなるポリスチレン系樹脂発泡体であって、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して、ハロゲン化脂肪族化合物又はその誘導体1〜10重量部及び六配位金属錯体0.05〜2重量部からなる難燃剤を含有することを特徴とする難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項2】
ハロゲン化脂肪族化合物又はその誘導体が、2,2−ビス〔4' −(2,3−ジブロモプロポキシ)−3',5' −ジブロモフェニル〕プロパン及び/又はトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートであることを特徴とする請求項1に記載の難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項3】
六配位金属錯体がヘキサシアノ金属錯体であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項4】
六配位金属錯体を形成する中心金属が、遷移金属であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項5】
遷移金属がFeであることを特徴とする請求項4に記載の難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項6】
押出発泡後30日経過した時点における、炭素数が3〜5である飽和炭化水素から選ばれた一種以上の化合物の含有量が3.5重量%以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項7】
ポリスチレン系樹脂及び難燃剤を押出機に供給して溶融混練し、この溶融状態のスチレン系樹脂に発泡剤を供給した上で押出発泡させる難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法であって、上記ポリスチレン系樹脂100重量部に対して、上記難燃剤が、ハロゲン化脂肪族化合物又はその誘導体1〜10重量部及び六配位金属錯体0.05〜2重量部からなると共に、上記発泡剤が、炭素数が3〜5である飽和炭化水素から選ばれた一種以上の化合物2〜6重量部を含有することを特徴とする難燃性ポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。

【公開番号】特開2006−124495(P2006−124495A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−313712(P2004−313712)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】