説明

電力変換装置の保護装置

【課題】過電圧保護を確実に且つ迅速に行うことが可能な電力変換装置の保護装置を提供する。
【解決手段】3レベルの直流電源1と、正側及び負側の直流コンデンサ5A、5Bと、交流電動機7を駆動する3レベルインバータ6と、コンデンサ5A、5Bを初期充電するための第1の初期充電手段8と、3レベルインバータの内部短絡故障を検出する第1の短絡故障検出手段とを有する電力変換装置の保護装置であって、交流電動機7の入力を整流する第1のブリッジ回路9と、この直流出力に並列に設けられた第1のサイリスタ10と、この第1のサイリスタに並列に接続された第1の点弧補助用コンデンサ11と、前記第1の点弧補助用コンデンサを初期充電するための第2の初期充電手段を具備し、前記第1の短絡故障検出手段が短絡故障を検出したときに前記第1のサイリスタを点弧させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置の保護装置に係り、特に電力変換装置の故障発生時に直流コンデンサが過電圧になることを抑制する電力変換装置の保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電力変換装置では、直流側に直流コンデンサを備えた電力変換装置は広く使用されており、高電圧・大電流化に伴い、直流コンデンサの直列数・並列数が多くなり装置全体として直流コンデンサが占める割合も大きくなっている。このような電力変換装置において、通常に運転している場合は、電源系統側の交流電圧をコンバータによって直流に変換した直流電圧が直流コンデンサへ印加され、過充電されることはない。しかし、コンバータ側のスイッチング素子の破損或いは誤点弧などによる直流短絡故障によって、電源系統側のエネルギーで直流コンデンサが過充電されてしまい、定格電圧を超える恐れがある。インバータ側についても同様であり、インバータ側のスイッチング素子の破損或いは誤点弧などによる直流短絡故障によって、モータ側のエネルギーで直流コンデンサが過充電されてしまう。このとき、故障状態を継続し続けると、直流コンデンサの破裂およびスイッチング素子のアーク噴出などの事故に至る恐れがある。このような被害拡大を防ぐために、電源系統側および電動機側に保護回路を設ける必要があり、上記短絡故障によるエネルギーを保護回路で消費させ、直流コンデンサの過充電を抑制する提案がなされている(例えば特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−11612号公報(第8−9頁、図9、図10)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示されている従来の保護回路は、過電圧保護を行うときに点弧するサイリスタを確実に且つ迅速に点弧する機能については触れておらず、場合によってはサイリスタの負担が増大し、また点弧動作が遅れるという問題があった。
【0005】
この発明は上記のような課題を解決するためのものであり、過電圧保護を確実に且つ迅速に行うことが可能な電力変換装置の保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明の電力変換装置の保護装置は、3レベルの直流電源と、この直流電源から給電される正側及び負側の直流コンデンサと、前記直流コンデンサに印加される3レベルの直流電圧を交流電圧に変換して交流電動機を駆動する3レベルインバータと、前記直流コンデンサを初期充電するための第1の初期充電手段と、前記3レベルインバータの内部短絡故障を検出する第1の短絡故障検出手段とを有する電力変換装置の過電圧保護を行う保護装置であって、前記交流電動機の入力を整流する第1のブリッジ回路と、前記第1のブリッジ回路の直流出力に並列に設けられた第1のサイリスタと、前記第1のサイリスタのアノードカソード間に接続された第1の点弧補助用コンデンサと、前記第1の点弧補助用コンデンサを初期充電するための第2の初期充電手段とを具備し、前記第1の短絡故障検出手段が短絡故障を検出したときに前記第1のサイリスタを点弧させるようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、過電圧保護を確実に且つ迅速に行うことが可能な電力変換装置の保護装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例1に係る電力変換装置の保護装置の回路構成図。
【図2】本発明の実施例2に係る電力変換装置の保護装置の回路構成図。
【図3】本発明の実施例3に係る電力変換装置の保護装置の回路構成図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0010】
図1に本発明の実施例1に係る電力変換装置の保護装置の回路構成図を示す。
【0011】
図1において、直流電源1は、正電位、負電位及び零電位の3レベルを出力する。そして正電位と零電位間に正側コンデンサ5Aが、零電位と負電位間には負側コンデンサ5Bが接続されている。
【0012】
正側コンデンサ5A及び負側コンデンサ5Bによって平滑された3レベルの直流電圧は3レベルインバータ6によって3レベルの交流電圧に変換され、交流電動機6を駆動している。
【0013】
3レベルインバータ6の1相分の回路構成が図1に示されている。すなわち、正電位側から負電位側にスイッチング素子61、62、63及び64を直列接続する。各々のスイッチング素子61、62、63及び64には夫々フリーホイールダイオード65、66、67及び68が逆並列接続され、スイッチング素子61と62の接続点と中性点間、スイッチング素子63と64の接続点と中性点間に夫々クランプダイオード69、70を接続することによってこれらの接続点の電位を零電位にクランプしている。そしてスイッチング素子63と62の接続点から1相分の交流出力を得る構成となっており、同様の回路をあと2相分設けることによって3レベルの3相交流出力が得られる構成となっている。
【0014】
装置の運転開始時に正側コンデンサ5A及び負側コンデンサ5Bに過大な突入電流が流れるのを防止するために初期充電回路8が設けられている。この初期充電回路8は、低圧の交流電圧を、開閉器81を介して昇圧する変圧器82と、その出力を整流して正側コンデンサ5Aと負側コンデンサ5Bの直列回路に直流電圧を供給する整流器83から構成されている。この初期充電回路8によって正側コンデンサ5A及び負側コンデンサ5Bを適切な値に充電したあと、直流電源1から直流を給電する。初期充電時の充電電流を抑制するために整流器83の出力側に直列に抵抗器を設けても良いが、変圧器82の抵抗分で充電電流が抑制される場合はその必要はない。
【0015】
交流電動機7の入力電圧は、3相ダイオードブリッジ9によって整流され、その直流出力と並列にサイリスタ10が接続されている。サイリスタ10を点弧すると3相ダイオードブリッジ9の出力は短絡される。
【0016】
サイリスタ10のアノードカソード間には、点弧補助用コンデンサ11が接続されている。この点弧補助用コンデンサ11は、サイリスタ10を点弧したとき、その放電によって主回路電流を急速に立上げ、サイリスタ10の接合部平面に流れる電流を瞬時に均一化する。これにより不完全な点弧が防止され、サイリスタ10は安全に素早くオン状態となる。
【0017】
点弧補助用コンデンサ11は、上記のような放電電流を供給するだけの容量があれば良いが、3レベルインバータ6を運転したとき、この点弧補助用コンデンサ11への突入電流が過大となる恐れがある。このため、点弧補助用コンデンサ11の正極と正側コンデンサ5Aの正極とを抵抗12を介して接続し、また点弧補助用コンデンサ11の負極と負側コンデンサ5Bの負極とを抵抗13を介して接続する。このような回路構成によって、初期充電回路8によって正側コンデンサ5A及び負側コンデンサ5Bを初期充電すると同時に点弧補助用コンデンサ11の初期充電を行うことができる。尚、抵抗12と抵抗13の何れかを省略する構成としても良い。
【0018】
以上の構成において、3レベルインバータ6を構成するスイッチング素子、フリーホイールダイオード、またはクランプダイオードの何れかが短絡故障すると、コンデンサ5Aまたは5Bを交流電動機7の線間電圧で充電するルートが形成されて過充電となり、場合によってはコンデンサ5Aまたは5Bが破損する事象が生ずる。このとき、図1には図示しない上記短絡故障を検出する手段を設け、この検出信号によって各スイッチング素子のゲートブロックを瞬時に行うようにするが、素子の短絡故障によって上記充電ルートは残ったままとなるのでゲートブロックだけでは過充電は解消されない。このため、上記短絡故障検出手段の検出信号によってサイリスタ10を点弧させる。サイリスタ10の点弧によって、交流電動機7の線間電圧は実質的に短絡されて急速に低下するのでコンデンサ5Aまたは5Bの過電圧は防止可能となる。尚、サイリスタ10にはこのときの短絡耐量が必要となるので接合部の面積の大きい素子が必要となる。そのため点弧補助用コンデンサ11の役割は重要になる。
【0019】
尚、上記実施例1において、3レベルインバータ6を構成するスイッチング素子が多直列構成になる場合であっても、基本的に同一の保護装置を適用することが可能となる。これは、以下に述べる実施例2及び実施例3についても同様である。
【実施例2】
【0020】
図2は本発明の実施例2に係る電力変換装置の保護装置の回路構成図である。この実施例2の各部について、図1の本発明の実施例1に係る電力変換装置の保護装置の各部と同一部分は同一符号で示し、その説明は省略する。この実施例2が実施例1と異なる点は、直流電源1を、変圧器2、開閉器3及び3レベルコンバータ4に置き換えた点、また、3レベルコンバータ4の入力側(電源系統側)にも3相ダイオードブリッジ14、その直流出力を短絡するサイリスタ15、点弧補助用コンデンサ16及び初期充電用の抵抗17、18を設ける構成とした点である。
【0021】
3レベルコンバータ4は3レベルインバータ6と同一の構成であり、また電源系統側の3相ダイオードブリッジ14、サイリスタ15、点弧補助用コンデンサ16及び抵抗17、18は、夫々電動機側の3相ダイオードブリッジ9、サイリスタ10、点弧補助用コンデンサ11及び抵抗12、13と同一構成であるのでこれらの説明は省略する。
【0022】
このような図2に示した構成を採用することによって、3レベルインバータ6の内部で短絡故障が生じた場合に加え、3レベルコンバータ4の内部で短絡故障が生じた場合であっても、サイリスタ15を点弧することによってコンデンサ5Aまたはコンデンサ5Bの過電圧を防止することが可能となる。
【実施例3】
【0023】
図3は本発明の実施例3に係る電力変換装置の保護装置の回路構成図である。この実施例3の各部について、図2の本発明の実施例2に係る電力変換装置の保護装置の各部と同一部分は同一符号で示し、その説明は省略する。この実施例3が実施例2と異なる点は、3相ダイオードブリッジ9と3相ダイオードブリッジ14の直流出力を互いに接続し、サイリスタ15、点弧補助用コンデンサ16及び抵抗17、18を省略する構成とした点である。
【0024】
この実施例3のように、サイリスタ10、点弧補助用コンデンサ11及び抵抗12、13を電動機側だけでなく、電源系統側の過電圧防止回路として動作させるようにすれば、実施例2に比べて部品点数が大幅に削減可能となる。ここで、サイリスタ10の短絡耐量は、3レベルコンバータ4と3レベルインバータ6が同時に短絡故障を起こすことを考慮しなければ、基本的には実施例2の場合と同一で良い。また、同時短絡故障も考慮して短絡耐量を略2倍としても良い。
【符号の説明】
【0025】
1 直流電源
2 変圧器
3 開閉器
4 3レベルコンバータ
5A 正側コンデンサ
5B 負側コンデンサ
6 3レベルインバータ
7 交流電動機
8 初期充電回路
9、14 3相ダイオードブリッジ
10、15 サイリスタ
11、16 点弧補助用コンデンサ
12、13、17、18 抵抗
61、62、63、64 スイッチング素子
65,66、67、68 フリーホイールダイオード
69、70 クランプダイオード
81 開閉器
82 変圧器
83 整流器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3レベルの直流電源と、
この直流電源から給電される正側及び負側の直流コンデンサと、
前記直流コンデンサに印加される3レベルの直流電圧を交流電圧に変換して交流電動機を駆動する3レベルインバータと、
前記直流コンデンサを初期充電するための第1の初期充電手段と、
前記3レベルインバータの内部短絡故障を検出する第1の短絡故障検出手段と
を有する電力変換装置の過電圧保護を行う保護装置であって、
前記交流電動機の入力を整流する第1のブリッジ回路と、
前記第1のブリッジ回路の直流出力に並列に設けられた第1のサイリスタと、
前記第1のサイリスタのアノードカソード間に接続された第1の点弧補助用コンデンサと、
前記第1の点弧補助用コンデンサを初期充電するための第2の初期充電手段と
を具備し、
前記第1の短絡故障検出手段が短絡故障を検出したときに前記第1のサイリスタを点弧させるようにしたことを特徴とする電力変換装置の保護装置。
【請求項2】
前記直流電源は、交流電源を入力とし、その内部短絡故障を検出する第2の短絡故障検出手段を備えた3レベルコンバータから構成され、
前記3レベルコンバータの入力を整流する第2のブリッジ回路と、
前記第2のブリッジ回路の直流出力に並列に設けられた第2のサイリスタと、
前記第2のサイリスタのアノードカソード間に接続された第2の点弧補助用コンデンサと、
前記第2の点弧補助用コンデンサを初期充電するための第3の初期充電手段と
を具備し、
前記第2の短絡故障検出手段が短絡故障を検出したときに前記第2のサイリスタを点弧させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置の保護装置。
【請求項3】
前記直流電源は、交流電源を入力とし、その内部短絡故障を検出する第2の短絡故障検出手段を備えた3レベルコンバータから構成され、
前記3レベルコンバータの入力を整流し、その直流出力を前記第1のブリッジ回路の直流出力と互いに接続した第2のブリッジ回路を具備し、
前記第2の短絡故障検出手段が短絡故障を検出したときに前記第1のサイリスタを点弧させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置の保護装置。
【請求項4】
前記第2の初期充電手段は、
前記3レベルの直流電源と前記第1のブリッジ回路の直流出力の互いの正電位間及び互いの負電位間を、抵抗を介して接続して成ることを特徴とする請求項1乃至3に記載の電力変換装置の保護装置。
【請求項5】
前記第3の初期充電手段は、
前記3レベルの直流電源と前記第2のブリッジ回路の直流出力の互いの正電位間及び互いの負電位間を、抵抗を介して接続して成ることを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置の保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−34451(P2012−34451A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169975(P2010−169975)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】