説明

電動アクチュエータ

【課題】ピストンロッドをネジ軸を介して電動モータで駆動する電動アクチュエータにおいて、ピストンロッドの伸張位置におけるネジ軸に作用する外力および衝撃を小さくすることができる構造を備えた電動アクチュエータを提供すること。
【解決手段】シリンダ本体2と、シリンダ本体2の中に配置され電動モータ23で回転駆動されるネジ軸3と、ネジ軸3に螺合されたナット5と、ネジ軸3の回転によりナット5を介して直線運動するピストンロッド4と、ナット5の外周面に形成された凹部6と、凹部6に配置されたキー7と、ピストンロッド4のピストン部4aの外周に形成されキー7が嵌まり込む孔8と、シリンダ本体2の内壁面に形成されキー7が嵌まり込むテーパ部9と、を備える電動アクチュエータ1である。ピストンロッド4を前進させることにより、キー7が外側に移動してテーパ部9に嵌まり込み、ピストンロッド4の後退方向への動きが当該キー7により阻止された状態となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動アクチュエータに関し、特に、航空機用脚を昇降させるのに好適な電動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機用脚を昇降させるためのアクチュエータに関する技術としては、例えば特許文献1に記載されたものがある。特許文献1に記載された航空機用脚昇降装置は、緊急脚下げを含む脚昇降機構をユニット化してレイアウト容易性を図ることを目的とするものであって、油圧源としてのポンプと、そのポンプを駆動するモータと、ポンプの吐出圧を受けて伸縮するロッドと、ロッドの伸縮動作を規制するメカニカルロック機構とを、共通のボディ内に実装したことを特徴とする昇降装置である。
【0003】
ここで、航空機技術の分野では、油圧系統をなくして航空機の軽量化を図るために、EMA(Electro Mechanical Actuator)、EHA(ElectroHydrostatic Actuator)の研究開発が世界的な流れになっているが、航空機用脚の昇降装置の昇降系統に関しては依然として油圧アクチエータが主流である。
【0004】
航空機用脚を昇降させるために開発されたEMAとしては、例えば図6に示したようなものがある。図6に示した電動アクチュエータ101は、シリンダ本体84と、シリンダ本体84の中に配置され電動モータ23で回転駆動されるネジ軸3と、ネジ軸3に螺合されたピストンロッド83とを備えている。また、シリンダ本体84の中には機械式ブレーキ81が配置され、シリンダ本体84の端部側面にはリミットスイッチ82が取り付けられている。
【0005】
電動モータ23を動作させると、ネジ軸3の回転によりピストンロッド83は前進(脚下げ)方向や後退(脚上げ)方向に直線運動する。ここで、ピストンロッド83を脚下げ方向に移動させると、ピストンロッド83のピストン部83aがリミットスイッチ82をたたき、その信号を受けて電動モータ23が停止するとともに機械式ブレーキ81がかかる。これにより、ピストンロッド83はその脚下げ位置(伸張位置)で停止しロックされる。この電動アクチュエータ101によると、ピストンロッド83の駆動に油圧を用いないため、これにより従来必要であった油圧系統をなくすことができ航空機の軽量化を図ることができる。
【0006】
【特許文献1】特開平11−59592号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図6に示した電動アクチュエータ101では、ピストンロッド83をその脚下げ位置(伸張位置)にして航空機が離着陸するとき、ピストンロッド83を介して作用する外力および衝撃を、ネジ軸3および機械式ブレーキ81で受ける必要があり、すなわち、ネジ軸3および機械式ブレーキ81に大きな負荷がかかる。そのため、これら部品の強度や制動性能を十分なものにしておく必要があり、非常に大きな部品となってしまう。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、ピストンロッドをネジ軸を介して電動モータで駆動する電動アクチュエータにおいて、ピストンロッドの伸張位置におけるネジ軸に作用する外力および衝撃を小さくすることができる構造を備えた電動アクチュエータを提供することである。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ネジ軸に螺合されるナットの外周面に凹部を形成しこの凹部にキーを配置した。また、シリンダ本体の内壁面には前記キーが嵌まり込むテーパ部を形成した。そして、ピストンロッドを前進させることにより、前記キーを外側に移動させて前記テーパ部に嵌まり込むように構成することで、当該キーでピストンロッドをロックするようにした。これにより前記課題を解決できることを見出し、この知見に基づき本発明が完成するに至ったのである。
【0010】
すなわち、本発明は、シリンダ本体と、前記シリンダ本体の中に配置され、電動モータで回転駆動されるネジ軸と、前記ネジ軸に螺合されたナットと、前記ネジ軸の回転により前記ナットを介して直線運動するピストンロッドと、前記ナットの外周面に形成された凹部と、前記凹部に配置されたキーと、前記ピストンロッドのピストン部の外周に形成され、前記キーが嵌まり込む孔と、前記シリンダ本体の内壁面に形成され、前記キーが嵌まり込むテーパ部と、を備え、前記ピストンロッドを前進させることにより、前記キーが外側に移動して前記テーパ部に嵌まり込み、当該ピストンロッドの後退方向への動きが当該キーにより阻止された状態となる電動アクチュエータである。
【0011】
この構成によると、ナットの外周面の凹部に配置されたキーがシリンダ本体の内壁面に形成されたテーパ部に嵌まり込んだ状態で、電動アクチュエータに対してピストンロッドの後退方向に外力が作用すると、当該外力は、キーを介してシリンダ本体に入る。これにより、ネジ軸に螺合されているナットに作用する外力を小さくすることができ、ネジ軸に作用する外力および衝撃を小さくすることができる。また、その結果、従来の電動アクチュエータに比して、アクチュエータを小型・軽量化することができる。
【0012】
また本発明において、前記ナットに形成された凹部は、前記ピストンロッドが前進する側から後退する側に向けて順に、軸方向に平行な第1平行面、外側に向かって傾斜する傾斜面、および軸方向に平行な第2平行面を有することが好ましい。
【0013】
この構成によると、ナットに形成された凹部の傾斜面により、キーの外側への移動を確実なものとすることができる。また、前記第2平行面により、キーは内側へ移動できなくなり、ピストンロッドの後退方向への動きをキーにより確実に阻止することができる。
【0014】
さらに本発明において、前記キーは、前記シリンダ本体の内壁面に形成された前記テーパ部と面接触するテーパ面を有することが好ましい。
【0015】
この構成によると、ピストンロッドを後退させるときに、キーの内側への移動(ロックの解除)がスムーズになる。また、面接触させることで、外力により生じる接触部の応力を小さくすることができる。
【0016】
さらに本発明において、前記キーは、前記ナットの外周に等間隔で複数配置されていることが好ましい。
【0017】
この構成によると、キーに作用する外力および衝撃を、複数のキーに均等分散することができる。
【0018】
また、本発明は、シリンダ本体と、前記シリンダ本体の中に配置され、電動モータで回転駆動されるネジ軸と、前記ネジ軸に螺合されたナットと、前記ネジ軸の回転により前記ナットを介して直線運動するピストンロッドと、前記ピストンロッドのピストン部の内側に配置されたロック用部材と、前記ロック用部材の内側に配置され、当該ロック用部材を前進方向に付勢するバネと、前記ロック用部材の外周面に形成された凹部と、前記凹部に配置されたキーと、前記ピストン部の外周に形成され、前記キーが嵌まり込む孔と、前記シリンダ本体の内壁面に形成され、前記キーが嵌まり込むテーパ部と、を備え、前記ピストンロッドを前進させることにより、前記キーが外側に移動して前記テーパ部に嵌まり込み、当該ピストンロッドの後退方向への動きが当該キーにより阻止された状態となる、電動アクチュエータである。
【0019】
この構成によると、ロック用部材の外周面の凹部に配置されたキーがシリンダ本体の内壁面に形成されたテーパ部に嵌まり込んだ状態で、電動アクチュエータに対してピストンロッドの後退方向に外力が作用すると、当該外力は、キーを介してシリンダ本体に入る。これにより、ネジ軸に螺合されているナットに作用する外力を小さくすることができ、ネジ軸に作用する外力および衝撃を小さくすることができる。また、その結果、従来の電動アクチュエータに比して、アクチュエータを小型・軽量化することができる。さらに、ロック用部材を前進方向に付勢するバネにより、ピストンロッドの後退方向への動きが当該キーにより阻止された状態(ロック状態)を形成し易くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。以下に説明する電動アクチュエータは、小型航空機用脚を昇降させるために用いるものであるが、中型・大型の航空機用脚を昇降させるためのアクチュエータとしても使用可能である。また、本電動アクチュエータは、航空機のドアなどをロックするための(ドア開閉用の)アクチュエータとしても好適に使用できるものである。さらには、航空機以外の機械にも本電動アクチュエータを適用することができる。
【0021】
(電動アクチュエータの構成)
図1および図2は、本発明の一実施形態に係る電動アクチュエータ1を示す概略の断面図である。図1は、そのピストンロッド4が退避位置(後退位置)に位置するときの図であり、図2は、そのピストンロッド4が伸張位置(前進位置)に位置するときの図である。
【0022】
図1および図2に示すように、電動アクチュエータ1は、シリンダ本体2と、シリンダ本体2の中に配置された電動モータ23・ネジ軸3・ナット5・キー7・ピストンロッド4とを備えている。
【0023】
(シリンダ本体)
シリンダ本体2は、航空機の脚が取り付けられる側に形成されたシリンダ室11と、機体側に形成されたモータ室12とを有している。シリンダ本体2は、筒状の形態であり、本体ケーシング2bと蓋ケーシング2aとからなる。本体ケーシング2bの機体側の端部には、機体への取付部21が設けられている。蓋ケーシング2aの端部にはピストンロッド4用の開口が形成されている。また、本体ケーシング2bと蓋ケーシング2aとは、本体ケーシング2bが雄側、蓋ケーシング2aが雌側となり、螺合により結合されている。なお、本体ケーシング2bと蓋ケーシング2aとはフランジで結合されていてもよい。また、航空機の車輪、ホイール、およびそのアームなどを含めて航空機の脚と呼ぶこととする。
【0024】
航空機の脚が取り付けられる側の本体ケーシング2bの端面は、斜めに機械加工されている。この部分が、シリンダ本体2の内壁面に形成され後述するキー7が嵌まり込むテーパ部9である。なお、必ずしも本実施形態のような形態でテーパ部9が形成されている必要はない。例えば、シリンダ本体2の側壁に先細り部を少なくとも一部有する穴(突き抜けたあな(孔)でもよい)を設けて、この先細り部の傾斜面をテーパ部9としてもよい。
【0025】
(電動モータ)
電動モータ23は、後述するネジ軸3を回転駆動するためのものであり、モータ室12に配置されている。電動モータ23にはエンコーダ、レゾルバ又はホールセンサ等の角度検出器(不図示)が内蔵されており、前記検出器からの信号により電動モータ23を任意の位置で停止させることができる。なお、ピストンロッド4の止めたい位置で作動するように図6で示したリミットスイッチ82などをシリンダ本体2に必要数取り付けて、その信号で電動モータ23を停止させてもよい。また、電動モータ23の負荷増を検知して電動モータ23を停止させるようにしてもよい。
【0026】
なお、パーキング用のブレーキとして電磁ブレーキを電動アクチュエータ1に組み込んでもよい。電磁ブレーキを組み込むことで、ピストンロッド4が退避位置(後退位置)に位置するときに、ピストンロッド4がそれ自体の自重や航空機の脚の自重などにより前進側(脚下げ側)に移動することを防止することができる。なお、電磁ブレーキの制動性能(ブレーキ性能)は、ピストンロッド4の前進側(脚下げ側)への自重などによる移動を阻止できる程度のものであればよく、それ以上の多大な性能は必要でない。
【0027】
(ネジ軸)
電動モータ23には、ネジ軸3が取り付けられている。ネジ軸3は、ネジが切られている部分がシリンダ室11内となるように、シリンダ室11およびモータ室12の中に配置されている。また、ネジ軸3には、ナット5が螺合されている。電動モータ23によりネジ軸3を回転駆動することで、ナット5は直線運動する。
【0028】
(ナット)
電動アクチュエータ1のA−A断面を図1に示したように、ナット5は、四角形状の形態を有している。そして、ナット5の外周面のうち断面直線形態の4面には、ナット5の側断面図がA−A断面図の右に示されているように、凹部6が形成されている。そして、凹部6の詳細が、図3(a)などに示されているように、ナット5の凹部6は、ピストンロッド4が前進する側から後退する側に向けて順に、軸方向に平行な第1平行面6a、外側に向かって傾斜する傾斜面6b、および軸方向に平行な第2平行面6cを備えている。なお、第2平行面6cは、軸方向に直交する方向において、第1平行面6aよりも外側に形成されている。
【0029】
このように、凹部6は、ナット5の外周面に形成された、第1平行面6a・傾斜面6b・第2平行面6cを有する溝形態となっている。
【0030】
(キー)
また、ナット5の凹部6にはキー7が配置されている。図1中のA−A断面図に示したように、キー7は四角形状の形態を有している。なお、キー7の一面は、シリンダ本体2の内壁面に合わせて円弧状に形成されている。また、キー7の側断面図がA−A断面図の右に示されているように、キー7の1つの角部は、本体ケーシング2bの端面に形成されたテーパ部9と面接触するように面取りされ、テーパ面7aとされている(図3(a)など参照)。本実施形態において、このキー7は、ナット5の外周に等間隔で4つ配置されている。
【0031】
(ピストンロッド)
シリンダ室11内にはピストンロッド4が配置されている。ピストンロッド4は、端部に航空機の脚が取り付けられる取付部22が形成されたロッド部4bと、シリンダ本体2の内壁面に沿って(摺動して)直線運動するピストン部4aとを有する。
【0032】
ここで、ロッド部4bは、中空の筒状形態であり、内部にネジ軸3が挿入されている。次に、ピストン部4aのピストンロッド4が前進する側の端部には、リング状の突起部4cが形成されている。また、ピストン部4aのピストンロッド4が後退する側の端部には、リング状の係止部4dが形成されている。この係止部4dは、ピストンロッド4を後退(退避)させるときに、ナット5が係止する部分である。
【0033】
さらに、突起部4cと係止部4dとの間のピストン部4aの外周には、キー7が嵌まり込む孔8が形成されている。孔8は、キー7の寸法に基づき、ピストン部4aの周方向に長く形成された孔である。
【0034】
(電動アクチュエータの動作)
次に、電動アクチュエータ1の動作について説明する。ここで、図3は、ピストンロッド前進動作中のキー7の動きを説明するための図である。図4は、ピストンロッド後退動作中のキー7の動きを説明するための図である。
【0035】
(ピストンロッドの前進動作)
まず、ピストンロッド4が退避位置(後退位置)に位置する状態(図1)から、伸張位置(前進位置)に位置する状態(図2)への動作について説明する。航空機の制御部から、脚下げの指令が出されると電動モータ23が駆動される。これによりネジ軸3が回転し、ナット5とともにピストンロッド4は前進していく。このとき、電動モータ23からの力が、ネジ軸3、ナット5、キー7、ピストンロッド4の順で伝わり、ピストンロッド4が前進方向に直進運動する。
【0036】
ここで、図3(b)に示したように、シリンダ本体2の内壁面に形成されているテーパ部9にキー7が到達すると、ナット5に形成された凹部6の傾斜面6b、およびナット5の前進力により、キー7は、傾斜面6bに沿って(キー7の角部7bが傾斜面6bに沿って)外側に移動していく。これにより、キー7はテーパ部9に嵌まり込んでいく。
【0037】
そして、さらにナット5が前進していくと、図3(c)に示したように、キー7の底面は、凹部6の第2平行面6c部に到達する。凹部6の第2平行面6c部にキー7の底面が到達した時点で、エンコーダからの信号で電動モータ23を停止させる。この状態が、伸張位置(前進位置)でピストンロッド4がロックされている状態である。ピストンロッド4の後退方向への動きはキー7により阻止され、ピストンロッド4の後退方向に外力が作用すると、当該外力は、キー7を介してシリンダ本体2に入る。これにより、ネジ軸3に螺合されているナット5に作用する軸方向の外力を小さくすることができる。なお、キー7は、凹部6の第2平行面6c部により軸中心側への移動が阻止されることでテーパ部9との係止を維持し、ピストンロッド4の後退方向に作用する外力や衝撃を受けることになる。ピストンロッド4の前進方向への動きは、ピストン部4aのリング状の突起部4cにより拘束される。
【0038】
ここで、本実施形態のように、ピストン部4aに形成された孔8の内面8a(図3(c)参照)が、キー7と接触する状態を維持するように、キー7の厚み(軸方向寸法)、第2平行面6cの軸方向長さ、第1平行面6aの軸方向長さなどが決定されていることが好ましい。これにより、図3(c)に示したロック状態において、自重などにキー7がはずれることはない。
【0039】
なお、電気系統に故障が発生してしまった場合であっても、シリンダ本体2の内壁面に形成されているテーパ部9にキー7が嵌まり込むことで、ピストンロッド4はロック状態となる。
【0040】
(ピストンロッドの後退動作)
航空機の制御部から、脚上げの指令が出されると、電動モータ23が逆方向に駆動される。このとき、キー7まわりの状態は、図3(c)の状態から図4(a)に示した状態にまず移行する。すなわち、電動モータ23を駆動することにより、まず、ナット5が後退移動を開始する。その後、ナット5に形成された凹部6の第2平行面6c部がキー7の底面をはずれるとともに、ナット5の端面がピストン部4aの係止部4dに当たると、ナット5とともにピストンロッド4は後退していく。このとき、図4(b)に示すように、凹部6の傾斜面6b、およびナット5(またはピストン部4a)の後退力により、キー7は傾斜面6bに沿って軸中心側に移動していく。
【0041】
さらにナット5が後退していくと、図4(c)に示したように、キー7の底面は、凹部6の第1平行面6a部に到達する。これにより、ピストンロッド4の後退方向へのロックが解除された状態となる。そして、ピストンロッド4が退避位置(後退位置)に達した時点で(エンコーダ等やリミットスイッチ82からの信号で判断)、電動モータ23を停止させる。
【0042】
以上、電動アクチュエータ1の動作について説明したように、本発明に係る電動アクチュエータ1によると、ナット5の外周面の凹部6に配置されたキー7がシリンダ本体2の内壁面に形成されたテーパ部9に嵌まり込んだ状態で、電動アクチュエータ1に対してピストンロッド4の後退方向に外力が作用すると、当該外力は、キー7を介してシリンダ本体2に入る。これにより、ネジ軸3に螺合されているナット5に作用する外力を小さくすることができ、ネジ軸3に作用する外力および衝撃を小さくすることができる。また、その結果、従来の電動アクチュエータに比して、アクチュエータを小型・軽量化することができる。
【0043】
また、ピストンロッド4の前進動作時、ナット5に形成された凹部6の傾斜面6bにより、キー7の外側への移動を確実なものとすることができている。なお、シリンダ室11には、潤滑油が入れられ、キー7の動きをスムーズにするとともにキー7を含めその他の部品の損傷を防止している。傾斜面6bの軸方向に対する傾斜角度は、適宜決定される。
【0044】
なお、ナット5の凹部6に傾斜面6bを形成しなくてもよい。すなわち、ピストンロッド4が前進する側から後退する側に向けて順に、軸方向に平行な第1平行面6aおよび第2平行面6cを凹部6に形成した形態であってもよい(他の実施形態においても同様)。この場合、キー7の角部7bを、傾斜面とする。さらには、ナット5の凹部6に傾斜面6bを形成し、且つキー7の角部7bも傾斜面としてもよい(他の実施形態においても同様)。
【0045】
また、シリンダ本体2の内壁面に形成されたテーパ部9と面接触するように、キー7のテーパ面7aを形成することで、ピストンロッド4を後退させるときに、キー7の軸中心側への移動(ロックの解除)がスムーズになる。また、ピストンロッド4に作用する外力により生じる当該接触部(シリンダ本体2のテーパ部9とキー7のテーパ面7aとの接触部)の応力を小さくすることができる。
【0046】
また、ナット5の外周に等間隔でキー7を4つ配置することで、キー7に作用する外力および衝撃を4つのキーに均等分散させることができる。なお、ナット5の外周に配置する(等間隔で配置する)キーの数は、2〜3つでもよいし、5つ以上であってもよい(他の実施形態においても同様)。なお、キー7を1つだけ配置しても、ピストンロッド4をロックさせることはできるので、キー7は1つだけでもよい(他の実施形態においても同様)。
【0047】
(他の実施形態)
図5は、他の実施形態に係る電動アクチュエータ51を示す概略の断面図であり、ピストンロッド4が伸張位置にあるときの図である。なお、以下の説明においては、図1〜4に示した電動アクチュエータ1を構成する部品と同じ部品については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0048】
本実施形態の電動アクチュエータ51と、図1〜4に示した電動アクチュエータ1との主な相違は、電動アクチュエータ1はロック用部材10・バネ17を備えるが、電動アクチュエータ1はこれらの部品を備えない点、およびネジ軸に螺合されるナットの形状・寸法である。
【0049】
(ナット)
図5に示したように、電動アクチュエータ51のネジ軸3に螺合されるナット15は、電動アクチュエータ1のナット5の外周面に形成されているような凹部6を有さない。また、ナット15のネジ加工されている部分の長さD(ネジ軸3と螺合する部分の長さ)は、ナット5の対応するネジ加工されている部分の長さよりも短くされている。このように、ナット15のネジ加工されている部分の長さDを短くすることで、ネジ軸3とナット15との間で生じることがあるネジ軸3の回転不良を防止することができるとともに、電動アクチュエータの軽量化を図ることができる。なお、ナット15は、ピストンロッド4のロッド部4bの後退方向側の端面に形成されたくぼみに嵌まり込むように形成されている。
【0050】
(ロック用部材)
ピストンロッド4のピストン部4aの内側にはロック用部材10が配置されている。ここで、ロック用部材10の正面側から視た断面図(図2のB−B断面図に相当する図)を省略しているが、ロック用部材10は、電動アクチュエータ1のナット5と同様に、その正面視において四角形状の形態を有している。そして、ナット5と同様、ロック用部材10の外周面のうち断面直線形態の4面(図示省略、ナット5と同様であるので図2のB−B断面図および側断面図を参照のこと)には、凹部16が形成されている。そして、凹部16の詳細を、図5の凹部16周り拡大図に示したように、ロック用部材10の凹部16は、ピストンロッド4が前進する側から後退する側に向けて順に、軸方向に平行な第1平行面16a、外側に向かって傾斜する傾斜面16b、および軸方向に平行な第2平行面16cを備えている。なお、第2平行面16cは、軸方向に直交する方向において、第1平行面16aよりも外側に形成されている。このように、凹部16は、ロック用部材10の外周面に形成された、第1平行面16a・傾斜面16b・第2平行面16cを有する溝形態となっている。
【0051】
なお、電動アクチュエータ1のナット5と同様に、ロック用部材10の外周にはキー7が等間隔で4つ配置されている(図示省略)。
【0052】
(バネ)
また、ロック用部材10の内側にはバネ17が配置されている。バネ17は、ロック用部材10をその前進方向に付勢するコイルバネである。ピストン部4aのピストンロッド4が後退する側の端部には、リング状の係止部4dが形成されている。電動アクチュエータ51の係止部4dは、電動アクチュエータ1の係止部4dよりも、軸中心側へ延在する長さが大きい。ロック用部材10と係止部4dとの間にバネ17は収縮された状態で設置される。
【0053】
(ピストンロッドの前進動作)
まず、ピストンロッド4が退避位置(後退位置)に位置する状態から、伸張位置(前進位置)に位置する状態(図5)への動作について説明する。航空機の制御部から、脚下げの指令が出されると電動モータ23が駆動される。これによりネジ軸3が回転し、ナット15がピストン部4aの内径端を押すことでピストンロッド4は前進していく。このとき、電動モータ23からの力が、ネジ軸3、ナット15、ピストンロッド4の順で伝わり、ピストンロッド4が前進方向に直進運動する。
【0054】
ここで、シリンダ本体2の内壁面に形成されているテーパ部9にキー7が到達すると、ロック用部材10に形成された凹部16の傾斜面16b、およびロック用部材10の前進力により、キー7は、傾斜面16bに沿って(キー7の角部7bが傾斜面16bに沿って)外側に移動していく。これにより、キー7はテーパ部9に嵌まり込んでいく。このとき、バネ17は、ロック用部材10が前進する動きをサポートする。すなわち、バネ17は、キー7の外側への動きをサポートする。
【0055】
そして、さらにナット15が前進していくと、キー7の底面は、凹部16の第2平行面16c部に到達する。凹部16の第2平行面16c部にキー7の底面が到達した時点で、エンコーダからの信号で電動モータ23を停止させる。この状態が、伸張位置(前進位置)でピストンロッド4がロックされている状態である。ピストンロッド4の後退方向への動きはキー7により阻止され、ピストンロッド4の後退方向に外力が作用すると、当該外力は、キー7を介してシリンダ本体2に入る。これにより、ネジ軸3に螺合されているナット5に作用する軸方向の外力を小さくすることができる。なお、キー7は、凹部16の第2平行面16c部により軸中心側への移動が阻止されることでテーパ部9との係止を維持し、ピストンロッド4の後退方向に作用する外力や衝撃を受けることになる。ピストンロッド4の前進方向への動きは、ピストン部4aのリング状の突起部4cにより拘束される。
【0056】
このように、本実施形態の電動アクチュエータ51によると、ピストンロッド4の後退方向への動きが当該キーにより阻止された状態(ロック状態)をバネ17による付勢力で形成し易くなる。
【0057】
(ピストンロッドの後退動作)
航空機の制御部から、脚上げの指令が出されると、電動モータ23が逆方向に駆動される。このとき、まず、ナット15が後退移動を開始する。ナット15の後退移動によりロック用部材10も後退していき、ロック用部材10に形成された凹部16の第2平行面16c部がキー7の底面をはずれ、キー7の底面は、やがて凹部6の第1平行面16a部に到達する。これにより、ピストンロッド4の後退方向へのロックが解除された状態となる。また、ナット15の後退移動によりバネ17は収縮する。バネ17が収縮していくとロック用部材10の端面がピストン部4aの係止部4dに当たり、その後、ピストンロッド4は後退していく。なお、バネ17のバネ力によっては、ロック用部材10の端面がピストン部4aの係止部4dに当たる前に、ピストンロッド4は後退を開始する。ピストンロッド4が退避位置(後退位置)に達した時点で(エンコーダ等やリミットスイッチ82からの信号で判断)、電動モータ23を停止させる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することが可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態に係る電動アクチュエータを示す概略の断面図である。
【図2】図1に示す電動アクチュエータにおいてそのピストンロッドが伸張位置にあるときの概略の断面図である。
【図3】ピストンロッド前進動作中のキーの動きを説明するための図である。
【図4】ピストンロッド後退動作中のキーの動きを説明するための図である。
【図5】他の実施形態に係る電動アクチュエータを示す概略の断面図である。
【図6】従来技術に係る電動アクチュエータを示す概略の断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1:電動アクチュエータ
2:シリンダ本体
3:ネジ軸
4:ピストンロッド
5:ナット
6:凹部
6a:第1平面
6b:斜面
6c:第2平面
7:キー
8:孔
9:テーパ部
23:電動モータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ本体と、
前記シリンダ本体の中に配置され、電動モータで回転駆動されるネジ軸と、
前記ネジ軸に螺合されたナットと、
前記ネジ軸の回転により前記ナットを介して直線運動するピストンロッドと、
前記ナットの外周面に形成された凹部と、
前記凹部に配置されたキーと、
前記ピストンロッドのピストン部の外周に形成され、前記キーが嵌まり込む孔と、
前記シリンダ本体の内壁面に形成され、前記キーが嵌まり込むテーパ部と、
を備え、
前記ピストンロッドを前進させることにより、前記キーが外側に移動して前記テーパ部に嵌まり込み、当該ピストンロッドの後退方向への動きが当該キーにより阻止された状態となる、電動アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載の電動アクチュエータにおいて、
前記ナットに形成された凹部は、前記ピストンロッドが前進する側から後退する側に向けて順に、軸方向に平行な第1平行面、外側に向かって傾斜する傾斜面、および軸方向に平行な第2平行面を有することを特徴とする、電動アクチュエータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電動アクチュエータにおいて、
前記キーは、前記シリンダ本体の内壁面に形成された前記テーパ部と面接触するテーパ面を有することを特徴とする、電動アクチュエータ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の電動アクチュエータにおいて、
前記キーは、前記ナットの外周に等間隔で複数配置されていることを特徴とする、電動アクチュエータ。
【請求項5】
シリンダ本体と、
前記シリンダ本体の中に配置され、電動モータで回転駆動されるネジ軸と、
前記ネジ軸に螺合されたナットと、
前記ネジ軸の回転により前記ナットを介して直線運動するピストンロッドと、
前記ピストンロッドのピストン部の内側に配置されたロック用部材と、
前記ロック用部材の内側に配置され、当該ロック用部材を前進方向に付勢するバネと、
前記ロック用部材の外周面に形成された凹部と、
前記凹部に配置されたキーと、
前記ピストン部の外周に形成され、前記キーが嵌まり込む孔と、
前記シリンダ本体の内壁面に形成され、前記キーが嵌まり込むテーパ部と、
を備え、
前記ピストンロッドを前進させることにより、前記キーが外側に移動して前記テーパ部に嵌まり込み、当該ピストンロッドの後退方向への動きが当該キーにより阻止された状態となる、電動アクチュエータ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−172075(P2010−172075A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10552(P2009−10552)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】