説明

電動オイルポンプの制御装置

【課題】走行用駆動源で駆動される機械式オイルポンプを補助する電動オイルポンプの異常を適確に診断しつつ適切なフェールセーフ処置が施されるようにする。
【解決手段】電動オイルポンプ駆動用モータの回転が安定した状態で、モータ電流が下限閾値未満で所定時間を経過したときは、ポンプ機能故障(低電流)と判定し、電動オイルポンプの駆動を継続しつつ機械式オイルポンプの吐出量を増大し、モータ電流が上限閾値を超えて所定時間を経過したときは、電動オイルポンプの駆動を停止し、機械式オイルポンプの吐出量を増大してポンプ機能故障(高電流)と判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両において、変速機作動油圧の維持、冷却用の油量確保、潤滑用の油量の確保等、車両走行駆動源によって駆動される機械式オイルポンプを補助して使用される電動オイルポンプの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電動オイルポンプの制御装置として、特許文献1には、アイドルストップ機能付き車両において、エンジン停止前のアイドルストップ制御中に、エンジンに接続された変速機構に電動オイルポンプから作動油圧を供給し、再始動時の変速機構におけるクラッチ機構締結時のショックを緩和する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−293649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の電動オイルポンプの診断を駆動用モータの電流値によって行う場合、閾値の設定次第で、ポンプ機能は満たされているのに異常と判定して駆動を停止し、または、なかなか異常と判定されない場合がある。
本発明は、このような従来の課題を解決するためなされたもので、異常状態を適確に診断しつつ適切なフェールセーフ処置が施されるようにした電動オイルポンプの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため、本発明は、
車両走行駆動源によって駆動される機械式オイルポンプを補助する電動オイルポンプの制御装置であって、
前記電動オイルポンプの駆動電流を検出する駆動電流検出手段と、
前記電動オイルポンプの制御量に基づいて、前記駆動電流の上・下限閾値を設定する閾値設定手段と、
前記駆動電流の検出値が、前記駆動電流の下限閾値より低い場合に、前記電動オイルポンプの駆動を継続しつつ、前記機械式オイルポンプのオイル吐出量を増大させる第1フェールセーフ手段と、
前記駆動電流の検出値が、前記駆動電流の上限閾値より高い場合に、前記電動オイルポンプの駆動を停止すると共に、前記機械式オイルポンプのオイル吐出量を増大させる第2フェールセーフ手段と、
を含んで構成される。
【発明の効果】
【0006】
モータ電流が下限閾値より低い場合には、オイル流量が要求量より不足している可能性があるので、電動オイルポンプの駆動を継続しつつ、機械式オイルポンプのオイル吐出量を増大させることにより、オイル流量を確保する。一方、モータ電流が上限閾値より高い場合には、電動オイルポンプの駆動を制限(停止を含む)して発熱量増大によるポンプ駆動系部品の耐久性低下を抑制しつつ、機械式オイルポンプのオイル吐出量を増大させてオイル流量を確保する。
【0007】
このように、ポンプ機能故障判定用の閾値と比較して判定することにより、異常状態を適確に診断しつつ可能な限り電動オイルポンプを駆動して、機械式オイルポンプの補助機能(変速機作動油圧の維持、冷却用の油量確保、潤滑用の油量確保、の少なくとも1つ)を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態に係る電動オイルポンプの制御装置を備えた車両の駆動力伝達系を示す図。
【図2】上記電動オイルポンプの制御装置の制御ブロック図。
【図3】上記電動オイルポンプの診断およびフェールセーフ制御のメインフローを示すフローチャート。
【図4】上記電動オイルポンプの診断で、ポンプ機能故障(低電流)と判定後のフェールセーフ処理を示すフローチャート。
【図5】電動オイルポンプのポンプ機能故障(低電流)と判定時のオン、オフの切換を示すタイムチャート。
【図6】上記電動オイルポンプの診断で、ポンプ機能故障(高電流)と判定後のフェールセーフ処理を示すフローチャート。
【図7】油温とモータの要求実回転数を維持できる要求モータ電流との関係を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
図1において、車両の走行用駆動源であるエンジン(内燃機関)1には、トルクコンバータ2及び発進用クラッチ機構である前後進切換機構3を介して無段変速機4が接続されている。
前後進切換機構3は、遊星歯車機構、後退ブレーキ、前進クラッチと、を含んで構成され、車両の前進と後退とを切換える。これら後退ブレーキ及び前進クラッチの切換えは、無段変速機4と共通の作動油(オイル)を用いた油圧による締結の切換えによって行われる。
【0010】
無段変速機4は、プライマリプーリ41及びセカンダリプーリ42と、これらプーリ間に掛けられたVベルト43と、を含んで構成され、プライマリプーリ41の回転は、Vベルト43を介してセカンダリプーリ42へ伝達され、セカンダリプーリ42の回転は、駆動車輪へ伝達されて車両が走行駆動される。
上記駆動力伝達中、プライマリプーリ41の可動円錐板及びセカンダリプーリ42の可動円錐板を軸方向に移動させてVベルト43との接触位置半径を変えることにより、プライマリプーリ41とセカンダリプーリ42との間の回転比つまり変速比を変えることができる。
【0011】
かかる前後進切換機構3及び無段変速機4を備えた変速機構20の制御は、以下のように行われる。
車両の各種信号に基づいてCVTコントロールユニット5が変速制御信号を演算し、該変速制御信号を入力した調圧機構6が、エンジン駆動される機械式オイルポンプ7からの吐出圧を変速機構20の各部毎に調圧して、それぞれ供給することにより行われる。
【0012】
また、調圧機構6を介して、冷却・潤滑系にも、オイルが供給される。
ハイブリッド車両では、機械式オイルポンプ7は、エンジンまたは走行用モータで駆動される。
一方、機械式オイルポンプ7をバイパスする通路に、機械式オイルポンプ7を補助する電動オイルポンプ8が配設される。電動オイルポンプ8は、上述した車両のアイドルストップ後の再始動時における締結ショックの緩和、冷却油量確保、変速機作動油圧の維持等のため、CVTコントロールユニット5からの制御信号によって駆動される。
【0013】
なお、変速機構20に対する機械式オイルポンプ7及び電動オイルポンプ8によるオイルの供給は、プーリ・クラッチ・ブレーキなどの変速機作動油圧としての供給、冷却用としての供給、潤滑用としての供給のうちの少なくとも1つであればよく、また、作動油圧,冷却,潤滑のうちの複数を兼ねるオイルの供給とすることができる。
また、冷却系については、調圧機構6を介さず被冷却部に供給し、オイル量を流量制御する構成としてもよい。
【0014】
さらに、変速用の作動油圧、冷却用、潤滑用のオイルの供給のいずれも流量制御で行う構成であってもよく、この場合、変速機構の調圧機構を省略することができる。
なお、電動オイルポンプ8出口の油通路には、通常時のオイルの逆流を防止する逆止弁9が介装される。また、図示点線で示すように、電動オイルポンプ8からの吐出圧を所定圧以下に制限するため、該所定圧以下で開弁するリリーフ弁10を設けてもよい。
【0015】
図2は、電動オイルポンプ8の制御ブロック図を示す。
目標値演算部51は、車両の各種センサからの検出信号(車速、ブレーキ、アクセル、シフト位置、エンジン回転速度、バッテリ電圧、その他)を入力し、これら信号に基づいて検出された車両運転状態に応じて、電動オイルポンプ8を駆動するモータ81の回転数(またはモータ電流)の目標値を演算する。なお、モータは、ブラシレスモータ、ブラシ付きモータのいずれでもよい。
【0016】
フィードバック制御器52は、前記目標値演算部51からの目標値(目標モータ回転数又は目標モータ電流)を入力すると共に、制御量であるモータ81の実回転数(又は実モータ電流)、及びモータ81の駆動回路82の実電源電流Ibを入力する。電源電流Ibは、電流センサ53によって検出される。モータ81の実回転数は、センサによって直接計測する他、駆動回路82からモータの相電圧を入力して検出することも可能である。
【0017】
そして、モータ81の実回転数(実モータ電流)を、目標回転数(目標モータ電流)に近づけるようにPID制御等を用いて演算したフィードバック操作量を出力して制御する。操作量としては、例えば、PWM(パルス幅変調)制御の場合、パルス幅(デューティ比)である。なお、モータ電流によってフィードバック制御する場合、モータ電流は、センサで検出してもよいが、電源電流とデューティ比とによって算出することもできる。
【0018】
かかる基本的な制御に加え、電動オイルポンプ8の異常を診断しつつ、診断結果に応じたフェールセーフ制御が実行される。
本フェールセーフ制御のため、油温(オイル温度)を検出する油温センサ83、登降坂走行時における車両の傾きを検出するGセンサ84が配設される。
図3は、上記電動オイルポンプ8の診断およびフェールセーフ制御のメインフローを示す。
【0019】
ステップS1では、モータ81の実回転が安定しているかを判定する。例えば、実回転数が目標回転数に収束しているか(偏差が所定範囲内にあるか)によって判定する。
モータ81の実回転が安定していない状態では、診断精度を確保しにくいので、診断を行わず、実回転が安定していると判定されたときに、ステップS2以降へ進んで診断を実行する。
【0020】
ステップS2では、モータ81の目標回転数(目標モータ電流)に基づいて、所定電流値範囲を演算して設定する。該所定電流値範囲は、電動オイルポンプ8が正常である場合に、目標電流値に対して各種バラツキを考慮してとり得る範囲に設定される。また、該所定電流範囲を、油温に応じて補正して設定してもよく、油温変化の影響を回避して精度よく設定できる。
【0021】
ステップS3では、モータ81の実相電流(以下モータ電流という)ImRが、前記所定電流値範囲の最小値ImMIN未満であるかを判定する。この最小値ImMINは、ポンプ機能故障判定閾値の下限閾値ImLに相当する。
モータ電流ImRが下限閾値ImL(最小値ImMIN)未満と判定されたときは、ステップS4へ進み、過渡的な電流低下による故障判定を回避するため、この低電流状態となってから所定時間以上経過したかを判定する。
【0022】
所定時間を経過したと判定されたときは、ステップS5へ進み、ポンプ機能故障(低電流)判定を下すが、後述する理由により、電動オイルポンプ8の駆動は継続する。目標回転数へのフィードバック制御中に電流値が下限閾値ImL未満の低電流状態(ポンプ側が低負荷状態)となるのは、ポンプの空回り、モータとポンプ本体を連結する駆動軸の損傷、油量の異常でオイルを吸入できない場合などが考えられる。いずれも、ポンプ機能を満足できない(オイル供給量不足となる)ので、ポンプ機能故障(低電流)判定を下すのである。
【0023】
ステップS6では、エンジン1の燃料噴射量増大補正等によってエンジン回転数を増大させることにより、機械式オイルポンプ7の回転数を増大させてオイル吐出量を増大する。これにより、低電流で駆動される電動オイルポンプ8からのオイル吐出量の不足分を補償することができる。したがって、変速機作動油圧としてオイルを供給する場合には、該変速機作動油圧を維持することができる。また、冷却用あるいは潤滑用としてオイルを供給する場合には、油量を確保して変速機構部品の故障を抑制することができる。なお、変速機作動油圧、冷却用、潤滑用の複数の用途に用いる場合は、それぞれの上記効果を合わせ有することは、勿論である。
【0024】
ここで、エンジン回転数の増大に対して、無段変速機4の変速比を調整する構成とすれば、車速の増大を抑制することができる。
このように、低電流状態判定時に電動オイルポンプ8の駆動を継続しつつ機械式オイルポンプ7からのオイル吐出量を増大する処理が、第1フェールセーフ手段に相当する。
ステップS7では、ポンプ機能故障(低電流)判定後のフェールセーフ処理を行う。この処理については後述する。
【0025】
一方、ステップS3でモータ電流ImRが、前記下限閾値ImL以上であると判定されたときは、ステップS8へ進み、モータ電流ImRが部品耐熱限界電流より高いかを判定する。この部品耐熱限界電流は、ポンプ機能故障判定閾値の上限閾値ImH(所定電流範囲の最大値ImMAXより大)に相当し、これを超える電流値状態が持続すると、モータ駆動系の発熱量が増大して部品に影響を与える温度に設定してある。したがって、この判定をモータ電流ImRによって直接判定する代わりに、駆動系(モータ,駆動回路)の温度が限界温度を超えているかによって判定してもよい。
【0026】
モータ電流ImRが上限閾値(部品耐熱限界電流)ImHより高いと判定されたときは、ステップS9へ進み、この高電流状態が過渡的である場合を除くため、所定時間以上持続したかを判定する。
高電流状態が所定時間以上持続したと判定されたときは、ステップS10へ進んで、電動オイルポンプ8の駆動を停止する。あるいは、電動オイルポンプ8を、電流を制限しつつ駆動を継続させてもよい。例えば、所定の小電流で駆動してもよいが、部品耐熱を考慮して十分許容できる電流値,温度範囲に維持しつつ駆動させてもよい。例えば、上限閾値ImH近傍で駆動させることも可能である。
【0027】
さらにステップS11で、エンジン回転数を増大させて機械式オイルポンプ7のオイル吐出量を増加することにより、該電動オイルポンプ8の駆動停止または制限によって生じるオイル供給量の不足分を補償する。この場合も、エンジン回転数の増大に対して、無段変速機4の変速比を調整する構成とすれば、車速の増大を抑制することができる。
このように、高電流状態判定時に電動オイルポンプ8の駆動を停止しつつ、機械式オイルポンプ7のオイル吐出量を増大する処理が、第2フェールセーフ手段に相当する。
【0028】
ステップS12では、ポンプ機能故障(高電流)との診断結果をメモリに記憶して、ユーザーやディーラーに警報し、修理を促すと共に、該電動オイルポンプ8の駆動を停止した時点で、油温センサ83により検出された油温を、メモリに記憶する。
ステップS13では、ポンプ機能故障(高電流)判定後のフェールセーフ処理を行う。この処理については後述する。
【0029】
図4は、図3のステップS7でポンプ機能故障(低電流)を判定した後のフェールセーフ処理を示すサブフローである。
ステップS21では、ポンプ機能故障(低電流)が所定時間持続したかを判定する。例えば、車両旋回走行時にオイルパン内の油面が傾斜し、電動オイルポンプ8のオイル吸い込み不良を生じて空回りすることにより、低電流状態となる場合がある。そこで、前記所定時間は、旋回走行が最大限行われる時間に設定してある。
【0030】
このように旋回走行等によって一時的な低電流状態を生じる場合は、電動オイルポンプ8が異常ではなく、短時間でポンプ機能が正常状態に復帰できる。したがって、少しでもオイルを供給し、あるいは、正常復帰時に速やかに機械式オイルポンプ7を補助することができるように、電動オイルポンプ8の駆動は継続する。なお、旋回走行の判定を横方向の重力加速度を検出するセンサを設け、この検出値に基づいて行うようにしてもよい。
【0031】
ポンプ機能故障(低電流)が所定時間以上持続したと判定されたときは、ステップS22へ進み、車両が登降坂走行により所定以上傾いているかを、Gセンサ84の傾斜角検出値に基づいて判定する。
車両が所定以上傾いていると判定されたときは、旋回走行時と同様、オイルパン内の油面が傾斜し、電動オイルポンプ8のオイル吸い込み不良を生じて空転することにより、低電流状態となっていると考えられる。この場合も電動オイルポンプ8が異常ではなく、平地走行に移行してポンプ機能が正常に戻される場合に備えて、ステップS23にて電動オイルポンプ8の駆動を継続する。
【0032】
一方、車両が所定以上傾いていないと判定されたときは、上述した電動オイルポンプ8に駆動軸の損傷などポンプ機能を満たせない定常的な異常であると判断し、ステップS24にて電動オイルポンプ8の駆動を停止する。なお、車両が所定以上傾いていないと判定された後、所定時間の経過をまって電動オイルポンプ8の駆動を停止する構成として、過渡的な異常による駆動停止を回避するようにしてもよい。
【0033】
また、電動オイルポンプ8を、電流を制限しつつ駆動を継続させてもよい。例えば、所定の小電流で駆動してもよいが、許容できる電流値,温度範囲に維持しつつ駆動させてもよい。
このポンプ機能故障(低電流)の定常的異常の判定結果は、メモリに記憶する。これにより、ユーザーやディーラーに修理を促すことができる。
【0034】
このように、旋回走行や登降坂走行時など、電動オイルポンプ8により少しでもオイルを供給でき、あるいは、短時間で正常に復帰する可能性がある場合は、電動オイルポンプ8の駆動を継続して可能な限りオイルを供給しつつ、不足分を機械式オイルポンプ7の回転数増大補正によって補うことができる。
また、電動オイルポンプ8の駆動系に異常がある場合には、電動オイルポンプ8の駆動を停止してポンプ駆動系の損傷を回避することができる。この場合は、機械式オイルポンプ7で要求吐出量の全量を賄うまで回転数が増大補正される。
【0035】
電動オイルポンプ8の低電流状態でのオン、オフの切換を図5に示す。
図6は、図3のステップS13でポンプ機能故障(高電流)と判定されて駆動を停止された後、のフェールセーフ処理を示すサブフローである。
ステップS31では、高電流状態がショート故障によるものではないかを判定する。
ショート故障によるものではないと判定されたときは、ステップS32へ進み、高電流状態の判定によって電動オイルポンプ8が駆動停止中であるかを判定する。
【0036】
駆動停止中と判定されたときは、ステップS33へ進み、油温の変化によって、駆動復帰の可能性があるかを判定する。この判定について詳細に説明する。
図7は、油温とモータの要求回転数を維持できる要求電流との関係を示す。油温の低い低温領域ではオイルの粘度が増大して抵抗が増大するため必要な要求電流値が増大する。
一方、油温が所定より高い高温領域ではオイルの粘度が減少する。
【0037】
ここで、変速機作動油圧制御を行う場合、作動油圧を維持するためには、オイルの粘度減少により変速機各部からのオイル漏れ流量が増加するので、該漏れ流量分を補償するオイル供給量増加のため、要求電流値が増大する。また、オイル粘度が減少すると油圧が上がりにくくなることによっても要求オイル供給量が増大し、要求電流値が増大する。なお、これら2つの事象に対しては、それぞれの油圧に与える影響度などに応じて、両方を考慮するか、いずれか一方だけを考慮してもよい。あるいは、両者を重み付けして要求電流量を決定してもよい。
【0038】
また、潤滑制御を行う場合については、高温時にはオイルの粘度低下により油膜剥離を生じやすくなるなど潤滑負荷が増大するため、オイル供給量を増加する必要があり、これに応じて要求電流値が増大する。
また、冷却制御を行う場合については、高温時は当然ながら要求冷却量の増大に応じてオイル供給量が増加し、これに応じて要求電流値が増大する。また、オイル粘度の低下によってオイルによる冷却性が低下することにより、さらに要求電流値が増大する。
【0039】
なお、この場合も、オイルを作動油圧、潤滑、冷却の用途に応じて、単独で用いる場合には、それぞれ上記用途別の要求電流値に設定し、複数合わせて用いる場合は、それぞれの要求電流値を併せ考慮して最終的な要求電流値を設定すればよい。
このように、高温領域では、オイルの粘度低下等によってオイルの要求供給量が増大し、モータの要求回転数が増大するため、要求電流値が増大する。したがって、下向きに凸の特性を有する。
【0040】
図3のステップS12で電動オイルポンプ8が駆動停止された時点の油温が高温領域のαとして記憶された場合、その後、油温がαより低下すると要求電流値が減少する。
また、電動オイルポンプ8が駆動停止された時点の油温が低温領域のαとして記憶された場合、その後、油温がαより上昇すると要求電流値が減少する。
そこで、ステップS33では、油温が変化して駆動停止時点の油温αにおける要求電流値より電流値減少側に所定値β以上変化したかによって、電動オイルポンプ8の駆動復帰の可能性があるかを判定する。なお、所定値β変化分相当の温度変化量γを油温センサ83で検出して判定すればよい。
【0041】
駆動復帰の可能性があると判定されたときは、ステップS35へ進んで、電動オイルポンプ8の駆動を再開する。
また、電動オイルポンプ8への異物の付着によってモータの回転抵抗が一時的に上昇して、モータ電流ImRが上限閾値ImHより増大する場合もある。そこで、要求電流値が減少側に所定値β以上変化しなかった場合でも、ステップS34での判定により所定時間経過毎に、ステップS35へ進んで電動オイルポンプ8の駆動を再開させる。
【0042】
次いでステップS36では、駆動再開後の実相電流ImRが上限閾値(部品耐熱限界温度)ImH以下であるかを判定する。
実相電流ImRが上限閾値ImH以下と判定されたときは、電動オイルポンプ8の駆動復帰が達成された(駆動継続が可能)と判断し、ステップS37にて電動オイルポンプ8の駆動を継続する。
【0043】
一方、駆動再開後の実相電流ImRが上限閾値ImHを超える高電流状態と判定されたときは、ステップS38へ進んで、この高電流状態が所定時間持続するかを判定し、所定時間持続したときは、ステップS39へ進んで電動オイルポンプ8の高電流異常判定を下し、駆動を停止すると共に、新たに、この時点での油温αを記憶する。この後、油温変化により要求電流値が減少側に所定値β以上変化した場合には、再度、電動オイルポンプ8の駆動が再開されることとなる。
【0044】
このように、ポンプ機能故障(高電流)と判定した時も、その後、ポンプ機能が満たされる可能性がある限り、電動オイルポンプ8の駆動を再開することで、最大限補助機能(変速機作動油圧の維持、冷却用の油量確保、潤滑用の油量確保、の少なくとも1つ)を発揮させることができる。
なお、変速機作動油圧制御、冷却制御、潤滑制御において、それぞれ調圧機構を介して制御する場合と、調圧機構を介さず制御する場合のいずれであっても、上記のように要求オイル供給量の増加(又は減少)に応じて、電動オイルポンプの要求電流値を増大(または減少)する制御に変わりはない。
【0045】
また、モータ電流ImRが各種バラツキを考慮してとり得る所定電流範囲の最大値ImMAXより大きく上限閾値ImH以下であるときは、ポンプ機能は正常に満たされるがモータ電流が正常範囲よりは大きく寿命低下に繋がると考えられるので、メモリに記憶してディーラーには報知するようにしてもよい。さらに、かかるImMAX<ImR≦ImHの状態が所定時間以上継続した場合に、電動オイルポンプの駆動を停止させる構成としてもよい。
【0046】
更に、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下にその効果と共に記載する。
(イ)
請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置において、前記機械式オイルポンプのオイル吐出量を前記走行用駆動源の回転数増大によって行うときは、該走行用駆動源に接続される変速機構の変速比を車速一定に維持するように調整する。
これにより、車速の変動を抑制できる。
【0047】
(ロ)
請求項1〜請求項3、又は(イ)のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置において、前記モータ電流の検出値が前記上限閾値より高い場合における前記電動オイルポンプの制限及び機械式ポンプのオイル吐出量増大は、前記モータ電流の検出値が前記上限閾値より高いと判定されてから所定時間経過後に行う。
これにより、過渡的な高電流異常による処理の実行を回避できる。
【0048】
(ハ)
請求項1〜請求項3、又は(イ),(ロ)のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置において、前記モータ電流の検出値が前記下限閾値より低い場合における前記機械式オイルポンプのオイル吐出量増大は、前記モータ電流の検出値が前記下限閾値より低いと判定されてから所定時間経過後に行う。
これにより、過渡的な低電流異常による処理の実行を回避できる。
【0049】
(ニ)
請求項3に記載の電動オイルポンプの制御装置において、前記オイル温度変化により前記電動オイルポンプの要求モータ電流が低下する方向は、前記モータ電流の上限閾値を超えた時点のオイル温度が所定温度域より高温な領域では、オイル温度が減少する方向であり、前記モータ電流の上限閾値を超えた時点のオイル温度が前記所定温度域より低温な領域では、オイル温度が増大する方向である。
【0050】
前記オイル温度の低温領域ではオイルの粘度が増大して抵抗が増大するため要求モータ電流が増大し、一方、オイル温度の高温領域ではオイルの粘度が低下する。これにより、オイルを変速機作動油圧、冷却用、潤滑用のいずれに使用する場合も必要オイル供給量が増大し、これに伴って電動オイルポンプの要求回転数が増大するため、要求電流値が増大する。したがって、下向きに凸の特性を有し、この特性に見合って電動オイルポンプの駆動再開制御を行うことにより、高精度な制御を行うことができる。なお、オイルを作動油圧、潤滑、冷却の用途に応じて、単独で用いる場合には、それぞれ上記用途別の要求電流値に設定し、複数合わせて用いる場合は、それぞれの要求電流値を併せ考慮して最終的な要求電流値を設定すればよい。
【符号の説明】
【0051】
1…エンジン、3…前後進切換機構、4…無段変速機、5…CVTコントロールユニット、6…調圧機構、7…機械式オイルポンプ、8…電動オイルポンプ、20…変速機構、51…目標値演算部、52…フィードバック制御器、81…モータ、82…駆動回路、83…油温センサ、84…Gセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両走行駆動源によって駆動される機械式オイルポンプを補助する電動オイルポンプの制御装置であって、
前記電動オイルポンプの駆動用モータ電流を検出するモータ電流検出手段と、
前記モータ電流のポンプ機能故障判定用の下限閾値および上限閾値を設定する閾値設定手段と、
前記モータ電流の検出値が前記下限閾値より低い場合に、前記電動オイルポンプの駆動を継続しつつ、前記機械式オイルポンプのオイル吐出量を増大させる第1フェールセーフ手段と、
前記モータ電流の検出値が前記上限閾値より高い場合に、前記電動オイルポンプの駆動を制限しつつ、前記機械式オイルポンプのオイル吐出量を増大させる第2フェールセーフ手段と、
を含んで構成される電動オイルポンプの制御装置。
【請求項2】
車両の傾きを検出する傾き検出手段を含み、
前記第1フェールセーフ手段は、前記検出した車両の傾きが、前記電動オイルポンプのオイル吸入を妨げるほど大きくないときは、前記モータ電流が下限閾値より低い状態が所定時間以上継続したときに、前記電動オイルポンプの駆動を停止し、前記検出した車両の傾きが、前記電動オイルポンプのオイル吸入を妨げるほど大きいときは、前記電動オイルポンプの駆動を継続する請求項1に記載の電動オイルポンプの制御装置。
【請求項3】
オイル温度を検出するオイル温度検出手段を含み、
前記第2フェールセーフ手段は、前記モータ電流の検出値が、前記モータ電流の上限閾値を超えた時点のオイル温度を記憶し、オイル温度変化により前記電動オイルポンプの要求モータ電流が低下する方向に所定量変化したとき、前記電動オイルポンプを再起動する請求項1または請求項2に記載の電動オイルポンプの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−57688(P2012−57688A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200162(P2010−200162)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】