説明

電動ハンド

【課題】電気を駆動源とした電動ハンドにおいて、小型で消費電力が少なく、使い勝手の良い電動ハンドを提供することを目的とする。
【解決手段】電磁ソレノイドを用いたハンドの駆動部と、一対のマスタージョウが開閉動作を行う把持部と、ソレノイドの動作を把持部の開閉動作に変換する変換部を備えたソレノイドハンドにおいて、電磁ソレノイドは磁石を内蔵してプランジャーを吸引保持するラッチ式ソレノイドを構成し、プランジャーの位置はソレノイドが吸引保持した時に把持部が開き位置になるように配置し、把持部の閉じ位置から開き位置までをソレノイドの吸引力で駆動して吸引保持し、開き位置から閉じ位置まではスプリング機構部のスプリング力で駆動し、ソレノイドの吸引力及び吸引保持力をスプリング力よりも大きく設定したソレノイドハンドを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の爪でワークを把持して搬送するハンドに関するものであり、特に、消費電力が少なくコンパクトな、電磁ソレノイドを用いた電動ハンドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のハンドはエアー駆動のものが多く用いられているが、現在工場などではエアーを使わない電動化の方向に設備を変更する動きが進められている。
【0003】
電動ハンドも多く考案されており、特許文献1 特開平11−300675号公報のようにロータリーソレノイドなどの回転系モーターを使用し、ラックピニオンなどの変換機構を用いて回転軸の回転運動を爪の平行開閉運動に変換してクランプする電動ハンドや、特許文献2 特開平4−189491号公報の様に直動系ソレノイドを使用し、リンクなどの変換機構を用いてソレノイドの直線運動を爪の平行開閉運動に変換する構成の電動ハンドがある。
【0004】
これらの電動ハンドは多くの場合、電動ハンドがワークを把持する時にモーターやソレノイドを励磁して把持部でワークをクランプし、励磁してクランプした状態を維持することで搬送などに使用している。把持部を開いてワークを離す場合には、モーターを逆回転させ、爪を逆方向に駆動させてワークを開放させる方法や、ソレノイドの励磁を止めてスプリングなどの弾性体の力で開放させる方法がとられている。
【0005】
しかし、上記の電動ハンドを使用した場合、ワークを把持している時には常にワークを把持する方向にモーターやソレノイドに給電し、励磁し続け無ければならないが、給電することによりモーター及びソレノイドは発熱してしまう。そのため、モーターやソレノイドが破損しないように、長時間給電しても破損しない設定のモーターを選定しなければならないが、そのためには能力が高くて、大きさの大きなモーターやソレノイドを選定しなければならない。そのため、ハンドが必要としている把持力を得るためには、大きなモーターを使用した大きな電動ハンドを構成している。
【0006】
また、特許文献3特開2001−113486号公報にはモーターの回転軸に設けたネジ部と連結した伝動軸が、回転軸の軸方向に直動する駆動軸を駆動し、駆動軸に設けたスプリングのスプリング力と伝動軸の駆動力とにより把持部を開閉させる方法がとられており、スプリングの力でワークを把持するスプリング把持の構成のモーターハンドもある。
【0007】
しかし、このような構成の電動ハンドでも開位置又は閉位置で回転を止めているが、モーターは伝動軸がその場所から移動しないように常にどちらかの方向に力をかけており、停止した状態でも電力を消費している。また、伝動軸が駆動軸を押して把持部を開く構成であるため、開き位置では常にスプリングの力をモーターが受けており、前記の電動ハンドと同様に、ハンドが必要としている把持力を得るためには、大きなモーターを使用しなければならず、大きな電動ハンドを構成している。
【0008】
さらに、スプリングで把持すると、スプリングのたわみ量に比例して一定の把持力が発生するが、変形しやすいワークをクランプする場合、把持力を下げてクランプしなければならないことがある。このような場合、電動ハンドの電流や設定値を下げることにより把持力を下げて対応しているが、スプリング力で把持する場合、電動ハンドの内部に設けたスプリングを交換する以外把持力を変えることはできなかった。
【0009】
また、モーターの場合、数値制御用モーターを使用していれば、モーターが脱調しない限り、どのような把持部の状態にあるか判別できるが、ソレノイドやエンコーダーを組み込んでいないモーターの場合、コイルや磁石から発生する磁気の為、磁気感知式のオートスイッチや近接スイッチは誤作動を起こす可能性が高く使用できない。そのため、ハンドに開閉状態を確認するためのセンサーを組み込むことができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−300675号公報
【0011】
【特許文献2】特開平4−189491号公報
【0012】
【特許文献3】特開2001−113486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
電気を駆動源とした電動ハンドにおいて、小型で消費電力が少なく、使い勝手の良い電動ハンドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための手段として、電磁ソレノイドを用いたハンドの駆動部と、一対のマスタージョウが開閉動作を行う把持部と、ソレノイドの動作を把持部の開閉動作に変換する変換部を備えたソレノイドハンドにおいて、電磁ソレノイドは磁石を内蔵してプランジャーを吸引保持するラッチ式ソレノイドを構成し、ソレノイドのプランジャーは把持部の駆動軸と連結してプランジャーの動きを把持部の開閉動作に変換する。プランジャーの位置はソレノイドが吸引保持した時に把持部が開き位置になるように配置し、把持部を閉じ位置に移動させるスプリング機構部を設け、把持部の閉じ位置から開き位置までをソレノイドの吸引力で駆動して吸引保持し、開き位置から閉じ位置までは吸引保持力とは逆の励磁を行うことによりスプリング機構部のスプリング力で駆動し、ソレノイドの吸引力及び吸引保持力をスプリング力よりも大きく設定したソレノイドハンドを構成する。
【0015】
また、電磁ソレノイドへの給電時間をパルス制御し、プランジャーが吸引保持される方向及び、逆方向の吸引保持力を打ち消す方向に短時間の給電を行い、開き位置で吸引保持している時間、及び閉方向のスプリング力が働いている時間は給電しない。
【0016】
さらに、ソレノイドハンドのスプリング機構において、スプリングの設置長さを調整する長さ調整機構を設けることにより、スプリング力を調整する。
【0017】
さらに、ソレノイドハンドに複数の光電センサーを取り付け、プランジャーに取り付けた光電スイッチドッグが光電センサーの光を遮ることにより、プランジャーの位置から把持部の位置を感知する。
【発明の効果】
【0018】
駆動部の電磁ソレノイドは、磁石を内蔵してプランジャーを吸引保持するラッチ式ソレノイドにしたことにより、ワークを開放した開き位置の時には磁石がプランジャーを保持することでコイルに電流を流し続けなくても開き位置で把持部が保持され、開き位置から閉じ位置まではスプリング力で閉じ方向に把持力がかかっているので、ワークを把持しているときにもコイルに電流を流し続けなくてもよいので消費電力を少なくすることが出来る。
【0019】
また、コイルに電流を流す給電時間を、開方向閉方向の両方で短くすることで、通常より大きな電流を流して吸引力を上げてもコイルの発熱及び破損が無い。そのため、ソレノイドの能力を最大限に活用できるので、従来使用しているソレノイドの大きさよりも小さなソレノイドで同等以上の吸引力を引き出すことが出来るので、ソレノイドハンドを小型、軽量にすることが出来る。
【0020】
さらに、スプリング力でワークを保持するため、停電の時などの電気が流れない状況でもワークを落とさない落下防止機能があり、安全である。
【0021】
また、スプリングの設置長さを調整する長さ調整機構を設置することにより、変形しやすいワークなどを把持する場合に、長さ調整機構を調整することでスプリングの設置長さを調整し、把持力を調整することが出来るので、いろいろなワークに合わせた把持力を調整でき、段取り替えがある場合でもワークに合わせた把持力調整が出来る。
【0022】
さらに、ソレノイドハンドに複数の光電センサーを取り付け、プランジャーに取り付けた光電スイッチドッグが光電センサーの光を遮ることにより、プランジャーの位置から把持部の位置を感知することが出来るため、コイルや磁石の磁気の影響で使用できなかったソレノイドハンドの開閉確認センサーを使用することが出来る。

【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ソレノイドハンドの開き位置の状態を示した説明図である。
【図2】ソレノイドハンドの閉じ位置の状態を示した説明図である。
【図3】ソレノイドの吸引力特性を示した説明図である。
【図4】給電時間を説明するための説明図である。
【図5】長さ調整機構ソレノイドハンドの構成を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のソレノイドハンドは図1に示すように把持部1と駆動部2と変換部7及びスプリング機構部19より構成される。
【実施例1】
【0025】
把持部1は、ワーク3をクランプする爪4を、1組のマスタージョウ5に取り付けて変換部7の力によりマスタージョウ5を開閉する部分であり、駆動部2は、プランジャー9とコイル10と磁石11とフレーム12より構成するラッチ式ソレノイドであり、スプリング機構部19は、スプリング13と長さ調整機構15より構成する。
【0026】
変換部7は、ソレノイドのプランジャー9に連結された駆動軸6が、2本のリンク14に回転可能に連結し、それぞれのリンク14は互いにガイドされて開閉運動を行う把持部1のマスタージョウ5に連結されている。
【0027】
プランジャー9の一端にはネジが切られており、2枚の板ナットを組み合わせてプランジャー9のネジ部に固定されて長さ調整機構15を構成する。
【0028】
プランジャー9の長さ調整機構15とスプリング13の間には光電スイッチドグ16が挿入され、ベースボディ8には光電スイッチドッグ16を感知する光電スイッチ17が移動可能に固定されている。
【0029】
次に動作について説明する。駆動部2のソレノイドは、コイル10に電流を短時間流すと、コイル10から発生する磁力はフレーム12を介して固定鉄心18の方向にプランジャー9を吸引する。吸引されたプランジャー9は、磁石11によって磁化された固定鉄心18と接合し、プランジャー9をその場に固定する。このとき、プランジャー9にはスプリング13のスプリング力が働いているが、コイル10の発生する磁力、及び固定鉄心18とプランジャー9が接合している磁石11の吸引力は、スプリング13の力よりも大きく設定されており、スプリングを押し縮めて移動及び接合保持することができる。
【0030】
固定鉄心18に接合保持されたプランジャー9は、駆動軸6及びリンク14を介してマスタージョウ5を開き位置に移動させており、ワーク3をクランプするためにマスタージョウ5に取り付けた爪4も開いた状態にある。
【0031】
次に、図2に示すようにワーク3をクランプするときは、コイル10に開き方向とは逆の方向に短時間電流を流すと、固定鉄心とプランジャー9が連結保持している連結保持力とは逆方向の磁力が発生し、磁石11の発生する磁力を打ち消してスプリング13の力が磁力を上回る状態をつくる。そのため、プランジャー9はスプリング13の力に押され、マスタージョウ5を閉じる方向に動かし、マスタージョウ5に取り付けられた爪4がワーク3に当たってクランプするまで移動する。このとき、爪4はワーク3に当接して止まるが、スプリング力によりワーク3を把持する方向に力がかかっており、電流を流していなくてもワークを把持し続ける。
【0032】
長さ調整機構15は、スプリング13のスプリング力を調整するために、スプリングのたわみ量を調整し、ソレノイドハンドが必要とする把持力に調整するためのものである。スプリングは長さに比例して力の強さが変わり、圧縮方向にたわませて短くなれば、力は比例して強くなる性質がある。そのため、スプリング13の長さを調整することにより、ソレノイドハンドの把持力を調整することが出来る。よって、変形しやすいワークをクランプする場合などに、図5に示すように2枚の板ナットをゆるめ、スプリング13の設置長さを調整することにより、ソレノイドハンドの把持力を変えることが出来る。なお、上記実施例ではプランジャーのネジと板ナット2枚を用いた長さ調整機構の例を示したが、趣旨の同じ他の方法を用いてもよい。
【0033】
次に、ソレノイドハンドを使用する場合、爪4が開閉方向のどこにあるのかを検出しなければならない場合がある。たとえば、爪が閉じた状態でクランプ位置に移動すると、ワークと爪がぶつかってしまい、クランプできないばかりでなく、ワークやハンド、または搬送装置を壊してしまう場合がある。そのような事態を回避するために、エアーハンドなどではピストンに磁石を取り付けて磁気感知式のセンサーで感知する方法がとられている。
【0034】
しかし、ソレノイドを使用したハンドでは、コイル及び磁石から発生する磁気が強く、磁気感知式のセンサーで感知する方法では誤感知してしまうため判別することが出来ない。本実施例では光電センサーを使用してプランジャー9の動作を感知する方法を採用している。プランジャー9に光電スイッチドッグ16を固定し、光電スイッチ17をベースボディ8に調整可能に取り付けて光電スイッチドッグ16の位置を感知することでプランジャー9の動きを監視し、ソレノイドハンドの爪の位置を認識することができる。
【0035】
ここで、ソレノイドハンドのソレノイドへの給電時間と、プランジャーの状態について図3を用いて説明すると次の様になる。図3(a)は吸引による引き込み及び復帰による押出の双方をコイルへの給電で行うタイプのソレノイドを用いたソレノイドの場合の図である。ソレノイドの引き込み側への給電と押出側への給電を繰り返し行う必要があり、常に給電しているためコイルが発熱して破損しやすく、電流値を下げて使用しなければならない。
【0036】
図3(b)は、ワークをクランプしている時間は常に給電してプランジャーを引き込み、ハンドを開く場合にはスプリングなどの外部の力を使用する場合である。この方法では(A)に較べて半分の通電時間でよいが、ハンドの開閉サイクルの長い場合や、段取り替えなどの長時間その姿勢を維持しなければならない場合には(a)と同様にコイルが発熱して破損しやすく、電流値を下げて使用しなければならない。
【0037】
図3(c)は、本実施例のラッチ式ソレノイドとスプリングを使用した場合である。プランジャーを引き込み側に駆動させるのはコイルの発生させる磁力であるためパルス制御で短時間給電し、プランジャー9と固定鉄心18が接合する場所までプランジャーを移動させる。接合してからは磁石11の磁力でプランジャー9と固定鉄心18は接合した状態を維持するため、それ以上の給電を行う必要がない。
【0038】
またワークをクランプするための押出方向は、スプリング力よりも大きな磁石11の磁力が発生させている吸引保持力を打ち消す方向にパルス制御で短時間給電し、プランジャー9と固定鉄心18の接合を解除する。プランジャー9にはスプリング13のスプリング力がかかっているため、ワークを把持する位置または閉端までプランジャーを動かし、スプリングの力をかけ続けることができるので、ソレノイドに給電していなくてもワークを把持することが出来る。
【0039】
さらに、図4に示すように、一般的にソレノイドの吸引力は、電力量が大きければ吸引力も大きくなる特性があるが、その反面、コイルが発熱し破損しやすくなるので、連続給電時間とその熱を冷ます冷却時間からなる通電率が決められており、通常はどのような使用方法で使ってもいいように通電率100%(冷却時間無し)での設定を行わなければならない。しかし、本実施例の構成であれば通電率を下げることが出来るので、ソレノイドは大きな吸引力を出すことができる。よって、本実施例のソレノイドハンドは短時間の通電により大きなソレノイドの吸引力を引き出すことが出来、それに伴って大きなスプリング力で把持するソレノイドハンドを構成出来る。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、複数の爪でワークを把持して搬送するハンドに関するものであるが、固定して使用する位置決め装置などの治具にも適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 把持部
2 駆動部
3 ワーク
4 爪
5 マスタージョウ
6 駆動軸
7 変換部
8 ベースボディ
9 プランジャー
10 コイル
11 磁石
12 フレーム
13 スプリング
14 リンク
15 長さ調整機構
16 光電スイッチドッグ
17 光電スイッチ
18 固定鉄心
19 スプリング機構部


















【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁ソレノイドを用いたハンドの駆動部と、一対のマスタージョウが開閉動作を行う把持部と、ソレノイドの動作を把持部の開閉動作に変換する変換部を備えたソレノイドハンドにおいて、電磁ソレノイドは磁石を内蔵してプランジャーを吸引保持するラッチ式ソレノイドを構成し、ソレノイドのプランジャーは把持部の駆動軸と連結してプランジャーの動きを把持部の開閉動作に変換し、プランジャーの位置はソレノイドが吸引保持した時に把持部が開き位置になるように配置し、把持部を閉じ位置に移動させるスプリング機構部を設け、把持部の閉じ位置から開き位置までをソレノイドの吸引力で駆動して吸引保持し、開き位置から閉じ位置までは吸引保持力とは逆の励磁を行うことによりスプリング機構部のスプリング力で駆動し、ソレノイドの吸引力及び吸引保持力をスプリング力よりも大きく設定したことを特徴とするソレノイドハンド。
【請求項2】
電磁ソレノイドへの給電時間をパルス制御し、プランジャーが吸引保持される方向及び、逆方向の吸引保持力を打ち消す方向に短時間の給電を行い、開き位置で吸引保持している時間、及び閉方向のスプリング力が働いている時間は給電しないことを特徴とする請求項1のソレノイドハンド。
【請求項3】
ソレノイドハンドのスプリング機構部において、スプリングの設置長さを調整する長さ調整機構を設けることにより、スプリング力を調整することを特徴とする請求項1及び請求項2のソレノイドハンド。
【請求項4】
ソレノイドハンドに複数の光電スイッチを取り付けるとともに、プランジャーに光電スイッチドッグを固定したことを特徴とする請求項1から請求項3のソレノイドハンド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−79070(P2011−79070A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231075(P2009−231075)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(591113024)株式会社近藤製作所 (33)
【出願人】(000106760)シーケーディ株式会社 (627)
【Fターム(参考)】