説明

難燃樹脂組成物及び成形品

【課題】スチレン系樹脂組成物において、極力少ないアンチモン化合物配合量でも難燃性に優れ、かつ剛性にも優れる、電子・電気機器やOA機器等に好適な難燃樹脂組成物を提供する。
【解決手段】スチレン系樹脂(A)100質量部、ハロゲン系難燃剤(B)3〜30質量部、アンチモン化合物(C)0.1〜4.5質量部、及び層間が有機カチオンでカチオン交換されてなる層状珪酸塩(D)0.1〜30質量部を含む難燃樹脂組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性に優れたハロゲン系の難燃樹脂組成物及びこれを射出成形してなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スチレン系樹脂は耐衝撃性、成形加工性、剛性等の良好なバランスを有する安価な汎用樹脂として、電子・電気機器、OA機器や食品包装材料に広く使用されている。これらの製品のうち、電子・電気機器、OA機器等に関しては難燃化が要求されることが多く、スチレン系樹脂と難燃剤を混合したスチレン系難燃樹脂が多く使用されている。スチレン系樹脂の難燃化の手段としては、安価なハロゲン系難燃剤が多く使用されており、環境問題等からハロゲン系の中でも非デカブロ系(すなわちデカブロモジフェニルエーテル類を含まない系)の難燃剤を使用したスチレン系樹脂が多く使用されている。
【0003】
一方で、縮合リン酸エステル系の難燃剤を使用したポリフェニレンエーテル、ポリカーボネートを利用した難燃樹脂も開発されている。ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネートは燃焼時比較的多くのチャー(炭化物)を形成し、樹脂表面を被覆するため樹脂内部で発生する分解ガスの燃焼場への供給を遅延させることにより、難燃性を付与できる。しかしながら、ポリフェニレンエーテル系樹脂はスチレン系樹脂と比較して耐光変色性や流動性に劣り、難燃樹脂組成物に用いた場合、成形性に劣るという欠点をもつ。また、ポリカーボネートも流動性に劣るとともに、加水分解性があるため、リサイクル性に劣るという欠点を有する。
【0004】
一方、層状珪酸塩を用いた難燃樹脂組成物が知られている。特許文献1〜3には、チャー形成能の高いポリフェニレンエーテルを含有する芳香族ビニル系樹脂を配合した難燃性に優れた樹脂組成物が提案されているが、ポリフェニレンエーテルを有する芳香族ビニル系樹脂は流動性が低く、成形加工が困難であり、また耐光変色性の劣化が著しい。したがって、従来の技術において、スチレン系樹脂のようなチャー形成能の低い易燃焼性樹脂に対して、ポリフェニレンエーテルやポリカーボネートを用いずに十分な難燃性を付与するためには、従来のハロゲン系難燃剤及びアンチモン化合物が必要となる。しかし、近年における原材料価格の高騰等の問題からアンチモン化合物の極力少ないスチレン系難燃樹脂の開発が望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−60160号公報
【特許文献2】特開2003−26915号公報
【特許文献3】特開2006−89683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる現状に対し、実質的にポリフェニレンエーテルやポリカーボネートを含有しない場合にも、極力少ないアンチモン化合物配合量にて十分な難燃性を有し、かつ剛性にも優れる、電子・電気機器やOA機器等に好適なスチレン系の難燃樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題に対し、本発明者らは鋭意研究の結果、スチレン系樹脂に特定の層状珪酸塩を分散させてなる難燃樹脂組成物が、極力少ないアンチモン化合物配合量にて十分な難燃性及び優れた剛性を与えることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、スチレン系樹脂(A)100質量部、ハロゲン系難燃剤(B)3〜30質量部、アンチモン化合物(C)0.1〜4.5質量部、及び層間が有機カチオンでカチオン交換されてなる層状珪酸塩(D)0.1〜30質量部を含む難燃樹脂組成物を提供する。
【0009】
本発明はまた、滑剤(E)を更に含む上記難燃樹脂組成物を提供する。
【0010】
本発明はまた、スチレン系樹脂(A)100質量部、ハロゲン系難燃剤(B)3〜30質量部、アンチモン化合物(C)0.1〜4.5質量部、及び層間が有機カチオンでカチオン交換されてなる層状珪酸塩(D)0.1〜30質量部からなる難燃樹脂組成物を提供する。
【0011】
本発明はまた、スチレン系樹脂(A)100質量部、ハロゲン系難燃剤(B)3〜30質量部、アンチモン化合物(C)0.1〜4.5質量部、層間が有機カチオンでカチオン交換されてなる層状珪酸塩(D)0.1〜30質量部、及び滑剤(E)からなる難燃樹脂組成物を提供する。
【0012】
本発明はまた、上記の難燃樹脂組成物を射出成形してなる成形品を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の難燃樹脂組成物は、実質的にポリフェニレンエーテルやポリカーボネートを含有しなくとも、極力少ないアンチモン化合物配合量にて十分な難燃性を有し、かつ剛性にも優れており、例えば電子・電気機器やOA機器に好適なスチレン系難燃樹脂組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の難燃樹脂組成物は、スチレン系樹脂(A)100質量部、ハロゲン系難燃剤(B)3〜30質量部、アンチモン化合物(C)0.1〜4.5質量部、及び層間が有機カチオンでカチオン交換されてなる層状珪酸塩(D)0.1〜30質量部を含む。本発明の難燃樹脂組成物は、滑剤(E)を更に含むことができる。また、本発明の難燃樹脂組成物は、スチレン系樹脂(A)100質量部、ハロゲン系難燃剤(B)3〜30質量部、アンチモン化合物(C)0.1〜4.5質量部、及び層間が有機カチオンでカチオン交換されてなる層状珪酸塩(D)0.1〜30質量部からなるものであってもよく、スチレン系樹脂(A)100質量部、ハロゲン系難燃剤(B)3〜30質量部、アンチモン化合物(C)0.1〜4.5質量部、層間が有機カチオンでカチオン交換されてなる層状珪酸塩(D)0.1〜30質量部、及び滑剤(E)からなるものであってもよい。
【0015】
スチレン系樹脂(A)
本発明におけるスチレン系樹脂(A)とは特に限定されるものではなく、一般スチレン系樹脂の他、ゴム変性スチレン系樹脂も使用できる。スチレン系樹脂(A)は、典型的には高衝撃ポリスチレン(HIPS)であることができる。一般スチレン系樹脂はスチレン系単量体を重合させることにより製造することができる。本明細書において、ゴム変性スチレン系樹脂とは、ゴム状重合体が共存しているスチレン系樹脂を意味し、より典型的にはスチレン系樹脂マトリクス中にゴム状重合体粒子が分散したものを意味する。ゴム変性スチレン系樹脂は、例えば、ゴム状重合体の存在下でスチレン系単量体を重合させることにより製造することができる。
【0016】
スチレン系単量体としては、スチレンの他、α−メチルスチレン、α−メチルp−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、t−ブチルスチレンあるいはブロモスチレン、クロロスチレン、インデン等が例示できるが、入手性の点でスチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は1種若しくは2種以上使用することができる。
【0017】
また、必要に応じ、スチレン系単量体と共重合可能な他の不飽和単量体を組み合わせて使用してスチレン系樹脂(A)を製造しても良い。スチレン系単量体と共重合可能な他の不飽和単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸やアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル等の不飽和カルボン酸のアルキルエステル、更にメタクリロニトリル、無水マレイン酸、フェニルマレイミド等が挙げられる。これらは、1種で又は2種以上組み合わせて使用することができる。これら、スチレン系単量体と共重合可能な不飽和単量体の量は、耐衝撃性、成形加工性、剛性等が良好に維持される点で、スチレン系単量体及び該スチレン系単量体と重合可能な不飽和単量体の合計の50質量%以下であることが好ましい。
【0018】
ゴム状重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、ポリクロロプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体等を使用することができるが、ポリブタジエン及びスチレン−ブタジエン共重合体が好ましい。ポリブタジエンは、シス含有率の高いハイシスポリブタジエン、シス含有率の低いローシスポリブタジエンの双方を用いることができる。また、スチレン−ブタジエン共重合体は、ランダム構造、ブロック構造の双方を用いることができる。これらのゴム状重合体は1種又は2種以上で使用することができる。また、ブタジエン系ゴムを水素添加した飽和ゴムを使用することもできる。
【0019】
ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体の含有量は2〜15質量%が好ましく、更に好ましくは4〜13質量%である。ゴム状重合体の上記含有量が2質量%より少ないと耐衝撃性が低下する傾向にあり、また15質量%を越えると剛性、光沢が低下する傾向にある。
【0020】
ゴム状重合体は、典型的にはスチレン系樹脂マトリクス中に粒子状に分散している。この場合のゴム状重合体粒子の平均粒子径は0.15〜4.0μmの範囲にあることが好ましく、0.5〜3.0μmの範囲にあることが更に好ましい。該平均粒子径が0.15μmより小さいと耐衝撃性が低下する傾向にあり、4.0μmを越えると光沢が低下する傾向にある。
【0021】
ゴム状重合体は、溶融ブレンドによってスチレン系樹脂(A)中で分散させても良い。この場合、スチレン系樹脂(A)中のゴム状重合体粒子の含有量は0.1〜20質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜10質量%である。ゴム状重合体粒子の含有量が0.1質量%より少ないと耐衝撃性が低下する傾向にあり、また20質量%を越えると光沢が低下する傾向にある。
【0022】
スチレン系樹脂(A)の分子量は、還元粘度で0.4〜1.0dl/gの範囲にあることが好ましく、更に好ましくは0.5〜0.8dl/gの範囲である。還元粘度が0.4dl/gより小さいと耐衝撃性が低下する傾向にあり、1.0dl/gを超えると流動性が低下する傾向にある。なお還元粘度の測定条件としては、例えば、ポリスチレンの場合、トルエン溶液中で30℃、濃度0.5g/dlの条件、また不飽和ニトリル−スチレン系共重合体の場合、メチルエチルケトン溶液中で30℃、濃度0.5g/dlの条件を採用できる。
【0023】
スチレン系樹脂(A)の製造方法は特に制限されるものではない。例えばスチレン系樹脂(A)がゴム変性スチレン系樹脂である場合、ゴム状重合体の存在下で、スチレン系単量体を重合する塊状重合若しくは溶媒を更に用いて行う溶液重合、又は塊状重合の反応途中で懸濁重合に移行する塊状−懸濁重合、又はゴム状重合体ラテックスの存在下でスチレン系単量体を重合する乳化グラフト重合にて製造することができる。中でも塊状重合及び塊状−懸濁重合が好ましい。塊状重合においては、共役ジエン系ゴム、スチレン系単量体及び必要に応じて有機溶媒、有機過酸化物、連鎖移動剤を添加した混合溶液を、完全混合型反応器又は槽型反応器と複数の槽型反応器とを直列に連結して構成される重合装置に連続的に供給することにより製造することができる。スチレン系樹脂(A)には、溶融ブレンド等により他の樹脂をブレンドしてもよい。溶融ブレンド体の製造方法は特に限定されない。一般に、単軸押出機、特殊単軸押出機又は2軸押出機で溶融混練することにより溶融ブレンド体が得られる。
【0024】
ハロゲン系難燃剤(B)
本発明において用いるハロゲン系難燃剤(B)としては、例えばテトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールAのカーボネートオリゴマー、テトラブロモビスフェノールAビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールAビス(2−ブロモエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルとブロム化ビスフェノール付加物エポキシオリゴマー、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルとトリブロモフェノール付加物等のテトラブロモビスフェノールA誘導体、デカブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、エチレンビステトラブロモフタルイミド、ヘキサブロモシクロドデカン、1,2−ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、2,3−ジブロモプロピルペンタブロモフェニルエーテル、1,2−ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)エタン、2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジン、臭素化ポリスチレン、ポリ臭素化スチレン、ペンタブロモベンジルアクリレート(モノマー)等の臭素系芳香族化合物、塩素化パラフィン、塩素化ナフタレン、パークロロシクロペンタデカン、塩素化芳香族化合物、塩素化脂環状化合物、塩化ビニル樹脂等が挙げられる。この中で、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルとブロム化ビスフェノール付加物エポキシオリゴマー、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルとトリブロモフェノール付加物、1,2−ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジン等が好ましく用いられる。これらの化合物は、目的に応じて単独または2種以上で用いることができる。
【0025】
アンチモン化合物(C)
本発明において用いるアンチモン化合物(C)としては、例えば三酸化アンチモン、四酸化二アンチモン、五酸化二アンチモン等の酸化物やアンチモン酸ソーダ等のアンチモン酸塩等が挙げられる。またアンチモン化合物としては、例えば、シラン系カップリング剤等で表面処理されたものも使用できる。好ましいアンチモン化合物は、難燃性効果の面から三酸化アンチモンである。これらのアンチモン化合物は、1種単独で、または2種以上混合して使用できる。
【0026】
層間が有機カチオンでカチオン交換されてなる層状珪酸塩(D)
本発明において用いる、層間が有機カチオンでカチオン交換されてなる層状珪酸塩(D)(以下、層状珪酸塩(D)と略すこともある)としては、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイト、ベントナイト、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロライト等のスメクタイト系粘土、又は、バーミキュライト、ハロイサイト、膨潤性マイカ等の天然粘土又は合成粘土若しくはこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1種の層状珪酸塩等が挙げられ、中でもベントナイト、モンモリロナイト、膨潤性マイカが好ましい。
【0027】
また、使用できる有機カチオンとしては、第4級アンモニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩、及びそれらの混合物からなる有機カチオンが挙げられる。
【0028】
第4級アンモニウム塩としては、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ベンジルトリブチルアンモニウム、ベンジルジメチルドデシルアンモニウム、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウム、ベンジルジメチルステアリルアンモニウム、ベンサルコニウム等のベンジルトリアルキルアンモニウムイオンやトリメチルオクチルアンモニウム、トリメチルドデシルアンモニウム、トリメチルオクタデシルアンモニウム、トリメチルステアリルアンモニウム等のアルキルトリメチルアンモニウムイオン、さらにジメチルジオクチルアンモニウム、ジメチルジドデシルアンモニウム、ジメチルジオクタデシルアンモニウム等のジメチルジアルキルアンモニウムイオン、さらにトリオクチルメチルアンモニウム、トリドデシルメチルアンモニウム等のトリアルキルメチルアンモニウムイオン、ベンゼン環を2個有するベンゼトニウムイオンが挙げられる。好ましくは、ベンジルジメチルステアリルアンモニウム、ジメチルジオクタデシルアンモニウムである。これらの第4級アンモニウム塩は、1種単独で、又は2種以上混合して使用できる。
【0029】
ホスホニウム塩としては、例えば、ドデシルトリフェニルホスホニウム塩、メチルトリフェニルホスホニウム塩、ラウリルトリメチルホスホニウム塩、ステアリルトリメチルホスホニウム塩、トリオクチルホスホニウム塩、ジステアリルジメチルホスホニウム塩、ジステアリルジベンジルホスホニウム塩等が挙げられる。これらのホスホニウム塩は、1種単独で、又は2種以上混合して使用される。
【0030】
スルホニウム塩としては、例えば、ノルマルヘキサデシルトリノルマルブチルホスホニウム=ブロミド、ノルマルドデシルトリノルマルブチルホスホニウム=ブロミドが挙げれられる。これらのスルホニウム塩は、1種単独で、又は2種以上混合して使用される。
【0031】
層状珪酸塩(D)は、一般的な有機粘土の製造方法で製造できる。層状珪酸塩(D)の製造方法の例としては、まず層状結晶構造を持つ粘土を水中で十分に剥離及び分散させる工程、得られた粘土水分散液に有機カチオンを添加して混合し、粘土の結晶表面に有機カチオンを吸着させることにより結晶表面を疎水化させて有機粘土を生成する工程、有機粘土の残存カチオンや水分を除去するための洗浄、脱水工程、残存水分を蒸発させる乾燥工程、塊状の有機粘土を粉体状する粉砕工程からなるものが挙げられる。
【0032】
滑剤(E)
本発明において用いる滑剤(E)としては、脂肪族炭化水素系滑剤、高級脂肪族アルコール・高級脂肪酸系滑剤、脂肪酸アマイド系滑剤、金属石けん系滑剤、脂肪酸エステル系滑剤、及び例えば上記のような滑剤を2種以上組合せた複合滑剤等が挙げられ、スチレン系樹脂(A)に対する層状珪酸塩(D)の分散性、及び難燃性向上の目的から、特に金属石けん系滑剤が好ましい。
【0033】
脂肪族炭化水素系滑剤としては、炭素数16以上の流動パラフィン、マイクロクリスタンワックス、天然パラフィン、合成パラフィン、ポリオレフィンワックス等が挙げられる。
【0034】
高級脂肪族アルコール・高級脂肪酸系滑剤としては、牛脂や魚油等の動物油、やし油、なたね油、大豆油、米ぬかワックス等の植物油等が挙げられる。
【0035】
脂肪酸アマイド系滑剤としては、高級脂肪酸のアマイド及びビスアマイドが挙げられる。
【0036】
金属石けん系滑剤としてはステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0037】
脂肪酸エステル系滑剤としては、一価アルコールの高級脂肪酸エステル、多価アルコールの高級脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0038】
本発明の難燃樹脂組成物の各成分の配合量は、スチレン系樹脂(A)100質量部に対し、ハロゲン系難燃剤(B)3〜30質量部、好ましくは5〜25質量部である。ハロゲン系難燃剤(B)の配合量が3質量部未満であると難燃性が悪化し、30質量部より多いと機械的物性が低下する。また、アンチモン化合物(C)は、スチレン系樹脂(A)100質量部に対し、0.1〜4.5質量部配合し、0.5〜2.5質量部配合するのが好ましい。アンチモン化合物(C)の配合量が0.1質量部未満であると難燃性が悪化し、4.5質量部より多いと層状珪酸塩(D)を組合せてアンチモン化合物の配合量を低減する本発明の目的から外れた難燃樹脂組成物となる。また、層状珪酸塩(D)は、スチレン系樹脂(A)100質量部に対し、0.1〜30質量部配合し、0.5〜10質量部配合するのが好ましい。また、任意成分である滑剤(E)の配合量は、スチレン系樹脂(A)100質量部に対し、0〜10質量部が好ましく、0.1〜5質量部がより好ましい。
【0039】
本発明の難燃樹脂組成物の製造方法としては、特に制限はないが、例えば、スチレン系樹脂(A)、ハロゲン系難燃剤(B)、アンチモン化合物(C)及び層状珪酸塩(D)、並びに任意に滑剤(E)を一括ブレンドし、2軸押出機で200℃〜300℃の範囲で溶融混練する方法が挙げられる。なお、本発明の難燃樹脂組成物を得るにあたり、必要に応じシリコーンオイル、ミネラルオイル、可塑剤、充填剤、潤滑剤、酸化防止剤、熱安定剤、衝撃補強剤等の添加剤を任意の過程で添加することができる。
【0040】
本発明の難燃樹脂組成物は、典型的には、ポリフェニレンエーテル及びポリカーボネートを実質的に含まない。これにより、難燃性及び剛性が良好でかつ優れた耐光変色性、流動性及びリサイクル性を与える難燃樹脂組成物が得られる。より典型的には難燃樹脂組成物の樹脂成分は実質的にスチレン系樹脂(A)のみからなることができる。
【0041】
本発明は、上述した本発明の難燃樹脂組成物を射出成形してなる成形品も提供する。成形品は、本発明の難燃樹脂組成物を用いて従来公知の射出成形方法により作製できる。本発明において好適な射出条件としては、成形機シリンダー設定温度として200〜250℃、金型設定温度として40〜60℃、ペレット乾燥条件として80℃×3時間以上を例示できる。
【0042】
本発明の成形品は、例えば電子・電気機器やOA機器の筐体部分、高電圧・高温となる内部部品等に好適に使用できる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、本発明では、下記の測定方法及び評価方法を用いた。
【0044】
(1)難燃性
米国アンダーライターズ・ラボラトリー・インコーポレーションより出版された「UL94安全規格:機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験」の7〜10項目に記載の94V−2,94V−1、94V−0(以下「V−2」、「V−1」、「V−0」と略す)の基準に従い、1/10インチ短冊試験片にて測定した。
【0045】
(2)曲げ弾性率
ISO 178に準拠して測定した。
【0046】
実施例及び比較例において原材料は以下のものを用いた。
【0047】
スチレン系樹脂(A):高衝撃ポリスチレン(HIPS)であるゴム変性スチレン系樹脂(PSジャパン株式会社製 HIPS H0503)を用いた。
該HIPSは、ゴム状重合体としてポリブタジエンを使用しており、また該HIPSの分析値は、ゴム状重合体含有量8.6質量%、ゴム状重合体粒子の平均粒子径1.9μm、還元粘度0.64dl/gであった。
【0048】
ハロゲン系難燃剤(B):第一工業製薬(株)製、(商品名)ピロガードSR−245(2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジン)を使用した。
アンチモン化合物(C):(株)鈴裕化学製、(商品名)ファイヤーカットAT−3(三酸化アンチモン)を用いた。
層状珪酸塩(D):(株)ホージュン製、(商品名)エスベンNZ(ベンジルジメチルステアリルアンモニウム塩:37.9%にて処理されたベントナイト)を用いた。
滑剤(E):
(E−1):大日化学工業(株)製、ステアリン酸亜鉛を用いた。
(E−2):大日化学工業(株)製、ステアリン酸マグネシウムを用いた。
【0049】
[実施例1〜7]
表1に示す組成比で各成分を一括混合し、二軸押出機(東芝機械社製、TEM−35B)を用い、220℃〜180℃の範囲で溶融押出を行い、ペレットを得た。この際、スクリュー回転数は150rpm、吐出量は15kg/hrであった。このようにして得られたペレットを日本製鋼所社製の射出成形機を用い、成形温度220℃〜180℃の範囲で成形して試験片を作製し、物性及び難燃性の評価を実施した。結果を表1に示す。
【0050】
いずれの実施例においても、後述の表2における比較例1よりも少ないアンチモン化合物添加量にて、V−0の難燃性が達成でき、なおかつ高い剛性を示している。
【0051】
[比較例1〜9]
表2に示す組成比で各成分を一括混合し、実施例1と同様の方法で押出、成形、試験を実施した。結果を表2に示す。比較例1〜3は層状珪酸塩(D)を用いず、比較例2、更に比較例3で、比較例1と比較してアンチモン化合物を減らしていくと、いずれも難燃性がV−0を達成出来なくなる。比較例4〜8では、層状珪酸塩(D)に代えて他の無機フィラーを使用してアンチモン化合物(C)の配合量の削減を試みたが、いずれも難燃性がV−0を達成出来ていない。比較例9では、ハロゲン系難燃剤(B)を用いていないため、層状珪酸塩(D)を多く配合しても難燃性がV−0を達成出来ない。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の難燃樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテルやポリカーボネートを含有せずにアンチモン化合物を大幅に削減した場合にも難燃性及び剛性に優れるため、電子・電気機器やOA機器等に好適なスチレン系難燃樹脂成形品を容易に得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂(A)100質量部、ハロゲン系難燃剤(B)3〜30質量部、アンチモン化合物(C)0.1〜4.5質量部、及び層間が有機カチオンでカチオン交換されてなる層状珪酸塩(D)0.1〜30質量部を含む難燃樹脂組成物。
【請求項2】
滑剤(E)を更に含む、請求項1に記載の難燃樹脂組成物。
【請求項3】
スチレン系樹脂(A)100質量部、ハロゲン系難燃剤(B)3〜30質量部、アンチモン化合物(C)0.1〜4.5質量部、及び層間が有機カチオンでカチオン交換されてなる層状珪酸塩(D)0.1〜30質量部からなる難燃樹脂組成物。
【請求項4】
スチレン系樹脂(A)100質量部、ハロゲン系難燃剤(B)3〜30質量部、アンチモン化合物(C)0.1〜4.5質量部、層間が有機カチオンでカチオン交換されてなる層状珪酸塩(D)0.1〜30質量部、及び滑剤(E)からなる難燃樹脂組成物。
【請求項5】
前記スチレン系樹脂(A)がゴム変性スチレン系樹脂である、請求項1〜4のいずれかに記載の難燃樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の難燃樹脂組成物を射出成形してなる成形品。

【公開番号】特開2010−90339(P2010−90339A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264133(P2008−264133)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(500199479)PSジャパン株式会社 (45)
【Fターム(参考)】