説明

電力増幅器

【課題】入力の整合回路での損失の低減、並びに、回路の簡略化及び小型化が可能な電力増幅器を提供する。
【解決手段】電力増幅器100であって、第1金属配線である環状1次コイル121と、複数の第2金属配線である複数の直線2次コイル122とを有し、入力インピーダンスの整合をとるとともに、入力信号を複数の分配信号に分配する入力側トランスフォーマ120と、複数の分配信号の1つを増幅する1対のトランジスタ111をそれぞれが備える複数のプッシュプル増幅器110と、第3金属配線である環状2次コイル131と、複数の第4金属配線である複数の直線1次コイル132とを有し、増幅された複数の分配信号を合成するとともに、出力インピーダンスの整合をとる出力側トランスフォーマ130とを備え、1対のトランジスタ111の2つの入力端子は、第2金属配線を介して互いに接続され、2つの出力端子は、第4金属配線を介して互いに接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力増幅器に関し、特に、高周波用途の電力増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信技術の発展は目覚しく、通信機器の扱う周波数も日々高い周波数に移行しており、ミリ波帯の周波数まで利用されている。最近まで、高周波半導体といえば、良好な絶縁性を有する化合物半導体が主流であった。
【0003】
しかし、近年の微細化技術の進歩により、導電性を有するシリコン系基板を用いたトランジスタにおいても、化合物半導体に近い高周波特性が得られるようになってきている。また、シリコン系基板を用いたトランジスタは、化合物半導体よりも安価で作製できることから、今後ますます普及することが予想されている。
【0004】
高周波フロントエンドとデジタル回路との1チップ化を目指す上で、最も課題となるのはMOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタを用いた電力増幅器の実現である。近年のシリコンの微細化技術の進歩により、高周波特性は改善されているが、MOSトランジスタのゲート絶縁膜として使用される酸化膜が非常に薄いため耐圧は低い。例えば、化合物半導体の場合では数十Vの耐圧があるが、高周波で使用するシリコンのMOSトランジスタでは、最大でも2V程度の耐圧しか実現されていない。
【0005】
以上のように、MOSトランジスタ単体ででは十分な耐圧が実現されないため、高出力を得るためには、複数のトランジスタの出力を合成することが必要である。複数のトランジスタの出力を合成するための方法として、従来から様々な合成器又は電力増幅器が提案されている。例えば、ウィルキンソン型の電力分配合成器、又は、特許文献1に記載の電力増幅器などがある。
【0006】
特許文献1には、一般に分布定数型アクティブトランスフォーマ(DAT)と呼ばれている技術が示されている。図1は、従来の電力増幅器10の構成を示す図である。
【0007】
図1に示すように、特許文献1に記載されている電力増幅器10は、複数のプッシュプル増幅器21と、複数のスラブインダクタ22と、金属コイル23とを備える。複数のプッシュプル増幅器21は、複数のスラブインダクタ22のそれぞれによって環状で相互に接続されている。スラブインダクタ22は、1次巻線として機能し、金属コイル23は、2次巻線として機能する。
【0008】
特許文献1に記載されている電力増幅器10は、入力側の整合をとるために、さらに、スパイラルトランスフォーマバラン30と、差動ライン40及び41と、分配ネットワーク50とを備えている。分配ネットワーク50は、プッシュプル増幅器を構成するトランジスタペアのゲートに、スパイラルトランスフォーマバラン30と、差動ライン40及び41を介して入力された平衡入力信号を与える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−11469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に記載されている手法では、次のような課題がある。
【0011】
特許文献1に記載の電力増幅器では、入力側の整合をとるために、上述したように、スパイラルトランスフォーマバランと、差動ラインと、分配ネットワークとを備えている。したがって、プッシュプル増幅器までの線路長が長く、十分な入力パワーが得られず、損失が増加する。また、上記の部品が必要であるため、回路構成が複雑になってしまう。
【0012】
そこで、本発明は、入力の整合回路における損失の低減、並びに、回路の簡略化及び小型化が可能な電力増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明に係る電力増幅器は、入力信号を増幅し、増幅した入力信号を出力信号として出力する電力増幅器であって、前記入力信号が入力される1次巻線としての環状の第1金属配線、及び、2次巻線としての、前記第1金属配線の一部に沿った形状の複数の第2金属配線を有し、入力インピーダンスの整合をとるとともに、前記入力信号を複数の分配信号に分配する第1トランスフォーマと、前記複数の分配信号の1つを増幅する1対のトランジスタを、それぞれが備える複数のプッシュプル増幅器と、前記出力信号が出力される2次巻線としての環状の第3金属配線、及び、1次巻線としての、前記第3金属配線の一部に沿った形状の複数の第4金属配線を有し、前記複数のプッシュプル増幅器によって増幅された複数の分配信号を合成することで前記出力信号を出力するとともに、出力インピーダンスの整合をとる第2トランスフォーマとを備え、前記1対のトランジスタの2つの入力端子は、前記第2金属配線を介して互いに接続され、前記1対のトランジスタの2つの出力端子は、前記第4金属配線を介して互いに接続される。
【0014】
これにより、伝送線路を用いることなく入力インピーダンス及び出力インピーダンスの整合をとることができるので、損失を低減することができる。さらに、伝送線路を用いていないので、回路の簡略化及び小型化を実現することができる。
【0015】
また、前記複数の第2金属配線の長さの合計は、前記第1金属配線の長さに略等しく、前記複数の第4金属配線の長さの合計は、前記第3金属配線の長さに略等しくてもよい。
【0016】
これにより、金属配線間の磁界結合を有効に利用することができるので、第1トランスフォーマでは損失を最小限に抑えつつ入力信号を分配することができ、第2トランスフォーマでは損失を最小限に抑えつつ複数の分配信号を合成することができる。したがって、電力の損失を低減することができる。
【0017】
また、前記第2金属配線の中点は、前記1対のトランジスタに第1バイアス電圧を供給するための第1電源に接続され、前記第4金属配線の中点は、前記1対のトランジスタに第2バイアス電圧を供給するための第2電源に接続されてもよい。
【0018】
これにより、金属配線の中点をバイアス供給点と利用することで、回路の安定性を向上させることができる。
【0019】
また、前記第1金属配線は、環状の前記第3金属配線の内側に配置されていてもよい。
【0020】
これにより、環状の第3金属配線の内側の領域、すなわち、第3金属配線で囲まれた領域を利用して第1金属配線を配置するので、無駄な領域を削減することができ、小型化を実現することができる。
【0021】
また、前記複数のプッシュプル増幅器のそれぞれは、前記第1金属配線と前記第3金属配線との間に配置されていてもよい。
【0022】
これにより、第1金属配線と第3金属配線との間の領域を有効に利用するので、小型化を実現することができる。
【0023】
また、前記第1金属配線と前記第2金属配線とは、同一の金属配線層に形成され、前記第3金属配線と前記第4金属配線とは、同一の金属配線層に形成されてもよい。
【0024】
これにより、配線間距離を自由に設定することができるので、磁界の結合係数kを自由に設定することができる。
【0025】
また、前記第1金属配線は、前記第2金属配線と異なる金属配線層に形成され、前記第3金属配線は、前記第4金属配線と異なる金属配線層に形成されてもよい。
【0026】
これにより、配線層の膜厚を変更することで配線間距離を変更することができるので、磁界の結合係数kを自由に設定することができる。
【0027】
また、前記電力増幅器は、前記第1トランスフォーマ及び前記第2トランスフォーマの少なくとも一方と、前記半導体基板との間に形成された10μm以上の厚さの誘電体層を備えてもよい。
【0028】
これにより、厚い誘電体層上に形成される配線層を用いてトランスフォーマを構成することで、導電性の半導体基板の影響を抑制することができ、導体損を低減することができる。
【0029】
例えば、前記誘電体層は、ベンゾシクロブテン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン又はポリフェニレンオキシドを含んでもよい。
【0030】
また、前記誘電体層は、第1の材料からなる粒子が第2の材料中に分散されてなるナノコンポジット膜を含んでもよい。
【0031】
これにより、比透磁率又は比誘電率の高い誘電体層を実現できる。また、誘電率及び透磁率を選択することができるので、設計の自由度を高めることもできる。
【0032】
また、前記電力増幅器は、前記第1トランスフォーマ及び前記第2トランスフォーマの少なくとも一方を、バランを用いて構成されていてもよい。
【0033】
これにより、バランを用いた場合、電界結合は比誘電率が大きくなるほど単位長さあたりの電界が強まるため、電力増幅器の小型化が可能となる。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係る電力増幅器によれば、入力の整合回路における損失を低減することができるだけでなく、回路の簡略化及び小型化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】従来の電力増幅器の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る電力増幅器の回路構成の一例を示す図である。
【図3A】本発明の実施の形態1に係る電力増幅器の構造の一例を示す模式図である。
【図3B】本発明の実施の形態1に係る電力増幅器の断面構造の一例を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係るプッシュプル増幅器の回路構成の一例を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る電力増幅器と従来技術との損失特性の比較図である。
【図6A】本発明の実施の形態2に係る電力増幅器の構造の一例を示す模式図である。
【図6B】本発明の実施の形態2に係る電力増幅器の断面構造の一例を示す図である。
【図7A】本発明の実施の形態3に係る電力増幅器の構造の一例を示す模式図である。
【図7B】本発明の実施の形態3に係る電力増幅器の断面構造の一例を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態3に係る厚膜再配線プロセス構造の断面図である。
【図9A】本発明の実施の形態4に係る電力増幅器の構造の一例を示す模式図である。
【図9B】本発明の実施の形態4に係る電力増幅器の断面構造の一例を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態の変形例に係る電力増幅器の回路構成の一例を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態の変形例に係る電力増幅器の回路構成の一例を示す図である。
【図12A】本発明の実施の形態の変形例に係るバランの構造の一例を示す図である。
【図12B】本発明の実施の形態の変形例に係るバランの断面構造の一例を示す図である。
【図12C】本発明の実施の形態の変形例に係るバランの断面構造の一例を示す図である。
【図12D】本発明の実施の形態の変形例に係るバランの断面構造の一例を示す図である。
【図12E】本発明の実施の形態の変形例に係るバランの断面構造の一例を示す図である。
【図13】本発明の実施の形態の変形例に係るバランを用いた電力分配合成器の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1に係る電力増幅器について、図面を参照して説明する。
【0037】
本実施の形態に係る電力増幅器は、電力を増幅する複数のプッシュプル増幅器と、入力信号を複数のプッシュプル増幅器に分配し、かつ、入力側の整合回路としても働く差動トランスフォーマ回路と、複数のプッシュプル増幅器からの出力を合成し、かつ、出力側の整合回路としても働く差動トランスフォーマ回路とを備えることを特徴とする。また、入力側の差動トランスフォーマ回路は、出力側の差動トランスフォーマ回路の内側に配置されている。
【0038】
図2は、本発明の実施の形態1に係る電力増幅器100の回路構成の一例を示す図である。また、図3Aは、本発明の実施の形態1に係る電力増幅器100の構造の一例を示す模式図である。図3Bは、図3Aに示す破線a−a間の断面構造を示す図である。
【0039】
本発明の実施の形態1に係る電力増幅器100は、入力信号を増幅し、増幅した入力信号を出力信号として出力する電力増幅器の一例である。図2に示すように、電力増幅器100は、複数のプッシュプル増幅器110と、入力側トランスフォーマ120と、出力側トランスフォーマ130とを備える。
【0040】
また、複数のプッシュプル増幅器110と、入力側トランスフォーマ120と、出力側トランスフォーマ130は、基板上に形成されている。なお、図2及び図3Aに示すように、本実施の形態では、電力増幅器100は、4つのプッシュプル増幅器110を備える。
【0041】
プッシュプル増幅器110は、図2に示すように、入力された信号を増幅する2つのトランジスタ111を含む1対のトランジスタを備える。プッシュプル増幅器110の構成については、後で説明する。
【0042】
なお、図3Aに示すように、プッシュプル増幅器110は、入力側トランスフォーマ120と出力側トランスフォーマ130との間に配置される。具体的には、プッシュプル増幅器110は、入力側トランスフォーマ120の外側、かつ、出力側トランスフォーマ130の内側に配置される。
【0043】
入力側トランスフォーマ120は、第1トランスフォーマの一例であり、環状1次コイル121と、複数の直線2次コイル122とを有し、入力インピーダンスの整合をとるとともに、入力信号を複数の分配信号に分配する。複数の分配信号は、複数のプッシュプル増幅器110に出力される。入力側トランスフォーマ120は、入力信号を差動信号として複数のプッシュプル増幅器110へ分配する差動分配トランスフォーマの一例である。
【0044】
環状1次コイル121は、1次巻線としての環状の第1金属配線から構成される第1環状コイルの一例であり、入力信号が入力される。具体的には、図3Aに示すように、環状1次コイル121は、一端から入力信号が入力され、他端は、接地されている。ここでは例として、一端から入力信号が入力されて、他端は、接地されているが、環状1次コイル121の両端から差動入力信号を入力しても構わない。
【0045】
直線2次コイル122は、2次巻線としての直線状の第2金属配線である第1直線コイルの一例であり、プッシュプル増幅器110に接続される。また、直線2次コイル122と環状1次コイル121とは、互いに近接しており、磁界結合する。この磁界結合により、入力側トランスフォーマ120は、環状1次コイル121に入力された入力信号を、複数の分配信号に分配し、プッシュプル増幅器110に出力する。
【0046】
本発明の実施の形態1では、縦方向の磁界結合を利用するため、図3Bに示すように、第1金属配線は、第2金属配線と異なる金属配線層に形成される。すなわち、環状1次コイル121と複数の直線2次コイル122とは、互いに異なる金属配線層に形成される。
【0047】
なお、複数の第2金属配線の長さの合計は、第1金属配線の長さに略等しい。言い換えると、複数の直線2次コイル122の長さの合計は、環状1次コイル121の長さに略等しい。なお、略等しいとは、厳密に等しい場合はもちろん、実質的に等しいとみなせる場合も含む。例えば、AとBとが実質的に等しいとは、AがBの70〜130%であることを意味してもよい。より好ましくは、AとBとが実質的に等しいとは、AがBの90〜110%であることを意味してもよい。
【0048】
例えば、入力側トランスフォーマ120は、いわゆる半導体プロセスの一般的な工程に従って形成される配線層である金属配線層に形成される。本実施の形態における入力側トランスフォーマ120は、環状1次コイル121と直線2次コイル122とは、縦方向にスタックされている構造を用いる。つまり、環状1次コイル121は、直線2次コイル122と異なる金属配線層に形成される。これにより、高い結合係数kを得ることができ、トランスフォーマによる結合損失を抑えることが可能である。
【0049】
一例として、環状1次コイル121は、用いる製造プロセスにおける最上層の金属配線層に形成される。今回用いたプロセスにおいては、1.5μmの厚さであり、基板から5.0μm程度の距離にある。直線2次コイル122は、最上層から一層下層の金属配線層に形成され、配線厚は0.5μmである。また、直線2次コイル122が形成される金属配線層と、環状1次コイル121が形成される最上層の金属配線層との配線間隔は、0.5μmである。また、Si半導体基板1000は、10Ω・cmの抵抗率を有する。
【0050】
なお、配線膜厚は、上記例に限らず、例えば、環状1次コイル121の膜厚は0.1〜10μmでもよい。直線2次コイル122の膜厚は、0.1〜10μmでもよい。また、環状1次コイル121と直線2次コイル122との配線間隔は、0.1〜10μmでもよい。
【0051】
また、入力側トランスフォーマ120では、環状1次コイル121の長さに対し、直線2次コイル122の長さが略1/4となるように形成される。これは、入力信号の電力損失を低減するためである。
【0052】
出力側トランスフォーマ130は、第2トランスフォーマの一例であり、環状2次コイル131と、複数の直線1次コイル132とを有し、複数のプッシュプル増幅器110によって増幅された複数の分配信号を合成することで出力信号を出力するとともに、出力インピーダンスの整合をとる。出力側トランスフォーマ130は、複数のプッシュプル増幅器110によって増幅された差動信号である分配信号を合成する差動合成トランスフォーマの一例である。
【0053】
環状2次コイル131は、2次巻線としての環状の第3金属配線である第2環状コイルの一例であり、出力信号が出力される。具体的には、図3Aに示すように、環状2次コイル131は、一端から出力信号が出力される。本実施の形態では他端は、接地されているが差動出力であっても構わない。
【0054】
直線1次コイル132は、1次巻線としての直線状の第4金属配線である第2直線コイルの一例であり、プッシュプル増幅器110に接続される。また、直線1次コイル132と環状2次コイル131とは、互いに近接しており、磁界結合する。この磁界結合により、出力側トランスフォーマ130は、複数のプッシュプル増幅器110によって増幅された複数の分配信号を合成することで、環状2次コイル131から出力する。
【0055】
本発明の実施の形態1では、縦方向の磁界結合を利用するため、図3Bに示すように、第3金属配線は、第4金属配線とは異なる金属配線層に形成される。すなわち、環状2次コイル131と複数の直線1次コイル132とは、互いに異なる金属配線層に形成される。
【0056】
なお、複数の第4金属配線の長さの合計は、第3金属配線の長さに略等しい。言い換えると、複数の直線1次コイル132の長さの合計は、環状2次コイル131の長さに略等しい。
【0057】
出力側トランスフォーマ130も、入力側トランスフォーマ120と、同様の工程を経て形成される。つまり、半導体プロセスの一般的な工程に従って形成される配線層である金属配線層に形成される。
【0058】
入力側トランスフォーマ120同様に、本実施の形態における出力側トランスフォーマ130では、直線1次コイル132と環状2次コイル131とは、縦方向にスタックされている構造を用いる。つまり、環状2次コイル131は、直線1次コイル132と異なる金属配線層に形成される。
【0059】
入力側トランスフォーマ120では、環状1次コイル121の長さに対し、直線2次コイル122の長さが略1/4に形成しているのに対して、出力側トランスフォーマ130では、逆に直線1次コイル132の長さに対し、環状2次コイル131の長さが略4倍に形成される。これは、入力側トランスフォーマ120では入力信号を分配するのに対し、出力側トランスフォーマ130では、複数のプッシュプル増幅器110によって増幅された信号を合成するためである。
【0060】
直線1次コイル132は、用いる製造プロセスの最上層から一層下層の金属配線層に形成される。今回用いたプロセスにおいては、配線厚は0.5μm、最上層の金属配線層との配線間隔は0.5μmである。環状2次コイル131は、最上層の金属配線層に形成される。今回用いたプロセスにおいては、配線厚は1.5μmの厚さであり、基板から5.0μm程度の距離にある。また、基板は、10Ω・cmの抵抗率を有する。
【0061】
なお、配線膜厚は、上記例に限らず、例えば、環状2次コイル131の膜厚は0.1〜5μmでもよい。直線1次コイル132の膜厚は、0.1〜5μmでもよい。また、環状2次コイル131と直線1次コイル132との配線間隔は、0.1〜10μmでもよい。
【0062】
入力側トランスフォーマ120とは使用する金属配線層が、1次コイルと2次コイルとで反対になっている。これは、それぞれ長さの長いコイル(環状1次コイル121及び環状2次コイル131)に対して最上層の金属配線層を使用しているからである。これにより、配線損失を最低限に抑制することが可能である。
【0063】
なお、図3Aに示すように、入力側トランスフォーマ120の環状1次コイル121は、出力側トランスフォーマ130の環状2次コイル131の内側に配置されている。言い換えると、環状1次コイル121を構成する第1金属配線は、環状2次コイル131を構成する第3金属配線の内側に配置されている。具体的には、図3Aのように、本実施の形態に係る電力増幅器100を上方から見た場合の平面において、環状の第1金属配線は、環状の第3金属配線の内側に配置されている。
【0064】
つまり、入力側トランスフォーマ120は、出力側トランスフォーマ130の内側に配置するため、出力側トランスフォーマ130と比較し、小型に設計する必要がある。
【0065】
トランスフォーマの特性は、結合係数kとコイル長Lとによって決定される。具体的には、縦型にスタックされたトランスフォーマの場合、内径、配線幅、配線間膜厚によって決定される。これは、各半導体プロセスにより異なるため3次元電磁界解析ツールを用いて計算することにより算出する。
【0066】
ここで、プッシュプル増幅器110の詳細な構成について、図4を用いて説明する。図4は、本発明の実施の形態1に係るプッシュプル増幅器110の回路構成の一例を示す図である。
【0067】
プッシュプル増幅器110は、2つのトランジスタ111を含む1対のトランジスタを備える。また、プッシュプル増幅器110は、1対のトランジスタの2つの入力端子である、正極及び負極の2つの入力端子を有する入力部と、1対のトランジスタの2つの出力端子である、正極及び負極の2つの出力端子を有する出力部とを備える回路である。
【0068】
2つの入力端子は、直線2次コイル122を構成する第2金属配線を介して互いに接続されている。すなわち、図4に示すように、2つの入力端子は、直線2次コイル122の両端に接続されている。プッシュプル増幅器110の特徴は、1対のトランジスタの入力部には、振幅が等しく位相が互いに逆位相である信号が入力されてトランジスタ駆動されることである。
【0069】
また、2つの出力端子は、直線1次コイル132を構成する第4金属配線を介して互いに接続されている。すなわち、図4に示すように、2つの出力端子は、直線1次コイル132の両端に接続されている。
【0070】
プッシュプル増幅器110は、図4に示すように差動回路で構成される。これにより、1対となるトランジスタの2つの入力端子又は2つの出力端子を接続する金属配線の中点を電源に接続することで、DCバイアスを供給するポイントとして、金属配線の中点を使用することができる。DCバイアス供給点は、仮想ac接地となり、回路の安定性を向上させることが可能である。
【0071】
具体的には、入力側トランスフォーマ120の直線2次コイル122の両端をそれぞれトランジスタのゲート(2つの入力端子)へ接続する。さらに、直線2次コイル122を構成する第2金属配線の中点は、1対のトランジスタにゲートバイアス電圧を供給するための第1電源(VDD1)に接続される。言い換えると、ゲートバイアスは、直線2次コイル122の長さの中点から供給する。
【0072】
また、1対のトランジスタの各ドレイン端子(2つの出力端子)を出力側トランスフォーマ130の直線1次コイル132の両端へ接続する。さらに、直線1次コイル132を構成する第4金属配線の中点は、1対のトランジスタにドレインバイアス電圧を供給するための第2電源(VDD2)に接続される。言い換えると、ドレインバイアスは、ゲートバイアスと同様の手法で、直線1次コイル132の中点から供給する。
【0073】
また、図3Aに示すように、複数のプッシュプル増幅器110は、環状1次コイル121を構成する第1金属配線と、環状2次コイル131を構成する第3金属配線との間に配置されている。これにより、さらなる小型化が実現できる。
【0074】
以下、従来のウィルキンソン型電力分配合成器と、特許文献1に記載の従来技術とに対する、本実施の形態に係る電力増幅器100の優位性について、図5を用いて説明する。図5は、本発明の実施の形態1に係る電力増幅器と従来技術との損失特性の比較図である。
【0075】
60GHzの周波数において10Ω・cmの抵抗率のSi半導体基板を用いて電力増幅器を形成した場合、本願を用いた場合は、ウィルキンソン型電力分配合成器より80%、特許文献1に記載の従来技術より25%の損失を低減することが可能になる。また、回路サイズもウィルキンソン型電力分配合成器より90%程度、特許文献1に記載の従来技術より35%程度の小型化が可能であり、大幅な改善が見込まれる。
【0076】
以上のように、実施の形態1に係る電力増幅器100は、複数のプッシュプル増幅器110と、入力側トランスフォーマ120と、出力側トランスフォーマ130とを備える。入力側トランスフォーマ120は、1次側の環状コイルと2次側の複数の直線コイルを有し、入力インピーダンスの整合をとるとともに、入力信号を複数の分配信号に分配する。出力側トランスフォーマ130は、1次側の複数の直線コイルと2次側の環状コイルを有し、複数の分配信号を合成するとともに、出力インピーダンスの整合をとる。複数のプッシュプル増幅器110はそれぞれ、1対のトランジスタを備え、1対のトランジスタの2つの入力端子は、第2金属配線を介して互いに接続され、2つの出力端子は、第4金属配線を介して互いに接続される。
【0077】
これにより、環状コイルと複数の直線コイルとから構成されるトランスフォーマがインピーダンスの整合と、信号の分配又は合成とを行うので、入力の整合回路における損失の低減、並びに、回路の簡略化及び小型化を実現することができる。
【0078】
例えば、入力インピーダンス及び出力インピーダンスの整合をとるのに伝送線路を用いた場合は、特に、シリコンを用いたCMOS回路では、基板への電界の回りこみのため伝送線路での損失が大きい。これに対して、本発明の実施の形態1に係る電力増幅器は、差動分配トランスフォーマである第1トランスフォーマを入力インピーダンスの整合に利用し、差動分配トランスフォーマである第2トランスフォーマを出力インピーダンスの整合に利用するので、伝送線路を用いる必要がなく、損失を低減することができる。
【0079】
また、本発明の実施の形態1に係る電力増幅器では、入力側である環状の第1トランスフォーマを、出力側である環状の第2トランスフォーマの内側に配置している。つまり、第1トランスフォーマと第2トランスフォーマとは、二重環構造を構成する。したがって、第2トランスフォーマの内側の領域を効果的に利用するので、電力増幅器を小型化することができる。
【0080】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態1では、入力側トランスフォーマ120及び出力側トランスフォーマ130は、縦方向の磁界結合を利用したトランスフォーマについて説明した。これに対して、本発明の実施の形態2に係る電力増幅器が備える入力トランスフォーマ、及び、出力トランスフォーマは、CPW(coplanar waveguide)タイプの線路間隔の横方向の磁界結合を利用したトランスフォーマである。
【0081】
図6Aは、本発明の実施の形態2に係る電力増幅器200の構造の一例を示す模式図である。図6Bは、図6Aに示す破線b−b間の断面構造を示す図である。
【0082】
図6Aに示すように、電力増幅器200は、複数のプッシュプル増幅器110と、入力側トランスフォーマ220と、出力側トランスフォーマ230とを備える。なお、実施の形態1に係る電力増幅器100と同じ構成については、同じ符号を付し、以下では説明を省略する。
【0083】
入力側トランスフォーマ220は、第1トランスフォーマの一例であり、環状1次コイル221と、複数の直線2次コイル222とを有し、入力インピーダンスの整合をとるとともに、入力信号を複数の分配信号に分配する。複数の分配信号は、複数のプッシュプル増幅器110に出力される。入力側トランスフォーマ220は、入力信号を差動信号として複数のプッシュプル増幅器110へ分配する差動分配トランスフォーマの一例である。
【0084】
環状1次コイル221は、1次巻線としての環状の第1金属配線から構成される第1環状コイルの一例であり、入力信号が入力される。具体的には、図6Aに示すように、環状1次コイル221は、一端から入力信号が入力され、他端は、接地されている。ここでは例として、一端から入力信号が入力されて、他端は、接地されているが、環状1次コイル221の両端から差動入力信号を入力しても構わない。
【0085】
直線2次コイル222は、2次巻線としての直線状の第2金属配線である第1直線コイルの一例であり、プッシュプル増幅器110に接続される。また、直線2次コイル222と環状1次コイル221とは、互いに近接しており、磁界結合する。この磁界結合により、入力側トランスフォーマ220は、環状1次コイル221に入力された入力信号を、複数の分配信号に分配し、プッシュプル増幅器110に出力する。
【0086】
本発明の実施の形態2では、横方向の磁界結合を利用するため、図6Bに示すように、第1金属配線と第2金属配線とは、同一の金属配線層に形成される。すなわち、環状1次コイル221と複数の直線2次コイル222とは、同一の金属配線層に形成される。
【0087】
なお、複数の第2金属配線の長さの合計は、第1金属配線の長さに略等しい。言い換えると、複数の直線2次コイル222の長さの合計は、環状1次コイル221の長さに略等しい。
【0088】
例えば、環状1次コイル221は、用いる製造プロセスにおける最上層の金属配線層に形成される。今回用いたプロセスにおいては、1.5μmの厚さであり、Si半導体基板1000から5.0μm程度の距離にある。直線2次コイル222も同様に最上層の金属配線層に形成される。また、Si半導体基板1000は、10Ω・cmの抵抗率を有する。
【0089】
なお、配線膜厚は、上記例に限らず、例えば、環状1次コイル221及び直線2次コイル222の膜厚は0.1〜10μmでもよい。また、環状1次コイル221と直線2次コイル222との配線間隔は、0.1〜10μmでもよい。
【0090】
また、入力側トランスフォーマ220では、環状1次コイル221の長さに対し、直線2次コイル222の長さが略1/4となるように形成される。これは、入力信号の電力損失を低減するためである。
【0091】
この構成により、環状1次コイル221及び直線2次コイル222ともに同一の金属配線層(ここでは、最上層の金属配線層)に形成されるので、トランスフォーマの配線損失を低減することができる。
【0092】
出力側トランスフォーマ230は、第2トランスフォーマの一例であり、環状2次コイル231と、複数の直線1次コイル232とを有し、複数のプッシュプル増幅器110によって増幅された複数の分配信号を合成することで出力信号を出力するとともに、出力インピーダンスの整合をとる。出力側トランスフォーマ230は、複数のプッシュプル増幅器110によって増幅された差動信号である分配信号を合成する差動合成トランスフォーマの一例である。
【0093】
環状2次コイル231は、2次巻線としての環状の第3金属配線である第2環状コイルの一例であり、出力信号が出力される。具体的には、図6Aに示すように、環状2次コイル231は、一端から出力信号が出力される。本実施の形態では他端は、接地されているが差動出力であっても構わない。
【0094】
直線1次コイル232は、1次巻線としての直線状の第4金属配線である第2直線コイルの一例であり、プッシュプル増幅器110に接続される。また、直線1次コイル232と環状2次コイル231とは、互いに近接しており、磁界結合する。この磁界結合により、出力側トランスフォーマ230は、複数のプッシュプル増幅器110によって増幅された複数の分配信号を合成することで、環状2次コイル231から出力する。
【0095】
本発明の実施の形態1では、横方向の磁界結合を利用するため、図6Bに示すように、第3金属配線と第4金属配線とは、同一の金属配線層に形成される。すなわち、環状2次コイル231と複数の直線1次コイル232とは、同一の金属配線層に形成される。
【0096】
なお、複数の第4金属配線の長さの合計は、第3金属配線の長さに略等しい。言い換えると、複数の直線1次コイル232の長さの合計は、環状2次コイル231の長さに略等しい。
【0097】
出力側トランスフォーマ230も、入力側トランスフォーマ220と、同様の工程を経て形成される。つまり、半導体プロセスの一般的な工程に従って形成される配線層である金属配線層に形成される。
【0098】
入力側トランスフォーマ220と同様に、出力側トランスフォーマ230では、直線1次コイル132と環状2次コイル131とは、横方向の磁界結合を利用するCPWタイプの線路を用いる。
【0099】
また、入力側トランスフォーマ220では、環状1次コイル221の長さに対し、直線2次コイル222の長さが略1/4に形成しているのに対して、出力側トランスフォーマ230では、逆に直線1次コイル232の長さに対し、環状2次コイル231の長さが略4倍に形成される。これは、入力側トランスフォーマ220では入力信号を分配するのに対し、出力側トランスフォーマ230では、複数のプッシュプル増幅器110によって増幅された信号を合成するためである。
【0100】
直線1次コイル232は、用いる製造プロセスの最上層の金属配線層に形成される。環状2次コイル231も最上層の金属配線層に形成される。今回用いたプロセスにおいては、配線厚は1.5μmの厚さであり、Si半導体基板1000から5.0μm程度の距離にある。Si半導体基板1000は、10Ω・cmの抵抗率を有する。
【0101】
なお、配線膜厚は、上記例に限らず、例えば、環状2次コイル231及び直線1次コイル232の膜厚は0.1〜10μmでもよい。また、環状2次コイル231と直線1次コイル232との配線間隔は、0.1〜10μmでもよい。
【0102】
この構成により、直線1次コイル232及び環状2次コイル231ともに、同一の金属配線層(ここでは、最上層の金属配線層)に形成することができ、トランスフォーマの配線損失を低減することができる。
【0103】
なお、本発明の実施の形態2に係る電力増幅器200は、図2に示す実施の形態1に係る電力増幅器100と同じ回路構成であるので、以下では説明を省略する。図2に示す回路構成図において、入力側トランスフォーマ120、環状1次コイル121、複数の直線2次コイル122、出力側トランスフォーマ130、環状2次コイル131、複数の直線1次コイル132はそれぞれ、入力側トランスフォーマ220、環状1次コイル221、複数の直線2次コイル222、出力側トランスフォーマ230、環状2次コイル231、複数の直線1次コイル232に相当する。
【0104】
以上のように、本発明の実施の形態2に係る電力増幅器200が備える入力側トランスフォーマ220では、環状1次コイル221と直線2次コイル222とは、横方向の磁界結合を利用する。出力側トランスフォーマ230でも同様に、環状2次コイル231と直線1次コイル232とは、横方向の磁界結合を利用する。
【0105】
なお、トランスフォーマの特性は、結合係数kとコイル長Lとによって決定される。縦型にスタックされたトランスフォーマの場合、内径、配線幅、配線間膜厚によって、その特性が決定されるが、配線間膜厚は、一般的に製造プロセスが決定するとそのプロセス内では変更することができない。したがって、縦型にスタックされたトランスフォーマの場合は、配線間膜厚のパラメータを十分に自由に設定することはできるとはいえない。
【0106】
これに対し、本発明の実施の形態2に係る電力増幅器では、横方向の磁界結合を利用するCPWタイプの線路を用いるので、配線間距離を自由に設定することができる。したがって、縦型にスタックした配線を利用する実施の形態1に係る電力増幅器においても結合係数kの自由度を高く設計することができるが、さらに、結合係数kの自由度を高く設計することができる。
【0107】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態1及び実施の形態2では、シリコンプロセスで一般的に使用されている金属配線、いわゆる内層配線を使用して形成する縦型、及び、横型の磁界結合を利用したトランスフォーマについて説明した。これに対して、本発明の実施の形態3に係る電力増幅器が備える入力トランスフォーマ、及び、出力トランスフォーマは、厚膜再配線プロセスを用いた伝送線路の磁界結合を利用したトランスフォーマである。
【0108】
図7Aは、本発明の実施の形態3に係る電力増幅器300の構造の一例を示す模式図である。図7Bは、図7Aに示す破線c−c間の断面構造を示したものである。図7Aに示すように、電力増幅器300は、複数のプッシュプル増幅器110と、入力側トランスフォーマ320と、出力側トランスフォーマ330とを備える。なお、実施の形態1に係る電力増幅器100と同じ構成については、同じ符号を付し、以下では説明を省略する。
【0109】
入力側トランスフォーマ320は、第1トランスフォーマの一例であり、環状1次コイル321と、複数の直線2次コイル322とを有し、入力インピーダンスの整合をとるとともに、入力信号を複数の分配信号に分配する。複数の分配信号は、複数のプッシュプル増幅器110に出力される。入力側トランスフォーマ320は、入力信号を差動信号として複数のプッシュプル増幅器110へ分配する差動分配トランスフォーマの一例である。
【0110】
環状1次コイル321は、1次巻線としての環状の第1金属配線から構成される第1環状コイルの一例であり、入力信号が入力される。具体的には、図7Aに示すように、環状1次コイル321は、一端から入力信号が入力され、他端は、接地されている。ここでは例として一端から入力信号が入力されて、他端は、接地されているが、環状1次コイル321の両端から差動入力信号を入力しても構わない。
【0111】
直線2次コイル322は、2次巻線としての直線状の第2金属配線である第1直線コイルの一例であり、プッシュプル増幅器110に接続される。また、直線2次コイル322と環状1次コイル321とは、互いに近接しており、磁界結合する。この磁界結合により、入力側トランスフォーマ320は、環状1次コイル321に入力された入力信号を、複数の分配信号に分配し、プッシュプル増幅器110に出力する。
【0112】
本発明の実施の形態3では、縦方向の磁界結合を利用するため、第1金属配線と第2金属配線とは、互いに違う金属配線層に形成される。すなわち、環状1次コイル321と複数の直線2次コイル322とは、互いに違う金属配線層に形成される。
【0113】
なお、複数の第2金属配線の長さの合計は、第1金属配線の長さに略等しい。言い換えると、複数の直線2次コイル322の長さの合計は、環状1次コイル321の長さに略等しい。
【0114】
入力側トランスフォーマ320は、厚膜再配線プロセスとよばれるプロセスで形成される。
【0115】
厚膜再配線プロセスは、Si内層プロセス上に、厚い誘電体層と配線層とを新たに追加するプロセスである。10μm以上の厚い誘電体層上に形成される配線層を用いて、伝送線路又は受動素子を構成することで、導電性Si基板の影響を抑制することができ、導体損を低減することもできる。誘電体としてはベンゾシクロブテン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン又はポリフェニレンオキシド等が用いられる。本実施の形態では、一例として、ベンゾシクロブテン(BCB)を用いる。
【0116】
厚膜再配線プロセスで形成された配線構造の一例を図8に示す。図8に示す配線構造は、Si半導体基板1000と、Si内層プロセス内誘電体層1100と、Si内層プロセス内配線層1200と、Si内層プロセス内パッシベーション膜1300と、厚膜再配線プロセス誘電体層1600a及び1600bと、厚膜再配線プロセス下層配線層1700aと、厚膜再配線プロセス上層配線層1700bと、厚膜再配線プロセス最上層配線層1700cとを備える。
【0117】
厚膜再配線プロセス最上層配線層1700cは、形成する回路の略全面を覆うサイズに形成し、グランド層として働くように構成する。また、厚膜再配線プロセス最上層配線層1700cをグランド層にせず、CPWのように、厚膜再配線プロセス下層配線層1700a及び厚膜再配線プロセス上層配線層1700bの結合線路の両側をグランド層にしても構わない。
【0118】
入力側トランスフォーマ320は、実施の形態1で示した入力側トランスフォーマ120及び出力側トランスフォーマ130と同様に縦方向の磁界結合を利用することができる。具体的には、入力側トランスフォーマ320は、厚膜再配線プロセス下層配線層1700aと厚膜再配線プロセス上層配線層1700bとを用いて形成する。すなわち、図7Bに示すように、環状1次コイル321と複数の直線2次コイル322とは、互いに異なる金属配線層に形成される。
【0119】
直線2次コイル322は、厚膜再配線プロセス下層配線層1700aの金属配線層に形成される。今回用いた厚膜再配線プロセスにおいては、一例として、厚膜再配線プロセス配線層厚は5μm、厚膜再配線プロセス下層配線層1700aと厚膜再配線プロセス上層配線層1700bとの間の層間膜厚は5μmである。
【0120】
環状1次コイル321は、厚膜再配線プロセス上層配線層1700bの金属配線層に形成される。今回用いたプロセスにおいては、配線厚は5μmの厚さであり、厚膜再配線プロセス下層配線層1700aは、シリコン基板から20μm程度の距離にある。また、基板は、10Ω・cmの抵抗率を有する。
【0121】
なお、配線膜厚は、上記例に限らず、例えば、環状1次コイル321及び直線2次コイル322の膜厚は0.1〜50μmでもよい。また、環状1次コイル321と直線2次コイル322との配線層間膜厚は、0.1〜20μmでもよい。
【0122】
また同様に、入力側トランスフォーマ320は、実施の形態2で示した入力側トランスフォーマ220及び出力側トランスフォーマ230と同様に横方向の磁界結合を利用しても構わない。具体的には、入力側トランスフォーマ320が備える環状1次コイル321と複数の直線2次コイル322とは、厚膜再配線プロセス下層配線層1700aと厚膜再配線プロセス上層配線層1700bとのどちらかのみを使用し、同一の金属配線層に形成される。すなわち、環状1次コイル321と複数の直線2次コイル322とは、同一の金属配線層に形成される。
【0123】
例えば、環状1次コイル321は、厚膜再配線プロセス下層配線層1700aの金属配線層に形成される。今回用いた厚膜再配線プロセスにおいては、厚膜再配線プロセス配線層厚は5μmの厚さであり、基板から15μm程度の距離にある。直線2次コイル322も同様に、厚膜再配線プロセス下層配線層1700aの金属配線層に形成される。ここでは一例として、厚膜再配線プロセス下層配線層1700aで示したが、厚膜再配線プロセス上層配線層1700bで形成しても構わない。
【0124】
なお、配線膜厚は、上記例に限らず、例えば、環状1次コイル321及び直線2次コイル322の膜厚は0.1〜50μmでもよい。また、環状1次コイル321と直線2次コイル322との配線間隔は、0.1〜20μmでもよい。
【0125】
また、入力側トランスフォーマ320では、環状1次コイル321の長さに対し、直線2次コイル322の長さが略1/4となるように形成される。これは、入力信号の電力損失を低減するためである。
【0126】
出力側トランスフォーマ330は、第2トランスフォーマの一例であり、環状2次コイル331と、複数の直線1次コイル332とを有し、複数のプッシュプル増幅器110によって増幅された複数の分配信号を合成することで出力信号を出力するとともに、出力インピーダンスの整合をとる。出力側トランスフォーマ330は、複数のプッシュプル増幅器110によって増幅された差動信号である分配信号を合成する差動合成トランスフォーマの一例である。
【0127】
環状2次コイル331は、2次巻線としての環状の第3金属配線である第2環状コイルの一例であり、出力信号が出力される。具体的には、図7Aに示すように、環状2次コイル331は、一端から出力信号が出力される。本実施の形態では他端は、接地されているが差動出力であっても構わない。
【0128】
直線1次コイル332は、1次巻線としての直線状の第4金属配線である第2直線コイルの一例であり、プッシュプル増幅器110に接続される。また、直線1次コイル332と環状2次コイル331とは、互いに近接しており、磁界結合する。この磁界結合により、出力側トランスフォーマ330は、複数のプッシュプル増幅器110によって増幅された複数の分配信号を合成することで、環状2次コイル331から出力する。
【0129】
なお、複数の第4金属配線の長さの合計は、第3金属配線の長さに略等しい。言い換えると、複数の直線1次コイル332の長さの合計は、環状2次コイル331の長さに略等しい。
【0130】
出力側トランスフォーマ330も、入力側トランスフォーマ320と同様の工程を経て形成される。
【0131】
出力側トランスフォーマ330は、実施の形態1で示した入力側トランスフォーマ120及び出力側トランスフォーマ130と同様に縦方向の磁界結合を利用することができる。具体的には、出力側トランスフォーマ330は、厚膜再配線プロセス下層配線層1700aと厚膜再配線プロセス上層配線層1700bとを用いて形成する。すなわち、図7Bに示すように、環状2次コイル331と複数の直線1次コイル332とは、互いに異なる金属配線層に形成される。
【0132】
直線1次コイル332は、厚膜再配線プロセス下層配線層1700aの金属配線層に形成される。今回用いた厚膜再配線プロセスにおいては、一例として、厚膜再配線プロセス配線層厚は5μm、厚膜再配線プロセス下層配線層1700aと厚膜再配線プロセス上層配線層1700bとの間の層間膜厚は2〜7μmである。
【0133】
環状2次コイル331は、厚膜再配線プロセス上層配線層1700bの金属配線層に形成される。今回用いたプロセスにおいては、配線厚は5μmの厚さであり、厚膜再配線プロセス下層配線層1700aは、シリコン基板から20μm程度の距離にある。また、基板は、10Ω・cmの抵抗率を有する。
【0134】
なお、配線膜厚は、上記例に限らず、例えば、環状2次コイル331及び直線1次コイル332の膜厚は、0.1〜50μmでもよい。また、環状2次コイル331と直線1次コイル332との配線層間膜厚は、0.1〜20μmでもよい。
【0135】
また同様に、出力側トランスフォーマ330は実施の形態2で示した入力側トランスフォーマ220及び出力側トランスフォーマ230と同様に横方向の磁界結合を利用しても構わない。具体的には、出力側トランスフォーマ330が備える環状2次コイル331及び複数の直線1次コイル332は、厚膜再配線プロセス下層配線層1700aと厚膜再配線プロセス上層配線層1700bとのどちらかのみを使用し、同一の金属配線層に形成される。すなわち、環状2次コイル331と複数の直線1次コイル332とは、同一の金属配線層に形成される。
【0136】
例えば、環状2次コイル331は、厚膜再配線プロセス下層配線層1700aの金属配線層に形成される。今回用いた厚膜再配線プロセスにおいては、厚膜再配線プロセス配線層厚は5μmの厚さであり、基板から15μm程度の距離にある。直線1次コイル332も同様に、厚膜再配線プロセス下層配線層1700aの金属配線層に形成される。ここでは一例として、厚膜再配線プロセス下層配線層1700aで示したが、厚膜再配線プロセス上層配線層1700bで形成しても構わない。
【0137】
なお、配線膜厚は、上記例に限らず、例えば、環状2次コイル331及び直線1次コイル332の膜厚は0.1〜50μmでもよい。また、環状2次コイル331と直線1次コイル332との配線間隔は、0.1〜20μmでもよい。
【0138】
なお、本発明の実施の形態3に係る電力増幅器300は、図2に示す実施の形態1に係る電力増幅器100と同じ回路構成であるので、以下では説明を省略する。図2に示す回路構成図において、入力側トランスフォーマ120、環状1次コイル121、複数の直線2次コイル122、出力側トランスフォーマ130、環状2次コイル131、複数の直線1次コイル132はそれぞれ、入力側トランスフォーマ320、環状1次コイル321、複数の直線2次コイル322、出力側トランスフォーマ330、環状2次コイル331、複数の直線1次コイル332に相当する。
【0139】
以上のように、本発明の実施の形態3に係る電力増幅器300が備える入力側トランスフォーマ320及び出力側トランスフォーマ330は、厚膜再配線プロセスを用いて形成される。
【0140】
これにより、厚膜再配線プロセスを利用して、厚い誘電体層上に形成される配線層を用いて伝送線路又は受動素子を構成することで、導電性Si基板の影響を抑制することができ、導体損を低減することもできる。
【0141】
(実施の形態4)
本発明の実施の形態1及び実施の形態2では、シリコンプロセスで一般的に使用されている金属配線を使用して形成する縦型、及び、横型の磁界結合を利用したトランスフォーマについて説明した。また、実施の形態3では、厚膜再配線プロセスを用いた伝送線路を利用したトランスフォーマについて説明した。
【0142】
これに対して、本発明の実施の形態4に係る電力増幅器が備える入力側トランスフォーマは、実施の形態1及び実施の形態2で述べたシリコンプロセスで形成されている、いわゆる内層の金属配線を利用したトランスフォーマである。また、出力側トランスフォーマは、実施の形態3で述べた厚膜再配線プロセスを用いた伝送線路を利用したトランスフォーマである。
【0143】
図9Aは、本発明の実施の形態4に係る電力増幅器400の構造の一例を示す模式図である。図9Bは、図9Aに示す破線d−d間の断面構造を示したものである。図9Aに示すように、電力増幅器400は、複数のプッシュプル増幅器110と、入力側トランスフォーマ420と、出力側トランスフォーマ430とを備える。なお、実施の形態1に係る電力増幅器100と同じ構成については、同じ符号を付し、以下では説明を省略する。
【0144】
入力側トランスフォーマ420は、第1トランスフォーマの一例であり、環状1次コイル421と、複数の直線2次コイル422とを有し、入力インピーダンスの整合をとるとともに、入力信号を複数の分配信号に分配する。複数の分配信号は、複数のプッシュプル増幅器110に出力される。入力側トランスフォーマ420は、入力信号を差動信号として複数のプッシュプル増幅器110へ分配する差動分配トランスフォーマの一例である。図9Bに示すように、入力側トランスフォーマ420は、シリコンプロセスでSi内層プロセス内誘電体層1100内に形成されている。
【0145】
環状1次コイル421は、1次巻線としての環状の第1金属配線から構成される第1環状コイルの一例であり、入力信号が入力される。具体的には、図9Aに示すように、環状1次コイル421は、一端から入力信号が入力され、他端は、接地されている。ここでは例として、一端から入力信号が入力されて、他端は、接地されているが、環状1次コイル421の両端から差動入力信号を入力しても構わない。
【0146】
直線2次コイル422は、2次巻線としての直線状の第2金属配線である第1直線コイルの一例であり、プッシュプル増幅器110に接続される。つまり、直線2次コイル422の両端にトランジスタ111が接続されている。また、直線2次コイル422と環状1次コイル421とは、互いに近接しており、磁界結合する。この磁界結合により、入力側トランスフォーマ420は、環状1次コイル421に入力された入力信号を、複数の分配信号に分配し、プッシュプル増幅器110に出力する。
【0147】
入力側トランスフォーマ420、環状1次コイル421及び直線2次コイル422はそれぞれ、実施の形態1の入力側トランスフォーマ120、環状1次コイル121及び直線2次コイル122、又は、実施の形態2の入力側トランスフォーマ220、環状1次コイル221及び直線2次コイル222と同様のものであるため、詳細な説明は省略する。
【0148】
出力側トランスフォーマ430は、第2トランスフォーマの一例であり、環状2次コイル431と、複数の直線1次コイル432とを有し、複数のプッシュプル増幅器110によって増幅された複数の分配信号を合成することで出力信号を出力するとともに、出力インピーダンスの整合をとる。出力側トランスフォーマ430は、複数のプッシュプル増幅器110によって増幅された差動信号である分配信号を合成する差動合成トランスフォーマの一例である。図9Bに示すように、出力側トランスフォーマ430は、膜厚再配線プロセスで厚膜再配線プロセス誘電体層1600a及び1600b内に形成されている。
【0149】
環状2次コイル431は、2次巻線としての環状の第3金属配線である第2環状コイルの一例であり、出力信号が出力される。具体的には、図9Aに示すように、環状2次コイル431は、一端から出力信号が出力される。本実施の形態では他端は、接地されているが差動出力であっても構わない。
【0150】
直線1次コイル432は、1次巻線としての直線状の第4金属配線である第2直線コイルの一例であり、プッシュプル増幅器110に接続される。また、直線1次コイル432と環状2次コイル431とは、互いに近接しており、磁界結合する。この磁界結合により、出力側トランスフォーマ430は、複数のプッシュプル増幅器110によって増幅された複数の分配信号を合成することで、環状2次コイル431から出力する。
【0151】
出力側トランスフォーマ430、環状2次コイル431及び直線1次コイル432はそれぞれ、実施の形態3の出力側トランスフォーマ330、環状2次コイル331及び直線1次コイル332と同様のものであるため、詳細な説明は省略する。
【0152】
なお、本発明の実施の形態4に係る電力増幅器400は、図2に示す実施の形態1に係る電力増幅器100と同じ回路構成であるので、以下では説明を省略する。図2に示す回路構成図において、入力側トランスフォーマ120、環状1次コイル121、複数の直線2次コイル122、出力側トランスフォーマ130、環状2次コイル131、複数の直線1次コイル132はそれぞれ、入力側トランスフォーマ420、環状1次コイル421、複数の直線2次コイル422、出力側トランスフォーマ430、環状2次コイル431、複数の直線1次コイル432に相当する。
【0153】
以上のように、本発明の実施の形態4に係る電力増幅器400が備える入力側トランスフォーマ420はいわゆる内層配線で、出力側トランスフォーマ430は、厚膜再配線プロセスを用いて形成される。
【0154】
本実施の形態では、入力側トランスフォーマ及び出力側トランスフォーマを内層配線のみ、又は、厚膜再配線プロセスのみで形成した場合と比較し、入力側トランスフォーマ及びプッシュプル増幅器と出力側トランスフォーマとが一部分において上下に重なることができるため、さらなる小型化が可能である。
【0155】
以上、本発明に係る電力増幅器について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を当該実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の範囲内に含まれる。
【0156】
例えば、本発明の実施の形態の変形例に係る電力増幅器500は、図10に示すように、入力側トランスフォーマ120、及び、出力側トランスフォーマ130の差動部分にキャパシタ501を備えてもよい。具体的には、図10に示すように、環状1次コイル121には、複数の直線2次コイル122によって部分的な入力側トランスフォーマを形成する領域に、キャパシタ501が挿入される。つまり、第1金属配線に、複数の直線2次コイル122と同じ数(図10の例では、4個)だけ、キャパシタ501が並列に接続される。
【0157】
また、複数の直線2次コイル122にもそれぞれ、キャパシタ501が挿入される。すなわち、第2金属配線に、キャパシタ501が並列に接続される。出力側トランスフォーマ130についても同様である。
【0158】
高周波回路を設計するにあたり、最も重要なことは所望の周波数において入出力の整合をとることである。整合がとれていないと回路の入出力端で反射が起こり大きな損失となってしまう。
【0159】
したがって、本発明の実施の形態の変形例に係る電力増幅器500では、入出力の整合をとるために、図10に示すようなキャパシタ501を各トランスフォーマに並列に挿入することが好ましい。
【0160】
また、本発明の実施の形態の変形例に係る電力増幅器600は、図11に示すように、入力側トランスフォーマ120、及び、出力側トランスフォーマ130の差動部分にインダクタ601を備えてもよい。具体的には、図8に示すように、環状1次コイル121の入力端側に、インダクタ601が挿入される。すなわち、第1金属配線の入力端側に、インダクタ601が直列に接続される。
【0161】
出力側トランスフォーマ130では、環状2次コイル131の出力端側に、インダクタ601が挿入される。すなわち、第3金属配線の出力端側に、インダクタ601が直列に接続される。
【0162】
高周波回路を設計するにあたり、最も重要なことは所望の周波数において入出力の整合をとることである。整合がとれていないと回路の入出力端で反射が起こり大きな損失となってしまう。
【0163】
したがって、本発明の実施の形態の変形例に係る電力増幅器600では、入出力の整合をとるために、図11に示すようなインダクタ601を各トランスフォーマの入力及び出力側に挿入することが好ましい。
【0164】
なお、当然ながら図10及び図11に示す変形例を組み合わせて整合をとることも可能である。
【0165】
また、上記の各実施の形態では、本発明に係る電力増幅器100〜600は、4個のプッシュプル増幅器110を備える構成について説明したが、これに限られない。例えば、本発明に係る電力増幅器100は、N個(Nは、2以上の自然数)のプッシュプル増幅器110を備えてもよい。
【0166】
この場合、入力側トランスフォーマ120、220、320又は420は、N個の直線2次コイル122、222、322又は422を備え、入力信号をN個の分配信号に分配する。同様に、出力側トランスフォーマ130、230、330又は430は、N個の直線1次コイル132、232、332又は432を備え、増幅されたN個の分配信号を合成する。なお、直線2次コイル122、222、322又は422の長さは、環状1次コイル121、221、321又は421の長さの略N分の1になる。また、直線1次コイル132、232、332又は432の長さは、環状2次コイル131、231、331又は431の長さの略N分の1になる。
【0167】
また、上記の実施の形態では、環状1次コイル121、221、331又は431と、環状2次コイル131、231、331又は431とが同一の金属配線層に形成される構成について説明したが、これに限られない。環状1次コイル121、221、331又は431と、環状2次コイル131、231、331又は431とは、異なる金属配線層に形成されてもよい。
【0168】
同様に、直線2次コイル122、222、322又は422と、直線1次コイル132、232、332又は432とも、同一の金属配線層に形成されてもよく、あるいは、異なる金属配線層に形成されてもよい。
【0169】
また、環状1次コイル121、221、321又は421と、環状2次コイル131、231、331又は431とは、八角形の形状である例について示したが、円形、多角形(例えば、四角形)など形状については限られない。このとき、直線2次コイル122、222、322又は422と、直線1次コイル132、232、332又は432とは、直線状でなくてもよく、環状コイルを形成する金属配線に沿った形状であればよい。この場合、入力側トランスフォーマ120、220、320又は420、及び、出力側トランスフォーマ130、230、330又は430における損失をより低減することができる。
【0170】
また、例えば、本発明の実施の形態では、入力側トランスフォーマ120、220、320、420及び出力側トランスフォーマ130、230、330、430では磁界結合を用いて電力を分配及び合成しているが、電力を分配及び合成することができる他の素子であっても構わない。マーチャントバラン等は、電界結合を用いて、不平衡伝送線路を伝搬する不平衡信号と平衡伝送線路を伝搬する平衡信号とを相互に変換するためのものであり、インピーダンス変換をも行い得る素子である。これを用いれば、バランの不平衡端子に不平衡信号を入力した場合、バランの平衡端子には、互いに位相が180度異なり(逆相)、振幅が等しい1対の平衡信号が出力されることとなり、本発明の実施の形態で得られるものと同様の効果を得ることができる。
【0171】
まず、図12Aを用いて、バランの回路構成について説明する。バラン700は、不平衡線路701と平衡線路702及び703とから構成される。不平衡線路701の端部の一方は端子Port1に接続され、他方は接地されている。平衡線路702の端部の一方は端子Port2に接続され、他方は接地されている。平衡線路703の端部の一方は端子Port3に接続され、他方は接地されている。
【0172】
このように構成されたバラン700によれば、端子Port1から不平衡線路701に入力された高周波信号は、不平衡線路701と平衡線路702及び703とが対向する結合部分での電磁結合により平衡線路702及び703に伝搬され、平衡線路702が接続された端子Port2、及び、平衡線路703が接続された端子Port3から、それぞれ180°位相のずれた平衡信号として出力される。
【0173】
図12B〜Eにバランに用いる代表的な結合線路の断面の例を示す。本発明の実施の形態におけるトランスフォーマの構造で示してきた通り、図12Bに示すように、不平衡線路701と平衡線路702及び703とは、内層配線の互いに異なる配線層を用いた結合線路を構成し、縦方向の電界結合を利用することができる。
【0174】
また、図12Cに示すように、不平衡線路701と平衡線路702及び703とは、内層配線の同じ配線層を用い、コプレナー線路型の結合線路を構成し、横方向の電界結合を利用することができる。さらに、厚膜再配線プロセスを用いて、図12Dに示すように不平衡線路701と平衡線路702及び703とは、再配線プロセスの上下配線層を用いて結合線路を構成し、縦方向の電界結合を利用することができる。また、図12Eに示すように不平衡線路701と平衡線路702及び703とは、再配線プロセスの上又は下の配線層を用いて、コプレナー線路型の結合線路を構成し、横方向の電界結合を利用しても構わない。
【0175】
以上の例のように構成することができるバランではあるが、図13に具体的なバランを用いた分配及び合成器の構成を示す。1つのバラン700の不平衡線路701が接続された端子Port1と、他の1つのバラン700の不平衡線路701の反対側の端部(本来、接地されていた端部)とを接続することで、複数のバラン700を接続する。これにより、図13に示すように、環状の配線とすることができ、環状1次コイル121、221、321、421及び環状2次コイル131、231、331、431と同様の効果を示す。
【0176】
不平衡線路701に入力された高周波信号は、平衡線路702が接続された端子Port2、及び、平衡線路703が接続された端子Port3から、それぞれ180°位相のずれた平衡信号として出力される。このため、直線1次コイル132、232、332、432及び直線2次コイル122、222、322、422と同様の効果を示す。このため複数のバラン700を接続することにより入力側トランスフォーマ120、220、320、420及び出力側トランスフォーマ130、230、330、430として用いることも可能である。
【0177】
これにより、本発明の実施の形態1〜4に用いるトランスフォーマと同様の効果を得ることができる。
【0178】
入力側及び出力側のトランスフォーマ、又は、バランで厚膜再配線プロセスを用いる場合においては、さらなる小型化を図ることが可能である。トランスフォーマの場合、磁界結合は比透磁率が大きいほど単位長さあたりの磁界が強まるため小型化が可能となる。また、バランを用いた場合、電界結合は比誘電率が大きくなるほど単位長さあたりの電界が強まるため小型化が可能となる。そのためには、誘電体膜として、第1の材料からなる粒子が第2の材料中に分散されてなるナノコンポジット膜を用いることで、比透磁率又は比誘電率の高い誘電体膜を実現できる。ここで、「ナノコンポジット膜」とは、比透磁率又は比誘電率の大きい第1の材料からなるナノスケールの粒子が、比透磁率又は比誘電率の小さい第2の材料中に分散した材料からなる膜である。
【0179】
例えば、BCBの中にナノスケールに粒子化した高誘電体素材を練り込んで分散させることで得られるナノコンポジット膜は、BCBと比較し、高い誘電率をもつことになる。高誘電体素材としては、チタン酸ストロンチウム(STO)、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)、チタン酸バリウム(BTO)酸化ハフニウム(HfO2)、ハフニウムアルミネート(HfAlO2)又はチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等があげられる。ここで、ナノスケール粒子の粒径は、第2の材料中に練り込んで分散させることができればよく、粒径が小さいほど好ましい。具体的には、1μm以下が好ましく、さらに好ましくは200nm以下であり、特に1nm以上で200nm以下の粒径の粒子が分散されたナノコンポジット膜について良好な特性が得られている。
【0180】
また、誘電体膜としては、単一のナノコンポジット膜に限られず、BCB膜とナノコンポジット膜とを積層したり、比誘電率が異なる複数のナノコンポジット膜を積層したりしてもよい。このような積層により、誘電体膜全体としての比透磁率又は比誘電率についての自由度が増し、トランスフォーマ及びバランの設計の自由度を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0181】
本発明に係る電力増幅器は、入力の整合回路における損失の低減、並びに、回路の簡略化及び小型化が可能であるという効果を奏し、例えば、高周波、とりわけミリ波帯を利用する電力増幅器に利用することができる。
【符号の説明】
【0182】
10、100、200、300、400、500、600 電力増幅器
21、110 プッシュプル増幅器
22 スラブインダクタ
23 金属コイル
30 スパイラルトランスフォーマバラン
40、41 差動ライン
50 分配ネットワーク
111 トランジスタ
120、220、320、420 入力側トランスフォーマ
121、221、321、421 環状1次コイル
122、222、322、422 直線2次コイル
130、230、330、430 出力側トランスフォーマ
131、231、331、431 環状2次コイル
132、232、332、432 直線1次コイル
501 キャパシタ
601 インダクタ
700 バラン
701 不平衡線路
702、703 平衡線路
1000 Si半導体基板
1100 Si内層プロセス内誘電体層
1200 Si内層プロセス内配線層
1300 Si内層プロセス内パッシベーション膜
1600a、1600b 厚膜再配線プロセス誘電体層
1700a 厚膜再配線プロセス下層配線層
1700b 厚膜再配線プロセス上層配線層
1700c 厚膜再配線プロセス最上層配線層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を増幅し、増幅した入力信号を出力信号として出力する電力増幅器であって、
前記入力信号が入力される1次巻線としての環状の第1金属配線、及び、2次巻線としての、前記第1金属配線の一部に沿った形状の複数の第2金属配線を有し、入力インピーダンスの整合をとるとともに、前記入力信号を複数の分配信号に分配する第1トランスフォーマと、
前記複数の分配信号の1つを増幅する1対のトランジスタを、それぞれが備える複数のプッシュプル増幅器と、
前記出力信号が出力される2次巻線としての環状の第3金属配線、及び、1次巻線としての、前記第3金属配線の一部に沿った形状の複数の第4金属配線を有し、前記複数のプッシュプル増幅器によって増幅された複数の分配信号を合成することで前記出力信号を出力するとともに、出力インピーダンスの整合をとる第2トランスフォーマとを備え、
前記1対のトランジスタの2つの入力端子は、前記第2金属配線を介して互いに接続され、
前記1対のトランジスタの2つの出力端子は、前記第4金属配線を介して互いに接続される
電力増幅器。
【請求項2】
前記複数の第2金属配線の長さの合計は、前記第1金属配線の長さに略等しく、
前記複数の第4金属配線の長さの合計は、前記第3金属配線の長さに略等しい
請求項1記載の電力増幅器。
【請求項3】
前記第2金属配線の中点は、前記1対のトランジスタに第1バイアス電圧を供給するための第1電源に接続され、
前記第4金属配線の中点は、前記1対のトランジスタに第2バイアス電圧を供給するための第2電源に接続される
請求項1又は2記載の電力増幅器。
【請求項4】
前記第1金属配線は、環状の前記第3金属配線の内側に配置されている
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電力増幅器。
【請求項5】
前記複数のプッシュプル増幅器のそれぞれは、前記第1金属配線と前記第3金属配線との間に配置されている
請求項4記載の電力増幅器。
【請求項6】
前記第1金属配線と前記第2金属配線とは、同一の金属配線層に形成され、
前記第3金属配線と前記第4金属配線とは、同一の金属配線層に形成される
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電力増幅器。
【請求項7】
前記第1金属配線は、前記第2金属配線と異なる金属配線層に形成され、
前記第3金属配線は、前記第4金属配線と異なる金属配線層に形成される
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電力増幅器。
【請求項8】
前記電力増幅器は、
前記第1トランスフォーマ及び前記第2トランスフォーマの少なくとも一方と、半導体基板との間に形成された10μm以上の厚さの誘電体層を備える
請求項1〜7のいずれか1項に記載の電力増幅器。
【請求項9】
前記誘電体層は、ベンゾシクロブテン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン又はポリフェニレンオキシドを含む
請求項8記載の電力増幅器。
【請求項10】
前記誘電体層は、第1の材料からなる粒子が第2の材料中に分散されてなるナノコンポジット膜を含む
請求項8記載の電力増幅器。
【請求項11】
前記電力増幅器は、
前記第1トランスフォーマ及び前記第2トランスフォーマの少なくとも一方を、バランを用いて構成されている
請求項1〜10のいずれか1項に記載の電力増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図12E】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−5077(P2012−5077A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141044(P2010−141044)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】