電力検知センサ
【課題】電力検知を精度良く行う。
【解決手段】磁気抵抗素子11を備えた電力検知センサ10であって、測定対象となる負荷Aに印加される電圧を、磁気抵抗素子11の抵抗成分に基づいて検知し、負荷Aに流れる電流を、磁気抵抗素子11の近傍に配置される電気配線waより発生する磁界に基づく磁気抵抗素子の出力変化、および磁気抵抗素子11の磁気抵抗変化に基づいて検知し、電力検知を行う。
【解決手段】磁気抵抗素子11を備えた電力検知センサ10であって、測定対象となる負荷Aに印加される電圧を、磁気抵抗素子11の抵抗成分に基づいて検知し、負荷Aに流れる電流を、磁気抵抗素子11の近傍に配置される電気配線waより発生する磁界に基づく磁気抵抗素子の出力変化、および磁気抵抗素子11の磁気抵抗変化に基づいて検知し、電力検知を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力検知センサに関する。さらに詳述すると、磁気抵抗素子を用いた電力検知センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、各種の磁気抵抗素子を用いた電流センサ、磁気センサ(磁気抵抗センサ)には、磁気抵抗効果素子(MR素子など)や、磁気インピーダンス素子(MI素子)等が用いられている。例えば、MIセンサによれば、MI素子という磁気抵抗素子を用いることで薄膜化・小型化が容易であり、その改良も盛んに行われている。MI素子は、高周波電流を流した場合のその高周波インピーダンスの磁界による変化をもって磁界強度を検知することができるもので、回路技術を駆使する必要があるが、センサ感度は高い特長を有する。
【0003】
また、磁気抵抗効果素子(MR素子)を用いた電流センサ、磁気センサの素子として、巨大磁気抵抗素子(GMR素子)や、トンネル磁気抵抗素子(TMR素子)等が知られている。GMR(Giant magnetic resistance)素子とは、強磁性層と非強磁性層とが交互に複数層形成され、隣接する2つの磁性層の磁化方向が、外部磁界の強さに応じて平行な場合と反平行な場合とで変化する抵抗を利用して磁気検知を行うものである。また、TMR(tunnel Magneto-Resistance)素子とは、磁性薄膜層が絶縁層を介して複数層形成され、伝導に関わる電子がスピンを維持しながら絶縁層をトンネル現象によって伝導されることで、このときの磁化の状態によってトンネル透過係数が異なることを利用して磁界検知を行うものである。
【0004】
これらの磁気抵抗素子は磁化の向きと強度が所定の向きに固定された磁化固定層と、磁化の向きが外部磁界の向きに応じて変化するフリー層(自由層)とを備えている。磁気センサとして外部磁界を検知する時は固定された磁化固定層の磁化方向に対して外部磁界の向きに応じて変化するフリー層の磁化方向の相対関係と、磁化の強度に応じて抵抗値は変化することを利用して磁界の方向を検知するものである。
【0005】
このような磁気抵抗素子を用いた電流センサ、磁気センサに関し、例えば、特許文献1には、トンネル磁気抵抗効果素子の下部電極にバイアス電流を流すことにより、別途バイアス電流用の配線層を設ける場合に比べて、より少ない消費電力でバイアス磁界をトンネル磁気抵抗効果素子に印加することができ、外部磁界に応じてバイアス磁界の大きさを変化させることによって、磁界検出精度を向上させることができ磁界検出装置が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、被測定電流が流れる被検出配線が形成されたプリント基板と、プリント基板と略平行に配置されたセラミクス基板と、このセラミクス基板の一方の面に形成され、被検出配線に接触又は接合された導電膜と、セラミクス基板の他方の面に形成され、磁性層と非磁性層とが交互に複数回積層された多層膜を有し、該多層膜に印加される磁界の変化に応じて抵抗値が変化するGMR膜と、GMR膜に一定のバイアス磁界を印加するバイアス磁石とを備えた電流センサが開示されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、Si基板に、四面の逆ピラミッド構造を有する傾斜面を設け、基板の平面には、フリー層とピン層を持ち、その磁化状態に応じた検知出力を発生させるトンネル型磁気抵抗素子(TMR素子)を設け、フリー層の上部と傾斜面上に、磁界の大きさに応じて磁化されるパーマロイ膜を配置し、センサが平面に配置していても、磁界の平面以外のZ軸方向のベクトル成分を検知可能とする磁気センサが開示されている。
【0008】
また、電流センサと、電圧の測定を可能とする手段とを備えることで電力センサを構成することができる。電力センサとして、例えば、特許文献4には、ブリッジ構成のMR素子を用いた電力計が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献4に記載のように、電力センサ(電力計)の磁気抵抗素子として簡易なMR素子を用いた従来技術は存在するが、磁気抵抗素子としてTMR素子、GMR素子等のスピントロニクス素子を用いて、当該スピントロニクス素子の特性を十分に生かした電力センサは存在せず、検討の余地が残されていた。
【0010】
そこで本発明は、TMR素子、GMR素子等のスピントロニクス素子を用いて、電力検知を精度良く行うことができる電力検知センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するため、本発明に係る電力検知センサは、磁気抵抗素子を備えた電力検知センサであって、測定対象となる負荷に印加される電圧を、磁気抵抗素子の抵抗成分に基づいて検知し、負荷に流れる電流を、磁気抵抗素子の近傍に配置される電気配線より発生する磁界に基づく磁気抵抗素子の出力変化、および磁気抵抗素子の磁気抵抗変化に基づいて検知し、電力検知を行うものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電力検知を精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】TMR層構成による検知用素子部の断面概略図である。
【図2】GMR層構成による検知用素子部の断面概略図である。
【図3】TMR素子の電流電圧特性の一例を示すグラフである。
【図4】TMR素子の磁界に対する抵抗変化の一例を示すグラフである。
【図5】第1の実施形態に係る電力検知センサの構成(1)を示す概略図である。
【図6】電流センサの構成を示す概略図である。
【図7】第1の実施形態に係る電力検知センサの構成(2)を示す概略図である。
【図8】電力検知センサによる電流検知制御例を示すフローチャートである。
【図9】第2の実施形態に係る電力検知センサの構成を示す概略図である。
【図10】第3の実施形態に係る電力検知センサの構成を示す概略図である。
【図11】第4の実施形態に係る電力検知センサの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る構成を図1から図11に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0015】
[第1の実施形態]
[検知用素子部]
図1及び図2に検知用素子部(以下、磁気抵抗素子、検知素子、電流検知素子ともいう)の構成例を示す。図1に示す検知用素子部11は、キャップ層6、フリー層5、トンネル障壁層4、磁化固定(AFM)層3、シード層2、基板1からなるTMR層構成による検知用素子部11の一例である。
【0016】
基板1としては、例えばSiやSi上熱酸化基板を用いる。MOS層を有するものであっても特性上問題なく作製可能である。また、超高真空スパッタ装置やイオンビームスパッタ装置、EB蒸着装置などを用いて、Ta、FeNi層との複合層によるシード層2を設け、特性を向上させるとともに、FeMn、PtMn、IrMn、NiMn、PdPtMn、CrPtMn、CoMnなどやそれらの合金などからなる磁化固定層3を構成する。このとき、その厚みは各設計値によって、3nm〜400nm程度か、それ以上に設定されるが、10nm〜100nmが好適である。また、磁化固定層3の上部にピンド層8(シンセティックフェリ層)を設ける構成(スピンバルブ構成)としても良い。また、磁化固定層3として保磁力の大きいものや硬質磁性材料(AlNiCo、PtCo等)でもよい。
【0017】
トンネル障壁層4は、例えばAl−OやMgOで構成され、その厚みは0.5nm〜6nmの間で設計されるが、1nm〜4nmが好適である。特に、MgOで構成すると、比較的厚い膜厚であっても優れた磁気抵抗変化率特性が得られるので、抵抗値を大きくとりたい場合には厚みを厚くすることで実現可能となるメリットを有する。なお、図示はしないが、MgO層をトンネル障壁層4とする場合には、例えばCoFeSiBなどのアモルファス膜をアズデポ(析出まま)で作製後、アニール時に結晶化することも好ましい。これにより、MgOの再配列を促し、結晶性を高めることで磁気抵抗変化率を著しく向上されることが可能となり、さらに検知性能の向上を図ることができる。
【0018】
フリー層5は、例えば、パーマロイ(NiFe)、スーパーマロイ、CoFe、CoNiFe、CoZrNb、CoFeB、CoFeSiB、FeAlSi等の軟磁気特性を有するものや半硬質磁気特性を有するもので構成することにより、センサ特性を発揮するものである。また、保護目的と次工程との整合性のためのキャップ層7としては、Ta、Auなどを成膜する。
【0019】
検知用素子部11は、所望の形状にフォトリソグラフィ、EB露光等を用いた微細加工により形状を作製し、上下に電極を配して完成させる。
【0020】
なお、検知用素子部11は、素子面積によらず、検知素子として可能であるが、所望の抵抗値は素子面積でも設定可能であるので、LSI設計の上で小さな面積でかつ抵抗値を大きく取りたい場合には抵抗値の選択としてより小さな素子面積を選べばよい。抵抗値を低くしたい場合には素子面積を大きくとるか、TMR特性を犠牲にしない範囲でトンネル障壁層4の厚みを小さく取ることで設定することが可能となる。
【0021】
また、本実施形態における検知用素子部11は、図1に示すTMR層構成に限られるものではなく、例えば、図2に示すようなGMR層構成であっても良い。図2に示す検知用素子部11は、トンネル障壁層4に替えて非磁性金属層7を有し、その他の層構成は同様である。ここで、非磁性金属層7には、例えば、Cu、Agなどが適している。
【0022】
ところで、従来の磁気センシングを用いた電流センサでは、直接磁界等を測定する場合などにおいて、磁気センサの感度が小さいため、ホール素子も含んで比較的大きな素子をする必要があった。これに対し、図1、図2に示したTMR素子やGMR素子などの磁気抵抗素子の特性向上は著しく、室温で数100%に達するものとなっており、格段に特性向上が見込めるデバイスとなっている。以下に述べる本実施形態に係る電力検知センサでは、これらを用いている。また、最近のLSIの配線幅の低減等で、検知に伴う回路技術もLSIの微小な素子部として実現できるところとなっており、従来のAMR素子(異方性磁気抵抗素子)などと異なり新たな検知方法への適用が考えられる。
【0023】
例えば、TMR素子では、磁界の検知に関して、フリー層5の磁界に対する変化を基準とする磁化固定層3との磁化の相対角によってトンネル電流の流れ方が異なることで磁気抵抗変化としている。したがって、GMR素子、TMR素子においても磁界の変化に追随して変化するフリー層5か、TMR素子においては通常は検知層一層でフリー層5そのものであるため、微弱な磁界の検知においてはフリー層の特徴をうまく利用することで、磁気抵抗素子特性の向上を図ることができる。また、磁性体を介して電流注入による磁化反転(スピン注入磁化反転)の効果により、電流を検知対象とする場合には検知感度を向上させることが可能となり、微小な電流でも検知となり、同一電流の検知の際にも検知信号の出力電圧比を向上させることが可能となる。また、TMR素子では、素子抵抗値自体を大きく設定することが容易であり、以下に説明する電力検知センサに好適である。また、GMR素子も、同様に高精度計測が可能であって、MR素子やホール素子を用いた場合に比べて、すぐれた特性を発揮する。以下、必要に応じてTMR層構成の磁気抵抗素子11を例に取り説明する。
【0024】
[電力検知センサ]
本実施形態に係る電力検知センサは、磁気抵抗素子(磁気抵抗素子11)を備えた電力検知センサ(電力検知センサ10)であって、測定対象となる負荷(負荷A)に印加される電圧を、磁気抵抗素子の抵抗成分に基づいて検知し、負荷に流れる電流を、磁気抵抗素子の近傍に配置される電気配線(電気配線wa)より発生する磁界に基づく磁気抵抗素子の出力変化、および磁気抵抗素子の磁気抵抗変化に基づいて検知し、電力検知を行うものである。なお、電力検知センサの電気配線に流される電流は直流(DC)に限らず、交流(AC)であっても測定可能である。
【0025】
上述のように、TMR素子などの磁気抵抗素子は、磁界の変化に対して非常に鋭敏な特性を有しており、非接触の電流検知素子として機能する。また、磁界変化が微小な場合や磁界変化をさせない場合には、抵抗値そのものの温度変化も微小であって、抵抗そのものと機能させることができる。本実施形態に係る電力検知センサは、その特徴に着目して、非常に大きな範囲(ワイドレンジ)での電流検知素子および電圧素子として用いることが可能となり、高精度に電力を検知することが可能となる。
【0026】
また、本実施形態に係る電力検知センサは、以下に詳述するように、近接した電流によって磁化反転を行い、高感度に検知可能なセンサであって、それ自身は流す電流によってはほとんど変化なくすることが可能である。また、ブリッジ構成とすることも可能であり、その影響を僅少にすることが可能である。
【0027】
換言すれば、抵抗を比較的大きく設定でき、かつ、大きい電流を流すことに対応可能とし、大きなレンジで電流検知の構成が実現できる。また、通常のデバイス構成であっても十分、高信頼性につながるものであって、堅牢なシステムとすることが可能、すなわち、将来にわたって、劣化等の自己診断が可能となる。
【0028】
図3は、TMR素子の電流電圧特性の一例を示すグラフである。図3に示すように、TMR素子では、通常、センス電流値が小さな領域において、直線的な変化を示す。また、センス電流印加によっても、通常、トンネル障壁の幅と障壁高さによって決まる特有の曲線を示す。
【0029】
ここで、図3中の特に直線的な部分(直線領域s)において、抵抗成分として、センス電流に対して比例し、精度よい検知が可能となる。なお、図3の例では、磁界は与えていない。また、温度特性0.1%/度台程度であり、半導体素子に比べて小さいことが知られている。以下、磁気抵抗測定時には温度特性や磁界動作が均一になるようにしてあるが、抵抗として検知する場合は、電流による磁界が発生しないようにして微少電流検知が可能となる。
【0030】
図4は、TMR素子の磁界に対する抵抗変化(磁気抵抗特性)の一例を示すグラフである。図4に示す例は、小さな磁界印加時には直線的な抵抗増加特性をもち、徐々に飽和する特性を有するTMR素子を示している。
【0031】
図5は、電力検知センサの第1の実施形態における構成を示す概略図である。図5に示すように電力検知センサ10は、測定対象(負荷)Aに接続される電気配線waと、電気配線waから分岐し、その途中に磁気抵抗素子11が接続される電気配線wbと、電気配線wbに配置される磁気抵抗素子11と、磁気抵抗素子11と接続されその検知結果(電力)を出力する検知手段12と、検知手段12からの出力信号に基づいて信号処理を行う出力信号処理部13と、を備える。
【0032】
また、電気配線waは、磁気抵抗素子11から所定の距離だけ離間した状態で該磁気抵抗素子11の周りを周回するように一平面上をループ状の配線される電気配線となっている(ループ状磁界発生用配線部とする)。すなわち、電力検知センサ10では、磁気抵抗素子11を周回する電気配線waで形成される平面ループ内に配置されるようになる。
【0033】
このように、電気配線waを平面ループ状に配線したので、電流による発生磁界のベクトル方向は基板面(=膜面)に垂直となり、磁気抵抗素子11の反磁界の影響の考慮した設計や発生する強度の精度が上がり(発生磁界強度と分布の誤差を低減でき)、より正確な測定を可能とすることが可能となる。
【0034】
ここで、測定対象Aは、電源から電力が供給されて種々の動作や処理を行う電子・電機機器のユニット(あるいは部品)であり、その内部の異常や劣化などにより負荷が増大して流れる電流が増加する場合があるものである。
【0035】
ここで、電気配線に電流を流すと、その電気配線の周りには磁界が発生するが、このと
き、電気配線(wa)の近傍に磁気抵抗素子11を配置すると、マイナーループを描く磁気ヒステリシスをもつことから、その磁界の影響を受けてフリー層5が磁化し、結果として所定の抵抗値を示す。
【0036】
また、電流の増加に伴い磁界の強度が増加すると、フリー層5において、マイナーループに沿って磁化が増大するがあるところから磁化が飽和する特徴をもつ(図4)。これは、フリー層5とするパーマロイ(NiFe)、スーパーマロイ、CoFe、CoZrNb、CoFeB、CoFeSiB、FeAlSi等の各材料ともそれぞれ特徴ある磁気ヒステリシスループをとりながら、磁化がスイッチ的な角型形状を持って変化する場合や直線的な変化を示して、磁化飽和に達する曲線を示すが、リニアな測定を必要とする場合には直線的な特性を示すものである。すなわち、TMR素子においてはフリー層5の磁化状態に応じて磁気抵抗変化も得られることとなる。また、必要に応じてスイッチイング特性を示す場合には角型形状を持った磁気抵抗曲線を用いることで検知が可能となる。さらに微少な部分の測定は、抵抗素子として検知する磁気抵抗部を用いて検知が可能となる。
【0037】
また、上述のように、TMR素子は、フリー層5の磁界に対する変化を基準とする磁化固定層3との磁化の相対角によって、センス電流の流れ方が異なることで磁気抵抗変化としている。検知層一層でフリー層5そのものであるので、微弱な磁界の検知においてはフリー層5の特徴を用いることで、各素子特性を向上することが可能となる。また、磁性体を介して電流注入による磁化反転の効果により、電流を検知対象とする場合には検知感度を向上させることが可能となるため、微小な電流でも検知となり、同一電流の検知の際にも検知信号の出力電圧比を向上させることが可能となる。
【0038】
図5に示す本実施形態の電力検知センサ10による電力検知の構成の基本を説明する。上述したTMR素子、GMR素子等を用いて、測定対象の電流Iを、磁気抵抗素子11を通さずに、ループ状磁界発生用配線部(電気配線wa)に流す電流Iaとし、磁気抵抗素子11の近傍を流れ、その際に電流Iaに従った磁界を発生させ、磁気抵抗に印加される。電流Iaはその後、負荷Aに与えられる。
【0039】
また、センス電流Ibとして、負荷Aを流れる電流Iaによる電圧降下(=負荷Aに印加される電圧VL)にしたがってセンス電流Ibを設定し、磁気抵抗素子11に印加する。
【0040】
磁気抵抗素子11における出力電圧Eは磁気抵抗の磁界による変化分を考慮し、次式(1)で表される。
E∝Ia×Ib∝Ia×VL ・・・(1)
【0041】
上記式(1)は、負荷Aにおける電力消費量は、磁気抵抗素子11における出力電圧Eに比例することを示している。なお、比例せず単調な変化の場合、マッピング等の信号処理や、磁気抵抗素子11の動作に伴うヒステリシスを考慮して補正等の処理を行ってもよい。
【0042】
本実施形態では、図5に示すように、センス電流Ibを負荷Aからの電圧を分岐させて与え、その際に抵抗値そのものが持つ抵抗によって、出力電圧Eが得られることとなる。さらに、負荷Aに流れる電流によって、ループ状磁界発生用配線部(電気配線wa)によって、磁界が発生し、それに伴う磁界変化に従って、磁気抵抗値が変化する。また、抵抗値を増大または減少させる設定が可能である。例えば、磁界によって、抵抗値が増大し、出力が増大する場合、電流変化は電流値が増大する側で大きくなるので、大きな電流が流れる場合に、精度よく、そのまま電力量として出力することが可能となる。
【0043】
なお、図6に示すように、測定対象(負荷)Aに接続される電気配線w1と、電気配線w1から分岐し、その途中に磁気抵抗素子11が接続される電気配線w2と、電気配線w1から分岐し、磁界発生用配線部である電気配線w3と、上記電気配線w2に配置される磁気抵抗素子11と、磁気抵抗素子11と接続されその検知結果を出力する検知手段12と、検知手段12からの出力信号に基づいて処理を行う出力信号処理部13と、を備えた電流センサを構成することもできる。
【0044】
図6に示す電流センサでは、測定対象の電流Iを、磁気抵抗素子11を通さずに、磁界発生用配線部w3に流す電流Iaと、磁気抵抗素子11(電気配線w2側)に流す電流(すなわち、センス電流)Ibとに分岐させるものである。よって、電流は、次式(2)の関係を有している。
I = Ia + Ib ・・・(2)
【0045】
ここで、電流は、所望の周波数における磁界発生用配線部w3と磁気抵抗素子11の抵抗の逆比と分岐することが可能であるので、磁気抵抗素子11を破壊しない十分小さな電流Ibに設定することが可能となる。したがって、測定の精度等の設計値に応じた値とすることができる。また、その際、必要な測定電流Iの測定レンジに従って、各パラメータを設定することも可能となる。
【0046】
図6に示す電流センサでは、上記式(2)のように電流を分岐させ、その際、抵抗値そのものが持つ抵抗によって、出力電圧を増大させることができる。また、磁界発生用配線部w3によっても、磁界が発生し、それに伴う磁界変化に従って、磁気抵抗値が変化し、さらに抵抗値が増大または減少させる設定が可能となる。
【0047】
図5に示す本実施形態に係る電力検知センサ10では、図6に示すような電流センサとは異なり、さらに電力量をそのまま測定することが可能となる。
【0048】
なお、図5では、単独素子(磁気抵抗素子11)の電力検知センサの例を示したが、さらに精度を向上させるため、図7に示すように、磁気抵抗素子11として、該磁気抵抗素子を並列および/または直列に接続(ブリッジ接続)した磁気抵抗素子群(11a〜11d)を用いた電力検知センサ20とすることも好ましい。これにより、例えば、電流の増減によって、抵抗が増減する方向を適宜設定することが可能となる。図7に示す例では、電気配線wb1,wb2により磁気抵抗素子11a,cと11b,dが並列に接続され、また、磁気抵抗素子11a,cと11b,dとはそれぞれ直列で接続されている。
【0049】
電力検知センサ10による電流、電圧検知制御について、図8のフローチャートを用いて説明する。図8の例では、電源より測定対象負荷Aに与えた電流(電流I)を検知する場合について説明する。
【0050】
先ず、被測定電流を負荷Aに印加する(S101)とともに、負荷Aの電圧がTMR素子(磁気抵抗素子11)へのセンス電流として与えられる(S102)。また、TMR素子の電流電圧特性によって、直線領域やそれ以外の領域において、センス電流によりその変化を、抵抗成分による電圧として発生する(S103)。
【0051】
さらに、電気配線waに発生する磁界によって、磁気抵抗曲線に準じて、TMR素子抵抗が変化し、素子抵抗は、増減分として出力変化がある(S104)。これらを検知手段12で検知し、出力信号処理部13へ出力する。最後に、出力信号処理部13は、それぞれの出力データを組み合わせて電力出力とする(S105〜S106)。なお、出力は、予め電流データとして得ているマップ(電流換算マップ)との照合でもいいし、換算係数として得ておき、電流検知として行うことも可能である。
【0052】
また、検知制御部を設け、検知のフローチャートとして操作する構成も好ましい。これにより、より細かい精度設定や、設定の測定対象に応じた変更といった自由度の高い測定が可能となる。また、磁界に対して、素子抵抗を増加させる設定も可能となり、所望の磁界強度すなわち被測定電流、および負荷の電圧の測定精度のレンジ、電力のレンジが設定できる。
【0053】
以上説明した本実施形態に係る電力検知センサ10によれば、電流値および電圧を高精度に検知し、電力として出力することができる、また、その元となる磁界を高精度に検知することが可能となる。また、ワイドレンジ測定が可能となる。さらに、これらを単独の磁気抵抗素子またはブリッジ構成にて素子数を少なく実現することができる。よって、センサの小型化を図ることができる。また、電気配線に切り替えスイッチ等を設けることもないため、構造が簡便であり、切り替えのタイミング等を考慮した制御プログラム等を別途必要とすることなく、上記効果を実現することができる。
【0054】
電力検知センサ10の動作例について説明する。例えば、1000000Ω程度とした素子の場合には、1μAを流した場合において、1Vの電圧が得られることとなり、TMR素子においては、電圧限界のマージン等から適当な値となる。この場合、TMR素子に接続される電気配線の抵抗値を数Ωとしても、1A程度までの測定において、高感度に測定可能となる。
【0055】
また、電気配線を0.1Ωとすると10A程度までの測定において、高感度に測定することが可能となる(電気配線をより離した位置での計測)。また、100A程度の測定においても0.010Ω程度に電気配線の抵抗を設定することで測定可能となる。さらに、同等、もしくはこれ以上の電流測定においては、一旦電流を分流させてから測定を行うことも好ましい。100A以下の10A、1A測定時においても分流させる構成としても良い(後述の第4の実施形態)。
【0056】
なお、電力検知センサ10では、いずれの場合においても電圧としては分圧されているので、通常の純抵抗の測定より非常に安全な測定とすることができる。なお、必要に応じて保護回路等を付加することも好ましい。
【0057】
(第2の実施形態)
以下、電力検知センサのその他の実施形態について説明する。なお、上記実施形態と同様の点についての説明は省略する。
【0058】
本実施形態の電力検知センサの基本構成は、第1の実施形態と同じであるが、図9は磁気抵抗素子11を半導体LSI工程の中に取り込み作製した断面模式図であって、磁気抵抗素子11は、基板1上に所定の薄膜(シード層2、磁化固定層3、ピンド層8、トンネル障壁層4、フリー層5、キャップ層6)が積層されてなり、電気配線wrが薄膜の積層方向(図中上下方向)に沿ってループ状に配置されるものである。
【0059】
この構成によれば、電流による発生磁界のベクトル方向は基板面(=膜面)に平行となり、磁気抵抗素子11の反磁界の影響の考慮した設計や発生する強度の精度が上がり、より正確な測定を可能となる。また、磁気抵抗素子11及び電気配線wrの作製を半導体LSI工程の中に取り込むことが可能であり、LSI等の多層配線中では磁気抵抗素子11平面に対して垂直に配置した構成がとれることから、より近接した立体ループ構造が、比較的低面積で実現可能であり、電力検知センサの小型化と高感度化が実現可能である。
【0060】
(第3の実施形態)
本実施形態の電力検知センサの基本構成は、第1の実施形態と同じであるが、図10は磁気抵抗素子11を半導体LSI工程の中に取り込み作製した事例の上面模式図であって、電気配線wr1、wr2は、磁気抵抗素子11を挟むように配置した2つのループからなるヘルムホルツコイル構造を有しているものである。
【0061】
この構成によれば、第2の実施形態と同様に、電流による発生磁界のベクトル方向は基板面(=膜面)に平行となり、磁気抵抗素子11の反磁界の影響の考慮した設計や発生する磁界強度の精度の均一性が上がり、特に、磁気抵抗素子11を挟むように配置した2つのループからなるヘルムホルツコイル構造の電気配線wr1、wr2とすることから、位置決めを柔軟にすることができ、かつ、より正確な電流検知が可能となる。
【0062】
(第4の実施形態)
図11は、電力検知センサの第4の実施形態における構成を示す概略図である。第4の実施形態の電力検知センサ30は、上記第2の実施形態で説明した構成に加えて、分流させた電気配線wcを備え、磁気抵抗素子11へ磁界の影響を与えないように、一旦電流を分流させたものである。
【0063】
上記実施形態において、100A程度の測定において0.01Ω程度に配線部の抵抗を設定することで可能であることを説明したが、同等、もしくはそれ以上の電流測定において、一旦電流を分流させてから測定を行うことも好ましい。また、100A以下の10A、1A測定時においても分流させる構成も可能である。
【0064】
分流については、配線抵抗同士の抵抗による按分による分流でもよいが、抵抗への入力用の切り替え部として、スイッチや半導体素子によるアナログスイッチ、他の実施形態で示した例とは逆に、磁界による変化分を素子抵抗の電圧降下とのバランスとして信号処理回路部にて、処理する方式としても良い。
【0065】
本実施形態の電力検知センサ30によれば、さらに大きな電流に関しても測定可能な構成を簡易に実現でき、さらに安全性を向上させることができる。また、大きなダイナミックレンジを持ちながら、微少電流測定時にも、十分大きな検知出力として測定することも可能となる。また、予め所定量以上の電流が素子部に流入しないようにソフトウェア的に設定することも可能であるが、ダイオード等を用いて電流を制限する構成として、所定量以上の場合には流れないようにしても良い。
【0066】
具体的構成としては、配線部材のシート抵抗値を配線面積、厚み等を考慮することが好ましい。例えば、一旦、素子面積比にて電流を分流させ、この時、工程の複雑化をさけるため、あまり精度よく設定できない場合でも、トリミング等の部分を作ることで設計値にあわせ込む等を行うことができる。これにより、プロセスの複雑化を防いで、コスト低減を図ることができる。
【0067】
なお、素子抵抗については、トンネル障壁層4の厚みと素子の面積によって制御可能であって、素子面積については、面積が小さいほど、抵抗値が大きくなることから、本発明に係る電力検知センサでは、微少電流側で精度よい測定が可能となる。例えば、MgO型において、1μm2においても、1MΩはトンネル障壁層厚みを3μmとすることで実現でき、サブμm以下を実現するLSIによる設計値との適合する寸法を実現することができる。
【0068】
尚、上述の実施形態は本発明の好適な実施の例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、電流センサ、磁界センサ、電流モニター(上下限値チェック等)、これらを搭載したシステム、LSIなどへの適用が可能である。また、地磁気センサ等への適用も可能であり、MRAM等の各素子への適用も可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 基板
2 シード層
3 磁化固定層(AFM層)
4 トンネル障壁層
5 フリー層
6 キャップ層
7 非磁性金属層
8 ピンド層
10,20,30 電力検知センサ
11 磁気抵抗素子
12 検知手段
13 出力信号処理部
A 測定対象(負荷)
wa 電気配線(ループ状磁界発生用配線部)
wb 電気配線(磁気抵抗素子側)
wc 電気配線(分流させた配線部)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0070】
【特許文献1】特開2010−145241号公報
【特許文献2】特開2002− 82136号公報
【特許文献3】特開2009−222650号公報
【特許文献4】特開昭62−110165号公報
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力検知センサに関する。さらに詳述すると、磁気抵抗素子を用いた電力検知センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、各種の磁気抵抗素子を用いた電流センサ、磁気センサ(磁気抵抗センサ)には、磁気抵抗効果素子(MR素子など)や、磁気インピーダンス素子(MI素子)等が用いられている。例えば、MIセンサによれば、MI素子という磁気抵抗素子を用いることで薄膜化・小型化が容易であり、その改良も盛んに行われている。MI素子は、高周波電流を流した場合のその高周波インピーダンスの磁界による変化をもって磁界強度を検知することができるもので、回路技術を駆使する必要があるが、センサ感度は高い特長を有する。
【0003】
また、磁気抵抗効果素子(MR素子)を用いた電流センサ、磁気センサの素子として、巨大磁気抵抗素子(GMR素子)や、トンネル磁気抵抗素子(TMR素子)等が知られている。GMR(Giant magnetic resistance)素子とは、強磁性層と非強磁性層とが交互に複数層形成され、隣接する2つの磁性層の磁化方向が、外部磁界の強さに応じて平行な場合と反平行な場合とで変化する抵抗を利用して磁気検知を行うものである。また、TMR(tunnel Magneto-Resistance)素子とは、磁性薄膜層が絶縁層を介して複数層形成され、伝導に関わる電子がスピンを維持しながら絶縁層をトンネル現象によって伝導されることで、このときの磁化の状態によってトンネル透過係数が異なることを利用して磁界検知を行うものである。
【0004】
これらの磁気抵抗素子は磁化の向きと強度が所定の向きに固定された磁化固定層と、磁化の向きが外部磁界の向きに応じて変化するフリー層(自由層)とを備えている。磁気センサとして外部磁界を検知する時は固定された磁化固定層の磁化方向に対して外部磁界の向きに応じて変化するフリー層の磁化方向の相対関係と、磁化の強度に応じて抵抗値は変化することを利用して磁界の方向を検知するものである。
【0005】
このような磁気抵抗素子を用いた電流センサ、磁気センサに関し、例えば、特許文献1には、トンネル磁気抵抗効果素子の下部電極にバイアス電流を流すことにより、別途バイアス電流用の配線層を設ける場合に比べて、より少ない消費電力でバイアス磁界をトンネル磁気抵抗効果素子に印加することができ、外部磁界に応じてバイアス磁界の大きさを変化させることによって、磁界検出精度を向上させることができ磁界検出装置が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、被測定電流が流れる被検出配線が形成されたプリント基板と、プリント基板と略平行に配置されたセラミクス基板と、このセラミクス基板の一方の面に形成され、被検出配線に接触又は接合された導電膜と、セラミクス基板の他方の面に形成され、磁性層と非磁性層とが交互に複数回積層された多層膜を有し、該多層膜に印加される磁界の変化に応じて抵抗値が変化するGMR膜と、GMR膜に一定のバイアス磁界を印加するバイアス磁石とを備えた電流センサが開示されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、Si基板に、四面の逆ピラミッド構造を有する傾斜面を設け、基板の平面には、フリー層とピン層を持ち、その磁化状態に応じた検知出力を発生させるトンネル型磁気抵抗素子(TMR素子)を設け、フリー層の上部と傾斜面上に、磁界の大きさに応じて磁化されるパーマロイ膜を配置し、センサが平面に配置していても、磁界の平面以外のZ軸方向のベクトル成分を検知可能とする磁気センサが開示されている。
【0008】
また、電流センサと、電圧の測定を可能とする手段とを備えることで電力センサを構成することができる。電力センサとして、例えば、特許文献4には、ブリッジ構成のMR素子を用いた電力計が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献4に記載のように、電力センサ(電力計)の磁気抵抗素子として簡易なMR素子を用いた従来技術は存在するが、磁気抵抗素子としてTMR素子、GMR素子等のスピントロニクス素子を用いて、当該スピントロニクス素子の特性を十分に生かした電力センサは存在せず、検討の余地が残されていた。
【0010】
そこで本発明は、TMR素子、GMR素子等のスピントロニクス素子を用いて、電力検知を精度良く行うことができる電力検知センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するため、本発明に係る電力検知センサは、磁気抵抗素子を備えた電力検知センサであって、測定対象となる負荷に印加される電圧を、磁気抵抗素子の抵抗成分に基づいて検知し、負荷に流れる電流を、磁気抵抗素子の近傍に配置される電気配線より発生する磁界に基づく磁気抵抗素子の出力変化、および磁気抵抗素子の磁気抵抗変化に基づいて検知し、電力検知を行うものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電力検知を精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】TMR層構成による検知用素子部の断面概略図である。
【図2】GMR層構成による検知用素子部の断面概略図である。
【図3】TMR素子の電流電圧特性の一例を示すグラフである。
【図4】TMR素子の磁界に対する抵抗変化の一例を示すグラフである。
【図5】第1の実施形態に係る電力検知センサの構成(1)を示す概略図である。
【図6】電流センサの構成を示す概略図である。
【図7】第1の実施形態に係る電力検知センサの構成(2)を示す概略図である。
【図8】電力検知センサによる電流検知制御例を示すフローチャートである。
【図9】第2の実施形態に係る電力検知センサの構成を示す概略図である。
【図10】第3の実施形態に係る電力検知センサの構成を示す概略図である。
【図11】第4の実施形態に係る電力検知センサの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る構成を図1から図11に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0015】
[第1の実施形態]
[検知用素子部]
図1及び図2に検知用素子部(以下、磁気抵抗素子、検知素子、電流検知素子ともいう)の構成例を示す。図1に示す検知用素子部11は、キャップ層6、フリー層5、トンネル障壁層4、磁化固定(AFM)層3、シード層2、基板1からなるTMR層構成による検知用素子部11の一例である。
【0016】
基板1としては、例えばSiやSi上熱酸化基板を用いる。MOS層を有するものであっても特性上問題なく作製可能である。また、超高真空スパッタ装置やイオンビームスパッタ装置、EB蒸着装置などを用いて、Ta、FeNi層との複合層によるシード層2を設け、特性を向上させるとともに、FeMn、PtMn、IrMn、NiMn、PdPtMn、CrPtMn、CoMnなどやそれらの合金などからなる磁化固定層3を構成する。このとき、その厚みは各設計値によって、3nm〜400nm程度か、それ以上に設定されるが、10nm〜100nmが好適である。また、磁化固定層3の上部にピンド層8(シンセティックフェリ層)を設ける構成(スピンバルブ構成)としても良い。また、磁化固定層3として保磁力の大きいものや硬質磁性材料(AlNiCo、PtCo等)でもよい。
【0017】
トンネル障壁層4は、例えばAl−OやMgOで構成され、その厚みは0.5nm〜6nmの間で設計されるが、1nm〜4nmが好適である。特に、MgOで構成すると、比較的厚い膜厚であっても優れた磁気抵抗変化率特性が得られるので、抵抗値を大きくとりたい場合には厚みを厚くすることで実現可能となるメリットを有する。なお、図示はしないが、MgO層をトンネル障壁層4とする場合には、例えばCoFeSiBなどのアモルファス膜をアズデポ(析出まま)で作製後、アニール時に結晶化することも好ましい。これにより、MgOの再配列を促し、結晶性を高めることで磁気抵抗変化率を著しく向上されることが可能となり、さらに検知性能の向上を図ることができる。
【0018】
フリー層5は、例えば、パーマロイ(NiFe)、スーパーマロイ、CoFe、CoNiFe、CoZrNb、CoFeB、CoFeSiB、FeAlSi等の軟磁気特性を有するものや半硬質磁気特性を有するもので構成することにより、センサ特性を発揮するものである。また、保護目的と次工程との整合性のためのキャップ層7としては、Ta、Auなどを成膜する。
【0019】
検知用素子部11は、所望の形状にフォトリソグラフィ、EB露光等を用いた微細加工により形状を作製し、上下に電極を配して完成させる。
【0020】
なお、検知用素子部11は、素子面積によらず、検知素子として可能であるが、所望の抵抗値は素子面積でも設定可能であるので、LSI設計の上で小さな面積でかつ抵抗値を大きく取りたい場合には抵抗値の選択としてより小さな素子面積を選べばよい。抵抗値を低くしたい場合には素子面積を大きくとるか、TMR特性を犠牲にしない範囲でトンネル障壁層4の厚みを小さく取ることで設定することが可能となる。
【0021】
また、本実施形態における検知用素子部11は、図1に示すTMR層構成に限られるものではなく、例えば、図2に示すようなGMR層構成であっても良い。図2に示す検知用素子部11は、トンネル障壁層4に替えて非磁性金属層7を有し、その他の層構成は同様である。ここで、非磁性金属層7には、例えば、Cu、Agなどが適している。
【0022】
ところで、従来の磁気センシングを用いた電流センサでは、直接磁界等を測定する場合などにおいて、磁気センサの感度が小さいため、ホール素子も含んで比較的大きな素子をする必要があった。これに対し、図1、図2に示したTMR素子やGMR素子などの磁気抵抗素子の特性向上は著しく、室温で数100%に達するものとなっており、格段に特性向上が見込めるデバイスとなっている。以下に述べる本実施形態に係る電力検知センサでは、これらを用いている。また、最近のLSIの配線幅の低減等で、検知に伴う回路技術もLSIの微小な素子部として実現できるところとなっており、従来のAMR素子(異方性磁気抵抗素子)などと異なり新たな検知方法への適用が考えられる。
【0023】
例えば、TMR素子では、磁界の検知に関して、フリー層5の磁界に対する変化を基準とする磁化固定層3との磁化の相対角によってトンネル電流の流れ方が異なることで磁気抵抗変化としている。したがって、GMR素子、TMR素子においても磁界の変化に追随して変化するフリー層5か、TMR素子においては通常は検知層一層でフリー層5そのものであるため、微弱な磁界の検知においてはフリー層の特徴をうまく利用することで、磁気抵抗素子特性の向上を図ることができる。また、磁性体を介して電流注入による磁化反転(スピン注入磁化反転)の効果により、電流を検知対象とする場合には検知感度を向上させることが可能となり、微小な電流でも検知となり、同一電流の検知の際にも検知信号の出力電圧比を向上させることが可能となる。また、TMR素子では、素子抵抗値自体を大きく設定することが容易であり、以下に説明する電力検知センサに好適である。また、GMR素子も、同様に高精度計測が可能であって、MR素子やホール素子を用いた場合に比べて、すぐれた特性を発揮する。以下、必要に応じてTMR層構成の磁気抵抗素子11を例に取り説明する。
【0024】
[電力検知センサ]
本実施形態に係る電力検知センサは、磁気抵抗素子(磁気抵抗素子11)を備えた電力検知センサ(電力検知センサ10)であって、測定対象となる負荷(負荷A)に印加される電圧を、磁気抵抗素子の抵抗成分に基づいて検知し、負荷に流れる電流を、磁気抵抗素子の近傍に配置される電気配線(電気配線wa)より発生する磁界に基づく磁気抵抗素子の出力変化、および磁気抵抗素子の磁気抵抗変化に基づいて検知し、電力検知を行うものである。なお、電力検知センサの電気配線に流される電流は直流(DC)に限らず、交流(AC)であっても測定可能である。
【0025】
上述のように、TMR素子などの磁気抵抗素子は、磁界の変化に対して非常に鋭敏な特性を有しており、非接触の電流検知素子として機能する。また、磁界変化が微小な場合や磁界変化をさせない場合には、抵抗値そのものの温度変化も微小であって、抵抗そのものと機能させることができる。本実施形態に係る電力検知センサは、その特徴に着目して、非常に大きな範囲(ワイドレンジ)での電流検知素子および電圧素子として用いることが可能となり、高精度に電力を検知することが可能となる。
【0026】
また、本実施形態に係る電力検知センサは、以下に詳述するように、近接した電流によって磁化反転を行い、高感度に検知可能なセンサであって、それ自身は流す電流によってはほとんど変化なくすることが可能である。また、ブリッジ構成とすることも可能であり、その影響を僅少にすることが可能である。
【0027】
換言すれば、抵抗を比較的大きく設定でき、かつ、大きい電流を流すことに対応可能とし、大きなレンジで電流検知の構成が実現できる。また、通常のデバイス構成であっても十分、高信頼性につながるものであって、堅牢なシステムとすることが可能、すなわち、将来にわたって、劣化等の自己診断が可能となる。
【0028】
図3は、TMR素子の電流電圧特性の一例を示すグラフである。図3に示すように、TMR素子では、通常、センス電流値が小さな領域において、直線的な変化を示す。また、センス電流印加によっても、通常、トンネル障壁の幅と障壁高さによって決まる特有の曲線を示す。
【0029】
ここで、図3中の特に直線的な部分(直線領域s)において、抵抗成分として、センス電流に対して比例し、精度よい検知が可能となる。なお、図3の例では、磁界は与えていない。また、温度特性0.1%/度台程度であり、半導体素子に比べて小さいことが知られている。以下、磁気抵抗測定時には温度特性や磁界動作が均一になるようにしてあるが、抵抗として検知する場合は、電流による磁界が発生しないようにして微少電流検知が可能となる。
【0030】
図4は、TMR素子の磁界に対する抵抗変化(磁気抵抗特性)の一例を示すグラフである。図4に示す例は、小さな磁界印加時には直線的な抵抗増加特性をもち、徐々に飽和する特性を有するTMR素子を示している。
【0031】
図5は、電力検知センサの第1の実施形態における構成を示す概略図である。図5に示すように電力検知センサ10は、測定対象(負荷)Aに接続される電気配線waと、電気配線waから分岐し、その途中に磁気抵抗素子11が接続される電気配線wbと、電気配線wbに配置される磁気抵抗素子11と、磁気抵抗素子11と接続されその検知結果(電力)を出力する検知手段12と、検知手段12からの出力信号に基づいて信号処理を行う出力信号処理部13と、を備える。
【0032】
また、電気配線waは、磁気抵抗素子11から所定の距離だけ離間した状態で該磁気抵抗素子11の周りを周回するように一平面上をループ状の配線される電気配線となっている(ループ状磁界発生用配線部とする)。すなわち、電力検知センサ10では、磁気抵抗素子11を周回する電気配線waで形成される平面ループ内に配置されるようになる。
【0033】
このように、電気配線waを平面ループ状に配線したので、電流による発生磁界のベクトル方向は基板面(=膜面)に垂直となり、磁気抵抗素子11の反磁界の影響の考慮した設計や発生する強度の精度が上がり(発生磁界強度と分布の誤差を低減でき)、より正確な測定を可能とすることが可能となる。
【0034】
ここで、測定対象Aは、電源から電力が供給されて種々の動作や処理を行う電子・電機機器のユニット(あるいは部品)であり、その内部の異常や劣化などにより負荷が増大して流れる電流が増加する場合があるものである。
【0035】
ここで、電気配線に電流を流すと、その電気配線の周りには磁界が発生するが、このと
き、電気配線(wa)の近傍に磁気抵抗素子11を配置すると、マイナーループを描く磁気ヒステリシスをもつことから、その磁界の影響を受けてフリー層5が磁化し、結果として所定の抵抗値を示す。
【0036】
また、電流の増加に伴い磁界の強度が増加すると、フリー層5において、マイナーループに沿って磁化が増大するがあるところから磁化が飽和する特徴をもつ(図4)。これは、フリー層5とするパーマロイ(NiFe)、スーパーマロイ、CoFe、CoZrNb、CoFeB、CoFeSiB、FeAlSi等の各材料ともそれぞれ特徴ある磁気ヒステリシスループをとりながら、磁化がスイッチ的な角型形状を持って変化する場合や直線的な変化を示して、磁化飽和に達する曲線を示すが、リニアな測定を必要とする場合には直線的な特性を示すものである。すなわち、TMR素子においてはフリー層5の磁化状態に応じて磁気抵抗変化も得られることとなる。また、必要に応じてスイッチイング特性を示す場合には角型形状を持った磁気抵抗曲線を用いることで検知が可能となる。さらに微少な部分の測定は、抵抗素子として検知する磁気抵抗部を用いて検知が可能となる。
【0037】
また、上述のように、TMR素子は、フリー層5の磁界に対する変化を基準とする磁化固定層3との磁化の相対角によって、センス電流の流れ方が異なることで磁気抵抗変化としている。検知層一層でフリー層5そのものであるので、微弱な磁界の検知においてはフリー層5の特徴を用いることで、各素子特性を向上することが可能となる。また、磁性体を介して電流注入による磁化反転の効果により、電流を検知対象とする場合には検知感度を向上させることが可能となるため、微小な電流でも検知となり、同一電流の検知の際にも検知信号の出力電圧比を向上させることが可能となる。
【0038】
図5に示す本実施形態の電力検知センサ10による電力検知の構成の基本を説明する。上述したTMR素子、GMR素子等を用いて、測定対象の電流Iを、磁気抵抗素子11を通さずに、ループ状磁界発生用配線部(電気配線wa)に流す電流Iaとし、磁気抵抗素子11の近傍を流れ、その際に電流Iaに従った磁界を発生させ、磁気抵抗に印加される。電流Iaはその後、負荷Aに与えられる。
【0039】
また、センス電流Ibとして、負荷Aを流れる電流Iaによる電圧降下(=負荷Aに印加される電圧VL)にしたがってセンス電流Ibを設定し、磁気抵抗素子11に印加する。
【0040】
磁気抵抗素子11における出力電圧Eは磁気抵抗の磁界による変化分を考慮し、次式(1)で表される。
E∝Ia×Ib∝Ia×VL ・・・(1)
【0041】
上記式(1)は、負荷Aにおける電力消費量は、磁気抵抗素子11における出力電圧Eに比例することを示している。なお、比例せず単調な変化の場合、マッピング等の信号処理や、磁気抵抗素子11の動作に伴うヒステリシスを考慮して補正等の処理を行ってもよい。
【0042】
本実施形態では、図5に示すように、センス電流Ibを負荷Aからの電圧を分岐させて与え、その際に抵抗値そのものが持つ抵抗によって、出力電圧Eが得られることとなる。さらに、負荷Aに流れる電流によって、ループ状磁界発生用配線部(電気配線wa)によって、磁界が発生し、それに伴う磁界変化に従って、磁気抵抗値が変化する。また、抵抗値を増大または減少させる設定が可能である。例えば、磁界によって、抵抗値が増大し、出力が増大する場合、電流変化は電流値が増大する側で大きくなるので、大きな電流が流れる場合に、精度よく、そのまま電力量として出力することが可能となる。
【0043】
なお、図6に示すように、測定対象(負荷)Aに接続される電気配線w1と、電気配線w1から分岐し、その途中に磁気抵抗素子11が接続される電気配線w2と、電気配線w1から分岐し、磁界発生用配線部である電気配線w3と、上記電気配線w2に配置される磁気抵抗素子11と、磁気抵抗素子11と接続されその検知結果を出力する検知手段12と、検知手段12からの出力信号に基づいて処理を行う出力信号処理部13と、を備えた電流センサを構成することもできる。
【0044】
図6に示す電流センサでは、測定対象の電流Iを、磁気抵抗素子11を通さずに、磁界発生用配線部w3に流す電流Iaと、磁気抵抗素子11(電気配線w2側)に流す電流(すなわち、センス電流)Ibとに分岐させるものである。よって、電流は、次式(2)の関係を有している。
I = Ia + Ib ・・・(2)
【0045】
ここで、電流は、所望の周波数における磁界発生用配線部w3と磁気抵抗素子11の抵抗の逆比と分岐することが可能であるので、磁気抵抗素子11を破壊しない十分小さな電流Ibに設定することが可能となる。したがって、測定の精度等の設計値に応じた値とすることができる。また、その際、必要な測定電流Iの測定レンジに従って、各パラメータを設定することも可能となる。
【0046】
図6に示す電流センサでは、上記式(2)のように電流を分岐させ、その際、抵抗値そのものが持つ抵抗によって、出力電圧を増大させることができる。また、磁界発生用配線部w3によっても、磁界が発生し、それに伴う磁界変化に従って、磁気抵抗値が変化し、さらに抵抗値が増大または減少させる設定が可能となる。
【0047】
図5に示す本実施形態に係る電力検知センサ10では、図6に示すような電流センサとは異なり、さらに電力量をそのまま測定することが可能となる。
【0048】
なお、図5では、単独素子(磁気抵抗素子11)の電力検知センサの例を示したが、さらに精度を向上させるため、図7に示すように、磁気抵抗素子11として、該磁気抵抗素子を並列および/または直列に接続(ブリッジ接続)した磁気抵抗素子群(11a〜11d)を用いた電力検知センサ20とすることも好ましい。これにより、例えば、電流の増減によって、抵抗が増減する方向を適宜設定することが可能となる。図7に示す例では、電気配線wb1,wb2により磁気抵抗素子11a,cと11b,dが並列に接続され、また、磁気抵抗素子11a,cと11b,dとはそれぞれ直列で接続されている。
【0049】
電力検知センサ10による電流、電圧検知制御について、図8のフローチャートを用いて説明する。図8の例では、電源より測定対象負荷Aに与えた電流(電流I)を検知する場合について説明する。
【0050】
先ず、被測定電流を負荷Aに印加する(S101)とともに、負荷Aの電圧がTMR素子(磁気抵抗素子11)へのセンス電流として与えられる(S102)。また、TMR素子の電流電圧特性によって、直線領域やそれ以外の領域において、センス電流によりその変化を、抵抗成分による電圧として発生する(S103)。
【0051】
さらに、電気配線waに発生する磁界によって、磁気抵抗曲線に準じて、TMR素子抵抗が変化し、素子抵抗は、増減分として出力変化がある(S104)。これらを検知手段12で検知し、出力信号処理部13へ出力する。最後に、出力信号処理部13は、それぞれの出力データを組み合わせて電力出力とする(S105〜S106)。なお、出力は、予め電流データとして得ているマップ(電流換算マップ)との照合でもいいし、換算係数として得ておき、電流検知として行うことも可能である。
【0052】
また、検知制御部を設け、検知のフローチャートとして操作する構成も好ましい。これにより、より細かい精度設定や、設定の測定対象に応じた変更といった自由度の高い測定が可能となる。また、磁界に対して、素子抵抗を増加させる設定も可能となり、所望の磁界強度すなわち被測定電流、および負荷の電圧の測定精度のレンジ、電力のレンジが設定できる。
【0053】
以上説明した本実施形態に係る電力検知センサ10によれば、電流値および電圧を高精度に検知し、電力として出力することができる、また、その元となる磁界を高精度に検知することが可能となる。また、ワイドレンジ測定が可能となる。さらに、これらを単独の磁気抵抗素子またはブリッジ構成にて素子数を少なく実現することができる。よって、センサの小型化を図ることができる。また、電気配線に切り替えスイッチ等を設けることもないため、構造が簡便であり、切り替えのタイミング等を考慮した制御プログラム等を別途必要とすることなく、上記効果を実現することができる。
【0054】
電力検知センサ10の動作例について説明する。例えば、1000000Ω程度とした素子の場合には、1μAを流した場合において、1Vの電圧が得られることとなり、TMR素子においては、電圧限界のマージン等から適当な値となる。この場合、TMR素子に接続される電気配線の抵抗値を数Ωとしても、1A程度までの測定において、高感度に測定可能となる。
【0055】
また、電気配線を0.1Ωとすると10A程度までの測定において、高感度に測定することが可能となる(電気配線をより離した位置での計測)。また、100A程度の測定においても0.010Ω程度に電気配線の抵抗を設定することで測定可能となる。さらに、同等、もしくはこれ以上の電流測定においては、一旦電流を分流させてから測定を行うことも好ましい。100A以下の10A、1A測定時においても分流させる構成としても良い(後述の第4の実施形態)。
【0056】
なお、電力検知センサ10では、いずれの場合においても電圧としては分圧されているので、通常の純抵抗の測定より非常に安全な測定とすることができる。なお、必要に応じて保護回路等を付加することも好ましい。
【0057】
(第2の実施形態)
以下、電力検知センサのその他の実施形態について説明する。なお、上記実施形態と同様の点についての説明は省略する。
【0058】
本実施形態の電力検知センサの基本構成は、第1の実施形態と同じであるが、図9は磁気抵抗素子11を半導体LSI工程の中に取り込み作製した断面模式図であって、磁気抵抗素子11は、基板1上に所定の薄膜(シード層2、磁化固定層3、ピンド層8、トンネル障壁層4、フリー層5、キャップ層6)が積層されてなり、電気配線wrが薄膜の積層方向(図中上下方向)に沿ってループ状に配置されるものである。
【0059】
この構成によれば、電流による発生磁界のベクトル方向は基板面(=膜面)に平行となり、磁気抵抗素子11の反磁界の影響の考慮した設計や発生する強度の精度が上がり、より正確な測定を可能となる。また、磁気抵抗素子11及び電気配線wrの作製を半導体LSI工程の中に取り込むことが可能であり、LSI等の多層配線中では磁気抵抗素子11平面に対して垂直に配置した構成がとれることから、より近接した立体ループ構造が、比較的低面積で実現可能であり、電力検知センサの小型化と高感度化が実現可能である。
【0060】
(第3の実施形態)
本実施形態の電力検知センサの基本構成は、第1の実施形態と同じであるが、図10は磁気抵抗素子11を半導体LSI工程の中に取り込み作製した事例の上面模式図であって、電気配線wr1、wr2は、磁気抵抗素子11を挟むように配置した2つのループからなるヘルムホルツコイル構造を有しているものである。
【0061】
この構成によれば、第2の実施形態と同様に、電流による発生磁界のベクトル方向は基板面(=膜面)に平行となり、磁気抵抗素子11の反磁界の影響の考慮した設計や発生する磁界強度の精度の均一性が上がり、特に、磁気抵抗素子11を挟むように配置した2つのループからなるヘルムホルツコイル構造の電気配線wr1、wr2とすることから、位置決めを柔軟にすることができ、かつ、より正確な電流検知が可能となる。
【0062】
(第4の実施形態)
図11は、電力検知センサの第4の実施形態における構成を示す概略図である。第4の実施形態の電力検知センサ30は、上記第2の実施形態で説明した構成に加えて、分流させた電気配線wcを備え、磁気抵抗素子11へ磁界の影響を与えないように、一旦電流を分流させたものである。
【0063】
上記実施形態において、100A程度の測定において0.01Ω程度に配線部の抵抗を設定することで可能であることを説明したが、同等、もしくはそれ以上の電流測定において、一旦電流を分流させてから測定を行うことも好ましい。また、100A以下の10A、1A測定時においても分流させる構成も可能である。
【0064】
分流については、配線抵抗同士の抵抗による按分による分流でもよいが、抵抗への入力用の切り替え部として、スイッチや半導体素子によるアナログスイッチ、他の実施形態で示した例とは逆に、磁界による変化分を素子抵抗の電圧降下とのバランスとして信号処理回路部にて、処理する方式としても良い。
【0065】
本実施形態の電力検知センサ30によれば、さらに大きな電流に関しても測定可能な構成を簡易に実現でき、さらに安全性を向上させることができる。また、大きなダイナミックレンジを持ちながら、微少電流測定時にも、十分大きな検知出力として測定することも可能となる。また、予め所定量以上の電流が素子部に流入しないようにソフトウェア的に設定することも可能であるが、ダイオード等を用いて電流を制限する構成として、所定量以上の場合には流れないようにしても良い。
【0066】
具体的構成としては、配線部材のシート抵抗値を配線面積、厚み等を考慮することが好ましい。例えば、一旦、素子面積比にて電流を分流させ、この時、工程の複雑化をさけるため、あまり精度よく設定できない場合でも、トリミング等の部分を作ることで設計値にあわせ込む等を行うことができる。これにより、プロセスの複雑化を防いで、コスト低減を図ることができる。
【0067】
なお、素子抵抗については、トンネル障壁層4の厚みと素子の面積によって制御可能であって、素子面積については、面積が小さいほど、抵抗値が大きくなることから、本発明に係る電力検知センサでは、微少電流側で精度よい測定が可能となる。例えば、MgO型において、1μm2においても、1MΩはトンネル障壁層厚みを3μmとすることで実現でき、サブμm以下を実現するLSIによる設計値との適合する寸法を実現することができる。
【0068】
尚、上述の実施形態は本発明の好適な実施の例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、電流センサ、磁界センサ、電流モニター(上下限値チェック等)、これらを搭載したシステム、LSIなどへの適用が可能である。また、地磁気センサ等への適用も可能であり、MRAM等の各素子への適用も可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 基板
2 シード層
3 磁化固定層(AFM層)
4 トンネル障壁層
5 フリー層
6 キャップ層
7 非磁性金属層
8 ピンド層
10,20,30 電力検知センサ
11 磁気抵抗素子
12 検知手段
13 出力信号処理部
A 測定対象(負荷)
wa 電気配線(ループ状磁界発生用配線部)
wb 電気配線(磁気抵抗素子側)
wc 電気配線(分流させた配線部)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0070】
【特許文献1】特開2010−145241号公報
【特許文献2】特開2002− 82136号公報
【特許文献3】特開2009−222650号公報
【特許文献4】特開昭62−110165号公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気抵抗素子を備えた電力検知センサであって、
測定対象となる負荷に印加される電圧を、前記磁気抵抗素子の抵抗成分に基づいて検知し、
前記負荷に流れる電流を、前記磁気抵抗素子の近傍に配置される電気配線より発生する磁界に基づく前記磁気抵抗素子の出力変化、および前記磁気抵抗素子の磁気抵抗変化に基づいて検知し、電力検知を行うことを特徴とする電力検知センサ。
【請求項2】
前記磁気抵抗素子は、巨大磁気抵抗素子またはトンネル磁気抵抗素子であることを特徴とする請求項1に記載の電力検知センサ。
【請求項3】
前記磁気抵抗素子として、該磁気抵抗素子を並列または直列に接続した磁気抵抗素子群を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の電力検知センサ。
【請求項4】
前記磁気抵抗素子は、電気配線で形成される平面ループ内に配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の電力検知センサ。
【請求項5】
前記磁気抵抗素子は、基板上に所定の薄膜が積層されてなり、電気配線が前記薄膜の積層方向に沿ってループ状に配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の電力検知センサ。
【請求項6】
前記磁気抵抗素子を挟むように配置した2つのループからなるヘルムホルツコイル構造を有した電気配線を有することを特徴とする請求項1または2に記載の電力検知センサ。
【請求項7】
電源から前記負荷への電流の一部について、
前記磁気抵抗素子の近傍に配置される電気配線と分流させることを特徴とする請求項1または2に記載の電力検知センサ。
【請求項1】
磁気抵抗素子を備えた電力検知センサであって、
測定対象となる負荷に印加される電圧を、前記磁気抵抗素子の抵抗成分に基づいて検知し、
前記負荷に流れる電流を、前記磁気抵抗素子の近傍に配置される電気配線より発生する磁界に基づく前記磁気抵抗素子の出力変化、および前記磁気抵抗素子の磁気抵抗変化に基づいて検知し、電力検知を行うことを特徴とする電力検知センサ。
【請求項2】
前記磁気抵抗素子は、巨大磁気抵抗素子またはトンネル磁気抵抗素子であることを特徴とする請求項1に記載の電力検知センサ。
【請求項3】
前記磁気抵抗素子として、該磁気抵抗素子を並列または直列に接続した磁気抵抗素子群を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の電力検知センサ。
【請求項4】
前記磁気抵抗素子は、電気配線で形成される平面ループ内に配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の電力検知センサ。
【請求項5】
前記磁気抵抗素子は、基板上に所定の薄膜が積層されてなり、電気配線が前記薄膜の積層方向に沿ってループ状に配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の電力検知センサ。
【請求項6】
前記磁気抵抗素子を挟むように配置した2つのループからなるヘルムホルツコイル構造を有した電気配線を有することを特徴とする請求項1または2に記載の電力検知センサ。
【請求項7】
電源から前記負荷への電流の一部について、
前記磁気抵抗素子の近傍に配置される電気配線と分流させることを特徴とする請求項1または2に記載の電力検知センサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−113758(P2013−113758A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261276(P2011−261276)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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