説明

電力増幅器

【課題】 高調波成分の負荷を、基本波の調整に影響されることなく短絡から開放までの範囲で最適な負荷となるよう独立して設定することができ、高い電力変換効率を得ることができる電力増幅器を提供する。
【解決手段】 トランジスタ3の出力に、高調波に対する負荷を設定して反射する高調波反射回路4と、設定された高調波に対する後段の負荷の影響を分離する負荷分離回路5と、基本波についてトランジスタ3と出力負荷との整合を取る基本波整合調整回路6を備え、高調波反射回路4に設けられた先端開放スタブ23の長さが調整されることで、高調波の負荷を調整する電力増幅器としており、高調波成分及び基本波について独立して最適な負荷調整を行うことができ、電力変換効率を向上させることができるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波信号を増幅する電力増幅器に係り、特に電力変換効率を向上させることができる電力増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
[先行技術の説明]
送信用電力増幅器は、高周波信号を所要の送信出力に増幅するものであり、ほとんどの無線機において最も多くの電力を消費する部分である。
電力増幅器が消費する電力は、高周波出力に変換されるだけでなく、内部損失となる熱として放出される。
そのため、発熱量を低減して消費電力の低減や信頼性の向上を図るために、電力増幅器の電力変換効率を上げて、無駄な内部損失を抑えることが要求されている。
この要求に応えるために、種々の高効率動作方式を取り入れた増幅器があり、例えば高調波処理を利用したF級増幅器がある。
【0003】
[従来のF級増幅器]
従来のF級増幅器について簡単に説明する。
F級増幅器は、能動素子であるFET(Field Effect Transistor;電界効果トランジスタ、増幅素子)のドレイン端子に高調波反射回路を接続して、デバイスから見た出力負荷インピーダンスを、偶数次高調波周波数において短絡、奇数次高調波周波数において開放とすることで、FETのドレイン電圧とドレイン電流の波形が重ならないようにしたものである。
【0004】
これにより、FETの動作としては、ドレイン電流が流れているときにドレイン電圧がゼロとなり、逆にドレイン電圧が印加されているときにドレイン電流がゼロとなるので、ドレイン端子とソース端子間の消費電力を常にゼロの状態にすることができる。
すなわち、理想的にはFETのドレイン電圧とドレイン電流の時間波形が重なっていない状態として、FETで消費する電力をゼロにすることができ、内部損失を抑えることができるものである。
【0005】
[従来のF級増幅器の構成:図6]
従来のF級増幅器の構成について図6を用いて説明する。図6は、従来のF級増幅器の概略構成を示す構成ブロック図である。ここでは、高調波成分を2次まで考慮した場合の回路を示している。
図6に示すように、従来のF級増幅器は、入力端子1と、入力側基本波整合回路2と、トランジスタ3と、出力側基本波・2次高調波整合回路12と、2次高調波反射回路13と、出力端子7とを備えている。
入力側基本波整合回路2は、基本波について、入力負荷とトランジスタ3との間の負荷整合を取る。
トランジスタ3は、入力電力を増幅する。
出力側基本波・2次高調波整合回路12は、基本波及び2次高調波について、トランジスタ3の出力と2次高調波反射回路13との間の負荷整合を取る。
2次高調波反射回路13は、2次高調波を反射する。
【0006】
上記F級増幅器の動作について説明する。
上記構成のF級増幅器では、入力端子1から入力した基本波は、入力側基本波入力回路2を通ってトランジスタ3へ入力される。トランジスタ3から出力された基本波と2次高調波は、出力側基本波・2次高調波整合回路12を通り、2次高調波反射回路13に入力される。
【0007】
2次高調波反射回路13は、2次高調波については反射回路として機能し、基本波については伝送線路として機能する。
そのため、2次高調波反射回路13によって適切な負荷を与えることで、トランジスタ3の出力から見た2次高調波負荷は短絡となる。2次高調波反射回路13から出力された基本波は出力端子7より出力される。
このようにして従来のF級増幅器の動作が行われる。
【0008】
上記構成のF級増幅器においては、出力側基本波・2次高調波整合回路12は、基本波と2次高調波の両方に対して、トランジスタ3と2次高調波反射回路13との負荷整合を取らねばならないため、設計が困難である。
また、基本波整合の調整を行う場合、同時に2次高調波の整合が崩れてしまうため、トランジスタ3の出力から見た2次高調波負荷も変わってしまう。
より高次の高調波を考慮した場合にも同様である。
【0009】
[別の従来のF級増幅器の構成:図7]
別の従来のF級増幅器の構成について図7を用いて説明する。図7は、別の従来のF級増幅器の概略構成を示す構成ブロック図である。
図7に示すように、別の従来のF級増幅器は、入力端子1と、入力側基本波整合回路2と、トランジスタ3と、出力側基本波整合・2次高調波反射回路24と、出力端子7とを備えている。
出力側基本波整合・2次高調波反射回路24は、図6に示したF級増幅器の、出力側基本波・2次高調波整合回路12と2次高調波反射回路13とを同一回路で一体に構成したものであり、出力側基本波・2次高調波整合回路12と2次高調波反射回路13とを合わせた機能を備えている。
しかし、別の従来のF級増幅器においても、出力側基本波整合・2次高調波反射回路24で、基本波整合の調整と、2次高調波負荷の調整とを独立して調整することは困難である。
【0010】
[最適な負荷条件]
上述したように、F級増幅器は、デバイスから見た出力負荷を、偶数次高調波において短絡、奇数次高調波において開放とすることで高い効率を得るものであるが、実際には、トランジスタの有する様々な特性から、必ずしもその負荷条件において最も高い効率が得られるとは限らない。
たとえば、出力負荷を、偶数次高調波において開放、奇数次高調波において短絡とする逆F級増幅器と呼ばれる状態が最適となる場合や、F級増幅器と逆F級増幅器との中間の負荷条件が最適となる場合もある。
このように、高調波を利用した増幅器の整合回路を設計する際には、基本波負荷及び偶数次高調波、奇数次高調波の負荷を最適な条件に設定する必要がある。
【0011】
[先行技術文献]
尚、F級増幅器に関する先行技術としては、特開平6−204764号公報(特許文献1)がある。
特許文献1には、電力整合回路において、トランジスタの出力端子A点に、基本波の1/8波長の先端開放の伝送線路を接続し、これと並列に、A点に1/8波長の伝送線路を接続し、伝送線路の先端B点に奇数次高調波の1/4波長の先端開放伝送線路を1種類以上接続し、更にB点に基本波整合回路を接続し構成として、多くの高調波に対して正確な短絡あるいは開放の処理を行うことができることが記載されている。
しかしながら、特許文献1では、偶数次高調波を短絡にすることはできるが、開放にすることはできず、負荷を短絡から開放まで自由に設定可能とするものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平6−204764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、従来のF級増幅器や逆F級増幅器のように高調波処理を利用した電力増幅器では、整合回路に、基本波成分、偶数次高調波、奇数次高調波の全てに対して同時に最適となる負荷を設定することは困難であり、また、各周波数成分に対する負荷を独立して調整することができないという問題点があった。
【0014】
本発明は、上記実状に鑑みて為されたもので、各周波数成分に対して、短絡から開放までの範囲で最適な負荷をそれぞれ独立に設定することができ、高い電力変換効率を得ることができる電力増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、入力された高周波信号を増幅する増幅素子を有する電力増幅器であって、増幅素子から出力される高調波に負荷を与えて反射する高調波反射回路と、高調波反射回路の出力に接続され、高調波反射回路に対する後段の負荷の影響を分離する負荷分離回路と、負荷分離回路の出力に接続され、基本波について負荷整合をとる出力側基本波整合調整回路とを備え、負荷分離回路が、入力端子と、出力端子と、入力端子と出力端子との間に設けられた高調波の1/4波長の長さの第1の伝送線路と、第1の伝送線路と出力端子との間に接続された高調波の1/4波長の長さの第1の先端開放スタブとを備え、高調波反射回路が、入力端子と、出力端子と、入力端子と出力端子との間に設けられた高調波の整合回路と、整合回路と出力端子との間に接続された基本波の1/4波長の長さの第2の伝送線路と、第2の伝送線路に直列に接続された第2の先端開放スタブと、第2の伝送線路と第2の先端開放スタブとの間に接続された基本波の1/4波長の長さの第3の先端開放スタブとを備え、第2の先端開放スタブの長さが調整されることで、高調波の負荷を短絡から開放までの範囲で調整可能とすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、入力された高周波信号を増幅する増幅素子を有する電力増幅器であって、増幅素子から出力される高調波に負荷を与えて反射する高調波反射回路と、高調波反射回路の出力に接続され、高調波反射回路に対する後段の負荷の影響を分離する負荷分離回路と、負荷分離回路の出力に接続され、基本波について負荷整合をとる出力側基本波整合調整回路とを備え、負荷分離回路が、入力端子と、出力端子と、入力端子と出力端子との間に設けられた高調波の1/4波長の長さの第1の伝送線路と、第1の伝送線路と出力端子との間に接続された高調波の1/4波長の長さの第1の先端開放スタブとを備え、高調波反射回路が、入力端子と、出力端子と、入力端子と出力端子との間に設けられた高調波の整合回路と、整合回路と出力端子との間に接続された基本波の1/4波長の長さの第2の伝送線路と、第2の伝送線路に直列に接続された第2の先端開放スタブと、第2の伝送線路と第2の先端開放スタブとの間に接続された基本波の1/4波長の長さの第3の先端開放スタブとを備え、第2の先端開放スタブの長さが調整されることで、高調波の負荷を短絡から開放までの範囲で調整可能とする電力増幅器としているので、高調波と基本波についてそれぞれ独立に負荷調整して最適な負荷条件とすることができ、増幅器の電力変換効率を向上させることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る電力増幅器の構成ブロック図である。
【図2】出力側負荷分離回路5の回路図である。
【図3】出力側2次高調波反射回路4の回路図である。
【図4】出力側負荷分離回路5の別の構成を示す回路図である。
【図5】本電力増幅器の原理的構成を示す回路図である。
【図6】従来のF級増幅器の概略構成を示す構成ブロック図である。
【図7】別の従来のF級増幅器の概略構成を示す構成ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[発明の概要]
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
本発明の実施の形態に係る電力増幅器は、トランジスタの出力に、2次高調波を反射すると共に2次高調波に対する負荷を設定する2次高調波反射回路と、設定された2次高調波負荷に対する後段の負荷の影響を分離する負荷分離回路と、基本波についてトランジスタと出力負荷との整合を取る基本波整合調整回路とを備えたものであり、2次高調波反射回路では基本波整合調整回路の影響を受けることなく2次高調波に対して最適な負荷となるよう負荷調整を行い、基本波整合調整回路では基本波のみに対して整合を調整することができ、2次高調波と基本波のそれぞれについて他方に影響を与えることなく最適な負荷調整を行って、電力変換効率を向上させることができるものである。
【0019】
また、本発明の実施の形態に係る電力増幅器は、トランジスタの出力に、n次高調波に対する負荷を設定して反射するn次高調波反射回路と、設定されたn次高調波に対する後段の負荷の影響を分離するn次負荷分離回路とから成るn次高調波処理回路を、n次高調波、n−1次高調波、…2次高調波に対応して備え、更に基本波についてトランジスタと出力負荷との整合を取る基本波整合調整回路を備えており、n次、n−1次、…2次の各高調波成分及び基本波について独立して最適な負荷調整を行うことができ、電力変換効率を向上させることができるものである。
【0020】
[実施の形態に係る電力増幅器:図1]
本発明の実施の形態に係る電力増幅器について図1を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る電力増幅器の構成ブロック図である。尚、ここでは、説明を簡単にするために、まず、高調波として2次高調波のみを考慮した構成について説明する。
図1に示すように、本電力増幅器は、入力端子1と、入力側基本波整合回路2と、トランジスタ3と、出力側2次高調波反射回路4と、出力側負荷分離回路5と、出力側基本波整合調整回路6と、出力端子7とを備えている。
【0021】
各構成部分について説明する。
入力端子1と、入力側基本波整合回路2と、トランジスタ3と、出力端子7は、図6に示した従来のF級増幅器と同じであるため説明を省略する。
出力側2次高調波反射回路4は、本電力増幅器の特徴部分であって、2次高調波を最適な負荷条件で反射するものであり、2次高調波に対して最適な負荷を与える。
【0022】
出力側負荷分離回路5は、本電力増幅器の特徴部分であり、出力側2次高調波反射回路4で設定された2次高調波負荷に対して、後段の回路が影響を与えないよう、また、2次高調波の負荷調節が後段における基本波整合に影響を与えないよう分離するものである。
出力側基本波整合調整回路6は、基本波について、出力端子に接続される出力負荷とトランジスタ3との負荷整合を取る。
【0023】
[出力側負荷分離回路5:図2]
次に、出力側負荷分離回路5の回路構成について図2を用いて説明する。図2は、出力側負荷分離回路5の回路図である。
図2に示すように、出力側負荷分離回路5は、入力端子14と、伝送線路16と、先端開放スタブ17と、出力端子15とを備えている。
伝送線路16及び先端開放スタブ17は、基本波の波長をλとするとλ/8の長さを備えている。
【0024】
そして、伝送線路16と先端開放スタブ17は、基本波に対してλ/8の長さを持つため、出力端子15にどのような負荷が接続されても、2次高調波については、B点の負荷は0であり、A点における負荷は無限大となる。このため、2次高調波は、出力側負荷分離回路5の後段に接続される負荷によらず、常に出力側負荷分離回路5の入力端子14からみた負荷は無限大となる。
【0025】
また、出力側負荷分離回路5は、基本波については出力側基本波整合調整回路6のプリマッチ回路として動作する。
広帯域でインピーダンス整合を取る場合には、Q値を低く抑えるように、出力側負荷分離回路5の各伝送線路の特性インピーダンスを選択する。
【0026】
[出力側2次高調波反射回路4:図3]
次に、出力側2次高調波反射回路4について図3を用いて説明する。図3は、出力側2次高調波反射回路4の回路図である。
図3に示すように、出力側2次高調波反射回路4は、入力端子18と、整合回路20と、伝送線路21と、先端開放スタブ22と、先端開放スタブ23と、出力端子19とを備えている。
【0027】
伝送線路21と、先端開放スタブ22とは、基本波の波長をλとすると、λ/4の長さを備えている。
また、先端開放スタブ23は、任意の長さLを備えている。
【0028】
整合回路20は、2次高調波においてトランジスタ3の出力の2次高調波負荷インピーダンスと、整合回路20以降の回路との整合を取る回路である。
また、整合回路20は、基本波に対してはプリマッチ回路として動作する。
【0029】
伝送線路21及び先端開放スタブ22,23の特性インピーダンスは、整合回路20によるインピーダンス変換によって基本波のQ値が高くなりすぎないように、2次高調波負荷と基本波負荷との関係に応じて、任意に設定されるようになっている。
【0030】
出力側2次高調波反射回路4の動作について説明する。
伝送線路21は、基本波に対してλ/4の長さであるため、2次高調波については、D点の負荷と、C点から伝送線路21側をみた負荷ZC21は同じになる(ZC=ZC21)。
また、先端開放スタブ22は、基本波に対してλ/4の長さであるため、2次高調波については、D点での先端開放スタブ22側の負荷は無限大となり、先端開放スタブ22の負荷はD点に影響しない。
そのため、D点における2次高調波の負荷は、先端開放スタブ23の長さLによって決まる。
【0031】
C点での負荷は、伝送線路21側の負荷と出力側2次高調波反射回路4の出力に接続される負荷ZAとの合成となる。
出力端子19に、上述した出力側負荷分離回路5を接続することにより、負荷ZAが2次高調波においては無限大となるため、C点における2次高調波の負荷はZC=ZDとなり後段の負荷の影響を受けない。
これにより、先端開放スタブ23の長さLを変化させることで、後段の回路負荷に関係なく、2次高調波負荷を短絡から開放まで調整することができるものである。
ここで、2次高調波負荷を短絡とする場合の先端開放スタブ23の長さをL1、開放とする場合の長さをL2とすると、Lの可変範囲は、L1<L2の場合L1≦L≦L2、L2<L1の場合L2≦L≦L1となる。
【0032】
基本波については、先端開放スタブ22が基本波に対してλ/4の長さであるため、先端開放スタブ23の長さによらず、D点の負荷は常に0となる。
また、伝送線路21が基本波に対しλ/4の長さであるため、C点における伝送線路21側の負荷は無限大となり、先端開放スタブ23の長さLを変更しても、基本波の負荷は変化しない。
すなわち、出力側2次高調波反射回路4と出力側負荷分離回路5は、基本波についてはプリマッチ回路となるものである。
【0033】
[別の構成:図4]
出力側負荷分離回路5の別の構成について図4を用いて説明する。図4は、出力側負荷分離回路5の別の構成を示す回路図である。
図4に示すように、別の出力側負荷分離回路5は、先端開放スタブ22が接続されたD点と先端開放スタブ23との間に、伝送線路21と先端開放スタブ23との負荷整合をとる整合回路25を備えている。
図3の構成において、整合回路20で、2次高調波について、伝送線路21と先端開放スタブ23との負荷整合が十分にとれない場合には、整合回路25によって負荷調整を行うようにしている。
【0034】
[基本波成分の整合]
基本波成分におけるトランジスタ3と出力負荷との整合について説明する。
基本波成分について、出力側2次高調波反射回路4、出力側負荷分離回路5及び出力側基本波整合調整回路6の負荷の合成で、出力側基本波整合調整回路6において出力端子7に接続される出力負荷とトランジスタ3との負荷整合を取る。
【0035】
このとき、調整された2次高調波負荷は、出力側負荷分離回路5によって、出力側負荷分離回路5以降の回路の負荷の影響を受けないため、基本波成分の整合を調整するために出力側基本波整合調整回路6を調整しても、出力側2次高調波反射回路4で設定した2次高調波負荷には影響を与えることなく、独立して基本波整合を調整することができるものである。
【0036】
また、入力側バイアス、出力側バイアスはそれぞれ任意の回路から印加することが可能である。ただし、バイアス回路は基本波及び2次高調波に対し、影響を与えないもの、もしくは整合回路の一部として機能するものとする。
【0037】
[本電力増幅器の原理的構成:図5]
次に、本電力増幅器の原理的構成について図5を用いて説明する。図5は、本電力増幅器の原理的構成を示す回路図である。
図5に示すように、本電力増幅器の原理的構成は、トランジスタ3の入力側に、入力負荷とトランジスタとの負荷整合を取る入力側基本波整合回路2が接続され、トランジスタ3の出力側には、n次(nは3以上の整数)〜2次高調波について、後段の回路の負荷とは独立して負荷調整を行って反射する複数の高調波処理回路と、出力側基本波整合調整回路6とが直列に接続されている。図5の例では、n−1個の高調波処理回路を備えている。
【0038】
n次高調波処理回路は、n次高調波について整合をとり、反射する出力側n次高調波反射回路8と、後段の負荷の影響を分離する出力側n次負荷分離回路9とから成る。
出力側n次高調波反射回路8の構成は、図3に示した出力側2次高調波反射回路4と同様の構成であり、先端開放スタブ23の長さは、n次高調波の負荷条件が最適となるLとしている。
【0039】
また、出力側n次負荷分離回路9は、図2に示した出力側負荷分離回路5と同様の構成であるが、伝送線路16及び先端開放スタブ17の長さは、n次高調波の波長の1/4の長さとしている。
【0040】
また、n−1次高調波処理回路は、n−1次高調波について整合をとり、反射する出力側n−1次高調波反射回路10と、後段の負荷の影響を分離する出力側n−1次負荷分離回路11とから成る。
以下同様に、各次数の高調波について、出力側高調波反射回路と出力側負荷分離回路とを備えた高調波処理回路を備え、2次高調波処理回路の出力側負荷分離回路が出力側基本波整合調整回路6に接続された構成となっている。
【0041】
これにより、n〜2次の各次数の高調波を、それぞれ後段の負荷の影響を受けることなく、且つ各高調波より低い周波数の負荷(後段で調節される)に対して影響を与えることなく、各々独立して、短絡から開放までの範囲で負荷条件の最適化を行うことができるものである。
【0042】
そして、基本波における、トランジスタ3と出力端子7に接続される出力負荷との負荷の整合を取るよう、出力側基本波整合調整回路6の負荷を最適化する。
本電力増幅器では、このようにして、基本波及びn次までの高調波の負荷をそれぞれ独立に最適化し、高効率を得ることができるものである。
【0043】
上記構成では、出力側のみに高調波反射回路及び負荷分離回路、基本波整合調整回路を接続しているが、入力側についても、同様の構成で入力側高調波反射回路及び入力側負荷分離回路、入力側基本波整合調整回路を接続することで、入力側高調波負荷と入力側基本波整合を独立に最適化することができる。
また、高調波反射回路、負荷分離回路の高調波次数は必ずしもトランジスタ側から高い次数の順でなくてもよいし、偶数次のみ、又は奇数次のみについて高調波処理回路を設けることも可能である。
【0044】
[実施の形態の効果]
本実施の形態に係る電力増幅器によれば、トランジスタ3の出力に、2次高調波に負荷を与え反射する出力側2次高調波反射回路4と、後段の回路の負荷が2次高調波負荷に影響を与えないよう分離する出力側負荷分離回路5と、基本波についてトランジスタ3と出力負荷との負荷整合をとる出力側基本波整合調整回路6とを備えた電力増幅器としているので、基本波整合の調整の影響を受けずに2次高調波の負荷条件を最適に設定することができると共に、2次高調波の負荷の影響を受けずに基本波の整合を調整でき、2次高調波と基本波をそれぞれ独立して最適な負荷に調整することができ、電力変換効率を向上させることができる効果がある。
【0045】
また、本電力増幅器によれば、トランジスタ3の出力に、n次高調波に対する負荷を設定して反射するn次高調波反射回路8と、設定されたn次高調波に対する後段の負荷の影響を分離するn次負荷分離回路9とから成るn次高調波処理回路を、n次高調波、n−1次高調波、…2次高調波に対応して備え、更に基本波についてトランジスタと出力負荷との整合を取る基本波整合調整回路6を備えており、n次、n−1次、…2次の各高調波成分及び基本波について独立して最適な負荷調整を行うことができ、電力変換効率を向上させることができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、高調波処理を利用して電力変換効率を向上させることができる電力増幅器に適している。
【符号の説明】
【0047】
1…入力端子、 2…入力側基本波整合回路、 3…FET、 4…出力側2次高調波反射回路、 5…出力側負荷分離回路、 6…出力側基本波整合調整回路、 7…出力端子、 8…出力側n次高調波反射回路、 9…出力側n次負荷分離回路、 10…出力側n−1次高調波反射回路、 11…出力側n−1次負荷分離回路、 12…出力側基本波・2次高調波整合回路、 13…2次高調波反射回路、 14…入力端子、 15…出力端子、 16…伝送線路、 17…先端開放スタブ、 18…入力端子、 19…出力端子、20…整合回路、 21…伝送線路、 22…先端開放スタブ、 23…先端開放スタブ、 24…出力側基本波整合・2次高調波反射回路、 25…整合回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された高周波信号を増幅する増幅素子を有する電力増幅器であって、
前記増幅素子から出力される高調波に負荷を与えて反射する高調波反射回路と、
前記高調波反射回路の出力に接続され、前記高調波反射回路に対する後段の負荷の影響を分離する負荷分離回路と、
前記負荷分離回路の出力に接続され、基本波について負荷整合をとる出力側基本波整合調整回路とを備え、
前記負荷分離回路が、入力端子と、出力端子と、前記入力端子と前記出力端子との間に設けられた前記高調波の1/4波長の長さの第1の伝送線路と、前記第1の伝送線路と前記出力端子との間に接続された前記高調波の1/4波長の長さの第1の先端開放スタブとを備え、
前記高調波反射回路が、入力端子と、出力端子と、前記入力端子と前記出力端子との間に設けられた前記高調波の整合回路と、前記整合回路と前記出力端子との間に接続された前記基本波の1/4波長の長さの第2の伝送線路と、前記第2の伝送線路に直列に接続された第2の先端開放スタブと、前記第2の伝送線路と前記第2の先端開放スタブとの間に接続された前記基本波の1/4波長の長さの第3の先端開放スタブとを備え、前記第2の先端開放スタブの長さが調整されることで、前記高調波の負荷を短絡から開放までの範囲で調整可能とすることを特徴とする電力増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−176394(P2011−176394A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36908(P2010−36908)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】