説明

電力増幅装置および携帯電話端末

【課題】比較的大きいピークファクタを有する信号に対して比較的簡単な構成で歪みや効率の問題を解決する。
【解決手段】第1の電力増幅器10はA級またはAB級動作にバイアス設定され、入力信号を増幅する。第1の電力増幅器10の出力が出力端sigoutに接続される。第2の電力増幅器20は、入力信号の一部を分岐して入力とし、C級動作にバイアス設定され、入力信号を増幅する。この第2の電力増幅器の出力にスイッチ30の一端子が接続され、他方の端子に出力端子sigoutが接続される。この出力端子sigoutに第1の電力増幅器20の出力が接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力増幅装置に係り、特に携帯電話用のOFDM変調信号の電力増幅に適した電力増幅装置、およびこれを用いた携帯電話端末に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話で扱う通信信号の速度の高速化と高い周波数利用効率を実現するために直交周波数多重(0rthogonal Frequency Division Multiplex:OFDM)方式が注目されている。これは、非常に狭い周波数帯域幅で非常に高速な通信速度を実現できるので、日本のように周波数資源が逼迫している環境においては魅力的な方式である。しかしながら、この方式は、いわゆるピークファクタ(尖頭電力と平均電力の比)が、従来のCDMA等の3dB程度に比べて10dB以上と非常に大きいために、携帯電話用電力増幅器にかかる負担が大きくなっている。
【0003】
OFDM方式に適用する電力増幅器としては、従来のように単一のトランジスタで増幅させるものは、歪み補償を施したとしても、出力が高々数dB改善される程度で、10dBものピークファクタを有する信号に対しては効果が期待できない。そこで、低出力時の動作と高出力での動作を分け、各々の出力を合成する構成が適している。このような合成型の電力増幅装置としては、LINC(LInear amplification with Nonlinear Component)や、Doherty増幅器が挙げられるが、上述したOFDM方式の特性を考慮すると、Doherty増幅器を基本にした構成が適していると考える(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−22852号公報
【特許文献2】特開2005−117599号公報
【特許文献3】特開2005−525727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Doherty増幅器の実現上のポイントはいわゆるキャリアアンプとピークアンプの二つのアンプの出力合成部でのインピーダンス変動である。ピークアンプは所定の閾値を超える信号のみを増幅するように動作するアンプである。このDoherty増幅器の出力合成部では、ピークアンプが動作していない場合の、その出力インピーダンスは高周波的に開放でなければならない。
【0005】
しかしながら、このような理想的な状態は、以下の理由から得られない。例えばFET系トランジスタをピークアンプに用いた場合、そのドレインコンダクタンスが、キャリア増幅器から有限の値として現れる。しかも、通常この値はドレイン電圧変動に対して大きな非線形性を有するので、キャリアアンプのみが動作している場合に、ピークアンプから不要輻射や歪みが発生するという課題がある。また、このドレインコンダクタンスは、デバイスのチャネルインピーダンスに起因するので、一般には一定値をとることはなく、結果として設計ばらつきの主要な原因となる。HBT系トランジスタを用いた場合には、コレクタコンダクタンスのばらつきはFET系に比較して少ないといえるが、その非線形性が大きく、歪み等に問題は依然として残る。
【0006】
このように、現実には上記のような理想的な状態を実現できるデバイスは存在し得ないので、回路的な工夫を加えて、結果として開放と同様な動作を得ている。例えば、特許文献2に記載のものがある。これは、入力信号のレベルに応じて電力増幅器の動作するバックオフを変えた場合に生じる出力合成の損失を低減するものである。しかし、この技術では、バックオフ値を変えることにより、電力増幅装置全体としての効率が低下するという重大な問題が生じる。
【0007】
また、別の従来例としては、特許文献3に記載のものがある。これは、複数の補助電力増幅器を用いて、電力に応じて順番にオンすることにより電力合成時のインピーダンス変化幅を大きくして安定化したものである。この技術では、補助増幅器の数が大幅に増加し、全体として大型になり、かつ効率が低下するという課題がある。
【0008】
本発明はこのような背景においてなされたものであり、比較的大きいピークファクタを有する信号に対して、比較的簡単な構成で歪みや効率の問題を解決できる電力増幅装置を提供することを企図する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による電力増幅装置は、入力信号を受ける入力端子と、前記入力信号を増幅する、A級またはAB級動作にバイアス設定した第1の電力増幅器と、この第1の電力増幅器の出力が接続される出力端子と、前記入力信号の一部を分岐して入力し増幅する、C級動作にバイアス設定した第2の電力増幅器と、この第2の電力増幅器の出力と前記出力端子との間に接続したスイッチとを備えたことを特徴とする。
【0010】
この構成において、入力信号の電力値が低いときは第1の電力増幅器のみが動作状態となり第2の電力増幅器は休止状態となる。このとき、スイッチはOFF状態となる。したがって、第2の電力増幅器から不要輻射や歪みが発生しても、スイッチにより出力端子から遮断される。入力信号が増加し、ある値を超えた場合に、第2の電力増幅器が動作状態となるとともに、スイッチがオンし、両電力増幅器の出力が合成される。
【0011】
この電力増幅装置は、携帯電話端末においてOFDM変調信号等の較的大きいピークファクタを有する信号の電力増幅を行う電力増幅装置として利用して好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電力増幅装置によれば、C級動作の第2の電力増幅器がオフしている間は、そこから不要輻射や歪みが発生しても、スイッチでその電力合成点を遮断するので、A級またはAB級動作の電力増幅器の歪みを悪化させることなくOFDM変調信号に対する高効率での電力増幅動作を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
本実施の形態の説明の前に、OFDM信号を電力増幅器(PA:Power Amplifier)で増幅する場合の問題について説明する。図3は、OFDM信号の電力変動の時間変化の例を示している。OFDM信号の特徴は、同図の“mean”と示した平均電力値と“peak”と示した尖頭電力値の差が非常に大きいということである。この差は、電力差で10dB以上となることがある。このような尖頭電力値と平均電力値との差をピークファクタと称する。電力増幅器でこのようなピークファクタの大きい信号を極力無歪みで増幅するためには、例えば、平均出力28dBmの出力が必要な場合、飽和出力が38dBm以上のPAが必要になる。ところが、送信時間の大部分は低い28dBm程度で動作するので、バックオフ10dBの動作点となる。通常の、電力増幅器の効率は、出力の低下と共に低下する。例えば飽和出力38dBmの電力増幅器の場合、38dBmでの効率が40%程度とすると、28dBmでは、効率5%程度となってしまい、電力損失が多く、携帯端末にとって、連続動作時間、発熱の点で重大な問題を生じることになる。
【0015】
図1は、本発明の電力増幅装置の概略構成を示すブロック図である。この電力増幅装置は、第1の電力増幅器(PA_1)10と第2の電力増幅器(PA_2)20を組み合わせた合成型の電力増幅装置である。
【0016】
第1の電力増幅器10は、AB級動作にバイアス設定した電力増幅器である。(AB級の代わりにA級であってもよい。)第2の電力増幅器20は、入力信号siginの一部を分岐して入力として、C級動作にバイアス設定した電力増幅器である。両電力増幅器10,20の出力は、スイッチ(SW)30を介して互いに接続されており、電力増幅器10の出力端子が本電力増幅装置の出力端子sigoutを兼ねている。この電力増幅装置は、入力信号siginの電力値が低いときは電力増幅器10が動作状態となり、電力増幅器20は休止状態となる。このとき、スイッチ30はOFF状態となる。入力信号siginの電力値が増加し、ある値を超えた場合に、電力増幅器20が動作状態となるとともに、スイッチ30がオンし、両出力が合成される。このとき、電力増幅器10および電力増幅器20を通過する位相を共に同じ値に調整しておくことにより、両電力増幅器10,20の出力は同相で合成される。
【0017】
本実施の形態の電力増幅装置を前述のOFDMに適用した場合の動作を説明する。入力信号siginが図3に示すOFDMによる信号である場合、同図のmean時には、電力増幅器10のみが動作する。図4に示すように、このとき、スイッチ30はOFF状態となる。また、このときの効率は、40%程度が可能となる。Siginがpeakの場合、電力増幅器20が動作するとともにスイッチ30がON状態となる。これにより、電力増幅器10と電力増幅器20が同相で合成され、飽和出力が増加する。
【0018】
なお、C級電力増幅器は本来高効率動作が可能(理論的には100%だが、駆動段により多少劣化し、実用範囲では65%程度)であるため、peak時には26%程度の効率で動作できる。Peak時の効率はmean時より低下するが、そのような状態で動作する時間は非常に短いので、電池寿命や発熱に与える影響は無視できる。
【0019】
図2は、本発明の実施の形態による電力増幅装置の具体的な第1の回路構成を示す。この電力増幅装置は、入力信号siginの一部をコンデンサ31(CP1)にて分岐させ、電力増幅器10と電力増幅器20に入力させている。スイッチ30として、PINダイオード30a(PIN_SW)を用い、そのカソード端子に電力増幅器20の出力端を接続し、アノード端子を出力端子sigoutに接続する。電力増幅器10の出力端はコイル32(L1)を介して出力端子sigoutに接続する。
【0020】
電力増幅器10および電力増幅器20は各々FETの2段従属構成の増幅器である。
【0021】
電力増幅器10は、2段のFET12,16を有し、AB級バイアスされる。第1段のソース接地FET12は、ゲート端子に整合回路11を介して入力信号siginを受け、ドレイン端子に電源供給コイル13を介してドレイン電圧Vddを供給される。FET12のドレイン端子は整合回路14を介して第2段のソース接地FET16のゲート端子に接続される。FET16のドレインには電源供給コイル15(Lab)を介してドレイン電圧Vddを供給される。FET16のドレイン端子は整合回路17(M1)およびコイル32(L1)を介して出力端子sigoutに接続される。整合回路M1は、ドレイン端子に対して接続されたコイル18と、このコイル18の他端側と接地との間に接続されたコンデンサ19とを有する。整合回路17(M1)は最大電力を供給できる整合インピーダンスZL1を実現できるように各定数を最適化する。
【0022】
電力増幅器20は、電力増幅器10と同様に、2段のFET22,26を有するが、増幅器10と異なり、C級バイアスで駆動される。第1段のソース接地FET22は、ゲート端子に、コンデンサ31(CP1)および整合回路21を介して入力信号siginを受け、ドレイン端子に電源供給コイル23を介してドレイン電圧Vddを供給される。FET22のドレイン端子は整合回路24を介して第2段のソース接地FET26のゲート端子に接続される。FET26のドレイン端子には電源供給コイル25(Lc)を介してドレイン電圧Vddを供給される。FET26のドレイン端子は整合回路27(M2)および上記PINダイオード30aにより構成されたスイッチ(PIN_SW)を介して出力端子sigoutに接続される。整合回路27(M2)は、FET26のドレイン端子に対して接続されたコイル28と、このコイル28の他端側と接地との間に接続されたコンデンサ29とを有する。整合回路27(M2)は最大電力を供給できる整合インピーダンスZL2を実現できるように各定数を最適化する。
【0023】
入力信号siginが図3に示すようなOFDMによる信号の場合、同図のmean時には、電力増幅器10のみが動作し、電力増幅器20はOFF状態となる。このとき、図4に示したように、PINダイオード30aのSWには電流が流れずOFFとなる。入力信号siginがpeakの場合、電力増幅器20がONとなり、コイルLcを介して電流がFET26のドレイン端子に流れ込むが、同時に、電力増幅器10側のコイルLabを介して、Vdd−Lab−M1中のコイル18−PINダイオード30a−M2中のコイル28−電力増幅器20出力FET26のドレインという経路で、PINダイオード30aにも電流が流れる。従って、PINダイオード30aがオンする。以降の動作は、前述した通りである。
【0024】
図2の回路構成によれば、入力信号に応じたスイッチ30の切り替えタイミングが自立的に定まるので、スイッチ30の特別な制御回路が不要となる利点がある。
【0025】
図5は、図2の回路構成に代わる第2の回路構成を示している。図2に示したと同様の構成要素には同じ参照番号を付して重複した説明は省略する。本実施の形態においては、スイッチ30としてFET30b(FET_SW)を用い、このFET30bのソース端子を出力端子sigoutに接続する。FET30bのドレイン端子には第1の電力増幅器10の出力端子を接続し、ゲート端子にスイッチ切り替えを行うための制御信号(電圧)を発生させる制御信号発生回路としての検波回路40を接続する。この検波回路40は、入力信号siginからコンデンサC1を用いてその一部を分岐し、検波用ダイオード45(DI)、抵抗42(R2)、コンデンサ41(C2)を用いて検波出力を生成する検波回路を用いる。この回路により包絡線成分を抽出し、スイッチFET30bのゲート電圧として印加する。なお、検波用ダイオード45(DI)のカソードには、抵抗43(R1)を介して、基準電圧Vrefを印加する。これは、スイッチがON/OFFの切り替わりの電力レベル(閾値)を設定するためである。
【0026】
上記と同様に図3に示したようなOFDM信号の場合を説明する。図4に示したように、入力信号siginがmean時には、電力増幅器10のみが動作し、電力増幅器20はOFF状態となる。このとき検波回路40の出力は低く、スイッチFET30bをオンできない。siginがpeakとなった場合、電力増幅器20がON状態となったとき、検波回路40の出力が高くなり、スイッチFET30bをオンする。
【0027】
なお、図5の回路構成においては検波回路40による制御信号の生成に遅延が生じうる。この遅延によってFET30bのON/OFFタイミングが入力信号siginのピークからずれてしまう不具合を防止するためには、図6に示すように、電力増幅器10の前段に入力信号siginを所定時間遅延させる遅延回路52を挿入する。遅延回路52は、検波回路40での制御信号の遅延に見合うだけの遅延時間を生じるよう、例えば抵抗およびコンデンサの組み合わせ回路により構成することができる。
【0028】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、上記で言及した以外にも種々の変形、変更を行うことが可能である。例えば、増幅用トランジスタとしてFETを用いる例を示したが、バイポーラトランジスタを用いてもよい。特に電力増幅器20としてバイポーラトランジスタを用いれば、電力増幅器20のオフ状態をより確実にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の電力増幅装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態による電力増幅装置の具体的な第1の回路構成を示す図である。
【図3】OFDM信号の電力変動の時間変化の例を示す図である。
【図4】OFDM信号に対するスイッチの切り替え状態を示す図である。
【図5】図2の回路構成に代わる第2の回路構成を示す図である。
【図6】図5の回路構成の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
10…電力増幅器、11…整合回路、12…FET、13…電源供給コイル、14…整合回路、15…電源供給コイル、16…FET、18…コイル、19…コンデンサ、20…電力増幅器、21…整合回路、22…FET、23…電源供給コイル、24…整合回路、25…電源供給コイル、26…FET、28…コイル、29…コンデンサ、30…スイッチ、30a…PINダイオード、30b…スイッチFET、31…コンデンサ、32…コイル、40…検波回路(制御回路)、41…コンデンサ、42…抵抗、43…抵抗、45…検波用ダイオード、52…遅延回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を受ける入力端子と、
前記入力信号を増幅する、A級またはAB級動作にバイアス設定した第1の電力増幅器と、
この第1の電力増幅器の出力が接続される出力端子と、
前記入力信号の一部を分岐して入力し増幅する、C級動作にバイアス設定した第2の電力増幅器と、
この第2の電力増幅器の出力と前記出力端子との間に接続したスイッチと
を備えたことを特徴とする電力増幅装置。
【請求項2】
前記スイッチは、カソード端子に前記第2の電力増幅器の出力を受け、アノード端子が前記出力端子に接続されたPINダイオードを含む請求項1記載の電力増幅装置。
【請求項3】
前記スイッチは、ドレイン端子に前記第2の電力増幅器の出力を受け、ソース端子を前記出力端子に接続したFETを含み、前記電力増幅装置は、前記入力信号に応じて前記FETをON/OFF制御する制御信号を前記FETのゲート端子に印加する制御回路をさらに備えた請求項1記載の電力増幅装置。
【請求項4】
前記第1の電力増幅器の前段に遅延回路をさらに備えた請求項3記載の電力増幅装置。
【請求項5】
OFDM変調信号の電力増幅を行う電力増幅装置を備えた携帯電話端末であって、
前記電力増幅装置は、
入力信号を受ける入力端子と、
前記入力信号を増幅する、A級またはAB級動作にバイアス設定した第1の電力増幅器と、
この第1の電力増幅器の出力が接続される出力端子と、
前記入力信号の一部を分岐して入力し増幅する、C級動作にバイアス設定した第2の電力増幅器と、
この第2の電力増幅器の出力と前記出力端子との間に接続したスイッチと
を備えたことを特徴とする携帯電話端末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−61124(P2008−61124A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−238118(P2006−238118)
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(501431073)ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ株式会社 (810)
【Fターム(参考)】